二百八十話 血獣隊とムク
魔石を集め終わったところで、
「ご主人様、魔石集めの一番はロロ様でした、肉球パンチを頂けません!」
サザーが不満気に語る。
「そんなこと言ってもな。ロロには後でご褒美をあげよう」
「ンン、にゃお」
獣特有のロロの匂いが漂った。もふもふしている頬の黒毛を右手で撫でてあげていく。
「……それじゃ、あの右手にある森の中に行こうか」
「にゃお」
「はい! 次はご主人様の蹴りを真似した剣術を試したい!」
「さっきの植物モンスターが大量に棲んでいるのだろうか」
「居そうね、でも、さっきの植物、わたしたちの匂いを追い掛けているような動きだった」
ママニの言葉にフーが答えていた。
確かに最初から俺たちを認識していたような動きだったな。
「わたしを貫いた枝触手は、血の動きにも敏感だった」
ママニが白い髭を動かしながら語る。
ひょっとして植物モンスターは<
皆でそんな会話をしながら森へ向けて進む。
そこで隣をぴったりと維持するように歩く小柄なピュリンに話しかけた。
「ピュリン、骨針というか骨の弾だな」
「弾ですか? <骨岩針>というスキルです」
ピュリンは説明しながら尻尾の骨を可愛く動かしている。
そのまま俺たちは森の内部に突入。
この森林、ルリゼゼの洞穴があった森林地帯とは違う。
壁のような樹木の根っこはない。
どちらかといえば……魔境の大森林に近いかな。
葉と枝が上空を占めて……地面は大きな根っこがあちこちにあり、視界の確保が難しい……。
遠距離戦は厳しくなりそうだ、
「ピュリン、ここからは指に戻れ」
「はい」
ピュリンは身体を一瞬崩し黄金芋虫のイモちゃん姿に変身。
くねくねと蠢き胴体を撓ませてから一気にバネの如く軟体を俺の掌へ伸ばし付着した。
あっという間に、第六の指と化す。
そこで、ガトランスフォームの近未来戦闘服を解除。
素っ裸になってから右肩を意識。
「わぁ」
「むふ」
「……」
「おぉ」
<
その瞬間、肩の肌の表面から浮かび上がる
ングゥゥィィさん、頼む。
右肩の竜口から暗緑色の布素材が吐き出されて波打つように全身へ展開したゼロコンマ何秒の間に、暗緑色と白銀枝模様が綺麗なコート姿を身に纏う。
二の腕からの環状の筒形防具は使わない。
「ご主人様の服、素晴らしい素材ですね」
「フー、頬を紅く染めてるー」
「うん……」
フー以外も皆、俺が素っ裸の時に胸にある鎖が絡んだ十字架マークと股間を凝視していた。
その件について深く指摘はしない。
個人的にならば腰を振って応えるが。
「――さぁ、このまま森の奥へ向かうぞ」
「「はいっ」」
俺たちは本格的な森林地帯に突入。
森では様々なモンスターと遭遇した。
最初は、両肩の位置に歪な形の単眼頭部と両腕に立派な金棒を持ち、腹がぶよぶよのモンスターと遭遇。
ママニが語るに「トロール」という名のモンスターに似ているらしい。
次に遭遇したのが
ビアが語るに、小柄だが、リザードマンという鰐型のモンスターと姿が非常に似ているとか。
最後は、蝙蝠と猿が合体した未知のモンスター。
この蝙蝠と猿のモンスターは八階層まで経験を踏んでいる<従者長>たちも知らなかった。
この中で一番遭遇率が高いモンスターが、鰐の頭部を持つ人型モンスターだ。
彼らは翻訳ができない言語らしきモノで会話を行い、見たことのない歯と骨を使った家に住んでいた。
そして、毎回の如く煙を炊いて雄叫びを上げている宗教儀式をあげている。
そんな独自の文化らしきものを感じたので、ビアの意見を無視して、最初は友好的に近付いていくが……。
彼らに近寄っただけで、いきなり攻撃された。
口と手の部位から派生した骨牙を飛ばしてくる。
魔槍を回転させて牙を叩き落とすが、頬に切り傷を負った。
「ご主人様に傷を作るとは!」
ママニが吼えた。
