五百三十五話 鑑定とアーオーパールー

 ミスティから無魔の手袋と夢追い袋を受け取る。

 皆に向け――。


「皆は休んでいてくれ、先にヒヨリミ様に秘宝を返して報告を済ませてくる」


 そう告げ口笛を吹く。


「にゃおおお~」


 戻ってきた相棒の背中に飛び乗った。

 皆の不満そうな声が聞こえたがもう空の彼方。


 皆をセーフハウスに残す。

 狼月都市ハーレイアに直進――。

 相棒も神獣としての全速力で飛行した。


 雲を幾つも突き抜けランナウェイ。

 凄まじい加速で樹海を突き進む――。

 あっという間に狼月都市ハーレイア。


 たくさんの樹に覆われた都市の外壁。

 無数の樹が屋根を形作る。


 ここからは地上から行こうか。

 触手手綱から俺の気持ちが伝わったロロディーヌは旋回しつつ巨大樹の幹に下降――。


 相棒は、その幹を蹴る――。

 違う樹木へと跳躍――。

 そして伸ばした前足の爪を樹皮に引っ掛けつつブランコに乗ったような機動で太枝へと、ぐわりと飛び乗った。

 横幅が太い道のような枝を走る。

 湾曲した枝先を、力強く蹴った。


 飛翔のような跳躍だ。


 神獣の相棒だからこそ可能な膂力ある機動だ。

 樹海を一気に進む。

 居場所を把握するため高く跳ぶ――。

 樹木の隙間、隙間を狙うかのような機動。

 やがて狼月都市ハーレイアの勢力圏内に入った。


 川が見える。

 道を行き交う獣人たちが増えた。

 もう狼月都市ハーレイアだ。

 門は通らず、沼のある森屋敷へと空から向かう。


 壁を飛び越えたところで<導想魔手>を発動。

 歪な魔力の手のひらをラケット代わりに蹴る。

 宙をミサイルのように直進――壁を越えた。

 視界に沼地と寺のような外観の建物が見える。

 その屋根に五点着地はしない。

 だからといって、頭から突っ込まない。

 その沼にある森屋敷の一つの屋根に、ちゃんと、両足で着地した――。


 相棒も屋根に着地。

 黒豹の姿に変身した。

 屋根の天辺へと移動していくロロディーヌ。


 頭部を上げた相棒。

 鼻先をくんくんと動かした。

 風の匂いでも嗅いでいるのか?


 目も瞑る……両前足を揃えながら……。


「にゃぉぉ~ん」


 遠吠えのような声をあげた。

 姿は黒豹だが凜々しさを持つ狼にも見えた。


 『帰ってきたにゃ~』という感じか。

 目をぱちくりと開いた黒豹ロロ


「ンン」


 と喉声を鳴らしつつ近寄ってくる。

 俺の脛に頬を擦り当て甘えてきた。

 擦った際に白髭が一本取れてしまう。

 ロロディーヌは気にしていないようだ。

 黒豹ロロの頭を撫でながら……。

 屋根の端へと移動――。

 軒端から心地よい風鈴の音が響く。


 黒豹ロロが端から首を出す。

 その風鈴を覗く。


 ふさふさな黒毛の尻尾が立つ。

 俺は屋根の上から綺麗な沼地を拝見。

 鯉のような魚たちが泳いでいる。


 相棒は風鈴に夢中だ。

 肉球パンチを風鈴に当て激しく音が鳴った。

 何回もバシバシと前足で叩かれた風鈴さん。

 そのたびに激しい音が風鈴から鳴り響く。

 鯉のような魚のザハたちは音に驚いたのか頭部から傘を出し深く潜って姿を消した。


 すると、風鈴の留め金が外れて落下。

 床と衝突し割れてしまう。


 黒豹ロロはびっくりしたのか、


「にゃ!」


 と声をあげて背筋を動かす。

『しまったにゃ!』という感じだろう。


 両耳を後頭部に沿わせるように倒しながら……。

 俺を見上げてくる。

 視線は『ごめんなさいにゃ……』という感じか。


「はは、いたずらっ子め。逃げるぞ」

「ンン、にゃ」


 掌握察で魔素の気配を察知しながら沼に向け跳躍。

 相棒は胴体から翼を生やす。

 ヒヨリミ様の屋敷はこっちだったかな。

 沼に片足が触れる寸前に<水流操作>を行う。

 水の上を滑るように移動しながらダンシング――。

 ロロディーヌは低空飛行だ。

 俺は<水流操作>と<導想魔手>で実行。

 水上スキーを行う。歪な魔力の手の<導想魔手>の角度を変えた。

 その<導想魔手>を踏み台として――高く跳んだ。

 

