六百六十八話 弟子に贈り物

 ぷゆゆはゲートの明かりで鏡を見る。

 『――早!?』という驚いた顔を浮かべていた。

 ぷゆゆは杖を放り出すと急いでターン。

 

 寝台に並ぶドングリと小骨と飴玉的な触媒を小袋にせっせと詰め込む。


 ふふっと笑ったヴィーネが、


「ぷゆゆちゃんは、わたしたちがすぐに帰還するとは思わなかったようですね」

「あぁ、そうだが、あいつは、俺の自宅を自分の家だと思い込んでいるのかもしれない」

「そうかもしれません、あ――」

 

 同意する可愛いヴィーネを不意に抱きしめてから……。


「ご主人さ、ま……」


 そのヴィーネを連れて、


「んじゃ、ヴィーネ、戻ろう」

「はい」


 二十四面体トラペゾヘドロンのゲートを潜った。

 サイデイルに帰還。


「ぷゆゆ!」

「ぷゆゆ、ちゃんと片付けろ」

「ぷゆ? ぷゆぅ~」


 ニカッと笑うぷゆゆ。

 ぷゆゆは『あ、今ひろう~』的な感じで……。

 どんぐりの触媒を拾うと、杖を掲げてバンザイ的に両手をあげた。

 可愛いが、杖先のミニチュア恐竜の口から変な蝶を召喚。


 ニヤリとした小憎たらしい顔といい、生意気な魔法だ……。

 が、どうしようもなく、面白くて、可愛い。

 そんな愛くるしさ満載のぷゆゆさんを、わざとスルー。


「……ヴィーネ、外の訓練場に行く。ヘルメも外に」

『はい――』

「魔素の気配がありますね」

「あぁ――」


 左目から出たヘルメの後ろ姿を追うように二階の窓から飛翔。

 着地を行うヘルメ。背後から「ぷゆぅ~」と聞こえたが無視。

 訓練場には、ビアとムーがいた。

 蛇人族ラミアの赤ちゃんを抱くビアだ。


 長い尻尾が巻くと、蛇腹の鱗が撓んだ。

 そのビアは俺を見る。


「主と皆!」

「……っ」


 二人は挨拶。

 俺も片手を上げて「よう」と、挨拶。


「ビア、赤ちゃんは元気そうですね」

「ふふ、ムーちゃんは訓練をがんばっているのですね」

「……っ」


 俺はビアの腹を注視。

 ビアは赤ん坊を抱きつつ……。

 蛇腹の表面をアコーディオンの伸縮的な動きで凹凸させる。

 同時にビアは頬を赤らめた。


 恥ずかしそうな表情か?

 下半身をくねらせた。蛇腹の鱗が恥ずかしい?

 ブラジャーが支える三つの乳房はいつも自慢気に出している。

 腹の鱗の色合いも先程は変化していた。

 蛇人族ラミアの下半身の鱗にはヴェハノ同様に謎が多い。


 あ、蛇人族ラミアの赤ちゃんも同じように腹の部分が動いた。

 すると、ヘルメが、ビアと赤ちゃんに顔を近づけて、


「ビア母さんのお腹の動きが分かるのでちゅか~」

「きゃっきゃ」


 赤ん坊はビアの顔に向けて小さい手を伸ばす。

 可愛い。


「うほほ! ホルテルマ!」


 レア声を発したビアは赤ん坊を持ち上げた。

 大切そうに赤ん坊の顔へと自身の顔を擦っていく。


 はは、長い舌の動きが、妙に面白いビア。

 そのビアに、


「訓練をするから端のほうで見学していてくれ」

「――承知!」


 ビアはそう返事をしてから実顔を出す。


「「あなた様」」


 ジョディとシェイルが飛来。

 ルシヴァルの紋章樹の近くに浮遊していた。


「よう、シェイル。挨拶回りは済んだようだな」


 二人は着地。

 白銀色と赤紫色の蝶々が絡み合って舞うから非常に美しい。


「はい、挨拶しながら血獣隊の皆さんと東の旅の話をしていました」

「そうか」


 シェイルはビアに向けて一礼。


「……はい。この赤心臓アルマンディンを巡って、諸勢力と戦ってくれた皆さんに感謝。わたしの体を保ち続けてくれた母様と父様にも、感謝!」


 シェイルは胸元に手を当てながら、滑舌良く語る。

 気合いが十分といった印象だ。


 同時に赤紫色の蝶が彼女の周囲を祝うように舞う。

 生命力が満ちあふれている。

 亜神夫婦……お前たちの魂は、ちゃんとここに居るぞ……。


 そのシェイルは俺を凝視。


「そして、あなた様にも感謝を!」


 俺も頷いた。姿勢を正す。

 亜神夫婦を思い浮かべつつ……。

 

