六百六十七話 血の幻想とアドゥに鏡と美女の唇
――合掌!
天地は万物の逆旅――。
俺たちは一対の血の花にお祈り。
「行くぞ」
「「――はい」
<導想魔手>を蹴る。
青空に向けて相棒と皆の様子を見ながら飛翔――。
そして、血文字を皆に送る。
飛翔中にヒューイが宙に浮かんでは消える血文字を嘴で突くが、我慢した。
すると、宇宙母艦、もとい、闇鯨ロターゼと遭遇。
頭部にルマルディとアルルカンの把神書を乗せていた。
「――あ、シュウヤさん!」
「――警邏中か、今帰るとこだ」
「はい」
そのルマルディと――。
【円空】の空魔法士隊を持つ元上司の評議員ヒューゴ・クアレスマについて空中で会話。
続いて、
「その上司は元仲間の範疇ですが……空魔法士隊【空闇手】と空戦魔導師の虚空のラスアピッドを有したドイガルガ上院評議員は……空戦魔導師は名の通った強者以外にも隠れた強者が多いので、正直怖い……」
あの空極のルマルディが、このサイデイルという環境で過ごしていても怯えている。
追跡に長けた存在もいるということだろう。
と、元気を出してもらおうと、傍に寄り添って、暫し見つめ合った。
そして、唇を奪った。
「……あ」
「とっ」
強風を受けた。
すぐに<導想魔手>と<
自然に邪魔をされたが、ルマルディの切ない表情を見ることができた。
――満足だ。
「ンン――」
「しんじゅうぅ」
相棒はアルルカンの把神書と戯れる。
「ぬぉ~、五月蠅い喋る魔法書だなぁ」
「ロターゼ、警邏を頼むぞ」
「おう、キサラがいなくて寂しいがなァ?」
「そう文句を言うな、俺も寂しい」
「そうか? この金髪姉ちゃんはお前に夢中だろう? 俺も夢中だが。ガハハハハ」
ルマルディは自分の衣装を確認するように足下を見てから、太股に手を当てていた。
「にゃお~」
黒豹に変身したロロディーヌは、そのままロターゼの頭部に乗る。
「ぬお」
ロターゼの潜水艦と似た頭部が動揺したように動く。
「神獣様よ……俺の頭部は歯磨き粉ではないぞ」
ロターゼは頭部の出っ張りを相棒に噛まれていた。
甘噛みだと思うが、
「――相棒、先にサイデイルに戻る」
「にゃお~」
相棒は空旅散歩が大好きだ。
アルルカンの把神書も好きだからな。
俺は<荒鷹ノ空具>を使って背中に翼を装着。
飛翔――を楽しみながら――。
サイデイルの山城を把握。
中心のオブジェが見えた。
ヴィーネの金属鳥も発見。
名はイザーローン。
すぐに荒鷹ヒューイを意識。
翼と化した荒鷹ヒューイは直ぐに大鷹に変身。
「ピュゥゥ」
ヒューイがそう鳴いて反応。
俺は<導想魔手>を蹴った。
イザーローンにヒューイが近付く。
と、二匹は鳴き合うと、翼を傾け合う。
二匹は血獣隊とヴィーネに向かった。
彼女たちの周囲を旋回。
俺たちはサイデイルに着地。
「「ご主人様!」」
「ただいま。血文字で伝えたが、見ての通りだ」
「……」
皆、亜神夫婦がいないことに気付く。
ムーを含めて、まだ数人の子供たちが残っていた。
が、遊ぶのを止めて俺たちの会話を聞いていた。
子供たちも、こういう会話はちゃんと聞いている。
ヴィーネが、シェイルに、
「シェイル、復活ですね。よかった……」
「ありがとう、ヴィーネ。サイデイルで過ごしていた記憶は残っています。だから、世話をしてくれた皆にお礼がいいたい……」
そう話をするシェイルは胸元に手を当てながら話をした。
ジョディは微笑みながら何回も頷く。
ビアが、
「主、キッシュ司令長官に?」
「おう、そうだ。報告に行くとする。ママニたち、<荒鷹ノ空具>の件は、また今度だ」
