二百八十一話 狂眼トグマとの激闘

 現れた魔族……。

 四つの眼、顎が二つに割れている。


 ゆっくりと歩いてくる。

 その間に鋼の柄巻きをアイテムボックスから取り腰に差す。


 その魔族へ視線を向ける。


 格好は、漆を基調とした胸甲がメインにラメ革が繋ぎに使用されている渋い戦闘防護服。

 その表面が血塗れだった。

 返り血とは違う朱色の細かなベルトが服のあちこちに備わり魔力伴う鋲らしきモノも装飾と共に打ち込まれてある。

 あれはルリゼゼと似たような防具か。

 ということは……腕の流線系の篭手にある穴は、飛び道具?


 当然、伝説レジェンド級か、神話ミソロジー級だろう。

 そんな防具を備えた腕は当然、四つの腕だ。


 左上腕の手に持っている剣は幅広で刀身が青い。

 一際長い右上腕の手は柄巻きから伸びている紐で縛り剣を離さないように工夫してある。

 その剣身は緑色で波紋が綺麗だ。


 一方で、脇下にある両下腕は普通の長さ。

 一対の銀色の装飾が綺麗なククリのような剣を持っている。


『……閣下、顎に小さい尻があります……』


 ヘルメはやはりそこに注目しちゃうよな。


 俺は長い右腕の方が気になる……。

 近接の剣術を扱う上でのアドバンテージ。

 リーチは武器だからな。


「……あァァ、いやぁ……」

「あいつです、あの魔族が……」


 ムクは地べたに両膝をつけて、失禁している。

 そのムクを抱えて、守ろうとする母。


 不自然に動きを止めた魔族に話し掛けるか。


「それで魔族さん、この子供と母を殺す気なんですか?」


 俺の言葉に魔族は品の悪い笑いを浮かべる。


「……当たり前だろう。二つ目のお前もだ。魔素、魂、その全てが、剣の糧となる――」


 瞬間的な加速――!?

 気付いたら間合いを詰められていた。

 前傾姿勢から左上腕の手に握る幅広の青剣で突いてくる。


 剣の<刺突>?


 頭部を横に反らすが、頬肉を抉られた。

 疾風迅雷を思わせる剣突から風を感じて、前髪が揺れる。

 初撃を避けたが、すぐに緑の残光が目に残るほどの疾さの一閃が俺の左脇腹に迫った。

 急ぎ魔槍杖を斜め前に持ち上げ受けに回る。

 緑刃と魔槍杖が衝突し、硬質な音と緑の火花が散った。


 リーチがある右上腕を生かした斬り払い……。

 まるで鞭を受けるような感覚だ。

 だが、追の手は出させない。


 俺は全身に魔闘術を纏う。

 緑の一閃を防いだ魔槍杖を左手にさっと持ち替える。

 その持ち替えた左手で、あの顎へショートアッパーを放つように魔槍杖の下部を振り上げた。


 狙いは二つに割れた顎。

 特徴的なワイルドな顎を潰そうと竜魔石で狙う――。

 

 が、魔族は顎を引っ込めるように仰け反り竜魔石を避けてくる。

 それを見越し、左中段前蹴りを、魔族の腹へ喰らわせようと狙った。


 しかし、左下腕に握られた銀ククリ剣の剣腹で、俺の前蹴りが弾かれる。

 アーゼンのブーツ裏に、その剣の感触を得たところで、互いに間合いを取った。


「……何だお前は! 二つ目と二の腕だけで、俺の四剣に対応だと……」

「俺は槍使い。名はシュウヤ……貴方の名は?」

「……狂眼トグマ」


 聞いたことある。


「狂眼トグマか。動きが速くて驚きだ。ここは邪界だが……本当に地上といい世界は広大だ……」


 そう……本当に。

 そして、相手が何であれ、その武術は尊敬に値する。


 風槍流のアキレス師匠仕込みのスタイルでいく。

 前方に伸ばした左足で地面に小円を描きながら体勢を半身へと移行……。


 右手に持ち替えた魔槍杖を胸前で捻り回してから背中側へ回す。


 左の掌を相手へ差し向けてから、その掌を返し、数本の指先を、手前に動かし――相手を誘う。


「……こいよ、四眼の狂眼トグマ」


 しかし、トグマは誘いに乗ってこない。


「……二つ目のくせに、その魔力纏いの質に“槍使い”か……いつぞやの魔人武王と遭遇したことを思い出す……」

「魔人武王? 前にも聞いたことがあるな」


 その問いを耳にしたトグマは、四つ眼で俺を射抜くような凄みを見せる。


「……二つ目、お前、魔族なのか?」

「違う、ルシヴァルという種族だ。人族、魔族の血が流れているとも言えるかな。で、魔人武王とは?」

「……」


 狂眼は、ただの渾名で……意外にトグマは冷静なのか?