 魔槍杖バルドークの穂先を差し向ける。


「おう。俺も無事に治ってくれたことに強く感謝しよう……そして、シェイルとジョディがサイデイルを支えてくれるなら、この楽園は未来永劫続くことになる。今後も期待しているぞ」

「「――は」」


 シェイルとジョディは片膝で地面を突く。

 ごぅぅっとした強風が吹いた。

 俺の魔力が活性化。

 自然と<魔闘術の心得>を実行したような……。

 

 <血魔力>が溢れ出る。

 ルシヴァルの紋章樹が震えたように見えたが……。


 すると、右の階段の下から子供たちの気配が。

 案の定、階段を駆け上がってきた子供たちが姿を見せる。


「やった、まだシュウヤ兄ちゃんがいた!」

「昨日もいただろ、でも訓練に夢中だった」

「うんって――」

「……っ」


 ムーがアッリを退かして前を歩く。


「精霊様も~」

「ジョディ姉ちゃんと新しい蝶々のお姉ちゃんもいる!」

「ビア姉ちゃんもー」

「あっ、ぷゆゆも!」

「本当だ、変なポーズ!」


 子供たちはぷゆゆの下に駆けていった。

 動くテディベアじゃないが小熊太郎ぷゆゆの人気は高い。


 そして、牛乳を飲んでいたら吹く自信があるポーズを繰り出していた。

 ぷゆゆは……。

 訓練場の柵の上に腰掛けて『考える人』の彫刻のようなポーズを取っている。


 ……組めていない両足といい、小熊人形みたいなくせに、生意気だ。


 ビアは笑いながら、膝が見えない小熊太郎の近くに移動。

 赤ん坊を、その小熊太郎のぷゆゆに見せるためか。


 子供たちも、だるまさんが転んだ的な遊ぶをするように走った。

 ビアは小熊太郎ぷゆゆに挨拶すると、蛇腹を活かしつつ回転。

 

 長い尻尾から風が発生。

 子供たちは「「おおぉ」」と面白がる。


「わたしも長い尻尾がほしい!」

「ぐるぐる、巻いて~」

「ぷゆぅ~」

「フハハハ――ぷゆゆと子供たちよ、蛇人族ラミアに憧れても、我の種族には、なれんぞ!」


 野太い笑い声を響かせたビア。

 子供たちとぷゆゆから逃げるように柵の近くを進む。


 そこに、ピュゥゥッと鷹の声が頭上から響く。

 荒鷹ヒューイは、ルシヴァルの紋章樹の枝から生えた葉を突き抜けて飛来する。


 ――カッコイイ。

 俺は「ングゥゥィィ!」と鳴いた竜頭金属甲ハルホンクの肩を出すが――。

 荒鷹ヒューイはスルー。

 シェイルとジョディに向かう。

 シェイルの肩に乗った荒鷹ヒューイ。


 額にある∴が輝く。


 シェイルとジョディは驚いていた。

 が、ヒューイと何かを語りつつ、跳躍。

 ヒューイと一緒に<光魔ノ蝶徒>の二人は、ルシヴァルの紋章樹の周囲をゆっくりと旋回していく。

 

