六百七十一話 ムーとの絆と風槍流の教え

 何日か過ぎた。

 ムーに風槍流を教え込んでいく。

 武威蜜祈りの蝋燭を使用しているお陰か、ムーの動きがいい。


「そのまま腰を意識して、槍を持つ右手を前に押し出すんだ」

「――っ」

「今のは溜めが甘い。もう一度、魔力操作と同時に筋肉を意識しろ」

「……っ」

「なんだ、その顔は。甘えるな」

「――っ」

「そうだ、腰を沈めて」


 お? ムーの動きが洗練されてきた。

 自然と、義手も義足も関係なく体の力みが消える。

 魔力操作もスムーズ。

 腰を低く落とし、大地を支える足。

 俯瞰で見れば八の字の形になった両脚だろう。


 ……半身の姿勢から、前傾姿勢で突進――。

 相対した相手を遠方から、縦に踏み切るような踏み込みだ。

 

 ――ムーの丹田から巡る魔力の質がいい。

 ――ムーの意思が宿ったかのような魔力が腕から樹槍へと移る。

 ――風を孕んだ樹槍の突きを繰り出した。

 ――<刺突>だ、素晴らしい。

 

 今まで見たムーの訓練の中で最高の<刺突>か。

 ムーは、


「――んっ」


 レア声を上げて自分自身の右腕と樹槍を見て驚いている。

 それは『今の<刺突>を、わたしが出したの?』といった自分自身が出した鋭い<刺突>に驚いている顔付きだ。

 

「もしかして、スキルの<刺突>を得たか」

「――っ」


 髪の毛を揺らして、大きく頷くムー。

 あはは、嬉しそうに笑う顔。

 いい表情だ。

 

 何回も頷いて樹槍を持ち上げている。 

 

 よほど嬉しいらしい、ムーは涙も流す。


 そのムーは俺を見ると、ハッとした表情を浮かべてから――。

 義手ではない、もう片方の掌でパンパンと顔を叩く。


 喜び泣いていた表情を引き締めた。

 そして……つたない動きで……。


 『ラ・ケラーダ』の仕種を取る。


 ……あはは、泣かせやがる、ムーめ……。

 アキレス師匠もこんな気持ちだったのか。


 俺も『ラ・ケラーダ』の想いを胸元に描く。


「ひょっとして槍のスキルは初めてか?」

「――んっ」


 ムーはレア声を出して、強く頷く。 


「そうか。<刺突>の獲得、おめでとう。ムー、それが風槍流の<刺突>だ。素直に俺も嬉しく思う」

「――っ」


 はは、<刺突>で空を穿つ。

 

 樹槍の動きで分かる。

 もっと槍武術を、風槍流を学びたいか。


「焦ることはないさ、ゆっくり学んでいけばいい」 

「……っ」


 ムーは、頷いてから、はにかむ。

 俺も微笑んでから頷いた。


「今は、その喜びを噛みしめろ。これからも修練あるのみだ」

「――っ」


 ムーは風槍流の構えから<刺突>を繰り出した。


「ムー。その初歩の<刺突>だが、偉大な基礎の<刺突>でもある」

「……っ」


 ムーは『そうなの?』という顔付きだ。


「……少し聞くか? 風槍流について」


 髪の毛を揺らして頷くムー。


「……んっ」


 レアな声で気持ちを顕わにした。

 前髪が揺れる。

 ムーの普段、前髪で隠れた片目が覗く。

 

 その視線は強く可愛い。

 

 俺はアキレス師匠のことを想起しつつ、

 