 最初の狂った印象とは様変わりだ……。


 彼は俺の瞳を見ると……。

 四つの赤みを帯びた瞳孔を散大させている。

 途中で、気を持ち直すように頭を左右へ振ってから、俺の魔力操作の隙を窺うように見つめてきた。


 横裂けたような口を動かしていく。

 黄ばんだ歯牙が鋭そう。


「……魔人武王ガンジス、四槍を使い魔界の数多ある戦場で活躍した魔族。嘗ての魔皇と肩を並べる強さを持っていたと云われているが……俺がこの世界に飛ばされる数千年前に、パッタリと姿を消した」

「姿を消した……死んだのか?」

「さぁな、俺も参加していた魔界大戦で命を散らしたのか、どこぞの魔界騎士に倒されたのか……魔物に食われたか、魔界の神に挑戦して消滅したのかもしれない」


 俺が持つ神槍ガンジスを使っていた魔人武王。

 名前からして強そうだ。


「神に挑戦か。そんな偉大そうな槍使いと比べられるとは光栄だ」

「焚きついた顔を、調子に乗るな――」


 瞬間的に間合いを潰してくる四剣使いの狂眼トグマ。

 あの魔力が溜まった足、魔闘術だけじゃない。


 特別な能力だ。


 彼はそれぞれ間合いの違う腕を生かすように剣突を、急所へ伸ばしてくる。


 俺は一歩退きながら、魔闘術を維持した状態で<血液加速>を行い身体を急加速させた。

 血の残滓を宙に残しながら、四剣を扱う魔族の迅速な剣突の舞いを避けていく。


 ――四つの剣条は、ルリゼゼを思い出す。


 彼女との戦闘経験は確実に俺の中で生きている。

 トグマが華麗に扱う四つの魔剣の切っ先を、紙一重だが、身体に触れさせずに避けていくことができた。


 銀魔剣の表面に施された象牙細工のような意匠が見える。


「――槍使い。その加速術、血を用いている? もしや、ルシヴァルとは吸血鬼系なのか?」

「そうだよ」


 素直に応じてやった。


「ルグナドかぁぁぁ!」


 ルグナドに恨みでもあるのか、激しやすい性格なのか、妖気のような魔力を全身から放出させる狂眼トグマ。

 四つの眼が琥珀色に光る。四剣の速度も増してきた。


 何かスキルを発動させたようだ。


 狂眼トグマは四眼の内の一眼で、足元を見て下段攻撃を行なうフェイントを見せてから爆発的な速度で前進。


 風を帯びる剣突を胸元に繰り出してくる。


 俺は右足の爪先を軸に半身を捻り、自らの身体ごと突進してくるトグマの剣突を避けた。

 だが、そのトグマは背後にあった樹木を足場に利用して、素早く反転。

 速度を上げて闘牛士の如く躱した俺に対して剣突を繰り出してくる。

 それを魔槍杖の下部で弾くが、トグマは横にあった樹木をまた利用して跳ね飛んでくる。

 多角的な機動を生かした剣突を繰り出してきた。


 速剣のトグマと名付けたくなる機動――。

 しかし、緩急はない。

 俺は魔闘術と<血液加速>で対応できている。 


 避け続けていると、トグマは動きを止めた。


 そして、その場の地面の草を悔しそうに剣で刈りながら円を描くように振り返ってくる。


 口を動かす。


「……<縮地>をこうも軽々と避けてくるとは――」


 フェイントのつもりか、語尾のタイミングで、急に襲い掛かってきた。


「――確かに、自慢するだけの速度だな?」


 そう語りかけながら、素早い剣術を繰り出す狂眼トグマの癖を見抜いた。

 フェイントの誘いかもしれないが、その僅かな隙を突く。


 横に移動した瞬間、右手の魔槍杖の紅矛をトグマの下腹部へ突き出した。

 防がれることを念頭においた突き。

 当然、防がれるが、トグマに防御を意識させた。

 すぐに、右手を引いて魔闘術を解いてから、再度、<刺突>をトグマの胸元へ繰り出した。

 タイミングを微妙に狂わせる槍突コンビネーション。


 狂眼トグマは顔を歪ませながら対応。

 四つの眼を輝かせながらコンビネーションを防いでくる。


「――く、間合いを狂わす技術だと? しかも、重い槍矛も混ぜてきやがる……」