 二人の体から出る白色の蛾と赤紫色の蝶は美しい。

 ヒューイはシェイルとジョディから離れた。


 旋回して俺の側に飛来。

 翼を拡げつつ竜頭金属甲ハルホンクに足先を伸ばす。

 この間も思ったが、大鷹が迫ってくるのは、少し怖い。

 ――ヒューイは、ばさばさと翼を畳ませながら竜頭金属甲ハルホンクに止まった。 


「――キュイ」

「いいこだ、ヒューイ」


 頭部を撫でてあげた。


「キュィ、キュィ~」


 喜ぶ声をあげるヒューイは頭部を斜め上に伸ばす。

 『もっと撫でて~』という感じに頭部を揺らす。


 可愛い大鷹ちゃんだ。

『主、我の魔力を……』


 と、珍しく左手の掌の魔印に棲むシュレゴス・ロードが反応。

 <シュレゴス・ロードの魔印>を意識。

 桃色の蛸足をチョロッと出して、ヒューイに上げた。

「キュゥゥ!!」


 と、喜ぶ荒鷹ヒューイ。

 嘴から桃色の蛸足魔力を吸うヒューイ。


「キュゥ♪ キュゥ♪ キュオキュゥールゥ♪」

「ングゥ、ングゥゥィィ、ングゥゥ!」

「キュゥ♪ キュゥ♪ キュオキュゥールゥ♪」

「ングゥ、ル、ングゥルゥ♪ ングゥゥィィルゥ♪」

「キュゥ♪ キュゥ♪ キュオキュールゥ♪」


 と、リズミカルに蛸足魔力を吸い取ったヒューイはご機嫌だ。

 猫の餌をあげている気分となった。


『主、ヒューイはいいこ』


 <シュレゴス・ロードの魔印>に棲むシュレゴス・ロードは子供を得た気分か。


「ングゥゥィィ……」


 ハルホンクも桃色の蛸足魔力を吸えると期待していたようだ。

 ヒューイが全部吸い取ったから、ご機嫌斜めだ。


「ハルホンク、この間アイテムをいっぱい食べたろう」

「ングゥゥィィ、ヒューイ、ノ、アシ、ツキササッテ、イル!」

「キュッ――」


 と、文句を言われたから即座に飛翔するヒューイ。

 この間のように、不機嫌そうに鳴いて突くことはしなかった。


 ヒューイは低空飛行。

 桃色の粒子を出しながら近くの柵で騒ぐぷゆゆ小熊太郎の近くに向かう。


「――ぷゆ!?」


 ぷゆゆは杖先でヒューイを突く。


「――チキッチキ!」


 荒鷹ヒューイはぷゆゆに反撃した。


「――ぷゆゆ!」


 ぷゆゆVSヒューイだ。


「わぁー、変な戦いが始まった!」

「ぷゆゆの毛が舞う~」


 放っておこう。

 すると、


「にゃお~」


 相棒だ。

 黒馬に変化しながら訓練場に着地。


 ぶるぶると口元を震わせているが、頭部の口元はシャープ。


「空の警邏は満足したか」

「ンン、にゃ」


 そう返事を寄越す黒馬っぽい黒豹ロロさん。

 

 まっすぐに俺を見た。


「にゃ」


 と、触手を伸ばして、俺の首と頬に裏側に備わる肉球を当ててきた。


『だいすき』『あいぼう』『だいすき』『ここ』『たのしい』『そら』『だいすき』『あそぶ』『またあそぶ』『にく』『おいしかった』『ここ』『いいにおい』『う゛ぃーね』『におい』『におい』『すき』『へるめ』『あそぶ』『おっぱい』『おいしい』『ろたーぜ』『くさい』『くちゃい』『へん』『たのしい』『るま』『かわいい』


 と、楽しいことが連続しておきたらしい。

 

 紅色と黒色が構成する虹彩だ。

 頬の白髭はあまり変わらず。 


 それよりも耳を注視した。 

 天辺の端からピンと生えた薄い黒毛ちゃん。


 前世だと『リンクスティップ』って言うんだったか。

 

 ――すこぶる可愛い黒毛。

 ヤマネコ風の長毛種の黒毛だ。

 頭部だけを見れば、黒豹ってよりメインクーンっぽい。


 そんなロロディーヌは気持ちを伝えてきた触手を首下に格納する。

 と、瞬く間に、ビアの近くに素早く移動。


 四肢の動きが立派すぎて、可愛さが吹き飛んだが……。

 不思議と黒毛の動きを見ると、可愛さがまた出てくる。


「神獣様! ホルテルマですぞ!」

「ンン、にゃお~」


 赤ちゃんに触れるか触れまいか、びびる相棒の触手。

 肉球は柔らかいから大丈夫だと思うが……。


 相も変わらず、ビクビクとして、面白い動きだ。


「速い~~~」

「何回見ても、かっこいい」

「神獣様だぁぁぁ」

「だいすきーー」


 今度は相棒に絡む子供たち。


「ふっさふさ! ふっさふさ♪」

「ふさふさーーー」

「あはは、ふさふさ~」


 神獣ロロディーヌの胸元と胴体を小さい両手で抱いていく。

 アッリとタークもいる。


「ンン――」


 相棒もふさふさな尻尾で応えた。


 尻尾で、子供たちの背中を優しく撫でながら包む。

 

