五百二十七話 様々な話と照れたヴィーネ

 月狼環ノ槍の震えを掌に感じながら肩で休む黒猫ロロに向け、


「魔造虎はどうしたんだ?」


 と聞くと黒猫ロロは「にゃ~」と鳴いて、ナナに視線を向けるロロディーヌ。

 ナナか。


「いつもより小さい姿に変身したの。ナナちゃんの肩に乗っているわよ」


 と俺がナナを見ていると、レベッカが指摘した。

 白魚のような指の上、ナナの肩の上に三匹の動物たちが乗っている。


 小さい二匹の猫と、闇の魔力の小さい狛犬。


「ニャア」

「ニャオ」

 

 体長は五センチぐらいか?

 確かに黄黒猫アーレイ白黒猫ヒュレミだ。

 表面に雷状の魔力を纏う二匹は可愛い。


 闇の魔力で構成しているような狛犬も元は液体のようだし、小さい姿に変身が可能のようだ。


「ところでシュウヤ、そのエマサッドってあの戦闘メイド長の名よね。わたしたちとキサラさんの攻撃を受けても立ち上がってきたタフな女性……」

「苦戦しつつも倒したと聞いたが」


 レベッカにそう聞きながらラファエルを見る。

 ラファエルは金色の前髪を揺らして、頷くと、ユイたちを見て、口を動かす。


「眷属さんたちの実力を疑うわけではないけれど、あのエマサッドが死んだとは思えない」


 ヴィーネとジョディがすぐにラファエルを睨む。

 魔導粘液を早速ゼクスに使い強化したミスティだったが、俄にラファエルへと視線を向ける。

 レベッカもキサラもラファエルを注視した。


 ジュカさんも微かに頷くと、キサラに注意される。

 しかし、実際に対峙したキサラは判断に迷ったように、黒色のアイマスク越しの視線を俺に寄越す。

 模様が綺麗なアイマスクが似合うキサラ。

 そのアイマスクから覗かせる蒼色の瞳が物語る厳しい視線から判断するに……。


 ラファエルの言葉に真実味が増す。

 一方、ユイは黒猫ロロの鼻先に指を伸ばしていた。

 黒猫ロロも小鼻をくんくんと動かして、ユイの指の匂いを嗅いでいる。


 そして、レベッカが、


「貴方がラファエルさん。クナは闇のリストと言っていたのよね……」


 エヴァと緊密に血文字連絡をしているだろうレベッカ。

 クナの情報はかなり仕入れているだろう。


 その時、レベッカの胸元で寝ていたナナがレベッカの肩の位置で寝返りを打つ。

 ナナの蜂蜜色の髪飾りが蠢いた気がした。

 レベッカはナナの母のように優しくナナの背を撫でてあげていた。

 すると――首の傷<夢闇祝>がチクッと痛む。


 ナナと関わりのある悪夢教団ベラホズマ……。

 ナロミヴァスが死んでも関係ないらしい。


 俺の首から流れている血を見たラファエルはナナにも視線を向ける。

 魂王ファフニールを宿しているラファエル。


 俺がヴァーミナとの繋がりがあると感づいたか?

 そのラファエルが、


「……本当にナナを救えたんだね。でも、コレクターがどう出るか」


 と、話をした。


「ペルネーテのコレクター? シキのことか」

「そうだよ。キーラ・ホセライと通じている噂は広まっている、運命神アシュラーから離脱するなんてね、旧神テソルにも通じていた彼女らしいけど」


 ラファエルはキーラを知っているようだ。

 旧神テソル? まだ隠し持っている能力がありそうだ。


「そんなことを前に言ってたな。ナナが誘拐された時だっけ」

「うん」


 アシュラー教団を脱退したキーラ。

 そのキーラとコレクターはナナを欲した?