 狂眼トグマは語尾にじんわりと憤怒が滲む言い方だ。

 その言葉とは裏腹に、四剣のうち三剣を正眼の位置で構えた。

 その三剣で、三の字を宙に描くような軌道の防御剣術を用いてくる。


 俺の速度を生かしたコンビネーションの<刺突>の連撃を的確に防いできた。

 ルリゼゼのような柔剣の機動を魅せる巧みの防御剣術。


 構わず風槍流を生かした片手のみの布石戦術は続けていく。


 そのタイミングで、視線でフェイントを織り交ぜる。

 続けて、普通の<刺突>と思わせる踏み込みを見せてから、魔槍杖を捻り突き出す<闇穿>を発動。

 闇靄を纏った紅矛と紅斧刃の螺旋撃は、風ごと相手の胸元を巻き斬りあばらを抉り取るように突っ込んでいく。


「――終開眼<魔縮・狂神>」


 狂眼トグマはスキル名を語った瞬間、四つ眼から琥珀色と赤が混じった魔力の光沢を身体に巡らせる。

 そして、映像を早送りで見ているように首を怪しく傾けてから小さく武者振るいを行なうと、そのまま身体を回転させ急加速――魔槍杖の<闇穿>を華麗に身を捻り避けてきた。

 空中に紐でも付いているのかと突っ込みを入れたくなるぐらいの素早い側転回転。

 しかも、伸びていた魔槍杖の先端の上に両足を乗せて立ってきた。


 すげぇ、なんて身のこなしだ。

 ルリゼゼを超える速度、真似はできないかもしれない。


「取ったァ――」


 魔槍杖の上に乗った魔族は口元を般若のように裂いて嗤い叫び、四つ剣を握る腕を真っ直ぐ伸ばしてくる。

 青、緑、銀が合わさる三つ色が螺旋する四剣突で、俺の頭を突き刺そうとしてきた。


 しかし、取った。は、まだ早い。

「ぁれ?」といったように狂眼トグマは急に足場を無くして落下している。

 そう、俺は魔槍杖を消失させていた。


 そこに、伏せていた左手に神槍ガンジスを召喚。

 左に握る神槍ガンジスの<闇穿>を、落下中のゼロコンマ何秒の間に彼の腹へ向かわせる。


「ぬあ――」


 狂眼トグマは態勢を崩しながらも自身の腹を守るように四剣を下方へクロスさせる形で神槍ガンジスの矛を防いでいた。

 だが、振動した方天戟のような特別な月矛<闇穿>の勢いは強い。

 落下中だった狂眼トグマは、くの字になりながら後方へ吹き飛ぶ。


 受身も取れずに草むらを転がっている。


 僅かに感触を得た。

 俺は草を踏みしめ地面を蹴る――。

 転がるトグマへ止めを刺すべく前傾姿勢で、突貫だ。


 しかし、転がっていた狂眼トグマは反応していた。

 走り寄る俺を待っていたように蹴り技を繰り出してきやがった。


 ――急遽、魔槍杖の紅斧刃を盾にして、その下から弧を描く軌道の蹴りを防ぐ。


 狂眼トグマは蹴りの勢いを得て後方宙返り。

 四つの眼尻から琥珀色と赤色の微光を伴った線が、顔を幾重にも巡り首筋へ伝わっているので、光の筋が曳いて見えた。


 ルリゼゼとは少し違う能力。

 後方に退いたトグマ。

 樹木に背を預けながら眼光を鋭くし、俺を睨む。

 四剣を構え直しているが……腹部位を覆っていた戦闘服が破れて内部から血が迸っていた。


 ガンジスの<闇穿>の痕だろう。

 よく見たら、彼が防御に回していた四剣の内、一対の銀色ククリの剣刃が円型に削れて失っている。


「その矛、まさか……こんな集落で、こな糞がァ――」


 狂眼トグマは声を裏返し怒鳴る。

 下腹部から血を撒き散らしながら、俺に向かって両腕を翳してきた。

 篭手の穴から、黄金の刃のようなものが生まれ出ようとしている。


 あれは、飛び道具――。

 とっさにイージスの盾をイメージしながら両手首から<鎖>を発生させる。


 <鎖>の大盾を目の前に作り出した。

 その大盾に、雨霰と何度も雷撃魔法が衝突しているような身体を震わせる多重音を全身で感じ取る。


 俺は神話ミソロジー級の防具服であるハルホンクを身に着けているので、飛び道具を喰らっても平気だと思うが……。