「……っ」


 ムーは、子供たちの神獣ロロ抱きしめ会に参加せず。

 俺のことをチラッと見る。

 俺は『どうした? 参加しないのか?』と言うようにムーに対して笑顔で応えた。


 すると、ムーは、


「……――っ」


 樹槍を掲げる返事を寄越す。

 俺と槍訓練がしたいのか。


 すると、空から――。

 美しいさえずりを響かせた青い鳥が飛来――。

 ムーが掲げた樹槍の先端にその青い鳥が止まった。


「……っ」


 ムーは『あっ』と驚く。

 直ぐに、にっこりと微笑んだ。 

 ムーの表情は子供らしくて可愛らしい。


 そのまま蒼い鳥を愛しげに見るムー。


「あ、ムーが助けた蒼い鳥!」

「うん! いつ見ても綺麗な鳥!」

「いいなぁ。最近よく来るよね」

「あの時、ボクたちも一緒だったけど、ムーだけに懐いた」


 アッリとタークに子供たちが、そんな会話をしながら青い鳥を見ようとムーに近寄った。

 ムーは義手から出た糸で、その蒼い鳥を触ろうと――。

 

 しかし、その小さい蒼い鳥は「ピュ♪」と鳴いて逃げた。

 スズメように小さい蒼い鳥ちゃん。


 ――色合い的に大瑠璃って名前の鳥に似ている。


 飛翔する形も美しい。

 大瑠璃の小鳥は魔力を持つ。


 翼の形も先鋭的で他の鳥とはひと味違う。


「ふふ、ヴェニューちゃんより小さい多彩色の妖精ちゃんが宿る蒼い小鳥ちゃんです」

「へぇ、<闇蒼霊手ヴェニュー>の妖精よりも小さいか……」


 すると、戻ってきたジョディとシェイルが、


「あ、あの蒼い鳥って……」

「ゴルゴンチュラ様……」


 シェイルとジョディがそう呟く。

 ムーが助けた蒼い鳥と、ゴルっちは関係していた?


「――ギュァ」


 荒鷹ヒューイが、勝利したぷゆゆから離れた。

 その大瑠璃の小鳥を追いかけるように飛翔。


 ぷゆゆに勝利した余韻か、大鷹か荒神としての野生の衝動か?

 

 妖精的な大瑠璃を狙う?

 ヒューイを注意しようと思ったが――。


 ヒューイは大瑠璃を捕まえる気はないようだ。

 翼を傾け大瑠璃を守るように旋回。

 しかし、ムーは「っ……っ」と荒い息を吐く。

 小鼻をふくらませながら『蒼い鳥を攻撃するな、ボケェ』とでも言うように怒った。


 その可愛いムーに、


「ヒューイはあの蒼い鳥を襲うことはない。と、思う」

「……っ」


 ムーは頭部を左右に振ると、泣きそうな面に変わった。


「すまん、今戻すから。ヒューイ、戻ってこい」


 空から鷹らしい甲高い鳥声を響かせながら飛翔してくる。

 俺の肩に戻ってきた。蒼い鳥も旋回すると、ムーの周囲を飛ぶ。


「ムー、その蒼い鳥と仲良くなったのか?」

「……っ」


 ムーは頷く。


「そっか、ヒューイは、その蒼い鳥を仲間だと思ったようだぞ?」

「キュイ?」


 肩のヒューイは大鷹の頭部を傾けた。

 ヒューイは翼をバタバタ動かしつつ、また頭部を傾げた。

 可愛い。額のω、もとい、∴が今川義元の眉毛に見えてしまったが、気にしない。

 少し『まろ顔』っぽいヒューイは、俺の言葉の意味をなんとなく理解しているっぽい。


 ムーは、その大鷹ヒューイに何かを語りかけるように、


「……っ」


 息を吐くと、頭部を左右に振った。


「キュィ、キュ」


 ヒューイはムーに何かを語る。

 ムーは蒼い鳥を見て、「……」頷いてから「……っ」と、頭部を振る。

 再び「っ」と頷いてからヒューイを見る。


「……っ」

「キュ~」

「……っ」

 

