五百三十四話 美女たちの微笑みの饗宴※アイテムインベントリ表記あり

 エヴァと俺が抱き合う姿を見た皆。

 セーフハウスからオフィーリアとサザーにポロンとツラヌキ団のメンバーも姿を見せた。

 各自、遠慮している。

 両手を後ろに回し黄土色のセーフハウスの壁に並んでいく。


 すると、選ばれし眷属たちの中でレベッカが短い足をすたすたと動かして近寄ってきた。


「もう、見せつけてくれるわね! けど、エヴァの気持ちはすっごく分かる」


 微笑みながら、蒼炎を宿した人差し指でエヴァを指し、


「エヴァ、貸しよ?」


 そう発言。

 俺の首の匂いを嗅ぐように顔を押しつけていたエヴァは、その声を聞いて振り向く。


 エヴァは首を傾げた。


「ん、お菓子?」


 と、聞き返す。

 エヴァの揺れる黒髪からいい匂いが漂う。

 思わずエヴァの後頭部を見た。


 艶のある美しい黒髪。

 <従者開発>で色を変えたらどんな感じになるかな。

 とか、やぼなことを考えてしまった。

 その間、レベッカは振り向いて素朴に聞いてきたエヴァを見て微笑むと、


「貸し! 菓子ではないって、もう、可愛いんだから!」

「ん、ごめん、貸し。でも、シュウヤは別」


 たぶん、エヴァは舌を少し口から出しているかな。


「ふふ、いいわ。貸し繋がりで、お菓子もちゃんとあるから」

「ん! どんなお菓子?」

「内緒、ロロちゃんがいっぱい食べちゃったけど、まだ余ってる。あ、黄金色の凄い美味しいお酒もあるの。これも楽しみにね!」


 にっこりとするレベッカ。


「わかった。ありがと、レベッカ大好き」

「ふふ、わたしもよ!」


 二人は微笑む。

 なんか、俺までほっこりと心が温まった。

 レベッカはミスティの横に移動した。

 そのミスティはレベッカと肩を並べて、


「そうね、戦いは別々だったけれど、わたしたちはマスターを独占していた形。とくに……チーズと一緒に食べられちゃったし?」


 ミスティの言葉と視線に態度から色香を感じた。


 しかし、その最後の色がある言葉と態度に他の眷属たちが、俺を注視する。

 隣で、恥ずかしそうに頬を赤く染めていたレベッカも、「秘密だったのに……」と、呟くが、熱い眼差しを寄越す。


 その熱い視線をいぶかしむユイは「へぇ……」と呟いて俺をジロッと睨み、


「……何を食べたのかしら?」


 と、俺を凝視して<ベイカラの瞳>を発動する。

 思わず、


「はは……」


 俺はエヴァから片手を離して、月狼環ノ槍さんを抜く。

 その握った月狼環ノ槍の角度を調整した。

 幻狼たちよ、発動しろ!

 大刀の穂先を静寂が包む……。


 いつも揺れているくせに、肝心の時に止まるなや。


 お? 金属の環たちが少し揺れた、が……子供の幻狼の尻尾が見えただけだった。


 ……うむ、素晴らしい武器である。

 と、強引に納得。

 ユイは、俺の月狼環ノ槍を見ながら頷く仕草を見て、更にいぶかしむ。


 すると、エヴァが、俺のオカシな態度を止めさせようと、細い手で俺の腕を叩く。

 お望み通り、月狼環ノ槍を離す形で、地面にまた穂先を突き刺した。


 ユイはそのエヴァが俺の手を叩く様子を見て、笑うと、


「……おかしなシュウヤ。でも、エヴァのシュウヤに対する気持ちは分かるし、なにより後方支援として重要な仕事をしたから。血文字の連絡ありがとね」


 ユイはそう語る。


「ん、ユイこそ! ロンハンの追跡から戦いの連続と聞いた、がんばった!」

「うん、ありがと」


 ユイは微笑む。

 すると、ミスティが、肩に小さい狛犬を乗せているナナと手を繋ぎながら近寄ってきた。


「そうね。ロロちゃんが居るけど、ユイの<ベイカラの瞳>のおかげで有利に働いたのは事実」


 とユイを褒めた。

 そのユイは瞬きをして、視線を逸らしつつ、


「ありがとう、ミスティも地上の戦いで傷を負ったようだし、ゼクスも仕上げて使いこなしていたとレベッカから聞いた。だから濃厚・・食べ・・られてしまったのは当然かな?」