ママニとサザーとフーは、
「「「はい」」」
と、元気よく返事。
キッシュたちが待つ小屋に足を踏み入れた。
そのキッシュに……。
ゴルゴンチュラと亜神キゼレグの事の顛末を報告。
部屋にいた皆に、無事なシェイルを紹介。
シェイルは大きな鎌の武器を出す。
すぐにでも戦えると宣言。
そんなシェイルを落ち着かせてから……。
ジョディからも短い間の濃密過ぎた治療の内容を語ってもらった。
皆、亜神夫婦のことを知っていただけに涙した。
だが、そんな空気を壊すように、俺が――。
「シェイルとジョディがいれば、今後のサイデイルは豊かになる」
と話を展開した。
「うん」
「そうだな」
「「はい」」
皆、シェイルとジョディの姿を見る。
微笑みつつの和やかな会話となった。
続いて、キッシュが……。
「人は城、人は石垣、人は堀、情けは味方、仇は敵なり」
と、発言。俺とトン爺の会話を覚えていたようだ。
偉大な戦国武将が残した言葉を繰り返す。
予め、想定していたんだろう。
やはり女王の素質がある。
ヘルメを見た。
満足そうな表情を浮かべている。
浮いている下半身は渦を巻く液体。
上半身は仏像のようなポーズ。
右手を胸前に上げて『|施無畏印(せむいいん)』。
挨拶っぽい。
左手は掌を上向きにする『|与願印(よがんいん)』。
その両手から魔法の細かい水が宙を行き交う。
幾つもの水の繭が幻想的な雰囲気を作っていた。
修行スタイルと呼ぶべきか、女神スタイルと呼ぶべきか……?
そんな常闇の水精霊ヘルメ。
お前は冗談が多いが、時折、凄まじい鬼の面を覗かせる時がある。
精霊として、最初からキッシュの気質を見抜いていたのか?
と尋ねようとしたが、指先からぴゅっと出した水で、キッシュの尻を輝かせて笑いを皆に提供していたから、真面目な会話はしなかった。
会議は続く。
正式に、アクセルマギナを紹介。
汎用戦闘型アクセルマギナと宇宙関連。
戦闘型デバイスについても、魔石を納めてもらえる無数のアイテム類。
さすがに、ここではフォド・ワン・ユニオンAFVは出さなかったが……。
更に、偵察用ドローンを説明して――。
ガードナーマリオルスが録画した映像を放映。
教団セシードから頂いた琥珀についても説明。
琥珀はキッシュの肩に乗る。
血の炎が縁取る王冠に小さい手を伸ばしていた。
相棒と同じような肉球はちゃんとある。
キッシュは女王のくせに、緊張していた。
琥珀の肉球ちゃんは、ピンク色と半透明が半々の色合い。
半透明の中に細かい魔力の流れを覗かせている。
不思議ミクロ宇宙の肉球ちゃん。
勿論、その破壊力は……。
女性が多いサイデイル首脳陣の全員を虜にしていた。
続いて、八大龍王ガスノンドロロクンの件。
リザードマンの巣と化した
戦場となった滝壺の件について、話をしつつ映像を見る。
坂道を下りつつリザードマンを薙ぎ倒してビアが進む場面では、皆が釘付けとなった。
俺も夢中になった。
偵察用ドローンとガードナーマリオルスの連携はいい。
そして、滝壺の古い蛇騎士長の墓。
祭壇的な墓碑の中に封じられていた
ヒューイ・ゾルディックとの激闘。
皆に、自慢するようにビアが熱心に語る。
俺はセンティアの手の繋がりもあるミスティとレベッカに血文字連絡。
『……マスター、何度も話をしたけど、アス家のお嬢様の発見は大ニュース。行方不明者が、突然教室に悲鳴を上げながら、入っては、普通に何事もなく、授業を受けていたって』
『あぁ……あの子、パンティはどうしたんだろう』
ノーパンで授業を?