 それともキーラが個別にナナを欲したのかな。


 そのキーラは地下オークションでも見かけた女性だった。

 俺が血骨仙女の片眼球を落札する前の〝夢魔の水鏡、夢吸いの笛、夢瓶〟のセット用品に大金を支払い落札していた。


 ラファエルによるとコレクターとも繋がりがある口ぶり。

 そして、コレクターはアドリアンヌとも何か因縁があるだろう。

 

 アドリアンヌは、カザネ経由でアシュラー教団と通じている。

 そのアシュラー教団から離脱し裏切ったキーラ・ホセライ。


 その事実を知るラファエルの表と裏の交友関係についてもじっくり・・・とクナを交えて話を聞かないとな……。


 しかし、世界が広いし都市も国もあるから当然だが……。

 俺の知らないところで様々な事件が起きて連鎖し絡み合っている。

 

 ま、俺は俺。目の前のことをただ実行するのみ。

 いつになるか分からないが、眠った際に悪夢の女神ヴァーミナ様と挨拶できたら、ナナについて聞くとしようか。

 

 と、笑みを意識しながら、


「……ラファエル。いっておくが、ミスティもレベッカもキサラもヤヴァイ強さを持つぞ?」


 光魔ルシヴァルの宗主として彼女たちの強さを信頼しての言葉を告げた。


「うん。エマサッドを撃退したようだし……何度も言うけど、その実力は疑っていない。けどね……」


 ラファエルは間をあけて、視線を左斜めに向けた。


「戦闘メイド長こと、エマサッドは、元軍閥特殊群の五番隊隊長だっけ?」


 と、聞いた。


「そう、セブンフォリア王家トロイア家の支流の一つ。ブロアザム家の三女なんだよ?」

「なんだよ? と力説してもな。エマサッドの出身の国に入ったことはないし知らない。で、セブンフォリア王家とは、そんなに個人が強いのか」

「その辺りは個人差があるけれど、皆、強いよ……」


 皆だと? さり気なくセブンフォリア王家の方々を知っているような口ぶり。

 ラファエル、自分の発した言葉のニュアンスに気付いているのか?

 

 ラファエルの表情を推察するに……気付いていないな。


 わざとかもしれないが。

 今は少しずつ聞いていくか。


「そのセブンフォリアは、ここから南の大国だっけ。ラファエルは南の王国に詳しい?」


 俺がそう聞くと、ラファエルは瞳孔が散大し縮小。

 腕の動作がぎこちなくなった。

 あたふたする。余計に怪しい。


 ユイも<ベイカラの瞳>を発動。

 もう何回目か分からないが<ベイカラの瞳>で重ねて見るたびに標的に対する攻撃力が上がるからな。

 

「……はは、詳しいってより、僕の目的は知っているだろう?」


 俺はラファエルの言葉を受けて、魂王の額縁に視線を向けながら、


「モンスターを救うことだっけ?」


 と、単純に聞く。


「そうさ、第一の目的は助けを求めているモンスターたちを救うこと癒やすこと。そんなモンスターたちが平和に暮らし生きていける、僕なりの居場所を作ってあげたいんだ。その行動の結果、各地を巡る旅を続けているんだ」

「セブンフォリア王国でも旅をしたんだな」


 俺が誘導すると、ラファエルは眉毛を八の字のように愁眉筋を動かした。

 それは『ごめんなさい』という意味がありそうな、表情筋の動きと似ている。


「そ、そういうことさ」


 誤魔化しているラファエル。

 俺が勝手にラファエルの表情筋の動きからそう判断しただけであって、まったく内情は違うのかもしれないが……。


 ま、ラファエルが南に行ったことは確かだろうな。

 セブンフォリア王家とも関わりがありそうだ。

 

 冒険者ギルドを含めた色々な組織に狙われているとも語っていた。

 その第一の目的のために、敵を作りすぎたか?

 複雑に絡んでいるのかもな。

 一見は快活で端正な顔を持つラファエルだが……。

 

 時折、ものすごく深い闇を見せる時がある。

 闇のリストだけに、彼の心に深淵が棲むのかもしれない。

 そのことは指摘せず、


「……そっか、王家といえばオセベリア王家も同じかな」

「何かしら絶対的な力は持つと思うよ。だから王家なんだし」

「絶対的か、イノセントアームズのスポンサーでもある第二王子ファルス殿下はサーザリオン領を救い戦争で結果を出した知恵者であると思うが」

「そうね、武人って感じはしない」


 と、レベッカが指摘。

 俺は頷いた。

 

