六百九十二話 何事も縁

 下からの地響きは止まらない。


「「むむむ……」」

 

 二体のゲッセリンク・ハードマンは楽器の演奏を止める。

 そして、


「「シュウヤとキサラと水の精霊様! 実に素晴らしい演奏とダンスであった! が、ここまでだ!」」


 野太い声を響かせて語る二体のゲッセリンク・ハードマン。

 胸を張るヘルメは、


「私の名は常闇の水精霊ヘルメです!」

「わぁ! 綺麗な水のお姉さんって精霊様だったの!?」


 と子供の歓声が響く。

 俺たちもゲッセリンクに続いて演奏を止めた。

 すると、地下から響く音は弱まり震動も収まった。


 床の一部は撓んで重厚な石材が突き出ている部分もあるが……。


「ングゥゥィィ、オト、マリョク、ヘッタ!」


 ハルホンクが語ったように演奏を止めた影響で神殿自体の魔力が極端に減った。

 撓んだ床にある亀裂的な魔法陣は点滅が続いている。


 すると、ゲッセリンクは弓を振るいチェロを弾く。

 魔力を内包した魔音の波動を受けた床が盛り上がる。


 点滅する魔法陣を跳ね飛ばす勢いだ。


 盛り上がった床は絨毯でも敷き直すように蛇腹機動で伸びると神殿の床を元に戻した。

 元に戻った床の表面を刻む魔法陣は蝙蝠傘の絵柄に変化するや光の粒子となって散る。

 宙に放射状に散った光の粒子は、天道虫の群れに変化しつつ規則正しく動いて蝙蝠傘を模った。


 天道虫の群れが集合した幻想的な蝙蝠傘か。

 幻想的でホログラム的な蝙蝠傘はふわふわと浮きながら俺たちのもとに飛来。

 その眩い蝙蝠傘に自然と指先を向けたが、その幻想的な蝙蝠傘はぽぁぁんと音が鳴るように散ると、音符のマークを模った。その音符もあっさりと崩れると天道虫は意味があるように飛翔する――。

 バラバラに散るように宙を泳ぐ天道虫の群れは、俺たちを祝うように周囲を回った。


 それらの天道虫は、ゲッセリンク・ハードマンが持つ弓道具へと吸い込まれていく。


 二つの弓道具は呼吸するように拡大と縮小をくり返す。

 そして、蝙蝠傘の形に戻ると、重なって一つの蝙蝠傘に戻った。


 二体のゲッセリンク・ハードマンも重なって一体のゲッセリンク・ハードマンに戻る。


 続いて、笛と骨の打楽器で演奏していた半透明の女性たちも――。

 天道虫を引き込む蝙蝠傘と神殿の内壁へと吸い込まれていく。


 半透明の女性たちは、微かな歌声と余韻を神殿に残して消えた。

 ソプラノの音程で芸術性が高い。


 その光景を見ていたヘルメが、


「綺麗な光の精霊ちゃんたちです~」

 

 と、ヘルメ立ちを繰り出しながら発言。

 そのヘルメと対となって踊りとギターの演奏を披露していたキサラも演奏を止めた。


 ダモアヌンの魔槍を振るっては、手首の数珠を光らせると、そのダモアヌンの魔槍を消去。

 腰の百鬼道も輝いた。


 そのキサラはヘルメに、


「あの光の魔力は……光神ルロディス様と関係した魔力ですか?」


 と、聞いていた。

 ヘルメは微笑むと、


「関係はあると思いますが、子精霊デボンチッチと闇蒼霊手ヴェニューのような妖精は少ないです。殆どが、か弱い光の精霊ちゃんたち。神殿と同一化しているようでしていない摩訶不思議な外れ精霊に近い存在のようです。ハーブリングって名前の子もいます」