ミスティはパンティのことは指摘せず、
『……センティアの手ってシュウヤのみの転移なのかな、周囲の声も一緒に届いていたようだけど』
『うん、不思議。そして、不思議と言えば、シュウヤが魔法学院七不思議と繋がるなんて……しかも、その子が、わたしの知る【幻瞑暗黒回廊】を渡っていたなんて、凄い能力者』
女性生徒が語っていた異空間を知るレベッカか。
『レベッカが過去に語っていた……〝彼女はロンベルジュ魔法学院の秘密を知り、独自に調査を始めて、そして……その秘密の部屋を辿り……偉大な古代の校長と謎の秘密結社を率いている謎の人物と出会うのであった! 〟って本当のことだったんだな』
『そうよ! だからこそ、魔法の地図もなしにセンティアの手を使い、【幻瞑暗黒回廊】を離脱したアス家のお嬢様は、興味深い。あ、従者って、シュウヤ……そのアス家の専属家庭教師と同じってことじゃ?』
レベッカは魔法学院で成績が良かった。
という言葉は本当のことだったようだ。
『そうなったかも? 今度センティアの手を使ってみようかな』
『……うん。でも、女子トイレと繋がっていたら?』
それは困る。
『マスター。変態として捕まらないようにね。見知らぬ冒険者が女子トイレに篭もって、うんちしていたってニュースは聞きたくない』
『シュウヤはわざと捕まるからねぇ』
二人はわざと冗談で血文字を寄越す。
『さすがに、捕まるにしろ、うんちはない。
『……そんなことになったら、わたしは盛大にスルーするからね。大騎士レムロナと王子のコネを使えば、平気とは思うけど……と、冗談はここまでにして、センティアの手でペルネーテに来たら、血文字で連絡してね』
『おう。あ、塔雷岩場で手に入れた金属の棒。ユイではなく、俺が持ってればよかったな』
『そうねぇ、まさか転移するアイテムが見つかるとは思わなかったし、でも、気長に待つわ。ギュスターブ家のアマハークの魔印を調べている最中だし、ゼクス改良とは別に、小型魔導船の設計図に挑戦中なんだ。あと、ヴェロニカのアメリちゃん関係で、聖鎖騎士団関係との戦いもある』
ペルネーテもペルネーテで忙しい。
『了解』
『ま、メルが帰ってきたようだから、戦いに関しては、大丈夫だとは思うけど』
『わたしも、まさかよ。魔法学院と繋がるとはね。ユイと一緒にペルネーテに行こうかなぁ。あ、エヴァが気に入ってくれた美味しい団子を見つけたの!』
レベッカとのお菓子談義の血文字は省略。
メル経由で、マジマーンに
メル組はペルネーテにもう着く。
ラファエル&エマサッドとベニーも一緒だ。
ホルカーバムでカルード組は降りた。
ポルセン&アンジェとカルード組は合流。
そのホルカーバムでアンジェは単独でノーラを探しているとのこと。
他のカルード組はメリッサの盗賊ギルド【ベルガット】と提携し、早速トドグディウス系の【血印の使徒】と縄張りを巡っての戦闘が起きたようだ。
そんな
【闇の八巨星】のグループの一つ、【テーバロンテの償い】が暗躍。
【スィドラ精霊の抜け殻】の勢力もいるようだ。
クレインの情報では【スィドラ精霊の抜け殻】の母体はベファリッツ大帝国。【
そう、ベファリッツ大帝国陸軍特殊部隊白鯨を母体とした血で血を洗う闇ギルドよりも、エルフ至上主義の集団だ。
エヴァの師匠でもあるクレインは、エメンタル大帝の庶子の血筋だ。
元ベファリッツ大帝国のタカ派なら……。
是が非でも、クレインを担ごうとするのは当然だと思う。
アキレス師匠とも絡んだ話は面白かった。
そんなホルカーバムの件では……。
俺が復活させたホルカーの大樹と関連した話で……。
亜神夫婦の花についての話題が続く。
が……ホルカーバムの領主については、まったく話題に出ず。
あの友は元気にしているだろうか。
「ホルカーバムの話題から離れるが、【闇の枢軸会議】のグループは巨大だな」
キッシュがそう告げた。
俺は頷く。
ヴィーネも、
