二百五十四話 宴会の準備

「エンチャッ」


 メルヘン世界が終わったようだ。

 エンチャと喋った口の端には黄黒猫アーレイの黄色い毛が付着していた。

 アーレイは毛も抜けるらしい。抜けた毛は陶器製に戻っていない。

 本物の毛なんだろうか。そのような毛を生み出せる魔造生物。

 生物と魔道具を融合させたような魔法生命体を創れる古代文明は凄い。


 あ、古代の魔法書を探せば……。

 アーレイとヒュレミを創り出せた知識の一端が分かるようになるかもしない。

 そんなことを瞬時に思考していると、ボンは、とことこと走りザガの隣の席に座っていた。

 早速、使用人が、紅茶と果実をボンの前に出す。ボンは使用人をチラッと見て、微笑むと俺に視線を寄越してきた。その真ん丸な瞳で何かを語るように俺の顔をジッと見ては、


「エンチャ、エンチャント?」


 とエンチャ語を繰り出してくる。

 意味は分かる。『この使用人は別嬪やのう!』ではない。『紅茶と果実を食べていい?』と言っているのだろう。


「いいよ、食べて」

「エンチャントッ」


 きっと『わーいッ』だろう。


 ボンは、嬉しそうに笑顔を見せてから、紅茶入りのゴブレットを掴むと口に運ぶ。

 豪快にゴブレットを傾け、ごくごくと、一気に紅茶を飲み干した。果実も口に含み、もぐもぐと食べていく。そのボンに、ちゃんと噛んで食ってから、風呂入って寝ろよ~と語りかける前に、果実を飲み込んでいた。

 

 次々と果実を飲むように食べるボン。


 先ほどテンテンデューティーを飲んたばかりだというのに、あっという間に食べきった。


「にゃお」


 黒猫ロロも帰ってきた。

 机の上に乗ってから俺の右肩へ跳び乗ってくる。


 華麗な三角跳びだ。


 よし……ボンも戻ってきたし、一階から案内するか。


「それじゃ家の中を案内しよう」

「わかった」

「はいっ」

「エンチャント」

「ついていきます」


 左肩に移動していた黒猫ロロ

 無言で俺の頬へ顔を寄せてきた。

 その気持ちいいスリスリを肌に感じながら立ち上がり、リビングへ皆を案内した。


 最初はリビングから続くキッチンだ。

 ボンが卵と葱系の野菜を整理している使用人たちに混ざりだしては、ザガに注意されている。

 続いて、廊下から俺の寝室にも案内した。


「ここが寝室……」


 ルビアが溜め息を吐くように呟く。

 ベッドと俺を交互に見つめてくる?

 更に、股間部分を見てきた。

 男に興味があるのは分かるが……その視線はドキっとする。


 そんな視線は父としてダメだっ。というようにザガが、


「ここがシュウヤの部屋かっ。広いしベッドも大きい。端にある箪笥はフジク産の高級木材だ。艶がいい。隣にある机も黒色の木材……これは、ベンラック村の東の樹海で伐採されているトリトンの材木だろう。それとも、ハウザンドの手前にあるノイルの森の木材イノマン材の可能性もあるな」


 ザガは職人だからな、木材も詳しい。


「……おっ、高そうな金庫だ」


 ザガが見つけた金庫。銀と黒が混ざった金属製。

 金貨と白金貨の束が大量に入っている金庫だ。

 これはイザベルが用意してくれた。闇ギルドからの報酬と使用人たちの給料が入っている。

 しかし、俺は全く使っていない……主にイザベル用かな。


「……銀水晶鋼鉄をさり気無く混ぜて金属強度をあげる金属加工、錬魔鋼のリベットも丁寧に打ち込まれてある。これはピザード大商会の仕事と見た。あそこは金庫作りも中々有名だからなぁ」


 ピザード大商会。

 ピザのイメージしかないが。


「……金庫作りの商会か。そこに所属している職人は、ザガと同じように腕利きな職人?」

「……褒めても何もでんぞっ。で、そのピザード大商会に所属している職人だと、隻眼のミリュンが腕利きで有名だ。金剛樹製の魔金庫を分析可能な人材と聞く。アイテム鑑定士たちが幾ら鑑定しても分析できなかった金庫を分析した金庫作りの職人としての名が通っている」


