六百二十九話 新しいボクの盟主様と空旅※アイテムインベントリ表記あり


 皆を呼びコンサッドテンの隊長のテントに向かう。

 テントに入り、傭兵集団コンサッドテンの隊長に会釈。

 テント内にはカリィとレンショウがいた。

 

 ロンシュタイガーに――。

 ゲンザブロウとアイから情報を得ていると思うが、無事に依頼を完遂したことを告げた。


 そのロンシュタイガーは、


「ムサカ特務分遣隊第零八小隊は素晴らしい成果をあげた!」


 と褒めてくれた。

 

 俺は仕事を実行したのみ、無難に笑顔を返す。


 その傭兵集団コンサッドテンの隊長のロンシュタイガーに、仲良くなったクレインとリズさんの【魔塔アッセルバインド】を紹介――。


 続いて、塔雷岩場へと続く通りにいた吸血鬼ヴァンパイアが少女を襲おうとしたこと。

 更に、穴が多く広い場所で戦った傭兵集団についてと――。


 塔雷岩場の内部では、敵か味方か不明の第三勢力の吸血鬼ヴァンパイアの集団が敵味方不明の兵士たちを襲っていたことも告げた。


 ロンシュタイガー隊長は、


「吸血鬼集団とは驚きだ。しかし、飛翔できる第三勢力の集団となると塔雷岩場の確保は想像以上に難しい」


 と発言。

 副長のジラッブル・ラグハードも頷きながら、


「吸血鬼はこの戦争の混乱に乗じた一過性の物。空軍のグリフォン隊は離れた。それに、戦場はここだけじゃないんだからな」

「あぁ」


 と、隊長のロンシュタイガーと副長のジラッブル・ラグハードは語り合う。隊長は副長に目配せを行う、ジラッブルは敬礼。


 頷いてから胸ポケットに忍ばせていたメモに何かを走り書いていた。

 その副長はメモを仕舞い、


「では、俺はこれで」


 と発言、ジラッブルの豹獣人セバーカらしい髭が動く。

 その上唇毛と口角毛は可愛いかもしれない。

 上唇毛の下にある斑点がもっさりと膨れると、ジラッブルは頭を下げた。


 俺たちは頷く。

 ジラッブルは腰の斧を触りながらテントの外に出た。

 大声で他の兵士たちに集合をかけている。

 サーマリア王国の軍に攻撃を仕掛ける?

 即座に俺はカリィとレンショウに視線を向けた、二人とも頷いている。

 ゲンザブロウとアイも頷いた。


 なるほど、カリィとレンショウはサーマリア軍の知り得る秘匿情報を渡したのか。

 実に世渡りが上手い。

 

 そこから、皆と意見を交わす。

 ゲンザブロウも、


「塔雷岩場から退くことになったが、地下遺跡の資源確保の動きは変わらない。が、その件は二の次。補給線の維持は重要だ。軍需品の主要輸送経路を王太子ソーグブライトに狙われたのだからな」

「他のルートがあるから平気だろう」


 隊長のロンシュタイガー・ラーマニが語る。

 そこから地図を使った作戦が練られていく。

 が、俺たちはここの守備隊ではない。

 一応はシャルドネの私兵としての〝ムサカ特務分遣隊第零八小隊〟という名があるが外部の立場だ。

 

 指揮官のロンシュタイガーの作戦に口を出すつもりはない。

 だからできるだけ黙った。

 ゲンザブロウとアイに隊長のロンシュタイガーの論議が暫く続いた。


 ◇◇◇◇


 今後の作戦の概要とディスカッションが一通り続く。

 それが終わる頃合いで俺はルマルディとアルルカンの把神書をチラッと見てから……。


 ジョディとヴィーネを連れてサイデイルに帰還すると改めて話をした。


「うん、わたしたちは一旦セナアプアね」

「ん、交渉がんばる」

「了解、交渉というかセナアプアの市場でお菓子を調べないと」

「分かりました」

「あ、キサラとレベッカにエヴァ、できれば飛行術の魔法書を手に入れてほしい」

「わたしが行ければ……」

「ルマルディはまだ戻るのは早い。セナアプアの上界に戻るにしても情報を得てからにしよう。それまでサイデイルの防衛を頼む」

「はい」


 お土産を持ったユイたちはシャルドネとメルが用意していた船経由。

 セナアプア→ヘカトレイル→ホルカーバム→ペルネーテの順に戻ることが決まった。

 