そこからは、皆で、逆に鰐頭種族たちへ急襲。彼らと遭遇する度にその都度、倒していった。
倒す度に大魔石を落とすので、モンスターなのは確実。
皆で、暗い森林地帯をモンスターを倒しながらゆっくりペースで進んいく。
「……地下二十階。ここは完全に別世界です。地上の森に似ていますが、微妙に違います。この葉も見てください! メメント草のように見えますが全く違うんです」
斥候担当のママニが足元に生える草を指差す。
そのメメント草なら知っている。
「ここは邪界ヘルローネ。精霊の姿も変わり、異質です。精霊自体が居ることも驚きですが、地上と微妙に繋がりがあるということでしょう。デボンチッチは見たことないですが」
「精霊様の言葉は難しくて分からない。が、我もここまで連続でモンスターが出るとはおもわなんだ。鰐人はリザードマンの姿に似ていたので興奮したぞ」
「リザードマンと似ているけど、汚い牙を飛ばしてくるモンスターだから嫌い……血は美味しかったけど」
「うん、ボクも八層をかなり歩いたけど――ここは知らないモノばかり!」
興奮したサザーが、樹木の枝に跳躍して、三角飛びをしながら前を歩く。
「にゃお」
「そっか、サザーは楽しそうだ。ロロが猫パンチを放ってるぞ」
「ロロ様……」
あれ、サザーの視線が怪しい。
ロロディーヌに守られて嬉しかったのかな。
視線を森の中へ向ける。
ママニばかり偵察だ。ここからは……俺も偵察を頑張るか。
「……先を偵察してくるかな」
「あ、お待ちをご主人様!」
「ルシヴァル家ではありますが、フジクの名に懸けて斥候はお任せを」
と、ママニが力強く語る。
プライドが刺激されたらしい。
「いいぞ、いってこい」
「はい、では――」
ルシヴァル家唯一の
「わたしは目に戻ります」
「おう」
ヘルメは瞬時に液体化。
俺の左目の中に戻ってくる。
ママニの報告を待つ間……。
「ロロ、鬼ごっこだ」
「ンン、にゃ?」
「俺を見つけたら、さっきのご褒美を兼ねて、肉球をすこぶる気持ちよく揉んでやろう」
「ン、にゃ、にゃ、にゃぁ」
興奮した
「ははは、分かったから少し待て、俺が森の中を逃げるから、十秒たったら追いかけてこい」
「にゃぁ」
「よし――」
こうして、森の中を駆けて幹を足場に遠くへ飛ぶ。
森が茂る窪んだ場所を見つけた。あそこに隠れようと窪んだ場所に身を寄せて<
<暗者適応>の効果で上昇しているから、そう易々と……。
「にゃああぁ――」と、すぐに見つかってしまった。
『ロロ様は凄い嗅覚です、そして、鼻がピクピク動いて可愛いです! 新ポーズを捧げます!』
ヘルメさん、お尻をふりふりさせてから上空へ両手を広げる謎ポーズを……。
ということで、今はロロディーヌさんの肉球を絶賛モミモミ中である。
そんなまったりタイム中に、ママニからの血文字報告が入った。
「ロロ、遊びはお仕舞いだ」
「ン、にゃ」
ママニの報告が入り行動を起こす俺たち。
トロール型のモンスターを急襲して殲滅させる。
この狩りを切っ掛けに、必ずママニが先行偵察を行ないモンスターの個と群れを発見する流れができていく。
彼女は<嗅覚烈>の進化版である<血嗅覚烈>を用いて偵察を行っていったのか、敵を素早く見つけてくれた。
血文字で報告し合いながら密接に連携。
今も、ママニから報告が上がる。
『斜面の下に、四つの豚頭を持った大きい体格に多脚のモンスターと、スライムのような液体型モンスターが、仕留めた鹿型モンスターを巡り争いを起こしています。乱入しますか?』
生存競争か。モンスターたちに悪いが……。
でも、スライムとは、どっちのスライムだろうか。
アケミさんの配下のスラ吉の方ではなく、気持ち悪い方かな。
ま、今は魔石回収を優先。
『……乱入だ』
『了解しました。フェロモンズタッチを行います』
『おう。皆、ママニの放つ縄張りの下へ向かうぞ』
