六百三十話 遺産高神経(レガシーハイナーブ)
「ンンン」
と、巨大な喉音を響かせる相棒ちゃん。
その神獣ロロディーヌの巨大な耳の裏を、撫で、撫で――。
産毛を巻き巻きしつつ……。
アイテムボックスのアイテム欄にある極星大魔石。
これは出さない。
クナは、この極星大魔石を用いて巨大転移陣の作成……。
他にも何か自身にリスクがあるようなことをやりたそうだったし、却下だ。
そのクナは、キッシュと一緒に転移陣の設置場所を探すためのサイデイルの地下探索で、女王サーダインの部下の魔族と遭遇し倒した。
その魔族が持っていた魔宝石は転移陣に活用できると聞いている。
だから、アイテムボックスにある極星大魔石はミスティに回すかな。
しかし、そのゼレナード戦のあとでもそうだったが……。
ミスティは極星大魔石をあまりほしがってはいなかった。
新型
イシュラの魔眼の欠片で索敵と撹乱能力を獲得。
星魔樹稜骨もゼクスの内部と外部の機構に組み込んだようだ。
そして、その星魔樹稜骨の一部と……。
ユイが持ち帰る予定のクリスタルバーとミホザの遺跡にあった金属を融合させて新しいボディアーマーの試作にチャレンジしたいとアピールしてきた。
俺は武器と盾にもなるパイルバンカー的なアイディアを提案した。
が、血文字だし『グフカスタムを作ろう』的な改造のノリだから言葉の意味は通じていないだろう。
いずれにしても、優秀な美人博士のミスティだ。
光魔ルシヴァルの<
しかし、ミスティも忙しい。
臨時講師で生徒たちを見守る立場。
レイ・ジャック専用と呼べる銀船にあったエンジンルームに刺激を受けてのゼクスの改良。
秘密の多い図書館を利用して、ギュスターブ家に関するアマハークの魔印を調べるとも語っていた。
魔法学院の『開かずの間』的な行方不明事件の調査もある。
その件では、教会勢力の時にミスティが手を貸したお返しとしてヴェロニカがミスティに協力すると聞いている。だから、何かしらの進展は望めるはず。
しかし、そのヴェロニカも結構な争いに巻き込まれつつある。
アメリと関わりのある聖鎖騎士団を率いる司祭と助祭の神聖教会。
そして、
メル不在の間に暴れ出す闇ギルドの連中といい、ペルネーテに気がかりなことが増えてきた。
ま、幸い、ペルネーテは無数の勢力が争う混沌とした都市。
教会勢力にとって敵ばかりな状況は、却って俺たちには好都合。
そんな状況のペルネーテだから、ミスティは忙しそうだ。
ホルカーバムに向かったアンジェ&ポルセンと吸血鬼ハンターの一家のノーラの再会も気になる。
カリィの暗殺依頼の一つにノーラの家族の名があった。
幸いカリィはエーグバイン家の吸血鬼ハンターの暗殺に挑戦する前だった。
もし争っていたら妹の件と絡んでノーラと敵対してしまう可能性もあったはず。
この件は、カルードに血文字で伝えたから、ノーラに告げてくれるはずだ。
しかし、ノーラの温もりを知っているだけに……。
いや、こればかりは仕方ない。
今やるべきことに集中しよう。
と、モビルスーツの起動音を思い出しつつ――。
相棒が用意してくれた黒毛の机に、魔石袋から極大魔石を出した。
黒毛の机に転がる極大魔石の形は様々でどれも大きい。
この一つ一つの極大魔石に……。
いったい、どれほどのエレニウムが内包されているんだろう。
まずは中くらいの極大魔石から確認。
ディメンションスキャンの立体地図を一旦消去してから――。
再び◆を触る――。
ウィンドウを表示させた。
―――――――――――――――――――――
◆ ここにエレニウムストーンを入れてください。
―――――――――――――――――――――
ここに、中くらいの極大魔石をチョンッと入れた――。
――――――――――――――――――――――――――
必要なエレニウムストーン:完了。
報酬:格納庫+150:偵察用ドローン解放。
――――――――――――――――――――――――――
おお、いきなり!
