五百二十六話 正義の歌


 正義のリュートを素早く取り出した。

 俺はキサラとジュカさんにアイコンタクト。


「フィナーレってわけじゃないが、皆にこの歌を捧げよう――」


 正義の神シャファに祝福された音色が響く。

 

 進むよ 進むよ 俺たちは

 探検 お宝 モンスターを蹴散らし 前進だ。

 暗い地下だろうと 焦げ付く砂だろうと

 白色の貴婦人だろうと モンスターだろうと

 すべてを蹴散らし 進むよ 進むよ 俺たちは


 眷属たち 光が見えるか?

 自由な空が俺たちを待っている

 悲しみ乗り越え 光と闇のルシヴァル道を進むのさ


 進むよ 進むよ 俺たちは 

 俺たちは 光魔ルシヴァルだ。

 これからも これからも 生きていく。


 歌い弦を爪弾くとリュートから波動が発せられる。

 虹色の魔力糸が重なりながら出現していった。


 虹色の糸はカーテンかオーロラのような形となって、この場の者たちを優しく包む。

 そして、そのオーロラのような上空に……。

 正義の神シャファの幻影も出現した。

 

 機械風の姿は変わらない。


『――正義はなされた』


 正義の神シャファの声が響く。

 俺たちを祝福するような不思議な魔力の声だ。


 正義の神の幻影は消えた。

 ――この楽器の力は凄い。

 温かい気持ちに包まれているとキサラとジュカさんも合わせてきた。

 

 魔女たちのバックコーラスか。

 ダモアヌンの魔槍は楽器とし使わず、紙人形たちを使っていた。

 ハスキーなエフェクトが加味した音を抑えたキサラの声とジュカさんの声が俺の声を後押ししていく。


 キサラの数珠から出た紙人形たち。

 紙吹雪が舞うように、紙人形たちは踊り出す。


 そうして、正義の神に祝福されたリュートを弾き終えた。

 リュートから出た虹の魔力も同時に消失。


 すぐに反応したのはミスティだった。


「……癒やしてくれたのね。ありがとうマスター。元気でた」


 ミスティは涙を流しながらも微笑んでから抱き着いてくる。


「……言葉では言い現せない」


 胸元に両手を置いたヴィーネの言葉だ。

 彼女の隣に居たユイも、


「――うん、不思議。シュウヤの声がわたしを抱いてくれた……旅宿で数多くの吟遊詩人の歌を聴いたけど、こんな感覚は初めてかも……」


 内股をもじもじと動かしながら語る。

 ジョディは拍手している。


「あなたさま……」


 と、大事なサージュを地面に落としていた。


「……旦那と魔女のコラボとは! 妻に聞かせたかった。」

「いつか聞かせてやるさ」

 

 ツアンは俺の言葉が意外だったのか、瞳を震わせる。

 だがしかし、すぐに寄り目となっていた。

 たぶん、ツアンの中で三位一体としてのイモリザとピュリンの精神が、ツアンのことを『わたしに変わるべきです!』とか、責められているんだろうな。


 主格はイモリザのはずだが……。


「閣下の歌声は痺れます! ゼメアドの沸騎士コンビの気持ち分かりますよ!」


 興奮しているヘルメさん。

 ヘルメ立ちを披露しながらも、本当に痺れている。

 水飛沫を沸騰させるように蒸気を全身から発して、下半身は液体化。


 お漏らしというか、ミニチュアの滝を作り出している。

 ミスティは笑いながら、ヘルメの下に向かった。

 走り書きのメモを取りながら、その滝のように流れていた水を採取する許可を得ていた。


「シュウヤ! カッコイイ」

「……」


 ラファエルは魂王の額縁を回しながら褒めてくれた。

 ダブルフェイスは拍手している。


「ありがとな」


 そう無難に答えると、ジュカさんは俺の足下に走り寄り片膝で地面を突く。

 そして、ガバッと勢いよく頭部を上げるジュカさん。

 

 ゆれるゆれる双丘さんの中には何が入っているのかな?

