六百六十話 ゾルディックとの激闘

 共通語?

 その声は下の魔素と同じく心臓部からか。


「――滅する!」


 重圧的な振動波のような声を寄越す。

 次の瞬間――、

 出現した歪な魔法陣から赤黒い閃光が迸る。

 赤黒い閃光は内臓を焦がし俺に迫った。


 咄嗟に、


『シュレゴス・ロード――』

『主――』


 左の掌から半透明の蛸足集合体シュレゴス・ロードを出す。

 桃色の粒子を帯びた半透明の蛸足が目の前に蓮の花を模って盾として展開。

 蓮の盾シュレ盾を用いながら横に移動――。

 <血液加速ブラッディアクセル>に対応した赤黒い閃光は追尾してきやがった。

 そんな俺を捉えたかに見えた赤黒い閃光を蓮の盾シュレ盾が魔力として吸収。

 <シュレゴスロードの魔印>から出た魔線の半透明の蛸足集合体シュレゴス・ロードが、一瞬膨らむと、その膨らみと合わせて唾を呑み込むような喉音が響く。


 同時に<生活魔法>で水を撒く。


「ングゥゥィィ、ハルホンク、モ、マリョク、ノミタイ!」


 ハルホンクらしい。

 んだが、わざわざ痛そうな攻撃は受けない。


 <導想魔手>を蹴って宙空を飛翔。 

 宙空から――。

<仙魔術・水黄綬の心得>を意識しつつ仙魔術を発動。

 続けざまに<導想魔手>を蹴る。

 また高く飛翔。

 俺を追う赤黒い閃光と魔法陣の数を把握。

 ――<水神の呼び声>を発動し霧の蜃気楼フォグミラージュの指輪を使う。

 蓮の盾シュレ盾を消去。

 濃霧と分身体を周囲に発生させつつ――。

 同時に右手の魔槍杖バルドークを左手に移す。

 右手に雷式ラ・ドオラを召喚。

 俺の霧分身がゾルディックの赤黒い閃光を喰らって消えゆく中――<白炎仙手>を繰り出した。

 心で合掌ポーズから右の掌と左の掌を貫手に変化させるイメージを詳細に描く。

 その貫手を押し出すイメージと――。

 クナの治療経験の様子も刹那の間に想起。

 方々の濃霧世界から飛び出た荒ぶる意思がある<白炎仙手>の無数の白炎を纏う貫手が、ゼロコンマ数秒も経たないうちに、ゾルディックの生み出した骨魚の一部と赤黒い閃光を出して俺を攻撃していた魔法陣を貫く。


 ――よし。

 成長を実感できる貫手の速度と手応えだ。

 赤黒い閃光は消えた。


「ングゥゥィィ……」


 赤黒い閃光を浴びたかった?

 不満気なハルちゃんだ。

 まったく――。

 雷式ラ・ドオラで<雷水豪閃>を発動。

 滔々と沸き立つ水蒸気を纏う雷式ラ・ドオラの先端から水と雷が共鳴する水雷の刃が迸った――。


 水神アクレシス様の加護を得た激烈な<雷水豪閃>。


 俺の霧分身や<白炎仙手>ごと左側のゾルディックの骨と筋肉と内臓を切断。


「――グアァァ」


 とゾルディックは凄まじい悲鳴を発した。


 光が横から射す。

 俺は足場も失い下降――。


『沙、左側の下に向かう』

『分かった。変な巨大骨魚が出たから、それを貫いてから戻る』

『了解』


 そのまま<導想魔手>を利用しつつ下に向かう。

 下のほうにある巨大な魔力の反応と声の正体は……。


 人型だった。


「判別不能。未知のモンスター種:ノースコード:アルファ:ゴイデイルン級と認識」


 そうアクセルマギナが分析。

 ゴイデイルン級とは、他の惑星にも、こんな怪物がいるということか。


 その怪物は、魚と人に近い頭部を持つ。

 額に∴と卍の形が合わさった渋い魔印がある。

 瞳は二つで鼻は高い。

 魚人だが、イケメンの部類。

 頬には、輝くクリスタルが生えていた。


 生えたと言うより、頬を貫通したクリスタルか。

 クリスタルの中を行き交う燐光した魔力の流れ。


 一瞬、ホフマンを想起した。

 ホフマンの十本の黒い燃えた爪剣と連動した拳の甲。

 その甲の上に嵌まった試験管の中には小型蟲がいた。


 そんなホフマンの勢力と神界の勢力の戦いはどうなったのか不明だ。


 肝心のイケメン魚人こと、ゾルディックを凝視。


 顎と首には魚人らしい連なったヒレがあった。

 腕は四つ。


 背中に二つの細長い腕を持つ。


 猫獣人アンムル的な四つの腕だ。


 背中の細長い一対の腕は槍にも見える。


 マントはないから丸見えだ。

 鎧は鱗ばかり。

 足は人族のように、二足歩行ができる足。

 その足には、ヒレがいたるところにある。


 フィン的な武器になりそうな足ヒレが備わっていた。


 その人型魚人は体中から放射状に出た筋肉のワイヤー的なモノがゾルディックの臓器の類と肉の壁と繋がっている。


 臓器の類は魔道具だろうか?


