六百七十話 武威蜜祈りの蝋燭

 ◇◆◇◆


 ここは塔烈都市セナアプアの上界。繁華街『エセル』。

 上界では有名な繁華街の一つだ。『ホテルキシリア』と最近出来たばかりの『宿り月』など分かりやすい名前の宿屋&酒場で通りには、魔法学院と繋がる魔塔などが多い。

 大小合わせた闇の勢力も強い街が繁華街エセルだ。

 繁華街の奥に向かうほど浮遊岩の数は増える。

 重力に逆らうように浮遊岩と魔塔が重なって一つの大陸風の巨大空中都市を形成しているが、この煌びやかな光景も塔烈都市セナアプアの一部でしかない。すると、古びた小さい魔塔が爆ぜる。爆発で魔塔を構成する建物に穴が空く。内部に溜まっていた秘薬が散った――再び爆発、鴉と鴉が鈍く衝突。古い塔は折れるように上部が落下、幸い下はハイム川。

 下界の街とは離れている――剣戟音も重なったが、音は鴉と鴉に数珠が散った音。帽子を召喚してから、かぶり直した魔術師は、小さい塔の天辺に着地。そこに帽子をかぶる魔術師に向かって刃を備えた鴉の群れが襲い掛かったが、一瞬で刃を備えた鴉は散る。魔術師の帽子から出たカウンター魔法と衝突したからだ。帽子から出た魔力の腕は今も尚、分裂しながら刃を備えた鴉を捕まえていく。鴉が絡み合う鴉の魔術と魔法の戦いが起きていた。その帽子が消えた片方の魔術師は指先で魔印を描きつつ飛翔――。

 小さい浮遊岩を転々と蹴るように素早い移動を繰り返す。

 飛来する鴉と髑髏の魔術を回避しつつ大きな浮遊岩に着地した。

 魔術師はメファーラを意味する四天魔女が得意とした魔術を見て、視線を鋭くさせた。


「どこかで見たと思ったら、黒魔女教団の四天魔女とは……嬉しい再会と、いったほうがいいのかしら」

「……思い出したようですね」

「うん。怒らないでね。四天魔女として、大きな力を失っているようで、分からなかったの。でも、その魔界の書物は……昔のままだったから、さすがに気付いたわよ」

「そうですか」

「それで……肝心の、あの〝槍使いと、黒猫〟はどこなの?」

「……その方に何か用なのですか?」

「うん。彼と黒猫ちゃん、わたしを見たでしょ? 魔界四九三書を複数持つ槍使いってより、魔槍使い……わたしと万古獣ラモンを見たと思ったのだけど……」


 魔術師が惚けたように語る。刹那、四天魔女は隙を突こうと素早く飛式魔術を展開された。簡易結界を作り出した四天魔女は空中から前進。

 速度を加速した<刺突>のダモアヌンの魔槍を、敵対した魔術師の胸元に繰り出す、が、魔術師は周囲に鴉を即座に召喚。

 足下に展開した多重魔法陣と宙空に描いた魔法陣から出した魔法力で――推進力を得ると魔術師は体がぶれると後退する。その魔術師の背後に浮かんでいた鴉の一羽が巨大鴉に進化した。その巨大鴉から伸びた魔線に絡む魔術師は嗤いながら、 


