三百七十八話 新しい仲間&義足と義手作り

 

「わたしはネームス!」


 ネームスは分厚い体を自らの腕で叩く。

 黒光りする鋼と樹のような素材と推測している体が軋んで撓み独特の『和音』を作り出していた。寸胴の鈍い音が、なんか抜け感が強くて面白い。

 続いてけを打ったかのような乾いた高音。

 それらが連続して鳴り響く。

 まさに歌舞伎のようなポーズを取るモガと表裏一体の音楽だった。


「――シジマ街で俺様がとーんときた惚れた相手! ヒミカ・ダンゾウから倣った踊りを披露してやろう!」


 モガが叫ぶ。シジマ街に惚れた相手が居たようだ。

 モガがくるりと舞い踊る度に、附けのような音が鳴り響く。

 ――いい音――ネームスの特技かこれは。

 更に腕や体の一部に生えている植物の枝が重なり合う。

 すると、漣のような音も鳴り響いては、枯れ葉が舞い散る。

 その舞い散る枯れ葉がモガの新しいポーズに彩を加えていった。

 モガの衣装といい、カッコいい。しばし、釘付けとなった。

 ネームスの左肩の上で、先ほどと違う片足立ちのポーズを決めたモガ。

 最後に寸胴太鼓のような連発した音が響き渡り〆のポーズをモガが繰り出そうとした時、ネームスの揺れが大きくなった瞬間――。

 片足立ちだったモガは「ぬあぁ~」と声を上げて落ちていく。

 まさに、飛べない鳥はただのペンギンだった。

 そんな落ちゆくモガだったが、身を回転させながらペンギン立ちで綺麗に着地。

 ネームスが作りだしていた太鼓のような音が同時に鳴り止む。

 そこに風が吹き枯れ葉を飛ばしていく……二人の演目に鳥肌が立った。


「――はは、思わず拍手をしたくなったが、大丈夫か?」


 笑いながらそう聞くと、そのモガは手を覆う翼から羽根を飛ばす勢いで、くるりと回ってから振り返る。


「――おう。で、先ほどの話の続きだが……」


 派手な回転とは一転して、急に畏まるモガ。


「なんだ?」

「シュウヤに命を助けられたうえに家まで用意してもらった。だから、その恩を返したい」

「んなことは」

「――いいから聞いてくれ。俺たちは流離の冒険者。時には同業者とも敵対する。だが、仁義はあるつもりだ。そして、ここで何もしないなんて、それは男のすることじゃねぇ。だから、シュウヤの望みである、このサイデイル村の復興は当然に手伝うとしてだ。ムーの修行にも付き合ってやろう……」