 ムーは糸と樹槍と少しのボディランゲージで対応。

 ムーは肩のヒューイと謎の会話を続けた。


 俺は神獣ロロを抱く子供たちの様子をチラッと見てから、ムーに、


「他の子供たちのように、相棒の黒毛を抱きしめないのか?」

「……っ」


 ムーは『そうだ』と頷く。

 片腕で持つ樹槍を回転させる。


 肩から離れたヒューイは蒼い鳥と一緒に仲良く空を舞う。

 ジョディとシェイルも楽しそうに、その鳥たちの近くを浮遊した。


 ムーは、空の楽園は気にせず――。

 樹槍の穂先をまっすぐ俺に向けて重心を低く構えた。


 ――樹槍を前に突き出す。

 小さい歩幅だが、宙空を樹槍の穂先が突き抜ける。


 突いて、突き、突く――。

 

 はは、風槍流『焔式』か。

 最後はムーなりの渾身の<刺突>だった。


「いい動きだ、望みは訓練だな」

「……んっ」


 お? 少し声が出た。

 エヴァっぽい。


 頷くムーは笑顔満面。

 ……嬉しくなった。

 俺は微笑んでから……。


 空を飛翔するヒューイの<荒鷹ノ空具>を意識。


「ヒューイ、そのまま自由に過ごせ」

「キュイ~」


 飛翔する大鷹こと荒鷹ヒューイ。

 ――翼を広げて低空を飛翔する姿がカッコイイ。

 ムーは、また、ヒューイが蒼い鳥を追うかと思ったようだ。


 心配そうにヒューイの動きを視線で追うムーに向けて、


「ムー。焔式はマスターしたようだな?」

「……っ」


 ムーは俺を凝視。

 俺は頷く。


 そして、竜頭金属甲ハルホンクを意識した。

 

 瞬く間に素っ裸のスッパマン! にはならない。

 訓練風の衣装を整える。

 

 ヒトデバージョンと暗緑色の半袖バージョンを合わせつつの連想だ。

 瞬く間に戦士衣装を整えたが、露出が多い。

 

 左胸が空いているが、まぁいいか。


「わ、シュウヤ兄ちゃんが変身した!」

「見たことがない閣下の衣装です!」」

「アッリ、凄い! 見えていたのか!」

「ボクは分からなかった」

「うん! おっきいゾウちんちんが見えた!」

「アッリは目がいいからなぁ、弓も巧いし」

「ぼくにだって、ぞうさんは、あるぞ!」

「えええ、ばかダイ! いきなり、ちっこいちんちんを出さないでよ!」

「あぁぁぁ、タークも出そうとしないの!」

「あぅ」


 子供たちも楽しそうだ。


 ムーは……。

 義手と無事な片手で自身の頭部を覆っていた。

 両手を下ろすと、


「……っ」

 

 文句を言うように、俺をキッと睨む。

 股間に向けて、樹槍と糸を伸ばす。

 

 知らんがな。

 と、ツッコミを心でしつつ――。

 師匠のことを想起。


「ムー、いいから、次の動きを見ておけ」


 そう発言してから訓練場を駆けた。

 同時に<魔闘術の心得>を意識。

 丹田を中心とした魔力を全身に行き交わせた。

 魔穴を通した魔力を操作。

 血流と同じように体に魔力を丁寧に浸透させていく。

 

 血濡れたルシヴァルの紋章樹と植物で構成した祭壇が見える――。

 蒼い鳥は、右のほうに避難していった。


 ――一対の<霊血の秘樹兵>が樹槍を掲げてクロス。

 あの秘樹兵に<武装魔霊・紅玉環>のアドゥムブラリが寄生できる。

 ――いい訓練相手だ。


 右手に雷式ラ・ドオラを召喚――。

 跳躍しつつ柄の握りを弱めて――。


 その雷式ラ・ドオラを振り下げた――。

 雷式ラ・ドオラの穂先の杭刃が地面を叩く。

 ――雷式ラ・ドオラが地面を打った反動で振動し、手から離れて回転しつつ宙に上がった。

 回転した雷式ラ・ドオラを逆手で掴む。

 指と指の間に雷式ラ・ドオラを通す。

 ボールペンを指で転がすように雷式ラ・ドオラを横回転させつつ――。


 着地するや否や『風読み』を省略――。

 『風軍』の左足の右足避けの動きから――。

 『爪先半回転』と『爪先回転』の避け動作へと移行――。


 右足の踵を基点にターン――。

 そして、直ぐさま片足の膂力だけで『片切り羽根』を実行――。


 その直進する動作に切り替えたところで……。

 右足の爪先に体重を移し、その右足の膂力を活かす。

 右足のアーゼンのブーツの底で地面を蹴って直角に反対側に跳ぶように動いた。


 直角の動作を受けた左足のブーツ。

 その底が焦げついたように火煙が左足の下の地面から上がった。


 近くの子供たちから「おおお」と歓声が響く。


 そのまま火煙を消すように『爪先半回転』を交互に繰り返す。

 後退しつつ急にゆったりとした動きを意識――。

 回転しながらチラッとムーを見る。


 ムーは真剣な面だ。


 ちゃんと俺の動作風槍流を見ている。

 偉大な風槍流を学ぼうとする姿勢は嬉しい。

 