中くらいの極大魔石は一つ千百は最低でもあったことになる。
さすが極大魔石!
――すげぇ。
アイテムボックスの表面を見る。
腕時計の風防と似たアイテムボックスの表面が煌めいた。
やや半球的に盛り上がる硝子面だから綺麗だ。
その煌めいた光は盛り上がった中央に集結。
集結した光は『カラータイマー』のように点滅した。
すると、アイテムボックスの縁の飾りが膨れて上下に分厚くなった。
プロミネンスの飾りはインパクトがある。
このアイテムボックスの中央のサファイアグラスは、パカッと左右に開かないのか。
俺はてっきり、あの音楽と共に『サンダーバード』出撃! 的な感じで、偵察用ドローンがロケットの如く飛翔するかと思ったが違うようだ。
アイテムボックスの簡易的な進化かな。
横穴でもできたのか?
と、そのアイテムボックスを装着している手首を横に傾ける――。
盛り上がった横側は……。
そのすべてが極めて小さいハニカム構造。
噴射孔? 米粒のような穴が密集していた。
炭のように消臭効果がプラスか! なわけがない。
この小さい噴射孔から、小型の偵察用ドローンが出るのか?
だとすると、このアイテムボックスが母艦か?
すると、その分厚くなった縁の孔を備えたプロミネンスの形をした飾りが、ぐるぐると、時計回りに動く――。
同時に縁のハニカム構造から魔力の粒子が放出。
魔力の粒子は鼠花火にも見える。
アイテムボックスの中央に集結していた光の点滅も速まった。
何かのモールス信号的な点滅だ。
前世の地球で起きた事件を想起した。
1980年に建設されたジョージア・ガイドストーンにもあった『人類の数を五億人以下に』と発言して破壊された人工知能……。
たしか……名は『Bilderberg:Coronavirus:bite the wax tadpole』だったかな。
俺の知る日本も酷かった。
悪魔の組織が関わった連中の抗がん剤やワクチンなどで少子化となった。更に「遺伝子編集技術」が発展したせいで開発された特定の種族を狙った生物兵器は非常に問題視されたからな。
と、昔を考えても仕方ない。
アイテムボックスの信号的な点滅は続く。
あ、まさか、このナ・パーム統合軍惑星同盟が造り上げたアイテムボックスの中に秘められた人工知能のような存在が……。
量子ビットの計算を?
刹那、花火的な粒子の放出が止まった。
「ご主人様――」
と、傍にヴィーネがきた。
相棒の長い耳の端に、手を当てながら『何をしているのか』と俺を見るヴィーネ。
トレードマークの銀仮面は銀髪の上にのせている。
一対の銀色の虹彩は俺のアイテムボックスを凝視。
頬にある銀色の蝶のマークが素敵だ。
そのヴィーネに、
「おう、アイテムボックスに、中くらいの極大魔石を入れたら形が少し変わった」
「まだ変化の途中のようですね」
俺はヴィーネに向けて『そうだ』と頷いてから――。
アイテムボックスの表面を再び凝視。
少し盛り上がったサファイアクリスタルガラスのような表面。
その内部には小宇宙でも内包しているのかってぐらいに……光が乱反射して眩しい。
アイテムボックスのプロミネンスと似た飾りの縁を回る光の速度も上がり続けている。
なんか、クイズ番組の質問を答えなきゃいけない気分で、焦ってきた。
――刹那、アイテムボックスが閃光を放つ。
少しびっくり。
ヴィーネもびっくり。
が、その閃光は、瞬く間に盛り上がった縁へと取り込まれる形で収束した。
これまたびっくり。
ヴィーネもびっくり。
縁は、その閃光からパワーでも得たのか?