 金剛樹か。どっかで聞いたフレーズ。


「そっか、色々と金属世界も深いね。で、その金庫だけど、実はメイド長のイザベルが買って設置した奴だから詳しくは知らないんだ」

「あのメイド長か。物を見る目がある」

「うん、雇って正解。仕事に誇りを持つ女性だから、カッコイイし、そして美人さんだ」

「ふふっ――」


 廊下の向こうからイザベルの笑い声が聞こえてきた。

 聞いていたらしい。


「イザベル、その目利きをご教授して頂きたい」


 と、ヴィーネが真剣な顔付きで、部屋の端に背を預けながら喋っていた。


「はい、構いませんが、資料だけでも少し量がありますよ?」

「望むところだ、ご主人様のために知識を詰め込む」


 ヴィーネは胸を張るように語ると、イザベルを連れてリビングへ向かう。


「ふむ、羊皮紙の束も綺麗に並べられてある。今のイザベルを含め、使用人たちがちゃんと仕事をしているのだな」

「掃除もしてくれるし、助かるよ」

「うむうむ。そして、美人ばかりときたっ」


 ザガはその場でニカッと歯を見せて笑う。

 そのまま部屋を出て廊下を見ていく。

 ルビアとボンもザガの後ろから続くが、きゃっきゃと互いの手を身体に触り合って、わたしが触ったから勝ちーとか、子供のような遊びを楽しんでいた。


「……板の間の廊下の幅も広い。この廊下にある部屋も同じような寝室、客間があるのか?」

「うん、そこはエヴァの部屋、その隣がレベッカの部屋だ。そして、廊下の中央に階段がある」

「なるほど、あの子たちか……で、階段か」


 一階に続いて二階の階段を上がって、暖炉を見せたら、


「おぉ、暖炉がある。凝った作りだ。ちゃんと背後も石造りで熱対策が施されてある」

「ここは、おしゃれです~」

「エンチャントッ」

「ンン、にゃんお」


 右肩に居る黒猫ロロが、自慢気に触手で先の方角を示し、指示していた。

 指示に従うのは癪だが、案内しているので、触手の方角に歩いていく。


 そのまま風を感じるお気に入りの場所へ誘導。

 中庭を見下ろせるベランダから、地続きの小型塔の中にあるタイル床の風呂場を見せてから一階へ戻った。


 またまたリビングの席で寛ぐ。

 黒猫ロロは机の上でくるりと回り丸くなって休むのかと思ったら、前足を胸の中に仕舞う香箱スタイルで休みだす。


 そのロロの頭を撫でながら、ザガとルビアに話をしていった。迷宮のモンスターから取れる素材の話から、加工を行い商品して売り出す経緯、続いてホワイトブラザーフットから、真剣にクランに入らないか? との誘いを受けたが、断った。とか。


 すると、急にザガが無言になる。

 そして、何かを思い出したような顔を浮かべると、懐から何かを取り出してきた。


 何だ? 瓶?


「……ボンが釣ってきた魚と一緒にガラス瓶があったんだ。その中に、手紙、古文書が入っててな」


 ザガは、丁寧に折り畳まれた古い羊皮紙を机の上に広げていく。

 俺はそれを読んでいった。



 □■□■



 名前「イギル」は珍しい。

 多くの異名も遺したが、べファリッツ大帝国の古貴族の名にイギルはある。

 同時に、帝国の多くのエルフたちに、災いを齎す名前であった。

 若い頃からイギルは、黄金色の髪を靡かせ双剣を使い、帝国領土の各地を暴れ回る。

 イギルと敵対する軍閥貴族たちのエルフたちは、彼を黄金の災いイギル。と呼ぶようになった。

 しかし、味方からは、エルフの言葉で「黄金の双剣騎士」と呼ばれていくようになる。


 彼が南マハハイムにいた頃、他のものたちは多くの異名をイギルの名に加えて呼んだ。


 黄金色に輝いた手刀で敵の心臓を抉り取るイギル・デスハートであると。

 血を長耳に当て、血を飲んで勝利を祝うイギル・ブラッディとも。

 光神ルロディスと光精霊フォルトナから祝福された聖戦士たちを立ち上がらせたイギル・フォルトナーであると。

 エメンタル大帝黄金時代での十六大神に感謝を捧げる、勝利の化身イギル・トライゴッド。双剣を使いこなし戦神ヴァイスを唸らせる自らの戦略についてこられない味方を叱責するイギル・ヴァイスナーであったと。徐々に、彼はイギル・サードとも呼ばれるようになる。戦場で、三度よみがえった神の化身といわれたからだ。彼がドワーフ氏族と人族との反乱に加わる以前、聖者キストリンとも呼ばれる人族が自由への祈りの中で見た三番目の幻影が彼の姿だったとも云われているが、定かではない。