 セナアプアでは【魔塔アッセルバインド】の会長さんとやらとの交渉もある。

 交渉担当はユイとエヴァにレベッカだ。

 【流剣】のテツさんが死んだことが悔やまれるが【魔塔アッセルバインド】に所属するリズさんとは仲良くなった。

 その会長さんとの交渉は【白鯨の血長耳】と【天凜の月】の繋がりを示す【血月布武】効果もあるし、俺たちの【天凜の月】&サイデイル側に有利となるはずだ。

 ま、【魔塔アッセルバインド】と【血長耳】は良好な関係のようだし交渉はスムーズに進むと予測はできる。


 エヴァはクレインと色々と話がしたいだろうし。

 お菓子大魔王のレベッカもいる。

 四天魔女のキサラもフォローするから大丈夫だろう。


 そして、ゲンザブロウとアイの二人の救出任務は完了している。

 このコンサッドテンの陣地に二人を運ぶまでが俺たちの仕事だった。


 一応、領主のシャルドネが待つヘカトレイルまで送り届けることになった。


 ハイム川を利用しているサーマリア海軍と海賊。

 中立を装った表裏一体の評議員が絡む魔法士隊と空戦魔導師たちもいるからな。


 カリィもリズと戦うため、同じセナアプアに向かうことになった。

 んだが、


「シュウヤが立ち合わないのか。なら、すぐに戦うつもりはナイヨ。ボクの安全はシュウヤだから託せる♪」

 

 と、カリィは発言。

 海老反りのような体勢になったし、怪しい。

 コロンビアのGKイギータかよ。

 とツッコミを入れたくなったが、しない。


 リズさんはカリィを睨む。

 が、もう殺気はあまり込められていない。


 そのリズさんは、俺に視線を向けて、


「シュウヤは、あとでセナアプアにきてくれるんだろう?」


 と聞いてくる。

 俺はリズさんに向けて頷きつつ、


「東の用事が終わってからとなるが」

「なら待つさ――その間……カリィ」


 リズさんはカリィに視線を向けて睨みながら、


「【魔塔アッセルバインドうち】に協力するとして……約束はちゃんと守れよ?」

「了解♪ 会長さんと仲良くしたいナ。評議員絡みの仕事は沢山あるンだろう?」

「……ある」

「なら決定♪」


 暢気なカリィの態度を見たリズさんは呆れたような面を作る。

 リズさんの隣にいるクレインは、和やかに、


「レンショウとは戦ってないから分からないが、そこのカリィは強い。わたしたちの仕事が楽になるのなら歓迎さ」


 と、発言した。

 リズさんは指先でクロスを作るジェスチャーを繰り返し、そのクロスを解く。

 そして、腕を組んで、


「……昨日の敵は今日の友か。闇社会にはよくあるが、仕方ない」


 渋々と納得したようなニュアンスで語る。


「カリィ、【天凜の月】の副長のメルさんと、まだ直に話をしていないんだが?」


 レンショウがそう発言。

 俺は頷きながら、


「副長のメルは、ラファエルとかを乗せた船団で、ハイム川を西に移動中。ヘカトレイルではヒョアン絡みの件もある。ホルカーバムを経由しつつペルネーテにも戻るから、カリィとレンショウとじかに会うことは暫くは無理だろう。で、そのメルから血文字があった。仕事なら『魔塔アッセルバインドに協力することが仕事♪ ってことで』だそうだ」

「ウン、分かった。ボクはセナアプアに行くヨ。セナアプアには変わった闘技場もあるみたいだし、楽しそう♪」

「【天凜の月】の総長。盟主としての判断はどうなんだ?」


 俺は、そう聞いてきたレンショウと、カリィに視線を向け、


「お前たちはどちらにせよ、もう情報をオセベリア側に売ったんだ。それは闇社会では、完全に俺たちに付くという宣言みたいなもんだと思うが?」

「確かに。サーマリアの裏社会にもいずれは出回るだろう。アルフォードのような<千里眼>を持つ存在はレアだが、他にも似たような遠隔透視能力を持つ存在はいるだろうしな」