 音が止んだので、<鎖>の大盾を消失させる。

 大盾があった位置の前方に、琥珀色の幅広な刃が無数に転がっていた。


「そんな防御を――」


 喋らせない。

 イモリザの右指に新しい腕化になるように意識をさせながら、狂眼のお株を奪う迅速な動きで間合いを詰めた。

 左足で強く地面を踏み噛み。

 右手に握る魔槍の紅矛で狂眼トグマの腹に風穴を作るイメージで捻り出す<刺突>を繰り出した。

 続けざまに右足の踏み込みと同時に左手の神槍ガンジスで<刺突>を真っ直ぐと放つ。


「――ぎぃ」


 舌を咬んだような声を出す狂眼トグマ。

 苦悶の表情を浮かべながらも、二連<刺突>を四剣で防いできた。

 左手に握っている神槍ガンジスを消失させる。

 伸びている腕を素早く引いた。


 そこで右肩の竜頭金属ハルホンクを意識。

 竜頭の片目のブルーアイズ、土耳古玉のような夏を感じさせる空色の眼から氷の刃を三つ発生させていく。


 狂眼トグマは身を反らすが、一つの氷の刃が狂眼トグマの眼に突き刺さり、鮮血が迸る。


「くっ」


 不意を突かれたトグマ。

 しかし、一つの眼に氷刃が突き刺さった状態で、残りの三眼で俺を睨んできた。


 俺は引いていた左手に神槍ガンジスを再召喚。

 四剣で防御姿勢のトグマを見据えながら、腰を捻り、左手を捻り前方へ突き出す一の槍の<刺突>を繰り出す。


 トグマの左下腕に握る削られた銀ククリ剣を弾く。

 しかし、ガンジスの月型穂先は三つの魔剣により防がれる。


 そこで、魔槍杖バルドークを握る右腕の肘から外へ分岐させた新腕に魔槍グドルルを召喚させた。


「なんだ、その連なった腕あぁぁ――」


 魔槍杖バルドークを握る右腕と、新腕に握らせた魔槍グドルルの二本の槍穂先をトグマの腹と胸へ伸ばす。


 タイミングのズレがない真の二連<刺突>を繰り出した。


「――ぐふぁ」


 対応が遅れたトグマ。

 彼の胸甲を溶かすように突き抜けた魔槍グドルルのオレンジ色の薙刀刃と魔槍杖バルドークの紅矛。


 彼の重さを真っ直ぐと伸びた魔槍たちから感じ取る。

 その重さを感じた右腕と第三の右腕から魔槍を消失させた。


 <導想魔手>を発動。

 魔力の歪な手がムラサメブレードの柄巻きを抜き、魔力を柄巻きに通す。

 そして、慣性に従い地面に落ちる血塗れのトグマと間合いを詰めた。

 アーゼンの靴音を消すようにブゥンと音を立てた<導想魔手>に握られていたムラサメブレードを真横から振るい、狂眼トグマの頸へ青緑に光るブレードを吸い込ませてやった。 

 一気に切断。トグマの頭部は草むらに飛んでいく。


 頭部を失くした胴体は力なく両膝を地に突け横倒れた。

 草の上で僅かに身体を痙攣させている。

 彼が握っていた青い刀身の剣、緑の刀身の剣を握っていた魔剣も草むらの上に落ちていた。


 あの魔剣らしき物を回収するか。

 第三の腕を指に戻す。


『閣下、お見事です! 槍の上に狂眼が乗った時は、ドキッとしちゃいました』

『あれは驚いたよ。それを逆に利用したけど』

『瞬間、瞬間の閃きが物凄いです、わたしでは、きっと慌ててしまって、あんなことできません』

『相手があっての俺だ。それほどの強者だったということ』

「……凄い、本当に倒しちゃった」

「……素晴らしい槍武術……でも、わたしたちの集落は……」

「お母さん……」


 背後から安堵の声と悲しげの声が響く。


 見れば目の毒、聞けば気の毒かもしれないが……。

 助けたからには、多少、関わるつもりで振り返り、


「大丈夫ですか?」


 悲痛な顔色のムクのお母さんに話しかけていた。


「はい、ありがとうございます。貴方は命の恩人です」

「うん、認める。二つ目! 戦場で死んじゃったお兄ちゃんより強い」


 ムクは尿の匂いを漂わせていたが、気にしていない。

 三つの眼を鋭くさせて俺を見て話していた。


 この辺は邪族の子供だからかな?