 屋根に移りササッと忍者のように屋根を走った。

 また端から沼地へ向け跳躍――。


 二段、三段と跳躍を続ける。

 ヒヨリミ様たちがいる屋敷に向かう。

 当然ここで暮らす古代狼族の方は貴族のような方々ばかり。

 俺たちの機動を見て驚いていた。


 その驚き方も千差万別で面白かった。


 衛兵たちも反応して騒ぎ立てる。 

 が、黒豹の神獣を見た衛兵たちはすぐに、


「あ、神獣様だ!」

「戻られた!」

「シュウヤ様も!」

「任務を果たされたのか!」


 といった歓声が起こる。

 そうして、次々に俺の姿を把握した衛兵たちと黒装束の方々は片膝を廊下に突けて頭を下げていく。


 ヒヨリミ様たちの魔素の反応と屋敷を確認。

 その屋敷の手前の長い廊下に滑り込むように突入。

 ――<鎖>は使わず。

 生活魔法の水を足下に撒きつつ<水流操作>でブレーキング。

 アーゼンのブーツの底でしっかりと床を捉えた。

 ロロディーヌも一緒に着地。

 相棒は触手をブレーキ代わりにするが、制動は殺せず、少し転びかけていた。


 コケそうな黒豹から黒猫の姿に変身する。

 廊下の手前に立つ古代狼族の方もすぐに笑顔となった。

 俺と相棒の姿を見てから武器を降ろし挨拶。

 笑顔を意識して、丁寧に応えながら中央の階段を上がって先に進む。


 ヒヨリミ様の部屋に向かう。


 ハイグリアとリョクラインの姿は見当たらない。

 ルーブ関係とバーナンソー商会関係で忙しいんだろう。


 段の下から上座のヒヨリミ様と対面。

 片膝を床に当てるように下ろした。

 月狼環ノ槍を床に置いた。


「――ヒヨリミ様、ただいま戻りました」

「ンン、にゃ」

「ふふ、シュウヤ様とロロ様、お帰りなさい。頭は下げなくていいですよ」


 俺は得物を持ちすぐに立ち上がる。

 ヒヨリミ様は呪いの聖杯である竹筒を浮かせていた。


 握っている月狼環ノ槍は震えが大きくなる。


 あの浮いている竹筒を見ると……。

 ハイグリアとの儀式を思い出すな。

 儀式を邪魔してきたルーブは情報を吐いただろうか。

 どこかに忠誠を誓っているような雰囲気はなかったから背後関係は吐いていると予想できる。


 ま、ここは狼月都市ハーレイア。

 古代狼族が支配する土地だ。

 俺は一介の客の立場に過ぎない。

 詮索はしないし古代狼族の法と文化に文句は言わない。

 ヒヨリミ様とハイグリアにできるかぎりは従うさ。


 俺が咎を受ける立場ならそれなりに考えるが。


 そんな考えのもと、ヒヨリミ様を見る。

 ヒヨリミ様は背筋を伸ばしたまま俺の言葉を待っていた。


 お望み通り、


小柄獣人ノイルランナーの救出作戦は無事に成功。激闘の後、ゼレナードこと白色の貴婦人を無事に討ち取りました。ただ、すべてを制圧把握したわけではないので、この狼月都市ハーレイアにも、何かしらの余波が来るかと思います」


 と、報告。


「未来のことは神々に委ねます。それよりもシュウヤ様の英雄としての仕事の方が重要です。長年苦しんだ仇敵を討ってくださいました。アルデルの仇を……ハイグリアもこの知らせを聞けば、番として誇らしく思い、とても喜ぶでしょう!」