『はい』
『承知』
『分かりました』
中空に浮かぶ血文字で仲間へ連絡をしてから、
「ロロ」
「にゃ」
黒豹のロロディーヌと一緒に匂いの場所へ駆けていく。
崖上の先端から歪な形で飛び出す太い樹木の枝の上に、片膝を枝の上に乗せて姿勢を低くしているママニの姿が見えてきた。
背中に大型手裏剣、円盤のアシュラムを装着している。
斥候らしい渋いママニの姿に見惚れていると、少し遅れて<従者長>たちが集まってきた。
ママニは無言のまま『あそこに居ます』と腕先を伸ばす。
その先を、皆で確認……。
なるほど……本当に豚の頭部が四つ。
胴体はスチールの色合いで二本の長腕に武器は茶色の棍棒。
そして、同じスチール製を感じさせる脚が六本もある。
多脚を持つ豚モンスターの真下の地面に喰われかけの大鹿が転がっていた。
その鹿を食おうと、地面から這い寄るスライム状の液体モンスターも居る。
アケミさんが従えていた可愛い方のスライムじゃない、気色悪い方だった。
豚モンスターは近寄るスライムへ向け棍棒を振り下げる。
スライムは棍棒で潰される度に、周囲へ液体が飛び散っていた。
しかし、瞬間的に元の液体状態に戻り、何事もなく、餌の鹿肉がある方へにゅるにゅると音を立て向かっていく。
四つの豚顔モンスターはそんなスライムが許せないらしく、吼えながら棍棒を振り降ろす。
スライムは何回も潰れる。というか液体が飛び散るのみ、そんなスライムだが……様子がおかしい。
体内に魔力を集めたのか煌く。
その瞬間、枝のような液体触手をその豚モンスターへ伸ばして反撃をしていた。
七色に光る液体触手が、豚モンスターの下半身にある多脚の一部に付着。
その途端、七色の液体が染み込むように消えてから、触れた脚の部分が溶けていく。
「ぎゃぁぁ」
豚モンスターは四つの頭を震わせて痛がる声をあげた。
あの触手、酸のような効果を持たせることもできるらしい。
しかし、そんな触手を放ったスライムは……。
急に動きを鈍くした。
脚の幾つかを失いバランスを崩した豚モンスターが繰り出す棍棒の直撃を受けることが多くなる。
同時に、スライムは再生速度も落ちていった。
『……主人、指示を』
そうだな、見学は仕舞いだ。
小声で、
「あの豚はビアとママニで対処しろ。スライムは魔法だ。俺の氷、フーの土、それか、ムラサメブレードで焼き切る。それでもダメなら、この近辺の森に燃え移る可能性もあるが……ロロに火炎の指示を出す」
『承知、行くぞ』
ビアの
他の眷属たちも続いた。
崖下を降ったビアは、そのまま背中の筒から鉄槍を取り出し<投擲>を行う――。
豚頭の一つに鉄槍を直撃させていた。
一つの豚頭を潰すのを確認したビア。
赤ぶとう色の鞘を持つ
そのまま、くねくねと下半身の蛇腹を動かし前進しながら、豚モンスターの胴体に目掛けて
更にママニの放った矢が、豚モンスターの多脚の一部と胴体に突き刺さる。
戦っていたスライムも触手攻撃を豚モンスターへ伸ばしていた。
酸の触手により脚が溶けて、総じて多脚の半分を失う豚モンスターは動きを止める。
そこに、俺が上げた靴の効果も合わさっているのか、素早いサザーが、身を捻りながら、その動きを止めた豚モンスターの脚の一つを、斬り抜けて背後に移動しているのが視界に入る。
華麗な水双子剣を用いた螺旋斬りだ。技名はしらないけど。
さて、俺も頑張るかと……スライムの方へ視線を向ける。
スライムは豚モンスターをまだ標的としているようで、俺たちには興味がないようだ。
よーし、このまま遠距離の位置からぶち込んでやろう。
中級:水属性
上級:水属性の
魔法を無詠唱で連続に数十と繰り出していく。
液体スライムにマシンガンの弾の如く氷矢と氷蛇矢が直撃。
スライムは喰らった箇所から除々に凍り出し、次第に氷の塊と化していた。
