五百十二話 血鎖鎧
廊下に突き刺さっていた月狼環ノ槍を回収。
「こっちだよ」
「おう」
ラファエルは、階段の横のボタンを押すと壁の表面が凹みながら自動的に下に沈む。
エスカレーターに乗った? 芸人か!?
いや、凹みながら現れた壁の中には下に向かう階段があった。
「隠し階段か」
「うん。まぁ近道ってだけだから、すぐに廊下に出る」
と、ラファエルは先に壁の潜り、その階段を下りていく。
螺旋した階段か、俺たちも続いた。
閉所恐怖症だったら発作が起きるかもしれないぐらい狭い階段は、彼が話をしていたように、すぐに終了、行き止まりとなる。
壁の横にあるボタンがあるだけ。
ラファエルは、そのボタンを押す。
また、自動的に壁が動くと、廊下が現れた。
その廊下に出たところで、ラファエルが、
「ここからは普通に向かった方が速い」
そんな調子でラファエルに案内してもらいながら通路と階段を下りていく。
「ナナって子は知っていたのか?」
「知ってたよ。悪夢教団ベラホズマと関わりがあるようだね、キーラ・ホセライが接触しようといざこざが起きたところで、直にケマチェンとロンハンが攫ったらしい」
首の<夢闇祝>の傷を触りながら、
「だからか……」
と、発言。
「その様子だと、ゼレナードが喰った様子でも見たのかな……」
と、表情を強張らせながら語るラファエル君。
イケメンだが、おしっこちびってそうな面だ。
「いや、ゼレナードを倒した後、ナナを救出したんだ」
「へぇ、助けられたんだ。しかし、凄いな……」
「そりゃ、助けるだけだったからな」
「いや、あの部屋に入って、精神が無事なことが驚きだよ……」
本当におしっこをちびってそうな表情で俺を見るなや……。
と、水平チョップを彼の顎に喰らわせたくなったが、我慢した。
しかし、無機質な通路だな。
沸騎士たちは違うルートの方らしい。
死体は見当たらない。
ラファエルと話をしながら階段を下りた直後――。
傷を負ったメイドたちと遭遇した。
必死な彼女たちは、俺とラファエルに相棒の姿を見るなり悲鳴をあげて発狂しては卵のようなものをおれたちに投げて、反対の方向に逃げていく。
無事に逃げられても外は樹海だが……。
一応、
「おーい、施設の外は戦場で危険だぞ。逃げるなら建物の出入り口付近の壁際で纏まってじっとしとけー」
と、忠告したが必死な彼女たちは聞いていない。
回復ポーションか、回復魔法を唱えようと思ったのに。
投げてきた卵は、全部ロロディーヌが平らげた。
もぐもぐと咀嚼しているが、大丈夫か?
「ロロ、変なものなら吐いた方が」
「にゃ~」
黒豹の姿の相棒は『大丈夫にゃ~』と、鳴いている。
「しかし、いきなり逃げることはないだろうに」
「仕方ないよ。洗脳も解けただろうし……それに、魔兵士から襲撃を受けたか、実際に魔兵士の襲撃した現場を遠くから見て逃げてきたのかもしれない。または、毒を喰らって混乱しているのか。僕の顔を知っている子も居たけど、僕にも気付いていないからね……だから、混乱して、僕たちのことをそんな魔兵士に見えたのかもしれない」
洗脳が解けた途端、記憶があるなら自分の行動を責めるだろう。
もしくは周囲の状況を見て、混乱して過呼吸どころじゃないはずだ。
幹部クラスでさえ狂う現実の前では一般人ではキツイだろう。
「そっか、耐性がない場合は精神が……」
「ンン、にゃ~」
相棒のロロディーヌも俺の意見に乗るように鳴いていた。
凜々しい黒豹の姿だ。
触手の先が廊下の先に向けられている。
「あぁ、僕たちは僕たちでできることをするべきだ」
その言葉を聞いて、思わず、ははっと笑う。
「ん? シュウヤ、僕がおかしなことを言ったかい?」
「いや、俺と同じことを考えていたからな」
「はは、よせやい、英雄と同じだなんて、照れるじゃないか!」
「……」
「ンン」
喉声でロロディーヌに催促された。
先を急ごうか。と、ラファエルにアイコンタクト。
彼は笑いながら、頷く。
相棒の太股の黒毛ちゃんを見ながら、俺とラファエルは相棒を追いかけていく。
ついでに<
角を曲がり十字路を幾つも進んだ先で、そのラファエルが動きを止めた。
「待って、神獣ちゃん」
「――にゃおおお」
ロロは尻尾を握られてびっくりして振り向く。
ラファエルの右手を叩いた。
