六百六十九話 サイデイル行進曲

 ルシヴァルの紋章樹を彩る深緑色と翡翠色の蔦と花々。

 天の門的な祭壇。

 左右の柱風の植物がルシヴァルの紋章樹を支えるように聳え立つ。

 リュートのような楽器模様の植物が、その柱に絡むのは前と変わらず。


 ヘルメが、指先から水をぴゅっ――。

 と、その楽器模様の植物にかける。

 そのたびに、楽器模様の植物から不思議な音楽が響く。


 ルッシーも『ヘルメ~、おおえん!』と、

 ヘルメに魔力が入った黄金色に輝く血飛沫をかけていた。


 常闇の水精霊ヘルメだが、黄金色を帯びた血色に輝く。


 そんなルシヴァルの紋章樹の前にある訓練場に、ママニとビアとヴェハノを呼んだ。

 黒猫ロロとムーとヴィーネも傍だ。


 ママニとビアにヴェハノは、荘厳な雰囲気のルシヴァルの紋章樹の前に立つ俺に対して、礼儀正しく頭を垂れた。


 <従者長>としての挨拶だと分かるが、いまだに、この挨拶は慣れない。


 ムーもママニの真似をして、片膝で地面を突いた。

 ヘルメとルッシーはルシヴァルの紋章樹の前で遊んでいる。


 そんな弟子のムーに、


「まずはフサイガの森から説明しよう」


 キッシュの部屋で皆に説明したのと同じように、東の旅について語る。 

 フサイガの森で、グルドン帝国の軍隊と遭遇。


 当初は、種族間の争いに介入するつもりはなかったこともちゃんと伝えた。


 が、ある侍たちの行動を見て、考えを改めた。

 グルドン帝国の人族の軍隊から追跡を受けていた教団セシード。

 教団の僧侶の兎人族と虎獣人ラゼールの僧侶を守ろうとした……。


 偉大な……侍たちの話を聞かせていく。


 侍の虎獣人ラゼールたちは、兎人族と虎獣人ラゼールの僧侶を助けるため、命を懸けた。


「フジク連邦のためでもあると思う……が、それは半分の気持ちだろう」

「ご主人様?」


 ヴィーネがそう疑問そうに聞いてきた。


「勘違いするな、まぁ、これは俺の勝手な推測だから、話半分で聞いてくれ。あの虎獣人ラゼールたちは、国のために死んだんじゃない。傍で戦う戦友、仲間のためだと思う。誇りをもって死ぬ場所を共に死線を潜り抜けた仲間と選べたことに、喜んでいたんだと思う。だからこそ、その命を仲間に懸けることができたんだと、な」

「……はい、戦友ですか」

「ご主人様……」


 そう呟くママニは涙を双眸に溜めていた。


 ムーは真剣な面で俺の話を聞く。

 善い子だ。


 そして、ヴィーネが、


「傭兵隊【三日月】の虎獣人ラゼールの武者たち。その隊長と副長に、支部隊長に、その副長も……ご主人様が語るように……殆どが戦死。最終的に残ったひらメンバーのテングライさんが、三日月の代表者になりました。そして、わたしたちが救出した教団セシードの僧侶は、兎人族のラシュマル・セシードさんと虎獣人ラゼールのトルサルさんという名前です。その方々を【レンビヤの谷】へ送ったのです」