「ふふ、ユイもすぐに食べ・・られてしまうから大丈夫よ」


 と、俺を見るミスティ。

 眷属たちにオフィーリアたちも混ざって熱を帯びた視線を寄越す。

 期待は理解した。栄養ドリンク代わりの黄金の酒もあるし、大丈夫だろう。


 その状況を見て、ユイは微笑んでから、


「でも、エヴァ。皆の報告を待つって、結構、しんどいはずよ」

「そうですね。ご主人様の近くで戦った本人たちは満足できますから。エヴァだって、ご主人様の隣で戦いたかったはず」


 ヴィーネがユイに同意するように語る。


「ん……ヴィーネ、凄い。わたしの心を読んだ?」

「はい――」


 と、ヴィーネは真剣な表情を浮かべてエヴァに答えていた。

 だが、ヴィーネはすぐに、ふふと笑って、


「冗談です。読めません」

「びっくりした。けど、ヴィーネもシュウヤと連携してがんばった!」

「はい。エヴァも、ご主人様から愛を受けるべき大事な家族です」

「……家族」


 と、ヴィーネの発言に反応したナナが、小声で呟く。

 ナナはミスティとレベッカの手を離して、少女らしく、小さい指の先端を、飴でも舐めるように口の中に含んでいた。


 エヴァはナナに気付くと、俺から離れる。

 金属足ですたすたとナナの下に近寄っていく。


 ナナの前で、両膝を地面に突けて、そのナナと視線を合わせると、


「ん、ナナ。わたしはエヴァ。よろしく」

「はい、エヴァさん」


 ナナを安心させるように色々な会話を行っていく。

 ヴィーネたちは微笑んだ。


 すると、ジョディが、


「ふふ、わたしも家族です。やはり、ヴィーネお姉様ですね。妹という感覚ではないです」


 と喋りながらロロディーヌの尻尾の毛に悪戯をする。

 相棒は「ンン――」と鳴いてジョディ目掛けて肉球パンチを繰り出した――。

 巨大な前足がぶれて見える。

 肉球とはいえ、当たれば並の人間なら吹き飛ぶ速度。


 しかし、ジョディは余裕の表情で「ふふ」と笑う。

 軽やかに肉球パンチを躱すと「こっちです、ロロ様!」と叫び身を捻りながら飛翔――。


 銀糸と白色の蛾を放出しながら川面の方へと逃げていった。

 当然、相棒は大反応――。

 くるりと舞うように回ってジョディに向か、わなかった。


 ラファエルの頭部と金髪をわしゃわしゃと触手たちで撫でてから――。

 その触手の一つで、ラファエルの頬を叩く。


「なぜぇ~、親にもぶたれたことないのに~」


 ラファエルが叫ぶ。

 ロロディーヌはラファエルの言葉を聞いてから、


「ンン」


 と鳴いて高台を離れるように跳躍――。

 翼をはためかせた相棒はジョディを追い掛けていった。


 しかし、蜘蛛娘アキが「主様、神獣様が羨ましい……」と、寂しげに呟く。

 空を飛びたいらしい。


「それぞれに役回りがあるもんさ、気にするな」

「はい」


 ラファエルは俺の言葉を聞いてダブルフェイスとアイコンタクト、頷き合う。

 そして、俺を見て、


「――シュウヤって要所要所で素晴らしい言葉をいうよね。僕の胸をツラヌキ団するつもりかい?」

「しねぇ」


 と、即座に反応。

 俺の変顔を見た周囲は一斉に笑う。


 笑い声が響く中、アラハとサザーは蜘蛛娘アキを見て驚いていた。

 そして、アラハとオフィーリアは、ツラヌキ団という言葉を聞いたからか、金髪のラファエルを興味深そうに見ていた。


 本当に整った端正な顔だからな。

 そのラファエルは豪快に笑いながら、


「ははは、冗談だ。ということで蜘蛛娘アキさん。この中に入るかい? 癒やしのホウレンソウがあるよ。マルゲリータも居るし」


 語尾のタイミングで音程を微妙に高めながら、厭らしく誘うラファエル。

 癒やしのホウレンソウとは、謎だ。


 その仕草と言葉の質は、イケメンホスト。


 そんなイケメンのラファエルの横には、団子虫風の可愛いドザンの盾が浮いていた。

 魂王の額縁からいつの間にか出している。


 その魂王の額縁は、ラファエルの背後に浮いていた。

 立体的な玩具世界を宙に展開している。

 アルチンボルド風のユーンに巨大なこんにゃくの壁のようなゼットンが見える。


「いえ、結構です。わたしは主様だけのモノ、主様だけの蜘蛛ですから」


 美形の蜘蛛娘アキ。

 胸元に手を当てながら微笑んでくれている。


「アキの複眼が怪しく光りました」


 ヴィーネが指摘。

 俺はアキの複眼を見て、ハニカム構造のすべてに俺が映っているのか?