「ごめん、あの角の先だから」
「角の曲がった先か」
「うん。突き当たりが囚人部屋」
と、確かに、その突き当たりの方に魔素の感覚がある。
掌握察の反応では二つ。
突き当たりの奥にも複数ある。
しかし、二つの魔素の大きさ的に……。
捕らわれていた人っていう大きさじゃない。
この反応は、ラファエルが話をしていた魔族の兵士たちだろう。
と、予想しながら左手が握る月狼環ノ槍を背中に回す。
角に右肩をつけて、頭を傾けて、奥の突き当たりを確認……。
廊下の先を覗く。
そこには、厳つい骨の兜をかぶる魔兵士が居た。
一対の両腕に剣を持ち、胸に多腕を生やしている。
その多腕には、様々な武器が握られていた。
見た目は強烈だ。両腕に持つ剣先に何故か死体がぶら下がっている。
死体から毒のような煙を吹き出していた。
死体が剣と化した? 分からないが、毒として認識。
そんな腕だらけの怪物兵士たちの周囲は血塗れだった。
無残な肉片が転がっている。
背後からラファエルが、
「……うは、酷い状況。あれが、中層転移陣を守護していた魔守備兵長ルクネス。ルクネスの末裔たちだね……だけどオカシイ。部下がもっといるはず……あ、指揮系統が乱れているのか。だから、あの二体のみが、この辺で暴れていたようだ」
と、発言した。
「ルクネスの末裔?」
「魔神ルクネスと魔神アラヌスとの骨肉の争いで敗れた者たちらしいけど」
「ほぉ、魔神アラヌスの名は古代狼族たちから聞いたことがある」
狼将アゼラヌと関係があるのか?
と、ハイグリアに聞いたら拳のツッコミを喰らわせる勢いで、文句を言ってきた。
だが、ちゅっとしたら、すぐに納まった思い出は鮮明だ。
『んん、シュウヤ、もっとしていいぞ!』
と、怒っていたが、怒っていないような神姫ハイグリアは火照っていたな。
いじらしくて、可愛かった。
そんなえっちぃできごとを思い出していると、
「あの血の量だと、捕らわれていた囚人は……」
ラファエルが呟く。
確かに、
「……」
俺はラファエルに振り向き、
「ま、廊下に居るあの怪物魔族を倒して、部屋の確認だ」
と、発言してから相棒にアイコンタクト。
黒豹の姿のまま天井に触手骨剣を突き刺していた。
何故か、宙ぶらりんの黒豹という姿で応える相棒ちゃん。
やる気は十分伝わったが、ブランコに乗る黒豹という感じに見えてしまった。
「邪魔はしないよ」
「なら、背後を頼む」
ラファエルは俺の言葉を受けて頷いた。
「<魔拡群絵師>の力が気になってるようだから、少しだけ見せるよ」
「おう」
ラファエルは微笑むと、魂王の額縁からモンスターを出した。
それは、ずんぐりむっくりな団子虫。
甲の面が凸凹とした形。
その頭部は少しカワイイかも。
「ワーイ、主様がボクを呼んでくれたー」
「団子虫が喋った? もしかして、最初に見せていたアヒームという翳のモンスターも喋れるのか?」
「ううん、アヒームは喋れない。口がないからね。僕には意思が通じるけど」
「そうか。それよりも、その小っこい団子虫は戦えるのか?」
「戦うってより、守るための仲間かな。シュウヤとロロちゃんが前衛として、僕は後衛。状況に合わせてさ――」
ポーズを決めるラファエル。
「そっか、団子虫の名前は?」
「団子虫じゃない。名は『ドザン』だ」
ドザンという名前の団子虫は、彼の眼前に浮かぶ。
「ワーイ、主様、任せて! キュルルン♪」
と可愛く喋りながら、小さい唇のような部位をラファエルに向ける。
そして、ハートマークのような粒子を甲の溝という溝の間からガスを漏らすように放出した。
リサナの魔力の粒と似ている。
ドザンは丸盾に変化した。
そのドザンの団子虫のような丸盾を掴むラファエルは構えた。
盾の上に丸っこい双眸と鼻と髭と唇がある。
可愛い玩具のような盾。
まさに団子虫の盾だ。
イモリザの
「……盾か」
性能に関しては期待できそうにないが……。
彼なりに戦闘に貢献したいという表れだろうし、文句はいわない。
背中の長杖は使わないようだ。
両手首に絡んでいる炎を吐く蜥蜴の数匹を足下に展開している。
そして、腰から別の小さい杖のような物を抜くと片手に握った。
ドザンの可愛い盾を離す。
あ、宙に浮かぶのか。
魂王の額縁も盾になりそうだし、案外強いんじゃないか?