「会ったことはないが、第一王子こと王太子レルサンって方は武人だと思う」

「うん、ルレクサンドやルルザックを巡る戦いで傷を負っても、またグリフォン丘で活躍したと聞いた。第二王子が派兵した大騎士ガルキエフの兵と連携したようだし」

「王太子レルサンは、サジハリの知り合いでもある〝アルディット〟を使役しているようだしな」


 しかし、レルサンの扱う竜は本当に高・古代竜ハイ・エンシェントドラゴニアなんだろうか。

 実は古代竜かもしれない。


「サジハリさんといえばバルちゃんよ。元気にしてるかなぁ」

「うんうん、バルちゃんに会いたい」


 ミスティとレベッカは頷き合う。


「会いたいけど、高・古代竜ハイ・エンシェントドラゴニアとして生きる力は必要だからね」

「……うん」

「ンン、にゃおぉぉ」


 中庭でポポブムと一緒に遊んでいた黒猫ロロが寂しげに鳴いていた。

 思い出したようだな。


 ラファエルは、


「えええ? え? え? 高・古代竜ハイ・エンシェントドラゴニア……とも知り合いなのか?」


 と焦ったようなラファエルは瞳を輝かせながら俺を見る。


「期待はするなよ?」

「な、なにをいうかなぁ? ぼ、僕は、巨大な竜の姿を想像しただけさァ、アハハ……羨ましいとは、一言もいっていないんだな……アハハ」


 ラファエル。

 おにぎり大好きみたいな感じに、気持ちを口に出しているんだが。


 うわずった声で面白い。

 同時に魂王の額縁に収まる玩具世界で動く立体の絵たちも楽しげに動く。


「で、ラファエル、話を戻すぞ。軍閥特殊群とやらは強いのか?」

「強いよ。優れた者しか入れない。そんな特殊部隊の隊長がエマサッドだった。魔印を無数に秘めていたエマサッド。ゼレナードにブロアザム家が所有する魔印を幾つか剥がされたようだったけれど、それでも生きていたし……トロイア家の支流は伊達じゃないよ」


 剥がされても生きていたか。


「タフだな、トロイア家の支流の一つブロアザム家はやはり特別な人族なのか?」

「セブンフォリアの軍閥貴族でも、大貴族と王室は普通じゃないんだ」


 ラファエルは真剣に語る。

 レベッカも地上で戦ったことを思い出すように、


「王室か……メイド姿だったけど実は高貴な血筋の女性とはね」

「確かに、雰囲気は王室育ちってより軍隊の教官風に近いかも」

「巨大な魔剣を振るう速度が速くて厄介だった。ユイとユイパパの剣術とシュウヤの鬼機動を見ていたから対処は可能だったけれど、ゼクスの魔弾と金属製の杭も一つ一つ真っ二つに斬るし、わたしの蒼炎も切って前進してくる機動は凄かったな」


 ミスティも眼鏡越しだが鳶色の瞳を鋭くさせる。

 レベッカの言葉に同意。

 

 小さい顎を手前に引くミスティ。


「そう。ふた振りの魔剣と体術。ゼクスとの接近戦でも物怖じせず打ち合っていた」

「あれね!」


 と、レベッカが拳で虚空を打つ。

 グルブル流の正拳突き。

 様になる動きだけど腰に差す魔杖が寂しげに見えた。


 そのレベッカは話を続ける。


「わたしの連続して放った蒼炎弾を掻い潜りながら斬り技を繰り出して大きい蒼炎を消し飛ばした直後の右拳――がまた凄かった。グルブル流を習っているお陰か、その一端が理解できたけど、あの魔闘術系の操作技術は高い。キサラさんがシュウヤに教えている技術っぽいと感じたかも」

「うん」

「ゼクスが少し傷ついて凹んでいるように魔導人形ウォーガノフと打ち合いながら魔剣も繰り出し戦闘メイドたちに指示を出して戦う姿は怖かった」


 レベッカはそう語る。

 ゼクスの首、脇、太股、足先は確かに窪みが多い。


「……金属と水晶粉に守護者級の白肉とわたしの血肉で補強したゼクスの拳よ? それと打ち合えるどころか勝っている女性の拳だからね。余計にびっくりしたわ。タイミングよく、わたしも<虹鋼蓮刃>を狙ったけど、下の血の池から現れた虹鋼の刃を、逆に蹴って足場に利用して跳んで、避けられてしまったし」


