三百九十八話 魔界騎士デルハウトとの戦い
デルハウトと戦っている最中だが――。
ヘルメを注視。
指先の球根からキラキラ
その飛翔するヘルメの衣装が新しい。
蒼色と黒色と黝色と水色に群青色……。
夜空の僅かな明かりが生み出すコントラストが美しい魔法の衣装を身に着けていた。
背中に液体の小さい翼があるが、形は初見。
蝶の翅か、或いは天使的……。
それでいて、常闇の水精霊としての水っぽさがある。
不思議と青み掛かった液体は夜空でも分かるぐらいに綺麗だ。
亜神ゴルゴンチュラの一部を取り込んだ効果か?
液体だから、単に翼のイメージを作りだしているだけの可能性もあるか――。
そんなことを一瞬で考えながらデルハウトを凝視。
<邪王の樹>と<導想魔手>を意識。
デルハウトに向けて樹木の道を宙に作り出す。
「魔界騎士デルハウト。喧嘩は買った!」
「フハハ、笑止! 魔傀儡人形イーゾンのようなハルバード系の魔槍は、俺の背中だぞ?」
んなことは分かってるよ。とは口には出さず。
<血道第三・開門>を開門――。
<
両足から血を噴出させる。
デルハウトへと続く樹木道の上を駆けながら、腰から鋼の柄巻きを用意。
鋼の柄巻に魔力を送ると、柄巻の円筒状の形をした光刃放射口から青緑色のブレードが迸る。
――ムラサメブレードを起動。
「剣か? 未知の武具か――」
デルハウトが
そして、俺の背中の位置に浮く<導想魔手>は少し遅れる形だ。
魔察眼が使える相手からは、俺と魔線が繋がる魔力の歪な手が、宙を泳いで見えているかもしれない。
そんな状態で駆けた。
が、その走る樹木の道は途中で、粉々となって消失。
「甘いわ! 効かぬ、効かぬぞ!」
デルハウトの攻撃だ。
鎧の肋骨の溝から粘質を帯びた魔力刃が扇状に展開していた。
構わず、宙にまだ僅かに残る樹木の道の幅を拡げるように――。
新しい樹木を点々と宙に作りつつ、それを樹木を足場にして、デルハウト目掛けて跳ねるように跳躍を続けた。
視界が大柄の魔界騎士デルハウトの姿で埋まる。
槍圏内に入った直後――。
横からムラサメブレードを振るった。
その振るったタイミングと合わせて、肩の竜頭金属甲《ハルホンク》を意識――。
蒼い魔竜王の瞳から氷礫が生まれ出る。
デルハウトの頭部に向けて凄まじい速度で向かう。
至近距離からの氷礫だ。
デルハウトは反応できず、いや、反応しているが、避けることはしなかった。
――彼の頬と額に氷礫が一つ、二つ、突き刺さる。
胸元にも氷礫が突き刺さった。
「ぐ、ぐァ」
デルハウトは氷礫を喰らいながらも、紫色の矛を斜め上方へ伸ばす――。
ムラサメブレードの薙ぎを防いできた。
青緑色のプラズマブレードが、紫矛の表面を滑った。
俺は視線で数度のフェイクを入れる。
デルハウトの紫魔槍と、俺のムラサメブレードの力と力の勝負。
そう思わせつつ鍔迫り合いへ持っていくと、デルハウトに見せかけた。
ベクトルも逆らわず――。
「駆け引きのつもりか――」
デルハウトは強引に紫魔槍を捻る。
俺の青緑色のブレードを跳ね上げた。
そのまま内側に的を絞った動きから<刺突>系の技を繰り出す。
俺は体を捻るが、回避が、間に合わない。
――鋭い突き技を喰らった。痛いッ
右の脇腹が擦れ、内部にも衝撃を受けた。
正直、かなり痛い――。
続けざまに鋭い突き技を身に喰らう。
「剣術も使えるとは――」
デルハウトは熟練の動きで紫魔槍を引く。
肩を下げ筋肉の動きと突きのフェイクを交えた中段突きの間合いだ。
「魔人武術<流愚突>――」
スキルを交えた突きの連撃か。
構えだけでフェイクとは、すげぇ魔界騎士だ。
だが、俺も出してない手札はある。
そのタイミングで、新しい仙魔術の<白炎仙手>を意識。
俺の周囲にゼロコンマ数秒も掛からず、白霧のオーラが現れる。
白霧の中から白炎を纏った手の群れが出現した。
イメージはキサラとトン爺から得た貫手突き。
「ぐぬお!? 白炎だと!?