 雷式ラ・ドオラで、そのムーを縁取るように――。

 宙空に真円を描く――。


 その雷式ラ・ドオラを、ぐるりぐわらりと回して回して回す。 

 ムーは影響を受けて頭部を回す。

 ぷゆゆもぐるぐる回った。


 ヒューイは回って転けてぷゆゆに負けた。

 相棒もごろりと腹を見せて子供たちに負けた。


 ムーは糸と樹槍を回す。

 隣ではおっぱいを揺らすヘルメが<珠瑠の紐>を回す。


 その光景を見て笑いながら――。

 左手に雷式ラ・ドオラを移し替えた直後――。

 

 力ではない、風槍流を意識した<豪閃>を揮った。


 一回転――更に、体を捻る。

 左手を背中に回し、雷式ラ・ドオラを背に隠す。


「え! 雷式の槍が消えたぁ」

「わぁーなにー」 

「……っ」

「びゅーって風が起きて分かんない!」


 子供たちの反応が面白い。

 俺は両足の魔力を強めつつ背筋を伸ばす。

 

 体の動きを止めた。

 そのままムーへと挨拶するように――。


 アイコンタクト。


「……ッ」


 ムーはドキッとした表情を浮かべて興奮。

 ムーの義手と義足から出た糸が蠢く。


 息遣い的に少し言葉が漏れた?