「……っ」

「ンン、にゃおぉぉ」


 そう長く鳴いたのは、勿論、相棒。

 そして、黒猫ロロさんのドヤ顔だ。


 偉そうだが、実際に偉い。


 紆余曲折あったようだが、皆を【レンビヤの谷】の安全圏まで運んだのは神獣ロロディーヌだ。

 可愛いドヤ顔を許そう。


「【レンビヤの谷】にはフジク連邦の戦力が集結。ドドライマル将軍の一派とゴーモックの隊商が守る以外にも、セシード教団の獣人僧侶たちが多かったです」

「……遅い団結ではありますが、フジクの掟は、まだ生きていた……」


 と、声を震わせながら語るママニは渋い。

 戦場を知るママニの言葉は重い。


「うむ。我らの行動には、意味があったのだ」


 ビアがママニに対して語ると、ママニは肩を震わせて涙を流す。


「あぁ、希望は続いている……」


 ママニは泣くことを止めない。

 俺は黙ってママニを見てから、頷いた。


 ムーもママニを見た。

 ママニは微笑んでから、


「嘗てのフジク連邦は負けるべくして負けたんだ……だが、同胞を救うための戦争は無駄ではなかった」


 と語る。

 ムーは『分からない』と頭部を傾げる。


 ビアは無言を貫いた。


「ガォ」


 肩の琥珀が小さく吼えた。


「ムー、その教団セシードの方々を助けたお礼に、今、吼えたママニの肩にいる魔法の小虎をもらったんだ」

「ガォ」

「……っ」


 ムーはママニの肩を凝視。

 すると、優しい雰囲気を出すヴィーネが、


「神虎セシードを守るための魔法の小虎の琥珀をもらったんです」


 ムーに説明。

 すると、幻獣的な雰囲気もある小さい琥珀が、


「ガォ」


 と、鳴いた。

 ムーは、琥珀が、小さいなりに口を拡げて吼えたのを、口を拡げて見ていた。

 半透明な部分の多い琥珀の見た目。


 ムーは『わぁ、凄い魔法の虎ちゃんだ』とでも思ってそうな子供らしい面で可愛い。 

 そのムーは、にんまりと微笑む。

 

 ママニは、自身の肩にいる琥珀を見てからムーに視線を向けた。


「琥珀という名は、ご主人様が名付けてくださったのだ」

「……っ」


 ムーは俺を見て『うんうん』と頷く。

 樹槍を掲げて義手の先から糸を出す。

 ママニの肩にいる琥珀は「ガォ?」と、また小さく吼えてから、ママニの鎧に巻き付けていたハーネスを緩めると、ぷかぷかと浮かびながらママニの肩から離れた。


 その琥珀は、ムーの足下に着地。


「ガォォ」


 地面から、小声で吼えた琥珀は、小さいなりに、頭を下げていた。

 琥珀は、ムーに挨拶したのか?

 ムーは礼儀正しい小さい虎を見て驚く。

 ムーは慌てて体育座りを敢行――琥珀の正面に座った。

 なぜ、体育座りだ。

 と、ツッコもうとしたが、途中で、義足を外したムー。

 正座に移行し、頭を下げる。日本風の挨拶だ。


 ムーは、サナさんとヒナさんから日本の挨拶を学んだのか。

 一緒に訓練をする時もあったようだからな。

 義足を外した、膝骨と前脛骨筋と上伸筋支帯的な魔糸が覆う三角錘は変わらず。

 三角錐の先端から魔糸が出ているのも変わらず。


「ムー、琥珀も頭を上げなさい。新しい仲間のヴェハノを紹介しよう」


 ムーは頷いた。ヴェハノをチラッと見て……立ち上がる。

 が、義足を装着することを忘れていたムー。

 糸を出して器用に体を支えたムーだったが――俺がムーを支える。

 当然、ムーは幼いから、体が軽い。


「――っ」


 ムーは顔を赤くして、黙り。

 両手で俺の太股を握るように顔を寄せていた。

 そして、スリスリと顔を押し当ててきた。

 小さい鼻が、ぺちゃんこになって、潰れていた。

 それが、また可愛い。


 ムーの前髪を指で梳く。

 眉毛も整えてあげてから、俺は落ちている義足を拾ってムーに、


「ムー、ほら、これを」


 と、義足を手渡した。


「……っ」


 ムーは頷いて義足を受け取ってから装着。

 俺はビアとヴェハノにもアイコンタクト。

 ヴェハノも頭を下げた。腰にぶら下げる流星錘が揺れる。

 ヴェハノの行動に頷いたビア。


 蛇人族ラミアの赤ん坊を抱くビアが、ヴェハノを見て、


「ドッパパル・アゴロンデ・ヴェハノ・ガスノンドロロクンである」


 と、発言。ヴェハノも、ビアの声に応える。

 頷いて、三つあるおっぱいに手を当ててから、頭を上げて、


「――はい、名はヴェハノ。リザードマンとの戦いで、シュウヤ様たちに救われたのです。ガスノンドロロクン様の復活にも立ち会うことができて、家族の仇も討てた……更には、わたしが仲間に、家族になってもいいと……ここに……」