「……無駄よ。魔術の質と魔法の質は高いけど、魔女の力が落ちた貴女では。しかし、あれでは、槍使いは、わたしに興味は抱かないってことかしら……」


 と、呟く。巨大鴉が魔術師を操るようにも見えた。

 見上げる四天魔女。蒼い目は鋭い。


「……アキエ・エニグマ。あの方に、ちょっかいを出すつもりなのですね」

「当たり前じゃない」

光と闇の運び手ダモアヌンブリンガーで在らせられる、あの方は忙しいのです。貴女の欲望に付き合う暇なんてありません――」


 怒った嘗ての四天魔女。


「百鬼道ノ六なりや、雲雨鴉。ひゅうれいや――」


 嘗ての四天魔女キサラ。蒼い双眸が煌めいた。

 百鬼道の魔界四九三書も煌めく。空に両手を突けるや否や、手首の数珠が墨色の輝きを発して幾何学模様の魔印も散った。魔印の文字群は彼女の手を覆う。

 メファーラを意味する魔女独特の魔法陣を形成。

 その魔法陣から戯画の黒鴉の群れが出現――。

 アキエ・エニグマに雲雨鴉黒鴉が飛翔していく。

「また、その魔法?」

 巨大鴉とは違う鴉の群れを召喚したアキエ・エニグマ。

 その鴉の群れで飛来する雲雨鴉を相殺。

 幻獣巨大鴉を有するアキエ・エニグマだったが、四天魔女と接近戦はしない。四天魔女キサラは<槍組手>と<メファーラの武闘血>などのスキルに〝天魔女流白照闇凝武譜〟の使い手、そのダモアヌンの魔槍の威力を知っているからだ。アキエ・エニグマは適度に距離を保つ。攻撃も鴉の群れに強烈な礫の魔弾を混ぜるのみ。四天魔女は百鬼道ノ六を防ぐアキエ・エニグマを睨む。決意を持ってアキエ・エニグマを追う――が、過去の記憶を想起した隙を突くように、そのアキエ・エニグマが目の前に出した鴉が分裂しつつ増殖した直後――アキエ・エニグマは上空へと転移。

 敵対していた四天魔女からは消えたように見えただろう。

 アキエ・エニグマの転移魔術<幻転移>と幻魔法<泡鴉>の応用合わせ技。アキエ・エニグマはそれらの魔術と魔法の芸術の極みに落書きでも消すように左手を動かした。魔術と魔法は微かな鴉模様を描きつつ消失。アキエ・エニグマは、遙か下にいる四天魔女を見てウィンク。


 すると、彼女の左右の空間が歪む。


「――チッ、今は……ラモン我慢しなさい」


 歪んだ空間から巨大な爪が出た。

 アキエ・エニグマごと空間までを裂くような巨大な爪だったが、アキエ・エニグマは軽快に腕を払うと指と指で重そうな巨大な爪を軽々と弾いた。その巨大な爪を弾いた指と指から怪しく漏れた魔力で珍しい魔の陣が形成される。と、紋章魔法や紋章魔術ではない魔の陣。その珍しい魔の陣から雷状の鎖を半透明な骸骨に纏った者たちが次々に現れて巨大な爪を押さえ込む。


「……ぐぅぅ、うぬぼれるな……」

「うふふ、そのままだと<魔方陣・イメルダ>を喰らいすぎて、暫くこの次元で活動できなくなるわよ?」


 ◇◆◇◆



『樹怪王の軍勢、オーク、それ以外にもモンスターが増えた。わたしとブッチとサザーに、エブエさんとドミネーターさんと一緒に前に出る。他は、砦から遠距離攻撃で対処中』

『了解、サラ隊長。無理はするな』

『あはは、シュウヤだからこその言葉ね。心配させたならごめんなさい。ハンカイさんとデルハウト組が戻ってくるし、挟撃予定だから、わたしたちは気軽に威力偵察を実行中よ』

『分かった、俺も見に行く』

『うん、さっきも言ったけど、皆、砦だから』


 西の砦か。

 続けて、キッシュからも血文字連絡が入る。


『シュウヤ、わたしもエルザを連れて、城下町の正門に向かう。ダブルフェイスには、この場に留まってもらう。サイデイル東の警邏にはバーレンティンたちに向かってもらった』

『分かった』


 皆に向けて、


神獣ロロとヘルメは、西に行っててくれ」

「「はい」」


 イモリザはピュリンに変身。

 黒猫ロロは黒豹ロロディーヌに変身。

 その相棒は、俺の膝と脹ら脛に尻尾を絡ませてから、


「にゃお~」


 と、鳴く。

 俺は頷いた。

 相棒は頷くと尻尾を緩めつつ華麗に走り出す。

 四肢が躍動する走り方は、いつ見ても黒女王的でピュアで美しい。


 そんな俺の視界に、汎用戦闘型アクセルマギナが映る。

 西側に向けての大ジャンプ。

 着地が心配になった。

 が、足はカモシカのように変形が可能だから、なんらかのクッションが出るんだろうと判断。


「ぴゅ~」


 と鳴いた荒鷹ヒューイ。

 その汎用戦闘型アクセルマギナの突然の機動に驚いて、空を舞う。


 そして、<荒鷹ノ空具>を意識。


『そのまま、シェイルとジョディの近くを飛翔して見守っているんだ』

「ぴゅぅぅぅ」


 と、甲高い鷹の声を寄越す。

 蒼い鳥は逃げた。


 ヘルメは<珠瑠の紐>でピュリンを巻く。

 そのまま飛翔しつつピュリンを抱くように連れて西の戦場に向かった。


 ルッシーは血の池の中に潜るように消失。

 俺はムーたちに、


「ムー、ヴェハノ、ビア。お前たちはここに残れ」

「主、我も戦いに……」

「きゃっきゃ」

「その子を大事にな」

「うむ」

「……っ」


 ムーはビアに近付いて、蛇腹の鱗に手を当てた。


「お前たち、ここが嘗て、樹怪王の軍勢に侵入されたことを忘れた訳じゃないだろう?」

「ぬぬ、確かにそうであった」


 ヴェハノはここの庭を見渡す。

 小山がある訓練場は高台でもあるし、<霊血の秘樹兵>もいる。

 侵入は難しいのでは? と、思ったのだろう。


「ヴェハノもムーと、自宅にいるリデルたちを頼む。人族のサナさんとヒナさんは強いから平気だが、まぁ、一応は警戒だ」

「はい!」


 ヴェハノの気合いが入った声を聞いて安心。

 俺は頷いた。


 そうして、血獣隊&紅虎の嵐にジュカさんが奮闘する西の砦に向かった。


 すると、再びサラの血文字が浮かぶ。


『――モガ&ネームスが背後に来た。サイデイルの城下町のほうが逆に心配なんだけど、まだ腕の覚えのある冒険者たちも少ないし』

『キッシュが直に出る。エルザと一緒に門番長って感じだろう』

『そっか、女王様なら安心。あ、ハンカイさんとデルハウトさんが来た、ジュカさんも!』

『了解、なら大丈夫そうだな』

『うん、これから樹怪王の軍勢とオーク帝国の兵士を蹴散らすから。ママニさんからも血文字で連絡があった。単独でオークの兵士長を狙うと』

『おう』

『だけど、他にもモンスターは多い。空からの侵入も』

『空か? ガーゴイルは、ちらほらと見かけるが』

『砦周辺には多いの。幸い西側は東と違って旧神ゴ・ラードの蜻蛉系モンスターは少ないけど、モンスターって大概、他の勢力と連動しつつ活性化するから厄介なんだ、頼むわね』

『分かった』


 サラの血文字に返事をしながら――。

 ヒューイとイザーローンに案内を受けて西に向けて走った。


 すぐに皆の位置を把握した。

 魔素は巨大な枝の上。

 <無影歩>を発動しながら跳躍。

 崖から突き出たような形となって伸びた枝先に――。 

 ルッシー、ヘルメ、ピュリン、ぷゆゆ、ヴィーネ、ベリーズ、レネ、ソプラ、汎用戦闘型アクセルマギナがいた。


 小熊太郎だけ、何か違うような気がするが……。

 ぷゆゆも立派な樹海獣人ボルチッドだからな。


 そして、崖の地形を活かした砦か。


 皆、当然、弓、魔法、銃、などで攻撃中。

 ルッシーは<霊血の秘樹兵>で鹿の角を持つ人型の軍団を押さえ込んでいた。

 ゴブリン&オークなども入り乱れている。

 ヘルメの闇の靄を敵の頭部に纏わせる魔法とヴィーネの<銀蝶の踊武>で、ゴブリン&オークの一部は混乱中。

 そこにルッシーが血の礫を飛ばし、鎧を着ていないゴブリンの体を穴だらけにして倒す。


 オークは装備が整った兵士が多いから血の礫を弾く者が多くいた。

 正直、冒険者か軍隊を相手にしているようで手強い相手がオークたち。

 氏族の名は聞いていないが、クエマとソロボなら知っているかも知れない。

 が、戦いに間を与えないように、ヴィーネが翡翠の蛇弓バジュラから発した光線の矢は、オークの盾を貫く。 


 大概のオークはヘッドショットを喰らっていた。

 優秀な射手としての動き。

 弓構えから打起しは刹那の間だ。

 一瞬で、空のガーゴイルも光線の矢が捉える。

 ガーゴイルの石の表面に亀裂のような緑色の蛇が浸透。

 間もなく動きを止めたガーゴイルは内部から緑色の薔薇と蛇が混じった幻影を出しながら爆ぜた。


 更に、ヴィーネはアズマイル弓術の射法でもあるような独自の〝会〟のような姿勢から光線の矢を放つ。

 樹海独特の七面鳥のようなモンスターの翼を射貫く。

 ベリーズとは少し違う射法だ、射法八節のような基本はあるようだな。

 だが、ソプラとレネには日本でも通じるような弓術射法のような所作はあまりない。

 今もソプラは腰弓の姿勢からクロスボウ。

 種族によって様々か。まぁ、当然か、環境によって戦闘術は変化する。

 

 そして、ヴィーネが射貫いた七面鳥の名はブルプロだったかな。

 あの七面鳥と似たモンスターの肉は、相棒が好きな肉だ。


 黒豹ロロディーヌは「カカカッ」とクラッキング音。

 絡みに行かず我慢した相棒だ。


 その黒豹ロロは、


「――にゃごぁぁ」


 指向性の高い細い炎を出して、空飛ぶゲンダル原生人と似たモンスターを燃やす。

 黒触手は伸ばしていない。


 他にも、鹿頭とロブスターが合体したような茶色の翼を持つモンスター。

 巨大な蛙モンスター。

 翼を生やす卵石のモンスター。

 相棒と違うが豹の姿に、首に無数の蛇と胴体に翼を持つモンスター。


 等のモンスターを、次々に燃やしていった。


 さすがは神獣ロロディーヌ。


「ひゅ~、さすがは神獣ロロちゃん」

「はい……炎は怖かったです」

「精霊様、まだまだ敵はいます!」


 びびったヘルメに注意したのはピュリン。

 ピュリンが指摘したように、


 腐った血肉の胴体と骨の翼を持つモンスター。

 ゲンダル原生人と似たアルビノ系のモンスター。

 胞子を撒き散らすピグマ系モンスター。


 等のモンスターが現れている。


 ピグマ系の種類は多種多様。

 あのピグマ系は、ラファエルが、過去……。

 ピグマ同士で争う中で、ラファエルとだけ意思疎通が可能な貴重な可愛いピグマを助けていた。

 魂王の額縁に格納したと聞いている。

 その魂王の額縁の中にいつか入って、中で世話をしている女性に会ってみたい。


 と、考えている間にも――。

 

 樹海に登場する数多くのモンスターを倒す皆。

 <無影歩>を解除。


 夢中になって氷の礫を繰り出しているヘルメが俺に気付いた。

 右手の氷の繭を霧散させつつ振り返る。


 常闇の水精霊ヘルメの笑みが美しい。

 一瞬で、その水の女神っぽい満面の笑顔に魅了される。


「――閣下」

「おう」

「にゃ~」


 黒豹ロロは俺に頭部を寄せてくる。

 太股と腰に両前脚を乗せて、甘えてきた。

 その黒豹ロロを持ち上げて抱きしめた。


 黒猫と違って、体重と筋肉がある黒豹ロロだから重い。重いが、柔らかさも倍増だ。

 黒豹ロロの胸元の黒毛を堪能してから離した。


「シュウヤ様!」

「よう、皆」


 ピュリンも見事だ。

 巨大な蛙を骨針連射で倒した。


「あ、シュウヤ♪ 敵の数は多い」


 弓を構えながら発言したのは、ベリーズだ。

 鋭い連射スキルで、遠くの葉の体を持つモンスターを射貫く。

 相棒が、ベリーズの弓術を褒めるように尻尾で、お尻を叩いた。


 ベリーズは「きゃっ」と可愛い声を出して矢を違う方向に射出。


 ミスをした。


「ふふ」


 と、ヘルメが喜ぶ。

 顔に『わたしも水をお尻にぴゅっとしたい』といったようなニュアンスがあることは分かる。

 しかし、そんな表情は一瞬で終了。

 表情をキリリと切り替えたヘルメは、他のモンスター目掛けて氷礫の魔法を繰り出していく。


 続いて――。


「ご主人様に貢献する!」


 翡翠の蛇弓バジュラから光線の矢を放ったヴィーネ。

 金色の糸が巻く銀色のポニーテールが綺麗だ。


 ヴィーネは、ガーゴイルに続いて、大きな熊のモンスターを射貫いていた。


「凄い弓術! わたしも<シャルアーンの顎>!」


 ソプラのクロスボウから放たれた魔矢の連射。

 砦に近付く葉っぱ植物お化け的なモンスターを連続的に射貫く。


 あのモンスターは、ゴルディーバの里の周囲でも見たことがある。

 続いてレネが、


「<絶影矢>は使わず<遠目>と……ホーンデッドヘルの<兎魔矢>!」


 俺とレザライサを射貫いたスナイパーの一撃だ。

 巨大なガーゴイルだったが頭部が破壊されると、魔石のような物を生み出して、樹海の地に落下していく。その魔石を巡って、地上のハイエナっぽいモンスターが群がった。

 その群がったモンスターに、俺も<光条の鎖槍シャインチェーンランス>を喰らわせていくが、如何せん、光に耐性があって、魔法に強いモンスターもいる。


 数も多いし素材としては高級品だが厄介だ。

 隘路でモンスターといったリスクが多いが、果樹園を含めた樹海は非常に恵まれた土地。オセベリアの大貴族と各地の大商人が樹海の地を狙う理由の一つ。

 

 樹海とハイム川近辺は豊かだ。

 ホルカーバムで有名な魔鋼の大蜻蛉アロムヤンマが湧くハイム川の対岸からベンラック村とバルドーク山にかけての広い領土を別名のコーンベルトと呼ぶ貴族もいると、メルとヴィーネが血文字で語り合う中にあった。