 蜘蛛の巣で待ち構える大蜘蛛をイメージするが……。

 一瞬、ゼレナードが造り上げた……。

 星鉱独立都市ギュスターブにあった巨大な繭類を想起した。

 魔道具染みた臓器の類と肉の壁は自身の能力強化に用いる素材とか?

 または巨大な大怪物が食べた素材と魔素に魂を直に吸収するための魔道具だろうか。


 単なる栄養かハンマーの武器か?

 その魔人か魚人的な存在が、


「……神界の、我を封じた手合いの者か?」


 と、発言。

 さっきは攻撃してきたが、俺を見て先制攻撃を仕掛けてこない。


 意外に話が通じるタイプか?


 魔槍杖バルドークを肩に乗せる。

 用心しつつフレンドリーを意識して、


「神界の手合いではないです。種族は光魔ルシヴァル。異邦人な槍使いです」

「異邦人……我を封じた者と関わる者か。しかし、我の、荒神の領域を壊しつつ、ここまで侵入できる者など……」


 魚人っぽい方は、そう語ると、俺を凝視する。


「で、名前はヒューイ・ゾルディックで正解ですか? サザナミで大暴れとか」

「……そうだ。正式にはゾルディック。我を封じた勢力と関わる者でありながら、神界の糞共の手先ではないのか……魔界セブドラの手合いか。だとするならば、我を滅する気だな?」


 そう発言しながらゾルディックは周囲を窺う。


「どこの勢力だろうと構わんだろう。攻撃を受けたから攻撃を返したまで。ゾルディックを封じた力は、蛇人族ラミアの赤ん坊の力でいいのか?」


 俺がそう聞くと、視線を鋭くさせるゾルディック。


「……やはり、サザナミの追っ手か」


 俺の問いがどうしてサザナミに行き着く?