 と、涙ぐむヴェハノ。そのヴェハノにムーが駆け寄った。

 蛇腹に小さい手を当てた。


「……っ」

「ふふ、ありがとう、ムーさん」

「……っ」


 ムーは何故か、動揺。ヴェハノから手を離して俺を凝視。

 〝さん〟付けは初めてだったのか?


「はは、ムー、気にするな。それでヴェハノだが、流星錘という武器を扱うんだ。強い蛇人族ラミアなんだぞ。ハンマーフレイル系の武器。使い方は色々あるようだ」

「……っ」

「実際に見たらムーも驚くと思う」


 ムーは樹槍を上げた。

 魔糸を放射状に出したりして、喜びをアピール。

 何気にキサラのダモアヌンの魔槍から出るフィラメントと似ている。


 ヴェハノも、


「流星錘の扱いには自信があります」 


 そう発言。その細身で可愛らしいヴェハノに、


「ヴェハノ、時々でいいから、ムーの訓練に付き合ってくれるか?」

「はい!」

「よかった。背後にある家が俺たちが暮らす家だ。二階に空いた部屋もあるし、坂の下に空き地もあるからヴェハノが望むなら、ヴェハノの家を作ってあげることもできる」

「家まで! それでしたら、シュウヤ様のお家に住まわせていただきます」

「おう」

「……っ」


 ムーはバンザイ。


「きゃっきゃ」


 ビアの抱く蛇人族ラミアの赤ん坊も喜ぶように声を出す。

 ムーは赤ん坊を見て微笑むが、ビアではなく……。


 ヴェハノに視線を向けた。

 細身の蛇人族ラミアのヴェハノを凝視。

 流星錘を見て、にやりとした。


 ……あはは、目的は訓練相手か。

 ムーの訓練相手だったソロボ&クエマの<従者長>コンビは最近忙しい。西の砦の近辺で樹怪王の軍勢と戦うオークの氏族は、俺たちにも攻撃してくるから、そのオークに対する作戦で出張することが多い。