「……分かった。『一の槍』の風槍流には〝刺突に始まり、刺突で終わる〟といった言葉がある」

「……っ」


 頷くムー。

 前に言ったからな。 

 ……そこから師匠の言葉は、色々変化していたことも話すか。


「アキレス師匠は、他にも『刺突に始まり、刺突に終わる』と、僅かに言葉を変えて<刺突>を放つこともあった。<刺突>の妙を教えるようにな」


 ムーは微かに頭部を傾げる。

 基礎の<刺突>は普遍でもあるが変化することも意味すると、俺は受け取っていた<刺突>の言葉だが、まぁムーなりに受け取ってくれたらいい。


「何事にも変化が起こる。一つに拘るなという意味もあると俺なりに受け取った。『一の槍』の風槍流の教えだ」

「……っ」


 ムーは樹槍を掲げた。

 俺も難しくて、まだ理解したと思っていないが、アキレス師匠の言葉をムーにも伝えよう……。


「そして、アキレス師匠は……『風槍一如、槍合わせ五十二の型、神槍伝開悟、風槍の武と秘の法を以て悟りを得たり』とも、教えてくれた。『しかし、真の天下無敵の神技は『一の槍』ではない、己の『心』の『独創』こそが肝要である。相手の『技と場』の働きがあってこその風槍流と心得よ……』とも語っていたことがあった……」


 ムーは『分からない』と表情で気持ちを顕わにする。

 今はそれでいい。

 俺は頷いて、


「……<槍組手>も合わせて、豪槍流、王槍流もあるし、色々武術があることを、合わせての言葉だと思う。ま、解釈はそれぞれにあると思うからなんとも言えないが……あと『気先の間合い』も教わった。他にも、風槍流内観法に関する言葉は様々にある。要するに風槍流は、とても奥が深いと理解してくれればいい」

「……っ」

 

 ムーは頷くと義手ではない片方の手を胸元に運ぶ。

 笑顔の『ラ・ケラーダ』の挨拶で応えてくれた。


 俺も『ラ・ケラーダ』の想いを、目の前のムーに送る。

 ……と、同時にハンドサインの向きを青空に――。


 ゴルディーバの里にいるだろう家族たちに送った。


 ムーは俺に釣られて空を見る。

 蒼い鳥と荒鷹ヒューイが飛翔する。

 シェイルとジョディはこの場にいない。

 

 彼女たちは、


『あなた様、見ていてください』

『サイデイルの平和は』

『『わたしたちが守ります!』』

『『うん』』

『うふふ』

『ね? ジョディ』

『うん、シェイル♪』

『ふふ』

『ふふ』


 二人はそう発言してから樹海の警邏に向かった。

 おもしろオカシイといった不真面目な態度にも見えたが、違う。


 二人の表情には厳しさもあった。


 <光魔ノ蝶徒>たちは、ある種の目覚めを経験?

 サイデイルの守り手として覚醒したような印象を受けた。


 光魔騎士のデルハウトとシェヘリア。

 <光魔ノ蝶徒>のジョディとシェイル。


 この四人は強い。

 血獣隊&紅虎の嵐&ソロボ&クエマの<従者長>軍団も強い。

 ハンカイもいる。

 バーレンティンも激強い。

 それぞれが将軍であり将校だ。


 皆、狼将&敵のボスクラスとタイマンも余裕。

 サイデイルには一騎当千のメンバーが集まりつつある。

 そして、蜂式光魔ノ具冠を獲得した<筆頭従者長選ばれし眷属>の女王キッシュは<血道第二・開門>の<光魔ノ血蜂>を獲得した。

 ルシヴァル一門と彼女のハーデルレンデ氏族の力が融合した形。

 サイデイルを守るために、キッシュは進化した。

 

 民を守ろうと、弱い者を守ろうとがんばる騎士様がキッシュ。

 偉大な君主だ。

 サイデイルは安泰だ。


 その分……責任と苦労があるが。

 女王キッシュなら大丈夫だろう。


 と、ムーを見た。


「……んじゃ、休憩しようか」


 頷くムー。


「……っ」


 息を吐くと、ルシヴァルの紋章樹の神殿に向かう。

 そこには、ルシヴァルの紋章樹を眺めている巨大なネームスがいた。

 

 俺と相棒が近寄ると、


「わたしは、ネームス」

「よ、ネームス」

「……っ」


 ネームスの肩にひょいっと軽い機動で飛び乗るムー。

 慣れた感じだ。

 そこに蒼い鳥がムーとネームスの下に飛来。

 蒼い鳥以外にも、色取り取りの鳥がネームスの肩と胸元の樹木に入っていく。


 ネームスは鳥の家に……。

 モガはいない。


「ムーとネームスは仲が良い?」

「わたしは、ネームス」

「……っ」

 