 刹那、魚人魔人ことゾルディックは魔法陣を生成。 

 その魔法陣から魔線、いや光線を出してくる。


 ――不意打ちのつもりか。

 俺は体を捻って、その光線を避けた。

 前髪が焦げる。

 刹那、上から仲間の反応が――。


「主、我も参加するぞ――」


 ビアだ、黒い龍の剣を振るいつつあるビア。


「――なんだァ? 蛇人族ラミアだと?」

「我は光魔ルシヴァル<従者長>ビアの使役を受ける八大龍王ガスノンドロロクンである!」


 そう叫ぶのはビアではなく、黒い龍ことガスノンドロロクン様。

 そのガスノンドロロクン様から凄まじい魔力の波動が出ていた。


「「喰らえヒューイ・ゾルディック――<古式武術龍ノ理>」」


 ビアの強烈な叫び声とハモるガスノンドロロクン様。

 ビアは、ガスノンドロロクンの剣を振るった。


「「<武法・龍ノ牙>――」」


 黒い龍は拡大しながら剣から離れると、凄まじい勢いで、ヒューイ・ゾルディックの人型に向かう。


 ゾルディックは表情を歪ませる――。

 背中から出た細長い両腕を真上に伸ばした。


「――<ラ・ジェームの環>」


 側の筋肉は盾型の積層型魔法陣に変化。

 幾重にも重なった魔法陣と<武法・龍ノ牙>は激突。

 衝撃波が俺たちを吹き飛ばす。

 周囲のゾルディックの内臓も消し飛ぶ。

 俺は<導想魔手>とシュレを発動。

 足場に<導想魔手>を利用しつつシュレの桃色の蛸足を左手から出して、背中を押さえてもらった。


 <武法・龍ノ牙>と<ラ・ジェームの環>は相殺。


「なんだと!」


 ビアは驚きつつ突き出た岩壁に着地。

 ガスノンドロロクン様は剣の内部に戻る。


 ゾルディックは<ラ・ジェームの環>を用いて、ビアとガスノンドロロクン様の強烈な一撃を防いだ。

 そのゾルディックは宙に浮かんだままビアを見て、


「神界の力もあるようだな……が、東邦の異邦人が用いた特殊な力は、ないと見た」


 そう発言すると、ビアは無視して、


「主、この魚人が、ヒューイ・ゾルディックか! 我の祖先の赤子は、この頬にクリスタルを刺す変態魚人を封じていたのか!」

「――我を、魚人だと!?」


 怒ったゾルディック。

 血が上ったように面の表情が変化した。

 顎と首の鰓と、頬のクリスタルがゾルディック専用の面頬を模る。


 基本は魚人だが、額の∴と卍が合わさるマークも輝いた。

 少し格好いい。


「魚の頭を持つから魚人であろうが!」


 と、素直に指摘するビア。

 そのビアは、岩場に尻尾を引っ掛けてぶら下がっている。


 ガスノンドロロクンの剣を差し向けているが、体重で落ちそうだ。


 興奮したゾルディックは、


「我は魚ではない! 荒神ヒューイを取り込んだ、東邦魔龍鬼ゾルディックである。無礼であるぞ」

「荒神も東邦の魔龍鬼も、知らぬわ!」


 ビアは叫ぶ。

 俺も知らない。


「荒神を取り込む? 東邦のサザナミで暴れていたようだのぅ」


 ビアの<血魔力>を得て活性化している黒い龍のガスノンドロロクン様が発言。


「……その言い草、サザナミの関係者でもないのか? だからこその血の魔力か……双蛇神の末裔でもない? 驚きだ。吸血鬼の流れを汲む、定命の蛇騎士共の範疇か……」


 ゾルディックは、ビアの<血魔力>を見て分析したらしい。

 しかし、神々が持つような八蜘蛛王審眼ヤグーライオガアイズ風の特別な鑑定眼は有していないようだ。


 そこに――巨大な岩の崩落。

 巨大な岩は、ゾルディックの頭部に向かう。

 ゾルディックは俺たちを見据えながら――。


 四つの内の二つの腕を真上に出す。

 その二つの腕は刃状に変化。


 ブロードソードかグラディウスのようなソード刃で巨大な岩を両断。

 二つになった巨大な岩は落下。

 巨大な岩が湖面と衝突した衝撃で湖から勢いよく水が噴き上がり水飛沫が発生。

 滝が逆流するほどの勢いだ。

 一気に不可思議な水の世界となった。

 同時に下の湖面に新たな巨大な足場が作られたことになる。


 俺は肩に預けた魔槍杖バルドークを消去。

 <武装魔霊・紅玉環>を意識。

 紅玉環を触ってアドゥムブラリを出す。

 指環の表面がぷっくりと膨れた。


 その額にエースを刻む。


「アドゥムブラリ。拳に<ザイムの闇炎>を頼む」

「了解した!」

「――主、我に宙空の戦は無理だ、すまぬ」


 ビアは謝りながら、湖面にできたばかりの岩場に着地。

 素早く蛇腹で着地の反動を利用しつつ崩落を避けながら岸に向かった。


 降り掛かる岩と水飛沫はガスノンドロロクン様の黒い龍が切断。

 俺のほうにも水飛沫が大量に降り掛かってくる。

 闇炎を纏わせた両手を振るって水飛沫と飛来する岩を防ぐ。


 俺はビアに向け、


「――気にするな、そのまま避難しろ」

「拳を闇の炎で燃やした? 異質な吸血神ルグナドの尖兵どもが!」


 ゾルディックは片腕を振るうと、腕の先から氷礫を発生させる。

 氷礫でビアを狙うが、ビアはガスノンドロロクンの剣を用いて氷礫を弾きつつ岩の影に避難。


「吸血神ルグナド様とは関係がないんだが。ま、今更か」


 そう語った俺を、ゾルディックは見る。

 降り掛かる水を吸収するような双眸だ。


 そのゾルディックの双眸には魔力が潜む。


 魔法系統の魔眼か?

 背中に魔力が集中。

 背中の手を用いた<ラ・ジェームの環>を繰り出す気か?