 だから訓練相手が増えて嬉しいんだろう。


 そこで、俺はビアを見る。

 今も、時折自慢気に触っている腰の長剣。


 そのビアに――。

 ガスノンドロロクン様黒い龍が宿るガスノンドロロクンの剣を紹介させた。


 ムーは、八大龍王でもあるガスノンドロロクン様を見た直後――。

 逃げた。


 黒い龍のガスノンドロロクン様。

 稲妻を放って凄みを出していたが萎れるように小さくなる。


「……我を怖がるのは当然のこと」


 ショックを隠せないガス様。

 黒い龍はビアのガスノンドロロクンの剣の中に消える。


「むむ、子供には分からぬのだ、気にするな!」

「……」


 黒い龍は尻尾を出してビアに返事をしていた。


 逃げていたムーが戻ってくる。

 そのムーに、フサイガの森では、ジョディとママニとビアが協力したことを話す。


 ガーゴイル系と蝶のモンスターとの激闘。

 リザードマンの集団とグルドン帝国の人族の兵士たちを倒しつつ……。


 赤心臓アルマンディンを探索。

 そして、赤心臓アルマンディンを内包した巨大な魔樹を発見。


 その魔樹を倒したことを告げた。


「魔樹と異質な蝶族は強かった! が、ジョディはもっと強かったのだ」


 ビアの言葉に頷くママニ。

 円盤状の盾武器のアシュラムをムーに見せつつ、


「はい。勿論、わたしたちも光魔ルシヴァルの<従者長>。無数のモンスターを倒した。しかし、輩の<光魔ノ蝶徒>は強い」

「うむ」


 ビアの頷きにママニは首肯。

 そして、


「サージュとフムクリの妖天秤を使いこなすジョディさんがいたからこその、東の旅であった」


 そう語るママニの言葉は力強い。


 ムーは敬礼ポーズ。

 ママニもアシュラムの表面を手の甲で叩きつつ、すぐに敬礼で応えた。 

 互いに笑みを浮かべる。


「きゃっきゃ」

「ピュゥゥ」


 蛇人族ラミアの赤ん坊と空のヒューイが鳴いた。


 側を飛翔するシェイルとジョディ。


 俺は、シェイルを見ながら……。


「皆が苦労して、手に入れた魔心臓アルマンディン。だからこそ、今、元気な、あのシェイルとなったんだ」


 ムーは、飛翔するシェイルとジョディを見ると、強く頷く。


 俺からは……。

 ムーの前髪が揺れて片目しか見えない。

 が、空を見るムーの表情から……。


 何を考えているのかはなんとなく想像ができた。

 ムーは蒼い鳥を助けた。

 ムーは優しい子として育っている。


 サイデイルの皆に感謝だな。

 ムーは微笑みながら俺に視線を戻す。


 そのムーに……。

 フォロニウム火山では、巨大な赤いドラゴンを倒したことも告げた。


「これがその時に手に入れたペルマドンの卵だ」

「……っ」

「鑑定はまだしてないから、魔石か卵か、詳細は不明だがな」

「ングゥゥィィ!」


 突然、竜頭金属甲ハルホンクがアピール。

 卵をホシイとか?


