六百九十三話 ネーブ村

 火を止めたガードナーマリオルス。

 胴体からキュルキュルと音を響かせて回転すると、頭部に備わる小型カメラを俺に向ける。

 そして「ピピピッ」と音を鳴らしたあとカメラをズームさせた。


 すると、俺の右腕の戦闘型デバイスから、


「リラクゼーション・システム展開――」


 アクセルマギナが機械音を響かせた。

 刹那、フォド・ワン・ユニオンAFVの向きが自動的に変化するや後部のガルウィングドアが閉まった状態でフェンダーが真横に伸びた。


 更に後部の銃座も横に出る。

 と、フェンダーの上部は湾曲しつつ白色の屋根となった。

 フェンダーの下部のほうは白色の鋼の補助席と机に変化を遂げる。

 

 補助席は鋼の机と椅子にも見える。


 そして、ずんどう的に変化したフォド・ワン・ユニオンAFVから、鋼の杭が幾つか放たれた。

 宙に弧を描いて、ザザッと砂浜に突き刺さった鋼の杭。


 その鋼の杭の表面が、左右にパカッとご開帳。

 開いた杭の中から、何かの塊が飛び出た――。

 塊は折り紙的な動きで自動的にストレッチャーとハンモックに変形した。


 続いて、白色の屋根からトーラスエネルギーのカーテンが迸る――。


「ん、凄い! 日射ひざけの魔力のカーテン?」

「装甲車にキャンプの魔機械までもが格納されていようとは!」

「ん、フォド・ワン・ユニオンAFVをアクセルマギナちゃんが改造したのかな」


 すると、右腕の戦闘型デバイスの風防に浮かぶアクセルマギナが、


「改造とはいきません。ナノセキュリティーの穴埋め目的で弄った際に、このリラクゼーション・システムを発見しました。フォド・ワン・ユニオンAFVに元々ある機能の一つのようですね。因みに、マスターが近くにいなければ使えません」


 そう説明してくれた。

 エヴァは


「ん、よく分からないけど選ばれしフォド・ワン銀河騎士・ガトランスマスターのシュウヤだからこそのフォド・ワン・ユニオンAFVと悧巧なアクセルマギナちゃん!」

「ありがとうございます」


 風防に映し出されているホログラムのアクセルマギナがエヴァに向けて敬礼。

 そのアクセルマギナを羨ましそうに眺めているヴィーネは、


「アクセルマギナ、実に素晴らしい雌である。ご主人様に多大なる貢献を……」

「ん、ヴィーネ、焦らなくても大丈夫」


 エヴァに向けて頷くヴィーネ。

 そのヴィーネは、もう調理は終わっているが、包丁代わりの短剣を持っているから少し怖い。

 

 その短剣を振るったヴィーネ――。


「――いや、焦る! 装備に棲まう精霊的なアクセルマギナはご主人様と一緒の時が多い。そして、ご主人様曰く『美人さんが傍にいるのは嬉しいなぁ』とエロい思考を一心に浴びているアクセルマギナなのだからな」


 ヴィーネは素で嫉妬しながら語る。

 そして、短剣の刃を、俺に向けているのは、なぜ?


 気のせいだ。


「ん、気持ちは分かる……けど、高い知能もある。戦闘型デバイスにも装甲車にもシュウヤにも関係していた『ドラゴリリック』の可能性は本当に凄い……そして、なんとかクリスタル? で、シュウヤの部下になる銀河戦士の存在も示唆した。シュウヤとわたしたちも助けてくれるし、右腕の周りに小さく浮かぶ映像も綺麗だし、暗殺者からペレランドラ親子を救ったマリオちゃんも凄い! 可愛いから好き! だからアクセルマギナちゃんがシュウヤと仲良くなるのはゆるす!」


 エヴァ……可愛い。

 ヴィーネは微かに頷くと涼しげな表情のまま短剣をサッと掌で返して、胸ベルトに戻す。

 

 そして、チラッと俺を見て右腕の戦闘型デバイスを凝視。


「ふむ……ガードナーマリオルス。精霊様の<精霊珠想>のあとの、暗殺一家の手練れが放った第二波の射撃を見事に防いだ。あの時の不可思議な樹脂は、わたしの経験則を超えたモノであった。尊敬に値する! そして、短い間に、空飛ぶ戦車に改造を施したアクセルマギナも同様だ……装甲車を扱う操縦技術も備えて、丸い宝石にも見える心臓部のマスドレッドコアを得たことにより実際に戦える……更に、このトーラスエネルギーの技術力の応用も可能だ……魔力の一環とは分かるが……わたしは勉強不足だ……ふがいない」


 ヴィーネは優秀だと分かると即座に認めるが……いじけやすい部分もある。

 それにナノマシン的な遺産神経レガシーナーブは、他にも色々とあるようだ。

 きっと、ヴィーネたちが適応できる遺産神経レガシーナーブはあるはず。

 

 ……フォド・ワン・マインド・フィフィスエレメント・クリスタルは、ヴィーネたちに反応を示していないが……まぁ銀河に黄金比バランスを齎す選ばれしフォド・ワン銀河騎士・ガトランスに<超能力精神サイキックマインド>と<銀河騎士の絆>も関係があるだろうからな。


 たまたまだろう。

 

 進化の可能性は光魔ルシヴァルの時点で無限大だ。

 そして、人型種族は職の神レフォトに愛されているんだからな。

 

 その思いで、ヴィーネを見て、

 

「ヴィーネも、空戦魔導師と空魔法士隊の一隊を屠ってくれた。<筆頭従者長選ばれし眷属>として、これからも頼りにしている」


 と本心で語った。

 パッと表情を明るくしてくれたヴィーネ。

 

「はい! ありがとうございます。それでは、ハープーンガンと機銃の練習を! そして、キサラからもらった新しい魔杖もガドリセスと同じように扱えました。二剣流も翡翠の蛇弓バジュラと合わせて訓練を続けていきたい」

「ん、わたしも、その銃の練習をやったほうがいいかも知れない?」

「エヴァには<念動力>があるからな。ま、あとで」


 エヴァは<念動力>で円月輪と金属の刃の群れを銃弾以上に扱えるからそこまで必須ではない。

 しかし、何事も絶対はない。


 スキルを封じる存在はいる。

 グランバとか……俺が最初に殺されそうになった知的生命体。


 あの時、俺はあらゆる意味で死んだが……。

 だから、魔力を消費しない武器を扱う練習をやっておいて損はない。


「銃器を含めると動く砦のフォド・ワン・ユニオンAFVは、やはり超絶に凄い乗り物だ……射出機カタパルトもある」


 ヴィーネとエヴァの言葉に頷いていたキサラも、


「はい、大砲と立体的な地図といい、高級魔造家マジックテントのキャパシティ能力を超えています。ただ、魔機械は難しそうではあります。そして、魔塔には、飛行船と思われる乗り物があるのをいくつか見ました」

「わたしも見たぞ、海に聳えるような魔塔にある専用の発着場を……あのセナアプアの魔塔に住む大商人の中には、聖櫃アークを集めている者がいるのではないかと……」


 ヴィーネは俺と同じことを考えていたか。

 俺は自然と頷く。

 エヴァは小声で「凄い……ヴィーネ、シュウヤの心の声と一致していた……」と呟く。


 そのヴィーネは顎に指を当てて、考えながら、


「他にも魔法学院の魔法研究者ならもっと凄い魔機械を持っているのかも知れない……」

「そうですね、ミスティさんのような特別な血筋かは不明ですが、貴族出身の魔導人形ウォーガノフを扱える方々は何気に多いですから、第一世代のレアパーツ、その聖櫃アークを扱える者たちを集めている存在もいることでしょう」


 そう考えると、先の暗殺者も納得がいく。

 暗殺一家の【チフホープ家】。

 <無影歩>のステータスの説明には……。

 ※伝説のアサシンクリード一家の長、マクスオブフェルトが開発したとされる※

 とかあった。

 キャノン砲で派手に倒した暗殺者はマクスオブフェルトかは不明だが、聖櫃アークかも知れないスナイパーライフルからアサルトライフルも扱っては手榴弾的な攻撃もあった。

 俺の成長した<始まりの夕闇ビギニング・ダスク>を打ち破りつつロケットランチャーをぶっ放しては、ペレランドラの魔塔も破壊した。


 ヘルメとキサラの攻撃も魔導鎧で弾いていた。

 あれも聖櫃アークっぽいか。

 

「そのミスティもメル関係を通じてエンジンの模型やら独自の研究で進化している……ミスティならこういったナパーム統合軍惑星同盟の品の理解も早いだろう。だからキサラ、わたしもだが、ご主人様を理解しつつ常にパートナーであり続けるためには……宇宙そらのことを、もっと理解しなければならない」

「はい。ナパーム統合軍惑星同盟と銀河帝国の争いですね」

「ん、シュウヤは選ばれしフォド・ワン銀河騎士・ガトランスマスター! フォド・ワン・プリズムバッチのアイテムを使ったら転移しちゃう可能性があるとか。あと、銀河騎士マスタークラスの仲間か敵、ナパーム統合軍惑星同盟のセクター30の存在と帝国にも特殊部隊はいるとか。それに敵味方に銀河騎士や銀河戦士が存在し、争っているとか、ナパーム統合軍惑星同盟は押されているって。あと、シュウヤがクルーとなった宇宙海賊の【八皇】の一人のハーミットも、遺産神経レガシーナーブに適応したって聞いている」


 エヴァの言葉に皆が頷く。


「惑星セラの内部には魔界セブドラや神界セウロスに邪界ヘルローネ、獄界ゴドローンもある……」

「ん、塔烈中立都市セナアプアにも、エセル界って次元界がある」

「海光都市ガゼルジャンの海中遺跡にも、ウォーターエレメントスタッフで開く次元界がある」


 世界はまさに内も外も無限のごとく広い。


「ま、それを言ったら惑星セラには、黒き環ザララープがあるからな。途方もない。で――」


 語尾のタイミングで、話を切り替えるように、綺麗なカーテンを見ながら、


「綺麗なエネルギーのカーテンだと思わないか?」

「ん、触れる?」


 エヴァの問いに、右腕の戦闘型デバイスのアクセルマギナが、


「今のトーラスエネルギーなら触ることができますよ~」

 

 と、スピーカー越しに答えていた。


「ん、ふふ、触ってみる!」


 早速エヴァは、大きな鍋を<念導力>で運びつつ――。

 自身の体を浮かせてエネルギーのカーテンに手を当てていた。


「ん、本当に大丈夫! 少し温かい。これには魔法防御もあるの?」

「可能です。ただしリラクゼーション・システム。防御能力は極めて低いですが」


 と、右腕の戦闘型デバイスの風防に小さく浮かぶアクセルマギナが機械音声で答えていた。


「さて、エヴァとヴィーネ。料理を食べながら、神殿で起きたことの話をしよう」

「ん、上の神殿で何かあったの?」

「そうだ」


 斯く斯く云々。

 ぺらぺらむしゃむしゃと。


 リラクゼーション・システムを利用しつつ――。

 皆と魚介スープとパンを食べながらゲッセリンクとの経緯を話す――。


 少し焼いたブロッコリー風の野菜が美味い。

 表面はスープで煮たから柔らかい。

 芯の部分はシャキシャキとした歯ごたえが、肉的な歯ごたえで、柔らかい。


 その、うまうまな野菜と巨蟹の味噌を使ったスープが、これまた絶妙に合う。


 そして、ガードナーマリオルスが釣った魚はヒラメかカレイと似た白身の魚だった。


 この白身も蟹味噌の味に合うから美味かった。

 前に、相棒が捕まえた目白鮫めじろざめ風の大きい魚も使ってほしかったが、これはタイミング的に仕方ないか。


 大きい魚は今度かな。


 しかし、料理に使える素材が素晴らしい質。

 このネーブ村は避暑地として有名になりそうだが……。

 モルセルさんの対応を考えると、評議員たちが密かに利用していたことがあるのかも知れない。


 ペレランドラ親子はこのネーブ村のことは知らないようだったが……。


 そんな思いのまま、ハードマン神殿の話を続けた。

 エヴァとヴィーネも自らの料理を満足そうに食べつつ俺とキサラの話を聞いて、


「ん、一緒に冒険!」

「了解しました。このレフテンの地域は、荒神と地底神の一派の勢力が強いようですね」

「ピピピッ」


 ガードナーマリオルスも理解しているように音を鳴らす。

 カメラを俺に向けていた。


 一時間ぐらい料理を食べつつ会話を続けて、まったりと過ごす。

 そして、ヒューイとハルホンク用に――。

 <シュレゴス・ロードの魔印>を意識。


 左手から細い桃色の蛸足をチョロッと出した。

 肩の竜頭金属甲ハルホンクに乗っていたヒューイは嘴から、その桃色の蛸足魔力を吸う。

 竜頭金属甲ハルホンクにも桃色の蛸足魔力を上げた。


「キュゥゥ!」

「ングゥゥィィ!」


 と、喜ぶ荒鷹ヒューイとハルホンク。


「キュゥ♪ キュゥ♪ キュオキュゥールゥ♪」

「ングゥ、ングゥゥィィ、ングゥゥ♪」

「キュゥ♪ キュゥ♪ キュオキュゥールゥ♪」

「ングゥ、ル、ングゥルゥ♪ ングゥゥィィルゥ♪」

「キュゥ♪ キュゥ♪ キュオキュールゥ♪」


 リズミカルに蛸足魔力を吸い取ったヒューイ&ハルホンク。


『主、ヒューイ好き』


 <シュレゴス・ロードの魔印>に棲むシュレゴス・ロードはそんな気持ちを伝えてくる。

 竜頭金属甲ハルホンクのことは何も語らない。


「キュイ~」


 と、<シュレゴス・ロードの魔印>の魔力を得て満足したヒューイは上昇。

 村の周囲を見て回るようだ。


 そこからはエヴァとヴィーネとキサラとハープーンガンと機銃の訓練を開始。

 と言うか、イチャイチャ銃祭り。


 ロロディーヌはいないが、呆れるような短い時間が過ぎた。

 と、夜になったところで、


 ◇◇◇◇


「――ご主人様、夜です。宿に行きましょう」


 色っぽい三人の表情には艶がある。


「おう」

 

 ガードナーマリオルスとフォド・ワン・ユニオンAFVを仕舞った。

 エヴァとヴィーネの少し汗ばんだ手を握って、岩階段を上る。

 階段の左右には石灯籠が並ぶ。

 天辺のデザインはセウロスの神々かな。

 歴史を感じるし、面白いなぁ。


 すると、エヴァが、


「ん、ロロちゃんが来なかった。この村のどこか?」

「たぶん」


 そう話しながら階段を上る。

 

 階段の左右には、崖に固定された板通路が、その崖に沿う形で続いている。

 崖を削って、その崖を店舗として利用している下駄履きの商店もあれば、高楼的な共同住宅を兼ねた建築物もあった。住人たちは、板の通路を渡っていた。


 商人と旅人もそれなりにいるが、皆軽装で戦うって感じではない。

 最初に俺に話をしてくれた冒険者のモルセルは、装備もそうだが一角の人物のようだな。

 

 水のモルセルと、爺さんは話をしていた。


 板通路には角屋的な崖に突き出た荷物置き場もある。

 崖の上と砂浜がある下にロープを垂らす。

 ロープにくくられた光る籠が荷物と人を載せて上方と下方を行き交う。

 一瞬、浮遊岩を連想するが、セナアプアのような大規模な物は一つもない。

 すべてが、小規模だ。

 住人の裸っぽい葉の衣服を纏う方が奇声を上げながら板の通路を走っていく。

 あまり触れちゃいけないような気がする。

 紐で縛った蝋燭を頭部にくくりつけていた、ホラーテイストな人物だったが……。

 

 盛大にスルーした。

 キサラはスルーできずに悲鳴を上げていた。

 ヴィーネは翡翠の蛇弓バジュラを構えて、光の弦に指を当てて、光の矢を出現させている。

 そのヴィーネに頭部を振るって攻撃は〝無し〟だ。と指示を出す。

 ヴィーネは「はい」と静かに答える。

 と、セウロスの神々のマークが施されてある建築物を見つけた。

 へぇ、少し距離があるが緯度観測所的な神殿? 

 星読みを行うような神殿か、ハードマン神殿的に何かを封じている?


 ハイム川の入り江に突き出た形のハードマン神殿とは、ちょうど正反対の位置かな。


 ゲッセリンクは、あの神殿については語っていなかったが……。


 その左右の板通路を幾つか見ながら、真上の高台に向かう神社的な岩階段を上った。

 金比羅様に向かう気分で階段を上がった先に到着。

 左右に道があるが、ここの空間は楕円形で広い。

 ネーブ村の中心っぽい印象だ。

 奥の崖の頂上に当たる位置に、古くて倒れ掛かった標識と小さい商店を発見。


 小さい商店の店主は人族のおっちゃん。

 番傘と野菜に卵を大量に売っていた。


「いらっしゃい! 新人の同業者か! 新人にはこれがお勧めだ」

「卵?」

「おう! ネーブの特産品と呼べる卵だ。この魔獣バルスの卵は殻も栄養豊富。これを食べれば、その日の一晩は、元気になるし女も喜ぶ。そして、次の日には、戦士も魔法使いも男も女も体が強くなれる! ま、あくまでも一時的だが、安くしとくぜ」


 バルスの卵か。

 元気になるって、精力剤の効果もあるのか。

 そのバルスの卵の殻は、色とりどりで、角張った角のような部位もある。

 値段はたいしたことないから買えるが、今はいいか。

 

「どうも、今は大丈夫です」

「そうかい、いつでも買いにくるんだぞ~」

「はい」


 商人のおっちゃんは、いい笑顔。

 商人を兼ねた冒険者か。


 標識のほうは、古い字で読み取れない。

 すると、空から魔素を探知。


「ぴゅぅ」

 

 荒鷹ヒューイだ。

 崖の横に並ぶ提灯の光源類を消しつつ子精霊デボンチッチたちを散らしながら滑空――。

 

 近寄ってくる。

 肩か腕に乗せる鷹匠のようなイメージで、腕をさっと出した。


 が、見事にスルーされた――少しショック。

 荒鷹ヒューイは、そのまま俺をあざ笑うように華麗に俺を過ぎ去った。

 

 低空飛行で下に向かう。

 荒鷹ヒューイは宿の場所まで案内してくれるようだ。


「ご主人様、下に皆の泊まる宿があるようですね」

「そのようだ。土地勘もないし、掌握察の探知も完璧じゃないから助かる」

「はい、あ、見てください、魔力の羽が」


 荒鷹ヒューイの羽も特別だ。

 食材になったり、今のように印になったり、アクセサリーになったりと面白い。


 と、坂を下りるように板通路を進む。

 足下の板は神社にあるような木組みで頑丈だ。

 

 一瞬、ラグレンに案内を受けての旅を思い出す。

 ポポブムに乗って下山の旅……。

 

 ――滝の中を突っ切るような丸太の橋をポポブムの足で渡った。

 ……あれは怖かったが楽しい体験だったな。


 ヒューイが飛翔した先には、ドロシーとシウがいた。

 二人は平屋の宿の出入り口だ。

 右奥は崖に沿う形の商店街が続く。


 左の奥は、ハイム川の入り江だ。

 山のような崖で暗いが、双月神ウラニリ様、双月神ウリオウ様の月のお陰で、夜でもそれなりに明るい。


 ドロシーとシウは、ヒューイの声を聞いて、空を舞う光る羽を辿たどるように視線を寄越す。

 俺たちに気付いたドロシーとシウ。

 

 洗濯物が積まれた籠が並ぶ付近で、手を振っていた。

 ヒューイは宿の屋根だ。

 軒の溝に嘴を突っ込んでいるが、虫でもいたのか?

 

 ドロシーとシウの二人が立つ玄関の敷石は大きい。

 敷石の縁は板で模様を作るように補強されている。

 

 大本は崖から出た巨岩で、その一部を敷石として利用しているようだ。

 懸け造りの構造で、堤の木組みの平屋。


 足下の板の間から崖下の光景をのぞかせる。


 下は崖で危険だ。

 高いところが苦手なヴィーネは、その下をあえて見ていない。

 

 そのヴィーネの歩き方は少しぎこちない。


 ま、仕方がないか。

 通路の左も崖。落ちたら危険だ。

 一瞬、小型オービタルを傾けつつ崖の道を下ったら面白そうだな。


 そんな暴走チックなヒャッハー族の考えは、止めておこう。


 左の崖の際には手摺てすり代わりのローブと、石像類が並ぶ。

 右側は山の斜面。

 その斜面の岩壁を彫って作られたお地蔵さんと針鼠神の像が並ぶ。


 岩肌から澄んだ水が流れてお地蔵さんの頭部と体をらす。

 

 お地蔵さんの足下には、岩の器をがあるが、その岩肌から流れた水で、岩の器は綺麗な水で満ちていた。


 周囲には、ふわふわと浮かび泳ぐ子精霊たちが見える。

 ヘルメが喜びそう。


 水神アクレシス様の気配を少し感じた。

 ……綺麗で神聖さを感じる。

 そうした右側の壁に並ぶ大小様々な水が滴る石像を見ると……。

 六幻秘夢ノ石幢があったことを思い出した。


 石幢の獄魔槍譜ノ秘碑で、グルド師匠から魔槍技を学びたいところだ。

 他にも……。

 

 一つは、石弓雷魔ノ秘碑。

 二つは、乾坤ノ龍剣ノ秘碑。

 三つは、蛇騎士長ルゴ・フェルト・エボビア・スポーローポクロンノ秘碑。

 四つは、獄魔槍譜ノ秘碑。

 五つは、金剛一拳断翔波ノ秘碑。

 六つは、魔槍鳳凰技・滅陣ノ秘碑。


 と、そんなアイテムを思い出しながら……。


 やはり左側全体を見てしまう。

 入り江の絶景……真下は砂浜だし、良い眺めだ。

 パノラマ写真を撮りたい。


「ん、砂浜も良かったけど、ここも良い景色」

「はい」

「こういった絶景は至るところにあるのかも知れません」


 キサラとヴィーネとエヴァは語らう。

 互いに肩を寄せて美しい眺めを魅入っていた。


「だなぁ……」


 崖に建つハードマン神殿も綺麗だ。

 月明かりを反射しては、日光と同じく神殿の内部に魔力を取り込んでいるっぽい。


 魔力の明かりがハードマン神殿から発せられていた。

 美しい古城にも見える神殿。


 そんな遠くのハイム川も絶景でいいが……。

 近くの景色もすこぶるいい。


 板の通路を縁取るように並ぶ灯籠と提灯の明かり。

 蛍のような子精霊デボンチッチたちが夜空を舞う。


 古い神社とか山間の村の小さい祭り的な雰囲気だ。


 子精霊デボンチッチたちは、踊るように宙を跳んでいる。


 すると、目を光らせた野良猫が、その子精霊デボンチッチたちを追い掛けていく。

 小さい灯籠の傍では、香箱の姿勢で休む白猫と茶虎の猫ちゃんが鎮座。

 置物に見えた。


 そして、ローブと籠を玩具にしている黒猫。

 

 ん? ん?