「魔界でも神界でもない、異質な拳を持つ者。どちらにせよ我を封じた異邦人の部類……」


 ゾルディックはそう語ると……。

 予想通り、背中から細長い一対の腕を真上に出した。

 その両腕で、神に祈るようなポージングを取る。

 刹那、積層型魔法陣が、瞬く間に、その両腕の周囲に出現。


 そのゾルディックに<血鎖の饗宴>か<鎖>で攻撃しようかと思った刹那――。

 斜め上からの光り輝く一閃が、そのゾルディックの両腕を捉えた。


 凄まじい神々しい一閃だ。

 周囲の水世界を構築していた飛沫さえも切断していた。


「グアァァァァ」


 ゾルディックの悲鳴が谺する。

 切断されたゾルディックの両腕と、その切断面から盛大に噴出した血飛沫が宙を舞った。


「――ヌハハハ」


 沙の爽快な笑い声。

 同時にゾルディックが造り上げていた積層型魔法陣も崩壊。

 神剣に乗った沙は、その崩壊さえも許さないように舞い戻る。

 軌跡のような魔法陣を貫いては、ゾルディックの細い両腕を再度貫いて、木っ端微塵に処した。


 沙は血飛沫と魔力を吸い取る。


 ――すげぇ。


「沙! よくやった、戻ってこい」

『うん!』


 素直な大人の沙だ。

 沙は会心の笑みを寄越すと、仙女の衣から煌びやかな魔力を噴出させた。

 そのまま迅速な勢いで飛翔してくる。

 沙は両手を拡げて胸元の衣装を顕わにしつつ俺を抱くような飛びつく姿勢で神剣から離れた。

 先に、左手の運命線の中に、沙が乗っていた<神剣・三叉法具サラテン>が突入。

 無事に神剣を格納。


 ――刹那、大人びた沙は、少し怒ったような表情を寄越しながら消える。


「その闇の炎を持つ拳といい、槍使いとは名ばかりか?」


 そう発言したゾルディック。

 表情を歪めたまま俺を睨むと、背中の両腕を再生させた。

 同時に魔力を放射状に出す。


「さぁな」


 俺はそう発言しながら用心。


「……この蛇人族ラミアの地とリザードマンの地を滅ぼすついでだ。飛んで火に入る厳冬の虫。我が直々にお前を吸い取ってやる。<魔雹龍雨>で固まれ――」


 夏の虫じゃないのか?