「セウロスの神々と関係した、この神殿に棲まう光の精霊に近い存在ということでしょうか」

「はい」


 そう語らうヘルメとキサラ。

 二人とも神秘的だから絵になった。

 そんな絵になる二人は、ゲッセリンクの楽器に天道虫の群れが吸い込まれていくさまを眺めつつ……鼻歌を奏でる。


 と、互いの口から溢れるリズムに合わせて指と指を合わせて手を繋ぐ。


 手を握ったキサラとヘルメは互いの腕を胸元で交差させた。

 キリッとした表情に切り替えると、アカペラ的な発声の謳声からダンスの続きを行うように、半身を俺に向けた。


 直ぐに互いの胸同士を小突くように振り向き合ってニコッと微笑む。


 蒼い双眸がかち合ったヘルメとキサラ。

 歌のリズムに合わせて体から魔力を出し合っては、不思議な雰囲気を醸し出す。

 二人は、インサイドターンから、また半身の姿勢を俺に向けるが直ぐに――腕の動作を合わせた横回転。


 互いのリズムと呼吸と巨乳で、気持ちを語り合うように、体を向かい合わせる。

 その互いの体を追うような瞬間移動ダンスから、ヘルメの鎖骨と細い腕からの汗の水飛沫がキサラに付着するや否や水蒸気的な靄が魔法の衣となって修道服系の衣装を彩った――。


 そのままパントマイム的に両の手を合わせたキサラとヘルメは互いの体を回しに回して背中を揃えながら交互に足を斜め前に出して前進――パドブレから足を揃えて反転しては、また直ぐに俺に向けて前進を開始する。


 前に障害物はないが、頭部をぐるりと回しては避ける動作をしつつパドブレと首の可動域が横に拡がったような不思議なアイソレーションをしながら俺に半身の姿勢を向けて、足を止めた。


 というか凄いダンスだ。

 鼻歌的なアカペラも止まっての静止。


 また、互いの顔を見た両者は微笑む。

 と、爪先と踵で、床を交互にリズミカルに叩くタップダンス。

 手を叩き、回転しながら、ハイタッチ。

 続いて、ヘッドロールに肩を上下させるリズムから、ウェーブするような胸のアイソレーションを実行するやジャズダンスをベースにしたフリースタイルダンスに移行する――。


 俺は自然と足先でリズムを踏む。

 ダンシングを続けながら俺に近寄るヘルメとキサラは美しく可憐だ。


 二人の巨乳さんがダイナミックに揺れた。


「――閣下!」

「――シュウヤ様!」


 くびれた腰と足先を揃えた両足――。

 アメイジングなポージング。


 ――ヘルメ&キサラ立ち。


「――素晴らしいダンス」


 二人は俺の拍手と褒める言葉を見て聞いて、嬉しかったのか、笑顔満面。

 ゲッセリンクも子供と老人も拍手。


 キサラとヘルメは、互いに髪を解かすような仕種を取ってはポージングを解く。

 その自然な仕種も冴える二人は「ふふ」と笑って、近寄ってくる。


 俺も二人に向けて笑顔を作り竜頭金属甲ハルホンクを意識した――。

 衣装を軽装の戦士風にチェンジ――。

 両肩と胸元を露出した開放感のある軽装に変えた。

 胸元の一部を隠す胸甲の表面には、神獣ロロディーヌとヒトデを主軸に模様を施す。

 右脇と右肩の鎧の一部には、白熊とハルホンクの竜的な頭部と、白色の枝と暗緑色の葉脈の模様を施した。


 続けて、肩の内部に竜頭金属甲ハルホンクを格納。

 

 ゲッセリンクは二人の美女に魅了されたような面を浮かべていた。

 が、俺の変身した様子を見て驚くと納得したように渋い表情で頷く。


 そのゲッセリンクは頭上に蝙蝠傘を浮かせつつ――。

 盾状の金玉袋で守っていた子供と老人に視線を向けた。

 