 相棒じゃんか!

 

 野良猫の中に普通に混じっているがな。


 しかし、このネーブ村には自然が多いと分かる。

 そして、野良猫がいるってことは縄張りがあるってことだ。


 黒猫ロロは、俺たちが食事をしている間に戻ってこなかったが……。

 早速、ネーブ村の猫仲間に入り込めたか。


 余所者の黒猫ロロに話しかけている老猫も見えた。

 

 はは、懐かしい。

 城塞都市ヘカトレイルでもあんな老猫ちゃんがいた。

 

 と、黒猫ロロを見ていたら、ヴィーネたちは先に下っていた。

 キサラとエヴァも宿の前で、ドロシーとシウに挨拶している。


 俺は皆のいる玄関口と相棒ではなく……。


 自然とぽつねんと佇むお地蔵さんと見知らぬ神々の像に近付いていた――。

 食材袋から肉とパンを取り出す。

 像の足下にある皿的な位置に、おにぎりでも置くように食材を供える。

 

 そのお地蔵さんと見知らぬ神々にお祈りを実行。

 皆の幸せを祈って、南無、アーメン。

 

 一瞬、温かい風が俺の体を吹き抜けた。

 【魔霧の渦森】にいるココッブルゥンドズゥ様はどうしているだろう――。


 そんな思いのまま宿に向かいながら――。


「ロロ!」


 と、俺の声を探すように頭部を振るうロロディーヌ。

 その相棒は、上のほうにいる俺を見つけると、「ンン、にゃおお~」と、鳴きながら走ってきた。


 はは、走り方が可愛い。

 野良猫たちは、その走り去るロロディーヌを見ていない。

 各自、足や腹を舐めたり捕まえた鼠を板の間に隠したり、子精霊デボンチッチたちを枕にしては背中を寄せ合って眠っていたりと様々だ。

 

 野良猫ってより、この宿と商店街の飼い猫たちか?


 戻ってきた黒猫ロロは、俺に向けて跳躍。

 御豆型触手を俺の腕に絡ませつつ、腕を伝って肩に登ってきた。

 早速、黒猫ロロは頬に頭部を擦り当てつつ、舌でペロッと俺の頬を舐めてくる。


 耳朶に荒い息を寄越して「ンン、にゃ」と鳴くから、少しびびった。


「ロロさんや、俺だってびっくりするんだぞ?」

「――ンン」


 相棒の頭部を撫でてから、片耳を引っ張ってやった!

 黒猫ロロはどべぇっとした顔で気持ち良さそうに目を瞑り続けてやがる。


 可愛いんだよ、むかつく。

 俺は、笑いながら――。


「――さて、あの雰囲気の良さそうな旅館的な、宿に行こうか!」

「にゃ」

 

 宿のこぢんまりとした机には皆が集結していた。

 主人に挨拶したが、もう既に、ペレランドラがお金を払っていたようだ。

 

 ペレランドラ親子、リツさんにナミさんとペグワース一行。

 しかし、クレインは……。


「ん、先生はまだ寝てる。起こそうとしたけど……びっくりしてそのままにした」

「もっと警戒心を抱いてもいいと思うが」

「ん、先生の爆睡顔は、わたしも初めて見た。シュウヤの存在が大きいのかも……」


 俺か……それだけ信頼してくれていると思えば嬉しい。

 しかし、アキレス師匠との修業の中では寝る時こそ注意が必要だと教えられた。

 一流も様々だが、少し複雑だ。


 すると、ペグワースが、


「わしらは、その冒険者依頼は受けないし、朝から調べたい彫像が増えた。だから、もう寝るぞ」

「了解」

「じゃ、俺たちも寝るか!」


 首筋のマークが気になるが……。

 ま、たまにはいいかぁ――。

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