 レンショウの言葉を聞いたカリィは〝しまった〟的な顔付きを浮かべながら……。


「アルフォード……」


 と、呟いている。

 レンショウはそんなカリィをチラッと見てから顔を傾げると、俺に視線を寄越し、


「……俺は塔雷岩場で盟主とユイさんに命を取られてもおかしくない立場だったが、シュウヤ殿は……盟主は、こんな殺ししか能がない俺を信じてくれた」

「当然だろう。昔、ヘカトレイルで会ったからな」

「あぁ、あの時は、単に勝ち馬に乗ろうとしただけだったんだが、そんな俺を、一度面を通したことをしっかりと覚えていてくれた。その筋を通す心は、正直痺れたぜ……だからよ、ここらで一つの組織に身を置くのもいい頃合いだと思ったんだ」


 レンショウは真顔で語る。

 ガスマスク系の二つの呼気バルブから出る魔の息が渋い。


「ウン。ボクは最初から槍使いの味方さ♪ 闇のリストの会合と塔雷岩場でも、すべての情報を告白したから分かっていると思うけど、槍使いのシュウヤと敵対しないと決めているし【天凜の月】のメンバーに雇ってくれるなら働くよ♪ 【影翼旅団】の幹部会議も呼ばれたらできるかぎり出席していたんだ♪」


 俺は敢えて、


「カリィとレンショウなら、俺たちの傘に入らずとも余裕だと思うが」

「ウン。あ、それは分からないナ♪ だけど、よろしく、新しいボクの盟主様」


 カリィは途中から悪態笑顔カーススマイル

 短剣を浮かせながらの語りようは恐怖感を与える。


 その瞬間、レベッカに期待の視線を向ける者が多数いた。

 

 が、


「……なに? あの変態にツッコミ? いやよ」


 と、指先にナイフのような蒼炎を作り、首を切るような一閃ポーズ。

 少し怖かった。


「……心外だぁ」


 と、カリィはショックを受ける。

 はは、皆が笑う。


「ま、俺たちと敵対しないなら受け入れる。サーマリアとオセベリアの情報網を得られるし、【魔塔アッセルバインド】と仲良くしたいことにも繋がる。都合がいい」


 俺の言葉を聞いたレンショウは『勿論だ』と頷く。

 と、ユイに視線を向けて、


「分かった。ユイさんたちも大丈夫でしょうか」

「……」


 ユイは不安そうな表情で俺を見る。


「いいわ、ただし……」

「……分かっている。【魔塔アッセルバインド】側にも付くと約束する。【八本指】などが相手でも逃げない」

「皆、ボクは【ビヨルッド大海賊団】のバッソリーニとニールセンを暗殺したことは知っているヨね? 当然、その流れから、呪い島ゼデンに伝わる邪道流の連中から追われる存在だけど? 大丈夫?」

「そうだった……」


 ユイが額に手を置く。

 レベッカが頷きながら、


「そういえば、カルードさんと鴉さんも、そんな話をしていたわね」


 と、発言。

 俺は頷きながら、


「今更だ。呪い島ゼデンの連中はともかく、そのビヨルッド大海賊団も結局はサーマリアについた」


 そのタイミングで、クレインにも視線を向けて、


「そして、カリィとレンショウは、俺たちについた。そのカリィを追う連中が俺たちの敵・・・・・となるのは仕方がない」


 クレインを追う敵も……。

 俺の敵になると、改めて、アイコンタクトと口調のニュアンスで伝えた。

 クレインは頬が朱に染まる。


「ふふ」

「ん!」


 嫉妬したエヴァがクレインの腕を掴んでいた。

 可愛い。


「……槍使いは男らしい。けど。ボクの敵はボクが戦うヨ?」

「カリィ? リズさんとの約束を守る気はあるんでしょうね?」


 ユイは凄みをカリィに見せて語る。


「男に二言はナイ♪ 約束は守る。邪道の連中が来ても我慢するサ。あ、最初は、ユイちゃんに知らせることにする♪」

「そういうことではなく……」


 ユイは、諦めたような面を作る。

 俺はカリィがユイのことを、ちゃんづけで呼ぶことに笑ってしまった。


 ユイも少し可笑しかったのか、微笑んで、頷くと、


「……ま、どうこう言ったところで、そういう流れは変えられないか。納得するわ。でも」


 そう語ってから、カリィとレンショウを睨む。

 

 神鬼・霊風を握る手に力が入った。

 <ベイカラの瞳>を発動。

 

 そのユイの視線と態度から……。


 『裏切りは、即・死』

 と、達筆な墨の文字が見えた気がした。

 

 裏切れば、カリィとレンショウをいつでも斬る。

 という気概だろう。


 カリィとレンショウは、喉を震わせるように唾を飲む。

 