 子供は、盾の金玉袋の隙間からヘルメとキサラに憧れるような視線を向けて手を伸ばしている。

 素晴らしいダンスだったからな。気持ちは分かる。


「ゴレウルとウネアル。下の揺れはとりあえず大丈夫なようじゃ」


 そう発言したゲッセリンクは「<化金王袋・改>」と再び宣言するようにスキルを発動――。

 巨大な金玉袋のふぐりは萎む。


 毛が豊富な金玉袋は、元の大きさと言うか一瞬で見えなくなった。

 小さいふぐりに戻ったんだろう。


 キサラは「ひぃ」と可愛い悲鳴を上げる。


「ふふ、可愛い玉袋ちゃんです」


 ヘルメは笑った。

 俺もそのヘルメの表現で笑う。

 金玉袋の盾が覆って守っていた子供と老人の姿を晒す。


 その子供とお爺さんは、お尻の部分が少し光を帯びていた。

 ヘルメと一緒に踊っていた効果か。

 その子供が、


「え~? ゲッセリンク様! 面白い演奏会を止めちゃうの? 神殿の力は強まっているのに! お姉さんたちも凄く綺麗で踊りも楽しかったのに~」


 お爺さんも、


「ゲッセリンク様も相変わらず凄かったが、見知らぬ皆様方の演奏に踊りも凄かった。感極まる聖歌であった」

「うん! 最後のダンスも凄かった! 踊る楽器みたい」

「が、その圧倒的な聖歌の効力で、真下の魔封層と迷宮に何かが起きたのかもしれん」


 子供とお爺さんがそう語ると、ゲッセリンクも頷いた。


「ふむ。ゴレウルの言うとおりじゃ。やり過ぎたようでな」

「やりすぎ~?」


 そう聞く子供を微笑みながら見たゲッセリンク・ハードマンは、


「そうだぞウネアル。わしの<音守>に呼応した聖者の光と闇の魔力を宿すシュウヤと、その従者のような存在であろうキサラに……強力な水と闇の魔力の源であるような精霊様が激烈すぎたのだ。まさに、聖なるトランセンデンタルの重奏!」


 ドワーフか狸にも見えるゲッセリンク・ハードマンは、ヘルメにも視線を向けた。

 その視線と顔つきには、司祭っぽさもあるし、厳かさを感じる。


 改めて、常闇の水精霊ヘルメの存在を確認しているのか。

 

 ヘルメの長い髪は蒼色を基調としているが、肌の色合いは人族的だ。

 キューティクルを保った長い睫毛と蒼い瞳は美しい。

 

 群青色と蒼色の葉と肌を活かす水着的なコスチュームも女神的。

 肌と密着したコスチュームの上から薄い青緑色と半透明の混ざる羽衣を羽織っている。


 その羽衣の表面から光を帯びた水飛沫がプロミネンス的に放出中。

 それらの水飛沫が、小さい虹を周囲に作り出しているのも、また芸術性が高い。


 沙・羅・貂の衣装もヘルメと似たような衣裳だが……。

 常闇の水精霊ヘルメのほうが神懸かっている部分は多いような気がする。


 沙が聞いたら怒られそうだが、ツッコミはこない。


 そんな神々しいヘルメを見て、魅了されたような面となったゲッセリンク・ハードマン。

 小さい両手で、自らの頬を叩いてから、気を取り直すと、話を続けた。


「しかしだ。本来、光と闇の魔力は相反するもの……そのせいもあって、セウロスの神々の封印に強まった部分と弱まった部分ができた。その微妙な狂いの差異で、地下の魔封層の荒魔獣モボフッドと地底神セレデルの一派である骨剣魔人ブブルーのモンスターたちを封じていた<音守・大楽譜魔封>の音魔印の一部が外れたのだろう。そして、その<音守・大楽譜魔封>も元々完璧ではない。音魔印は既に外れている場所も多い。魔封層の外に出たモンスターの軍勢は地下を跋扈しておる」


 俺たちの魔力と演奏に呼応して、下の封印がズレたか。

 光魔ルシヴァルの<光闇の奔流>の効果がもろに出た感じか。


「あぅ、弱まって強まった? だから大きく揺れたの? ゲッセリンク様、大丈夫なの?」

「ハードマンの神殿の音魔印が外れるとは……ゲッセリンク様、セオクの酒場で酒を飲んでいるだろう水のモルセルたちを呼びますか?」

「領主を含めて皆に知らせておくべきだとは思うが、モルセルのパーティは必要ないはずじゃ。祖先たちの色濃い血は健在。この一階の封魔層の間と光神の封印扉は強く、さらに強まった」