「……っ」

「待て、ムー。逃げないでも大丈夫だ。基本は肩の防具の竜頭金属甲ハルホンクだ」


 恐る恐る近付いてくるムー。

 肩のハルホンクは小声で「ングゥィィ……タマゴ」と魔の息を吐いた。


「……っ」


 義手と義手から出た魔糸で顔を覆ったムー。

 魔竜王の蒼眼が剥けるたびに、びびるムー。


 竜頭金属甲ハルホンクは魔竜王の蒼眼をピカッと光らせた。


「ピカピカ、ピカピカ、ヒカル、ハルホンク、デェェアァル……ングゥゥィィ」

「……っ」


 ムーは竜頭金属甲ハルホンクを警戒。

 樹槍の穂先を差し向けた。


 慣れそうもないな。


「……喰ウ、喰ワレ、ノ、螺旋ヲ、司ル、深淵ノ星ニ、吸イ込マレテ、イキテタ、ハルホンク、ゾォイ!!」

「――っ」


 ゾォイの部分でびびったムーは逃げた。

 逃げたムーを呼び寄せて、汎用戦闘型アクセルマギナを出す。


 アクセルマギナは軍隊式の礼で丁寧にお辞儀。


「――ムーちゃん! よろしくお願いします」

「……っ」


 逃げないムー。

 ペコリとお辞儀をする。


 あまり驚いていない。

 俺の右腕の真上に立体的に浮く立体的なアクセルマギナを含めた様々な映像を見ていたようだ。


「っっ……」


 いつもより呼吸が荒い。

 アクセルマギナの未来的な銃と装備に興味津々。

 アクセルマギナは、強化外骨格的なアーマーの鋼鉄と、人としての肉体が半々。

 女性専用のパワードスーツを着た未来人っぽいからな。

 ムーが糸と無事なほうの手でアクセルマギナの体を触る。


「ふふ」


 微笑むアクセルマギナ。


「あぅ」


 ムーが敏感なところを触ったらしく変な声を出すアクセルマギナ。


「……っ」


 ムーもビクッとして、ごめんなさいって表情を浮かべる。


「大丈夫ですよ」


 そう発言しつつ微笑むアクセルマギナ。

 ムーは『本当?』と言うように首を傾げた。

 アクセルマギナは頷く。

 ムーは、そのアクセルマギナの胸元を、小さい指で差す。


 アクセルマギナは、胸元に手を当て、


「これは、マスドレッドコアです。このアイテムがあるから、汎用戦闘型としての姿を保つことができているのですよ」

「……っ」


 ムーは頭部を傾げた。

 が、義手と義足を代わりに動かして応えた。


 あぁ、そっか。

 アクセルマギナも義手と義足に見える。


「そうですね、ムーちゃんと似ています。わたしの片腕も魔機械。左足もアーマーを備えていますし」


 前と同じく、左足の内側は色白な素肌を露出。

 が、外側はパワードアーマー系の防具が表面に貼り付いている。


 太股、脛、足の甲まで、黒っぽい色合いの防具を装着している感じだ。

 右足は黒い繊維質のスカートが覆うからあまり見えないが、屈むと、素足が見える。


 ま、軍人のトランスヒューマノイドっぽい姿だな。

 というか、中身は全部不思議な魔機械で、簡易AIがアクセルマギナだ。


 続いて、戦闘型デバイスから――。

 ガードナーマリオルスを出した。


 地面の上で丸い胴体をクルクル回す。

 頭部も球体胴体の上で回る。

 平たい小型ルンバ的な頭部は、可愛い。


 円盤頭部は球体の胴体に沿って湾曲。

 可愛いお猪口的な頭部でもある。


 そんな頭部のガードナーマリオルスは止まった。

 頭部の小型円盤から、片眼鏡的な細いカメラが伸びる。


 目のようなズームの動きをする小型カメラを見たムーは、目をまん丸と大きくした。

 ムーは自分より小さいガードナーマリオルスに興味を持つ。


 そのガードナーマリオルスはムーを見上げた。

 胴体の溝から光を漏らしつつ「ピピピッ――」と返事の音を出しては球体の胴体からチューブも出した。


 ムーはチューブの先を凝視。


「……っ」


 不思議そうな表情を浮かべてから『これは何?』といった感じで、俺を見る。


「ガードナーマリオルスは、そのチューブを握ってほしいんじゃ?」


 俺がそう言うと、笑ったムー。

 ムーは、ガードナーマリオルスが出したチューブを小さい手で握る。


「ピピピッ」


 そう音を出したガードナーマリオルス。

 喜んだように頭部を回した。


 ムーも、はにかむ。


「……っ」 

「ピピピッ」


 ガードナーマリオルスはムーが握るチューブを引っ張り移動を始めた。

 チューブを握るムーは釣られて歩く。

 が、途中で『大丈夫なの?』と意思を込めるように、チラッと俺を見た。


「大丈夫。俺たちに構わず、遊んでこい」

「――っ」


 喜んだムー。

 ガードナーマリオルスのチューブを持ったまま走り出した。ムーとガードナーマリオルスは、ルシヴァルの紋章樹の回りで一緒に駆けっこ。


 魔煙草を口に咥えた。

 アドゥムブラリを出すかと思ったが、すかさずヴィーネが魔道具で火を付けてくれた。


 ◇◇◇◇



 ふぅと煙を吹きながら……。


 ルシヴァルの紋章樹を見る。


 神殿でもあるし訓練場でもある。

 背後は、俺のログキャビン的な家だから、庭でもあるか。


 そのログキャビンは上下に拡張が進んで大きい家屋になった。

 ヴェハノも住み始めることになった。

 運び屋のレイ・ジャックとセリス王女の部屋もある。


 もうログキャビンとは言えないかな。


 左の奥は小山に上がる坂道。

 その坂道を上がった先の天辺には、ハーデルレンデの象徴があった岩の群れがある。

 崩れた岩の群れの中には地下に直通する穴が無数だ。

 その穴を利用する形で地下室をクナとルッシーは造り上げた。


 嘗てはキッシュの、エルフの祖先たちの、黄金色に輝く魂の道があった。

 聖域を奪った地底神ロルガまでの道のりを示していた。


 幽霊だったキッシュの妹さん。

 キストリン爺の姿にエルフの亡霊たちの姿を思い浮かべる。

 亡霊たちは、歌を奏でながら……。

 俺に地底神ロルガ討伐と聖域の蜂式ノ具の奪還を望んできたっけ。


 ……魔煙草を吹かす。

 過去を思い出しながら……。

 <邪王の樹>で簡易的に机と椅子を作った。


 暫し、まったり。

 机の上で香箱スタイルで休む相棒の頭部から背中を撫でていく。


「にゃぁ~」


 黒猫ロロは喜ぶように鳴くと、俺の腕を抱く。

 むむ、後ろ脚でキックの流れだ。

 が、相棒の好きなようにはさせない。


 前足の裏側にある肉球ちゃんをマッサージしつつ、腕を離した。


「ンン」


 狙いが外れた相棒は尻尾を上下させて、ポンッと机を叩いた。

 フハハ、勝った。

 とかアホなことをやっていると、


「――ご主人様、どうぞ」

「ありがとう」


 紅茶を入れてくれたヴィーネ。

 

 ヘルメとヴィーネも一緒だ。

 汎用戦闘型アクセルマギナも紅茶を飲む。

 そして、ぷゆゆも一緒だ。


 組めていない両足。

 毛むくじゃらで小さい指は見えないが、ちゃんとティーカップは持っている。


 俺が視線を向けると……。

 紅茶を飲む小熊太郎ぷゆゆはニカッと白い歯を見せてくる。

 お前は貴族な小熊さんですか?

 と尋ねたくなったが、我慢した。


 そんな、ぷゆゆから、アクセルマギナに視線を戻す。

 普通に口に含むティーカップを見て……。


 ふと、気になった。


「普通に飲めるんだな」

「汎用型ですから、水分でもエネルギー源になります」


 惑星探査用でもあるわけだから当然か。


「専用の飲料とかも在るんだろう?」

「〝ハイ・マグナル〟、〝サイキックエナジー〟、〝ニトロアルファ〟、〝ガソリン〟、〝ラジカルウォーター〟等、他にもあります。この汎用戦闘型アクセルマギナには大きなエネルギー源となるでしょう」

「マスドレッドコアがあるからこそか」

「はい。正確には、選ばれしフォド・ワン銀河騎士・ガトランスマスターがいるからこその、簡易AI」

「俺から離れた場合は?」

「戦闘効率を含めた運用効率が下がります。遠い場所ほど、マスドレッドコアに溜め込んだエネルギー源が重要です。自力補給も可能ですから大半は熟せますが、炭素系ナパーム生命体と同じく休憩が必須となります」

「そっか、あまり無理はできないな」

「……休憩せずに行動した場合、能力値は下がります。ナパーム高生命体に分類される生命体に遭遇し、敵対した場合、96%の確率で現状の汎用戦闘型アクセルマギナの装備では、やられてしまうと判断します」

「フォド・ワン・ユニオンAFVの大砲を使えば?」

「180㎜キャノン砲を運用した場合は勝率が少し上がりますが」


 そこから……。

 セナアプア、ヘカトレイル、ホルカーバム、ペルネーテの眷属と仲間たちとも連絡を取りつつの話し合い。


 すると、ムーがガードナーマリオルスを連れて戻ってきた。

 さて、次はフォド・ワン・ユニオンAFVを出す。


「ムー、次はこれを見せよう」

「……っ」


 ムーは突然出現した装甲車を見て、逃げた。

 当たり前か。

 が、すぐに荒い息を吐きつつ寄ってきた。


 巨大なタイヤに糸を出して触れる。

 後部のガルウィングドアを開けた際にも驚いて逃げた。

 が、すぐに戻ってくる。


 ムーを出迎えていた黒猫ロロが、


「ンン」


 相棒が触手を伸ばして装甲車の内部のことを説明。

 皆は理解できていない。


 そして、さすがに運転をさせるつもりはないが、ぷゆゆが偉そうに着席。

 操縦桿を握って「ぷゆゆ!」と俺に指示を出す。


「ぷゆゆ、大人しく」

「ぷゆぅ~」

「っ――」


 ムーは、ぷゆゆの小さい手を握って操縦席から出す。

 代わりに操縦席に座った。


「……っ」


 操縦桿のハンドルを触ると回す。

 フォド・ワン・ユニオンAFVのタイヤが動いて回転した。


「ぷゆゆゆゆ!!?」


 ぷゆゆはフォド・ワン・ユニオンAFVの機動に驚いた。

 大事な杖も落としている。 

 そうして、ムーとぷゆゆは、レーダーやらディスプレイを見て驚きつつも楽しんで見学していた。


「ぷゆ!」

「にゃお」

「……っ」

「ぷゆぅぅん、ぷゆぅ」

「……っ」

「んん、にゃ?」

「ぷゅゅ~ん、ぷ!」

「にゃ~」


 ぷゆゆは、相棒とムーが見守る中、中央のレーザーマップの机の上に、小骨と臭い液体を振り撒いた。


 謎の儀式をやり始めたからすぐに外に放り出す。


 黒猫ロロ的にはぷゆゆを褒めていたが、まぁ気にしない。


 フォド・ワン・ユニオンAFVを仕舞う。


 そして、<光魔ノ秘剣・マルア>を意識。

 デュラートの秘剣からマルアを呼ぶ。


 マルアとはすぐに仲良くなった。

 続いて、血魔剣から血と銅貨と指を触媒に百目血鬼を召喚。

 ムーは百目血鬼が出現するや否や逃げ出した。


 閃光のミレイヴァルも出した。

 なじみの沸騎士コンビも呼ぶ。


 更に、イモリザを呼ぶ。

 昔のサイデイル村の門番長だ。

 ムーはイモリザと会いたかったのか、ムーは喜んだ。

 続いて<シュレゴス・ロードの魔印>からシュレゴス・ロードを出す。

 ムーはすぐに逃げた。


 <神剣・三叉法具サラテン>の沙を出す。

 羅と貂も紹介。

 羅と貂はそれぞれの剣技を披露した。

 その羅と貂も、沙に負けず劣らずの<御剣導技>を披露。

 羅は、<瞑道・瞑水>を披露。

 仙女的な衣裳を纏った俺を見たムーは驚く。


 波群瓢箪からリサナも出す。


 ムーはイモリザと手を繋ぐ。

 イモリザが「皆さん、こっちです~、一緒に」


 と、呼ぶ。


「はい♪」


 リサナの音頭も加わった。

 皆もイモリザに合わせる。


 イモリザが車掌長となった謎の行進が庭で始まった。


「てってって~てってって~♪ 歩くよ~歩くよ~♪」


 と、歌ったイモリザがムーに振り向く。

 ムーは頷いてから背後を見る。


「……っ♪」


 相棒も、すぐに背後を見る。


「ンン、にゃ♪ にゃ、にゃ~」


 歌うロロディーヌの背後はぷゆゆだ。小熊太郎は小さい足を目一杯上げてステップ。

 骨のカスタネットを叩いて音を立てつつくるっと背後を見る。


「ぷゆ♪ ぷゆゆううう♪ ぷゆぅ~♪」

「うふ♪」


 マルアも黒髪で音波を出す。

 沸騎士たちを見るように、振り向いた。

 ゼメタスは骨盾を叩く。そして背後のアドモスを見て、


「おおぉう~おぅ♪ おぉぉ~♪」

「おうおう~歩く~♪ おぉぉお~♪」


 アドモスも歌いつつ応えた。

 背後のアクセルマギナも、振り向きながら、銃を空にぶっ放す。


「歩きます~♪ 皆で~♪ ふふーん♪」


 背後で並んでいたヘルメも「歩きます~♪ ふふーん♪」と歌って水飛沫を発した。