 最後に間が空く。


「どうした?」

「いや、その、なんだ、えっとだな……」


 とモガは視線を泳がせる。

 皇帝ペンギンの双眸だから、少し可愛い。


「なんだ。いまさら、はっきりといえ」

「お、おう。そうだな。よし……言うぞ……」


 モガはネームスを見た。

 ネームスもゆっくりと頷いたような気がしたが、クリスタル瞳の瞼が数回閉じる。

 モガはそのネームスを見て、頷き、俺に視線を寄こしてきた。


「……俺たちもシュウヤたちのパーティに加えてくれないか? 分け前は全部シュウヤの物でいいから」


 ペンギン顔だが、真剣だ。

 モガなりに考えてのことか。

 ま、拒む理由もない。

 冒険者として経験を踏んでいるモガの選択だ。


「いいぞ。迷宮を含めて冒険者ギルドの依頼を受ける時は一緒に組もうか」

「おおぉ、仲間だ、俺たちに仲間ができた!」

「わたしはネームス!!」

「……っ」


 モガは嬉しいのか、俺たちの話をきょろきょろしながら聞いていたムーの頭を撫でていく。

 モコモコと柔らかそうな毛の内側にある小さい肌色の手でムーの髪をぐちゃぐちゃにしていた。


 その撫でられているムーは『やめろや、ペンギン!』というようにモガを睨んでいたが、頭を撫でられて続けている。


 そして、ネームスも喜びを爆発させた。


 巨腕を振り上げては振り下ろすといった不思議ダンスを披露。

 ドシンドシンッと重い音を響かせながら邪界製の壁柵を叩いていった。

 ゆっくりと何回も巨大な拳で叩くので、その叩いた壁が拳型に凹んで、下の杭が地面に深く埋まり訓練場を囲う壁の一部が低くなってしまう。


 あれはあれで、何かのアートのように見えていいかもしれない。


「……ネームス。パーティで迷宮を含めて依頼を挑む際は、慎重に頼むぞ」

「……わた、し、は、ねーむす」


 ネームスは自分の動作が激しくなることを何気に気にしていたのか、

 急に、動きが小さくなった。

 まぁ中身は〝楓〟さんだしな。


「アハハ、あまり知らんポーズでネームスが大人しくなった!」


 モガが大笑い。

 ムーの頭を撫でるのを止めたモガ。

 そのままネームスの足下へと素早く足を滑らせるように移動すると、不思議ポーズのまま動きを止めていたネームスの姿を眺めながら、腹を抱えて笑っていた。


 モガの笑いの壺に入ったらしい。


「それでモガ、イノセントアームズに入るとして、このサイデイル村の幽霊とキストリン爺さんのギルドを通していない依頼もある」

「あそこか……」


 視線を裏山に向けるモガ。

 ヴァライダス蟲宮のような小山だ。

 

「そうだ、家の裏山の穴がどこまで続いているのか、黄金の道という道標があるから迷うことはないと思うが、地下の洞窟を進む旅は長引くかも知れない、鏡も調べてみて、好都合なことを期待してもあそれに問題は地底神だ。聖域を奪った神に挑む……』神殺しがいかなるものなのか』と、いったように、これは並大抵の依頼ではない。非常に危険な依頼というか旅になると思うが……そんな無謀な冒険にもついてくるか?」

「あたぼうよ。命はお前に、いや、イノセントアームズに預けたぜぇ! なぁ、ネームスよ」

「――わたしは、ネームス!!!」

「――ぐあぁ」


 ネームスは黒光りする巨大な鋼腕でモガの小さい腕とハイタッチしようとしたらしいが……。

 モガはネームスの巨大な腕に巻き込まれて吹き飛んでいた。


 訓練場の端の地面に頭が突き刺さっていたモガ。

 ペンギンの足が震えている。

 よかった。吹き飛んだモガは死んでいなかった。


 しかし、二人の熱い冒険者としての矜持を感じられて嬉しい。

 ……新しい仲間だ。


 こりゃ、地下に向かう時は大所帯かもなぁ。


 ハンカイもブダンド族の行方が気になるはず。

 彼の一族が地下へと移動したかどうかは分からないので、まだ何ともいえないが。

 

 ハンカイは地下には来ないで、武者修行を兼ねた東方へ旅立つ可能性もありか。


 ま、時間が合えば誘うかな。



 ◇◇◇◇



 そのあとは、モガ&ネームスと一緒に魔界の八賢師セデルグオ・セイルが製作したか不明の紐の魔法書を見ていった。


 丈夫な魔力を帯びた糸が何重にも絡まり様々な形で結ばれている魔法、或いは魔術の書としか分からなかった。

 魔法書よりも、ムーの方が魔力量が大きいぐらいだからな。

 しかし、魔法書を形成している無数の糸からは質の高い魔力を感じる。


 最初の見た通り、特殊中の特殊な紐や糸としか理解できなかった。

 キサラなら分かるかもしれないので、空の散歩から帰ってくるのを待つか。


 そこから黒猫ロロ軍団が訓練場に戻ってきた。

 同時にモガ&ネームスは訓練場を離れる。


 冒険者活動の件を含めたことを話すと語り、キッシュが居る村役場に向かう。


 その際、重いネームスの足が、樹板の階段ではなく土の斜面部分を踏んで降っていったので、坂下で土砂崩れを起こすように、土の一部が崩落していた。


 あの斜面の土、芝生で固められたらいいんだがな。

 あとで、杭と板で補強しとくか……と、考えながらムーを見る。

 