「しかし、今の揺れは……」

「ふむ。揺れは、わしらが聖なるトランセンデンタルの重奏を行った効果でもある。同時に荒魔獣モボフッドと骨剣魔人ブブルーの軍勢を刺激してしまった。が、もう一度言うが、光神の封印扉と神殿の一階の結界は最大限に強まった。地下のモンスターたちが、同じ地下に拡がる魔封層のエリアに出られたとしても、この一階の階層を突破することは、先の衝撃と震動があったぐらいで……まず不可能。地下の魔封層のエリアから、村の外に出ることはないはずじゃ。そして、今は、特別な存在の黒髪戦士シュウヤとキサラに、水の精霊様も居られるのだからな! 貴重な縁じゃ」


 ゲッセリンクは、ズバッとした勢いで、俺たちに小さい腕を向ける。 

 子供と老人は、ヘルメのポージングを見て、嬉しそうにはしゃいだ。


「黒髪の戦士様! そして、綺麗なお姉さん! 精霊様のおっぱいも揺れてるし、凄い!!」


 一方、お爺さんもヘルメに瞠目。

 強烈なヘルメのおっぱいにびびったわけでないと思うが、わなわなと体を震わせると、今にも折れそうな細い膝を曲げて、その片膝で床を突く。


「――閣下なら当然ですが、わたしに頭を下げる必要はないですよ」


 そう発言したヘルメ。

 ヘルメの言葉を聞いて、頭を上げたお爺さんは、


「……綺麗な水の精霊様……わしは生まれて初めて精霊様と会話を……あ、しかも一緒に踊ってしもうたわい……なんてことだ」


 と、喜ぶ子供の手を引っ張るお爺さんは、頭を再び下げた。


「あう――」


 そのまま片手で子供の頭部を下に押しつつ、子供に同じポーズを取らせている。


「精霊様、非礼をお詫びいたします……このウネアルと共に謝ります」

「ふふ、その気持ちだけで十分。それよりも、子供ちゃんとお爺さんも、とても、センスのいいダンシング! 一緒に踊れて楽しかったです」


 ヘルメは本心でそう語っていると分かる。

 すると、指先から伸ばした<珠瑠の紐>でお爺さんと子供を引っ張るように、起こす。

 指先から出ている<珠瑠の紐>からいい匂いが周囲に漂った。

 

 一瞬、宙空に花園が拡がった印象を抱く。


「――あ、ありがとうございます」

「――わぁ! 綺麗な光る紐! あと、ハチミツとフルーツジュースのいい匂い~。水飛沫も綺麗で素敵な精霊様、ありがとう! あ、わたしの名はウネアル! そして、隣のお爺ちゃんは、ゴレウル! 昔、嵐の戦士ゴレウルって呼ばれていて強かった、自慢のお爺ちゃんなんだ!」


 その子供のウネアルに対して<珠瑠の紐>を仕舞ったヘルメは、可愛らしくポージングを決めて、


「ふふ、そうですか。可愛いウネアルと嵐の戦士ゴレウル、よろしくお願いしますよ。そして、このセウロスの神々を祭ったハードマン神殿を、音守の司として守り続けていたゲッセリンク・ハードマン! この神殿の地下の敵は、閣下とキサラとわたしに任せるのです!!」


 と、片腕を伸ばして宣言。

 続いて、後光のような水飛沫を発しながら軽やかな身のこなしで俺の隣に移動してきた。


「ふふ」

 

 と、笑った常闇の水精霊ヘルメは俺の耳に息を吹きかけるような仕種から――。

 自らの力を示すように半身を溶かしつつ俺の左半身を覆うマントと化した。

 