 この文書は、今は魔境の巣窟と化しているだろう帝都キシリア図書館所蔵のいわゆるコーズマー文書から採られたものを、第二紀大帝国の初期に無名の研究者によって集められたものと推測。

 古文書の断章の写しなので、他にもまだ断章はあるだろう。

 念のため、この断章を「イギルの歌」と書き記しておく。

 (学術都市エルンスト、古文研究室:研究員アイサイラム)



 □■□■



「へぇ、エルフの大帝国時代の資料か」

「ふむ、翻訳された写しのようだが、よーわからん。この資料を瓶に詰めて、海かハイム川に捨てた理由もよく分からないが」


 ザガはドワーフだ。

 エルフの歴史に興味はないか。


「……そりゃそうだ。エルフだし」


 俺も分からん……。

 研究資料が集まらないから諦めるのもいやなので、海の神にでも捧げたのかな?

 このイギルというエルフが活躍したべファリッツ大帝国の歴史の一部なんだと思うが。


 そのタイミングで……リラックス。


 背筋を伸ばしながらくぅぅっと鼻で息を吸い、その息を口で吐きながら、後頭部に両手を乗せる。 

 視線の先にあった十字窓から覗く庭の様子を見ながら……。


 中庭は広いなぁ、パーティでもできそうだな。よし。いいかも。


「……ザガ、ボン、ルビアたちが来てくれた祝いだ。今日は、庭で皆を集めて宴会を開こうか?」

「おぉぉ、宴会か。いいぞっ。宴会といえば……酒かっ、酒、肉、美味い食いもの祭りだな! いいぞぉ、楽しみだ……」


 提案したら、ザガが乗ってきた。

 彼は法被を着て太鼓でも叩きそうなノリだ。


「エンチャッ、エンチャッ、エンチャッント!」


 太鼓といえば、ボン君も嬉しいのか、ザガよりも喜ぶ。

 香箱スタイルで休んでいた黒猫ロロも目を開けて驚いていた。

 そして、背筋を伸ばして起き上がると、机の上をトコトコ歩いてボンの側へ歩いていく。


「もう、ボン君! お酒の飲み過ぎは、駄目ですからね?」


 ルビアは椅子から降りて、踊り喜ぶボンの背中を撫でている。

 メイドのイザベルたちも話を聞いていたようで、集まってきた。


 そこに、


「ただいまー」

「ん、ただいま」

「ただいま」


 レベッカ、エヴァ、ミスティだ。

 丁度よく帰ってきた。早速、彼女たちに提案をしてみる。


「よ、おかえり。これから庭で火でも焚いて、派手に宴会でもやろうかと思うんだが、どうだ?」

「いいわね。迷宮慰霊祭とまた違うけど、派手にやるお祭りもいいかも。お菓子もあるし手伝う。あ、ベティさんとか呼んできていい?」


 レベッカは、こないだ鑑定してもらった新装備、ムントミーの服を着こなしている。

 両肩の表面に薄雲が掛かるようなベールに包まれていた。

 その下に着ている胸元に、順序よくボタンが付属した絹服も着ているので、お洒落だ。


「ん、賛成、リリィとディーさんも呼んでくる」


 エヴァはシンプルなワンピース系。

 ムントミーは装着していない。


「マスター、宴会はいいけど、少し話があるの……後で二人だけでいい?」


 二人の方を重点に見ていたら、眼鏡娘、もとい眼鏡先生ミスティが神妙な顔で語り掛けてきた。


「あぁ、構わんぞ」

「やった」


 ミスティは顔に薄紅を刷いたように紅く染める。

 眼鏡のせいか、綺麗に整えられた黒い細眉と大きな鳶色瞳がよく見えた。瞳の中の黒斑と焦げ茶色の虹彩が、より輝いている。

 朱色の小さい唇から仄かに魔力を漂わせていた。

 早速、手に入れた化粧品を使っているようだ。

 そんなミスティの顔をジロジロと見ていると、