「そうですね、【闇の枢軸会議】の中核の【闇の八巨星】、【テーバロンテの償い】、それらの組織が使う【八本指】、塔列都市セナアプアの評議員たちの空戦魔導師と空魔法士隊、ピサード大商会、バーナンソー商会、ヘヴィル商会……幻獣ハンター、サーマリア王国公爵の配下の【ロゼンの戒】、その公爵筋の軍産複合体、城郭都市レフハーゲンの豪商、サーマリア海軍と通じた大海賊団……」
そう発言した。
俺も、
「国を跨いだ組織か。ネズミ講過ぎて巨大過ぎる」
「……正直、どこがどこに通じているのか、把握が難しいです」
血獣隊のフーが発言。
皆、頷いた。
俺はふと、ハイグリアを想起。
バーナンソー商会を追いつつ関係した組織は潰しているはず。
が、蜥蜴の尻尾切り的な状況になることは、簡単に予想ができた。
しかし、神姫だ……。
セナアプアに単独で乗り込んで、
『発見した! お前が悪の親玉だな! 白鯨の血長耳の盟主、覚悟しろ!』
と、【魔塔アッセルバインド】とエヴァたちがハイグリアを止めつつも、勘違いしたハイグリアが、レザライサに襲い掛かっているかもしれない。
そんな冗談的な妄想はさておき……。
……東と西の戦争絡みもある。
オセベリア王国の一部の高級官僚と繋がりもあった【七戒】が瓦解したことで、色々と力関係が動いているようだ……。
そんなこんなでキッシュの仕事量を体感。
だから悪いとは思うが、
「逸品居に関してはキッシュに任せる」
「分かった」
そのジョディとシェイルに『暫くは自由に過ごせ』と言ってから――。
ヘルメを格納。
その日はすぐに家に帰って寝た。
次の日は血文字も送らず――。
ルッシーとヘルメ相手に庭の訓練場で――。
ずっと一日中訓練に励む。
風槍流の基礎を意識した動きから――。
<血穿・炎狼牙>を繰り返す。
<刺突>という<刺突>の連続突きに――。
<白炎仙手>と<
仙魔術と闇の空間が混じった異質な訓練場となった。
続けて、<武装魔霊・紅玉環>を意識。
指輪からアドゥムブラリを出す。
「よう、アドゥムブラリ」
単眼球のアドゥムブラリは周囲を見る。
「主、魔煙草はないの……ん?」
「光と闇の訓練場だ。気にするな」
「そう言うが、ルシヴァルの紋章樹が光り輝いて、めっちゃ綺麗じゃねぇか! ここは魔界かよ!」
「いや、サイデイルの頂上付近だ。隣に山があるが、自宅もあるだろう」
「ふむ……」
アドゥムブラリは俺の家を見て、そう呟く。
俺はその間に<霊血の泉>も意識。
同時にルッシーにも、
「ルッシー、<霊血の秘樹兵>の一体をこっちにもってきて」
「わかった!」
すぐに、血濡れた樹兵が歩いてきた。
「アドゥムブラリ。<霊血の秘樹兵>に宿ることは可能か?」
「可能だ。なるほど……俺と
「そういう訳だ。元イケメンさんよ、いい闘い相手になってくれないか?」
同時にアドゥムブラリの額に
「いいぜぇ。魔界の武術家の一面があった俺様! 元魔侯爵の実力を見せてやろう!」
闇炎で燃えたアドゥムブラリ。
指輪から離れて、ルッシーの<霊血の秘樹兵>の頭部に向かった。
闇の炎を帯びた触手を、頭部に纏わせると、闇の炎が<霊血の秘樹兵>を包む。
瞬く間に、ルシヴァルの紋章樹を宿した闇の秘樹兵が完成した。
角がある仮面か。
そして、まだ衣服のような防護服には樹木が残るが……。
魔界騎士のような見た目だ。
本当にイケメンさんの雰囲気がある。
「主……準備はいいか?」
武器は槍と幅が広い剣に小さい赤色の短剣が幾つも浮かぶ。
元々は<霊血の秘樹兵>だが……。
シュミハザーの時にも見せていた赤色の短剣がある。
魔侯爵アドゥムブラリとしての武器と構えか。
魔人武術の一端を学べるかな。
「おう」
こうして、アドゥムブラリとの凄まじい激闘となった。
皆、俺たちの雰囲気と魔力の衝突を受けて……。
高台に来ることはない。
ヘルメたちが気を利かせたのだろう。
訓練で疲れたような面を見せたアドゥムブラリを仕舞う。
魔煙草を吹かしたまま――。
<血外魔道・暁十字剣>で放り投げた血魔剣と――。
<投擲>した魔槍杖バルドークが落ちてくる。
――もう夜だ。
ホルカーバムに行くか、ペルネーテに転移するか、鏡の回収が先か、セナアプアの仕事に乱入しつつ、カリィとリズの一戦の見学か……。