 ムーは俺の魔槍杖を見ていた。

 俺はそのムーの視線を感じながら魔槍杖を握った状態で、


「……訓練をやるといっても下地が必要だ。その魔法書の紐も使えれば、義手と義足代わりになるかもしれない。しかし、まずはしっかりと基礎運動ができるように、少しムー用に樹木の構造を考えながら義足と義手を俺の<邪王の樹>で作る。いいな?」


 無表情のムーはじっと俺の唇を見つめていた。


「……」

「家の中でやろうか、ここだと寒いだろ?」

「――っ」


 頭を振るムー。

 この訓練場でいいらしい。


 じゃ、ここで作っちゃうか。

 背が小さいムーと視線を合わせるように、地面に両膝を突け、


「――よーし、義足と義手作りに挑戦!」


 ムーを安心させてやろうと、できるだけ笑顔を意識した。


「……っ」


 ムーは恥ずかしそうな表情を浮かべてから小さく頷く。

 俺に魔法書を預けてきた。

 そして、無言のまま万歳をして、貫頭衣を脱ごうとしていたので、服を脱がすのを手伝ってあげた。


「ン、にゃ~」

「ロロは手伝わなくていい」

「にゃお」

「アーレイもだ」


 白黒猫ヒュレミはこっちにこなかった。

 珍しい――と、周囲を確認。すると、すぐに分かった。

 

 さすがは大虎とはいえ猫だったか。


 白黒猫ヒュレミは訓練場のネームスが作り上げた壁の溝に子猫サイズの体を埋めるように香箱スタイルで休んでいた。

 樹木で鍋の型でも作ったら、三匹仲良くして鍋に嵌まるかな?