 ゾルディックは周囲の水飛沫を瞬時に氷の弾丸に変える。

 その弾丸を俺に向けてきた。

 常闇の水精霊ヘルメのような力があるようだ。


「――」


 <導想魔手>を蹴って右に飛翔。

 左手にデュラートの秘剣を出す。

 <光魔ノ秘剣・マルア>を意識。


『御守りします――』

『一時だが、頼む』


 黒髪で左の半身を覆う黒盾を作る。


 『シュレゴス・ロードも頼む』と頼んだ直後、『主、了解している』と念話が伝わると体の右側に半透明の蛸足集合体シュレゴス・ロードが展開。


 マルアの黒盾と半透明の蛸足集合体シュレゴス・ロードは飛来する氷の弾丸を防ぐ。


『マルア、俺はデュラートの秘剣を離すから即座に実体化するか、デュラートの秘剣で戦闘型デバイスに戻れ。ゾルディックとは戦わないでいい。実体化するならビアと連携だ』

『はい』


 血魔力<血道第三・開門>――。

 <血液加速ブラッディアクセル>を発動。

 ――俺は再び<導想魔手>を蹴った。


 マルアの黒髪の盾と半透明の蛸足集合体シュレゴス・ロードを拭い取るような機動で前に出る。

 そのマルアはデュラートの秘剣と化すと戦闘型デバイスに戻る。


 魔力を体から噴き出したゾルディックは俺の加速する動きに呼応。


 前に出たゾルディックは体に繋がる筋肉のワイヤーを操作。

 臓器の類と肉の壁を寄越す。

 飛来する、それらの臓器の類と肉の壁と氷の礫を――<血鎖の饗宴>ですべて迎撃。


「――見事な闇と光の混合した鎖の技ぞ」


 余裕で語るゾルディックに<血鎖の饗宴>を向かわせた。

 ゾルディックは再生させた背中の両腕をぐわりと回し伸ばす。


「が、破壊の王ラシーンズ・レビオダの眷属と同じ――我の<ラ・ジェームの環>には通じん!」


 <血鎖の饗宴>は何層にも重なる巨大な魔法陣を侵食するように貫いていく。

 が、途中で止まった。


「何層も貫いたとは、驚きである。センティア的な魂の力もあるのか。が、我は、あの荒神ヒューイを取り込んだのだぞ? フハハハハッ――」


 <ラ・ジェームの環>を操作したのか、俺の<血鎖の饗宴>を一纏め。

 刹那、四つの腕を刃に変えたゾルディックが接近戦を仕掛けてきた。


「他と同じく肉袋にしてくれるわ――」


 四つの腕刃を振るう。

 俺は即座にムラサメブレード・改と血魔剣を両手に召喚。

 <飛剣・柊返し>を繰り出す――。

 ブゥゥゥン、ブゥゥンとした音叉がゾルディックを迎え斬るような勢いで――。

 鋼の柄巻と血魔剣を振るった。

 ゾルディックの四つの腕刃と血色のブレードと青緑色のブレードが衝突。

 互いの武器から火花が散った。

 <シュレゴス・ロードの魔印>から出た半透明の蛸足集合体シュレゴス・ロードがゾルディックの体に絡もうとしたが「小癪な――」とゾルディックは対応。

 背中の両腕の剣刃で半透明の蛸足集合体シュレゴス・ロードは切断される。


 俺は再度ムラサメブレード・改と血魔剣を振り上げた。

 血色のブレードと青緑色のブレードと四つの腕刃が衝突――。


 ゾルディックは舌打ち音。

 それを消すように――。

 また武器を振るうがゾルディックは速い。


 四つの腕刃と俺の二つのブレードが再び衝突。

 また火花が散った。


 ――ゾルディックの腕刃は溶けない。

 三十合を打ち合ったところで――。

 ゾルディックは額の∴と卍を光らせる。


 刹那、その額から――。

 口を拡げた翼を持つ大怪物に絡む人族たちが出現――。


「お母さん、お父さん、助けてェェェ」

「荒神ヒューイ様ァァ、助けてェェェ」

「家に帰りたいィィィ」

「ガァアァァァァァ」


 避けようがない速度。

 その鷹に近い大怪物と人族に俺は飲まれ――。

 恐怖に飲まれ――。


 ルシホンクのアミュレットが輝く。

 と、


『主――』


 半透明の蛸足集合体シュレゴス・ロードが盾となってくれた。

 俺をゾルディックから強引に引き離す半透明の蛸足集合体シュレゴス・ロードだったが、代わりに左手の<シュレゴス・ロードの魔印>から連なる半透明の蛸足集合体シュレゴス・ロードの一部が大怪物に絡む無数の人族たちと一緒にゾルディックの額の中に吸い込まれていく――。


「チッ……その左手ェェェェェ――」


 ゾルディックは四つの腕刃で左手を狙ってきた。

 俺は咄嗟に<導想魔手>を蹴って右に旋回しながら――。

 青緑色のブレードのムラサメブレード・改を振るった。


 <水車剣>を実行――。

 が、青緑色のブレードは腕刃に防がれた。


「――ぐ、反応がいいなぁ! 異邦人!」


 続けざまに至近距離から<光条の鎖槍シャインチェーンランス>。


「ぬあ?!」


 咄嗟に退いたゾルディック。

 <光条の鎖槍シャインチェーンランス>は背中の両腕が出した魔法陣に防がれた。

 <光条の鎖槍シャインチェーンランス>を消し飛ばしたゾルディックは――。


 その消えた軌跡ごと、俺を斬ろうと、四つの腕刃を振るう。

 俺は腕をクロスするように<飛剣・柊返し>を実行。


 四つの腕刃と血色のブレードと青緑色のブレードが衝突。


 またも眼前で激しい火花が散った。

 つばぜり合いとなった。


 ゾルディックの額の∴と卍は急回転するが魔力を失っていた。

 しかし魔力を再充電しているように魔力が高まっている。


 俺の<脳脊魔速>と同じクールタイムを必要とするスキルか?

 ゾルディックは火花越しに、


「――その剣、魔剣ヒューイと同等とは恐れ入る。見事な剣術であるが――」


 ゾルディックは足先を変化。

 鱗から捻れに捻れた長い刃を突き出す。


 反応が遅れた、腹に鱗の長い刃を喰らう――。


 ぐあぁ――。

 腹に突き刺さった痛みで、退いた。

 そこにゾルディックが迫った。

 そのゾルディックに「ングゥゥィィ!」と声を発した竜頭金属甲ハルホンクの魔竜王の蒼眼から出た蒼い氷刃がゾルディックに向かうが、ゾルディックは難なく蒼い氷刃を弾く。


「オマエ、タベル! ゾォイ!」

「――その右肩に生意気なモノを飼っているな?」


 ゾルディックが振るった四つの腕刃は血魔剣とムラサメブレード・改で弾く。

 足から出た長い刃はイモリザの第三の腕が握る聖槍アロステが防いだ。


「生意気じゃねぇ――」


 と、言いながら<超能力精神サイキックマインド>を意識――衝撃波をゾルディックにぶちかます。


「――ぬあ!?」


 四つの腕刃と足から出た長い刃が逸れて体勢が崩れた。

 <超能力精神サイキックマインド>での動きを封じる力は中々使える。


 その隙に――。

 ムラサメブレード・改の〝血の水滴〟のボタンを押す。

 振動するムラサメブレード・改。

 続けて<超能力精神サイキックマインド>を発動。


 ゼロコンマ数秒も経たない内に<血鎖の饗宴>を繰り出す。


 ゾルディックは背中の細長い両腕を活かして<ラ・ジェームの環>を出そうとしたが――。

 <超能力精神サイキックマインド>をもろに喰らって動きが鈍い――。

 <血鎖の饗宴>をもろに喰らう。

 ゾルディックの背中側の両腕と普通の四つの腕刃と足から出た長い刃と胴体を貫いていく血鎖。


 そのまま<飛剣・血霧渦>を繰り出した。


 螺旋を描く青緑色のブレード――。

 再生するゾルディックの体を渦状に切り刻む。


 俺は血魔剣を振るって<血外魔道・石榴吹雪>を発動――。


 血魔剣の剣身が膨れ上がった。

 その剣身から石榴ざくろが無数に出現。

 ゾルディックの体と<血外魔道・石榴吹雪>は衝突を繰り返しゾルディックを破壊するように次々と爆発。

 俺の<血鎖の饗宴>にも爆発が衝撃波となって衝突。


 構わない。


「ギャァァアァ」


 悲鳴を上げたが、ゾルディックは、額の∴と卍を輝かせる。

 さっきと同じく口を拡げた翼を持つ大怪物に絡む人族たちが出現すると、自身の体の再生力を高める。

 同時に周囲の<血鎖の饗宴>と<血外魔道・石榴吹雪>の血の吹雪を吸収しやがった。


 ゾルディックは、それでも悔しそうに、


「糞な血の技だ……回復が……」


 そう語る。

 俺は<血鎖の饗宴>を消去しつつ――。

 右手に魔槍杖バルドーク。

 左手に魔槍グドルル。

 瞬時に両手の武器を交換――。

 続いて、左手の<シュレゴス・ロードの魔印>を意識。


 半透明の蛸足集合体シュレゴス・ロードを伸ばす。

 コレはフェイク――。


『主――任せろ』

『フェイクだ』

『なに!?』


 シュレが驚くのも束の間。


「!?」


 <導想魔手>を蹴る――。

 槍圏内に入った直後――。

 至近距離から<光条の鎖槍シャインチェーンランス>を連発。

 ――《連氷蛇矢フリーズスネークアロー》も繰り出した。

 動きが鈍いゾルディック。

 だが、魔法の連続的な攻撃に対応。


 身を僅かに退こうとする。


 更に、額の∴と卍のマークから出た口を拡げた翼を持つ大怪物に絡む人族たちを活かそうとした。

 その額から出た口を拡げた翼を持つ大怪物に絡む人族たちは、魔法の連続的な攻撃を吸収し一気に肥大化。


 異質な大怪物の姿を模った。


 すぐに魔槍杖バルドークで<刺突>のモーションを取る。

 魔闘術を全快――。


「速度を上げただと?」


 <血液加速ブラッディアクセル>の加速と<ザイムの闇炎>の敏捷性アップを活かす――。


 <刺突>はフェイク。

 至近距離から両手の武器を<投擲>――。


「な!?」


 驚いたゾルディック。

 額から前方が異質な大怪物となったゾルディック。


 元の体の再生した四つの腕刃で魔槍杖バルドークと魔槍グドルルの激烈な<投擲>を受けきった。


 <超能力精神サイキックマインド>で動きが鈍って驚いている状態だったが、俺の動きに対応するところは見事。


 が――狙い通りだ。 

 ――直ぐに両手に鋼の柄巻と神槍ガンジスを出す。

 魔力を通してから<投擲>――。


 ゾルディックは<投擲>を防げない。

 神槍ガンジスの方天画戟を胴体に喰らった。


 ゾルディックの肩にムラサメブレード・改の青緑色のブレードも突き刺さる。


 続けて、雷式ラ・ドオラとセル・ヴァイパーを<投擲>――。


 雷式ラ・ドオラ。

 セル・ヴァイパー。

 その二つの武器は額の大怪物に突き刺さる。


 額の大怪物は一気に萎んだ。

 更にハザーン軍将剣と剣帯速式プルオーバーも<投擲>。


 ゾルディックの下半身に剣帯速式プルオーバーが突き刺さったが、ハザーン軍将剣は鱗に弾かれる。


 すると、ゾルディックの額から出た大怪物は消失。


 ――ダ・バリ・バムカの片腕も<投擲>。


「――アヒャ!?」


 気色悪いダ・バリ・バムカの片腕の魔線を浴びたゾルディックは双眸が寄り目になった。

 混乱したらしい。

 そして、紺鈍鋼の鉄槌も<投擲>。


 頭部の一部に紺鈍鋼の鉄槌が衝突。

 あまり効いていない。


 ヒュプリノパスの尾は投げない――。


 第三の腕が握る聖槍アロステで<血穿>を繰り出す。

 ――<超能力精神サイキックマインド>の拘束はまだ効いている。


 動きが鈍いゾルディックは対応できず。

 混乱中のゾルディックの額に十字矛を喰らわせた。

 額から血の閃光が迸る。

 刹那、十字架の閃光が真上から降り注ぐ。


 光神ルロディス?