 俺は、そのムーが分かりやすいように――。

 背中に隠し持ったような雷式ラ・ドオラを握った右手を、前に伸ばす。


「わぁー出たー」


 子供たちからは、突然雷式ラ・ドオラが現れたように見えたかも知れない。  

 そのまま雷式ラ・ドオラごと――。


 上半身を斜め前方へ伸ばし日射しを刺す――。

 ――片手ごと真っ直ぐ伸びた雷式ラ・ドオラの穂先から雷状の魔力が少し出た。


 動から静の流れのまま体を固定。

 ヨガポーズを意識するが……これも風槍流――。


 暫しの間を作る……。


 サイデイルの山城に風が吹く。

 蒼い鳥が飛来するが、無視。


「ふふ、美しい動きです」

「うん……」

「かっこいい……」

「槍の神様?」

「デボンチッチたちも祝福している~」

「……シュウヤ兄ちゃん雷の神様にも好まれているのー?」


 と、子供が常闇の水精霊ヘルメに質問していた。


「閣下は閣下ですよ~」


 体を風が撫でた直後――。

 両足を揃えた動きから左手に移した雷式ラ・ドオラの柄を、左足の甲で押すように蹴った。


「「わっ!」」


 高く舞う雷式ラ・ドオラ。

 子供たちは回転する雷式ラ・ドオラの機動か、俺が得物を蹴り上げたことに驚いたようだ。


 宙空に転がした雷式ラ・ドオラ。

 ホバリングしながら宙空で激しく回転、慣性で落ちてくる。

 それを見ながら――。


 右手に魔槍杖バルドークを召喚。

 右足で地面を蹴る――。


 ――俺は横回転しながら上昇。


「わぁーーかっこいい」

「とんだー」


 そして、右手が握る魔槍杖バルドークを真っ直ぐ伸ばした。

 その魔槍杖バルドークの穂先で、宙を転がる雷式ラ・ドオラの柄を掴むように――。

 雷式ラ・ドオラを回転させた。


 ――輪回しで遊ぶ要領だ。


「はははーおもしろいー」

「ぐるぐるーー」


 回転させた雷式ラ・ドオラを左手で掴んでから着地――。

 子供たちに笑顔をプレゼント。


「あははーシュウヤ兄ちゃんーー」

「おもしろいけど、かっこいいーーー」

「「うん!」」


 <双豪閃>から『風研ぎ』を連続敢行。

 旋風的な風の紋があちこちに発生。


 ルシヴァルの紋章樹から落ちた血濡れた葉を切断。

 地面にピシッとピシッと風と魔力の干渉を受けたような音が響く。


 俺は、竜魔石を地面に突き立て体勢を横に――。

 魔槍杖バルドークを支えにしつつ――。

 左手から雷式ラ・ドオラを消去。

 そして、両手で握った魔槍杖バルドークを掴んだまま体を横にした状態で――。

 クイックイッと前進――。

 脇腹と腹筋を鍛えるように、海老の動きを体で再現――。


 呼吸法もムーに伝えようと、息遣いをわざと荒くする。


 魔槍杖を支えに、ぴょんぴょん前進するたびに――。


 ふん、ふん、ふん、と、ハッ、ハッ、ハッ、ハッ。


 と、息を吐く。

 地面が竜魔石で陥没するが、構わず前進。


「――あはは、変なお魚の動きだけど凄い!」

「はっははは」

「わっは」

「わっは」

「わっはっは」


 子供たちは、俺の移動するリズムに合わせて声を発した。

 ルシヴァルの紋章樹の回りを一周したところで――。


 体を捻り魔槍杖バルドークを消去しながら、地面を両手で突いて後転。


 右手に雷式ラ・ドオラを出しつつ――。


「皆、少し派手に動くから離れていろ」

「はーい」


 と、指示。

 周囲の子供たちが柵の近くに移動したことを把握。


 急遽、敵対する二人組を想定。

 

 最初は槍使い。

 その槍使いが<刺突>を繰り出す。

 俺は、雷式ラ・ドオラの柄を斜め上の前方に伸ばし<刺突>を往なす。

 

 続いて下段から<牙衝>の刃が迫ったと想定。

 俺は雷式ラ・ドオラの後端で対応。

 短槍の雷式ラ・ドオラで宙に半円を描く。


 その<牙衝>を回転させた雷式ラ・ドオラで往なす。

 そして、連続攻撃を仕掛けてきた槍使い相手に、俺も<槍組手>を仕掛けた。


 想定した槍使いは強い。

 右手の拳がぶれて、俺は打撃を数回喰らう。

 <槍組手>からの槍剣刃の連携で、右太腿が斬られたと想定。


 そしたら、本当に右太腿から血が出た。

 痛みも味わいながら――。


 ――<魔人武術の心得>を活かす。

 『流動性と霊魔活』の『先天三盤十二勢――套路』を実行。


 右腕を伸ばし掌で、その槍使いの打撃の拳を差す形で遮った。

 成功――。

 その刹那<蓬茨・一式>を想起する、が、否だ――。


 左の掌で相手の首を落とすように打撃を繰り出す。

 しかし、凄腕の槍使いが、右手の甲で俺の打撃を防ぐ。

 想定相手を素直に尊敬――。


 ピコーン※<悪式・霊禹盤打>スキル獲得※


 スキルをゲット!?

 が、その隙に槍使いの顎を風槍流の『黒掌鋼』で砕く。

 左回し下段蹴りを鼠径部に喰らわせた。


 ――凄腕槍使いを吹き飛ばす。


 続いて風槍流『片折り棒』で前進――。

 剣士が振るった剣を前傾姿勢で避けつつ短く持った雷式ラ・ドオラの<刺突>で――。

 その剣士の腹をぶち抜いた。


 そのまま両手で円を描くようにしつつ体勢を立て直す。

 魔槍杖バルドークと雷式ラ・ドオラを消去。


 深呼吸をしていると、ムーが分かるように……。 

 ――分かりやすい所作を取った。


 ふぅ……しかし、想定相手に傷を受けるとは……。

 竜頭金属甲ハルホンクはもう修正しているが……。

 まだ皮膚にはじわじわとした痛みがあった。


 そして、スキルも獲得……。

 <悪式・霊禹盤打>か。

 シュヘリア、デルハウト、黒沸騎士ゼメタス、赤沸騎士アドモスがよく使う魔人武術の一端か。

 この間、<魔人武術の心得>と<塔魂魔突>を獲得したからな。


 清流を流れる葉っぱを連想させるように……。

 自然体のまま体の動きを止める。

 