と思わせるように、ラファエルの構えは渋かった。
小さい杖が、ハンドガンっぽい形。
まさか本当に銃じゃないよな?
しかし、その動きと構えが、また、渋さに拍車をかけている。
見た目は「CAR」スタイルっぽい。
中心軸を再ロックするCAR Systemという射撃スタイルと似ていた。
「……背後は僕に任せてよ」
その言葉を聞いて、少し嬉しかった。
カッコイイ相方に背中を預けるのも、いいもんだなと。
小銃っぽい杖と、あの盾と額縁の力もあるし。
<魔拡群絵師>のラファエルの力を信用しよう。
ま、あの魔兵士の二体は速攻で終わらせるつもりだが。
そのタイミングで、宙でブランコ遊びを始めていた相棒に視線を向けながら、ラファエルに、
「了解」
と答えた。相棒は触手で、俺に合図を寄越す。
<無影歩>はなしだ。
俺は頷きながら――突き当たりに向けて相棒と共に走り出す。
――<血道第三・開門>。
<
右手に魔槍杖バルドークを召喚。
左手に月狼環ノ槍を持ち、突進した。
が、部屋の奥に魔素がある以上、槍で楽しんではいられねぇ――。
魔兵士の頭部に向けて<鎖>を射出――。
上級:水属性の《
間髪を容れず<
<
初級:水属性の《
幾つかの魔法は抵抗を受けて消えていたが無駄だ。
圧倒的な物量の魔法とスキルで大柄の甲冑と兜ごと魔兵士を瞬殺――。
いや、一体だけが残っていた。
右半身の一部だけだが――。
その倒れゆく魔兵士の半身目掛けて突進。
一陣の風を纏ったような速度を魔槍杖に乗せる。
腰を捻り、一槍の風槍流の神髄と呼ぶべき<刺突>を繰り出した。
嵐雲の紅色の矛を魔兵士のまだ残っていた甲冑の一部に喰らわせる。
右半身を貫く嵐雲の穂先。
魔槍杖バルドークから唸り声が轟いた。
その声を消すように初級:水属性の《
血飛沫の天然シャーベットを作り出す。
冷たい血を味わった。
『妾は……』
サラテンの思念とラファエルの声が聞こえたが無視だ。
囚人部屋の入り口は監獄らしく鉄扉で閉じていることを確認。
鍵開けの技術はないし、鍵が掛かっていたら強引にぶち抜く。
<紅蓮嵐穿>か<闇穿・魔壊槍>で、派手に壊すか。
と、手を押し当てると、鉄扉はすんなりと動いて開く。
ラッキー。
「ンン」
喉声を鳴らす相棒が先に部屋の中に入っていく。
銀色の触手骨剣が見えていた。
平たい触手の先端から骨剣を出したままだ。
相棒はゼレナードの実験室&コレクションルームの扉をぶち抜いたように開けようとしていたらしい。
その触手群を払うように、俺も続く。
囚人部屋へと足を踏み入れた直後――。
「きゃぁぁ」
「こないでよ、変態!」
「うへへへ、外は魔兵士だ、お前も一緒に楽しもうぜぇ」
「ほら、こいつのように、お前も、もっと腰を動かせよ。どうせ、俺たちは死んじまうんだからな。楽しんだもんがちだ!」
「そうだ、そうだ。もっと、やることをやっちまおうぜぇ」
「いやよ! 気持ち悪いの見せないでよ!!」
怒りを帯びた俺は即座に動く。
そう<血鎖の饗宴>を自然と発動していた。
『怒りの日』のような曲が脳裏に流れていく。
嗜虐のつかの間を味わうと、被害者の女性たちは全員が気を失っていた。
「しゅ、シュウヤだよね?」
と、背後から震えたラファエルの声が響く。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます