二百九十六話 姉妹の前哨戦

 ◇◆◇◆


 ここはペルネーテのある通り道。

 ノクターンが静かに流れる中、次々とローブに身を包んだ者たちが通りから、路地から、屋根上から、現れ始める。


 彼ら、彼女らはローブの頭巾を取り顔を晒していく。

 各自が履く軍靴を揃えるように暗い幕が下ろされている店の前に集結していた。皆、長耳の特徴ある顔立ちばかりだ。血濡れた長耳を持つ者も存在した。

 そう、この者たちは、このペルネーテに潜入して数日が経つ白鯨の血長耳の中核メンバーである。


 その血長耳たちの中から銀色と緑色のメッシュが綺麗な髪色を持つ小柄なエルフが前に出ると、虫も殺せないような顔を浮かべながら暗号通りに……数回、木製の扉を規則正しく叩いていく。


 叩いた直後、


「マースウからの定時連絡か?」


 閉まっている扉の奥から声が響く。


「そうネ、女たちは元気よ」

「了解、今開ける」


 と、帝国工作員の定時連絡だと思い込んだ目が黒い男が、扉を開けた瞬間、その黒い目にレイピアの細剣が突き刺さった。


「アヒャ」


 目から頭を細剣により貫かれた中年男は、奇声をあげながら扉の背後に倒れていく。

 扉の前でボーイッシュな髪を揺らした小柄のエルフは満足気な表情を浮かべつつ血濡れた細剣を手前に引いてから下段に払う。

 足元に血の線が生まれた。そして、彼女の長耳には、今の中年男以外の血を浴びた証拠の返り血がべっとりと付着している。


 まさに血長耳となった耳を持つ彼女の名はクリドスス。

 血長耳の幹部だ。


「――これで最後かな?」

「はい。フロング商会、中々の隠蔽技術でしたね」

「うん、隠れるのだけネ、大騎士レムロナの追跡も通用しなかったようだし」


 血長耳の隊員へ偉そうに語るボーイッシュなクリドスス。


「お前が言うな。エセル界で手に入れたモノを使って、が、見つけたんだろうが」

「お前もな? 馬鹿グッチ」

「なんだと! 阿呆ロッグ」


 兄弟のエルフ。血長耳の幹部の二人だ。

 彼らは荒々しい性格を持つが、レザライサが彼らをエセル界へ連れていくほどの実力者。

 腰と背中に備えた斧と剣を独自に使う。

 そして、グッチと呼ばれた髭を生やしたエルフの右手には、エセル界で手に入れた魔道具が握られていた。その魔道具から小さい藍色の風が排出されている。


「はいはい、ツイン兄弟さんも頑張ったネ。ですが、もともとはキューレルが齎してくれた報告のお陰です」

「クリドスス、ツイン、後でファルス王子に連絡を取れ。このペルネーテに巣食う帝国のゴミ共は消去したとな」

「はーい。でも、総長、こんな帝国の奴らに、後爪のベリ、魔笛のイラボエの隊長たちが、やられちゃったとは、にわかに信じられませんネ」


 いつもの陽気なクリドススが語る言葉ではない。

 それほどに隊長クラスが殺される出来事は血長耳にとって打撃であった。


 総長と呼ばれた肩幅が大きいエルフ女は顔を歪めている。

 彼女の名はレザライサ。

 血長耳の盟主。総長である。


「あぁ、第一王子に力を貸す手前とはいえ、アドリアンヌの忠告通りとなった。わたしのミスだろう。もっと隊長クラスを側につけておくべきだったか?」


 そう反省の弁を述べる盟主レザライサの声に反応したのはクリドススではない。


「総長、あのキューレルが片腕を失うほどの手練れの集団が相手です。他にも戦死者が出ていた可能性もありますし、これで良かったんですよ」


 軍曹と呼ばれる男エルフ。名はメリチェグだった。


「……帝国か」


 同胞、しかも、古くから生き延びていた幹部メンバーを失ったレザライサの怒りは凄まじい。


「アドリアンヌは情報を寄越していたとはいえ、帝国側を本拠にしている闇ギルドだ。裏で帝国に王国の情報を流しているはず、得体の知れない女にしてやられた可能性もある……」

「総長、それは考えすぎでは?」

「裏を勘ぐりたくもなろう……」


 レザライサの表情は歪む。


 この顔は暴れたくて仕方がない顔だ。

 と、瞬時に総長の気持ちを察するクリドスス。


 クリドススは真面目な顔を作り、口を動かす。


「アドリアンヌは地下オークションに熱心です。そして、オセベリアとラドフォードの戦争に反対だったはず。帝国が有利になりペルネーテが荒らされてオークションの開催が延期されることの方が嫌がるかと」


 彼女なりにレザライサの気持ちをなだめようとした言葉だった。


「熱心だからこそかもしれん……が、確証がない以上、仕方がない。ベリとイラボエの仇を優先する。蘇りドワーフよりも罪深い」

「仇、その王国を翻弄し続けていた黒髪たちを潰すのですね」

「……帝国との戦争はまだまだ続く。だから、ゆっくりとオークションの後にから狙うことになるだろう」

「畏まりました」


 軍曹メリチェグが素早く敬礼を行なう。


「「はい」」

「「了解」」


 クリドスス、ツイン兄弟、眼帯をしているエルフ、顔の下半分を布で隠すエルフ、他、血長耳の幹部を含めた兵士たちが揃って敬礼を行なった。

 この動きから見ても、この血長耳が裏の戦争請負人と噂される所以の一つだろう。 


「……しかし、この隠蔽技術が異常に優れた工作員を潰せたのは片腕のみとなったキューレルが持ち帰った貴重な情報があるからこそ」

「その件だが、軍曹、キューレルに魔腕の移植をすることができるというマコトとかいう錬金術師の確保はできているか?」

「それが、その錬金術師はララーブイン山に向かってから消息を絶ちました……」

「つかえんな……」


 レザライサはまた眉間に皺を作り、自身の顔にある傷痕を手で触りだす。


「……そのキューレルですが、彼の命を救った槍使いに大きな借りができてしまいました」

「それは月の残骸に借りを作ったのと同じ」

「総長が前々から、【月の残骸】に手を出すなと言われていたことが布石になりましたネ」


 クリドススとメリチェグは語る。


「槍使いの強さを事前に知っていたことが大きいだろう。用心しておいて正解だった」

「はい、槍使いと黒猫……彼の部下と思われるメンバーたちも帝国兵を薙ぎ倒していたそうですから……」


 クリドススは過去にシュウヤと遭遇したことを思い出していた。

 あの時、ワタシがもっと彼に近付いて信用を得ていれば……と、クリドススは滅多に後悔をしない女だが、後悔していた。


「槍使いにメンバーが救われたのは事実だ。そしてその実力が嘘ではなく本物以上だと証明された。キューレルが倒されるほどの強さを持った者など、そうはいないからな……」


 レザライサは槍使いのことを聞いて、初めて機嫌を良くした。

 表情が明るくなっている。

 槍使いは男でありこの辺では平たい顔で珍しい部類だが、整った顔を持つ人物。

 男勝りな総長も女なのは変わりません。

 これは……もしかすると、ワタシより総長の方が、可能性は高いのではないかと、クリドススは勝手に邪推し思案を続けていく。


 そんなクリドススのふざけた思案は、長年一緒に戦場を渡り歩いたレザライサにも分からない。

 そのまま白鯨の血長耳の総長レザライサは、


「軍曹――人員は配置済みか?」


 額に傷があるメリチェグに聞く。


「はい、場所は貴族街とカザネから連絡を受けております」

「そこへ向かう」



 ◇◆◇◆



 俺たちはフランを救出してから自宅に戻り何事もなく過ごしていた。


 千年植物の音楽が流れる朴訥な雰囲気の中庭だ。

 ポポブムと黒猫ロロは寝ている。

 アーレイとヒュレミも側で猫の姿で寝ていた。


 寝顔が可愛い。


 ヘルメは千年植物の側に居なかった。

 ……彼女は中庭に生えた二つある内の右の樹木の天辺の上に器用に立っている。


 武術街、ペルネーテを眺めるように遠くを眺めていた。

 そして、両手から小雨を降らせるように水飛沫を中庭へ向けて放出すると、空から中庭にかけて綺麗で巨大な虹を作り出していく。


 その精霊の不可思議な行動を見ていた使用人たちは、各自、膝を地面に突けてお祈りのポーズをヘルメに向けていた。

 ……そのうちにマジでヘルメの聖典ができるかもしれない。


 俺はそんな中庭でいつものように槍の訓練をしていた。

 足を交差してから二槍を持った状態で側転機動を行う『合わせ羽根・改』の練習を重ねていく。


 ステップを踏みながら、肩に神槍を預けて体勢をワザと崩す。

 石畳の向こうに槍圏内にいる敵を想像しながら肩の神槍を下方へ伸ばし握り手をずらして、時間差トリックを作る動作を繰り出す。

 二槍流の独自のスタイルを模索してゆく。


 ――タケバヤシ戦は深く脳髄に刻まれたはず。

 <天賦の魔才>の大本、エクストラスキル<脳魔脊髄革命>の神経網にな。

 第一、第二だけではない臨界期を無限に引き起こす。

 タケバヤシは<天賦の身>と言ってたが、俺のスキルと関係はあるんだろうか? 


 微妙に異なるスキルなんだろうとは、思うけど。

 そんな思考を重ねながら、一通りの武術訓練を行っていった。


 そろそろ次の訓練かな。

 と、ヘルメが石畳の上に着地するのを視界に捉えながら、両手から魔槍杖と神槍を消す。


「――次は斧だ」


 アイテムボックスから最近練習しているトフィンガの鳴き斧を取り出す。

 霧の蜃気楼フォグミラージュの指輪も取り出して指に嵌めた。


「閣下、お相手しましょうか」

「いいけど、仙魔術とトフィンガの鳴き斧を使うぞ?」

「わたしが噛まれた幻影ちゃんと閣下の隠形おんぎょうに生かせる霧の指輪ですね。分かりました。わたしも半身のみですが霧を出せますので!」


 というと、ヘルメの下半身が霧状に消えて上半身のみとなった。

 素晴らしい巨乳は揺れている。しかし、下半身のみが霧に変化する意味があるのか分からない。


「よし、掛かってこい」


 戦闘状態から仙魔術を意識する訓練だ。


「はいっ」


 ヘルメは両手を氷剣に変えると、剣突を伸ばしてきた。

 下半身が霧の効果でいつもより速度が上がっている?

 素早いヘルメの剣突に少し面食らいながらも、一歩、二歩と後退。


「これは霧の効果です!」

「そうみたいだな――」


 トフィンガの鳴き斧の効果を発生させるように左手の斧をヘルメの胴へ向けるが、彼女は左手の氷剣で緑の斧刃を弾いてきた。

 それを見越して、中段足刀をヘルメの霧と胴体の境い目に喰らわせようと向かわせる――蹴りは防がれることを想定し、右手の斧を肩口へ振り下げることを意識。

 ところが、ヘルメの霧が俺の蹴り足に絡み付いてきた。

 霧に足を取られてしまい、バランスを大きく崩す。


「マジか――」


 片手に握ったトフィンガの鳴き斧を石畳に落としながら、片手で身体を支えるが、そこにヘルメの氷剣が迫る。


「ふふ――」

「――痛っ」


 胴体と防ごうとした腕が掌から斬られた。

 ハルホンクにより胴体を斬ろうとした氷剣は弾かれるが、半袖だった腕先をひさびさに斬られる。斬られた掌の一部に付いていた第六の指は黄金芋虫イモリザの姿になると、くねくねと移動しながら千年植物の方へ向かう。