 過去、聖ギルド連盟との話し合いでは竜魔騎兵団の砦が穀倉地帯にあったことは覚えている。ペルネーテの東のベンラック村の周囲にも穀倉地帯が多い。

 南東の八支流とアルゼの街の樹海も穀倉地帯。

 勿論、隘路が散らばっているから、ただの穀倉地帯ではない部分がほとんどだとは思うが。樹海を俯瞰しながら考えていると――。


「――わたしも負けていられない!」


 <血魔力>を放出中のベリーズが気合いを発した。

 オーラ的な<血魔力>を纏う魔矢が左方向を飛翔する。


 毒の血肉を撒き散らす空飛ぶ凶悪ゾンビを射貫く。

 ベリーズの魔矢は強烈だ。

 鏃の素材は聞いていないが、光魔ルシヴァルの<血魔力>の威力を物語るように、魔矢を喰らった凶悪ゾンビは青白い閃光を放ち爆発。


 毒の血肉も消えるから浄化している印象だ。

 あれは魔界系の敵か。


 ――もろに闇属性が強い相手の敵だと案外楽なんだよなぁ。

 ――俺も続こう。

 ――<血魔力>を込めた《氷矢フリーズアロー》を混ぜて飛ばす。

 その《氷矢フリーズアロー》を喰らった凶悪ゾンビは体から青白い閃光を発して爆ぜた。聖槍アロステを召喚。

 盛大に<血魔力>を込めた聖槍アロステで、<投擲>を実行。


 <投擲>の聖槍アロステ十字の矛が、飛翔する凶悪ゾンビを、貫いて、貫いて、貫きまくる――と、青白い閃光を空に生む。

 即座に<超能力精神サイキックマインド>で引き戻した。


 くるくる回って戻る聖槍アロステ。


「シュウヤ、その技って何? 前は鎖で引き戻していたけど」

「あぁ、<超能力精神サイキックマインド>だ。超能力で物体を掴める。<導魔術>とは少し異なるぎ魔法技術と思えば分かりやすい。選ばれしフォド・ワン銀河騎士・ガトランスの説明は血文字で送っただろう」

「実際に見ると分かり難い……エヴァさんと似た力だって聞いていたけど」

「そうだな、空間を五次元的な感覚で掴み弾く感覚か」


 頷くベリーズは、額に疑問符を浮かべている。元エルフなだけに長耳。

 そのまま連続的に<血魔力>を込めた魔矢を放つ。

 どうしても、ベリーズ・マフォンの胸元を見てしまう。

 グラマラスな巨乳さんを押さえるような複合弓。

 勿論、鎧が巨乳を押さえてはいるが……魔矢を射出するたびに、巨乳さんが揺れる。

 また揺れた、


「よく分からないけど、サイキックマインドは強力な遠隔攻撃ってことね、あ、右の斜めに敵反応! ヘカトレイル方面から飛来する妖鳥よ!」


 皆に警戒を促すベリーズ。

 右へと向けた弓から魔矢を放つ。


 飛来するハーピーの妖鳥と小型のガーゴイルを射貫いた。

 魔霧の渦森に多いタイプと、樹海に多いタイプと、半々。

 ハーピーも首が太いタイプ。

 足がないタイプ。

 足があるタイプがある。


 グランドハーピーって名前の奴も存在。

 足長妖鳥だ。

 足そのものと足の爪先が高級素材。

 高値で販売できるとかで、サイデイルでは要回収品の一つだったりする。

 だが、今は倒すことに集中。


 その足長妖鳥グランドハーピーの一体が、ヘルメの氷魔法を全身に喰らってカチンコチンになって落下。


「わたしも」

「わたしもです!」


 フーも岩の塊で、胞子を撒き散らすピグマを潰す。

 ピュリンは俺の背後。


 遠くの空、サイデイルの本拠側に侵入しようとしていた巨大な妖鳥。

 ――魔素をあまり外に発していないステルス型かよ。

 ――しまった。と思ったが、杞憂だ。


 ステルス型の巨大な妖鳥の頭部に骨針が連続して突き刺さった。

 ヘッドショットの連発。

 巨大な妖鳥は無傷にも見えるが、意識を失ったように落下。


 やや遅れて――。

 闇鯨ロターゼが真下のサイデイルに向けて急降下。

 その落下する巨大な妖鳥目掛けて――。


 闇鯨ロターゼが頭部の魔印から強烈なレーザー砲の攻撃を繰り出す。


 もう落下する妖鳥は死んでいると思うが、巨大な妖鳥を燃やした。

 そんなレザー砲的な攻撃を放ったロターゼの近くには、ルマルディとアルルカンの把神書が控えている。


 シェイルとジョディも近くだ。

 二人は警戒を強めていた。


 <光魔ノ蝶徒>の二人は俺に気付く。


『――こっちは大丈夫です♪』


 そう意思を込めていると分かるように手を振った。


 樹海という混沌と緑と隘路が多い場所でも、すぐに俺を見つける二人の視力と魔力探知は……。

 やはり、ずば抜けた能力を持つ二人だ。


 片手を上げて<光魔ノ蝶徒>の二人に応えた。

 シェイルとジョディは踊りながら、サージュをクロス。

 はは、いつか前にも見せていた踊りだ。


 ――しかし、ピュリンはよく見えている。


「皆、さすがです」

「ありがとう、ヴィーネさんも素晴らしい技術」

「わたしも貢献します!」

「ぷゆゆ~」


 すると、ぷゆゆの声を打ち消すようなエネルギー音。

 ここはモビルスーツが行き交う戦場か!?