 すると、感心したようなヴィーネ。

 即座に左肩をユイの肩に合わせた。


 ユイはヴィーネと目配せして、頷き合う。


 そして、


「ユイ。わたしも同意します。ご主人様の敵となるなら、大海賊だろうと処分対象です!」


 宣言した。

 すると、「ひゅ~」と口笛を吹くクレインが、


「ユイさんもヴィーネさんも強そうだねぇ。しかし、レフテンもサーマリアもオセベリアも大海賊もセナアプアなら大規模な攻撃は仕掛けない」

「はい」

「そうでした。塔烈中立都市セナアプアという名でもありました」

「そうだ。都合のいい中立。そんなセナアプアには、いいところもある……しかし、何度も言うが、伏魔殿であり魔窟だ。上院下院の評議員全員がくせ者」


 クレインはそう語ると、リズさんも、


「その関係者の大商会と闇ギルドは深い闇の底。そう、地底世界的な、ね。まさに深淵のなんたらだよ。光もいるかも知れないけど、とにかく悪質な奴らが多い」


 そのリズさんの言葉に頷くクレイン。


「あぁ、多い……。そして、上界の都市を構成する巨大な浮遊岩と魔塔の一つ一つが、特異な空間でかなり広い。港を見ているようだから分かると思うが、下界も広い。最初は迷うこと必至。そんな都市の内部の小規模戦闘は日常茶飯事となる」


 クレインはエヴァに視線を向けていたが、このリズさんとクレインの言葉は、皆への警告でもある。

 

 ま、都市はどこも同じ。

 血長耳が牛耳るエセル界の権益も、要は邪界ヘルローネと同じ異世界の一つだろうし。


「ん、わたしなら平気、覚悟はある。レベッカと先生にユイもいる」

「うん。お菓子を買う! お宝も見たい! クルブル流はサボっているけどエヴァを守るから」


 レベッカは変わらず。


「ペルネーテに戻る期間もあるけど、争いごとは任せて」


 ユイもクールビューティ。

 すると、黙って聞いていたルマルディが、


「……皆様、クレインさんの言葉にありましたが、くせ者の評議員のヒューゴ・クアレスマに気を付けてください。表向きはいい人を装いますが、裏ではかなり悪質です」


 と、発言してくれた。

 アルルカンの把神書も同意するように書物を上下させる。

 そんなアルルカンの把神書に下から相棒が肉球パンチをしようとしていた。


「その配下の空魔法士隊【円風】の隊員はいい人が多いって聞いたけど、皆、上司が悪質だと知らないの?」

「一部のみ。ほとんどは知らないはずです。わたしも真実を知るまで疑いなんてありませんでしたから……それに精悍な男で、口も巧く人心掌握が巧みです」


 イケメンでダーティな裏の顔を持つ男。


「……血長耳との争いも色々と根が深そうだね」


 そうリズさんが、ルマルディに指摘した。


「はい」


 ルマルディは不安そうな面を浮かべて、俺に視線を向けてきた。

 まだ話をしていないからどうなるか分からないが……。

 

 ま、レザライサも俺たちと揉めることはしたくないだろう。

 なんとかなるとは思う。


 その思いで、


「……その交渉も、エヴァとユイとレベッカ、頼む」

「うん。エセル界に出張が本当なのか怪しいレザライサが戻っていたら? となりそうだけど」

「ん、この間のホテルキシリアのお爺さんとメリチェグさんは?」

「あぁ、あの時の! 先に知らせておくってことね。レザライサのお父さんだっけ」

「ん」

 

 レベッカとエヴァは頷き合う。


「そうね。まずは、その二人に知らせておきましょう」

「うん」

「ん」


 レベッカとエヴァとユイは頷く。

 すると、クレインが、


「ホテルキシリアのガルファが、わざわざ、シュウヤに会いに下界に出向いたのかい?」

「はい」

「……【血星海月連盟】の名はやはり本物。……本当に争わないでよかった」

「あぁ【血長耳】がオセベリアではなく【天凜の月】との付き合いを重視している表れだよ。しかし、あのガルファが……」


 リズさんとクレインはそう語る。

 と、興味を少し持ったから、


「珍しいのか?」

「珍しいってもんじゃないよ。普通は表に出ない」

「メリチェグも一緒だった」

「あの軍曹もか。尚更だな」

「ガルファさんか……」

「レザライサの父親のガルファは、ベファリッツ大帝国陸軍特殊部隊白鯨を率いて転戦を繰り返しつつも、白鯨の母体を残した。どこの人族の王国も殺せず、逆に人族同士の戦争に活路を見いだして生き抜いた偉大なエルフ。そして、セナアプアでは裏の顔と等しい。それが表に出た以上、それ相応の覚悟と言葉があったはずだが……」


 と、聞いてきた。

 俺が戦争中で忙しいと聞いたガルファさんとの会話は短かった。


「レザライサと血長耳を頼むとか、短い会話だったよ」

「……そうか。ガルファは評議員たちに対しても、楔を打ったつもりなんだろう」

「内外に【血月布武】の関係性を示す。南マハハイムでもっとも強い同盟であるという意味を、か……」


 リズさんとクレインは難しい表情となった。


「レザライサも敵が多いと、言ってましたが……」

「多いってもんじゃないよ、エセル界の権益を狙う者共の数といったら……」

「それを守る血長耳も相当なんだがね。そして、幹部を失ったが槍使いと契を得て血長耳を盤石にしたレザライサも、またガルファ以上の鉄火の心を持つ豪傑さ」

「ん、敵が多くても、先生が全部倒してくれる!」

「はは、エヴァっ子。わたしでもさすがにすべては無理さね」

「ん、そんなことない。シュウヤは凄く強いのに、そんなシュウヤにダメージを与えてた。すごかった……」


 エヴァは改めて、師匠の凄さを認識したか。

 ユイも同意するように、


「うん。シュウヤの速度と互角か、やや上回っているところもあったし、相当よ。初めて見たかも」

「はい、尊敬に値します」

「そうですね、素晴らしい棒術とスキル。偉大な雌です。きっとダウメザランの魔導貴族でも軍隊を任されるほどの逸材として重宝されるはず」


 キサラとヴィーネも真顔で称賛。

 たしかに、クレインは純粋に強い。


 攻防一体のトンファーは隙がないからな。

 過去話の戦闘に関する話も面白かった。


 しかし、あの話が氷山の一角だとすると、クレインは、どれほどの経験を積んでいるんだろうか。

 

 そのクレインは恥ずかしそうに頬を掻いていた。

 リズさんがそのクレインを小突く。

 カリィは目を細めて頷いていた。


 そのボサボサ髪の彼と目が合うと、ウィンクを寄越してきた。怖い。


 すると、キサラがエヴァの手を握りながら、


「わたしもエヴァさんの傍でフォローします。シュウヤ様と離れるのは寂しいですが、今回は、ジョディに託します」


 と、発言。エヴァが頷くと、


「ん、アキエ・エニグマが気になる?」

「はい」


 あの時の大魔術師か。

 鴉といい俺も気になる。

 リズさんとクレインが眉を動かしていた。

 アキエ・エニグマの名は当然のように知っている。


 頷くジョディが、


「シェイルのための魔宝石の探索が主題ですが、昔から<光魔ノ蝶徒>の血と時の翁ファーザータイムの誓いは変わりません。命を懸けてあなた様を御守り致します――」


 手に大きな鎌を出現させつつ、お辞儀をする。

 

 大きな鎌のサージュから漏れた光が軌跡となる。

 そして、サージュの波紋の中に……。

 血を帯びた白い蛾が泳いでいた。


 大きな鎌のサージュと軌道を見たコンサッドテンの隊長が息を呑む。

 レンショウも怯えたような表情を浮かべた。


 カリィはびびらず、大きな鎌のサージュを凝視しながら、


「鋭そうな刃だねぇ。あ、待った。ボク、アルフォードと合流予定だったンだ」


 と、まったく違うことを発言。

 

「どこでだ」

「レフハーゲン」

「ここから更に東の都市か。今は無理だ」

「了解♪」


 あっさり。

 思わずコケソウになる。


「いいのか」

「ウン。アルフォードとは、これで一回だけだけど、連絡できる♪」


 と、干からびた指を懐から出すカリィ。


「うあ! 気色悪い指!」

 