 斬られていない片手に握るトフィンガの斧を構えながら距離を取った直後、ヘルメが氷礫を繰り出してくる。

 急ぎ、胸前に迫った氷礫を左手のトフィンガで往なした。

 だが、礫の着弾に合わせたヘルメが氷剣を振り下げてきた。


「組手を使わせるとは、さすがは精霊だ――」


 ヘルメを褒めながら、斜めから来る氷剣をトフィンガの緑斧刃で受け流した直後、逆に魔脚でヘルメとの間合いを詰めていた。


 そのまま右手の拳を彼女の肩、胸上に連続してぶち当てる。


「きゃ――」


 精霊ヘルメは素早い連打にバランスを崩す。

 小さい悲鳴をあげて後退。

 その瞬間、仙魔術を意識。

 魔力を大きく消費すると同時に濃霧を周囲へ発生させた。


 石畳の上に意識した小さい霧空間を作り出す。 

 俺だけでなくヘルメも霧に包まれて普通の視界から姿を消した。

 そのタイミングで指に嵌めている霧の蜃気楼フォグミラージュを使用。

 分身を作り出すと同時に<隠身ハイド>を発動させた。


 俺は魔力を維持した分身体を残して霧の中へ少し後退。


「……フフ、気持ちイイ」


 俺の霧を浴びたヘルメは訓練を忘れて嬉しそうに踊りだしてしまった。

 魔察眼でその踊るヘルメの姿を捉えながら、


「訓練を続けるぞ」

「はい。閣下が二人、魔素もそっくりです。これは敵も混乱しますね」

「魔力に気を配ったからな――」


 分身体に攻撃モーションを取らせながら、俺本体もヘルメに近付く。

 ヘルメは一対の氷剣で俺の幻影と対峙した瞬間、映像がぶれるように俺の幻影が消失。

 そして、幻影の背後に居た俺がヘルメの胴体へ向けてトフィンガの鳴き斧を振り抜いていた。


「――きゃ」


 トフィンガの斧刃を胴体に喰らったヘルメは水飛沫を発生させながら石畳の上に転がった。


「参りましたぁ――」


 ヘルメは軽快な口調で話すと、身体を修復しながらブレイクダンスを披露して立ち上がっていた。


「身体は大丈夫か? 魔力が要るなら左目に戻る?」

「嬉しいです。でも、今は大丈夫です」

「そっか。それじゃ、俺はまだ訓練を続けるから」

「はい、わたしは休憩してから千年ちゃんに水をあげてきます……あ、イモちゃんが千年ちゃんの葉を食べています!」


 ヘルメはお気に入りの千年植物が喰われるようすを見て焦る。

 急ぎ霧から脱して、千年植物を含む植物たちが並ぶテラスへ向かった。

 俺は落ちていたトフィンガの鳴き斧を拾い両手に持ち直してから、二斧で構える。


 斧といえば、ハンカイと、紅虎の嵐のブッチを思い出す。


 そこに、


「シュウヤ! 霧があるがそこに居るんだろう?」

「やはり訓練をしていた」

「槍狂いな英雄だからな!」


 レムロナとフランが突然来訪した。

 彼女たちは大門を潜ると、そんなことを語りながら走り寄ってくる。


「霧があろうと、わたしの第三の目には効かない」

「わたしの左腕も見えている」


 そんなことを語りながら俺に近寄ると腕を掴む彼女たち。

 両脇を押さえられて石畳の上を引きずるように、強引に大門前へ運ばれていく。


「強引だな」

「いいから、こい」

「そうだぞ」


 美女だから嬉しいけど。


 黒猫ロロは珍しく側に寄ってこなかった。

 ミスティの工房の屋根上でまどろんでいた黒猫ロロ

 むくっと顔をあげて、大門付近に居る俺たちの様子を目を細めながら見ていたが、何事もなく頭を下げて眠っていく。


 そして眷属たちは丁度、外に出かけていた。血獣隊も五層で二つの塔に向かい日帰り予定の大魔石狩りを行っている。

 もうじき帰ってくる頃だと考えながらレムロナとフランに連れられて屋敷の外へ出ることになった。


「少しまってくれ、この斧を仕舞う」

「わかった」

「見たことのない武器も使うのだな」


 フランの言葉に頷きながらアイテムボックスにトフィンガの鳴き斧を仕舞う。

 そのまま通りに出ると、顎鬚が地面に垂れている剣術家らしい人に睨まれたり、お手玉のように牙が生えた球体を回しているエルフとすれ違ったり、女ドワーフに後をつけられたりしながら、武術街の通りから脱していた。