完全に不意を受けたデルハウト。
急遽、伸ばした紫色の魔槍を斜めに上げて防御に回る。
俺の白炎の貫手を、紫色の魔槍の柄で防いできた。
が、怒濤の勢いでデルハウトを襲う、白炎の貫手の群れには、さすがの魔界騎士とて対応できず――。
白炎の貫手をデルハウトは体に喰らいまくる。
ドドドドッと大砲の弾が分厚い雲を連続的に突き抜けたような多重的な音が同時に響いた。
更に、<夕闇の杭ダスク・オブ・ランサー>も混ぜた。
「闇神リヴォグラフだと!?」
デルハウトの魔鎧は、その闇杭と白炎の貫手の乱舞により、削りに削れた。
厚い小麦色の胸板を露出した。
そのデルハウトの裸体にも白炎の貫手が刺さる。
デルハウトは、
「ぐあぁぁぁ――」
と発狂。
上半身を膨らませて、血飛沫状の魔力を周囲に展開。
体に突き刺さった白炎の貫手を消失させる。
膨らませた力強い裸の体を捻るや、俺の胴体に向けて、中段の紫色の魔槍の穂先を伸ばしてきた。
タフだが、その槍機動は荒い――。
左手に神槍ガンジスを召喚。
同時に<水神の呼び声>を意識、発動。
神槍ガンジスを握る左手を捻りながら斜め前方に伸ばす。
紫色の魔槍を神槍ガンジスが弾いた。
血塗れのデルハウトは、
「ま、幻!?」
そう発言。
俺も幻? と疑問に思うが、俺以外にも、幻が見えたようだ。
そのデルハウトは腕が上向いて体勢を崩す。
だが、まだ紫色の魔槍を握った状態だ。
俺は体内の魔力の高まりを神槍ガンジスに移す勢いで<水穿>を繰り出した。
水蒸気と仙魔術の白炎を纏う神槍ガンジスの双月刃の穂先がデルハウトの胸元を貫いた。
「――ぐあぁぁ」
方天画戟と似た双月刃の穂先から、白炎に燃えた水飛沫が周囲に散った。
その煌めく水蒸気が、神槍ガンジスを拝むような円錐の形に変化。
仙魔術の白霧が変化?
水神アクレシス様なのか?
神々しい蜃気楼のようなモノを視認。
が、一瞬で、その蜃気楼的なモノは、白炎の貫き手ごと儚く消えた。
数コンマ何秒の間に映る幻影か。
そして、神槍ガンジスの双月刃の穂先はデルハウトの体を貫いたまま。
まだ攻撃は止めない。
間髪容れず――。
そう<導想魔手>だ。
デルハウトの真上から<導想魔手>が握る聖槍アロステで<刺突>を放った。
キュルルルと音を発すように螺旋運動の十字矛の聖槍アロステが急降下――。
デルハウトの脳天に十字矛が突き刺さる、かと思われた。
「ぐあぁぁぁぁ」
悲鳴を上げたデルハウト。
すげぇ、反応しやがった。
体を傾けて頭蓋への一撃を避けていた。
しかし、アロステの十字矛はデルハウトの肩口を引き裂き、胸深くにまで達している。
それはあたかも、十字架を背負うキリストのような姿だ……。
十字矛が深く胸元に突き刺さったところから、勢いよく血が迸った。
血飛沫は霧の血環を作るように、俺にも降りかかる――。
完全に動きを止めた大柄の魔界騎士デルハウト。
デルハウトの胴体ごと血飛沫の環を両断するように<導想魔手>が握る聖槍アロステを下へと捻り曲げた。
が、デルハウトの体は硬い。