最後の氷矢が突き刺さり、罅割れて、スライム氷の形が崩れていく。
そこにフーの岩魔法が崩れていたスライム氷に直撃。
スライム氷は粉砕。そして、魔石が……心配するぐらいな衝撃音が響く。
けど、地面に魔石が転がっていくのが見えた。
豚のモンスターも風前の灯。
ビアの魔盾と長剣の連撃が決まる。
豚はスチール製が胴体が大きく凹む。
「皆々、最後はわたしが貰う!」
吠えて宣言したママニ。
円盤<投擲>が豚の頭部の一つを破壊。
「ママニ、残念――最後はボク!」
豚モンスターの背後に移動していたサザーの言葉だ。
彼女は瞬間速度をあげるような立ち居振る舞いから
豚モンスターの最後に残っていた後頭部を斬り抜け、首を刎ねて倒していた。
華麗に着地していたサザーは両手に持つ双子剣を一回振り、血を払うと、その双子剣を両肩口にある鞘に納める。
刀、剣の納める音が微かに響いてきた。
その姿から剣士なんだな。と強く感じさせる。
これで、この場の奇襲は完了だ。
出番のなかった
特に不満はなく俺の脛足に頭を衝突させて甘える作業を繰り返していた。
次はロロの出番を……いや、血と魂を吸収したいから、次は俺が単独でやろう。だから、その次かな。
そんなことを考えながら魔石の回収を行なっていく。
こうして、常に俺たちが森林の暗闇に乗じて先制攻撃、奇襲を行う流れとなっていた。
『……迅速な作戦遂行能力。素晴らしい。彼らを閣下直属のルシヴァル特殊部隊【血獣隊】と名付けましょう』
『血獣隊か……ま、好きなように呼べばいい』
『はい』
森林地帯を狩り進むルシヴァル特殊部隊【血獣隊】。
ヘルメの影響をちゃっかりと受けた俺である。
そんなことを考えながら、先鋒として前線に単独で出た俺。
急襲を終えて生き残っていた蝙蝠型と猿型のモンスターを捕まえ……最後の<吸魂>を行った。
<従者長>を四人も作ったからなぁ。
減った魔力と精神力を回復させる。
今、俺の顔は完全なヴァンパイア顔だろう。
そんな事を思い浮かべていると、森の中から魔素の気配。
「――ここまでくれば、大丈夫! って、きゃあああ! 二つ目――目が赤い魔族――――」
「あああ、ムク! わたしの後ろに!」
突如、現れた三つ目の子供が叫ぶ。
三つ目の大人の女性は子供をムクと呼び、その子供を庇うように両手を広げて前に出ていた。
「や、やぁ。確かに二つ目、怪しい者ですが……俺はこうやって話ができます」
「ええ?」
「……ムク、二つ目の方だけど、この森で生きていること自体強い証拠よ?」
「あ、うん、そうだけど、あの魔族が追ってきたら……」
ムクという少女は背後を気にしている。
可哀相に怖い思いをしたようだ。相手は魔族か。
この際だ、お母さんも三つ目の美人邪族さんだ。
追ってきている魔族を退治してやろう。
「……追われているようですね、これでも槍の腕に自信はありますので、その魔族を追い払いますか?」
「お母さん、二つ目の言葉だけど、信じられる?」
「……襲ってこないだけで十分信じられるけど……」
信じられないようだ。
ま、いやならいやで、構わないけど。
他で血吸いの狩りへ行こうかな。
「……俺は何もしません。追われているのなら逃げたほうがいいのでは?」
「……お母さん、どうする?」
「ムク……この方に守ってもらいましょう」
「うん」
信用してくれるようだ。
ムクとそのお母さんを一時的に守ることなった。
とりあえず狩りをしながら、森の南部まで送るかなと、その直後――。
魔素の気配がムクとその母が現れたところから感じ取る。
そして、盛り上がった樹の茂みに、
「みーつけた。あれ? 見知らぬ種族もいるな」
三つ目じゃない四つの眼の魔族だ。
こいつが追ってきた奴か。
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