「ご主人様、薪を用意してきます」


 イザベルとの話を中断したヴィーネだ。


「了解」


 ヴィーネは俊敏な身のこなしで玄関から外へ出ていく。


「ご主人様、まだ余裕がございますが、一応、食材と酒の買い足しを致しますか?」


 メイド長イザベルが聞いてきた。


「そうだな、この際だ。酒は大樽を沢山、ご近所の方々も準備に合わせて呼んでおいてよ」

「分かりました」


 指示を聞いたイザベルはヴィーネと同じように素早く外へ出ていく。


「わたしたちは、机、椅子、調理用の窯、食材を中庭へ運び、準備を調えます」

「よろしく」


 クリチワ、アンナたちもお辞儀すると踵を返し、それぞれ仕事をしていく。


「マスター、わたし、竈と大きな鉄板を用意するから」

「頼む」


 ミスティも玄関から庭へ走っていく。


「俺たちも手伝おう」

「エンチャント!」

「そうですね」

「ザガたちはお客さんだから、リビングで寛いでいてくれて構わんぞ」

「いんや、こういう祭りは準備も楽しいのだ。参加したい。俺は中庭に向かうからな――」


 ザガはそう言ってリビングを駆け出し、外へ出ていってしまった。


「エンチャント!」

「あ、わたしもっ」


 ボン&ルビアもザガの後を追う。

 仲間のような感じなんだろう、よーし、俺も手伝おうと玄関口から外へ出ると、


「みんな忙しそうにしているけど、何かやるの?」


 訓練を終えたユイとカルードが近寄ってきた。


「おう。庭で派手に宴会をやろうかと」

「少し前のキャンプを思い出す! 楽しそうっ。お風呂で汗を流してから手伝うから」


 あの時、入り江で再会した時だな。


「マイロード、わたしも手伝いますので、ご指示を」

「了解。カルードは、メイドたちの仕事と【月の残骸】の連絡員を通じてメル、ヴェロニカ、ベネット辺りを呼んできてくれ。仕事中かもしれないが、歌い手のシャナも、ユイは、ヴィーネとイザベルたちの協力を頼む」

「お任せを」

「了解~」


 ユイは部屋へ急ぎ戻る。

 カルードはイザベルたちに合流していた。

 メイドたちはカルードの登場にざわつく。


 皆、少し頬を紅く染めているし……カルードは渋い面だからなぁ。


 あ、そうだ。

 みんなの知り合いを呼んで集まるのなら……アメリも呼んであげよう。


「ロロ、アメリの家へ直行だ」


 肩にいる黒猫ロロに話しかけた。


「にゃぉ――」


 黒猫ロロは、俺の肩を踏み台にするように後足で肩を蹴り、勢いよく前方へ跳躍。

 少し肩が痛かったりしたが、カワイイので構わない。


 しかし、ハルホンクは傷ついていない。

 さすが、神話級。黒猫ロロの爪が深く食い込んでも貫きはしない。


 黒猫ロロが着地しながら体を膨らませるように姿を大きくさせて、黒馬versionとなる。


 その黒馬ロロディーヌは、首元から生やした無数の触手を俺の体へ伸ばし巻きつけ絡ませると、己のふさふさとした黒毛が目立つ背中に運んで乗せてきた。


 触手は一瞬で相棒の黒毛と黒毛の間の中に吸い込まれるように消える。


 産毛のような薄毛と肌の中に触手が吸い込まれて消えるところを見たが、液体の中に吸い込まれて波紋のようなモノが少し肌の表面に発生していた。


 触手の発生元はあまり気にしていなかったが、常闇の水精霊ヘルメのような能力でもあるんだろうか。


 不思議な神獣だ。


「ロロ、さんきゅ」

「ン、にゃおん」


 返事が可愛い黒馬ロロディーヌは――。

 四肢を躍動させて走ると跳躍し、一気に大門の上に着地――。


 視界が急激が変化。

 