 と、その音のほうを見た――。

 

 それは膝撃ち姿勢ニーリングスタイルの汎用戦闘型アクセルマギナからだ。

 ブレーストニーリングのまま――。

 アサルトライフル風の特殊銃から迸るエネルギーの魔弾。

 

 血肉を有した骨翼のモンスターはそのエネルギー魔弾を喰らいまくる。

 前面投影面積を小さくしながらパイスライス。

 右の岩から出た障害物を利用しつつ銃を動かす汎用戦闘型アクセルマギナは渋い。

 他の血肉のある骨翼モンスターも蜂の巣と化した。

 ぷゆゆは、アクセルマギナの射線を理解しているのか?

 アクセルマギナの肩をぽんと叩く。

 着ぐるみ特殊部隊員的な、ぷゆゆは、CQBポジションを分かっているような仕種で、ロースタイルに移行したアクセルマギナの横斜め上から、杖を出して、その杖の先から幻想的な花の形をした不思議魔法を繰り出す。


 花魔法を喰らった小さいガーゴイルは頭部を傾げて、眠ったまま墜落した。


 ぷゆゆの可愛くも渋さのある動きに面食らうが――。

 俺も《氷矢フリーズアロー》を連射。

 <光条の鎖槍シャインチェーンランス>も出した。


 次々と遠距離から小さいガーゴイルを倒した。

 すると、皆の魔法が効かないスライム状のモンスターが体を大きくしながら周囲のモンスターの死骸を食べつつ大きくなってきた。


 ペルネーテの迷宮の時に遭遇した青蜜胃無スライムと似ている。

 あ、違うのか。表面と内部に銀色と金色が混ざる?


「あの未知の青蜜胃無スライムは、俺が、倒すとしよう」

「ご主人様、樹海でも極めて珍しいモンスター。王国美食会でも注目されている青蜜胃無スライムの新種。名は金蜜胃無スライム銀蜜胃無スライムとも……黄金の青蜜胃無スライムと呼ばれることもある食材モンスターです。魔法やあらゆるモノを体内に取り込むことで、どんどん強くなるタイプです」