 へぇ、キサラのような機動を想像する。

 すげぇな、優秀な部下が居たとはいえ、<筆頭従者長>たちの攻撃を凌ぐエマサッドか。


「でも、さすがに傷を負っていたけどね。その動きが鈍ったところにキサラさんの蹴りから魔槍の連撃を喰らったメイド服の女性は吹っ飛んで……」

「――そう、叫びながら吹き飛んでいたわ、それが、また怖かった」


 ミスティの表情は実際にその場で起きたことのように鬼気迫るものがあった。


「うん。まだ、戦えそうな雰囲気があったけど、その吹き飛んでいた場所から、メイド服を着たエマサッドさんが現れることはなかった」

「わたしたちも深追いはしなかった」

「うん、魔槍を投擲したキサラさんもすぐに魔槍を回収してジュカさんを追ったし」

「ママニたちの退路とフォローをするほうが重要だったからね」


 と、ミスティが話をしたところで、キサラが一歩前に出る。


「しかし、最後の<邪重足霊蹴>からのダモアヌンの魔槍で肩から右胸を貫いたはず。あの傷を受けた以上エマサッドは無事で済まないと思いますが……」


 と、キサラが戦いの様子を補足した。

 <邪重足霊蹴>とは、ダモアヌンの魔印と関係する厚底戦闘靴で相手を頭上から踏みつける技だな。


 俺もキサラと戦い、蹴り技を何度も味わった。

 靴の下に向けて重力を超えた圧力を押しつけるような強烈な蹴り技のスキルだ。


 喰らった時……。

 俺は防御を優先するしか対処できなかった。


 キサラも技の質は俺と戦った時よりも研ぎ澄まされているだろうし、その蹴りと魔槍を喰らって、生きているとなると、エマサッドはラファエルの語るように強者だな。


「エマサッドさんは強いですよ。ただ、キサラも四天魔女ですからね」


 と、槍使いとしての金属棒を構えを披露するジュカさんも指摘。

 風槍流と少し長柄の持ち方と腕の角度が違う、基本的な体幹は同じ。


 素直にカッコいい。

 自然と胸にラ・ケラーダを刻む。

 戦って黒魔女教団の槍技を学びたい。


 そして、キサラの語りようだと……。

 踏みつけからの連係した槍技が増えているようだ。

 模擬戦の時か、キサラが強い敵と戦う時を楽しみにしよう。

 ま、今はとりあえず、


「ま、行方不明だし地上を見てからだな。ヴィーネ、〝無魔の手袋〟と〝夢追いの袋〟をミスティに渡してくれ」

「はい――」


 ヴィーネはアイテムボックスから〝無魔の手袋〟と〝夢追いの袋〟を取り出す。

 ミスティに差し出した。


 ヴィーネの迷宮産のアイテムボックスには容量があるが〝夢追いの袋〟は無事に収納できたようだ。

 ま、呪いの品を多数収納できる〝夢追いの袋〟が普通じゃないんだろうけど。


 単に、アイテムボックスの収納した袋の中身は関係なく、袋の一つとしてしか認識していないだけか。

 俺のアイテムボックスも食材袋も中身はカウントしてないし。


 ま、俺のアイテムボックスは時空属性系が必須だ。

 アイテムボックスも多種多様。

 神々の力と未知の作用が絡んでいるのもあるはず。

 

 そう考えていると……。


 ヴィーネの頭上を飛翔していた血を纏う金属製の鳥がミスティの腰元でハチドリのようにホバーリングしている。

 見た目はスズメだが、金属が入った袋を突いていた。

 餌を催促している?

 ミスティは、袋から小さい金属の粒を取り、その金属製の鳥にあげていた。

 あの金属製の鳥はミスティを親だと認識?

 ま、二人の合作だからな。


 餌をあげたミスティはヴィーネから夢追い袋を受け取った。


「これに秘宝がたくさん入っているんだ」


 そう発言すると、レベッカが、


「聖ギルド連盟が欲しがっていた書物も、この中に?」

「秩序の神オリミールの【ギルド秘鍵書】っぽい書物もあったと血文字で聞いたけど」


 ミスティもヴィーネに聞いていた。


 二人の言葉に頷くヴィーネ。

 よかったじゃないか。と言おうとしたが、なぜか、ヴィーネは嫌そうな表情を浮かべながら、


「ありました……しかし、他にも色々と変な物が……」


 と、言葉を濁す。

 そのヴィーネと一緒に過ごしていたミスティは頬を引きつらせながら、


「え? ダークエルフとして過ごしていたヴィーネでも、不快に思うほどの嫌なアイテム?」


 と、ヴィーネに聞いていた。


「はい」


 頷くヴィーネ。

 彼女は珍しく俺に助けを求めるような視線を寄越す。

 

 ヴィーネは我慢しながら秘宝の回収をしていたのか?