 頷くムー。

 ネームスは、ゆったりとした動作と瞬きで、肯定する。

 鳥たちの声がネームスの声のように音を奏でた。



 ◇◇◇◇



 次の日。


 庭に、体育座りとなった、ムー。

 百目血鬼と閃光のミレイヴァルにマルアと沙もいる。

 黒沸騎士ゼメタス、赤沸騎士アドモスは仁王立ち。

 

「模擬戦だ!」


 ムーも交ざった模擬戦になった。


 中々の模擬戦のあとに……。

 イモリザは黄金芋虫ゴールドセキュリオンに変身。


「ピュイピュイ♪」


 芋虫としての鳴き声でムーに挨拶をする。

 ムーは樹槍で、黄金の粉を突く。


「……っ」

「ふふ、ムーちゃん。昔も、よく黄金の粉を突いていました」


 と、ヘルメが指摘。


「ピュイピュイ♪」


 調子をよくしたイモリザ。

 ピュリンとツアンの人としての姿を出してムーの訓練の相手をしていく。


「旦那の弟子! 俺の元教会騎士としての実力を――」

「……っ」


 ツアンは手加減せずに、光るククリ刃で攻撃。

 容赦ない。

 ムーは防戦一方となった。

 ま、俺の眷属の<光邪ノ使徒>だ。

 大本は邪神の眷属で、ツアンは闇ギルド員であって教会騎士でもあって、ゴルディクス大砂漠を越えてくるような冒険者の面もある。

 経験の差は厳しい、当然か。


 一方、ピュリンは違った。

 片腕を骨の剣のようなギザギザしたモノに変えたが、接近戦は不得意だった。


「きゃ」


 今も転ばされている。

 ムーの樹槍に圧倒された。


 イモリザに戻ると、イモリザが圧倒。

 続いて、黄金芋虫ゴールドセキュリオンに戻る。


 すると、胴体からデフォルメの頭部を作り出した。

 

 更にイモリザの姿に変身。

 銀髪で、松茸風タケノコを象る。


 ムーは「……っっ」と荒い息を吐き出して笑った。

 そのイモリザは、


「ふふ、次はムーちゃんも見たことがない技を!」

 

 イモリザは黄金芋虫ゴールドセキュリオンに戻ると、ツアンの顔を作る。ムーはびっくりして逃げ出した。

 

 ツアンは不満そうな表情を浮かべて、俺を見た。


「我慢しろ」


 と呟いて対処。

 ムーは必死なだけに面白かった。 

 

 続いて、左目にヘルメを戻す。

 <仙丹法・鯰想>を繰り出した。


「……っ」


 ムーを驚かせる。

 <荒鷹ノ空具>でムーに翼を着けて飛翔させて逃がしてやった。

 飛翔するムーは凄く喜んでくれた。

 

 次は王牌十字槍ヴェクサードを出して演武。

 <怪蟲槍武術の心得>を意識した直後。


 怪人ヴェクサードの幻影を見て、逃げ出すムー。

 黒猫ロロも何故か一緒に逃げた。


 そんな逃げたムーと黒猫ロロを王牌十字槍ヴェクサードを仕舞いながら<無影歩>を使って追い掛けた。


 ムーは隠れんぼのつもりなのか?

