三百十六話 幕間チェリ
◇◆◇◆
「いらっしゃいませ」
「チェリ、レウビの魚を頼む」
「はーい♪」
ここの酒場の名前はレウビ。
城塞都市ヘカトレイルの通りにある狭いカウンターが付いた小さい酒場だ。
近所からは小魚料理がうまいと評判で人気の店。
そして、ここで働く女性酌婦が居た。
茶色のセミロングでウェーブ掛かった髪形。
頬にチャーミングなソバカスがある。
彼女の名はチェリ、まだシュウヤと出会う前だ。
大半の客たちは、その愛嬌あるチェリと話がしたくて通う。
今もゴブレットを片手に酒を飲んでいた客が、小魚の摘まみを注文していた。
注文通り、焼けた魚を乗せた皿を運び忙しく働くチェリ。
しかし、それはあくまで表向き。
彼女の正体は、サーマリア王国公爵筋に関係する【ロゼンの戒】の末端員でもあった。
この末端の仕事をしていることは、ヘカトレイルで友となったエルフのキッシュにも秘密にしている。
酌婦としての仕事を終えたチェリは夜半過ぎに動く。
月に数度、報告の為に通っている貴族街の通りへと向かっていた。
目的の場所は、高級なシュハーレルの雑貨店の裏側にある。
無事に裏側の扉に到着。
彼女は暗号通りに扉を叩いていた。
すると、裏の扉がゆっくりと開く。
彼女は開いた扉の先に足を踏み入れていた。
そこは、机がなく壁に旗が一枚掛かっただけの殺風景とした部屋。
だが、ロゼンの戒の末端員たちが集結し整列しているので重苦しい空気が漂っていた。
そして、盗賊ギルド員の一人一人が委細報告を終えて、最後のチェリの報告となる。
「依然として鬼聞の組織網が強く……侯爵回りの情報は出回らないわ。冒険者ギルドに顔を出す機会が最近増えたと聞くぐらい」
と、チェリも上司に報告を終えた。
「……ご苦労。レフテンの姫誘拐に関する続報だ。政敵である生意気な侯爵のヒュアトスが持つ【暗部の右手】が関わった。だが、この対外政策の戦略は正解である。ましてはハイム川を挟んで隣接している多くの領土は公爵様の物だからな。ヒュアトスの戦略に乗るしかない現状は歯がゆいが、今は乗る。だから、ワザと誘拐されたことだけを市井に流せ。レフテンの混乱をこのヘカトレイルでも広げてオセベリアの興味をレフテンへ向かわせるのだ。今回はそれだけでいい」
末端員たちは皆、上司の言葉に頷く。チェリも頷いていた。
「では、解散。報酬はいつも通り、そこのレンショウから受け取れ」
レンショウと呼ばれたガスマスクのような魔道具を装着している人物が陰からぬっと現れると、手に持っていた扇子型の武器を袖の中に収納させる。
そして、反対の手から銀貨入りの袋を出現させて、末端員に些細な報酬を手渡していた。
◇◆◇◆
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