 と……。


 えぇ、はい、おっぱいさんを凝視しましたとも。


「……うふ。救世主様の……素敵でした」


 キサラもジュカさんの側にくると、


「うん、シュウヤ様に合わせてしまったけど」

「かまわんさ、嬉しかった」


 と、キサラとジュカさんを見つめながら語る。


「ご主人様! 素敵な歌をありがとう」

「おう、サザーたちにも聞かせてあげたかったが――」


 ママニにそう答えつつ正義のリュートを仕舞う。

 拍手してくれたママニも嬉しそうだ。


 虎獣人ラゼールの表情は虎さんだが、分かる。


「……吸血王の歌を聴けるとは……感動だ」


 バーレンティンだ。

 大柄のロゼバトフも、


「あぁ、血脳が溶ける。スゥンとサルジンとトーリに聞かせたかったぜ」


 と、発言。


「ロゼバトフも泣くなんてね……でも分かるわ……地下都市でも聞いたことのない素敵な歌だった。血や顔だけじゃないのね」

「正義の神シャファ様か」

「主は神々の代弁者でもあるということだ……」


 バーレンティンは墓掘り人たちにそう告げるが……。

 神々の代弁者はいきすぎだ。


「この胸に染み入る声は病みつきなりそう……古の外魔アーヴィンの髑髏の杯は間違いなかったということね」


 イセスは熱を込めた瞳を俺に向けてきた。

 黒色の毛に白色のメッシュが入ったイセスも美人さんだからな。プランジング・ネック的の革鎧がたまらん。


「ソレグレン派も安泰だ」


 そして、


「にゃ、にゃにゃおおお~ん」


 黒猫ロロの大きな声でも皆が癒やされた。


「扇子で合わせていましたが、閣下の渋い音色を聞きましたか?」

「はい、シュウヤ様は正義の神シャファ様とも繋がりを持つのですね……しかし、《正義の反銀剣シャファソード》とは」

「あ、リサナちゃんにも宿りましたか。魔法技が増えたのですよ」


 リサナの波群瓢箪に腰掛けようと思ったが、腕を引っ張られた。


「……ご主人様」


 ヴィーネだ。

 俺をたぐり寄せると、俺の胸に頬を当ててくるヴィーネ。


 バニラ系の匂いが煩悩を刺激する。

 上目遣いだ。彼女の熱い眼差しを見ていると……。

 俺も黒猫ロロのように雄叫びをあげたくなるから深呼吸して、長耳に口を近づけてから、


「……さぁ、回収できるものは回収だ」

「……アッ……」

「うん! ってヴィーネ! 感じてないで手伝ってよ?」


 長耳をプルッと震わせたヴィーネ。


「……はい」


 と返事をしていた。

 

 皆に指示を出し回収を急がせていく。

 極大魔石と使えそうな剣腕。

 ミスティは知る範囲のどの素材をどうやって回収するか皆に的確に指示を出す。

 ラファエルも魂王の額縁からカラフルな毛が丸くなっている毬藻風妖怪を出していた。

 名はラメラフル。

 毛先が鋭く器用なモンスター。

 貴重な素材を鑑定もなしに見抜くことがあるようだ。


 しかし、食が細くてすぐに死んでしまう。

 そんなラメラフルたちを用いて、魔兵士の解体と魔石の回収を手早く行う

 そして、一段落したミスティは、


「マスター、わたしはあれを少し採取する」


 造立したばかりにも見える巨大魔神具に手を伸ばしていた。

 その片手には、偽宝玉システマが残した魔石の欠片が握られている。


「了解した」


 そうこうして、粗方回収を終える。


「んじゃ、狼月都市ハーレイアに戻る前に、第一研究施設を見て地上を確認してからだな。エマサッドやリーンの行方も気になる」

「了解」

「あの強かった戦闘メイド長か……」

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