四百五十八話 ヴィーネの推測

 皆に現況の俺の立場を説明していった。

 キッシュの<筆頭従者長選ばれし眷属>が復興させたサイデイル村を発展させている。樹海の一部だが、平和を齎せた。その維持繁栄のために行動していることを伝えた。

 同時にヴィーネとの血文字連絡も続けていく。


『前にもお話をしましたが、光の十字丘といい樹海の地上と地下はモンスターの勢力がひしめいて混沌としています』

『古代狼族と吸血鬼たちとの戦いばかりではない』

『はい。神狼ハーレイア様と双月神のウラニリ様とウリオウ様の加護のある樹海都市を擁していても、その安全は極一部だけのようですし、キッシュも険しい場所に拠点を作り上げました』


 故郷だからな仕方がない。


『ハイグリアは、そのキッシュとの約束を守ろうと、その険しい場所にあるサイデイル村と狼月都市ハーレイアとの輸送経路を探してくれていた』

『……実際に見たわけではないのですが、サイデイル村と狼月都市ハーレイアとの直接的な貿易は不可能のように感じます。整備が整いつつあるサイデイル村の現況を聞く限りでは、ヒノ村を経由したヘカトレイルとの取り引きは可能のようです』

『あぁ、フェニムル村とサイデイル村とヒノ村ならトライアングル交易も可能なはず。それにしても、樹海内部で安全な地域が存在することが驚きだったよ』


 そこで少し間が空く。


『……確かに』


 とヴィーネから遅れて血の筆記体文字が宙に浮かぶ。

 古代文字の一部のようなファッションのブランドを意識した感じの、この血文字。

 つい先ほども思ったが……。

 このリアルタイムに血の文字が目の前の宙に浮かんでいく光景は、SFというかVR技術顔負けだな。量子テレポーテーション的な時空属性ならではの量子のもつれだな。

 干渉縞の光学技術を用いたホログラフィのよりもリアルだ。


 そんなことを考えながら、


『……対照的に狼月都市ハーレイアへと向かう道中は……今ヴィーネに伝えたようにモンスターの勢力が跳梁跋扈している状況で酷かった。その分、相棒のロロを中心に古代狼族の小隊たち、神姫隊が大活躍したが』

『……ロロ様に会いたいです。ですが、わたしたちもがんばります』


 ヴィーネの素の表情が浮かぶ。

 側に居たら、がんばっているヴィーネを応援しようと、頬を撫でていたかもしれない。

 

 ……そのタイミングで沼の上を飛んでいるロロへと視線を向けながら、


『今、そのロロは、沼の上でジョディと一緒に遊ぶように飛んでいるよ』


 と、血文字だがメールを打つ感覚でメッセージを伝えた。

 ロロとジョディの遊んでいる音声と映像を血文字で送れたら便利なんだが……。


 血文字にはそんな便利な機能はない。


『今も楽しんでいるようにロロは道中の狩りも楽しんだ。聖ギルド連盟とも出会えた。そして、波群瓢箪から新しい眷属のリサナも生まれた。ヴィーネも彼女を見たら驚くと思う。あ、ヘルメも、ヴェニューという姉妹のような子供の姿をした妖精を生んだんだ』

『妖精……精霊様とご主人様との間に……赤ちゃんが! まさかご主人様のお尻が割れて……』


 笑った。ヘルメみたいなことを……。

 ツッコミは入れず、

 

『ヘルメ病が伝染ったか?』

『ふふ、冗談です。そのヴェニューちゃんは、サイデイル村に誕生したルシヴァルの精霊樹に棲むルッシー様と関係が?』

『どうだろう。ルッシーは、光魔ルシヴァルの精霊樹だ。俺たち全員と関係している。だから、包括的に含めればヴェニューとも関係があると言えるのかもしれない。しかし、まぁ……現在だと、ヘルメの家族風の能力? もしかしたら<精霊珠想>としての能力の範疇なのかもしれない』


 と、自らの予想した考えを伝えた。

 ヴェニューは七福神のような道具を持っているが……。


 ヘルメやヴィーネたちに日本の神様の姿は何回か説明したことがあったが、いまさらか。


『<精霊珠想>は覚えています。巨大地底湖アドバーンに棲まうとされている、幻の地底主の姿に似ている能力!』


 昔、ヴィーネが興奮しながら語っていたことを思い出す。

 