 そんなスッポリと嵌まる猫鍋姿を想像したら……笑えてきた。


 さて、そんなことよりムーの義手と義足だ。

 ムーは裸だから、早く作ってあげないと風邪を引いてしまう。


 三角錐の突起物に合わせる形で作る。


 <邪王の樹>を意識――。

 三角錐の先端から伸びる紐を、通せる孔は作るとして、軸を数か所作る。

 細かい軸と軸を合わせれば手首の回転も可能だ。


 三角錐の先端から紐が靡いたところで――。


「ンンン、にゃにゃにゃにゃ」


 と、黒猫ロロが小さい声でクラッキングの鳴き声を発し出した。

 あの虹彩が縦になった目は、『あれは獲物かにゃ? 叩いたら怒られちゃうにゃ? 獲物にしたいにゃ』とか考えてそうだ。


「……ロロ、この紐は獲物じゃない。今は遊び道具でもない。ムーに遊んでほしかったら今度にしろ」

「ンンンン」


 黒猫ロロは長い喉声の返事のみ。

 ムーが操る紐が……獲物に見えて仕方がないらしい。


「ムー。ロロも分かっていると思うから、その紐で、はじゃれて遊ばないと思うが……一応は気を付けろ」

「……っ」


 ムーはビクッと体を震わせてから頷く。

 彼女は黒猫ロロが巨大化した姿、神獣として戦う姿を間近で見ているからな。


 その間に、紐の魔術書もムーが生かせるように義手と義足に孔を幾つか作る。

 強度も考えると、そう幾つもあけることはできないな。


 これは皆の家作りの経験が生きているかもしれない。

 木工のスキルは得られていないが、木材作りの経験は力となっている。


 しかし、手術の痕が……可哀想だ……。

 傷痕に骨肉の三角錐の表面には魔法陣が刻まれている。

 ムーの三角錐から伸びた紐と、魔法書の紐との謎繋がり。

 ムーが特別な体を持つからこそ吸血鬼ヴァンパイアが閉じ込めたと、子供の体を弄ったんだと推測はできる……。


「にゃ~」


 クラッキングを止めた黒猫ロロはムーの体を見て、同情したらしい。

 悲しげに鳴いていた。一方、黄黒猫アーレイは俺たちから離れていた。

 壁の溝に嵌まって休んでいる白黒猫ヒュレミの下でゴロニャンコしている。


 しかし、ムーは何をされたんだろう。

 声を失った喋らなくなった原因は、この手術が原因か?

 もしくは、誘拐された時か、家族たちが殺されたトラウマか。

 胸が締め付けられる思いを感じながら、樹木で腕を作り、足を作っていく。


 しかし、血を含めて様々なモノを利用した実験か。

 ヴァルマスク家はこの世界で新しい生物でも造りだそうとしていたのか?


 ホフマンが先行しておこなっているのなら転生者らしい思考ともいえるか。

 新しい生命を作る……それはそれで非常に面白い。

 俺もイモリザ&ツアン&ピュリンという<光邪ノ使徒>を生み出してしまったし。

 

 そして、光魔ルシヴァルは血を求める闇の側でもあるんだからな。

 が、多数の無辜の人々を誘拐して殺した生きたまま素材として利用するのはダメだ。

 無辜ではなくても個人の意思に反することはダメだろう。

 だが、悪には悪の正義には正義の大義があったりするからな。

 そう思ったところで……簡易だが、ムーの義手と義足が完成した。

 こんなもんでいいかな。大きさはムーが成長する度に新しく作ればいいだろう。


 失った片腕と片足の根本にある三角錐の先端と噛み合うように隙間を作った。

 三角錐と凹凸した隙間を埋めるシリコンのようなモノがあればもっと柔軟に動かせるはずだ。


 ミスティならエヴァの新しい足を作ったように金属装備と一体化した凄い義手と義足が作れるだろう。

 が、今は簡易的な物で十分、これでいい。


「……よし。どうだ、歩けるか?」

「――っ」


 新しい義手と義足を得たことが嬉しかったのか微笑むムー。

 息を吐きながら、歩き出した。


 可愛らしくびっこを引く感じだが、一応は歩けている。


 無事な片足だけでも器用に歩いていたからな。

 前にも思ったようにインナーマッスル系が鍛えられているんだろう。

 それか、あの手術の痕があるように……。

 ムーの体には特殊な筋肉組織か、未知のモンスターの素材に因子が埋め込まれている?

 魔法書の紐と連結する体を持つこと自体、普通ではないからな……ムーの将来が少し心配だ。


「……そのままだと風邪をひくぞ、服を着なさい」

「……」


 俺の言葉を聞いたムーは動きを止めた。

 振り向くと、トコトコとした足取りで戻ってくる。

 表情はどことなく明るい。にこやかな表情を浮かべたムー。

 貫頭衣を手に取り、義手腕に袖を通しては、その貫頭衣を着ていった。

 ムーは袖から出ている義手腕の存在を改めて実感しているようだ。


 真新しい義手を何回も持ち上げて、蟹ばさみ型の先端を陽射しに向けている。

 本当に嬉しそうな表情だ。心がほっこりとした。ムーは義手を旋回させている。


「ンン、にゃぁ~~」


 黒猫ロロも楽しく嬉しいらしい。

 ムーが義手を回している傍で、そのムーの周囲を回って駆けながらムーの足に小さい頭を擦るように衝突させている。

 ムーに甘えていた。義手の腕の軸は水車を作った要領が生きている。

 上下にも振れられるように手首の軸も作ったからな。しかし、指はない。

 その代わり槍や武器を扱えるように嵌め込める溝と蟹ばさみのような樹の仕掛けを二つ作った。


「ムー、この紐の魔法書か魔術書を返す」

「……」


 ムーは頷くと、三角錐の先端から伸びている紐を操作し、義手と義足の内部から紐を通して孔から紐を無数に射出させる。

 その射出し宙へ伸びた紐と魔法書を崩しながら伸びている紐の先端が繋がった。

 紐が連結した魔法書は手元には引き寄せない。ムーは頭上に魔法書を浮かせていた。

 しかし、義手と義足は意外にいいできだと思う……ミスティが見たら驚くかもしれないな。

 だが、肝心の槍の指導か……。

 俺がゴルディーバの里で過ごしていた頃、アキレス師匠も小さいレファには、まだちゃんとした武術を指導していなかった。レファは隠れて学んでいたが……今は俺なりに基本を教えるか……と、そこに、


「――シュウヤ様!」

「浮気の現場ってか? キサラ、子供相手とはいえ幸先不安だなァ」

「いちいちムカつくこと言わないでよ!」


 その瞬間、潜水母艦と似ている闇鯨ロターゼ君の運命は決まった。

 キサラから踵落としを真正面から喰らい潜水艦頭を凹ませると、村の右の外に続く崖下へと墜落していく。

 陥没した額から火柱が……ははは、またか。

 あの墜落具合が見事すぎて笑ってしまう。


「キサラ! 素晴らしい踵落としの技です!」

「いえ、ありがとうございます」

「閣下もわたしとの模擬戦の時に似たような種類の蹴り技を何度か見せていましたが、キサラも筋がいい。そして、その格闘の組手から秘術系の魔術まで使いこなす天魔女流の魔人武術、魔界セブドラにも通じる武術は底が知れません!」

「シュウヤ様と似ているだなんて……嬉しい――」


 照れたキサラは宙で身を翻しながら魔女槍の柄に両足を乗せる。

 そのまま風の波に乗るようにサーフィン軌道で下降してきた。

 勢いよく魔女槍を地面に突けながら、華麗に着地するキサラ。

 彼女は地面を蹴り、即座に俺の足下に移動。片膝を突けて頭を下げてきた。


「シュウヤ様、空を散歩しながら周囲の警戒を続けていました。地上ではハイグリアちゃんとダオン殿に統率された古代狼族の一隊が警邏を続けています。この村は安全です。しかし、沸騎士殿から報告にもありましたが、オークの奇兵剣士らしき存在とオークの部隊など、様々なモンスターを視認しました」


 奇兵剣士とは、沸騎士が手こずったオークたちだな。

 名はトク・グル・カイバチだったか。鬼髑髏使いが率いる小隊メンバーと話していた。

 オークたちもオークの文明が地上と地下にある。

 ペルヘカラインの大回廊を探索した時に遭遇したオークたちはそんなに強くはなかったが、中には優れた者たちも当然、無数にいることだろう。その鬼髑髏という名だが……どっかで聞いたような。

 

 後で村の正門を作り直し、暇になったら、そのオーク小隊たちを追ってみるのもいいかもしれない。

 ハイグリアも手勢を引き連れてキッシュの仕事を手伝ってくれているようだ。

 そのハイグリアがキッシュと会合している時の会話を思い出す。


『我々、古代狼族たちの戦いが劣勢? 笑わせるな。毎回毎回、侵略を受けては奪い返すのが日常だ。このダオンとリョクラインが率いた中隊たちの動きを見ても感じないか? あの樹海の中を、わたしの僅かな匂いを辿って追ってきたんだぞ。そのことからしても個々の実力は分かるだろう。そして、故郷にはザクセルが討たれたとはいえ他のアゼラヌ、オウリア、ビドルヌといった狼将たちが率いる支族たちが居る。シュウヤには負けるが彼らは強い。特にダオンの祖父ビドルヌは、神狼の加護を持つわたしの上をゆく尋常ではない強さを持つ。死蝶人と争い生きて帰った【銀皮の狼男伝説】を地でいく古の狼将……そのビドルヌは旧神ゴ・ラードの蜻蛉と使徒たちの襲撃のすべてを潰している。現在も【幽刻の谷】に手前に続く樹海の縄張りを守り続けている。というか、逆に【幽刻の谷】へ進出しているぐらいだ』