 ヒヨリミ様の声に周囲のキコとジェスも喜びの声をあげて笛を吹く。

 ダンサーの黒装束の方々も踊り出した。


「ハイグリアはどうしてますか?」

「幻獣ハンターからどういった経路でこの都市に侵入したのかを尋問し、リンさんとトラさんからも情報提供を受けていました。そして、ダオンとリョクライン姉妹を含む神姫隊を連れてバーナンソー商会を追っています」

「ということは……」

「その通り、都市の外です。番を得てパワーを得たことにも起因しますが、何しろ、あの気性ですからね」

「なるほど」 


 俺は頭を下げつつ周囲を見る。

 近習のキコとジェスは俺と目が合うと微笑みながら笛を操作していく。

 楽しそうだ。

 しかし、初めて見る老人の豹獣人セバーカが居た。


 髪形が真っ白な蜘蛛の巣と知恵の輪という。

 衣裳も葉脈のような液体が流れている特殊な布で作られたものを着ている。


 顎髭にぶら下がる金属の環といい特異な人物だった。

 その豹獣人セバーカも喜びの声をあげていく。


 【天凜の月】の幹部であるカズンさんと同じ種族だが、まったく違う種族にも見えた。

 そんな特異体か変異体か不明の老豹獣人セバーカに興味を抱くが……。


 とりあえず大事な秘宝をヒヨリミ様に返すことが先だ。

 俺は腰にぶら下げた夢追い袋を差し出し床に置く。


「ヒヨリミ様、それが回収してきたアイテムです」


 無魔の手袋も脱いでからその横に置いた。


「はい、いますぐ確認を」


 すると、ヒヨリミ様の背後で笛を吹いていたキコとジェスが笛を口から離し前に出た。

 ヒヨリミ様の代わりにセットの品を受け取る。


 キコとジェスは無魔の手袋とは違う魔力を帯びた手袋を嵌めた。

 前にも話をしていたが似たような手袋を持つ。


 呪い対策用の手袋かな。

 夢追い袋から秘宝を取り出す。

 中身を確認するキコとジェス。


 魔女の召使い的な二人はスレンダーで美人さんコンビだ。

 しかし、どこか機械的な印象を受ける。

 そう、シータさんのような……。


「レブラの枯れ腕、ウラニリの血十字架、キズィマンドの羽根を確認しました」

「他の未知な物はどうしますか?」


 視線を強めたキコとジェスがヒヨリミ様にそう報告。


「必要ありません、その秘宝だけを新しい宝物庫に移しなさい。残りはすべて、その無魔の手袋と夢追い袋ごとシュウヤ様にお返しするのです」

「「はい」」


 キコとジェスは無魔の手袋を先に渡してきた。

 俺はその手袋を嵌めてから、夢追い袋も受け取る。


 一応、


「いいのですか?」

「遠慮は要りません。その夢追い袋と無魔の手袋ごと、中身はすべて、シュウヤ様の物」


 ここでぐだぐだ否定しても仕方ない。


「では遠慮なくもらいます」


 俺は無魔の手袋と夢追い袋を受け取った。

 キコとジェスは部屋を退出。


「ふふ。では、古代狼族を代表してもう一度いいますが、シュウヤ様。白色の貴婦人討伐を善くぞ成し遂げてくださいました。心よりお礼を申し上げます――」


 ヒヨリミ様はそう発言すると足早に近寄ってきた。

 片膝を床に突けると頭をさげてきた。

 その瞬間、この場にいる全員の古代狼族たちがヒヨリミ様と同じ動作をした。


「頭をあげてください」


 両膝を突いてヒヨリミ様の手を取る。

 ロロディーヌもヒヨリミ様の手に肉球を押し当てていた。

 相棒は単に〝お手〟かな。


「……優しいシュウヤ様。と可愛らしい神獣様。敬う態度を嫌うことは重に承知しています。ですが、わたしの気持ちはこうでもしないと抑えられないのですよ。もう暫く、頭をさげさせてくださいな……」


 と、頭を垂れたまま家臣のように語るヒヨリミ様。

 正直、気まずい。

 が、本人の希望だし好きなようにさせるか。


 暫し……間をあけた。そうしてから……。

 誤魔化すようにヒヨリミ様の背後で頭を下げていた爺豹獣人セバーカを見て、


「ヒヨリミ様、あの方はどなたでしょうか」


 と、質問した。


「あ、そうでした――ご紹介します。キズユルさん。こっちにきてください」


 ヒヨリミ様は立ち上がりながら、背後の爺豹獣人セバーカを呼ぶ。


「ハッ」


 キズユルという名の爺豹獣人セバーカは立ち上がる。

 段をゆっくりと下りてきた。


 爺さんだけど背骨はしゃきっとし、足腰はしっかりした歩き。 

 その元気な爺のキズユルさんはヒヨリミ様の背後の位置で止まる。


「キズユルさん、横にいらしてくださいな。もう自由にしてくださって結構ですから」

「承知」


 ヒヨリミ様の横に並ぶキズユルさんという爺豹獣人セバーカ

 頬に小さい傷が無数にあった。

 豹としての体毛は削られ生えていない箇所もある。


 皺か傷か判別不能なモノが顔にある。

 魔術師かもしれないが、戦場を渡り歩いたような雰囲気を持つ渋いお爺さんだ。


 アキレス師匠のような年齢を重ねた迫力を感じた。

 尊敬の意思を込めてラ・ケラーダのハンドサインを胸元に作る。


 慇懃を意識し、


「……初めまして、シュウヤです」


 丁寧に頭を下げて挨拶した。


「ン、にゃ」


 黒猫ロロも挨拶。


「英雄シュウヤ殿と神獣ロロディーヌ様!ご丁寧な挨拶に心が沁みますぞ。わしの名はキズユル・ハンマール・トレゼングル。ヒヨリミ様専属の鑑定人ですじゃ」


 鑑定人だったのか。

 すると、ヒヨリミ様が、


「シュウヤさんなら結果を残し、アイテムを回収して戻られると思っていたので、この都市最高の鑑定人を事前に用意していたのですよ。普段は忙しいキズユル爺ですが、快く引き受けてくださり、待っていてくれたのです」


 慕われているヒヨリミ様はさすがだ。


「ふぉふぉふぉ、善きかな、善きかな、ヒヨリミ様の命令ならば喜んで尽くす思いですぞ。怒ると怖いですからの」



 キズユル爺が喋った語尾のタイミングで、ヒヨリミ様が一瞬爺さんを睨んだが……。

 見なかったことにする。

 しかし、ありがたい。

 クナ経由のオカオさんか、ま、それはまだ不確定だから、ペルネーテのスロザに見てもらおうと思っていたし。


「気を回していただきありがとうございます。では、早速、お願いできますか?」


 ヒヨリミ様は周囲に視線を配る。

 片手を上げ傘を展開すると魔力の波動が周囲に散った。


 ヒヨリミ様はキズユル爺さんにもアイコンタクト。


 キコとジェスは席を外していない。

 すると、他の音楽隊のような方々が、ヒヨリミ様の視線と魔力の波動に応えるように現れる。


 皆、笛と弦楽器を奏でながら俺たちの周囲を包む結界を構築した。


 この辺りの反応のよさは、やはり古代狼族の中枢だ。

 各自仕事がある中、対応が素早い。

 自然と連係が取れている。

 感心しながら、


「……これは結界ですか? 遮音効果とかありそうですね」


 と、質問した。

 黒猫ロロも俺の足下から見上げている。


「はい、対襲撃用に被害が外に漏れない効果もあります。呪いの品が殆どのようですから。外にも同時に展開しているはずですので、神狼ハーレイア様や、恵みを下さっている神界の神々以外には、この場所は見えないと思いますよ」


 意外に重要なことを教えてくれた。


「ふぉふぉふぉ。〝アーオーパールー〟」


 ん? 爺さんが不思議な言葉を呟いて、お祈りを始めた。

 ヒヨリミ様のことを女神のように想っているのかな。


「ふぉふぉ、善きかな善きかな。ヒヨリミ様の魔風印の極傘を用いた古の魔法を、直に見られるとは嬉しい限りじゃ……シュウヤ殿はただの英雄ではないようですな。で、品はその袋の中身ですかな?」

「あ、はい」


 と、差し出す。

 キズユル爺さんは、再び「アーオーパールー」と、呪文めいた言葉を唱えながら素手で受け取る。


 微笑みに近かったキズユル爺さんだったが、カッと、目を見開く。


「ふむぉ! 中々の物じゃ……ゴーモックの顔を思い出すわい」


 と、視線を強めたキズユル爺。


 フジク連邦で聞いた豪商の名を出す。

 その商隊なら各地で見かけたことがあるから有名だな。

 そんな有名な方の知り合いか。なら確実な腕前を持つのだろう。


 キズユル爺さんは、見開いた双眸に魔力を宿らせる。

 虹彩に魔法陣を発動させた。


 そして、手にも魔力を纏わせると、魔力で夢追い袋を包み、夢追い袋を宙に浮かせた。

 両手で円を描くように動かしてから夢追い袋を掴むと直に反対の手を、その袋の中へとツッコんだ。

 呪いは平気なようだ。


 ――次々とアイテムを手掴みで出すと、語っていく。


 ソグ・ミレグの体液は、錬金術に使える体液だった。

 荒神ソゼンの眼球は神話ミソロジー級。

 だが、結界に用いたりすることで有名な素材アイテムらしい。

 ガイソルの欠片は、ユニーク級、怪人ガイソルの肉で錬金素材に使えるとか。

 外魔都市の秘密は、外魔都市リンダバームの地下の魔穴に関する呪文書。


 これはツアンに話をしとくか。

 外魔都市リンダバームにはいずれ向かうから、その時かな。


 次に「アーオーパールー」と祈ったキズユル爺さんが手に取った品は……。

 十字架のチェーンが付いた小さい金属棒。

 小さい幅の中にダイヤモンドのような白光した魔宝石が無数に刻まれている。

 魔力が凝縮して詰まっていることは見ただけで分かるが……。


 キズユル爺さんは手が震えてチンモクした。


「……アーオーパールー。善きかな善きかな。これは素晴らしい……」


 キズユル爺さんは祈ってからためを作る。

 ……期待した。


 黒猫ロロも沈黙。


「名は閃光のミレイヴァル。神話ミソロジー級ですじゃ! 暴神ローグンを突き刺し、神玉の灯りを促した別名〝古の英雄ミレイヴァル〟を不完全ながらも召喚できるとありますじゃ……恐れ入る……わしもこの手の物は初めてじゃぞ……ただ、条件に暴神ローグンの一部と使い手の多大な魔力、その使い手に槍系戦闘職業と魔法戦闘職業の上位が必須とのことじゃ」


 おお。


「にゃお~」


 と、黒猫ロロも驚いて、ゴロにゃんこ。

 相棒にとっては、たんに、爺さんの行動と態度が面白いからかな。


「……まぁ、驚きです。呪いとは対照的ではないですか……白色の貴婦人こと、ゼレナード。そのようなアイテムをツラヌキ団に盗ませていようとは……」


 ヒヨリミ様も驚いている。


「凄いアイテムが紛れていたようですね」


 と、俺は発言。

 しかし、閃光のミレイヴァルか。

 見た目は十字架がついた高級ボールペンって感じのキーホルダーだが……。

 神話ミソロジー級とは。


 唾を飲み込む音を立てるキズユル爺。

 神妙に頷いた。


 次の刺青が目立つ皮膚を持つ。


「……アーオーパールー」


 また、お祈りをするキズユル爺。


「これは……暴神ローグンの魔皮膚の欠片! 条件は揃っておいでのようですじゃ……」

「おぉ……」


 また声に出して驚く。

 閃光のミレイヴァルに挑戦できるじゃないか。

 後でやってみるか。

 アイテムボックスにはヒュプリノパスの尾があるが……。


 そういえば、ゼレナードは光属性に耐えていた……。


「ゼレナードは光属性の耐性がありながらも使わなかったところを見ると、槍系の戦闘職業としての経験が足りなかった?」

「そうでしょう。戦闘職業も多岐にわたり上位も果てがありません」


 と、ヒヨリミ様が俺の言葉を肯定するように発言してくれた。


 キズユル爺は「善きかな、善きかな」と呟き、次のアイテムを鑑定する。


 髑髏の指輪は不明。

 キズユル爺は次のアイテムの時、お祈りをしなかった。

 視線をギラつかせていく。


 姥蛇ジィルのアイテムだった。

 詳しくはスルー。


 あれはここで捨ててから去ろうかな。

 だが、拾って装備し契約した人は不幸すぎるか……。


 今度火山にでもいって放り投げよう。

 相棒の炎に耐えられるか、試すのもいいかもしれない。


 次は杖。

 キズユル爺さんは「アーオーパールー」と普通に祈る。


「これはユニーク級じゃ。名は道神セレクニの杖。オークの善神様じゃ。力と知恵が付く。道神セレクニを信奉する神殿が近づくと振動を起こすとある」


 ソロボが信仰していたような覚えがある。


 続いて、キズユル爺さんは茨の冠を鑑定。


「むむ……」


 と、祈らなかった。


「ンン、にゃ?」


 黒猫ロロがお祈りの言葉を期待していたのか、起き上がって、トコトコと爺さんの足下に移動すると、爺さんの足に頭部を寄せていた。


「ふぉふぉふぉ、善きかな、善きかな、鑑定中ですぞ、神獣様」

「にゃ~」


 と、黒猫ロロは戻ってきた。


 地底神セレデルの不死眷属の一人、デ・ムースが愛用していた茨の冠らしい。

 茨の王ラゼリスの一部の力を引き出すことが可能とか。


「しかし、呪いがある。男なら精巣が縮み、女なら子宮が縮む。心臓に茨が生え、茨の尻尾を宿す。そして、茨の王ラゼリスの誘いを常に受け続けるだろう」


 不死眷属専用ともいえるか。

 それを聞いて、ピンときた。

 ヴァング婆の呪文にそんな名があった。

 まぁ、これも火山に投げ捨てる候補だ。


 次の品は単眼と備えた籠手を装備した片腕。

 肘から先に骨で縁取られた角灯をぶら下げていた。

 その角灯の中で輝く光を出している小さい猿と雉が合体したミニチュア怪物が泳いでいる。

 腕は女性っぽい細い手だが……。


「アーオーパールー」


 と、祈ったキズユル爺。


「この魔眼と角灯を有した籠手の階級は不明。名はセンティアの手。東邦のセンティア見聞録に登場した本人の手とあるが……角灯の小さい怪物も不明じゃ。東邦といっても大陸から続いている東邦なのか、海の先にある群島諸国を意味するのかも謎じゃな。使い手に時空属性と高い身体能力と精神力と魔力が必須とある……呪いはないはずじゃが……んん、使い手を……このセンティアが選ぶと<覚式>というスキルを覚えるようじゃな……」


 東か。ママニたちなら知ってるかな。 謎だな。気になるが。

 次は衣服だ。

 キズユル爺はいつものように「アーオーパールー」と祈る。


 俺も自然と手を合わせて口ずさむ。

 何か、響きがいいんだよね。


 アーオーパールー。

「にゃ~お、にゃ~お~」


 黒猫ロロも真似をした。

 面白い。


 すると、キズユル爺は相棒と俺を見つめてきたが、スルーした。


「この紫と黒の法衣はミスランの法衣。かのエルンストのか……【九紫院】に所属していた者が身につける法衣じゃ」


 その次の品は……剣。

「アーオーパールー。善きかな、善きかな……」


 といつもの祈りと言葉の後。 


「この反りが高い長剣は階級は不明。強い反発の力を宿している……名はデュラートの秘剣。一見は魔界製じゃが、魔界八賢師ランウェンや魔界八賢師セデルグオ・セイルではない。作り手は不明じゃ。秘剣師デュラートが長年、片手に差し込んで、無数の戦場やら戦いで秘剣として使っていたところから付いた名のようじゃが……使い手が柄に魔力を込めると秘剣と交渉できるようじゃな。秘剣に認められれば腕と同化できるようじゃぞ……不気味じゃ。そして、長年、この剣と片腕を使い続け、修業を重ねれば、秘剣流の<秘剣・烈羽>から<陰・鳴秘>を覚えられるとある。まだまだあるようじゃが、秘密が多い剣じゃ!」


 秘剣と交渉か。

 サラテンのような知能があるアイテムなら使えるかもしれないが……。


 次は赤い槍だ。

 穂先は真っ直ぐな太い剣。


 キズユル爺さんは、アーオーパールーの後、


「真っ赤な大身槍。名はコツェンツアの魔槍。伝説レジェンド級。アクアンという古代ドワーフの鍛冶屋が魔人コツェンツアから狭重赤鋼ヴェイルレッドスチールという金属を受け取り、その金属を元に鍛え上げられた逸品じゃ。云われは不明、身体能力を引き上げる効果があり、呪いはコツェンツアの痛みを伴う魔印が身体に刻まれる。それに時空属性が必要。これしかわからん。すまんの」


 時空属性が必須っぽい赤い魔槍か。

 呪いは痛みを伴う魔印が身体に刻まれるぐらいならリスクはなさそうだ。

 だが、色的に魔槍杖バルドークとかぶるな。


 俺はラ・ケラーダの挨拶をしながら、


「……十分です。続けてください」


 と、鑑定を促した。


 あの槍は迷宮産ではないが、売るか、知り合いの槍使いにプレゼントかな。

 ジュカさんも金属の棍を使っていたが。

 成長したらレファや弟子のムーにもいいかもしれない。


 と、考えているとキズユル爺の「アーオーパールー」の祈りの言葉に気を取られていたが……。

 よく見ると、魔眼と手と魔線が繋がった数珠のような半透明なモノが浮いていた。

 スロザは片眼鏡を使っていたが、キズユル爺の能力の元かな。


 アーオーパールーが能力名だったりして。

 だったらアーオーパールーさん、やるな。


 次のアイテムの鑑定は一瞬で終えた。


「……階級は不明。デルカウザーの魔除けアミュレット。身につけたら首に嵌まり外れない。身体能力引き上げ、物理防御上昇、魔法防御上昇効果がある。そして、魔界王子デルカウザーと契約するためにデルカウザーの祠に向かうよう誘導精神波の干渉を受け続ける。干渉を拒めば魔除けアミュレットが巨大化するようじゃ。重さに耐えられなければ体が潰れ死ぬことになる。儀式と契約をすませば魔界王子デルカウザーの力を行使できるようになるようじゃ」


 魔界王子デルカウザーか。

 能力は優秀そうだが……。

 リスクが大きい、めんどくさいアイテムだ。

 まぁ、ゼレナードが装備しなかったor使わなかった秘宝だからな。

 デメリットが多いが、俺ならば……重力の部屋のように修業に生かせる。

 いや、四六時中修業モードになってしまうから、やめた方がいいか。

 身につけたら魔除けアミュレットが首から外れないようだし。

 誘導を受ける精神波のリスクも大きいかもしれない。

 ただでさえ、寝た時にヴァーミナ様から干渉があるからな。


 キズユル爺は次の品を取る。

 魔界の品と分かる書物だ。

 骸骨とモンスターの皮で装丁されているからな。


 いつもの「アーオーパールー」の後、キズユル爺さんは申し訳なさそうな表情を浮かべて、


「……ぬぬ、名は分かったが失敗じゃ。この書物はフィナプルスの夜会。階級は不明。魔界四九三書の一つ。鑑定が弾かれたわい! 神話ミソロジー級かもしれぬ」


 リスクが不明だと使用する時が怖いな。

 だが、わくわくするのはなぜだ。


 キズユル爺は気合いを入れるように頭部を振るう。

 そして、次に金色の紙を取ると「アーオーパールー」と祈り鑑定した。


 何か、爺さんが可愛く見えてきた。

「にゃ~お~にゃ~お~」


 と、黒猫ロロも嵌まっている。


「次の紙片も階級が不明じゃ。名はゴッデス金枝篇。森の転生神に纏わる物語の一部、戯曲? 詳細の解読は無理じゃな」


 ゴッデスといえば北。

 ヘルメが俺の尻から出た神殿のあるフォルトナ街の近くにゴッデスの森がある。

 アクレシス湖とかフォルトナ街と関係があるのか?


 次の魔術書は切れ端が目立つ。

 キズユル爺はいつものお祈りの後、


「この魔術書の名は、紋章理派の器雲術書。伝説レジェンド級。理派に部類する新しい組織が、秘密裏に荒神の体液と魔界眷属の血肉を使い作り上げた禁忌に分類される魔造書と魔法書が融合した特異な書物じゃ。使い手は高レベルの魔力操作と魔法技術に専門の<賢者・魔解>にほかにも必要なようじゃ」


 器雲か。

 ゼレナードとアドホックが戦闘中に会話していた。

 クナが扱えるか? さすがに無理か。


 次は巨大窯。

「アーオーパールー」の後、


伝説レジェンド級。名はホルテルマの蛇騎士長の封窯。古い蛇人族ラミアに伝わる品じゃ。伝説の蛇騎士長が封じられている。東方の蛇人族ラミアに伝わる秘境スポーローポクロンの滝壺に少し漬けた後、リザードマンの首を十供えれば……ホルテルマ・ギヴィンカゲレレウ・トップルーン・スポーローポクロンという名の伝説の蛇騎士長が解放されるようじゃ。それにしても異常に長い名じゃ……そして、決闘に勝てば、使役ができるとある」


 ビアが知れば会ってみたいというかもな。

 東はアゾーラの故郷もある。

 そんな東ではリザードマンと争いがあるようだ。

 グルドン戦役といい、東は民族移動も起きているようだから混沌の具合が激しいだろうな。

 先に鑑定した蛇人族ラミア族の姥蛇ジィルの秘宝も……。

 いや、見せるのは止そうか。ヤヴァイ。

 オークとゴブリンの……嫌すぎる。


 続いて鏡。

 もしかするとパレデスの鏡系か?

 キズユル爺さんは鼻息を荒くしながら祈る。


「アーオーパールー、善きかな、善きかな……」


 と、間をあけた。


「これも階級は不明。名はゴウール・ソウル・デルメンデスの鏡。時空属性が必須。名の通り大魔術師ゴウールが所有していたアイテムじゃ、もう一つ、お揃いの鏡がどこかにあるようじゃ。そこに転移が可能となる。珍しいアイテムじゃの!」

「お~そりゃいい」


 後で転移するか。

 パレデスの鏡が増えたような感じだし。


 次も「アーオーパールー」の後。


「これは虹のイヴェセアの角笛。伝説レジェンド級ですじゃ。イヴェセア王国に伝わる虹馬を呼び出せる効果があるとされておるようじゃ。が……イヴェセアとはどこの国じゃ? とうの昔に滅びた国だとしたら、ただの骨董品じゃな」


 次は墓碑か?


「……アーオーパールー」


 と、お祈りをするキズユル爺。


「ンン、にゃお」


 と、真似は止めたが、またごろにゃんこして、腹を見せる黒猫ロロさん。

 ピンクの乳首を露出させているがな。

 まったく、可愛い……。


「これは、むむ。暁の墓碑の密使ア・ラオ・クー。名のみ。階級も弾かれた。ア・ラオ・クーが封じられているようだが……怪物か人か不明じゃ。魔素は感じるが、生きているとは思えんが、分からん」


 次は小さいカード。


「これは、伝説レジェンド級じゃ。名は魔導札・雷神ラ・ドオラ。この札に魔力を通し念じれば雷撃魔法が瞬時に繰り出せる。まさに雷神様の祝福が宿る魔導の札じゃ。魔法の規模は本人の相性によるようじゃの。属性の縛りもないから優秀なアイテムじゃのぅ……雷獣石よりも使い勝手は良いはずじゃ!」


 と、すべての品の鑑定を終えた。

 それらの品を夢追い袋にぶっこむ。


「キズユル爺さん、ありがとうございました。ヒヨリミ様も」

「いえいえ、当然です」

「ふぉふぉ、アーオーパールー、善きかな善きかな」

「にゃお~にゃお~」


 俺はもう一度、お礼をしてから踵を返す。


「ロロ、帰るぞ」


 と、先を歩きながら黒猫ロロを呼ぶ。

 肩に飛び乗ってきた相棒の体重を感じると、右手の月狼環ノ槍の振動が速まった。


 まるで心臓が高鳴ったように、穂先の金属環たちも激しく揺れていく。

 その瞬間――。

 幻狼たちが、その穂先から飛び出していった。


 大人から子供までの幻狼たち。

 その幻狼たちの動きは遅く振り向いてくる。


 俺を誘っている?


「にゃ~」


 と、鳴いた相棒も幻狼たちが見えている。

 俺の肩を前足で『ぽん』と叩くと、触手の先を幻狼たちが誘っている方向に向けていた。

 

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