 ん? その地底湖で思い出したが……。


 ノームのアムが率いるハフマリダ教団と地下を旅した時に、大きい泉の地域があった。睡蓮のような植物が水面に茂っていた泉……。

 

 その泉に湧いていた水棲昆虫のモンスターを倒したヘルメ。

 ヘルメは水面を凍らせながらスイスイと両足を前後に伸ばす機動でスケートを楽しんでいた。爪先を伸ばしつつ細長い足を抱え持ったまま体が回るビールマンスピンのような回転技は美しかったな……。

 

 大きい泉の地名は……アムたちから聞かなかったが……。

 巨大地底湖アドバーンと何か関係があったりしたのだろうか。

 そんな思考のもと、瞑想しているヘルメを見た。


 俺の視線に気付いたヘルメ。

 キューティクルのある長い睫毛を生かすように瞬きをしてから微笑んでくれる。

 

 そんな美しいヘルメは下半身から上昇気流にのったような水飛沫が湧き上がっていた。

 ある種、水と闇の女神のように見える……。


 彼女は、あの地下の大きい泉からパワーを得ていた?

 そう思考していると、ヴィーネから、

 

『……精霊様を含めて、皆さんの成長は早い』

『ヴィーネも呪神フグの召し使いたちとの戦いで成長したんだろ?』

『はい。影を扱う人型は逃がしましたが、ミスティとハンカイ殿と一緒に地下の探索を続けた結果、弓と剣術と体術において<血魔力>生かす戦いがスムーズにできるようになりました。ただ、<血道第二・開門>の獲得はまだです』


 血魔力を生かす技は増えたようだが、血道の道は険しいか。

 俺はエクストラスキルの<脳魔脊髄革命>を持つ。


 ステータスにも、

 

 ※第一、第二だけではない臨界期を無限に引き起こす※

 ※思考力と判断力を大幅に引き上げ、自律神経系、交感神経、副交感神経などの運動生理機能を良い方向へ異常発達させる※

 ※その恩恵により運動系スキル全般に多重補正が掛かり、体へと吸収される魔素の転換率を飛躍的に上昇させる※

 ※恒久スキルに<天賦の魔才>が自動追加されるだろう※


 とあった。

 <天賦の魔才>効果は絶大だ。

 といっても、近接と魔法、二つの戦闘職業系に限り成長速度が上がる補正だけだが。

 しかし剣術のスキルは覚えにくいところから判断すると……。

 俺の脳は槍にシフトしている。

 やはり、槍狂いか……。

 レムロナとフランが俺を槍狂いの英雄と呼び、亜神ゴルは俺が血鎖鎧を纏った時に槍の狂神と評していたが……。

 あながち間違っていない。


 武術の訓練が好きなだけなんだが……。

 と、少しいじけながら、


『……魔霧の渦森の地下ではどんな生命体と遭遇した?』


 と、聞く。

 

『影を扱う人型以外ですと、やはりオークとゴブリンが多いです。次いで、ゼリウムボーンと骨形の蛮人。粘液をまき散らす軟体モンスター、熊の大柄モンスター、数が少ないですが魔導ゴーレムと蛹蛸ギュフィンにも遭遇しました。迷宮のように地下は広大です。新型ウォーガノフは順調ですが、ミスティの研究もまだ道半ば、ハンカイさんは眷属ではありません。ですから探索は諦めるしかありませんでした』


 ハンカイは血の眷属ではない。

 しかし、そのハンカイも腹に宝石が埋め込んであるし、普通のドワーフではないから長生きでめちゃくちゃ強いが。


『ゴブリンはそこら中にコロニーがある。オークも地下に帝国を持つ。クエマとソロボからも聞いているが……その支族の数は、半端ない。だからこそ、彼らが信奉しているオーク八大神たちの息吹を地下から感じる時がある』

『息吹が……はい。範囲を推測しますと、ペル・ヘカ・ライン迷宮大回廊もオーク帝国のエリアのようですね』


 オークが住む地下都市が近くにあるだけかもしれないが。

 そこで話題を変える。


『ところで、バーナンソー商会は聞いたことがあるか?』

『いえ』

『ないか。俺たちが居るハーレイアで幅を利かせていた商会なんだが……シドという獣人だと思う会長がいる』

『狼月都市ハーレイアで、取り引きをしていた商会……』


 血文字だけだが、腑に落ちないといったニュアンスであることは分かる。


『不自然か』

『そうですね。樹海の商取引が容易に行えるなら大々的にオセベリア王国の専属機関が手を出すと思います。更に国の御用達大商会に連なる中小商会と国を跨ぐ大商会たちも次々と黄金の蜜を求める蟻の如く集まるはずです。しかし、ベンラックとタンダールの下に広がる樹海に、それら商会は集まっていない。ハイム川の大河を利用するルートのみ。支流を使ったルートもあるようですが……』

『ということは、バーナンソー商会は独自の樹海販売ルートを持つかなり優秀な商会なのか』

『トラさんとリンさんのお話に出てきたソレイユの涙を持っていたヘヴィル商会の名は、ペルネーテでも聞いたことがあります。しかし、バーナンソー商会と会長シドの名はペルネーテで聞いたことがないです』


 そこで魔煙草を吸う。

 ヘカトレイルから東にかけて商売を展開していた?

 

『……ヘヴィル商会を隠れ蓑として利用か。オセベリア王国との軋轢があるのか。また、サーマリア王国かレフテン王国と深い繋がりがある? 偽名の可能性もあるか?』

『どうでしょうか。サーマリア王国の線が濃厚ですね。オセベリア王国と、ムサカとレフハーゲンの都市を巡り戦争中です。しかし、そのヘカトレイルよりも東の地方の極一部の限定した方々だけの専属商会なのかもしれません。その線から推測しますと、コレクターのシキならば……何かを知っているかもしれないです。宝物庫の品の中に〝レブラの枯れ腕〟も存在した。と、聞きましたし、もしかしたら……』


 ヴィーネはバーナンソー商会を知らなかったが……。

 聡明な考えのもと、裏で暗躍していそうなシキの名を挙げてきた。

 通称、コレクター。


 宵闇の女王レブラの眷属か使徒であるシキ。

 混沌の夜に、接触してきた骸骨魔術師ハゼスといい他にも優秀そうな部下を持つ。


 そんなシキが、白色の貴婦人と繋がりがある?

 古代狼族が持っていた秘宝〝レブラの枯れ腕〟をツラヌキ団のメンバーに盗ませようと企んだ?


 と、ヴィーネは推察したらしい。

 「測り難きは人心」というが、的を射た意見だと思う。


『……シキのコレクターとバーナンソー商会が繋がっている可能性があるということか』

『現時点では、あくまでも可能性の一つですが』

『そうだな。商会だし可能性はあるだろう。しかし、レースを主催できる商会たちと繋がりを持つバーナンソー商会。その商会が、ペルネーテで商売を展開していないことが不思議だ。あ、だからか。ヘヴィル商会がペルネーテの商売を担っているのか……』

『そうかもしれません。獣人系の傭兵商会もいくつか配下に持ち、八頭輝の【軍港都市ソクテリア】の【雀虎】と【湾岸都市テリア】の【シャファの雷】から中小の闇ギルドとも繋がりを持つようですね』


 なるほど……。

 色々な闇ギルドと繋がりを持つか。

 推察すると、中間の人材派遣の斡旋業者のような感じか? 冒険者というより、護衛に特化した商会。

 民間軍事会社のようなノリ?

 だとすると、ヘヴィル商会専属の何か・・もありそうだな。


 あの婆な鼬獣人グリリは、裏があるか。

 そういえば……手加減が必要ないほど用心棒はタフだった。


『……ま、これ以上の憶測は、机上の空論となる。古代狼族側の権力機構のヒヨリミ様がするだろうし、終了だ』

『はい』

『ということで、普通の商会が樹海側に進出する可能性は低いということだな』


 樹海は、サイデイル村とも衝突したことがある樹怪王の勢力が居る。

 そして、俺は敵対したことはないが紅虎の嵐&ドワーフの博士たちが遭遇して戦い逃げてきた蜻蛉の軍団を率いる旧神ゴラードも居る。


『そうですね。モンスター勢力が強く利益より不利益の方が大きい』


 ヴィーネはキャネラスも色々と教えていたように南マハハイムにおける商取引の動向を探ることが好きだったからな。

 ペルネーテ以外の隊商から商会の動きも詳しかった。


『そして、昔、ご主人様がおっしゃっていた「収穫逓減の法則」と「見えざる手」の勉強のためペルネーテの役所へと侵入し、各商会資料を色々と拝見しましたが……やはり黄金ルートに比べたら樹海側を利用する隊商ルートの数は少なかったです。しかし、聖ギルド連盟との遭遇話にも登場した特別な魔船を用いた支流を移動できる商会ならば競争相手も少なく莫大な利益を生むことも可能と思われます』


 銀船、正直、どんな船か興味がある。


『運び屋か』

『銀船を奪取したらメルも喜ぶかもしれませんね』

『もし、手に入れられたとしても、【天凜の月】が所有する黒猫号の船長が銀船を操作できるか疑問だ。その特別な船を操れるだけの操作技術を持つ人材と、その人材たち自身が、海賊とモンスターを退ける純粋な個としての強さを持っていないとな。そして、話が急に変わって悪いが、ハイグリアとの約束でもある、番の儀式は五日後だ。その間に、ヴィーネのところへ向かう』

『……』


 ハイグリアに関する話題は、スルーを決め込む可愛いヴィーネさんだ。


『……え? ご主人様と……会える……』

 

 ヴィーネから血文字が途絶えた。

 何をしているのか分からないが、ロロディーヌがタイミング良く宙空に向けて火炎弾を放った。

 まさか、ヴィーネの気持ちに連動したような感じか?

 

 頭上の樹木屋根から悲鳴めいた雷鳴が轟くが……気にしない。


 そのタイミングでツラヌキ団と墓掘り人たちに向けて、ヴィーネに血文字で伝えた意味を実際の言葉で説明を続けていった。

 ……俺の話の内容に興味を抱いたのか、オフィーリアが瞬きを繰り返し、口を動かす。


「八支流のあるアルゼの街。ララーブイン山沿いの人族たちの勢力ですね」


 彼女はやはり闇色のマントが似合う。

 レース場で魅せた表情に近い美人さんだ。

 そのオフィーリアに向けて笑みを意識しながら、


「そうだ。アルゼの街でもツラヌキ団は仕事を?」


 と、重要なことを聞いてみた。

 

「はい。その周辺で、多数の古代の秘宝を盗みました。その中に、フェウとケマチェンが絶対に盗めと指示のあったギルド秘鍵書とかいう代物もありました」

「それは聖ギルド連盟の物か。そこの聖刻印バスターはオリミール様の加護を受けた人族たち。手強いと思うが、よく切り抜けられたな」


 聖刻印バスターはドルガルが五番、リーンが六番、アソルが二番だった。

 教皇庁で例えたら魔族殲滅機関ディスオルテ一桁エリートのような存在だと思うし。

 

「……そうですね。戦えば切り抜けられる自信はありますが表立って戦うことはしません。そして、建物の外側は頑丈で警備も万全でしたが、ツブツブの能力とケマチェンから渡されていた掘り専門道具を用いて、地中から侵入し幾つも壁に穴を空けて中に侵入したんです。古代狼族の宝物庫へと侵入を試みようとした時と同じですね」


「なるほど。だとしたらロロが居なきゃ捕まえることはできなかったな」

「神獣様は凄い嗅覚よ」

「あの大通り沿いから、どうしてアラハの匂いを辿れたのか不思議だけど」

「うん。あ、アラハの妹のサザーさんと匂いが似ていたから?」


 皆、『そうか、そうか』と納得しながら……。

 低空飛行して沼のザハたちを驚かせているロロディーヌを見ていく。

 

「……秘宝は」

「はい、ヒヨリミ様に話をしたようにフェウとケマチェンの一党に渡してしまいました。約束通り、仲間もその分解放してくれましたが……」


 だからこそ、仲間のために命がけで窃盗団を続けていたんだろう。

 しかし、レネ&ソプラの仕事のように至る所で恨みを買っていることになる。 


「その関係でわたしたちとも繋がるのね」

「色々と複雑だけど、面白くなってきた」

 

 レネ&ソプラさんは頷きながら話している。


「そうだな……」


 と、頷きながらも、そう素直に思えるソプラさんが羨ましい。

 というか、彼女も俺たちと一緒に戦うつもりなのか?

 そう疑問に思いながらも、フェウとケマチェンの話に持っていく。

 

「……その一党の名前は〝死の旅人〟だな?」


 答えは分かっていたが、そう聞いた。


 聖ギルド連盟が追っていた奴ら。

 古代狼族討伐依頼中に突如裏切った冒険者グループが〝死の旅人〟。


 死の旅人は、ツラヌキ団たちに秘宝を盗むように指示を出していた。

 アルゼの街を拠点に持つ人族側では〝白き〟〝白の〟貴婦人と呼ばれていた黒幕的存在を背後に持つ集団。

 古代狼族側からは〝白色の貴婦人〟と呼ばれている。


「はい。ヒヨリミ様に報告した通り人数が多い。普通の人族で構成した冒険者グループには見えませんでした。そして、白色に染まっている双眸の男といい……わたしたちを見る目が怖かった。だから素早く次の仕事に移りました」

「フェウは凄腕の魔剣士でケマチェンは白のオーラを操る魔法使い系と聞いたが、秘宝のアイテムはどんなモノを欲していたんだろう」

「様々です。ギルド秘鍵書は魔造書のような感じでした」

「シュウヤさんの腰から見え隠れしている特別なそうな書物と似たような魔力を発していました」


 その言葉で腰の魔軍夜行ノ槍業が微かに動く。

 八怪卿の魔槍技を覚えたいが、今は自分の楽しみより、彼女たちだ。

 オフィーリアは美人だし、助けてあげたい。

 ロロディーヌもサザーと同じ匂いがするアラハを助けたいだろうし。

 今はジョディとの遊びに夢中のようだが……。

 

「うん。本物か偽物かの違いは分からないけどね」

「たぶん、神話ミソロジー級のアイテムだと思う」

「魔神具かも」

「でもさ、わたしたちの逃走が早かったから、人族のフレデリカ領主代行たちは、フェウとケマチェンたちに追っ手を差し向けたようだけど……」

「あいつらはアルゼの街で何かをやろうとしていたようね……」


 オフィーリアは表情を青ざめながら語っていた。


「ツラヌキ団に秘宝類を盗ませたこと以外にも、死の旅人たちは別な用件の仕事を完了させたということか」

 

 ツラヌキ団たちは俺の言葉に頷く。


 しかし……壮大なしかけだ。

 知らないところで相当な悪が蠢いていたことになる。

 まさに、「悪い奴ほどよく眠る」って奴か。


 地下に地底神たちも棲むが、樹海も樹海だ。

 戦神教の樹海支部の戦闘方針は正しいってことだな。

 初見で俺たちを信用せず、戦いを仕掛けたことは正解だ。

 その分、ラビウス爺さんも苦労が絶えないと思うが。

 

 そこで――魔煙草を吸い、煙を吐く。


 ロロディーヌとジョディが宙を泳ぐ姿を近くで見ようか。

 端まで歩くついでに、棚と台の上を見ていく。

 