 と、疑問に思いながら、空で遊ぶロロディーヌとジョディに対して、


「ロロとジョディ――冒険者も居るだろうし近隣住民に迷惑をかけるなよ! モンスターは倒してもいいが、それでもできるかぎり派手に暴れるな」

「ンン、にゃんお~」

「はい~」

「ニャア」

「ニャオ」


 あれ、黄黒猫アーレイ白黒猫ヒュレミだ。

 雷状の膜を纏って空を飛んでいる。


 親を追い掛けるように巨大な神獣ロロディーヌを追い掛けていった。

 バチバチとした雷状の膜を纏ったとはいえ……二匹の猫が空を飛ぶか。


 シュールだ。

 暫し、その光景を皆が見ていく。


「……猫に負けた」


 と、呟く蜘蛛娘アキ。

 風で飛びそうだったメイドキャップを片手で押さえながら、眩しい空を見ていく。

 蜘蛛娘だが、不思議とメイド服姿が似合う可愛いアキは絵になるな。


 そんな中、ユイとヴィーネはセーフハウスの入り口で俺に対して頭を下げていたカルードと鴉さんの下に近づいていく。

 更にキサラがジュカさんを紹介。


 黒魔女教団の生き残りとしての思い出話を少し展開。

 そのカルードが鴉さんを連れ近寄ってくる。


 早速、礼儀正しいカルードは片膝で地面を突く。

 鴉さんも同じだ。


「おう、頭をあげてくれ」


 カルードは速やかに立ち上がる。


「はい、マイロード。お帰りなさいませ、皆様もお疲れ様でした」


 カルードがそう発言。

 <筆頭従者長>を含む、皆が渋いカルードの言葉に頷く。


 鴉さんは、遠慮して片膝を地面に突けたままの状態を維持してくれている。


「では、正式なご報告を」


 渋いカルードは執事のような仕草で語る。


「血文字でも聞いたが、頼む」

「はい。闇のリストの〝謎の船長レイ・ジャック〟、そのレイ・ジャックが〝何でも屋〟の〝運び屋〟です。アルゼの街で幅を利かせていた商会のリーダーかと」

「聖ギルド連盟のアソルが前に教えてくれた奴だな。凄腕の剣士。通称、海竜斬のレイ。昔はアズラ海賊団の六番隊隊長だったとか」

「そのようです。魔導船こと〝銀船〟を操るとか。それを追う大海賊マジマーンの一味と虎獣人ラゼールの冒険者たち。アルゼの街を出たわたしたちを追った理由は、そのレイ・ジャックこと〝何でも屋〟の関係者か、または、銀船を追うライバル組織の存在と勘違いして襲い掛かってきたようですね」


 俺はカルードの言葉を聞いて頷く。


 バーレンティンたちとキサラとジュカさんを含めて皆が納得していった。

 エヴァと遊ぶナナは時々話を聞いているが、理解していないだろう。


 ラファエルも知っている範囲で、説明を加えていくが、エマサッドもあまり理解していないようだ。


「本当に色々と繋がっている。ま、皆、生きているんだから自然なことか」

「はい、闇のリストについてクナからも少し聞きましたが、『シュウヤ様には少しお話をしましたよ』と、誤魔化されまして……」

「はは、クナらしい。そのやりとりは何となく想像できる。ま、聖ギルド連盟が追っていたグループとクナが知り合いなら俺と知り合いということになる。聖ギルド連盟の他の幹部たちと揉めることになるかもな。それでも鑑定が済めば、アルゼの街にある聖ギルド連盟に秘宝を返すつもりだ。だから、その案内はカルードに頼もうかな、西への帰還が遅れるが」

「帰還についてはお気になさらず。しかし、アルゼでは、すでに、わたしの顔は割れていますが……」

「構わない。心配ならサイデイルで<従者長>となったソロボから笠でも借りるか?」


 と、冗談で語る。


「はは、いいですな」

「ま、割符もあるからなんとかなると思う」


 そう語ると、クナとハンカイも扉から出てきた。

 カルードは頭を下げ続けている鴉さんに耳打ちをして立ち上がらせると、俺から離れて、そのクナを睨み出した。


 何か揉めたか?


 クナはハンカイに肩を貸してもらい立っている。

 そのクナを見たラファエルが、


「体調が悪そうだけど、しぶとい暗黒のクナちゃんだ! やはり生きていたんだね」

「そうよ、ラファエル。シュウヤ様は、わたしを封じた分身とゾルを殺してくれたし」

「聞いたよ。ミスティさんからもね……」


 と、ラファエルがミスティを見る。

 ミスティはクナに視線を向ける。


 目を細めながら、


「うん。兄が、お世話に、なりました?」


 と、鷹揚にゆっくりとわざとらしく語る。


「あら、その微妙な、間。嫌みを感じるわね。分身に残っていた記憶のことは、もう素直に告げたはずよ?」

「聞いたけど、あれがすべてだとは思えないから」

「魔族クシャナーンの言葉を信じられないのも当然だけど……分身の記憶が曖昧なことは本当よ?」


 クナは俺に視線を向けてきた。


「そこは信じるよ」


 俺はそう本心で語る。


「ありがとうございます」

「そうねぇ、あの閉じ込められていた酷い状況を見る限りでは信じるしかない」


 と、レベッカが指摘。

 分かる。あの時のクナは、エマサッドの拷問が軽く感じるほど……。

 頭部を含めて身体は本当にボロボロだったからな……。


 そのクナは頷いて、


「……わたし本体だって、魔素を吸引されつつ尻尾と指と耳に鼻や目と内臓を素材にされたのよ。利用価値がなくなったらゴミのように放置されたのだから……わかってほしいな。そして、ゾルに関する分身の記憶では、サビードとの取り引き、隠し部屋で魔法ギルドのだれかと連絡を取っていたこと、奥さんを取り戻すために執念を燃やしていたことぐらいかな」