 ルシヴァルの紋章樹の巨大な根の下に隠れるムー。


 きょろきょろと頭部を振るいつつ見上げる相棒に向けて……。

 『しー』と『静かに』と可愛く口元に指を置く。


 黒猫ロロもムーの指示に従った。

 エジプト座りのまま大人しくする。


「……っ」


 そのムーに忍び寄った。

 背後から、突然<無影歩>を解除しつつ「まだまだ隠れる技術は甘い!」と、声をかけたら驚いて泣いてしまったムー。


 ムーを慰めてやると……。

 飛翔していたサラテンの沙が実体化しながら飛来。


 機嫌を直していたムーに『槍使いより、神剣使いになるのだ!』と美女スタイルのまま力説するが……ムーにスルーされている。


 が実体化した沙はムーの片手を握る。


「こっちに来るのだ、弟子よ」

「……っ」


 と、半ば強引に訓練場の中央に移動させられたムー。

 相棒と一緒に俺もついていった。


「血の妖精よ! 用意するのだ!」

「はーい」

「ふむ! みておれ! ムー」

「……っ」


 訝しむムー。

 沙は、自信有り気に笑う。

 ムーは警戒して樹槍を構えた。


 沙は<御剣導技>を披露。

 突進して<霊血の秘樹兵>をぶちぬいた。


 実体化した沙は、ゆっくりとした動作から絶妙な斬り技を披露。

 続けて、竹を切るように逆袈裟斬りで神剣を振るう。


 羅と貂の衣装を加えた沙の衣装は美しい武者っぽい。

 沙の剣術機動を見たムーは「……んっ」と興奮。


 その場で跳躍を繰り返すと、沙に背後から抱きついていた。

 沙はビクッと体を揺らしてから、振り返る。

 

 なんとも言えない表情だ。

 そのまま、


「……うひゃ、妾の子になるのだな? 良い子だ」


 変な喋りで笑うと、その面白い笑顔のまま発言。

 

 その言葉を聞いたムーは頭部を振るって逃げた。

 沙は肩を揺らし、


「うぅ、妾の新しい弟子が……」


 と、悲しげな顔を作ると神剣の中に消失。

 イターシャの慰める声が響く。


 <神剣・三叉法具サラテン>はイターシャの声を響かせながら宙空に漂うと――。


 荒鷹ヒューイと蒼い鳥に挨拶するように旋回。

 柄から管狐が出現。イターシャだ。

 蒼い鳥に何かを囁くイターシャ。

 イターシャごと怪しい魔力を発した<神剣・三叉法具サラテン>は、その管狐の姿のイターシャを吸い込みつつ旋回――。


 宙空でキラリと光らせた切っ先を俺に差し向ける。

 そのまま、俺の左手の掌に突進する<神剣・三叉法具サラテン>。


 掌に戻る間に少し恐怖を味わう。

 が、無事に運命線の傷的なマークの中に戻ってくれた。

 神剣を仕舞うより、荒鷹ヒューイを肩に呼ぶほうが怖いのは何故だ。


 戻ってきたムーは、俺に樹槍を伸ばす。


「訓練か」

「……っ」


 頷くムー。

 よし――ルシヴァルの紋章樹が見守る中で訓練を再開。

 

 <邪王の樹>を用いて狭い丸太を造る。

 ルッシーに蔦を操作させて、丸太の端を繋ぐ。

 巨大ブランコを俄に造った。


「ムー、この上に乗れ」

「――っ」


 訓練を開始。

 モデルは【修練道】。

 バランス訓練に使う〝風薙ぎ〟的な応用だ。


 続いて、直に相対した訓練に移行。

 が、多少きつめの訓練をしてしまった。


「……っ」

「立てるか?」


 転んだ弟子のムーは糸を義足から出して器用に立つ。

 義手から糸だけでなく、紙人形が浮いていた。

 キサラが前にムーに施していた<飛式>だ。


 特殊な紙人形か。

 その紙人形が自然とムーの影と重なると消える。


「ムー、それは?」

「……っ」


 ムーは頭部を振った。

 飛式の紙人形に気付いていないのか。

 キサラはわざとムーに気付かせないように見守っていたのかな。


 キサラは厳しいが、優しくもある。

 そういえば、ゴルゴンチュラとの戦いにも、使っていた。


 俺がキサラを思い出していると、


「――っ」


 ムーは生意気にも、糸を使って樹槍の不意打ちを繰り出す。

 ちゃんと、歩法の『片切り羽根』を用いている。

 ――魔闘術の技術の成長も著しい。

 ――俺よりもキサラと一緒にいる時間が長かったムーだ。

 樹槍を雷式ラ・ドオラで受け流し、右足で下段蹴りのフェイクから左足の出足払いでムーを転けさせた。

 

「――っ」


 悔しそうに片手で地面を叩くムー。

 ムーは義足から出た魔糸を使って素早く立ち上がる。


 突進してきた。

 ――魔手太陰肺経の技術は俺より高度かもな……。

 今度は『片折り棒』から『風研ぎ』か――。

 魔闘術も熟しているムーは、風槍流の動きも次々とマスターする。

 