 そこには虹めいた光を放つ斑猫はんみょうの虫飾りと蚊遣り豚の陶器が飾られてあった。


 可愛い感じの豚なら微笑むが、これは……。

 思わず、名の知らぬ禍々しいオークを思い、南無。


 と、片手で祈る。

 その瞬間、胸元の<光の授印>が輝いた気がしたが、気のせいだろう。


 そのまま沼の方の縁に移動。

 沼を見ながら……魔煙草の煙を吸い、息を吹く――。


 降りみ降らずみの雨の視界を煙が掴む中――。


 今度、アルゼの街に行ったら見てみようか……。

 八支流と聞く地域も自然が豊かそうで楽しそうだ。

 だが、まぁ、ツラヌキ団のメンバーたちを優先か……。


 と、考えたところで振り返る。

 下半身が霧となっているヘルメを見て、墓掘り人たちと一緒に机の上のお菓子に手を付けているツラヌキ団のメンバーを見た。


 問題は彼女たちの身体に埋め込まれた白い紋章だ。

 取り除こうとしたら、身体が溶けて、白い紋章と化してしまうようだからな……。

 どうにかして……。

 白い紋章を取り除く方法を探らないと。


 変に弄って死んでしまったら……意味がない。


 白色の貴婦人を討伐したら、彼女たちの紋章も消えるとは思う。

 ということからして、現状では、討伐を優先したい……。

 だから、キッシュの祖先とキストリン爺さんも許してくれるだろう。

 これはサイデイル村の発展にも寄与することだ。

 そして、ツラヌキ団が脅迫を受けていたように、まだ人質となっている彼女たちの同胞たちをどうやって救うか……。


 ハイグリアの番までの期間に、眷属たちと仲間たちに連絡を取るとしよう。

 そして、皆をここに集めて白色の貴婦人討伐と決め込もうか。


 だといって、サイデイル街の防衛は崩せない。

 四天魔女キサラ&闇鯨ロターゼ。

 精霊樹ルッシーとキッシュ司令長官は、そのままだな。

 光魔騎士シュヘリア&デルハウトも待機か。

 紅虎の嵐とドワーフの博士たちにモガ&ネームスも待機だ。

 モガ&ネームスとはパーティを組むと話をしたが、サイデイルの街が気にいったようだしな。

 エブエも待機か。

 黒豹隊として、血獣隊に混ざるか聞いてみるのも面白いかもしれないが、エブエもエブエで故郷があるしな、あの家族たちの黒豹たちが見守っている場所から離れたくはないだろう。


 門番長のイモリザは呼べるか?

 オークのソロボとクエマは家の警備だな。

 弟子のムーは絶対に呼ばない。

 サナさん&ヒナさんも呼べないし語学の勉強がある。

 亜神と打ち合えた又兵衛が居るが……まぁ、負の螺旋に巻き込むのもな。

 彼女たちはこれから異世界ライフが始まるのだから、語学を学んで好きなことをしてもらいたい。

 都市には学院もあるし。なんなら彼女たちにペルネーテの屋敷を貸してもいい。

 

 ミアが着ていた魔法学院の制服は正直、良かった。

 彼女たちの過ごした地球は戦争が酷いからここでは平和に過ごしてほしいもんだ。


 レベッカとエヴァも呼んだら絶対に来るだろう。

 ヴェロニカたちはペルネーテの闇ギルドがあるし、個人的に見守っているメアリの存在ある。

 血獣隊は確定だ。

 

 サザーとアラハの兼ね合いで鏡からペルネーテに行くとして、この間、ママニから預かった魔石もこのアイテムボックスに納めておくとしよう。


 ヴィーネは勿論だが。

 ミスティとハンカイなら頼めば来てくれるだろう。


 現状、地下で呪神フグと、その召し使いたちと遭遇し衝突し逃がしている。

 地下の洞窟は幾重にも分岐している空洞が無数に存在し、ペルヘカライン迷宮大回廊にも繋がっている。

 ハンカイは斧の良い修行ができて嬉しいようだった。

 そして、ミスティも新型魔導人形ウォーガノフを実戦投入できて、楽しいと血文字でアピールしてきた。

 しかし、ミスティが解析を行い暴いた兄のゾルが残した謎の地下扉。

 メリアディが関係する魔法陣の研究も手つかずの状態。

 これはルビアも呼びたくなる案件だ。

 しかし、ルビアはペルネーテで冒険者クランに入って修行中。


 そんな状況だが、ミスティも俺に会いたがっていたことは変わらない。


 ユイとカルードは、西方へ向けて移動中だ。

 アドリアンヌとの絡みもあるだろうし忙しい状況だからなぁ。

 ま、無理と思うが一応、ユイとカルードにも報告して頼んでみよう。


 来てくれるかもしれない。

 もし来たら、送り届ける際は、一緒に西方ルートへ向かうことになるかもしれないが。

 もし、そうなった場合……。

 アキレス師匠のところに帰るつもりだったが……。


 まだまだ帰れそうもないな。


 そんな思考をしながら皆が座っていた陶器製の椅子に戻った。

 さて、ヴィーネ以外の眷属たちに知らせるのは、もう少し後だ。

 ラシュウことバーレンティンの言葉を<筆頭従者長選ばれし眷属>のヴィーネに伝えていく。

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