「それはもう聞いた」

「……<筆頭従者長>相手に嘘はつかない。シュウヤ様にも嫌な印象を持ってほしくないし。嘘をついても意味がない……」


 クナは黄色の瞳で俺を見つめる。

 口元のほくろが前にも増してチャーミングに見えた。


「そうね。ま、昔のことはもういいわ。後、これはわたしの性格だから、少し皮肉ってごめんね」 

「了解♪」


 クナは鼻血を流しながら喜ぶ。


 ミスティは俺たちから離れて、カルードと鴉さんに挨拶した。

 新型魔導人形ウォーガノフのゼクスを見せて、魔霧の渦森に関することを告げていく。

 ヴィーネも金属製の鳥を見せていた。

 カルードも鴉さんとユイと一緒に経験してきた戦いの結果と、血文字で連絡済みだが、自身の口から目的と野望についても改めて話をしていった。

 ラファエルはカルードを興味深そうに見ていた。

 ダブルフェイスも見ているが、遠慮しているのか、無口だ。


 クナはラファエルに視線を向けて、


「……ラファエルの情報を得ようと、ミシカルファクトリーの知り合いが執念を燃やしていたように、闇のリストとしての実力は健在なようね」


 ビクッと体を揺らすラファエル。


「そ、そんな奴も居たね……」

「わたしは誤魔化されないから。<洗魔脳>に抵抗していたからこそ、シュウヤ様に協力できたのでしょう?」


 クナの言葉を聞いて片方の眉を持ち上げるラファエル。


「……そうともいえるかな」

「その機転の良さと判断力は見事。そして、その浮いている〝魂王の額縁〟が展開している世界でも分かるけど、白色の貴婦人も苦戦していたように、貴方だから操作が可能な代物。今も、キュトミー系の子供の姿がオカシナ姿で映っている……魂王ファフニールも、旧神テソルの力も、白色の貴婦人に吸収されていない、ということね♪ ということは、使役モンスターの代表格『ゼットン』と『アヒーム』も元気かな。そして、あの『シーグル』ちゃんも、その中に棲んでいるんでしょう?」


 クナが最後に〝シーグル〟という名を出した途端、ラファエルは厳しい表情を浮かべた。

 クナを睨むラファエル。


「……さすが<星惑の魔眼>の持ち主だ。いつシーグルを知った?」


 と、珍しい。

 ラファエルは乱暴な口調になった。

 初めてか?


 彼の金髪が魔力に縁どられて浮かぶ。

 同時に手首に巻きついているイントルーパーたちが炎を吐く。


 更に腰のトルーマンだけではなく、背中の猫じゃらしのような杖も蠢く。


「……あら、皆に内緒だったのかしらん?」

「……知ったような口を……クナちゃんらしいけど」

「そんなに睨むと、《黒の牢獄ブラックプリズン》に閉じ込めるわよ?」


 クナも睨みを強め……手首に巻き付く腕環に魔力を込めた。

 アラビア文字や象形文字と似た文字が紫色に光る。


 あの能力はまだ知らない。

 俺に隠していることは山ほどありそうだ。


 ラファエルも背中に手を回して猫じゃらし風の杖に触れていた。

 トルーマンは使わないのか。


 なんか喧嘩になりそう。


「クナとラファエル。そこまでだ。くだらん喧嘩をするな。クナ、ラファエルは俺の友だから、それなりに接しろ。ラファエルもクナは俺の眷属と同じってことを忘れるな」

「は、はい!」

「分かったよ、ごめん。でも凄いな。信じられないけれどクナちゃんが本心で従順になったと分かる……これは奇跡だよ。うん。やはり、シュウヤは僕の英雄さんだ!」


 ラファエルは魔眼を発動させながら喋り、拍手。

 何回も頷きながら拍手を続けていた。


 何かの皮肉にも聞こえるが、本心だろう。

 俺はラファエルから、クナとセーフハウスに視線を向ける。


「クナ、セーフハウスの提供に礼をいう」

「はっ――ありがたき幸せ」

「そして、ミスティとレベッカからも血文字を経由して聞いていると思うが、アイテム類は色々と回収してきた」

「は、はい!! 〝朱雀ノ星宿〟と魔界四九三書のような貴重なアイテム類は非常に気になります! あ、まずは極星大魔石が見たいです!」

「まだだ、後でな」

「はい! うふふふふ、これで色々と大いに貢献できる」

「……契約をした相手とはいえ、シュウヤをそこまで信奉するとはな……」


 そう発言したハンカイはクナを支え続けている。


「当然よ。わたしを縛っていた魔法陣を貫いた<紅蓮嵐穿>という魔槍技を扱える偉大な魔人武王のような方。<時空の目>でさえ把握できない魔力の奔流を持つお方と……ぐふ、わたしは、契約ができた……できてしまったのよ? うふ」


 クナは選ばれし眷属たちをライバル視するように睨んでから、俺を見て、満面の笑みとなる。

 美しい表情だが、怖い。


「ダモアヌンブリンガーの魔槍使い、教団の救世主であるシュウヤ様ですから当然です」


 キサラがクナに宣言するように発言。

 クナは頷き「そうね。シュウヤ様なら可能でしょう」と呟くと口の端から血を零す。


 興奮した結果かもしれないが。

 クナはクナで傷はまだまだ癒えていないか。


「……で、この間の〝逆絵魔ノ霓〟とかいう小さい額縁に、シュウヤに内緒で命を捧げるつもりで<霊魔の極致>のスキルを使ったと聞いたが……あれをまた実行すると、本当に死ぬぞ? だから無理はするな……お前は、俺が……」

「わたしを斧でぶっ殺すんでしょう?」

「そうだ」


 微笑み合うハンカイとクナ。

 この間とは、オフィーリアたちの紋章を外したときか?

 やはり何かリスクを背負っていたのか、俺に黙っていたようだな……。


「……なら、ハンカイに殺されるためにも、まだ、死ねないわね」

「うむ」

「ふふ、そう睨まないでよ。<魔印・崙健大法>を重視するわ。幸い、レベッカとミスティが回復用のアイテムを色々と回収できた。とエヴァちゃんから聞いたからね」


 ハンカイは頷く。

 なんだかんだいってハンカイもクナのことを許しているんじゃないか。


 何かいい感じだしヴィーネも二人の様子を見てから頷いている。 

 すると、スゥンさんとサルジンにトーリといった墓掘り人たちも片膝で地面を突くと頭を下げてきた。


「いいから気にせず、頭をあげてくれ。バーレンティンも頼む」

「――はいっ。スゥン、主を困らせるな。吸血王の言葉だぞ」

「「承知!」」


 彼らは一斉に立ち上がり、バーレンティンを出迎える。

 レネ&ソプラさんも玄関から現れた。

 兎系の種族の長耳さんが、扉の上部に当たって、痛がっていた。


 可愛い。


 更に、ビアとフーも、捕虜にしていたメンバーたちを外に連れ出してくる。

 結局、ここで会議か。

 ま、いいか。このまま青空会議といこうか!