 第二の円卓通りに進出。

 闘技場やサイオンの店の看板を見ながら、多種多様な魔獣が歩いている通りに出た。


「……シュウヤ、今日は本格的な礼の前の前哨戦だと思ってくれ」

「前哨戦……」

「当たり前だろう。わたしと姉は英雄に命を救われたのだからな」


 と、左右の腕を組まれた状態を維持されて、通りの端を歩いていく。

 彼女たちのおっぱいの大きさは微妙に異なる……。

 フランの方が少し大きい。


「戦争はどうなった?」

「ガルキエフが奮闘して一時的な勝利を収めた」

「おお」


 レムロナとフランから詳細を聞いていく。

 ガルキエフの一隊が敵の陣形を崩す切っ掛けを作り大活躍。更に、俺が砦を確保したことにより、オセベリア側の大攻勢が始まり押し返していくが、帝国も竜騎士隊を用意し他の黒髪隊が出てきて拮抗。

 そこに、背後に控えていた特陸戦旅団、戦鋼鬼騎師団が回り込んでいた王太子率いる竜魔騎兵団と激突。


 現在も予断を許さない状況なのだ。

 と、話を聞いていると、自然と戦場の光景が目に浮かんできた。

 ガルキエフは頑張っている。

 帰ってきたら黒猫ロロに会わせてあげよう。


「これからまた戦略会議があるのだ」

「他にも、ヘカトレイルから侯爵の使いも来訪予定」

「フランの言う通りまだまだ予定がある。今は詰めの協議が重なった合間なのだ」


 視線を合わせた姉妹。


「だから、ストレス発散もある?」

「うむ」


 俺を誘ったと二人は嬉しそうに語る。


「それなら良かった、フランの命――」


 喋りの途中、隣に居たフランから唇を奪われた。


 そして、路地裏に引っ張られる。

 こんな奇襲攻撃なら大歓迎だ。と、喜びながら、柔らかい唇の感触を楽しむ。

 彼女の背中に手を回して抱きしめていった。


 暫く楽しんでからフランの身体を離す。


「……ふふ、英雄殿、礼の一つだ」

「フラン、不意打ちとはずるい、次は――」


 レムロナが爪先立ちをしてから軽く跳躍。俺に抱きついてくる。

 そのまま何回も、頬に唇を触れさせてきた。


「……わたしは身長が低いから、長くできない――」

「こうすればいいんだろ?」


 レムロナを支えてあげて、小柄な彼女を持ち上げてから、ちゃんと、小さい唇を奪う。 

 キスをして顔を離すと、レムロナは笑みを浮かべていた。


 針でつついたような笑窪が可愛らしい。

 そんな調子で二人から熱いお礼の濃厚なキス祭りをプレゼントされる。


「ふふ、唇がふやけてしまいそう」

「レムロナのは小さいからな、つい――」


 レムロナと会話をしていると、また、フランから熱烈なキスを受けた。

 唇から唾を引いたキス終わりに、


「――姉さんには負けない」

「フランの上唇は感触がいい。優しくキスしながら激しいキスに移行できる」

「わたしのじゃ不満か?」


 そんな天国のような路地裏の一時……は、すぐに終わった。

 彼女たちに手を引っ張られて紅茶の美味しい店に案内された。

 高級軍人が利用する専門の王国御用達の店らしく、柔らかいラーメの肉、豆を合わせた色々と美味しい料理をご馳走になる。

 個室で食事と談話をした後、俺は両手を握られて、彼女たちの胸にその手を運ばれた。

 そのまま「この鼓動が聞こえるか?」「シュウヤ……」と、潤んだ瞳のご両人から、本格的な礼はこれからなんだからな。と、最後に念を押すように二人は述べると、頷き合い、手を離した。


「今日はここまでだ」

「またねシュウヤ、ふふ」


 姉妹は笑みを見せて食事の席を立つ。

 残り香を漂わせながら個室の席を離れて店の出入り口へ歩いていく。

 彼女たちが互いに残念そうな顔を浮かべているのが、見えていた。


 彼女たちの仕事で忙しい合間か。だが、その合間に感謝だな。

 愛情は嬉しかった。しかし、その日は少しだけ欲求不満になった。

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