魔槍杖と血魔剣を<
刹那、下から小さい魔素が――。
◇◇◇◇
すると、トン爺が出入り口から顔を見せた。
「英雄殿。話は聞きましたぞ……飲まず喰わずの訓練に訓練を重ねていると」
「……済みません」
「英雄殿。わしらもまた亜神夫婦に救われた……『死生、命あり』ですじゃ。そして『竜馬の躓き』とも言いますからの……気にしないことですじゃ」
「……ありがとう。トン爺の言葉は胸にくる」
「ふぉふぉ。気持ちが楽になれば、こと幸い。無駄に歳は重ねていないつもりですじゃ……」
トン爺を攫って生かしていたヴァルマスク家のその理由が分かった気がする。
「身が引き締まる思いです。トン爺の軍略でキッシュを支えてください」
と、頭を下げた。
「英雄殿……元より老骨に鞭打つ覚悟ですぞ」
「心強い」
「ふぉふぉ。謀を以て謀を討つ。のような助言は可能ですじゃ」
底の知れない知慮を感じた。
少し怖い印象を受けたが……。
「……トン爺は城下町にいたのですか?」
「そうですじゃ。子供たちのお守りついでに貿易の交渉ですじゃ」
「ヘカトレイルだけでなくヒノ村の商会との交渉もあるようですね。ハイム川黄金ルートを活かすための。そして【天凜の月】の内部商会の【月の連金商会】との商売も順調と、キッシュは語っていました」
「ふむふむ。ペルネーテ、ホルカーバム、ヘカトレイル、セナアプアのハイム川黄金ルートは重要……」
「転移陣がありますから、どうでしょうか」
「ふむ。しかし、その転移陣を利用した商品の搬入については、量が期待できないと判明。転移陣には色々種類があるようですじゃ。クナ大先生の魔法論は一見簡単に聞こえますが、とんでもなく深い。わしは、頭が回らなんだ……と、要するに、ハイム川の黄金ルートを利用するには、最初のヒノ村までの陸路こそが大本命。サイデイルの活路はそこであると、告げにきたのですじゃ。そして、フェニムル村にも関わるリエズ商会との交渉が済めば、自ずと鉱山都市タンダールにも通じる。その話し合いをしておったのです」
『ローマは一日にして成らず』
有名な言葉を想起する。
トン爺の先を見据えた言葉に、自然と拱手――。
すると、トン爺の背後で何かが揺らいだ。
――格好も何か軍服的な衣装だ。
もしや、老子とか、偉人の加護がトン爺に?
片目を渋く瞑るトン爺は視線がギラつく。
右手の数珠が少し光った。
「――分かりました」
偉大な軍師にラ・ケラーダ。
そして、またまたキッシュの仕事量を感じた。
役割分担をしているようだが……。
貿易=儲かる=盗賊=モンスター&冒険者=権力=貿易。
すべてが繋がる。
考えることは多岐に渡るから大変過ぎる。
「それでは、キッシュ司令長官のところに戻りますわい」
軍師兼料理人のトン爺はそう語ると下がった。
魔煙草を消して仕舞いつつ……。
「あ、坂がきついでしょうから、送ります」
「おぉ――」
トン爺を素早くキッシュのとこに送る。
緑色のローブでベルトは新しいが体重は軽い……。
キッシュの小屋には、ヴィーネとルシェルがいた。
クナもいる。
三人とアイコンタクト。
エジプシャンメイクが似合う女性。
神秘的な風貌のルシェルだ。
ルシェルは西の戦いの結果と戦利品の納入の報告で、ここに来ていた。
他にも魔法の件もあるようだった。
「んじゃ、一旦、俺の家かな」
「おう、ルシェルとクナもいいな」
「「はい」」
月霊樹の大杖を握るクナも頷く。
因みに、大魔術師級のエロいクナさんだが……。
昨日、会議中に俺があげた高級魔力回復薬ポーションと高級回復薬ポーションと魔力増幅薬ポーションをがぶ飲みして数度失神している。
そのクナと、ヴィーネとルシェルを連れて自宅に向かう。
外に出たところで――。
ヴィーネがイザーローンを口笛で呼ぶ。
直ぐに空から――。
「ピュ」
と声を響かせた
ヴィーネはベルトの小さい箱に格納。
リザードマン戦では見かけなかった。
外にいたヒューイは神獣ロロディーヌの傍に向かう。
「相棒~鏡を回収してくるからな~」