 すまん、と口にしようとした時、ユイが、


「わたしも、触るのも嫌なアイテムがあった。でも、ヴィーネがね、気概を見せてくれたんだ。リスクがありそうな秘宝の回収を自ら率先して全部一人で回収してくれたの、魔法の手袋があってもリスクがあるからね」

 

 そう語るユイは尊敬の眼差しでヴィーネを見る。

 本心と分かったヴィーネは頬を紅く染めていた。


 照れている姿は可愛いぞ。


 しかし、触るのいやって……。

 秘宝とはいえ、そんな物をヒヨリミ様に見せて大丈夫なんだろうか。

 俺、ダオンさん、いや、狼将ビドルヌさんに噛み付かれて殴られるかもしれない。

 ハイグリアが守ってくれるか。いや、わたしが叩くとか言いかねないか。


「はい。わたしの身を案じた行動に胸がときめきメモリアルでした。リーダーとしての気質も感じましたし、やはり<筆頭従者長>なのだと強く思いました。ヴィーネお姉様はご立派です」


 ジョディもそう発言。

 途中、俺が知る言葉を混ぜたのはわざとか? コケソウになった。

 その言葉に頷くレベッカは、


「そっか。ヴィーネらしい。責任感が強いからね」


 数回頷きながら語る。

 そして、金色の髪を揺らし表情を厳しくしながら、


「……ゼレナードの姿って足がイカだったと聞くし、身を犠牲にしながらも能力を引き上げる効果のある、変な秘宝がありそうね……」


 レベッカはそう喋ってから俺の足を見て、なんともいえない表情を浮かべていた。

 

 俺の足はイカじゃないぞ……。

 そんな視線から逃げるようにレベッカからリサナへと視線を移す。

 

 波群瓢箪から出ていたリサナ。

 墓掘り人たちと地上線の戦いを含めた色々な会話をしていた。


 その中で、渋いキースさんを見る。

 彼は胸元で腕をクロスしながら魔刀を持ちつつもリサナの巨乳を注視していた。


 ハイ・ゾンビ風のキースさん……。

 実はむっつりスケベか?


 ま、墓掘り人たちとリサナは狼月都市ハーレイアの森屋敷内で一緒だったからな。

 そんなリサナたちに、


「会話しているとこ悪いが、リサナ、波群瓢箪に戻ってくれ」

「はい! ではバーレンティン隊長、キースさん、またです♪」


 半透明な体から魔力が噴き出したリサナ。

 桃色粒子を体に纏うと扇子を瞬時に仕舞いつつ跳び飛翔する。

 宙に弧を描く軌道で、周囲に蛞蝓と鹿の幻影を出しつつ波群瓢箪の中へと戻った。


 その際、俺の肩の位置に居た黒猫ロロが立ち上がり、猫パンチを宙に向けて繰り出すが無視。

 波群瓢箪が一瞬膨れて見えた。

 