 ヴィーネが教えてくれた。


「分かった、食材にもなるのか」


 右手に魔槍杖バルドークを召喚。


「ペルンペーン型クリーチャーと認識。酸に部類する攻撃を予測します」

 と汎用戦闘型アクセルマギナが指摘。

 右腕の戦闘型デバイスからアクセルマギナと同じ質の声が響く。

 『Bluetooth』のような無線技術の応用でスピーカー代わりになるのか。

 偉いぞ、右腕の戦闘型デバイスアクセルマギナ

「おう」

 直ぐに<血液加速ブラッディアクセル>。

 前に出た――。

「ルッシー退け」

 直ぐに<霊血の秘樹兵>の兵士たちが左右に散ると、青蜜胃無スライムは銀色の液状の弾で視界を埋め尽くす勢いで飛来してくる。

『シュレ頼む――』

『主――』

 左手の掌に刻まれている<シュレゴス・ロードの魔印>から出た桃色の蛸足魔力が前方に上下左右に拡大し、展開。次々と桃色の蛸足魔力に銀の弾が衝突していく。

 桃色の蛸足魔力の表面は激しく波打ちシュポ、シュポ、シュポポポと変わった音を立てては凹凸を無数に作ると銀色の液体の弾が蛸の内部に取り込む。

 しまいには、ゴクンと音が響かせた――。

 銀色の弾の殆どを呑み込んだ桃色蛸足シュレゴス・ロードは閃光を発する。

「ングゥゥィィ! ウマソウ、ゾォイ!」

 ハルホンクが叫ぶが無視。

『散れ』

『承知――』

 シュレの桃色蛸足の魔力が左手から消失。

 微かだが、体内魔力を巡る速度が加速した感覚を受けた。

 シュレが取り込んだ成果か――俺は前傾姿勢で前進。

 右手の魔槍杖バルドークに魔力を込めつつ――。

 魔槍杖バルドークを振るう。<魔狂吼閃>を発動――。


 魔槍杖バルドークから迸る魑魅魍魎の魔力嵐。

 銀の筋染みた乱気流が増えて魔竜王の魂のような存在が悲鳴的な咆哮を上げていた。

 その前方の空間を喰らうような魑魅魍魎の一閃が黄金の青蜜胃無スライムを呑み込んだ。

 黄金の青蜜胃無スライムは消失。

 樹と岩が消えて血の池に水辺が新しくできていた。

 <魔狂吼閃>は凄い威力……。

 素材の回収は無理か? が、黄金色に輝く青蜜胃無スライムの残骸がある。

 魑魅魍魎から守るように銀色の液体が包むキャンドルか? いい匂いがする。食材か不明だがキャンドルには細かな装飾もあった。香りのスティックか、オーラを発する魔法アイテムか。


 戦闘型デバイスのアイテムボックスへと即座に回収――。

 アイテム名はnew:武威蜜祈りの蝋燭×1

 戦闘型デバイスの周囲にアイコンとしてアイテム類が立体的に浮かぶ。

 直ぐにアイテムの名前が分かるし便利だ。

 アイコン化したアイテム類は自然と解像度の高さを誇るように収縮。

 その時計を見るような、僅かな間に――空の敵も眷属たちの魔法と魔矢で少なくなった。

 サイデイルの西の戦場も静かになる。

 ……蜘蛛娘アキの迷宮はどうなっているんだろう。

 と、少し見渡したが、浅い湖と蜘蛛の巣がある樹の森。

 オークの死体と、それを喰らう樹海の肉食獣と虫たちの群れがいるだけだ。

 魔槍杖バルドークを仕舞いつつ後方に戻った。


「いつもの樹海の空に近い」

「はい♪」

「大勝利! あ、まだ下にオークたちの残党が!」

「あれはわたしが――」


 <霊血の秘樹兵>の樹木兵を倒したオークの兵隊たちは強そうだ。

 が、フーの強烈な土魔法に反応が出来ず。


 二つの魔法の杖から出た岩の礫。


 バストラルの頬とドッドゲルマの鋼。

 それらの魔法の杖から出た、岩の礫がオーク軍の残党たちの体を貫いた。


 フーの<血魔力>が加わった岩乱舞が炸裂。

 オークを倒しきった。


 すると、サラの血文字が浮かぶ。


『――シュウヤ、わたしはジュカさんとデルハウトさんと一緒に樹怪王の軍勢を追う』

『分かった。サザーは大丈夫なんだな?』

『ご主人様! 姉たちを守るのはボクの仕事!』

『そうだな、悪かった』

『ううん、とんでもない! ママニ隊長と合流しました!』


 サザーもママニも活躍していることだろう。

 そうして……ベンラック村の方面から大量に流入してきた樹怪王の軍勢と地下の穴から出現したオークの軍隊を撃破したと報告が入った。


 砦近くに凱旋するように戻ってきたソロボ&クエマに抱きつかれたが……ソロボはマッチョマンだ。

 遠慮気味にゆっくりと離れた。


「シュウヤ様、ここはわたしたちに任せて、ご帰還ください」


 クエマにそう促された。

 <従者長>としてのプライドだろう。


「分かった。ヘルメと相棒。俺たちはサイデイルの家に帰還しよう」

「にゃ」

「はい、では、皆さん!」

「あるじ~、ルッシーもおうちにかえる!」

「了解」

「うん!」


 ルッシーは色違いの双眸を煌めかせた。

 植物の大きな葉を両手から出すと、血を足下から出して飛翔するように跳ぶ。空飛ぶ血の妖精ルッシーを荒鷹ヒューイが出迎えていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る