「……お兄さんを慕っていたんだな、最大の賛辞と受け取ろう。ありがとう」


 戦場で亡くなったんだ。

 お兄さん……知らないけど南無。


 と、心の中で祈っていると、


「……この二つの剣、わたしが貰っていい?」

「あ、ムク、調子に乗りすぎです」


 ムクは、青白い刃を持つ魔剣を拾っていた。

 子供だけど、意外に力はあるようだ。邪族侮りがたし。


「……構わないです。しかし、貴女方を襲っていた魔族が使っていた物ですよ? あまりお勧めはしませんが……」

「やった、この剣を使って魔族を殺す」


 ムクは俺の言葉を聞いてない。

 剣を振って、草むらに打ち下ろしていた。

 まだ重いようだ。

 姿勢を崩していた。地面に剣先が刺さってしまい、柄巻きを引っ張り抜こうとしている。


「ありがとうございます。それは大丈夫です。魔族を含めて色々なモノとの争いは常に起きているので」


 ムクの母親が自分たちの境遇を極自然の当たり前のように語っていた。

 狂眼トグマを含めての争いが、身近にある暮らし……。


 そういえば、狩りの途中、頭が鰐の種族も居た。

 あんな連中と常に争いがある文化か……。


「……分かりました。それでは集落に戻りますか? そこまでなら俺も付き合います」

「はい、お願いします」

「二つ目! ありがとう」

「あ、まだ貴方のお名前を聞いていませんでした」

「シュウヤ・カガリ。見ての通り槍使いだ」

「シュウヤ兄ちゃん! こっちだよー」



 ◇◇◇◇



 集落までの道中、一人でモンスターを狩り続けながら血文字で仲間たちへ連絡。


 『まだ暫くかかる』と。


 そして……邪族の集落まで付いていったが……。


 当然に彼女たちの集落は悲惨な光景となっていた。

 死体が散乱し血の海。 

 そこに呻き声が響いてくる。


 良かった。幸い、まだ生き残りが居た。


 急ぎ、生きていた邪族の方へ回復魔法、ポーションを使い助けていく。


『わたしも外に出て水を与えますか?』

『いや、必要ないよ、すぐに立ち去る予定だし』

『分かりました』


 ムクのお母さんと近所の方も助けることができた。


 三つ目の戦士の方から、お礼にウルバミ族に伝わる銀の斧を俺にくれると言ってきたが断った。

 あの銀斧……どっかで見た覚えがある。

 一通り、救出活動を終えると、ムクとお母さんが近寄ってきた。


「二つ目のシュウヤ! 回復も使える強い二つ目、村を救ってくれて本当にありがとう」


 ムクは元気だ。表情も明るい。

 純粋な三つ眼は俺に期待を寄せていると分かる……。


 そんなムクに悪いが、そろそろ旅立つ時間だ。


「……おう。ということで、俺はここまでだ」

「えぇ? いやよ、いや! 駄目だよ、シュウヤ兄ちゃん……」

「すまんな」

「シュウヤさん、無理は承知ですが居てくださいませんか? 家なら空いてますので、わたしの部屋も空いてます……」


 ムクの美人お母さんからの誘い。

 スタイルもいい新しい三つ目の女性に正直揺らぐが、目的があってここに来た。


「……元より、俺は魔石集めの最中。そして、相棒と仲間たちも居る身でして……ご厚意に感謝しますが、そろそろ戻ります」

「強く優しい方なのに……」

「うあああーん」


 ムクは泣いてしまった。


「ムクもごめんな――」


 俺は颯爽と翻し魔脚で集落を抜けて森の中へ掛けていた。

 後ろから、ムクの声が響く。


 二つ目シュウヤの馬鹿ーーーでも、ありがとうございましたーーーと、森の奥まで木霊していた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る