両断はできなかった。聖槍アロステの柄が下がっただけ。
ま、<刺突>の螺旋した勢いは止まっているので、当然か。
しかし、そのデルハウトの筋肉と鎧の硬さを利用させてもらう。
左手の神槍ガンジスを消去。
――斜め下にぶら下がった聖槍アロステの柄を――。
血を纏ったアーゼンのブーツの両足の底で踏んで柄を蹴った――上空へと、跳躍。
軽功を意識した足さばきは成功――。
宙で身を捻りつつデルハウトの背中側へと回り込む。
「返してもらうぞ――」
デルハウトの背中に突き刺さっていた魔槍杖を触り――その魔槍杖を消失させた。
<導想魔手>も消して、再び、足元に<導想魔手>を発動。
その
宙を飛翔するように、宙がえりを繰り返しながら高く飛んで、周囲を把握。
「ンンン、にゃ~」
――夜空の戦場世界か。
デルハウトが壊れた人形のように落下していく。
周囲の敵は……粗方片付けたか。
そこで、下の樹海に魔素の動きを感じ取った。
エヴァの様子を見る。
エヴァは同じ黒髪のヴァンパイアと戦っていた。
エヴァの背中側には半透明な又兵衛が居る。
一緒に、共闘しているらしい。
エヴァは五つのサージロンの球を牽制に使う。
黒髪のヴァンパイアはサージロンをシックル刃で弾きながら素早く身を回転させて避けていた。機動は速い。
自慢の球を弾かれたエヴァは機嫌を悪くしながら、相手を睨む。
彼女は紫魔力に包む金属足で地面を蹴った。
前傾姿勢で前進しながら、細い両手から黒いトンファーを真っすぐと伸ばす。
黒髪のヴァンパイアの胴体に向けて<刺突>のような突き技を連続で繰り出す。
一歩、二歩と後退しながら受け回った黒髪のヴァンパイア。
彼は両手に持ったシックルの刃で、数回、トンファーの突き技を弾く。
数度の突き技を、上下左右に流れるような所作の見事な防御剣術で、防ぎ、反撃に出ようとした黒髪ヴァンパイア――。
だが、逆に、強烈な金属足のローキックを喰らっていた。
エヴァの紫魔力が包む金属足による打撃は強烈だ。
足が完全に折られた黒髪のヴァンパイアは、にわかに片手で地面を突く。
シックル刃を太股に揃えながら、素早く身を捻らせながら後退。
新体操選手の機動で器用に両手を使い後退を続けながら、潰れていた足をゼロコンマ数秒と掛からず、再生させていた。
あの機動といい再生速度も並みじゃない。
<筆頭従者長>クラスか?
黒髪のヴァンパイアは左右の手に握るシックル刃で、雑草を斬り、塵でも払う仕草を取ると、不敵に嗤う。
嗤って、何かを話をしているようだ。
雰囲気的に、元影翼旅団のカリィを思い出す。
両手に握ったシックル刃も魔力が内包した優れ物。
両肩の記章金具に縫われているマントを着込んでいるようだ。
下半身はラメ革を使ったズボンと革靴。
半身の体勢を維持した拳法を感じさせる構え。
全体的に魔闘術系の技術も高く、ゆったりとした動作から余裕を感じさせる。
黒髪のヴァンパイアは強い。
もしかして、あれが、貴公子とか呼ばれている外れヴァンパイアか?