 悲鳴気味にレベッカが声を出した。


「アルフォードはサーマリア側の交渉担当なんだろ?」

「ウン」

「それでいて、仲間のカリィは、三重スパイを止めてオセベリアというか俺たちに付いた……それが雇い主側に知れたら、アルフォードは四面楚歌状態になりそうだが」

「彼は強いから囲まれても生き延びる。安全圏に辿り着くはずさァ」


 と、甲高い恋愛ソングを歌うようなニュアンスで語るカリィ。

 ツッコミはだれも入れず。


「……そっか、なら話はここまで。ジョディとルマルディにヴィーネ、一旦、帰るぞ」

「にゃお~」


 肩に乗った相棒も皆に向けて片足を上げる。

 肉球判子の挨拶だ。


「「はい」」

「分かりました」

「皆、それじゃ頼む」

「行ってらっしゃいませ!」

「ん、任せて!」

「シュウヤ、お土産をミスティに渡しに、先にペルネーテに戻っているかも」

「了解、委細は血文字で」

「うん」


 皆に向け片手を上げてから、テントから出る。

 即座に二十四面体トラペゾヘドロンを使う――。


 光のゲートが出現。


「え?」


 いきなりのぷゆゆのドアップ顔で驚いた。


「ふふ、ぷゆゆがまた悪戯をしているようですね」

「あぁ、まぁこの戦場とは正反対だから和む」


 肩に可愛い体重を感じつつジョディとルマルディにヴィーネを連れて、ゲートを潜った。

 サイデイルに帰還――。


「――ぷゆ?」

「ンン、にゃ」



 ◇◇◇◇


 キッシュとクナに会って簡易的な報告を済ませた。

 血文字のメッセージで皆とコミュニケーションをしつつ血魔剣の百目血鬼を出して子供たちに披露。


 皆はサイデイル城の中心にあるモニュメントに集まっていた。


 即座に、


「相棒、変身を頼む」

「ンン」


 黒猫の相棒は喉声を響かせつつ神獣に変身。

 猛禽類っぽさのある頭部を上向かせた相棒は、


「にゃおおおおお~」


 と、猫の声で大きく鳴いた。

 その声は、少し野太い。

 相棒は、胸元を張るような姿勢で――。

 ふさふさな胸元を揺らしつつ、ゆっくりとした動作で胴体の横から漆黒の翼を広げる。


 本当にスペクタクルな神獣だ。

 グリフォンってより、漆黒のドラゴンを彷彿する。

 

 光沢のある黒毛たちが靡く姿は美しい。

 その相棒を見てから――。


 ジョディたちに視線を向ける。


「準備はいいな?」


 と、語りかけた。


「はい、あなた様――」

「ご主人様、行きましょう」

「おぉぉ、我は楽しみである!」

「――ガルルルゥ」


 相棒は、元気のいいビアに呼応。


 レアな獣の声で応えていた。


 巨大な神獣の姿なだけに、迫力がある獣の声。


 そんな神獣ちゃんは、俺たちを瞬く間に背中に乗せてくれた。

 大柄のビアに絡む触手は少し弛緩して、伸びていたのは、ご愛敬。


 一人だけ重装備だし重いのかもしれない。

 俺たちはサイデイルを出発した。


 あっという間に巨大な目印にもなる不屈獅子の塔を越えた。

 遠くの左側にマハハイム山脈が見えた。

 元フジク連邦の土地までは距離がある。

 ママニが言うには【牙城独立都市レリック】もまだ先。

 レリックよりも更に東には、ママニとビアにクリチワの故郷にアゾーラの故郷のコンラッド村がある。


 ヴィーネとママニにビアは神獣の背中で巨大な漆黒の翼から放出している魔力の粒について議論を展開、ビアは興奮しているだけでヴィーネとママニの言葉の意味が通じていないような会話が聞こえてきた。

 ジョディは、百目血鬼と常闇の水精霊ヘルメと白鼬ちゃんを首に巻く貂と一緒に飛翔中だ。


 血と水の螺旋と白色の蛾を、貂の妖狐的な尻尾に放っていた。

 ヘルメの、


「水と血と蛾で、貂に新しい虹の尻尾を作るのです――」


 とか話が聞こえた。

 何をしているんだか。 


 さて、ひさしぶりにまったりとするかな。

 あ、モリモン商会から手に入れたアイテムを調べるか。

 それとも、先に極大魔石をアイテムボックスに納めるかな。


「相棒、安全な自動運転を頼む」

「にゃおおお」


 俺の首に付着していた一対の触手手綱が外れて、相棒の後頭部に収斂していく。

 その際に、長い耳の片方が、俺に触れてきた。


 これに寄っかかれか?