 悪戯をする黒猫ロロを避けつつ、俺はその波群瓢箪をアイテムボックスの中に入れて、


「んじゃ、ロロさん。悪戯を止めて、皆を乗せてくれ」

「ンン、にゃ――」


 肩から下りた黒猫ロロは姿を神獣の姿へと成長させた。

 エマサッドのことで微妙な表情を浮かべていたラファエルだったが……。


 神獣の姿を見て「おおお!」と叫ぶ。

 鼻息を荒くしつつ手を叩き――。


「やはり、素晴らしい。素晴らしすぎる!!」


 興奮してリズミカルに拍手をしながら、


「黒曜石のような黒毛ちゃんたちが揺れている! 真っ黒お毛毛の集団さんたちだ!」


 コミカルな歌でも歌うように叫ぶラファエル。

 ……毎回思うけどイケメンなだけに舞台に立てば人気俳優となりそうだな。

 歌も歌えばアイドルだ。


 袖から覗かせているイントルーパーたちも火を吐く。

 両手から炎を吹き出す派手なロック歌手的な専用衣裳に見えた。


 腰に差してあるトルーマンは火炙りだが……。

 杖の多脚が燃えて焼失していく。

 と、またすぐに多脚が生えていく。


 あの杖から生えた多脚の動きは焼いたイカのような動き。


 さきイカのように食べたら美味いかもと思ってしまった。

 素材の回収作業を手伝ってくれたカラフルな毛色の集合体たちラメラフルは彼の背中に消えている。


 たぶん、肩口から覗かせている巨大猫じゃらしの中かな。

 あの巨大猫じゃらしの効果はまだ秘密のようだ。

 旧神テソルと関係があるのかもしれない。


 ミスティとレベッカは目を丸くしている。


「端正な顔だけど」

「えぇ、本当に闇のリストなの?」


 ミスティとレベッカがそう話していた。

 ヴィーネとユイは「うむ」、「はは、そうみたいよ」と答えていた。


 ヘルメは「お尻さんが見えませんね」と謎の呟き。


 俺は『しらんがな。』と、口にしない。


 キサラやジュカさん以外もバーレンティンたちも不思議な道具を扱うラファエルを注視。


 目を細めていたイセスはバーレンティンに耳打ちをする。

 バーレンティンは頭部を左右に振って応え微かな声で話をしてイセスを睨む。

 近くに居たロゼバトフとキースもイセスを睨みながら片言で会話を続けていた。

 墓掘り人独特の会話術か。

 地下で永らく放浪していた墓掘り人たちだからな。

 モールス信号や俺の血文字とはまた違うコミュニケーション手段は発達しているはず。

 そして、クナの存在と、そのクナから〝闇のリスト〟の一人呼ばれたラファエルの存在を怪しんでいるんだろう。


 何を話したのか興味を持ったが……。

 今は地上に戻ることを優先する。

 ミスティとレベッカを見ながら、


「ミスティとレベッカ。ナナが閉じ込められていた部屋に案内する」

「あ、変な魔道具が盛りだくさんだった場所?」

「そうだ」

「ゼレナードの実験室ね、楽しみ!」

「それらの品を回収するか、しないかの判断は任せよう」

「了解」

「うん」


 レベッカがナナを抱く手を動かした時――。

 興奮していたラファエルは一気に冷静な表情を取り戻し、


「ナナを閉じ込めていた〝あの実験部屋〟に向かうのか。君たちだから平気なんだろうけど」

「アイテムを回収するだけだ」

「……回収する物……か」


 と、ラファエルは気になるアイテムでもあるのか、そう言葉を濁す。

 すると、レベッカが、


「ロロちゃん、ナナちゃんのことを頼むわね」


 と、発言。


「ンン、にゃお~」


 ロロディーヌは先端が平たい触手群を寝ているナナに向かわせる。

 小さい触手たちを変形させた相棒。


 レベッカからナナの体を優しく包みながら受け取っていた。


 ナナの肩の上で休んでいた黄黒猫アーレイ白黒猫ヒュレミ

 のそっと立ち上がるとナナから離れた。

 包んでいくロロディーヌの触手の上を走り出す二匹は神獣の胴体へと向かう。

 闇の狛犬も続く。


 小さい三匹は触手を伝い走り神獣の胴体に移っていた。 


「それじゃ、わたしも準備する」


 ミスティは自らの体から血を出す。

 そして、


「ムンジェイ……」


 の他にもキーワードっぽい呪文を唱える。

 同時にミスティの血が、新型魔導人形ウォーガノフことゼクスを覆った。

 ゼクスは血に輝くオーク系の幻影衣裳を纏うと煌めく。

 更に、足下の噴射機構からジェット噴射のような魔力波を放った。

 

 と、その瞬間、ミニチュア人形の姿に縮小させる。

 大柄だったゼクスが一瞬で小さくなる。便利だ。

 

 ゼクスは金属の塊にも変形できるようだが……。

 その細かな形態の違いはミスティしか分からないだろう。

 亜神ムンジェイの力を利用しているんだろうけど、オークたちが見たら驚愕するかも……。


 しかし、ミニチュア人形状態での自立動作はまだできないようだ。

 ヴィーネとの合作である小形の鳥とはまた違うようだな。


「――閣下、わたしはどうしますか?」


 俺の頭上に浮いていたヘルメは下りてくると片膝で地面を突く。


「普通についてきてもいいが、自由にしていい」

「はい」

 

 と立ち上がると、抱きついてくるヘルメ。

 俺もくびれた腰に両腕を回し抱く。


 群青色系のコントラストが美しい長髪からいい匂いが漂う。


「閣下……左目に戻りたいです」

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