 肌触りがヒンヤリとして気持ちいい。


「「おぉ」」

「昼なのに、星空を見ているような……不思議ですぞ!」


 と、ゲッセリンクと子供のウネアルとお爺さんのゴレウルは<精霊珠想>の能力の一部だと思われるヘルメの水マントを見て、感嘆の声を上げた。

 すると、そのゲッセリンクが、


「その言は嬉しい限り! マントと化した精霊様を従える黒髪戦士シュウヤは特別だと分かる。封魔層の荒魔獣モボフッドと骨剣魔人ブブルーを倒してくださるのですな!」


 わくわく顔のゲッセリンクだ。

 完全に期待されている。


 俺は頭部をポリポリと掻いてから、


「そのモボフッドとブブルーってのを倒せるかは分からないが……」

 

 と、発言しながら、キサラとアイコンタクト。


「シュウヤ様。三日後のセナアプアに行くまで、まだ時間はありますし、このネーブ村の神殿の安全を確保するのもいいかと思います。『イノセントアームズ』の出番かと」

「それもそうか。ゲッセリンク、冒険者依頼もあるのかな」

「ある! 冒険者依頼は、近隣の村と街と、カンダルの都市を経由する王都ファダイクに向かう隊商護衛と、海食洞と地下迷宮に湧くモンスターの討伐依頼が多い。A、B、C、D等。そして、荒魔獣モボフッドと骨剣魔人ブブルーを倒すSの依頼もある! 他にもSの依頼はあったはずじゃ」


 モルセルが語っていたようにちゃんと冒険者ギルドがあるようだ。

 

「了解。その依頼を幾つか選んで挑戦しよう。ゲッセリンクも語っていた『何事も縁』だ」

「……いい言葉じゃ。縁があるから繋がるという意味じゃな?」

「そうだ。すべての物事は縁によって成り立っている。縁があって人の関係が成り立つってな。そこからすべてが成り立つとも」

「ほほう~、シュウヤ殿は国士でもあるのか。もしや、このレフテン王国の黄昏の騎士様ですかな?」

「いや、冒険者で槍使い。現状は、あくまで評議員ペレランドラの護衛って立場かな」

「ふむふむ、ふむふむ。南のハイム川の塔烈中立都市セナアプアとは、また……なにやら深い事情がお有りのようじゃ」


 ゲッセリンクは俺の表情と仕種から背後関係を読み取った?

 ま、経験が豊富そうなお爺さんだからな。

 見た目はドワーフと狸獣人が半々といった感じだが、あまり見たことがない。

 ぷゆゆの樹海獣人ボルチッドとは、似ていないし。ドワーフを軸とした種族系統だろう。


「……その通り、長居はできない。だからモボフッドとブブルーを倒せるかは分からない。そして、封魔層って地下層は、そこの光神の封印扉から移動できるのか? 転移陣とか?」

「転移陣ではない。真下の封魔層に直に向かう音階段がある。祖先から伝わる音鍵の傘と、この鍵があれば奥の光神の封印扉を開けることができるのだ」

「そっか、海食洞が下の砂浜にあったが、そこから地下に進めるとモルセルが語っていたが」

「ふむ。砂浜から進める海食洞の出入り口のほうが一見近いように思えるが、地下迷宮も広大だからのぅ。逆に遠回りとなるし、まず迷う。気付いたら、ハイム川から出た濁流に巻き込まれて……と、危険なこともある」

「そっか」

「そうじゃ。そして、聖者の証しがあるシュウヤ殿、光の戦士でもあるシュウヤ殿だからこそ、このハードマン神殿の音階段を使うべきである。これこそ、まさに『何事も縁』」

「そうですね。セウロスの神々と関係のあるハードマン神殿。わたしも興味深く感じます」


 四天魔女としてのキサラの言葉に皆が頷いた。


「ふむ。キサラ殿の言うとおり。音階段から封魔層に向かう古道には、愛の女神アリア様と水神アクレシス様の名が付く地下道がありますじゃ。昔はセウロスの神々の名が付いた古道があったとも」