 背後のヴィーネとハイタッチ。


 そのヘルメとヴィーネは、一緒に、


「「ふふ、歩きましょう~♪」」

「どんどん一緒に~」

「歩きましょう~」

「「元気にサイデイルをぉ♪」」


 ヴィーネとヘルメの歌声を聞く。

 ヴィーネのレアな歌声だ。何気に上手じゃないか。

 ペルネーテでシャナの歌声を熱心に聞いていたことを想起する。


 そのヴィーネは振り向いた。


 そこには沙がいる。

 沙も「サイデイル~♪ 歩く、歩く、歩くよ、妾たち、平和は善い、褥もいい♪」


 歌いながら振り向く。

 シェイルとジョディは頷く。


「歩きます~♪」

「歩く、歩く♪」

「一緒に、一緒に、楽園サイデイル♪」

「うん、楽園サイデイル♪」

「「歩く、歩く♪」」


 と、ラップ気味だ。

 二人同時に振り向く。

 <光魔ノ蝶徒>たちの背後には、ミレイヴァルだ。


 右手の甲にある血が滴るような十字架を光らせつつ、腕を振るい――。


「はい♪ 歩きましょう♪ 皆で元気に――サイデイル!」


 と、空に向ける左手が握る聖槍シャルマッハ――。

 その三角錐の穂先に光が差した。


 <迅穿>かな。


 前方にいるムーは興味津々だ。

 そのミレイヴァルには、<霊珠魔印>と連動する<召喚霊珠装・聖ミレイヴァル>は使用していないが、光を帯びたように見える。


 ミレイヴァルの背後には百目血鬼がいた。

 ミレイヴァルの背後にちゃんと並んでいた百目血鬼。


 妖怪っぽい姿の彼女は「楽しそうだねぇ♪」と渋い声で歌うように発言。

 そして、


「アァ~♪ 歩く~、血と銭を求めてぇぇ」


 渋い女性の声で旋律を奏でた。

 銭と銭が擦れる硬貨な音を響かせる。


 旋律が美しい。

 古そうな銭の硬貨が楽器になるとは予想外。


「てってって~♪ 歩くよ~わたしたち~♪」


 と、すぐに先頭のイモリザが、百目血鬼の美しさと切なさがこもった最後尾の音を、強引に明るい歌に変える。


 荒い息のムーもリズムに乗った。


「……っ♪」


 皆も声を合わせてハモリ出す。

 ルシヴァル行進曲。

 または、サイデイル行進曲か。


「てってって~てってって~♪ 元気にサイデイルを歩くぅ♪」

「てってって~てってって~♪ 元気にサイデイルを歩こう~♪」


 行進する皆。


「歩くよ~わたしたち~♪」

「ふっふっふ〜ん~♪」

「ふっふっふーん♪」


 リサナも合わせて歌う。

 マルアが、黒髪を靡かせて、独特な旋律を奏でた。


「――おぉ、ぉぉ♪」

「――おぉ、おぉぉ♪」


 黒沸騎士ゼメタスと赤沸騎士アドモスの両者も重低音で歌う。

 厳つい骨鎧からの蒸気音が加わる。


 いい感じのバックコーラスだ。


「よーし、俺も――」

「それは、正義のリュート」

「使者様~♪」


 正義のリュートを使ってイモリザとリサナが歌うリズムに合わせた。

 マルアの黒髪楽器と巧く、波長を合わせる。


 キサラとジュカさんがいれば……。

 メインボーカルだったが――。


 ミレイヴァルと沙の声のリズムがイイ。


 途中で脱線したぷゆゆ。

 貝殻でフォド・ワン・ユニオンAFVの装甲を擦る音もいいかもしれない。

 装甲から出た電気的な小さい爆発が、ぷゆゆを吹き飛ばしているが、気にしない。


 なかなかの合唱トレインとなった。

 ヘルメとヴィーネも俺の横に並んで歩きつつ歌い踊る。

 黒猫ロロは黒豹の姿になったり黒馬になったり黒グリフォンになったりと、楽しそうだ。


「ンン、にゃお~」


 鳴いた相棒はぷゆゆを尻尾で叩く。

 叩かれたぷゆゆは百目血鬼を叩くと、逃げた。

 皆から離れて百目血鬼と遊ぶ。

 いや、百目血鬼は黒髪にぷゆゆから悪戯を受けていた。

 

 百目血鬼は怒ったのか銭を撒き散らしつつ、得物は出していないが、そんな勢いでぷゆゆを追い掛ける。


 俺たちは自然と行進曲を終了させると、団欒に入った。

 ぷゆゆの悲鳴的な「ぷゆ~」が聞こえた。


 すると、サラの血文字が目の前に浮かぶ。

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