ハニカム構造の孔から、丸い弾丸風の、蜂の子がニョキッと生えた――。
「何か出ました!」
そう発言したヴィーネに頷く。
同時にアイテムボックスの表面からも虹色のレーザー光線が出る。
レーザーは右腕から宙にウィンドウを作り出した。
―――――――――――――――――――――――――
――音声認識可能。
――≪フォド・ワン・ガトランス・システム≫可動中。
――
――カレウドスコープ連携確認。
――フォド・ワン・ガトランス専用オービタルシステム連携確認。
――フーク・カレウド博士・アイランド・アクセルマギナ……簡易AI確認できず。
――
――偵察用ドローン……エラー展開できず。
――船体リンクシステム……エラー確認できず。
――ナ・パーム統合軍惑星同盟衛星連動……エラー確認できず。
――敵性銀河帝国軍衛星反応……エラー確認できず。
―――――――――――――――――――――――――
「その『うぃんどう』は前にも見たことがあります。字は読めませんが」
ヴィーネは指先を透けているウィンドウに当てて不思議がっている。
そのウィンドウには、新しいセンサーとメーターがあった。
二つの大きなセンサーと数列のアレイ。
端のメーターにあるエレニウム総蓄量が2346→3846と表示されていた。
極大魔石は千五百か。
続いて中央の半球体から灰銀色の魔力粒子が放出。
その灰銀色の粒子は直ぐ真上の宙空で集結。
「また、『びーむらいふる』のようなアイテムでしょうか」
「いや、今回は違う」
灰銀色の粒子は一つの金属となった。
その金属は長細い。
先端は透けたカプセル的な丸いモノ。
中には青白いジェルが包む針が見える。
「中に液体が……」
そのヴィーネの不思議がる言葉に『うん』と頷いた。注射器かな?
一見は、金属と硝子が融合しているような未来的な小型ボールペン。
その表面には煌びやかな文字が……。
『
その注射器を掴んだ。軽い。
「ご主人様……閃光のミレイヴァルとは違うようですが……」
「あぁ……」
更に、金属の表面に文字が表示されていく。
:
:高純度サイキック能力など戦闘型デバイスの運用効率を飛躍的に高める:
:しかし、適合確率85%以下の銀河騎士に用いると、脳幹の中枢神経網にダメージを負う副作用があり:
:元々ジメチルトリプタミン濃度が異常に高い種族or脳幹を意識的に操作が可能な種族なら耐えられるだろう。または種族特性で
と記されてあった。
要するに、ハイリスク・ハイリターンのアイテムか。
「ご主人様、その文字には、どのような意味が……」
「新しいアイテムボックスの機能を使うには、この
「その顔色は危険を伴うのですね」
「……混ぜるな危険って奴かもしれない」
ヴィーネは訝しむ。
そんなヴィーネに、
「ボンッ! って感じ?」
「……あぅ、びっくりしました」
手のジェスチャーと高い声音で驚くヴィーネさんが可愛い。
と、なぜか、さん付け。
そんなヴィーネを見ながら過去に俺は……。
――未知の元素、抗体を確認。適合化確率82%。
――適合化、成功。
とあったことを思い出す。
82%、3%足りないから副作用を喰らう可能性がある。
しかし、俺は光魔ルシヴァルで、普通の人族ではない。
ここで挑戦しないと、今後アイテムボックスに魔石を納めて出るアイテム類が使えない可能性が非常に高い。
だから
すると、
「ンンンン」
飛翔中の相棒は巨大な神獣だ。
大きな喉声。
「ロロ様は、先ほど、クラゲモンスターを大量に食べていましたが、またお腹が減ったのでしょうか」
「どうだろ」
漆黒のグリフォンの大きさを超えたドラゴン風の神獣だから迫力満点だ。
すると、
足場として少し黒毛が短くなっていた相棒の頭皮付近から触手が出た。
触手は、俺とヴィーネの顔を撫でてくる。
ヴィーネのほうには黒毛も絡んだ。
更に
自分の耳を器用に掻く。
俺の心を読んで
要は『ここ、かいぃ~にゃ~』的な感じだろう。
巨大な相棒ちゃんは、単に耳の裏が痒くなっただけらしい。
ま、俺が寄っかかる壁として耳を利用していたからな。
しかし、無数の産毛が舞って、俺の全身に毛が……。
その毛を払う。
一方、ヴィーネは……。
触手の群れと黒毛がヴィーネの背をすっぽりと包んでいた。
フッサフサの長椅子に寝ている。
羨ましい。
「ふふ」
リラクゼーションルームかい!
と、そんな椅子に包まれたヴィーネは嬉しそうだ。
そのヴィーネは胸元が開いたカリームのコートを着ている。
悩ましい胸元が、見事に揺れに揺れて……。
惜しい、乳首のポロリはない。
その羨ましいヴィーネに向けて、
「それじゃ、この注射を打つ前に……」
俺のエッチぃ視線に気付いたヴィーネは微笑むと――。
胸元をさっと隠す。
くっ、さり気ない動作だが、男心をくすぐる。
やはり優秀な女だ。
「……はい」
そのヴィーネは上向いて、返事を寄越した。
しかし、天然の黒毛の椅子は心地よさそう。
そんなヴィーネを見てから――。
頬にあるカレウドスコープのアタッチメントに触れた。
カレウドスコープが起動。
「あ、右目、カレウドスコープですね、卍の形に」
ヴィーネの言葉に頷く。
同時に右目の視界にフレームが表示。
視力が増して視界も拡大。
解像度に分解能が飛躍的に高まったと分かる。
ヴィーネは相棒の黒毛に包まれているが、ダークエルフのヴィーネの体が、より美しく輝いて見えた。
同時に相棒の大きい耳もよく見える。
産毛からピンクの地肌が覗かせた。
蚤はいない。
「――閣下、何か光っていましたが」
ヘルメだ。
ジョディ&百目血鬼&貂の飛翔チームとして、ガーゴイル系モンスターの群れと戦っていた。
ママニとビアは背後に魔素がある。
相棒の背中で、まったり寛ぎ中か、フーとサザーに血文字連絡かな。
「おう、今からアイテムを試す」
ヘルメにそう言いながら……。
右手が握る小型注射器風の
下に見知らぬ▽△のカーソルと『サイキックエナジー』の文字が浮かぶ。
カレウドスコープの効果か?
カレウドスコープ的に
この世界でも『オロナミンC』を飲みたいなぁ。
エナジーではなくサイキックエナジーだが……。
そのサイキックエナジーは無視――。
小型注射器風の
すると、右目のカレウドスコープが反応――。
顔の横にあるアタッチメントから細い管が出る――。
細い金属の管だ。
その細い金属の管は
フォド・ワン・カリーム・ビームライフルとも前に繋がったことを思い出す。
すると、
――≪フォド・ワン・ガトランス・システム≫。
――
前と同じか。
よーし、注入するにきまってら!
当然『Y』を選択――ポチッとな。
途端に、
その
管が脈打つと俺の右目の視界が一瞬蒼くなる。
――≪フォド・ワン・ガトランス・システム≫稼働中。
――
――未知の抗体を確認。
――メリトニック粒子解放。
――エレニウム粒子解放。
――バイコマイル胞子解放。
――
アイテムボックスの真上に浮かぶウィンドウに新しいメーターが増えた。
視界はとくに変化なし。
脳幹にダメージもない。
ステータスを弄くって情報を色々と出していた時のほうが、脳にダメージがきた。
―――――――――――――――――――――――――
――音声認識可能。
――≪フォド・ワン・ガトランス・システム≫可動中。
――
――カレウドスコープ連携確認。
――フォド・ワン・ガトランス専用オービタルシステム連携確認。
――フーク・カレウド博士・アイランド・アクセルマギナ……簡易AI確認できず。
――偵察用ドローン……連携確認。
――船体リンクシステム……エラー確認できず。
――ナ・パーム統合軍惑星同盟衛星連動……エラー確認できず。
――敵性銀河帝国軍衛星反応……エラー確認できず。
―――――――――――――――――――――――――
よーし、成功した。
早速偵察用ドローンを操作――。
縁のハニカム構造の孔から少しだけ出ていた、弾丸風の丸い膜が縦に裂ける。
と、膜を裂いて蜂のような小さい機械が出現――。
縁の孔から蜂のような小さい機械が次々に飛翔していく――。
おおおお、これが、偵察用ドローンか!
――操作して目の前でホバーリング。
偵察用ドローンはハチドリ機動で漂う。
――面白い!
魔力のお陰で、凄まじい勢いで交差する何種類もある極めて小さい翅。
それらの翅がぶつかりもせず音もしないってのが、また凄い。
頭部は複眼で見た目はニホン蜜蜂に近い。
あ、小さい背中にルシヴァルの紋章樹のマークがある。
細かい。
その背には妖精が持つような半透明の翅がある。
魔力を宿した翅は芸術だ。
極彩色の薄い膜の表面に脂薬が流れて煌めいて見えた。
その美しい翅から魔力粒子がこれでもかと勢いよく噴出。
この偵察用ドローンを操作。
ヴィーネを見る。
偵察用ドローンと視界を共有しているからヴィーネの顔が見えた。
一瞬、俺自身の視界も合わさったから混乱。
興奮したヴィーネは立ち上がりつつ近寄る。
ヘルメもキューティクルな睫毛を伝わる水滴が四方に飛沫する。
そんな相棒の頭部で繰り広げられる光景と、このドローンの視界が合わさった感覚は妙すぎた。
<古代魔法>を初めて覚えた時に近いか?
脳の未知の部分が開花するような……。
なんつうか、第三の目が刺激?
分からないが無事に認識できた。
「……不思議な蜂。素材は、いざーろーんを更に小さくした魔金属でしょうか?」
「金属の蜂の使役に成功したのですね!」
ヘルメは嬉しそうだ。
「アイテムボックスと関連しているが、偵察用の魔道具みたいなもんだ」
そうヘルメに説明。
ヴィーネは
そのヴィーネに、
「そのイザーローンと違い、この偵察用ドローンに攻撃能力はないが、かなり遠くまで飛ばせる――」
――偵察用ドローンを飛翔させた。
相棒の頭部から離れてジョディと百目血鬼と貂のほうに向かう。
偵察用ドローンは、相棒と、皆の飛翔速度にもついてくる。
そして、何不自由なくコントロールできる。
最初の頃のサラテンの沙とは大違いだ。
『……』
沙の気配を左腕から感じたが気のせいだろう。
そして、飛翔中の百目血鬼と貂とジョディの姿を、その偵察用ドローンの視界から見ることができた。
百目血鬼は血が滴る刀から<血穿>的なスキルを繰り出していた。
同時に相棒の頭部の端に移動していたヴィーネの行動も分かる。
ヴィーネは驚きつつ偵察用ドローンの動きではなく、百目血鬼の剣術を見ていた。
百目血鬼はゼレナード&アドホック相手に活躍してくれた。
凄腕の剣士だ。
見た目は和風衣裳。
一見は、普通の女性。
しかし、長身だし肌に無数の目を宿す。
次はジョディだな。
小さい白蛾が舞う姿のジョディ。
衣装も相俟って純粋に美しい……。
時々頭部に烏帽子を出現させてサージュを扱いつつ飛翔する姿は、見蕩れてしまう。
彼女の周りに舞う白色の蛾が、ショートカットの髪形の髪飾りに見えてきた。
その次は、貂だ!
白鼬ちゃんのイターシャは俺の左腕に戻っているから首がお留守。
しかし、妖狐風の美しい貂に変わりはない。
その貂は――。
偵察用ドローンの俺を察知した。
飛翔中に振り返って、
――ハートマークの魔力!
魔力の波動を味わったように震えた
貂は美しい。
お尻付近から出た尻尾が靡く姿は圧巻でもある。
そして、モンスター相手に貂が使っていた仙王鼬族に伝わる<仙王術>と<御剣導技>は凄かった。
俺からは仙魔術にも見えた。
神剣サラテンの羅と沙とは違う技術系統だと分かる。
もっと特別なスキルや技術を見たい。
だから、サラテンが喜ぶだろう『神仙燕書』や『神淵残巻』が近くにあれば探してもいい。
しかし、今回の東の旅の目的はシェイルの治療のために魔宝石アルマンディンを探すこと。
別名、赤心臓アルマンディンを優先する。
すると、ヘルメとヴィーネが飛翔する偵察用ドローンを見ながら感心しつつ、
「あれが『ていさつようどろーん』!」
「はい、速度も十分で数も多い。戦闘中の目眩ましにも使えるかと」
ヴィーネが腕を上げながら語る。
ラシェーナの腕輪か。
あの腕輪から出る
偵察用ドローンと視界を共有しながら、目の前のヴィーネとヘルメに、
「そうだな」
「小さい鉄筒と長い鉄筒、ガトランスフォームにオービタル。今度は蜂さん。次々とアイテムを生み出す不思議ボックスです」
そういうヘルメも闇蒼霊手ヴェニューがいる。
ヘルメの<精霊珠想>や<仙丹法・鯰想>は不思議すぎる。
ナマズのような中身の神秘世界。
箱船に乗った七福神の格好をしたヴェニューは不思議すぎる。
神秘的で宇宙的な存在だ。
キサラの紙人形風に踊りもするし、喋りもする。水幕の魔法を使った時も表面を泳いでいたし、あの時の妖精的なヴェニューたちは本当に楽しそうだった。
刀鍛冶の格好をしたヴェニューは、レジーの魔槍の魔改造を施し、ヘルメに新しい武器を作った。
改めて思うが常闇の水精霊ヘルメ自体もかなり特殊だ。
<
「ヘルメの体内のほうが、摩訶不思議ボックスだ」
「そうでしょうか?」
と、顎に人差し指をおくヘルメちゃん。
その仕草も可愛い……。
俺はヘルメの細い肘を注視。
細い肘の先端が、張りと柔らかさを合わせ持つ偉大なおっぱいさんに当たっていたのだ……。
その小さい肘の幅に、いやらしく窪んだ胸元から……新しいポニョポニョ伝説が生まれている……。
――素晴らしい窪み、おっぱい神に感謝しよう。
魅惑的な双丘の揺れに魅了された。
男の八十%は、たぶん、あの双丘さんに埋没したい。
とか、揉んでみたいとか不埒なことを考えるはずだ!
んだが、今はおっぱい禁止令を発動だ。
我慢……ドローンを仕舞う方法を試すとしよう。
偵察用ドローンに『戻れ』と念じた。
共有していた視界が同時に消える。
が、この感覚は不慣れだ。
修業して慣れないとな。
偵察用ドローンからは、パッと銀の粒子が発生した。
瞬く間にアイテムボックスの縁の中へと吸い込まれる。
アイテムボックスの縁も瞬く間に元の大きさに戻った。
あのプロミネンスの縁が膨れたのは一過性のモノだったのか。
もう一度、偵察用ドローンを意識。
『出ろ』と強く念じたら縁が膨らんだ。
また同じように無数の偵察用ドローンが飛び出した。
その偵察用ドローンを収斂すると、アイテムボックスの縁は元通り。
よーし、
「次は極大魔石を一個ずつ納める」
「はい」
「アイテムボックスが、また進化!」
「期待しようか」
アイテムボックスを操作。
―――――――――――――――――――――
◆ ここにエレニウムストーンを入れてください。
―――――――――――――――――――――
ここに入れるとして、
◆:エレニウム総蓄量:2346→3846
――――――――――――――――――――――――――
必要なエレニウムストーン大:1500:未完了
報酬:格納庫+200:アクセルマギナ:解放
必要なエレニウムストーン大:5000:未完了
報酬:格納庫+300:フォド・ワン・プリズムバッチ:解放
必要なエレニウムストーン大:10000:未完了
報酬:格納庫+350:ガードナーマリオルス:解放
―――――――――――――――――――――
しかし、ガードナーマリオルスってなんだろう。
ま、じゃんじゃん極大魔石を入れていく。
中くらいの極大魔石を◆に向けて放り込んだ。
――――――――――――――――――――――――――
必要なエレニウムストーン:完了。
報酬:格納庫+200:アクセルマギナ:解放。
――――――――――――――――――――――――――
よーし、成功。
アイテムボックスの表面が少し窪む。
その窪んだディスクトレイのような溝から銀色の魔力粒子が出る。
それらの銀の粒子が真上に集結しパッと光りつつ一点に収束。
光が消えて残ったのは、指輪。
アクセルマギナは指輪?
魔力を内包した指輪だ。
表面にナパーム統合軍惑星同盟か、不明だが階級章的な刻印がある。
早速、その浮いたアクセルマギナを指に嵌めた。
――ゆるゆるだ。
これ、指輪ではないのか?
魔力を通すと、アクセルマギナの表面が光った。
――刹那、え? アクセルマギナが指の中に浸透して消えた。
おーい、どこいったんだ。
指は大きくなってない。
あ、直ぐに指から指輪の形状のままアクセルマギナが出た。
不思議だと思った直後――。
そのアクセルマギナの表面に小さい女性が浮かぶ。
――ホログラムか?
それにしては精巧だ。
女性は繊維質が光沢した軍服を着ている。
ハーミットが着ていた軍服とは違う。
足下は霧状で揺らいでいるからホログラムだろう。
女性が頭を下げた。
その頭部付近の映像が少しぶれる。
ホログラムか。
そして、礼儀正しく頭を上げた女性は敬礼ポーズ。
更にスピーカー機能があるのか、クラシック系の軍歌っぽいテーマソングが流れ出す。
「初めまして、貴女は……」
「音楽が……軍に用いる曲でしょうか」
「千年ちゃん?」
ヘルメとヴィーネがそれぞれ呟く。
すると、敬礼ポーズを解いた軍服が似合う女性が、
「……言語、パターン、認識中……」
音声ではなく、文字が出た。
アクセルマギナだと思う女性は敬礼したまま動きがフリーズ。
え? まさか、まさかの壊れたか?
と、ツンツンとホログラム的な女性を指で突こうとしたが――。
当然、指は女性ホログラムをすり抜ける。
反応はナッシング。
おぃぃぃ……。
「閣下、文字が浮かんだまま、停まりましたが……音楽もブーーンと……」
「……どういうことでしょう、奇怪な半透明人形ですか?」
「……電源ボタンを押して再起動、とはいかないか……」
期待していただけに壊れたならショックが大きい。
言語パターン認識中と文字が出たままだ。
学んでいるんだろうとは、思いたいが……。
うんともすんとも……。
容量がデカすぎてパンクとか?
これは故障かもしれない。
ま、こんなこともあるだろう。
仕方ない。
指輪を外す。
外してもそのまんま……。
アクセルマギナを振ってみたが、女性は敬礼したままだ。
これ、飾りにいいかもな。
机に置いて、フィギュアモデルに……。
「閣下……」
「ご主人様、わたしの胸にきますか?」
「では、わたしは反対側から……」
おうよ。
二人とも慰めてくれる、優しい。
顔に出ていたか。
そして、おっぱい研究会の御業の用意か!
……いつぞやの至福なおっぱいダブルラリアット。
無敵時間のあるラリアットでも、キン肉マンを苦しめたラリアットでもない。
百五十七手、百五十八手、百五十九手、百六十手と増えた技の中でも至高の受け身状態となる御業。
ダブルの巨乳が、俺の頭部を直接挟むという、素晴らしい双丘サンドイッチ技だ。
と、ヘルメとヴィーネのお胸様を楽しみたいが、今はまだ我慢だ。
「……これは仕舞っとくか」
「はい」
微笑むヘルメはヴィーネが装備しているラシェーナの腕輪を見ながら、
「また小さいおっさんの誕生かと思いましたが、残念です」
ヘルメの言葉に頷きつつ、ポケットに入れた。
ポケットの中身も増えてきたが、大丈夫だろう。
さて……次の魔石を放り込む前に。
魔造虎の
――ポケットから出してあげた。
直ぐに魔造虎に魔力を通す。
「ニャア」
「ニャオ」
と、挨拶する二匹の猫。
二匹とも俺の足に小さい頭をスリスリしてくれた。
触ろうとしたが、「ンン」「ニャオァ」と、二匹は俺の手を避けて相棒の触手に飛び移った。
二匹は触手の上を器用に走りながら相棒の鼻先のほうに跳躍。
母的な神獣ロロディーヌに挨拶するつもりなんだろう。
そんな
二匹は空を飛ぶつもりはないと分かる。
よし、次だ。
極大魔石を◆に放り込む。
フォド・ワン・プリズムバッチを出すとしよう。
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