「縁か……」


 キサラはダモアヌンの魔槍を見て、何かを考える。

 光神ルロディス様を信仰しているからな。

 すると、ゲッセリンクは、その光神ルロディス様の名がつく扉を指す。


「しかし、光神の封印扉を開けた直後、下から這い上がってきたモンスターに襲撃を受ける恐れがあるのじゃ、シュウヤ殿ならば大丈夫だとは思うが」


 封印扉の鍵か。

 神具台っぽいコイン型の鍵だが、神具台ではないようだ。

 そのことではなく、モンスターのことを聞くか。


「この崖の頂上にある神殿に来る前、岩の間にあった穴から、角を頭部に生やした厳つい人型モンスターが見えたんだが」

「それはモボフッドの類だろう。<音守・ハードマン大楽譜封>が囲う封魔層の地下では、モボフッドとブブルーの勢力は争い合う。昔も今も『水火の争い』の状況のはずじゃ」


 互いに争っているなら漁夫の利を狙って倒せるか。

 

「分かった。で、仲間と合流してくるとして、時間は大丈夫か? 神殿の強度を疑うわけじゃないが、先の揺れと亀裂的な魔法陣を見ると、不安がある」


 すると、水マント状態のヘルメが、普通の女体に戻りつつ俺から離れた。

 

「閣下、わたしがここで見守ります」

「精霊様とシュウヤ、心配なぞいらぬ。しかし、精霊様がここにおれば、頼もしいし、わしはうれしい」


 と、鼻を大きくしてエロ顔を示すドワーフ系のゲッセリンク。

 ヘルメに魅了されたか。


「んじゃ、ヘルメはここで待機。俺はエヴァたちと合流。相棒も探すか。明日の朝一に、ここに戻って挑むとしよう」

「では、わたしも」

「おう」


 黒猫ロロの場合……。

 野良猫活動やらで暫く戻ってこない時もあるからなぁ。

 屋根の上か、暖かい場所で、腹を晒してぐーたらしている可能性も高いか。

 

「はい、閣下。お待ちしています」


 俺とキサラはヘルメに頷くと、踵を返す。

 神殿から外に出た。


 稜線の狭い道の両端には石を削って作られた手摺りがある。

 その手摺りに片手を押し当て、サッと跳び越えては崖から外へと跳躍――。

 足下に<導想魔手>を生成。

 その<導想魔手>を蹴って高く跳躍。


 蒼穹を楽しむように飛翔――。

 相棒はどこだろう――村の野良猫たちの縄張りチェックだと思うが、周囲の森の探索か?

 海食洞を一足先に探検か? それはないか。


 ま、とりあえずはエヴァとヴィーネだ。

 一気に急降下。

 

「シュウヤ様、速い!」

 

 キサラも俺の後方から下降――。

 砂浜にいるエヴァたちのところに一足先に行って、ハイム川に飛び込み――はしない――。

 川面スレスレで<導想魔手>を発動して、その<導想魔手>をアーゼンのブーツの裏で擦るように蹴った。


「水飛沫が精霊様っぽいですー」


 と、キサラの声をバックにフォド・ワン・ユニオンAFVの近くの砂浜に滑るように着地――。

 五点着地法――とか考えたが、光魔ルシヴァルの膂力ある片足で砂浜を踏みつける――。


 砂浜を片足で捉えては駆けて、砂に穴を作るように駆けに駆けた。

 キサラの鼻歌に合わせて、右腕の戦闘型デバイスが砂浜に合うBGMを流してくれた。


 フォド・ワン・ユニオンAFVに近付くと……。

 そこでは、ミニキャンプが始まっていた。

 エヴァとヴィーネが机の上で野菜を切っては、大きい鍋に、その野菜を入れている。

 ガードナーマリオルスも調理に参加中。

 しかも、大事な役回りっぽい。


 胴体から伸びた細長いチューブの先端から出した炎を大きな鍋の底に当てて、エヴァの出したであろう大きな鍋をいい火力で熱している。

 

「ん、シュウヤが戻ってきた!」

「ご主人様、もうじき出来上がりです!」


 と、エヴァとヴィーネの不意討ちの手料理とは!

 俺とキサラは微笑み合うと近寄った。


「そりゃ、楽しみだ――」

「はい、既にいい匂いが!」


 キサラも興奮。

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