「閣下――」


 違った。常闇の水精霊ヘルメだ。

 ――<滄溟一如ノ手ポリフォニック・ハンド>。

 大きい波から群青色を基調としたコントラストが綺麗な溶液の手から雨のような群青色の液体がゾルディックに降り注ぐ――。


「――ウゲェェ」


 同時に<超能力精神サイキックマインド>のゾルディックを押さえていた力が弾かれるが――。


 ゾルディックは混乱中――。


 紺鈍鋼の鉄槌とハザーン軍将剣を弾くように再生しかけの萎びた腕で払うのみ。


 刹那――。

 俺は<脳脊魔速>を発動――。


 この加速中に<超能力精神サイキックマインド>で空中に留めた武器類を活かす。


 魔槍杖バルドークで<豪閃>――。

 魔槍グドルルで<双豪閃>――。

 雷式ラ・ドオラで<血穿>――。

 波群瓢箪でぶん殴り――。

 神槍ガンジスで<牙衝>――。

 ムラサメブレード・改で<飛剣・柊返し>――。

 セル・ヴァイパーで<水車剣>――。

 紺鈍鋼の鉄槌でぶん殴り――。

 レンディルの剣で<飛剣・柊返し>。

 環双絶命弓でぶん殴り。

 独鈷魔槍で<光穿>――。

 小型オービタルでぶん殴り――。

 フォド・ワン・カリーム・ビームライフルの銃底で突く――。

 古竜バルドークの長剣で<飛剣・柊返し>――。

 剣帯速式プルオーバーで<水車剣>――。

 王牌十字槍ヴェクサードで<刺突>――。

 フォド・ワン・カリーム・ビームガンを連射。

 トフィンガの鳴き斧を一つの槍にして<刺突>――。


 周囲に浮かぶ武器類を掴んでは――。

 戦闘型デバイスにアイテム群を戻しつつ――。


 ゾルディックを縦横無尽に切り刻む――。


 ゾルディックは<滄溟一如ノ手ポリフォニック・ハンド>を浴びて溶けかかっていたこともある。


 もう原形を留めていない――。


 しかし、歪な塊となっても再生しようと蠢く。

 まだ<脳脊魔速>中だってのに、ゾルディックは強い。

 荒神ヒューイを取り込んでいるだけはある。

 証拠に、塊のあちこちに∴と卍を生み出していた。

 更に、卍の形に頭部を変える。


 これ以上完全変態メタモルフォーゼをさせるつもりはない――。


 右手に紺鈍鋼の鉄槌。

 左手にレンディルの剣。


 闇ギルドのビクターさんとオゼ……。

 あの世で見ているか――。

 その二つの武器を――<投擲>。 

 ∴と卍の部分に突き刺さった二つの武器。

 その紺鈍鋼の鉄槌とレンディルの剣を仕舞おうと、掴んだ瞬間、二人の幻影が見えた気がした。


 二つの武器を消去した刹那――。

 下からゾルディックの塊を<水月暗穿>で蹴り上げた。


 真上に浮かぶゾルディックの塊目掛けて――。

 右手での変形アッパーだが<蓬茨・一式>を繰り出す。

 更に浮き上がるゾルディックの塊――。


 ここで普通なら留めの必殺技。

 んだが、試す――ゾルディックの塊を掴んで――。

 <血道第四・開門>――。 

 <霊血の泉>を実行。

 そして、俺の血が囲うゾルディックの塊に――。


 <霊呪網鎖>を繰り出す――。

 俺の掌から幾万とした血を帯びた光鎖群が誕生。


 仄かな蛍光を発したルッシーを伴う豆電球の群れだ。

 それら血の妖精の産毛が、新たな宿主を探すようにゾルディックの塊の内部に浸透した直後――。


 複数あった∴と卍が二つに集結。

 中で攪拌でも起きているように蠢く。


 その二つのマークの間に大きな亀裂が走る。

 と、亀裂から分かれて、分離。

 とんでもないことが起きている?