 槍使いムーの原型は出来上がりつつあった。


 しかし、<槍組手>の素の格闘技術の発展は望めない。

 が、ムーの義手と義足から出ているように見える糸は使える。

 ムーの体は魔界八賢師のセデルグオ・セイル製の秘術書と融合した。


 義足と義手に糸を活かした格闘技術は、今後徐々に体が成長するか不明だが、高まると判断。


 ムー独自の<槍組手>に期待だ。

 ――また転倒させたところで、

 

「糸を使う動きはいい。が、槍はまだまだだな。さ、続けようか」

「……っ」

「いい顔だ――」



◇◇◇◇



 その日の夜。

 リビングで、ムーを含めた皆に……。

 

 アクセルマギナとガードナーマリオルスから宇宙そらに関して講義を受けてもらった。


 更に『ドラゴ・リリック』を展開。


 皆に、立体的な映像世界を見せてあげた。

 フォド・ワン・マインド・フィフィスエレメントから出た魔線に、ムーは糸を伸ばす。


 『この『ドラゴ・リリック』の中でなんで戦っているの!!』と一生懸命に俺に聞いてくるように荒い息を吐くムーは可愛かった。


 <超能力精神サイキックマインド>と<銀河騎士の絆>も説明。

 が、ムーは『ドラゴ・リリック』を見るのに夢中だったから、たぶん聞いていないだろう。


 シェイルとアッリのほうがよく聞いてくれた。

 モガ&ネームスは理解できていない。


 シェイルは机の上で謎の体育座りだ。

 パンティはジョディからもらったと話していた。


 白色のパンティを穿いている。

 が、パンティ見学委員会は自重した。


 サナさん&ヒナさんは、


「他の知的生命体が作った宇宙船は見たい!」

「うん、フォド・ワン・ユニオンAFVは凄かった。地球の文明よりも高度です」

「はい、それにしても銀河騎士マスターと銀河騎士マスター評議会に銀河帝国とは……」

「そうね、多次元を含めると果てがない」

「この惑星にさえ勢力は数多あるというのに……」


 サナさん&ヒナさんはすぐに宇宙を理解した。

 俺と同じぐらいの科学力を有した地球出身だから、当然か。


 その二人に向けて、


「ま、世界は大きくても俺たちは俺たちだ。リデルの作るリンゴパイが美味しいことと同じ。『待つ間が花』とも言うし、案外、宇宙もこんなモノなのか? と思う日もきっとくるだろ」

「ふふ、シュウヤさんらしい」

「はい、シュウヤさんが、一つの異世界を持っているように見えます」


 眼鏡が似合うヒナさんに言われた。


「なんで俺が異世界なんだよ、槍使いだっての」


 すかさずヘルメが、


「……ふふ。槍使いですが、閣下は光魔ルシヴァルの神聖皇帝! または大神聖ルシヴァル帝国皇帝に、いや、神聖ルシヴァル帝国の皇帝、ううん、魔皇帝です!」

「ヘルメさん。どれも違う。百歩譲ったとして、一つに絞ろうか」

「うぅ、悩みどころです」


 そのタイミングで笑いが起きた。

 続いて――偵察用ドローンも展開。


 ドローンが得た遠い樹海と城下町の映像を――。

 ガードナーマリオルスが目の前にリアルタイムに投影していく。


 しかし、操作に失敗。

 家屋に一つのドローンがぶつかって壊れた。

 映像は途切れたが、他の偵察用ドローンは生きている。


 その生々しい映像を皆、凝視。


「これ、今の時間ですよね」

「そうだ」

「シュウヤさんが操作するラジコンみたいな機械、ガードナーマリオルスの中身が気になります、機械のようですが、中には、小さいヌコ星人たちが暮らす秘境次元という展開に期待です」

「ははは、可愛い発想。でも、ナパーム統合軍惑星同盟とは凄い技術力です」

「シュウヤ、これがあれば樹海の偵察が楽になる!」


 モガも興奮している。

 城下町で活動するハンカイとママニに血獣隊の様子が映った。


「ハンカイだ」

「かっけぇ、あの斧の一撃は凄かったんだ」


 鼻毛が凄いとは言えない。

 