 動から静。


 そこに拍手が響く。


「「すごーー」」

「短槍の使い方が剣にも見えた」

「……素晴らしい、なんという武! <槍組手>のほうは新しい打撃技でしょうか。閣下の扱う雷式ラ・ドオラが、もう一つの腕に見えてきました」


 ヘルメがそう語る。

 ジョディも、下半身を震わせつつ、


「魔界に通じた者たちが愛用する魔人武術を、巧みに取り入れて昇華した槍武術!」


 お漏らしをするように、白色の蛾が溢れていく。

 ビアは、


「うむぅ……我には高等すぎて分からぬが……槍と体が一体となった動きか! 敵の姿が見えた気がしたが、気のせいか?」

「うふ♪ それほどに凄い武術ということですよ。何故か、血も出ていましたが……しかし、思い出します。あなたさ、ううん、シュウヤ様と、わたしは直に戦った♪」

 

 シェイルに笑みを送ると「きゃ、あなた様……」とか言って体を震わせるシェイルは赤紫色の蝶が散って体の一部が欠けてしまった。


 一瞬、心配するが、すぐに元通り。


 さて、訓練はまだまだ――。

 

 俺はアキレス師匠を想起しつつ跳躍。

 少し仙魔術を意識。

 周囲に僅かな霧を発生させた。


 続いて、静から動に移行。

 再び両手に魔槍杖と雷式ラ・ドオラを召喚――。


 俺は地面を蹴って跳躍。

 霧の中に入り込む。

 雷式ラ・ドオラと魔槍杖バルドークを交互に振るう。

 <豪閃>を連続的に繰り出して霧を払った。

 続いて、雷式ラ・ドオラを普通に振るう。


 着地から跳躍を繰り返しては両手の武器を振るった。

 ――<豪閃>から<双豪閃>。


 続いて魔闘術の配分を変えた普通の払いを魔槍杖バルドークで実行――。


 <双豪閃>ではない。

 相対した相手のタイミングを狂わせる狙い。


 そのまま霧を溶かすように二振りの槍を振るい続けた。


「――雷光と紅色の軌跡が綺麗です――」


 ヘルメの言葉に同意したい。

 が、訓練&風槍流をムーに見せるように実行。


 穂先を目まぐるしく回転させた。 

 周囲の霧が霧散。

 着地してから――。

 魔槍杖を斜め上に伸ばしつつ雷式ラ・ドオラの柄を引いた。


 その雷式ラ・ドオラの柄で、左の胸を防御するように構える。

 竜頭金属甲ハルホンク衣装の左胸は露出気味。


 その胸元の僅かな露出を雷式ラ・ドオラでカバーする形だ。


 衣装を操作すれば露出は塞がるから防御とは関係がないが……。

 構えは大事だ。


 魔槍杖バルドークの嵐雲の穂先からは、蒸発するように湯気が出ていた。

 雷式ラ・ドオラの杭には水滴が沢山付着。


「……霧が消えた!」

「すげぇ、全部すげぇ、シュウヤ兄ちゃんの演武だ」

「うん、さっきからスゴくて興奮する!!」

「いいなぁ、槍使い!」

「ムーのお師匠様、すてき……」

「風槍流っていうんだよね、わたしも習いたい」

「いいなぁ、ボクも槍使いになろうかな~」

「カッコイイけど、俺は剣使いだ!」

「うん! キッシュお姉ちゃんとシュヘリアお姉ちゃんにオフィーリアお姉ちゃんとサザー先生がいる!」

「ボクはトン爺から指弾術を習ってる!」

「うん、あとハンカイのおっちゃんの斧!」

「ふぉふぉ、いやはや、英雄殿の武術は素晴らしいですの……ムーもいい贈り物を得た。羨ましい限り」

「こんにちは~」


 トン爺とリデルだ。

 二人はお菓子とフルーツを抱えている。


「わたしはサナお姉ちゃんとクナおばちゃんの使う魔法がいい」


 刹那、クナの金切り声が聞こえたような気がした。

 クナは、ルシェルと一緒に、樹海の南方〝名もなき町〟の闇の妓楼町にいるから気のせいだろう。


 俺はムーを見た。


「……っ」

 

 俺の動きを真似しようと樹槍と体を動かす。

 しかし、さすがに無理だ。

 

 たたらを踏む。


「ムー、今は無理をせず、今の動きを覚えておくだけでいい」

「……っ」

「はは、そんな顔をするな。いつかムーの役に立つ時がくる……俺がアキレス師匠から学んだように」

「……っ」


 不機嫌だったが、ムーは俺の面を凝視して、真剣な面を見せると、頷いた。

 そのムーの近くに蒼い鳥が飛来する。

 ヒューイはヘルメの傍だ。


 さて――。

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