 相棒は一歩二歩と屋根の上を歩くと、そのまま大門を軽々越えた。


 黒馬ロロディーヌは通りの真ん中に着地。


 通りを走り、路地に入り、「ひぁ~」と悲鳴を発した通行人の股の間を通らず、跳び越えては――路地を駆け抜ける。アメリの家へ驀進――。


 ツンザク風が、二輪のバイクに乗っているかのように――体を突き抜けた――。


 耳朶を掠めるバリバリと鳴る風音。

 その風をBGMに感じながら気持ちよく走る。


 気分はもう伝説のバイクに乗ったロードレーサーだ。


 バリバリ伝説、もとい、どこかにブッコミを掛けたくなるぐらいの気持ちとなった。


「マガジン~!」


 と自然と叫ぶ。曲がり角を勢いよく曲がって通路を進む。

 相棒と奇声を発した俺の姿を見た、通りにいた通行人たちが驚きの声をあげていくが気にせず――。

 【迷宮都市ペルネーテ】の探索を行うように南東のほうへと向かう。


 貧民街に到着すると――。

 通りを行き交う人々の着ている衣服が襤褸が増えてきた。

 と、角をまた曲がると、アメリの家に到着した。


「――よく覚えていたな?」

「ンン、にゃ」


 相棒は触手を伸ばしてこないが『あたりまえにゃ』といっているのかもしれない。

 背中の上をなでなでと擦ってあげてから神獣ちゃんから降りた。


「ロロはそのまま待機」

「にゃあ」


 アメリの家へお邪魔した。


「あ、これはシュウヤ様!」


 アメリのお父さんだ。

 凄い、もうすっかり元気になっている。


「どうも、元気になられたようで」

「はいっ、精霊様の水のお陰です。本当にありがとうございました。今はこの通り、薬草から質のいい原液を作り出して、瓶に詰めている作業を行っているところなんです」


 と、元気いいアメリの父が語るように、彼の目の前にある机の上に、黄土色のすり鉢の中に青紫色の葉をすり潰したような粘液が出来上がっていた。

 小型の魔法陣が描かれたスクロールも見える。

 棒もあるし、錬金グッズが置かれてあった。


 アメリの父さんは錬金術スキルがあるのかもしれない。


「……そうですか、よかったです。ところでアメリさんは?」

「娘なら近所の互助会の活動に出てます。もうじき帰ってくるはずです」


 そして、お父さんと錬金術の話で盛り上がる。

 ララーブインで盛んな特殊な錬金術を学びたいとか、ララーブインの麓は危険ですが、せっかく健康になったのですから、自らの手で冒険者に頼らず草花の採取に出かけてみたいとか、娘の目が治る薬がベンラック周辺で採れる薬草にあるかもしれないのでララーブインよりベンラックの薬草を研究したいとか……諸々。


 そこに、


「ただいまー」

「あ、帰ってきました」


 アメリだ。


「よっ、アメリ」


 アメリは真っ白い目を、俺の声の方へ向け、


「あぁぁっ、シュウヤ様の声っ! お会いしたかったです! わざわざ来て頂けるなんてっ嬉しいっ!」

「俺も会いたかった。それで、急になんだけど……今日、これから俺の家で色んな人を集めて祭りをやるんだ。よかったら、アメリも元気になったお父さんと一緒にこないか?」

「アメリだけじゃなく、わたしも参加してもいいのですか?」


 アメリのお父さんが遠慮がちに聞いてくる。


「是非、お願いしたいぐらいです。アメリは大丈夫?」

「はいっ、お父さんと一緒に行きたいですっ」

「では、着ていくものがこれしかないですが、宜しくお願いします」


 アメリのお父さんは頭を下げてきた。


「それで十分ですよ。形式ばったものじゃないので、それじゃ、外にロロディーヌを待たせているんで、行きましょう」

「はい、アメリ」

「うん」


 二人を神獣の相棒の前に案内した。


「ロロ、優しく乗せてあげろ」

「にゃぁ」

「きゃっ」


 小さい悲鳴を発したアメリだったが直ぐに「わぁぁ」と柔らかいロロの黒毛の感触を楽しむ。お父さんの悲鳴の反応は省略。

 俺も相棒のロロディーヌに乗って移動を開始した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る