<筆頭従者長>のエヴァは正直強い。
だが、心配は心配だ。俺は見るのを止めて急降下した。
その黒髪のヴァンパイアは、
「上が激しい間に、その銀箱をかっさらおうと思ったが、甘かったか」
「ん、何者?」
「んな、ことはどうでもいい――」
そんな会話中だったが、構わず、聖槍アロステを<投擲>――。
黒髪のヴァンパイアにあっさりと、避けられた。
「こりゃ、光属性の槍かよ? こえぇぇ、槍使いと正直戦いたくない。だから邪魔したな? もう現れることはないから安心しろ――」
そのまま、背後の樹木の影へと入った直後、影と同化するように消失した。
黒髪のヴァンパイアの魔素の反応はない。
「シュウヤ、消えたあいつ以外は大丈夫。サージロンで全部撃ち落とした」
「おう」
「レベッカたちにも連絡したから、大丈夫」
エヴァは地面に突き刺さった聖槍アロステを<念動力>で運んでくれた。
微笑んで語るエヴァの背後には、助かった人々が纏まっていた。
エヴァに対して、笑みを意識しながら頷く。
アロステを掴んで消去しながら助かった乗客たちを見た。
軍服姿のサナとヒナを確認。
乗客たちを守るように、先頭の位置で立っていた。
サナが扱う半透明の武者こと又兵衛は、敵が居なくなるのを確認すると、エヴァの背後を守る位置に戻っていく。
黒髪のヴァンパイアの存在が気になるが……。
……もう戻ってくる気配はなさそうだ。
「サナ、ヒナ、少しここでエヴァと共に待っとけ――」
そう日本語で喋ってから、黒髪のヴァンパイアが消えた場所から視線を上に移す。
激しい戦いが続く夜空を見ながら跳躍した。
上空で、炎を吹きまくっていた神獣ロロディーヌが寄せてきたので飛び乗る。
足、腰、首筋にロロディーヌの触手が絡む中、
「――閣下、我らも戦いましたぞ」
「見てくだされ!」
と、血肉がこびりついた骨剣と骨盾を掲げる沸騎士たちが語るように……。
背中から腕へと繋がる巨大な黒翼を持つ人型魔族と、牛の頭部と虎の頭部の二つの頭部を備えた大柄の魔族たちの死骸が、幅広な神獣の背中の上に転がっていた。
転がっている死骸は干からびている。
血はちゃんと神獣ロロディーヌが吸い取ったらしい。
触手骨剣で撃ち漏らした魔族たちが神獣の背中の上に乗り込んできたようだな。
「精霊様も仕留めたようですぞ」
「氷の人形と化したムグ級の魔獣も落下しております」
沸騎士たちが語るように、ヘルメが飛翔しながら戻ってくる。
キラキラ
「捕まえたのか」
「はい」
いい匂いが漂うヘルメ。
神獣の背中の上に着地した精霊ヘルメ。
彼女の足元には……。
キラキラ光る紐によって雁字搦め状態の魔界騎士の姿があった。
ロロディーヌの黒毛に包まれる形で横たわっている。
女魔界騎士が両手に持っている魔眼を備えた魔剣も、立派な腿当ての防具に押さえ込む形で<珠瑠の花>の紐が絡んでいた。
女の魔界騎士はデザイン性の高い魔鎧を身に着けている。
素晴らしい。おっぱいの形が再現された胸甲!
そして、背甲から続く草摺はしなやかさがある。
だが、気持ちよさそうな、なんともいえない変顔を浮かべていた。
長い睫毛と細長の目を持つ美しい魔族なだけに、その変顔は面白い。
しかし、頬の一部を防御する渋い面頬を身に着けているだけに、変顔が目立つ。
だが、美形と分かる顔。
彼女の変顔はもっと近くで見ていたい。
「ンンン」
俺にツッコミを入れるように喉声を鳴らしたロロディーヌ。
背中の上だが、俺と感覚を共有していることで、女魔界騎士の位置がどこにあるのか正確に分かるようだ。
彼女の全身に触手と黒毛を絡ませていった。
最終的に、黒触手と黒毛で構成した人型の牢屋が完成。
というか、顔だけ露出したアイアンメイデンのように見える。
お豆型の肉球が付いた触手が、彼女の頬をポンポンと叩いて遊んでいた。
「精霊様、なぜ、敵を生け捕りに?」
「ゼメタス、分からないのですか? まだまだ閣下の腹心とはいえないですね」
「俺の好みだと判断したんだろう? な?」
「ふふ、はい」
と、いいつつも、ヘルメの視線は……。
捕まえた女魔界騎士のお尻に向けられていた。
そこに、
「ンン、にゃご――」
神獣ロロディーヌが炎を吹く前の声。
まだ残っていた眼球型魔族に向けて炎を吹いては、空の掃除をするロロディーヌ。
俺は触手手綱を触りながら、頼もしい仲間のキサラの位置を確認。
鴉を用いたキサラ。
無数の鞭を繰り出していた茨の冠を装着した魔族の戦いも終息に向かう。
ロターゼが混ざりだすと、茨の冠を装着した魔族は退いた。
その退き方は見事だった。
メインの鞭から小型の鞭が放射状にクラゲが内側に風を孕むように膨らむと一気に膨らみが収縮し、風を放出して前進。
風の力を利用した移動方法だ。
もう、かなり離れている。
その戦いを見ていると、傷だらけの巨漢黒兎が近寄ってくる。
彼と戦っていたムカデの冠をかぶった魔族やキャタピラーの多脚を持つ魔族の姿はない。
「俺様はヴァーちゃんの下に帰る」
「加勢してくれたことには礼を言う。ありがとう」
「……ふん、俺様に頭を下げるとは分かってる奴だ。ヴァーミナ様が気に入るわけだな」
「そう言うが、女の血肉は捧げないぞ?」
「……んなことはよく分かってる。だが、ヴァーちゃんは本気でお前を懐に取り込むつもりだぞ? そして、今回の争いで、お前を魔界騎士にしようとする気持ちは伝わったはずだ。んじゃ、今日は疲れた。じゃあな――」
巨漢黒兎シャイサードは毛を震わせながら語ると、体を再生させながら離れていった。
「シャイサード。それよりも、あの象鼻ちゃんの呼び出した怪物が凄いですね……稲妻が天空を突き刺してますよ……そして、あっちの闇を纏うのが、ホフマン……」
「閣下に波群瓢箪を齎した象鼻は異質な動きですな……そして、神界勢力も馬鹿にできません」
「閣下、我らはあまり役に立てず……」
巨漢の黒兎のことはあまり気にしていない、ヘルメたち。
それよりも当り前だが、皆は、移り変わる空の戦場の様子が気になるようだ。
「気にするな、ロロの背中に乗ってきた魔族を屠っただろう。それよりゼバルのことを教えてくれ」
「ゼバル。多数の騎士を有する魔侯爵の一人。巨大ムグ級の飼育に成功したことで魔界での領域確保に成功した強者であると聞き及んでおります」
「魔蛾王ゼバル。背中に蛾模様の翼を持つとか」
ほぉ、蛾か。亜神ゴルゴンチュラと何かしら関係があったのか?
まさか、下の銀箱が目当てだったりする?
「そか、ありがとう。とりあえず、時獏&ホフマン一党&神界勢力は放っておく。距離も離れ出したし」
神官と名乗っていた坊主の人族たちが加わってから、ホフマン側は押されている。
撤退しながらの戦いは見ていてよく分かった。
「シュウヤ様――」
「よぅ、こっちの空の魔族は姿を消したぜ。ただ、あの骸骨野郎は……」
ノースリーブの魔女衣装が綺麗なキサラと角が折れているロターゼだ。
ただ、ロターゼは動きを止めて、真上を見ながら警戒を続けている。
ロターゼはいつでも拡散する光線を放つ準備をしていた。
そんな俺たちの真上の右辺の位置には、骸骨の魔術師ハゼスが浮かんでいた。
隣には炎を纏う子供も居る。
先が尖るレイピア状の炎で、俺たちを指していた。
あの子供は、ロターゼの存在が気になるようだ。
尻からドット風のおならを放屁しているからな……。
今、俺たちが乗っているロロディーヌも、何回もロターゼのおならに視線を向けているから、気持ちはよく分かる。
分かりたくない……が、ロロも影響されちゃったし仕方がない。
生理現象だから文句を言ったところでな……。
「シュウヤさん。やっとお話ができる環境が整いましたかな?」
「かな? かな?」
紳士的な挨拶をした直後に、子供の甲高い声が響く。
「りゃんりゃんは、今は元に戻りなさい」
「りゃん――」
りゃんと呼ばれた炎の子供はハゼスの持つ杖の中に取り込まれるように収斂した。
ハゼスの声はどことなく中年のおっさんの雰囲気がある。
