六百九十一話 音守の司とヘルメとキサラと楽しい演奏会?

 キサラを連れて切り立った崖の端に立つ神殿に向かう。

 上のほう、神殿から鐘、笛、太鼓、骨等の乾いた音が響く。

 と同時に野太い歌声が響くと魔力の反応が強まった。

 

「――魔力を感知しました」

「あぁ」


 キサラの言葉に頷きつつ一緒に上昇を続けた。


 笛はオカリナ系だと思うが、あの鐘の音は……。

 俺の意識に侵入を受けた際に発動するカウンターマジック系の鐘の音に似ている。

 太鼓は和風で、骨の音と野太い声は、バイキングっぽい音で、ある種の呪文のような……。

 女性の息遣い的な声も交ざる。

 ――愛の女神アリア様と水神アクレシス様と関係した儀式中?


 ――光神ルロディス様も関係しているのだろうか。

 ――ナイフエッジ的な岩稜の通路は徐々に拡がっている。


 その先に建つ乳白色の神殿。


 下の砂浜ではガードナーマリオルスの「ピピピッ」という音と胴体が激しく急回転する音が響く。

 巨大な魚を釣り上げたのか?

 興奮しているエヴァの声が聞こえてきた。

 ――エヴァの明るい顔を傍で見るのも楽しそう。


 だが、崖上の神殿から感じた魔力と歌声のほうが気になる。

 

 キサラとアイコンタクトしてから神殿に向けて下降――。

 ――乳白色の神殿に近付いた。


 乳白色の神殿は四つの大小様々な塔で構成されている。

 

 下の崖はハイム川に出っ張るように太く長い。

 その分、真下の海食洞が昏く、下の民家の群れに日陰を作り出していた。

 あのログキャビン的なドワーフたちが棲み着いていそうな民家は湿気が凄そうだが……。


 周囲の崖には、その崖を縁取るような深緑の樹がハイム川に飛び出す形で生えている。

 神殿の下にある断崖絶壁の表面には、上の神殿の外観と似たアーチ状の洞穴が覗いていた。


 その洞穴からモンスターらしき造形が見え隠れ――。

 面白い――。

 神殿の真下は、海食洞と地下迷宮に続いている?


 シンプルに冒険心がくすぐられた。

 

 んだが、まずは美しい神殿だ。


 四つの塔が連結しつつ一つの神殿の建物を構成していた。

 四つの塔の天辺には、それぞれの塔に合った硝子製の細い棒的な魔道具が設置されている。


 それらの四つの硝子棒は、陽の光を取り込んで、反射。

 四つの硝子棒から反射する光のプリズムは、虹色のカーテンと化してゆらゆらと靡いていた。


 虹色のカーテンの一部は下に弧を描いて、半円のキューブでも作るように神殿の内部に向かう。

 光のパワーを神殿の内部に注いでいるようだ。


 あの辺の美しい魔線的な動きはトーラスエネルギーの帆を思わせた。

 手摺りを備えたバルコニーにも、虹のカーテンが掛かる。

 

 すると、その虹カーテンが薄まって一塊に――。

 塊は、笛を吹く半透明な女性となった。


『――閣下、光の精霊の丸い集合体のようですが、か弱い』

『集合体? 俺からは半透明の女性に見える。笛を吹く女性』

『笛? 音は聞こえません』

 

 ヘルメと俺の視界に聴覚まで違うとは……。


『ひょっとして歌も聞こえてないのか?』

『歌ですか? 自然の動植物の声は響きますが』

『俺だけか』


 俺の称号と関係した奇跡に近い現象ってことか?


 光の精霊の集合体が、幻影の女性として俺に見せている?

 笛の音は切ない感じだ……。

 神殿の内部の野太い歌声と連動しているとは思うが……。


 あ、その女性が消えた。


『塊は消えちゃいました』

『あぁ、俺には笛を吹いた女性だったが、消えた』

『不思議です』

『普段はヘルメのほうが不思議な視界だが、今回は俺のほうが不思議ちゃんってことだ』

『ふふ、はい! ですが、閣下の称号は覇槍神魔ノ奇想と血魔道ノ理者。特別無比の、その称号の力は、わたしにはない奇跡的な現象を見ることができる』

『時々だがな』


 空旅では時々……女神的な形を持った現象を見る時がある。


 神殿のバルコニーは、ハイム川に面していた。

 バルコニーを形成する像柱は神界セウロスの神々だろう。


 この光と神殿も、遠くから見れば、崖から生えた針葉樹の群れにしか見えないかもな。

 そして、儀式的な歌声と連動するように、いたるところから動植物たちと風の音が谺するのも……。


 なんとも言えない。


 ポポブムとはまた違う山羊系の魔獣に乗った村人たちが、細い崖を降りていく。

 この歌声が響く神殿にいた村人たちか。


 傍にいるキサラも、


「あの四つの塔から出た光の魔力は、今初めて出たようには見えません。下から光が見えなかったことも不思議です」

「角度か結界か。歌声も聞こえている」

「歌声ですか?」

「キサラも聞こえてないのか、心臓の鼓動のような重低音……神界の戦士たちが歌うような野太い歌声だ」


 狼月都市ハーレイアの地下で邂逅した神狼ハーレイア様を思い出す。

 アルデル師匠もそこにいた。


「……聞こえません。下のエヴァの楽しげな声が聞こえるのみ。あ、シュウヤ様の胸」


 と、キサラは俺の胸元を見る。

 <光の授印>が少し輝いていた。


「……<光の授印>が反応か。この神殿の魔力と、俺だけに聞こえる歌にも反応したのかも知れない」

「光神ルロディス様と関係する、何かが、この神殿に奉られている? シュウヤ様から聞いている神狼ハーレイア様の出来事を思い出します」

「俺もそう考えていた。モルセルさんは光神ルロディス様のことは言っていなかったから、愛の女神アリア様か水神アクレシス様と関係することでもあるかもだ。が、水神アクレシス様なら<水神の呼び声>があるから、独自の反応があってもいいはず。だとしたら愛の女神アリア様に関することかも知れない。俺としては信者ではないし、接点はないように思えるが……」

「シュウヤ様は光魔ルシヴァルの宗主。<光の授印>を持つ聖者でもあり、そして……偉大なる|光と闇の運び手(ダモアヌンブリンガー)――」

「待った、慕ってくれるのは嬉しいが、宙空で無理に片膝を突くなって――」


 と、強引に片手を上げてキサラを持ち上げた。


「あ――はい、すみません」

「おう。で、さっきだが、そこのバルコニーで笛を吹いていた半透明な女性がいたんだ。消えたが。ヘルメ曰く、その消えた女性は光の精霊の集合体だったようだ」

「なんとも不思議な現象です。わたしは魔力の変動としてでしか感知ができない」

「ま、神殿の中に入れば、分かるだろう」

「そうですね」

「あの不思議な乳白色の神殿に入ろうか――」

「はい――」


 俺とキサラは急降下。

 手前の通路に降り立った。

 神殿の中には魔素の反応がある。

 背が低い反応が一番奥。


 お祈りを捧げている村人もいるようだ。


「最初は普通に出入り口から」


 キサラを連れてアーチ状の玄関口に足を踏み入れた。

 刹那、架台付近にいるドワーフが見えたと思ったら、神殿の内部に野太い声が響く。

 神殿の内壁に煌びやかな光の魔力が走った。

 虹色を発した光の魔力は、野太い声と連動するように太鼓の音で跳ねては、骨と骨が衝突したような楽器音を奏でつつ宙空にプロミネンス的な波動を起こす。そして、再び太鼓の音でリズムを刻むと、心臓の鼓動的な歌声を響かせながら、女性の細い手のような動きで、壁の中を駆け巡る。


 蝙蝠傘的なマークが随所に浮かぶ。


 腰の閃光のミレイヴァルの銀チェーンも揺れた。

 すると左目のヘルメも気付く。


『――閣下、神殿に地震が! いえ、え?……周囲の物は揺れていない……』


 ヘルメも察知したか。

 光の魔力は、壁を伝い下に向かうと、奥の薄暗い扉の中に消えた。


『奥の扉に魔力が集結しました!』

『あぁ』


 奥の薄暗い扉の表面には<光の授印>と似た魔印的な光り輝く古代文字が浮かんでは消える。

 笛のマークと小さい蝙蝠傘を持った半透明で小さな女性が扉の周囲を回った。


 地響きが止まる。

 すると、笛のマークと小さい蝙蝠傘を持った半透明な女性が消えた。

 扉の古代文字も連動して消えた。

 だが、文字が消えた薄暗い扉と、その奥からは魔力を感じる……。

 光以外にも闇の魔力もあった。


 魔素の形は揺らいで掌握察が弾かれる感覚。

 扉の奥の空間は……怪しい。

 階段があるとか転移陣とか封じられた間とか?


 さっき下で覗いたモンスターは違う?


「シュウヤ様、奥に怪しい魔力が……」

「あの扉の先に、何か、あるな……」


 さっきのような<光の授印>の反応はないが……。


『……神界の戦士たちと敵対したモノが封じられている? 謎です』

『流れ的にそうかも知れない……半透明な女性といい、何かあることは確実だ』


 腰の閃光のミレイヴァルの銀チェーンの揺れは収まっている。

 今さっきの不思議現象を、ミレイヴァルは、アイテムながらも僅かに感知したようだ。

 

 出入り口付近のお賽銭箱的な箱は倒れていないし、神殿の内部は埃も落ちていない。

 実際には揺れていないってことだ。

 空間的や次元的な、または精神的なモノってことか。


 不思議現象だ。

 

 そして、この神殿の内装は至ってシンプル。

 教会にあるようなステンドグラスもない。

 木製の窓が二カ所、あるだけだ。

 その窓は陽の光を計算して作られてある。

 鏡と連動して神殿の内部に光が満ちていた。


 それはエジプトの『至聖所』を彷彿とさせる。

 年に二度、2月22日と10月22日にラムセス2世の顔に太陽光が当たるような光景だ。


 しかし、さっきまで光の文字が浮かんでいた奥の怪しい扉にだけ、それらの光は当たっていなく薄暗いままだった。


 奥に花が生けられた花瓶がのった架台に本棚。

 キラキラした蝋燭台も少なく、香炉と蝋燭が二つ。


 その架台の近くで杖を持つ司祭風の格好をしたノームかドワーフがいた。

 小柄獣人ノイルランナー的な身長だから、ノームか?


 格好が、帽子か?

 司祭だとは思うが……真上に、蝙蝠傘が浮いている。


 壁に蝙蝠傘のマークが出現していた。

 笛のマークと共に扉付近で消えた半透明な女性も蝙蝠傘を持っていた。


 あのドワーフと関係することは確実か。


 神殿内部の長椅子は二つのみ。

 その椅子に座る老人と子供がいる。

 老人と子供は祈っていた。


 老人と目が合うとお辞儀をしてくれる。

 お返しにお辞儀を返した。

 が、子供は見知らぬ俺を見て、老人の腕をひっぱる。

 珍しそうに指先を向けてきた、老人は気にしていない。


 お祈りを続いていく。

 

 とりあえず子供に向けて、べろべろばーっと変な顔を作って笑わせてから……。

 ご老人の祈りを邪魔しないように奥に向かった。


 司祭のドワーフさん。

 ノームさんだろうか。

 地上にノームがいるとは聞いたことがないが……。


 そのドワーフ的な種族がいる架台に向かった。

 段差の低い階段をキサラと一緒に上がる。


 しかし、相棒がいないと、少し心細い。

 ま、たまには相棒も相棒のバケーションを楽しむのもいいだろう。

 

 宿屋の厨房で出された餌を食べているかも知れない。

 

 さて、肝心の司祭風のドワーフさん。

 畑に置いてあるような、ガーデンドワーフな像を想起する。

 

 帽子は異質なサンタ風。

 しかも、その変わったサンタ帽子の真上に浮かぶ大きい蝙蝠傘も変な形だ。

 この神殿と関係するだろう蝙蝠傘。


 そのガーデンドワーフが振り向く。


「――むむむ? どこかでお会いしましたかの? 黒髪の戦士」


 一瞬、狸にも見えた。

 むっくりの腹を持つドワーフ。


 肌の色合いは小麦色っぽいがノーム的なドワーフか。

 ドワーフさんだと思うが、羽織る小さいマントは洒落ている。

 ネックレスはアキレス師匠からもらった神具台の鍵とそっくりだ。


 まさか……と思いつつも、


「いえ、初めてです」


 と、発言。頭上に蝙蝠傘を浮かせているドワーフさんは、


「むむむ? むむむ? むむむ?」


 むむむ? と発言。

 サッカーの試合の解説でもしてくれるのか?


 レッドカードは出さないが、そんな気分で、


「えっと?」

「はて? はて? はてな? はて、はて、はてな? むむむ……初めて会った気がしない……」

 

 こっちこそ、はてなだ。

 とは言わず、普通に、


「初めまして。むむむのはてなのドワーフさん。俺の名はシュウヤといいます」

「あ、初めまして、むむむのはてなのドワーフさん、わたしの名はキサラと申します」


 ヘルメも『ふふ』と楽しそうに微笑みながら、


『楽しげな声といい、不思議な小人種族の司祭様ですね!』

『あぁ、面白い姿と声だし口調も変わっている』


「黒髪の戦士シュウヤよ! むむむのはてなのドワーフでは、ぬぁい! わしには、代々伝わるゲッセリンク・ハードマンという名がある! セウロスの神々を祭る神殿ハードマン。わしは、その音守の司の生き残りである!」

「音守の司の生き残り……」

「そうだ――」


 刹那、狸、いや、ゲッセリンク・ハードマンは跳ぶ。

 しかも、狸のような、毛が豊富に生えた金玉を露出させては、そのω的な形の金玉を見事に膨らませて飛翔する。


 ――『たんたんたぬきのきんたまは~』という替え歌が脳内で谺した。

 ――歌川国芳の浮世絵も真っ青だ。

 驚いた。

 キサラも驚いた。

 

 そのゲッセリンク・ハードマンの膨らんだ股間を凝視しては、


「ひぃぃ」


 と、悲鳴をあげていた。

 俺も驚いたが、悲鳴ではなく笑う。


 ドワーフかと思ったが、タヌキ系の獣人の血も入っていたのか?

 面白すぎるぞ! ゲッセリンク・ハードマン。


 拡げた金玉を傘代わりにはしないようだ。

 その面白いゲッセリンク・ハードマンは、同じく、頭上にぷかぷかと浮く蝙蝠傘の内側に、小さい片手を突っ込んで、その手を引き抜く。


 その蝙蝠傘から二つの弦楽器を引っ張り出していた。

 すると、蝙蝠傘の内側から骨の打楽器と笛を持った半透明な女性たちも出現。


『閣下、光の集合体だった女性が見えました。光の精霊ちゃんの一部が変化したようですが、先ほどと同じように、あまり力を感じません』

『俺がさっき見えた女性たちだ。このゲッセリンクの能力だったのか』


 ゲッセリンク・ハードマンは片手に持つ杖を消して、その手で、もう一つの弦楽器を掴む。

 二つの弦楽器は、大きいチェロに変わった。

 

 更に、ゲッセリンク・ハードマンも楽器に合わせて、分裂。


 分身の魔法か魔術か。


「分身の魔法でしょうか。触媒とするモノは魔力と精神力に謳声に……魔術とは違うようです」


 キサラがそう分析する間に、蝙蝠傘も弓に変化。


 ヴィーネが使うような翡翠の蛇弓バジュラなどの武器の弓ではない、楽器を弾く専門の弓だ。


 ゲッセリンク・ハードマンは、その弦を弾く弓を掴む。

 その二匹、いや、二体のゲッセリンク・ハードマンの小さい指がリズミカルに動く。

 C線、G線、D線、A線の弦を華麗に押さえつつ弓で弦を弾いた。

 弓と足が小刻みに揺れ、徐々に音を大きくし、低い音程の声も合わせていく。

 どんどん、どんどん、どんどん、ちゅららららら、どんどん、どんどん、ちゅららららら――。


 凄いリズム――。

 巧みなチェロのロック的な演奏を開始した。


 しかも、金玉飛行を続けながらのチェロの演奏だ。

 足で叩く金玉がダイナミックに太鼓の音を奏でる。

 

 半裸の大武者が和太鼓を叩く演奏のような感じで迫力が凄まじい。


 あの太鼓は本当に金玉なのか?

 実は飛行能力を有した楽器なのか?

  

 ――二体はそれぞれの片手で、指板と表板を叩きに叩く。

 バックコーラス的な位置にいる半透明な女性たちが叩く骨楽器の音程をリードする。

 音楽でヒャッハーを繰り広げる狸――。

 いや、ドワーフのゲッセリンク・ハードマン。

 

 そして、アジャスタとブリッジにf字孔から音程を意味するような魔印が出現。


 ♪ ♪ ♪ どんどん、どんどん、ちゅうららららららら ♪ ♪ ♪

 次から次へと音符のマークは現れ消える。

 

 エンドピンが、巨大エイの尾のようにしなる。


 自らの太鼓を奏でる金玉袋に、そのエンドピンを突き刺して、悲鳴すらも音楽に――。

 その金玉を萎ませては、また、音楽に合わせて膨らませる。


 動きが怖いエンドピンは宙空に蝙蝠傘のマークを描きつつ、そのエイのようなエンドピンで、弦を弾き始めた。

 もう一つ腕を得たような弾きようでロック感が強まった凄い……。

 

 更に、ゲッセリンク・ハードマンは野太い声で、心臓の鼓動的な歌を歌い出す。

 金玉はともかく、歌声が渋いし、太鼓の音も芯がある……。


 太鼓と弦と声で、俺の心臓を直接打つような重低音はあまり経験したことがない。


 ――凄まじい熱意のあるチェロの音楽だ。

 ――神殿自体が一つの楽器と化すような地響きとなった。


 歌詞はあるとは思うが――。

 ……なんとなく、宇宙的な感覚を得る。


 古代狼族の歌声とはまた違って凄まじい。

 