「にゃごぉぉぉ」
夜空に火炎を吹いて、一気に明るくしていた。
ロターゼと傍にいるルマルディはびっくりしている。
肉球マークを夜空に描くアルルカンの把神書。
何故か、俺たちのほうに逃げてきた。
そんな面白くもあるアルルカンの把神書から逃げるわけではないが――坂に向かう。
ステップするように階段を上がって訓練場に到着。
ルシヴァルの紋章樹だ。
ムーたちはいない。
蛍のような血の妖精……。
雪の結晶を再現しているような妖精もいる。
デボンチッチたちが不思議な音楽を奏でていた。
血の幻想世界か……。
非常に美しい夜景だ。
「ご主人様、綺麗です」
「あぁ」
と、ヴィーネが寄り掛かってきた。
クナとルシェルも傍に来る。
「はい、いつになく活動的なルシヴァルの紋章樹」
「きっとシュウヤさんがこの場にいることが嬉しいんですよ……」
二人はそう語ってくれた。
一気にデート気分となった。
三人の美女と夜景を鑑賞……。
『……綺麗だの』
いや、沙もいた。
『ふふ』
元気な左目に棲むヘルメさんもいる。
「……」
首に吐息がかかった。
ヴィーネだ。
そのヴィーネの瞳は潤んでいる。
薄い紫色の上唇が微かに動く……。
綺麗な白い歯を覗かせた。下唇の襞に艶がある……。
ヴィーネがキスを望んでいることは分かった。
そのままヴィーネの愛しい唇に――俺は自分の唇を優しく当てた。
「……ぅん」
と、色っぽい声を出したヴィーネから強いバニラの香りが漂った。
続いて、「シュウヤ様、大変です――」
クナの声だ。
「――え?」
と、振り向いた瞬間にクナに唇を奪われた。
すかさず、ルシェルが「シュウヤさん~」と正面からおっぱいアタックを喰らわせてきた。
ヴィーネは遠慮して後退。
クナは弾かれてムキになるが、ヴィーネに止められている。
俺はルシェルを抱きかかえながら柵の上にルシェルのお尻を置いて……。
ルシェルの背中を指でマッサージしつつ、そのルシェルと濃厚なキスを堪能。
「次は、わたしも……」
「ご主人様、次は……」
そのまま三人で幻想世界のキス祭りに発展。
『……今宵はもっと楽しむといい』
沙が珍しく嫉妬しない。
しばし、美女たちと夜景を楽しんで自宅に戻った。
あれ、リビングにはリデルのみ。
すると、
「あ、おかえりなさいぃ~!」
「裏ですよぉ~!」
サナさん&ヒナさんの大きな声だ。
家の裏のほうから響いてくる。
「――裏かぁ~、何をしているんだぁ?」
「調理に使える茸と草が生えている地下室です~」
「地下室ー? 造った覚えはないぞー」
「この間、ルッシーちゃんがぁ、『げいじゅつ! ばくはつぅ』と、いきなりぷゆゆちゃんを吹き飛ばして、この家の真下に樹で囲う洞窟的な地下空間を作ったんです?!」
大きな声の報告を聞いて耐震強度とか大丈夫か?
そんな高台の地盤に疑問を持ちつつ、リデルと
そうしてから二階に移動した。
けん玉かぁ……。
<邪王の樹>で頑丈なけん玉をプレゼントしたら、ツラヌキ団のメンバーたちも喜ぶかな。
と、考えながら二つの鏡を見た。
パレデスの鏡とゴウール・ソウル・デルメンデスの鏡。
同時に背後の階段から「クククッ」と不気味な声を発したクナ。
そのクナが俺を押しのけて鏡を見ると、金色の双眸がギラつく。
一階のリデルが作ったリンゴパイを運んでいるクナでもある。
食べつつ口が膨らんで興奮状態のクナさんでもあった。
そんな興奮状態も魅力的なクナさんは……。
モリモンの古代秘具の件。
六幻秘夢ノ石幢の件。
これらにも食いついていた。
「通行手形でもある貴重な秘具! 六幻秘夢ノ石幢は武装魔霊的なアイテムかも知れないです! その獄魔槍譜ノ秘碑の魔界の八槍さんより、魔槍鳳凰技・滅陣の秘碑!? がとっても気になります! そして、ハルホンクが!」
「ングゥゥィィ、クナ、ノ、チ、マリョク、アル、ゾォイ!」
ガラサスと同じくハルホンクもクナの血に反応する。
そのクナは、興奮して鼻血を出しつつ……。
俺が上げた器雲術書の解説が早口で始まった。
紋章理派がどうとかの蘊蓄が……。