 優しい相棒だ。

 背中を少し、その長い耳の内側に預けた。

 柔らかい産毛が良い感じのクッションとなる。


 ポケットのモリモンの古代秘具はあとでいいか。

 古代秘具。便利なナイフ的な印象だが。


 よし、右手首のアイテムボックスを操作。


 先に魔石袋を出した。


 ◆:人型マーク:格納:記録

 ―――――――――――――――――――――――――――

 アイテムインベントリ 85/490


 中級回復薬ポーション×99→96

 中級魔力回復薬ポーション×92

 高級回復薬ポーション×29

 高級魔力回復薬ポーション×20

 大白金貨×6

 白金貨×986

 金貨×1133

 銀貨×542

 大銅貨×20

 魔力増幅薬ポーション×3→2

 帰りの石玉×11

 紅鮫革のハイブーツ×1

 雷魔の肘掛け×1

 宵闇の指輪×1

 古王プレモスの手記×1

 ペーターゼンの断章×1

 ヴァルーダのソックス×3

 魔界セブドラの神絵巻×1

 暁の古文石×3

 ロント写本×1

 十天邪像シテアトップ×1

 十天邪像ニクルス×1

 影読の指輪×1

 火獣石の指輪×1

 ルビー×1

 翡翠×1

 風の魔宝石×1

 火の魔宝石×1

 ハイセルコーンの角笛×1

 魔剣ビートゥ×1

 鍵束×1

 鍋料理×4

 セリュの粉袋×1

 食材が入った袋×1

 水差しが入った皮袋×1

 ライノダイル皮布×2

 石鹸×4

 皮布×8→6

 魔法瓶×2

 第一級奴隷商人免許状×1

 ヒュプリノパスの専用鎧セット一式×1

 魔造家×1

 小型オービタル×1

 古竜バルドークの短剣×28→27

 古竜バルドークの長剣×1

 古竜バルドークの鱗×138

 古竜バルドークの小鱗×243

 古竜バルドークの髭×10

 レンディルの剣×1

 紺鈍鋼の鉄槌×1

 聖花の透水珠×1

 魔槍グドルル×1

 聖槍アロステ×1 ☆

 ヒュプリノパスの尾×1

 フォド・ワン・カリーム・ビームライフル×1

 フォド・ワン・カリーム・ビームガン×1

 雷式ラ・ドオラ×1

 セル・ヴァイパー×1

 ゴルゴンチュラの鍵×1

 フィフィンドの心臓×1

 魔皇シーフォの三日月魔石×1

 グラナード級水晶体×1

 正義のリュート×1

 トフィンガの鳴き斧×1

 ハザーン認識票×1

 ハザーン軍将剣×1

 アッテンボロウの死体×1

 剣帯速式プルオーバー×1

 環双絶命弓×1

 神槍ガンジス×1 ☆

 魔槍杖バルドーク×1 ☆

 時の翁×1

 神魔石×1

 血骨仙女の片眼球×1

 魔王の楽譜第三章×1

 夢追い袋×1

 双子石×1

 閻魔の奇岩×1

 聖ギルド連盟の割り符x1

 波群瓢箪×1

 極星大魔石×1

 ダ・バリ・バムカの片腕×1

 王牌十字槍ヴェクサード×1

 ミホザの髑髏鍵×1

 グラナード級軽魔宝石×1


 ―――――――――――――――――――――――――――


 さて、◆をポチッとな。


 ―――――――――――――――――――――――


 ◆ ここにエレニウムストーンを入れてください。


 ―――――――――――――――――――――――


 ◆:エレニウム総蓄量:2346

 ―――――――――――――――――――――――――――

 必要なエレニウムストーン大:1100:未完了

 報酬:格納庫+150:偵察用ドローン:解放

 必要なエレニウムストーン大:3000:未完了

 報酬:格納庫+200:アクセルマギナ:解放

 必要なエレニウムストーン大:5000:未完了

 報酬:格納庫+300:フォド・ワン・プリズムバッチ:解放

 ―――――――――――――――――――――――――――


 ここに、魔石袋に入った大量の極大魔石を納める。

 ドキドキする。

 魔石を納めて解放される偵察用ドローンは確定としよう。

 フォド・ワン・プリズムバッチはどんなアイテムだろう。


 それとも……宇宙船で観察中か惑星セラで海賊活動中かもしれないハーミットこと、ハートミットに聞いてみるのもいいかもしれない。


 いや、必要ないか。

 同じクルーになったが、いちいち報告する義務があるわけではない。


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