「……っ」


 そこにママニとフーが酒を片手にハンカイに話しかけた。


「ママニさんとフーさんも」

「わたしは、ネームス!!」


 ハンカイの両腕の魔宝石もちゃんと映る。

 皆――驚愕。

 俺は、ムーが色々と夢中になっている隙に……。


 ムーの義手と義足を外す。

 義手と義足のメンテナンス。

 <破邪霊樹ノ尾>を意識。

 前にもメンテナンスを施したが、削れた部分を発見。


 補修し、ムーがより動きやすくなるように考えながら……。


 木工を意識。

 

 アキレス師匠のような木工スキルは獲得できていないが……。

 器用さなら自信がある。


 メンテナンスと補修に改良はすぐにできた。

 新しい義手と義足をムーにつける前に……。

 

 片手と片足の根の部分を調べるか。


 肉が擦れて腫れていないかと……。


 ガードナーマリオルスと偵察用ドローンの連携したリアルタイム映像に夢中なムーを抱いて確認。


 軽い。


「……っ」


 ムーはくすぐったいのか、笑って体を動かすが、別段いやがっていない。


 片腕と片足の根元は大丈夫だった。

 片腕と片足の不思議な魔糸を出す三角錐も変わらず。


「ムーと融合した魔界八賢師のセデルグオ・セイル製の秘術書ですね」

「そうだ、明らかにムーは普通の人族ではない」

「はい」


 ヴィーネもムーを見て頷く。


「ホフマンたちは様々な能力を持つ者たちを集めて実験を……」

「血か骨か脊髄か、またはモンスターか眷属造りの実験だろう」


 この会話を聞いていた皆。

 ガードナーマリオルスの映像を見るのを止めた。

 眼鏡が似合うヒナさんが、


「……恐ろしいですが、この世で強く生きるための……」

「倫理的な問題大ありよ。わたしは反対」


 サナさんがそう発言。

 ヴィーネが、


「マグルの甘い感覚、わたしは好きだ。が、その倫理も一方通行の思い込みでしかないこともある」

「え、は、はい」


 ダークエルフの争い競い合う文化も『差』が根本。

 厳しい環境を生き抜くための生きる知恵だ。


「地下社会の文化……はい、広い視野で見れば……でも、わたしには殺し合う文化は分からない。恐怖でしかない。やはり、困っている人、救いを求める人は助けたい……」


 そうだな。それでいいんだ。

 ヒナさんは、


「わたしも反対は反対です。ただ、はい、力のある生命体にわたしたちの倫理が通じるかどうかは……」


 深い意見だ。

 

「人間とは、自分と他人の間に『差』を欲しがる生物」


 二人は頭がいい。

 共通語とオーク語を学ぼうと着実に結果を残している。

 ゴルゴンチュラと亜神キゼレグのお陰かもしれないが……。


「……強くなろうとするか、賢くなろうとする。歪んだ心もある。人間の本性の一部、これを矯正するのは難しいってな。自分より弱い人間を貶めていじめて喜ぶクズが多いってのが常だった。かくいう、俺も知らず知らずのうちに、傷つけてしまったこともあるのかもしれない……」

「シュウヤよ、おたんこなす、なことは言うんじゃねぇ」

「ンン、にゃ~」

「モガさんも興奮しないで、ですが、シュウヤさんもそんな顔をしないでください。わたしたちが今生きていられるのはシュウヤさんのお陰です。サイデイルが平和なのも、シュウヤさんがいるからなんですから……皆のために、がんばって、この楽園を造り上げている。わたしたちの英雄様がシュウヤ様。……自信を持ってください」


 サナ……さん。

 嬉しい言葉だ。


「そうです。亜神夫婦を助けた。その亜神夫婦様から、わたしたちは生命力を、魔力を、知らずに頂いていた……神様が身を削って……なんという愛……わたしは、そのことを聞いた時……泣き崩れて、一日中ずっと神様に抱かれている気分で泣いていました……」

 

 ヒナさんは涙を流していた。

 あぁ、俺もだ。

 自然と涙が溢れた。

 そうだよな、とんでもない、愛のある友の神様だよ……。


 ……泣かすなよ、友……。

 

「……ありがとう」


 と、自然に言葉が出た。


「はは、わたしたちもですよ」

「にゃ」

「ありがとう、だぜ、シュウヤ!」


 モガは笑顔だ。

 だが、ペンギンなだけに、分かり難い。

 怒りから泣きモードに入ったところで、モガが空気を壊すように、


「おう、ロロよ、シュウヤは英雄だよな、結構毛だらけ猫灰だらけだ」

「ンン、にゃ、にゃ、にゃお~」

 

 尻尾をモガに絡ませる。


「おうおう、毛だらけ毛だらけ曼荼羅毛ってか?」

「にゃお、にゃお、にゃおん~、ンン」


 と、何かの漫才芸を見ている気分となって面白かった。 

 ヒナさんもふふっと笑ってから、


「……面白いお毛毛談義ですね。あ、話がずれてましたが、子供を実験材料なんてもってのほかです」


 と、切り替える。

 ヒナさんは女子高生の年齢のはずだが、大人びている。

 

「あぁ、当然だ」

「生きるために血を吸う。食べるために家畜を殺すことに通じますので、吸血鬼のことは理解できますが、子供を実験に使うのは、やっぱり……」

「ホフマンたちは、マッドなくずい連中だ」

「ご主人様の大事な弟子のムー。アッリとタークも救えてよかったです」

「トン爺も指弾術と料理以外に軍師ができるほどの策士でした。昔から、変わった言葉で、わたしたちを忠告しては導いてくださいましたし、閣下が救ったことも運命的なことに思えます」

「……シェイルとジョディにモガとネームスもあの時に絡んでいた」

「……運命か。便利な言葉でもあるが、とーんとくる、なぁ、ロロディーヌ!」

「にゃお~」


 ペンギンのモガはそう語ると、リデルのリンゴパイをロロの鼻先に当てるような素振りを見せて、自分の口にリンゴパイを運んだ。

 相棒は『にゃろめ』と言った感じの猫パンチをモガに食らわせていた。


「……ホフマンは許せないが、敵でもない状況だ」

「キサラの能力を盗んだ憎い相手ですが、キサラを殺さずに、魔女槍として保管していたことも謎です。しかも、イグルードとアドゥムブラリをシュミハザーに保管する形で、ご主人様に差し向けた」


 と、ヴィーネが指摘。


「シュミハザーの名前も曰くがありそうだ。イグルードなんて、光魔ルシヴァルの紋章樹の大本、血の精霊ルッシーを生むことになった」


 俺がそう発言すると、皆、頷く。

 壁にあるタペストリーを凝視した。

 そう、女王サーダインに打ち勝った絵がある。


「女王サーダインの攻撃を未然に地下から防げたのは、そのお陰……キッシュたちは、光魔ルシヴァルの紋章樹が無ければ……」

「そう考えると、吸血鬼のホフマンってのは、慎重さを持つ女帝よりも力が上なんじゃねぇか?」

「女帝ファーミリアと会ったことがないから、その判断はあまりできないが……ヴィーネのような力は少なからずあるはずだ」

「そのホフマン<筆頭従者>は、得体の知れない奴だが、混沌の夜では、俺たちに味方したんだろう?」

「そうだ。ホフマンは、コレクターの部下のハゼスと一緒に加勢してくれた」

「……すべては遠回りだが……そいつなりの愛の形なのか?」


 口回りにロロの毛で付着して、ごちゃごちゃになっているモガが語る。

 

「さぁな……」


 先を見据えたホフマン・ラヴァレ・ヴァルマスク。

 元転生者……。


 <アシュラーの系譜>を超えた転移者か転生者独自の未来予知の能力で、俺の行動を予測?


 だがなぁ……。

 子供を実験に使っちゃだめだ。

 とりあえず、ホフマンが近付いたらぶん殴るか。


 これでいいや。

 そして、神界勢力のブーさんたちに殴られているだろ。

 

 そのムーを見る。


「ムーは蒼い鳥を助けたらしいが……」

「……っ」


 ムーは頷く。

 蒼い鳥とゴルゴンチュラの切ない関係を……。


「それはですね……」


 ジョディから聞いた。

 涙したが、それは……ま、ムーの物語か。


 そうして、その日の夜。

 子供たちを寝かせてから……。

 キッシュを含めた……。

 皆と、やることをやって楽しんだ。


 各地にいる眷属と仲間たちと連絡を取ってから――。


「相棒、出発だ」

「にゃ」

「ご主人様――」


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