そのハゼスだが、頭蓋骨の頭頂部を見せるように深いお辞儀をしていた。
姿が骸骨だが、丁寧な所作といい日本人の感覚に近い。
親近感を覚えてしまう。
頭蓋を上げると、ゆっくりと俺たちの下に降りてくるハゼス。
「シュウヤ様、この骸骨の魔術師は何者ですか?」
「あぁ、名はハゼスさんだ。シキ。通称、コレクターの配下。シキはペルネーテに棲む宵闇の女王の使徒だから、このハゼスさんは宵闇の女王レブラの眷属に連なる存在ということになる」
「魔界の女神様の……これは失礼を」
キサラは魔女槍の孔から放射線状に伸びていたフィラメントを瞬時に仕舞う。
太腿から続く細い足と揃えるように魔女槍を沿えた。
「いえいえ、ところで貴女様は? 先ほど、槍と声を交えた独特な戦いを拝見しておりましたが、かなりの強者と判断。しかし、槍使い様の眷属様では……」
ハゼスの眼窩に宿る魔眼はキサラを見つめる。
キサラはハゼスの鑑定するような視線にも、微笑みを湛えた表情を浮かべて対応していた。
『別に視てもらって構わないですよ。しかし、戦えばどうなるか、お分かりですね?』
と、キサラの黒マスクから覗く蒼い瞳が、そう語ったような気にさせた。
そして、チラッと俺に視線を向けるキサラ。
情報を伝えて大丈夫な方なのですか? と聞かれたような気がした。
だから、俺は無難に頷く。
キサラも同意するように頷いた。
それから、
「……まだ眷属ではないです。わたしの名はキサラ。四天魔女が一人。ダモアヌンの魔女槍を扱う者です」
「四天魔女とは……レアな」
表情の読めないハゼスはそう呟いてから、頷く。
「では、精霊様に、骨の騎士の方以外ですと、眷属の方は下の」
ハゼスは頭蓋骨の顎を下へと傾けながら、そう語る。
俺の<筆頭従者長>のエヴァのことを見ているのだろう。
彼はシキの側に控えていた時、同じ室内に居たエヴァを見ているからな。
そこで、俺はキサラを見ながら、
「そうだよ。キサラはまだ眷属ではない」
「そうですか。しかし、魔女槍……シキ様が興味を抱く代物と判断しましたが……」
ハゼスはカラカラと頭蓋骨の内部から音を鳴らす。
「貴方が、女王レブラに連なる側だとしても、あまり口が軽いと滅しますよ?」
キサラは魔女としての気構えを語るように、俺と初めて会った頃のような感覚で喋り出していた。
「……はは、すみません――では、用件のシキ様の伝言を」
ハゼスは半身を縮ませるような動きを示すと、俺に頭蓋骨を向けた。
「用件とは?」
「はい、では、『シュウヤ様を、樹海の主として正式に宵闇の女王レブラ様は認めたようです。亜神を封じていた場所と道具と土地は大切に……ふふ、リンゴは美味しいですよね? ピューリ水を掛け合わせたリンゴジュースは最高級の味わいなのです。あ、それとですね
怒ってた? 嫉妬か? わからんが、リンゴを知っていたのか?
見ていたのか?
「では、用件は終わりましたので、わたしもこれにて――」
カラカラと音を鳴らしながら、姿をマントと同一化させる骸骨の魔術師。
黒い傘が点々と現れては、離れていった。
あいつ、黒い傘に変身が可能なのか?
「んじゃ、とりあえず、下に戻ってレベッカたちと合流してから撤収といこうか」
「はい、閣下の目に戻ります」
「了解」
「ホフマンと神界勢力の争いは見えなくなりましたからね」
左目に戻ってきたヘルメが小型ヘルメとして、視界の端に現れるのを確認しながら、
「――あぁ、それとキサラ、下の飛行機の残骸を運ぼうかと思うんだが、ロターゼとロロで運ぶのを手伝ってくれるか?」
さすがにあの大きさだとアイテムボックスに入らないだろうしな。
ま、あとで挑戦してみるけど。
「はい、手伝います。ロターゼ」
「おう。任せろよ」
一緒に、湖が近くにある場所に降りていく。
御守様の半透明姿の武者こと、又兵衛の存在の説明をまだしてないが、ま、大丈夫だろう。
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