 大海賊マジマーンの一味を注視。

 麻痺している美人さんがいるから彼女がマジマーンだろう。


「その連中は大人しいが、<麻痺蛇眼>を喰らわせた?」

「我が主、その通りである!」


 ビアが蛇らしい長い舌をシュルルと伸ばしながら偉そうに語る。

 相変わらず舌の動きが面白い。


「そっか、カルードから尋問の結果は聞いている。その捕虜たちには俺も個人的にあとで聞くとしようか。暫くはここにいてもらうことになるかもしれないが」


 俺たちに与するか、敵対するか。

 好きなように選ばせるつもりだ。


 まずは、銀船を操るレイ・ジャックとも会ってからとなる。


「……マイロードに従います」


 カルードの言を聞いてから急いで<邪王の樹>を意識した。


 ――椅子を瞬時に作り上げる。


 その間、エヴァはナナに向けて、サージロンの球を浮かせてお手玉を披露。

 ジャグリング系の才能があるんじゃないか? 


 と思うぐらいに上手くなっていた。


 そのエヴァはナナとの遊びを止める。

 そして、金属の足を魔導車椅子に戻しつつ目の前に生成されていく樹木の椅子に不思議そうな表情を浮かべていた。


「ヒヨリミ様の下に秘宝を返しに向かう前に、ここで会議しよう」

「はーい、わたしたちも参加」

「うん、カルードさんたちに協力したけど、白色の貴婦人との決戦や本拠地戦がどんな感じだったのか、ちゃんと聞きたい」


 レネ&ソプラさんの兎人姉妹がそう発言しつつ、椅子の側に近寄っていく。

 エルザも、ヤハヌーガの大牙をおろし、


「そうだな、わたしも興味がある、アルデルの聖杯に繋がる月狼環ノ槍と、それに関係した神魔石と似た狼の形をした未知の魔石とやらもな」


 アリスもステップを踏みながら、


「うん~」

「クナ、ノ、血、ホシイ」


 ガラサスがそう発言。

 すると、エルザはすぐに「済まない、押さえる」と左手を隠した。


 レネ&ソプラさんはガラサスの挙動を見て、びっくりして離れる。

 エルザは口元のアウトローマスクを直して二人に頭を下げていた。


 一方、キサラとジュカさんはそんなことは気にせず。

 仲良く挨拶してから「ふふ、面白い生物ですね」とエルザに聞いていた。


 そして、俺に向けウィンクを繰り出してくる。

 キサラは黒マスクを外していた。

 蒼い双眸を晒してのウィンクだ。

 そして、そして、黒を基調としたノースリーブ系の衣裳だから双丘さんがダイナミックに揺れている。


 黒魔女教団の美女の槍使いたちは中々の破壊力だ。


 その魅了された直後――。

 レベッカ、ヴィーネ、ミスティも競うように俺にウィンクを繰り出してくる。

 フーとビアも参加。

 エルフらしい長髪から長耳を覗かせるフー。

 ビアはウィンクというか、蛇人族ラミアらしく巨大な蛇腹を自慢そうに動かしていた。

 ツアンも何故か参加した。

 蜘蛛娘アキとアリスにエルザもウィンク合戦への参加を始めていく。

 アキは複眼だが、藻のようなモノがシャッターのように動く。

 ガラサスもか……。

 エルザに押さえられていたガラサスだったが、変な動きで瞼を閉じて開いてをくり返した。


 しかし、ガラサスは途中でハンカイに支えられているクナの方向へと視線を向ける。


『閣下、わたしも混ざるべきでしょうか』

『自由にしろ』

『はい!』


 左目からヘルメが飛び出ると、皆から拍手を浴びるヘルメ。

 女体化すると同時に水飛沫を皆にかけて虹を起こす。


 そして、皆が揃っているところに、アイテムボックスから波群瓢箪を出した。


「リサナも出とけ」

「はい~」


 と、皆が皆ダンシング的な踊りから、ポージングを繰り出した。

 サザーも小さいながら参加する。

 オフィーリアもサザーに促されて恥ずかしそうにポーズを取った。

 中々の破壊力だ。


 そこに黒豹の姿に戻りつつあったロロディーヌとジョディが空から舞い降りてくる――。

 触手に絡まっている黄黒猫アーレイ白黒猫ヒュレミも見えた。


「神獣様!」

「アーレイとヒュレミちゃんも。幻獣は消えてる?」

「ンンン――」

「ジョディちゃん~」


 ヘルメが宙に薄い水膜を張るように水を展開しながら、その水膜をジョディに纏わせていく。

 水をあげるとか言っていたからな。

 黒豹ロロは更に黒猫の姿に縮小すると、エヴァの膝の上に向かった。


「ん、ロロちゃん、おかえり?」

「ンン、にゃ」


 エヴァのやっこい太股の上で、片足を上げてエヴァに挨拶。

 そのエヴァは微笑んでから黒猫ロロを抱きしめていく。

 黒猫ロロも応えるようにエヴァの頬を舐めてあげていた。


「――ニャア」

「――ニャオ」


 と、黄黒猫アーレイ白黒猫ヒュレミもエヴァの太股の上に乗っていた。 


「ふふ」


 エヴァは嬉しそうに二匹の頭部を撫でていく。


「わぁ~」

「いいなぁ」


 ナナとアリスが側に寄っていく。

 いつの間にか、子供同士意気投合していたようだ。

 ナナの肩にいた闇色のオーラに包まれた狛犬は黙ってアリスを睨むように凝視していた。

 エルザが心配そうに、その様子を見るが、ガラサスを押さえている。


 ナナとアリスに微笑んだエヴァは「ん、こっちにいこ?」と魔導車椅子を操作して、そのナナとアリスを連れてフーたちの横に控えめに並んだ。


 そうして、美女軍団が揃った。

 中には、イケメンと子供も混ざっているが。


 野郎共は無視して、美女たちの微笑みの饗宴。

 ウィンクの饗宴という。

 絵になるどころか、こりゃヤヴァイ――。

 写真を撮りたい。


 そんな美女たちの熱い空間に、冷たい刃を当てるようにバーレンティンが、


「我が主、吸血王!」


 と、宣言して、敬礼を始めた。

 墓掘り人たちも一斉に胸元に手を当て敬礼を始める。

 蜘蛛娘アキも大柄のロゼバトフさんの真似をして、並ぶ。


 イセスがいぶかしむ。

 対するアキはにっこりと微笑んで口から糸を出す。

 イセスは血を発生させて、動揺を示していた。


 そこからバーレンティンは、代表して白色の貴婦人勢力との戦いの説明を開始。

 血獣隊隊長ママニも地上戦に事細かく補足していく。


 一方、これまた渋さを超越したキラリと光る頭を持つスゥンさんも別働隊の説明を開始。

 隊長のカルードも腕を組みながら、禿げのスゥンさんの言葉を補足していく。


 それらの情報を整理するように聞く<筆頭従者長選ばれし眷属>たち。

 彼女たちはスゥンさんとサルジンとトーリに挨拶してから血文字でキッシュとヴェロニカに報告を行う。

 メルとベネットとも血文字で連絡を取り合っていた。

 エヴァは黄黒猫アーレイ白黒猫ヒュレミと、アリスとナナにじゃれられて血文字どころではなくなっていた。

 十二大海賊団と連なる銀船繋がりの波紋は色々とあるようだ。


 すると、宙に浮かぶ血文字の羅列に混乱したオフィーリアは視線を泳がせる。


 そして、俺と目が合った。

 彼女は潤んだ瞳だ。

 微笑みを返すと、彼女は「シュウヤさん……」と短く呟いてから頭を下げてきた。

 彼女の背後で遠慮していた助かった小柄獣人ノイルランナーたちも続けて頭を下げてくる。


 しかし、その助かった小柄獣人ノイルランナーたちは墓掘り人たちと話をしていた蜘蛛娘アキの姿を見て、騒ぎ出す。

 小さい指をアキに向けていた。

 子犬のように耳が激しく揺れていくさまは面白い。


 興奮した小柄獣人ノイルランナーの一人が蛇人族ラミアのビアにぶつかって転けていた。


 アキの上半身は綺麗な女性だが、下半身は蜘蛛の多脚で幅もあるからな。

 小柄獣人ノイルランナーたちが驚くのも無理はない。


 そのアキは多脚を生かして俺に近寄ってきた。


「――主様、メイド蜘蛛として、セーフハウスと周囲の環境を調べたいと思いますが、あの扉からは入れないと思います」


 と指摘。

 メイド蜘蛛か。格好からそうだとは思うが。

 確かにあの扉の幅では彼女の下半身は大きすぎて入れないか。


「裏と屋根に二階にも窓がある」


 ここからじゃ見えない二階の出入り口をハンカイが指摘。蜘蛛娘アキは、


「そうですか。ドワーフのハンカイさん、ありがとう」


 と、礼を述べるとメイド風にお辞儀する。

 そして、倉庫の屋根に蜘蛛糸を伸ばし付着させる。

 蜘蛛娘アキは、その蜘蛛糸を口元に収斂しつつ多脚を壁に乗せると、シュタタタといった足音は立てないが、多脚を動かして壁を這い上がった。


 素早く屋根に上がると、


「主様、周辺を見てきます。いいですか?」


 と発言した。


「いいけど暴れるなよ? 下半身はできるかぎり隠せ」

「はい、お任せを。大丈夫です」


 蜘蛛娘アキは抑揚がない感じで喋る。

 屋根から裏側へと向かうと見えなくなった。


「しかし、蜘蛛の娘か。シュウヤよ。イモリザを見ているから不思議に思わないが、冒険者が見たらモンスターだと思われて襲われるぞ。国の機関が見たら、ただでは済まないであろうに」


 と、ハンカイが鎧の上部で腕を組みながら語る。


「いいさ。牢屋に入ろうが、戦うことになろうが、その時々だ。ま、どうなろうと冒険者を辞めるつもりはないがな? 師匠だってAランクだったし俺もAランクになりたい」

「……ふ、どこまでいってもシュウヤはシュウヤなのだな。冒険者か……ついていくぞ」


 ハンカイが、少し照れた感じで喋る。

 俺も気恥ずかしさを感じたが、黙っていた。

 

 すると、ロロディーヌとジョディが外に飛び出していく。

 蜘蛛娘アキを追った?

 また空で遊ぶのか近くの川で遊ぶのか。


 または森の探検かな。

 黒猫の姿に戻って町の中で遊ぶなら大丈夫だが……治安が悪いようだし、少し心配だ。


 ま、ロロディーヌだからな、仕方ない。

 ハンカイに視線を向けて、


「……おう。ハンカイの自由だ。さて、皆でここで会議をかねて菓子でも食べつつ、回収したアイテムで呪われていない物を見ようか。だれが使うか、ほしいのか、ざっくばらんに自由に決めてくれ。それと、エヴァ。こっちにきてくれ」


 と、エヴァを呼ぶ。


「ん」


 エヴァは黄黒猫アーレイ白黒猫ヒュレミを離して、ナナとアリスからも離れた。

 魔導車椅子を瞬時に崩し金属製の足に変形させると、近寄ってくる。


「シュウヤ、何?」

「あぁ、ちょっとな」


 と、エヴァの手を握りつつ高台の端に生える巨大樹の下に移動。

 他の眷属たちがこっちを見るが気にしない。


 そして、


「ん、シュウヤの微笑み、かわいい」

「か、かわいいか」


 間近で紫の瞳に凝視されながら言われると、更に、照れる。

 俺は頭部をぽりぽりと掻き、


「さっきのレベッカのお菓子ではないが……俺もお土産があるんだ」

「ん!」


 アイテムボックスを操作――。


 ◆:人型マーク:格納:記録

 ―――――――――――――――――――――――――――

 アイテムインベントリ 77→84/490


 中級回復薬ポーション×103→101

 中級魔力回復薬ポーション×99→95

 高級回復薬ポーション×35→31

 高級魔力回復薬ポーション×30→23

 大白金貨×6

 白金貨×986

 金貨×1203→1133

 銀貨×543→542

 大銅貨×30→20

 月霊樹の大杖×1

 魔力増幅薬ポーション×3

 帰りの石玉×11

 紅鮫革のハイブーツ×1

 雷魔の肘掛け×1

 宵闇の指輪×1

 古王プレモスの手記×1

 ペーターゼンの断章×1

 ヴァルーダのソックス×3

 魔界セブドラの神絵巻×1

 暁の古文石×3

 ロント写本×1

 十天邪像シテアトップ×1

 十天邪像ニクルス×1

 影読の指輪×1

 火獣石の指輪×1

 ルビー×1

 翡翠×1

 風の魔宝石×1

 火の魔宝石×1

 ハイセルコーンの角笛×1

 魔剣ビートゥ×1

 鍵束×1

 鍋料理×5

 セリュの粉袋×1

 食材が入った袋×1

 水差しが入った皮袋×1

 ライノダイル皮布×2

 石鹸×5

 皮布×11

 魔法瓶×3

 第一級奴隷商人免許状×1

 ヒュプリノパスの専用鎧セット一式×1

 魔造家×1

 小型オービタル×1

 古竜バルドークの短剣×29

 古竜バルドークの長剣×2

 古竜バルドークの鱗×138

 古竜バルドークの小鱗×243

 古竜バルドークの髭×10

 レンディルの剣×1

 紺鈍鋼の鉄槌×1

 聖花の透水珠×2

 魔槍グドルル×1

 聖槍アロステ×1 ☆

 ヒュプリノパスの尾×1

 フォド・ワン・カリーム・ビームライフル×1

 フォド・ワン・カリーム・ビームガン×1

 雷式ラ・ドオラ×1

 セル・ヴァイパー×1

 ゴルゴンチュラの鍵×1

 フィフィンドの心臓×1

 魔皇シーフォの三日月魔石×1

 グラナード級水晶体×1

 正義のリュート×1

 トフィンガの鳴き斧×1

 ハザーン認識票×1

 ハザーン軍将剣×1

 アッテンボロウの死体×1

 剣帯速式プルオーバー×1

 環双絶命弓×1

 神槍ガンジス×1 ☆

 魔槍杖バルドーク× 1☆

 時の翁×1

 神魔石×1

 血骨仙女の片眼球×1

 魔王の楽譜第三章×1

 双子石×1

 new:鳳凰亭珍酒の樽×1

 new:閻魔の奇岩×1

 new:聖ギルド連盟の割符x1

 ヌベファ金剛トンファー×1

 new:魔石袋x1

 new:極星大魔石x1

 new:神狼魔石×1

 ――――――――――――――――――――――――――


 ここから、ヌベファ金剛トンファーを出す。

 アイテムボックスを素早く閉じて……。


「これなんだけど、アイテムボックスに表示されている名はヌベファ金剛トンファー。エヴァに合うかなと……」


 俺が彼女の前に出すと、トンファーを奪うように取るエヴァ。

 表情は凄く嬉しそうだ。


「ありがとう――見てみる」

「おう」


 エヴァは、ヌベファ金剛トンファーを凝視。

 鍔の下にある黒布が巻き付く柄巻を小さい手で握った。


 ごわごわしている布がエヴァの手首に絡みつく。


「――ん、わたしの練魔鋼のトンファーと違う! 凄く魔力が内包されている!」

「あ、トンファーの中から刃が飛び出る仕掛けがあるから、気を付けて」


 警告したがエヴァは俺を逆に安心させるように微笑んでくれた。

 彼女はそのままトンファーへと紫色の魔力を送る。


 ヌベファ金剛トンファーの内部から剣が出た。

 この精巧なギミックは衝撃を受けても壊れない。

 もしかしたら伝説レジェンドクラスか。


「ん、大丈夫! でも、このトンファーを使っていた人、強かった?」


 剣を格納してすぐに剣先を出していく。


「強かったよ。魔力の腕を生やすし、足技も多彩で速かった」

「ん、<導想魔手>のような?」

「いや、俺のような歪さはなかったな」

「そっか。足技ならわたしもあるから見たかった。けど、この武器は良い武器!」


 エヴァは浮かせた紫色の魔力で包むサージロンの球を、その杭の内部から出た剣先で突く。


 ビリヤードの球のように突かれ宙を進むサージロンの球はただの鋼の球体ではない。

 伝説レジェンド級のとんでもないアイテムだ。

 その五つの球も使いこなしているから、あのくせのありそうなトンファーもエヴァなら使いこなせるはず。


 エヴァは新しいトンファーを持ち上げた。

 鍔と柄巻に手首の部位を見せてくる。


「このサイカ色の髑髏の金具は、魔界の神様のマーク?」


 針金の「こはぜ」のような金属の留め具の刻印か。

 オレンジ色だからお洒落で目立つ。

 レベッカも褒めるしかないぐらい洒落ている。


「分からない」

「ミスティはなんて? クナなら知ってる?」

「どうだろ。ミスティには見せていないや。神格落ちした神か、荒神、呪神といった古代の神々の刻印かもな」

「古代の神。旧神なら、地下の旧神の墓場で大物を倒したサラテンが眠ったと聞いた」

「これか」


 と、掌の<シュレゴス・ロードの魔印>を見せた。


「ん、細かい黒色の穴が密集して綺麗……」


 エヴァは俺の左手に頭部を近づけて魔印を凝視する。

 近視ってわけではないと思うが……。

 じっと掌を見つめるエヴァも可愛い。

 彼女の頭上ではサージロンの球が一列に整列した。


「蛸足?」


 そう聞いてくると、サージロンの球が自然と動いて円を作る。

 自立的に動いたような感じだった。


「うん。サラテンが突き刺したのは、ぐにょぐにょしたモノだったとイターシャが念話で伝えてきた。知能を有した群生旧神らしい」


 俺はそう語り――。

 左手の運命線のような傷跡を意識しながら、エヴァから掌を離して斜めに傾ける。

 同時に目覚めるかもと<サラテンの秘術>を意識したが……だめか。


 『イターシャ、出ていいぞ――』


「あ、ジョディさんの首にいた! 可愛い~」

「はい、でしゅ!」

「わっ」


 と、白色の鼬ことイターシャがエヴァの首に巻き付く。

 驚いたエヴァだったが、巻き付いたイターシャに手を当て、微笑む。


「ん、ふかふか~」


 にこやかに語りながらイターシャの小さい頭部を撫でて上げていた。

 俺もイターシャを撫でたくなったが、我慢し、トンファーを見る。


「で、そのトンファーなんだが、実は監獄デラースって男が使っていた武器なんだ。嫌だったら無理に使わないでもいいぞ」

「――ん、武器に男も女もない。気にしない。しゅっと、ぶんぶん――」


 新しいトンファーで、また俺の真似をするエヴァ。

 技が鋭くなった?


 ような気がした。


 真剣な表情がまた可愛い。

 腋がチラチラと見えて、双丘も揺れていく。

 エヴァに魅了される。


 くらくらとして、真似をする技の質は判断できなかった。

 いかんと、頭を振って、


「……そか、金属だから溶かせそう?」


 と、尋ねる。


「溶かせるけど、わたしでは、たぶん元に戻せない。ん、この剣が出る溝を見て! もの凄く細かい――」


 興奮したエヴァは斜め上にトンファーを構えた。

 綺麗な腋が気になったが紳士を貫く。


 彼女の語るようにトンファーの内部には結晶のような層がある。

 その層の表面に幾何学模様の筋が幾重にも繋がっていた。

 ミクロの世界ではもう一つの異世界が格納されているようにも見える。

 溶かせば特殊な金属となりそうな素材だとは思うが、トンファーとしてのギミックは失われそうだな。

 仕組みをそっくりそのまま元に戻すことは……。


 さすがのミスティでも困難かもしれない。


「ミスティなら元に戻せるかも。でも、このまま使う!」

「気に入ってくれたかな」

「うん! シュウヤからもらったことが大事。大切にする!」


 今日一番の笑顔だ。

 天使の微笑を超えている。


 やや興奮して鼻が少し膨らんでいる。

 それがまた可愛い。


「んじゃ、皆の会議に参加しようか」

「ん、ロロちゃんたち、また外に飛び出していっちゃった。アキちゃんも」

「ロロは散歩が好きだしな。ジョディのことも友だちのように思っているようだし、好きなようにさせるさ。そのうち戻ってくる。アキは心配だが」

「強いゴブリンとか、強い半魚人とか、樹怪王の槍使いとか、魔族のゴドー系とか。名もなき町だから治安も悪い。ディアースレイヤーの美人で有名な冒険者とゴブリンスレイヤーで有名な冒険者もいるようだけど……少し心配」

「そっか。ま、すぐにヒヨリミ様の下に戻ることは分かっていると思うから、トラブルは起こさないと思うぞ。きっと、この辺りの野良猫と仲良くなるはず」

「野良猫たちを支配する黒女王の伝説?」

「はは、ありえる。あるいは蝶使いと黒猫の伝説とか?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る