 お祈りしていた村人たちが近寄って、一緒にリズムを取る。

 子供は「わぁ! ゲッセリンク様がまた演奏してくれたーーーー」


 と、大興奮。

 気持ちは分かる。


 お爺さんのほうも、真剣な面だ。

 干からびた枝のような細い両手を叩いて、リズムを取る。

 

 そのリズムに合わせる優しいゲッセリンク。

 お爺さんも嬉しそうに微笑む。


 すると、奥の扉の表面に笛のマークと光の文字が浮かぶ。

 神殿は、やはり関係していた。

 

 神殿ハードマンを代々守ってきた音守の司が、このゲッセリンク・ハードマンの仕事か。

 

「――驚きです。そして、凄い音楽の技術と魔法……その連鎖は感動を覚えます」

 

 キサラはマジな顔つきで語る。

 ふふ、と満面の笑みを見せたキサラはアイマスクを解除して、自身の小さい角の中にアイマスクを格納させた。

 蒼い双眸は二体の弦を弾く弓の動きを見ては、周囲の壁の中に入ったり消えたりしている半透明な女性たちの楽器の動きも見ながら、微かな<魔謳>を披露――。


 そして、ダンスを踊るように――肩と足先でリズムを取る。

 ダモアヌンの魔槍を出現させては派手なステップ。


 ヘルメも反応――。

 

『ふふ――閣下』

『いいぞ』


 ヘルメが左目から出た――。

 水飛沫で音楽の意味があるようなマークを作ると、華麗なヘルメ立ち――。

 キサラと背中を合わせて、互いにダンサーとなった。


 皆の音程のリズムに合わせて、歩いて、動きを止めると、音楽も一瞬止まって、ポーズ。

 なんだなんだ、初めての演奏でここまで合うものなのか。


 そして、ゲッセリンクの野太い声が合図となって、皆がパッと踊り出す。

 ミュージカルをリアルタイムで見ているようなダンスと音。


 子供とお爺ちゃんの傍でヘルメは合わせてダンスを誘う。

 子供とお爺さんのタップダンス的なダンスが始まった。


 不思議とリズムがヘルメとキサラと合う。

 子供とお爺さんの足下が煌びやかに光った。

 ヘルメの水魔法が、子供とお爺さんに掛かっているのか。


 突然のフラッシュモブ――。

 はは――楽しい。


 踊りながら器用に弾くキサラのギターもイイ感じだ。

 俺も正義のリュートを取り出した――。


 キサラとアイコンタクトしてから、二体のゲッセリンクともアイコンタクト。

 互いに視線と体と楽器でリズムを合わせて――一緒に弾く。


 ――音波と音波が重なると宙空に楽しげな妖精たちが踊るような幻想世界が映っては消える。

 俺のリュートの音を聞いてリズムを刻むキサラは<魔謳>を披露――。


 <光の授印>も反応。

 神殿の内部の魔力音楽と呼応したようだ。

 演奏していたゲッセリンクは<光の授印>に驚く。

 俺の胸元を凝視していたが、楽器を止めない。

 二体のゲッセリンクは魔眼的な能力を使いつつ音楽を強めていく。


 奥の扉のイルミネーションが強まった。

 神殿の地下から不気味な声が響く――。

 しかし、ゲッセリンクの野太い声がそれを封じ込めるように、更に神懸かった野太い声を響かせる。


 足下から神殿の内部に亀裂?

 いや、魔法陣的な模様が次々と生み出されていった。


 ――テンションが自然と上がる――。

 ドドドドドッ、ドドドドッ、ドドドドッ――。

 ――闇の底から這い上がってきそうな重低音が下から俺たちを刺激する。

 が、それすらも音楽に変える俺とキサラ――。

 正義のリュートの魔力とダモアヌンの魔槍の魔力は撓んだように膨らんだ神殿の亀裂のような模様を叩く。


 互いに目を合わせてから、声を出した。

 

 キサラの美しい声と、俺の声に、ゲッセリンクの野太い声――。

 ヘルメと子供と爺さんと半透明な女性たちの舞踊! 楽しい!


 が、音楽の高まりとは違い、ゲッセリンクは表情が青ざめていく。


「「――こりゃ、調子に乗りすぎたか!?」」


 その二体のゲッセリンがハモリながら発言。

 しならせた金玉袋で盾を生成すると、演奏をしながらも、子供とお爺さんを守る。


 直後、下から地響きが――。

 

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