 と語っていた。

 キッシュは凄く嬉しそうな表情を浮かべていたっけ。

 安全保障を考えれば当然のことだ。人族の勢力以外にも仲間となりそうな強い勢力が増えたことは喜ばしい。

 と考えたところで、キサラに向けて、


「様々か、いつもありがとうな」

「……はい」


 キサラはうっとりとした表情を浮かべながらの、短い返事。

 蒼い双眸ごと抱きしめるように、笑顔を意識。

 キサラの細い白眉は、いつ見ても綺麗だ。

 と、思いながらダモアヌンの魔槍が視界に入った。

 髑髏穂先は地面に埋まり、ナックルガードと柄が上下に激しく揺れてはフィラメントが旗印のように靡いている。


 あのダモアヌンの魔槍を用いたキサラの姿を思い浮かべる。犀湖での八星白陰剣法を巡る戦い。

 大砂漠での数々の戦いを天女のように駆け抜けていたんだろう。

 ジャンヌ・ダルクのように目立つ存在だったのかもしれない。


 今は片目を失っている血骨仙女たちや武人、魔人との衝突は凄まじい戦いだったはず。

 キサラも行方が分からないと語っていた砂漠仙曼槍の存在も気になる。すると、ぷゆゆの声が。


「ぷゆっ……ぷゆゆ、ぷゆぅ~」


 ぷゆゆが声を震わせている。

 ヘルメの胸元でぬいぐるみのように抱きかかえられた小熊太郎ことぷゆゆ。


 キサラの蹴りの威力を見て恐怖を感じたらしい。


『次の犠牲者は、わたし、ぷゆか? ぷゆゆぅぅ』 とか思っていそうだ。


 あの踵落としは喰らいたくないだろう。

 つぶらな瞳をぷるぷると震わせては、真っ白な歯を噛み合わせて、がちがちと衝突させている。


 巨大な闇鯨のロターゼが沈んでいく姿は、凄まじいからな。

 動揺するのは分かる。

 何しろ小型恐竜の変な魔法をキサラに飛ばしていたし。


 キサラはその時のことを未だに気にしているらしく、時々、片乳を押さえているし。


 ぷゆゆは毛むくじゃらの毛を震わせる。

 ヘルメの神秘な乳と乳の柔らかい谷間の中へと頭部を嵌め込んでいる。


 ヘルメは気にしていないようだが、ぷゆゆの体毛はけむくじゃらだ、そんな毛が皮膚にあたれば、くすぐったいと思うが、ヘルメの皮膚は液体にも変化可能だから感覚が少し異なるか。


 しかし、ヘルメのおっぱいがぷゆゆの頭を挟む構図……。

 ぷゆゆ太郎め、おっぱい策士か!


 そんなぷゆゆを赤ちゃんでも胸で抱くような母性を見せるヘルメは、


「ぷゆゆちゃんはお胸が気にいったようですね。でも、そこだとぴゅっぴゅが当てにくいのですが……」


 と語る。女神のような常闇の水精霊ヘルメだ。

 そのヘルメが俺たちのところに降りてくる。


「……」


 ムーは真新しい義手と義足を自慢するようだ。義手と義足の孔という孔から紐が真上に伸びていた。

 そのムーから紐と魔法書の紐が繋がった状態を維持しながら一歩、二歩と義足と無傷の片足を使い歩いていく。

 まだ、ぎこちない歩きだ。しかし、これからがんばって生きていくんだ。という姿勢を感じさせる。そんなムーの横には、なぜかドヤ顔を浮かべている黒猫ロロもいた。

 黒猫ロロは触手をムーの膝の裏側に回して、ムーが転ばないように支えようとしていた。

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