二百五十三話 屋敷に招待
扉が開いた大門の前に到着。
門の両端に鎮座する大虎アーレイとヒュレミ。
陶器製の置物だが神社の狛犬らしい存在感がある。
すると、二匹の大虎の置物の鼻が反応。
鼻の毛細血管に血が通ったように、陶器だった鼻にピンク色が滲み出る。
生きたピンクの虎鼻ちゃんだ。
他が陶器の置物だけに面白い。
その生きた鼻はピクピクとクンクンと可愛く動く。
鼻は「フンッ――」と大虎らしい鼻息を出して震えた。アーレイとヒュレミの大虎は匂いから俺のことを判別したらしい。
そして、その生きた鼻から栄養素が顔に巡るように前頭部が赤らむと大虎らしい毛が頭部に生えた。
頭部だけ大虎の姿となった二匹は、首と胴体と足先に、魔力という血流が巡る。
虎の毛が一気に生えてウェーブを起こす。
二匹は生命が宿った大虎の姿へと変身を遂げた。
「ニャァァ――」
「ニャンゴォ――」
変身した二頭の大虎。
元気よく鳴いてから、また、俺に飛び掛かってきた。
この間のように押し倒されるかよ――。
と、仁王立ちで、二頭の大虎を両手でギュッと抱擁。
ふさふさを味わうように抱きしめた。
「ン、にゃおん」
姿は黒猫のまま俺の脹ら脛に飛びつく。
人形のように張り付いてきた。
相棒の爪が暗緑色の生地に食い込む。
しかし、さすがにハルホンクのングゥゥィィ製なだけはある。神獣の爪でも貫かれることはない。
「エンチャント!?」
「……シュウヤ、その大虎は……」
「そうですよ! 置物が突然猛獣になるなんて……しかも、抱きついてますけど、大丈夫なんですか?」
ボン、ザガ、ルビアは当然、大虎の行動に驚く。
俺はその視線を感じながら、興奮した大虎たちを優しく撫でていく。
暫く毛の柔らかさを堪能してから、アーレイとヒュレミを離してあげた。
「アーレイ、ヒュレミ、気持ちは嬉しい。けど、また門番を頼む」
「ニャアァ」
「ニャンゴン」
大虎たちは猫声で鳴く。
と、素早く、俺から離れた。
大門の左右の位置で置物となる。
威厳のある可愛い門番ちゃんだ。
「わぁぁ~」
「置物に戻りおった」
「エンチャッ、エンチャント!」
ボンとルビアは大虎の置物へ駆け寄っていく。
ザガも少し遅れて置物の場所に近付いていった。
皆で、威厳さがあるか不明だが、置物を触って、撫で撫でと調べていく。
ボンはぺっぺっと、手に唾をつけてから、その手を使いゴシゴシとアーレイの陶器を何故か?
擦りだした。
まさかエンチャントをしないだろうな?
少し心配したが、大丈夫だった。
触れば、ご利益、幸運の効果があり。とかありそう。
「……門番との挨拶はそれでいいかな? とりあえず、中庭に入ってくれ」
「わかった」
「はいっ、先にいきますっ、広いですっ」
「エンチャントッ」
中庭の左隅では、ユイとカルードが訓練していた。
ザガは、チラッとその訓練の様子を見てから、
「あそこは鍛冶部屋か?」
「分かるか? そうだよ」
ザガは訓練より、右隅にあるミスティの工房部屋に興味をもったらしい。
「興味がある。あとで見学させてくれ」
「いいぞ、散らかっているかもしれないが」
「にゃおおん、にゃ――」
「――エンチャッ、エンチャッント!」
ボンも呼ばれた
ボンが合流すると……。
「にゃんお、にゃぁ~」
「エンチャントッ!」
「ガオォォッ、ガォンァ」
「プボプボッ」
何なんだあれは……。
ボン君が踊る。
バルミントが翼を広げて応えた。
ポポブムが音頭のリズムを取るように法螺貝を鳴らす。
そこに、アーレイとヒュレミが乱入。
門番の仕事を止めて、気まぐれ猫の状態だ。
こりゃ門番はダメそうだな。
雌猫ちゃんズは、ゴロニャン子と、ヘンテコなジャンプを繰り返す。
少し遅れて、またゴロニャン子。
猫軍団長である
ボン君がアーレイに向けてエンチャントを連発してから捕まえる。
アーレイを高い高いと、持ち上げた。
わっしょい、わっしょい。
と、いったように、エンチャントォォを叫ぶ。
……ファンタジーだ。
「ガハハハッ、面白い。武術道場のように訓練している仲間がいれば、小型竜が住む大屋敷とは……しかも、餌になりそうなポポブムと仲がいいうえに、猫たちとボンが踊る。不思議で面白い」
「……そ、そうですね、ボン君が凄いハシャギようです」
あのメルヘンな動物園の活動に混ざりたそうな表情を浮かべるルビア。
「……あの様子だと、暫く、収まりそうもないから本館へ案内するよ」
「わかった」
「はい」
本館入口にある小さい坂のバリアフリーを上がる。
テラスの奥にある玄関に進む。
扉を開けてから、俺は執事のように、頭を下げるポーズを取った。
二人を案内。
「ご主人様、お帰りなさいませ」
「お帰りなさいませっ」
メイド長イザベル率いる使用人たちが挨拶してきた。
俺が執事の真似事をしていることにツッコミはなし。
無視だ。
これはこれでイヤかも、レベッカのツッコミが欲しい。
と、考えながら、気をとりなおし、
「……ただいま、友が来たから紅茶を出してあげてくれ」
「畏まりました」
メイド長イザベルは俺に頭を下げると、素早く使用人たちに目配せで、指示を出していた。
俺はザガたちへ振り向き、
「ささ、あそこの椅子に座ってくれ」
「わかった」
「はい」
ザガとルビアは視線を合わせ頷く。
椅子の先にちょこんと座った。
頭を左右へきょろきょろ動かして、そわそわと落ち着きがない。
特にルビアは挙動不審だ。
彼女の視線の先には……。
常闇の水精霊ヘルメが鎮座。
そこはヘルメ用のスポット。
水の精霊をモチーフとした彫像が柱に象嵌された場所だ。
常闇の水精霊ヘルメは、南無南無、Ωと、違うか、
フルフィルメント瞑想的な、これも違うか、とにかく、瞑想を実行中。
いつも通りだ。
俺に気付いた、そのヘルメは釈迦のようにゆっくりと目を開けた。
長い睫毛を揺らしながら唇を動かす。
「……閣下、おかえりなさいです」
女神かい!
と、ツッコミは入れない。
「おう、構わず瞑想しとけ」
「はい」
ヘルメを紹介しないと。
そういえば……何気に、姿は初?
「……彼女は、常闇の水精霊ヘルメだ。瞑想中らしい」
「え? あの方が精霊様なのですか……? てっきり
ヘルメの今の姿は完全に人型。
身体も衣服を着ているように見えるし、身体から水飛沫も発生させていないし、浮いてもないので、普通の亜人系に見えるか。
「精霊様なのか。ダークエルフの従者といいシュウヤは凄い奴だ。この分だと、ソサリー種族もいつの間にか仲間にするかもな?」
「ソサリーか。どうだろう」
知り合いに、ホルカーバムの大樹を守る司祭ぺラダスが居るけど。
「しかし、この屋敷は……大貴族が住むような感じもするが、そうではない温かい庶民的な雰囲気も感じる」
「はい、でも、広いと緊張しますね」
そんな感想を述べあう二人。まだ緊張しているらしい。
使用人たちが出してくれた紅茶と果実も手をつけていない。
「二人ともそう緊張するなって、ほら、紅茶と菓子だぞ~」
にこやかさを意識して、勧めてみる。
「わかっとるわい」
ザガは鼻で笑うと、紅茶を啜り、果実を頬張る。
髭が紫色に染まり可笑しい。
「はい、あっ、ザガさんの御髭が紫色にっ。ふふっ、あはは~」
ルビアが我慢できずに笑い出す。
「この髭だ。しょうがあるまいてっ」
太く短い腕で髭を拭くが、腕が汚れてしまう。
直ぐにメイドのアンナがナプキンを用意してザガへ渡し、
「あ、あぁすまん、お嬢さん」
「いえ、お気になさらず。お拭き致します……。果実と紅茶のお代わりもありますから、沢山食べてください」
アンナも手に持った綺麗な布でザガの手を拭いている。
笑顔も実に素晴らしい。
「おぉ、そうか。綺麗なお嬢さん、ありがとう」
ザガはアンナの事が気に入ったのか。
珍しく鼻の下を伸ばし緩んだ顔を見せる。
というか……初めて見たぞ……。
この間の黒髪女性の話といい、ザガも職人である前に、男なんだと、実感。
ま、彼女の着ているヒラヒラのメイド衣装は、グッと胸に来るものがある。
それに、美人な女にフキフキされちゃぁな……。
反応しちゃうよ。
ザガの男としての気持ちは痛いほどわかる。
「……では、わたしも紅茶から頂きます」
ルビアは紅茶を飲みながら、ザガの弛んだ緩みきった顔を見て微笑む。
なんだかんだいって、ザガの喜ぶ顔は嬉しいのか?
その微笑みのルビアが、
「……わぁ、美味しい紅茶です」
ティーカップを両手に持ちながら、紅茶の感想を述べていた。
そこから、果実を食べ紅茶を飲みリラックスタイムとなる。
ボンのエンチャント技術の凄さと鍛冶の魔鋼へのハンマーの打ち込み具合から、火入れのタイミングとか、ザガが受け持った冒険者の客から、ルビアに対してナンパしてきた客の話やら、何でもない会話を楽しく続けていった。
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