リンゴパイを数個、目の前で数個浮かしつつ、食べながらで、器用だが……。
「食べるなら食べるで、待つから落ち着け。そして、ヴィーネ、ムサカのドワーフ商会の委細をクナに」
「はい、戦場では……斯く斯く云々」
興奮したクナはヴィーネに任せた。
紅虎の嵐のルシェルに視線を向ける。
側にある座椅子に腰掛けた。
――早速、隣に座るルシェルが、
「シュウヤさん、隊長やベリーズではなく、わたしだけですが……」
「いいって。ルシェルも眷属の<従者長>で、一緒に夜を楽しんだ仲でもあるし、大切な家族の願いでもある」
と、ルシェルの瞳を見る。
ルシェルはポッと表情に赤みが差した。
「……はい」
肩を俺の胸元に寄せてから、キスをせがむように頭部を傾けた。
そのまま――。
「ご主人様……さっきの続きでしょうか?」
「<魔導使い>から、生意気に進化した<雷光血師使い>! 弟子にするのは却下しようかしらん?」
と、ヴィーネとクナだ。
強烈な魔力を発しながら近付いてきた。
クナにパイを差し出されたが、いいと却下。
俺は瞬きをしながら、
「……ルシェルが、魔法に詳しいクナの弟子になりたいって気持ちも理解できる。キサラも言っていたが、ルシェルの光魔法には興味があったんだ。あの魔竜王にも効いていた光魔法は強力だった」
と、無難に話を切り替えた。
そして、ルシェルの腰を注視。
黒色のバインダー、装丁された本的な物だが、雷属性のスクロールが大量に収まっているのは知っている。
「ヴィーネさんと同じく雷属性もあります、ルシヴァルと親和性のある光属性も……しかし、《
「詳しく頼む」
「はい、山中でした。依頼の帰りで、匪賊集団から襲撃を受けていた冒険者グループを見つけて、サラ隊長が突っ込み、ブッチも乱入。狙い澄ましたベリーズの弓と、わたしの魔法で、その冒険者たちを救ったからなんです」
「……その救った中に神聖教会の魔法書を持つ人材がいたのか」
「はい。わたしの家系を把握したのか、分かりませんが、助けたお礼にと貴重な魔法書をくれたのは、緑の法衣を着た美人な方でした。教皇庁一課遺跡発掘局と関係がある、とだけ教えてくれました」
「アドキンス家とは神聖教会と関わりが?」
「そうです。過去に北のゴルディクス大砂漠を越境した【光ノ使徒探索騎士団】、【聖王探索騎士団】、【霊王探索騎士団】、【古の精霊王探索騎士団】の一団に所属していた大司教の血筋がアドキンス家。わたしは<
聖王探索騎士団の話なら何度か聞いたことがある。
宗教国家ヘスリファートが、世界各地に送っている軍隊的な使節団だろう。
が、寛容とはかけ離れた……。
至誠心のない他者を一方的に排する行為は理解しない。
「……だから強力な光の魔法が使えたのか。納得だ」
「はい」
「よし、俺は鏡を回収するため、セーフハウスに向かう」
「わたしも一緒に行きます」
「了解」
皆で、ゴウール・ソウル・デルメンデスの鏡を潜った。
クナのセーフハウスにワープ。
樹海の最南端的な位置にある八支流の一つ、サスベリ川。
その高台にある名もなき町に到着。
「シュウヤ様。では、この輝く液体を商売に利用しますので」
と、クナは転移陣素材の改良に使える黄金色に輝く粘液が入った半透明の魔法袋を見せた。
「分かった」
クナも何気に忙しい。
転移陣構築の素材入手&サイデイルの地下室改良の件。
【天凜の月】の闇ギルドの仕事と関係した【闇の妓楼町】の闇のリストの一人、ヒストアンと会う。
クナは、魔法を学びたいルシェルを連れて、その【闇の妓楼町】に出かけた。
ピアニストのヒストアンさんが活動する町でもある【闇の妓楼町】。
そこは【闇の八巨星】たちがせめぎ合う場所でもあるが……。
ま、月霊樹の大杖を持つクナと<従者長>のルシェルなら大丈夫なはず。
俺はゴウール・ソウル・デルメンデスの鏡を回収。
城塞都市ヘカトレイル行きの転移陣も確認。
「さぁ、俺たちはサイデイルだ」
「はい」
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