 そこで、<脳脊魔速>のクールタイムが終了。


 すると、小さい∴の塊は右に……。

 巨大な卍の塊は左に……。


 それら大きい卍の塊と小さい∴の塊は、相反するように、ゆるゆるとした動きで離れていく。


 俺は右手に魔槍杖バルドークを召喚。

 卍の塊は速度を上げて逃げようとした。

 <超能力精神サイキックマインド>で、ゾルディックの卍の塊の動きを止める。


 <導想魔手>を蹴って飛翔。

 俺は、その卍のマークがある塊の横に移動。


 同時に魔槍杖バルドークを引いた。

 ……<刺突>のモーションを取る。


 ――最後は絶殺の槍で仕留めようか!

 狙いは卍のマークが煌めくゾルディックの塊!


 ――<闇穿・魔壊槍>を繰り出した。

 闇を纏う<闇穿>の嵐雲の矛がゾルディックの塊に刺さる。


 即座に魔槍杖バルドークを引く。――


 その魔槍杖バルドークの後方から――。

 豪快な音が響いた。

 壊槍グラドパルスの出現した音だ。

 ――巨大な闇ランスの壊槍グラドパルス。


 深淵からの呼び声の如く――。

 壊槍グラドパルスは凄まじい回転速度で突き進む。


 絶殺の意志が宿る壊槍グラドパルス。


 卍のマークを潰し――。

 ゾルディックの塊を貫いた――。


 背後の崩れた岩場と滝をも貫いた。 


 闇のランスは止まらない。


 滝壺は崩壊が進んで坂道もなく地形が変化しているが……そんなことはつゆ知らずの壊槍グラドパルスは、周囲のモノを巻き込みつつ水飛沫に渦を作るようにスパッと消失。


 ふぅ……と岩場に着地。


「閣下! お見事です」

「――おう!」


 ヘルメとハイタッチ。


「オギャァァァ」


 あぁ、蛇人族ラミアの赤ちゃんが起きちゃった。

 すぐにヘルメが、


「よちよち~、お水をあげまちゅからね~」


 水を赤ちゃんに飲ませると、ピタッと泣き止む蛇人族ラミアの赤ちゃんは可愛い。


 避難したビアも姿を見せた。


「さて、あのもう一つのヒューイ・ゾルディックの塊だが……」

「まだ蠢いています……」

「ングゥゥィィ! タベレル、ゾォイ?」

「いや、食べちゃだめ」

「あ、ハルちゃん、食べちゃだめですよ~、ぴゅっ」


 ヘルメは、水飛沫をハルホンクに浴びせる。


「ングゥゥィィ、ミズ、ウマイ、ゾォイ!」


 ハルホンクは満足したようだ。

 ヘルメは微笑みながら、


「閣下が、あの技を用いたということは……」

「そうだ」

「はい。しかし、毎度ですが、閣下は凄すぎます! あの状況下でイモリザ的な眷属を作ろうと試みるとは、考えもしなかったです」

「二つの名を聞いていたことが要因だよ。荒神ヒューイを取り込んだと聞いていたこともある。そして、あの二つのマークだ。それに、俺を取り込もうとした凶悪な技か魔法。あの技は正直、シュレがいないとヤバかった。だからアドレナレンが出た結果かな? ま、試しだよ――」


 と、敬礼しているアクセルマギナを見てから――。


 ゴッデス金枝篇、茨の冠が入っている夢追い袋ではなく……虹のイヴェセアの角笛の隣に浮かぶセンティアの手を取り出す――。


「これを用いよう――」

「その単眼を持つ細い籠手が持つ……骨のランタンは……」


 センティアの手の単眼は動いていない。


「センティアの手。キズユル爺は、『東邦のセンティア見聞録に登場した本人の手とあるが……角灯の小さい怪物も不明じゃ。東邦といっても大陸から続いている東邦なのか、海の先にある群島諸国を意味するのかも謎じゃな。使い手に時空属性と高い身体能力と精神力と魔力が必須とある……呪いはないはずじゃが……んん、使い手を……このセンティアが選ぶと<覚式>というスキルを覚えるようじゃな』と、語っていた」

「あ、東邦……繋がりがあると?」

「まったく関係ないかもしれないが、試す」

「――主、蠢いている塊には点が三つ? 処分しないのか?」


 近寄ってきたビアがそう発言。


「しない。まぁ見とけ――」


 片腕の籠手から出た鎖にぶら下がる骨の角灯が揺れる。

 角灯の中の小さい猿と雉の怪物は泳いでいた。

 前と変わらず。


 センティアの手に魔力を込める――。

 すると――。

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