二百二十二話 新たなる守護者級と対決

 魔宝地図を地面に置いた瞬間――。

 何かの儀式を催したように、グツグツと煮えたぎる大量の魔素が迸った。

 その魔素の中心から巨大な白銀色に輝く宝箱が出現――その白銀の宝箱の周囲にババババッと異質な音が響くや、瞬く間にガーゴイル系モンスターが大量に出現。

 そのガーゴイルは岩の体で両腕は太い。

 背中には黒い石版が簾のように連なる石の翼を持つ。

 が、その出現したばかりのガーゴイルの一体の石の翼がいきなり散った。

 翼を砕き破壊したのは、黒豹ロロディーヌの触手骨剣の攻撃だ。相棒は続けて、触手を伸ばしガーゴイルの石の翼を触手骨剣で貫いた。石の翼が派手に飛び散り、周囲のガーゴイルの動きが鈍る。

「――素早いロロ様! わたしたちもやりまするぞ!」

「ロロ様ァァ、我らの骨を盾にご利用ください!」


 黒沸騎士ゼメタスと赤沸騎士アドモスだ。沸騎士たちは絶妙の間で前進。

 黒沸騎士ゼメタスは袈裟懸けに骨剣を振るい、ガーゴイルの肩口から斜めに腹を切断してガーゴイルを倒した。早速一体のガーゴイルを仕留めた。

 そこに他のガーゴイルが袈裟斬りを振るった黒沸騎士ゼメタスに襲い掛る。

 守勢のゼメタスを守るように、赤沸騎士アドモスが前進――アドモスは骨音をダイナミックに響かせつつ方盾を振るう。フックパンチの軌道の方盾が、岩の腕を振るっていたガーゴイルの鳩尾を潰すようにカウンターヒット。ガーゴイルは岩の体をくの字にさせる。ガーゴイルの体の一部が弾け飛ぶ。その体勢を崩したガーゴイルの頭部を、黒沸騎士ゼメタスが振るった骨剣が捕らえて、両断。

 黒沸騎士ゼメタスは「アドモス礼を言う――」と言いながら返す骨の剣で、他のガーゴイルの岩の体を斜めに斬り上げて倒した。赤沸騎士アドモスも続いてガーゴイルに頭突き。体勢を崩したガーゴイルの胸元に方盾を振るい当て、吹き飛ばす。吹き飛んだガーゴイルは、背後のガーゴイルたちと衝突して吹き飛んだ。

「――にゃごぁ」

 黒豹ロロディーヌも複数の触手を沸騎士たちの背を超えてガーゴイルの頭部を捕らえて頭部を破壊。跳ねた相棒は沸騎士たちを越えて、後脚でガーゴイルの頭部を潰すと同時に長い尻尾を器用に前方に振るう。着地しつつガーゴイルの頭部に尻尾を絡ませてスイングDDTを繰り出して着地を行う黒豹ロロディーヌは渋い。

 

「ロロとゼメタスとアドモス、左側は頼む」

「にゃごぉ」

「「承知!」」


 続いて、大型と中型のモンスターが数体現れた。

 瓢箪のような形の甲殻を持つ頭部。

 複数の太い触手が胴体から生えた腕を左右に伸ばす。

 胴体を支える下半身の四肢は太い。


 長い四肢の先は尖っている。


 更に、蒼い炎を灯す髪に三つの巨大な巻き角を持つ獅子獣人のモンスター軍団が現れた。

 蒼炎の髪はレベッカの蒼炎の質ではない。


 獅子獣人の数は多い。

 しかし、上下にトーテムポールを作るように出現したせいか……犇めきあって現れた獅子獣人モンスターたちは天井と床に挟まったまま身動きがとれない存在がいる。


 笑える姿だ。 

 その獅子獣人の武器はモーニングスター系の武器と鈎爪だ。

 更に、一際、大きいモンスターが出現。

 大きいモンスターは、シンバルと打楽器をアンサンブルさせた独特の音を鳴り響かせながら登場した。


 全身が床や壁のタイル的。

 白色の甲羅の皮膚を持つ巨大怪物だ。


 硬そうだが、粘土で造形されたような卵型の頭部?

 白色の甲羅の窄まった頭部には、歪な形だが、髪だと分かるモノがある。


 あれで髪を意識しているらしい。 


 目、鼻、口はない。のっぺらぼう。

 太い胴体から四つの太い腕を生やして足がない。


 その不思議な白い巨大怪物は出現したばかりの巻き角を生やした獅子獣人系モンスターの数体を太い白腕で、ズシンと、洞穴の内部に音を響かせながら踏みつぶしていた。


 白い巨大怪物はえげつない。

 厚い雲が行く手を遮るように立ち塞がる。

 大きさと全身から溢れた魔素量からして……。


 確実に守護者級だ。

 ――まずはこいつから。


 大きい怪物へ向けて左手を翳す。

 竜のような刺青と化した手首の<鎖の因子>から<鎖>を射出――。

 真っすぐ弾丸のような速度で宙を進む<鎖>は白タイルの甲羅顔を貫いた。

 すると、のっぺらぼうかと思った顔が裂けるように口が生まれ出て、


「ギャァァァァ――」


 洞穴が振動したかのような大声が轟く。


 白い甲羅タイルの胴体と腕を貫いた<鎖>――。

 白き怪物の体を拘束するように巻き付かせた。


 その白き守護級の怪物を右の空きスペースへと運ぶ。

 巨体が浅い湖面の上で弾けたように転がる。

 

 蒼炎の髪と巻き角を持つ獅子モンスターをぐしゃりと潰す。


 よし――。

 守護者級を大多数のモンスターたちから引き離しに成功!

 

 タイマンサシで勝負ができる場所だ。


『閣下、お見事! 引き離しに成功です』

『あぁ』


 ヘルメと念話をした直後――。

 ユイとカルードが視界に入る。

 刀を持った親子が中型骨怪物へ斬り掛かった。


 中型骨怪物は左右に複数の触手腕を持つ。

 その時、


「ぬははははっ――楽しそうだ! 我慢できん、助太刀致す!」


 四眼ルリゼゼが笑い喋りながら颯爽と登場。

 ユイとカルードの親子を助けるように――。

 四剣を用いて骨怪物の脚の一つを袈裟斬りに切断。

 更に前進。

 

 足がぶれて分裂して見えるぐらいの速度で繰り出された強烈なトレースキックを、蒼炎髪の獅子獣人モンスターの胴体へ喰らわせていた。


 前蹴りポーズが渋い蹴りだ。

 その蹴りの威力はポーズだけでない。

 獅子獣人の厚い胸板を貫いている。

 背中から突き出た血塗れた足先を見ると、バレリーナのように揃った指が一つの刃物のように纏まっていることが確認できた。


 ルリゼゼは、そのままシュルッと音を立て足先を回転させると、死骸を左へ吹き飛ばす。


「ありがとう、だが、仲間の邪魔はするなよっ――」


 大声でルリゼゼに助太刀してくれたお礼を述べながら《氷弾フリーズブレット》を岩腕を持つガーゴイル型へ撃ち放ち、黒豹ロロと沸騎士たちのフォローも行う。

 そのまま右手からも<鎖>を射出。

 <鎖>はフォローではなく、白い大型怪物の全身を絡め取るためだ。先ほどより、念入りに――。

 イメージは枝にぶら下がる蓑虫。蛹。

 甲羅の上を巻き巻き、糸を巻き巻き、ねるねるねぇる的に、<鎖>の座布団でくるむように雁字搦めにしてやった。


 白い怪物の全身に<鎖>を巻き付けた。

 動きを封じた。

 こいつはもう放っておいていいだろう。


 残りの中型の骨野郎、小型を先に殲滅だ――。

 と、考えた瞬間、白いタイル甲羅を持つ大型怪物が内包していた魔力を爆発させる。


 うは! <鎖>が効かないだと?


 <鎖>で蛹のように固めていたが?

 簀巻きにし蓑虫のように囲んだ<鎖>の僅かな隙間から、にゅるりと白い液体が染み出た。


 白い甲羅だったモノが液体として這い出てきやがった。

 ドロドロしたモノが、一か所に集まる。

 

 蠢き、変形。


『あの一瞬で……』


 ヘルメが驚くのも無理はない。

 白き怪物は蛹から本当に羽化をするように完全変態メタモルフォーゼを行ったらしい。


 頭部らしきモノと二つの巨大な上腕と下腕は変わらないが……。


 一番変わったのが、太い胴体だ。

 太い胴体から多脚に掛けて、タワワに実った果実をぶら下げている。


 無数の乳房の群。

 あのぶら下がっている乳房には、ミルクがたっぷりと入っていそうで、柔らかそうではある。


 が、さすがにおっぱい研究会でも無理だ。


 そして、のっぺらぼうを彷彿とする、頭部の下に、口らしきモノを形成していた。

 口らしいモノは、裂けた。


「ギュアアアア――」


 と、割れ鐘のような奇声を発した。

 気色悪いな。


 白い怪物は<鎖>を出した俺を脅威だと判断したらしい。

 四つの巨腕をゴリラのごとく力強く前方へ動かし、浅い湖面から水を吹き飛ばす勢いで突進してくる。


 うあぁぁ、あの乳房群はヤヴァイ。

 んだが、怖いが面白い。

 走るたびにピュッピュッピューと白いのが出ている……。


 恐怖と面白さを同時に味わう。

 あの、おっぱいの大軍に全身を埋め尽くされてみるのも、新しい体験か?

 とか、ヤバイ思考が脳内に駆け巡りながら体当たりに備えた、が、あれ? 


 白き怪物は不自然な制動を見せて途中で止まった。


 揺れるおっぱいの群れ……。

 ぐぐぐ、く、やるな……。

 タワワ果実、もとい、タワワ乳房を用いてのジラシ戦術か……怪物はそのまま素早く二つの上腕を自身の斜め上へ伸ばし……。


『閣下、あのおっぱい幻術に惑わされてはいけません! わたしを使ってください』

『いや、大丈夫だ』


 でも、何をする気だ? あのおっぱい群へと送るエネルギーでも集めるのか? 


 そう疑問に思った瞬間、その両腕が十字型に四つの肉部位へ引き裂かれる。

 四つ、合計八つの肉部位は、ぶるぶると震えて白爪を生み出すと、爪は白槍のような姿へ変形した。


 白き怪物は八つの白槍と化した上腕を真っすぐに、俺に向けてくる。


 それを放ってくる気だろう。

 と思ったが、左右下腕の白巨腕が広がる。

 左右の手をパーに広げると、その白い掌が迫ってきた。ハエ叩きかよ――。


 そんなことはさせない。


 先ずは左の白巨腕の掌へと<導想魔手魔力拳>を向かわせ相殺。

 続けて、右から迫った白巨腕の掌には<夕闇の杭ダスク・オブ・ランサー>を複数召喚――闇杭の連射だ。マシンガン的な勢いの<夕闇の杭ダスク・オブ・ランサー>が白巨腕の掌を潰す。


 ハエ叩きのブロックに成功!

 しかし、その瞬間、八つの白槍が俺を貫こうと伸びてきた。


 後方へと跳躍――。

 目の前に迫った八つの白爪槍から距離を取って避けようとした。

 ところが、その八つの白爪槍が細かく目で追えないぐらいに分裂しやがった。


 くねり曲がりながら伸びてきやがった――。

 ぐああッ。

 未知の剣山を喰らったが如く、腰、足、が白爪槍たちに貫かれた。


「いてぇぇえぇッ」


 真っ赤な血が浅い水面に滴り落ちる。

 ルリゼゼといい、今日は下半身の厄日か。

 ま、裂かれたとはいえ魔竜王製の鎧を着てこなかったのもある。自業自得。


 少し反省しつつ体に刺さった白爪槍を抜く。

 痛みを味わいながら強引に引き抜き、背後へ跳躍。


 後退したところで――。

 現時点で最強クラスの魔法を唱えようか!


 ――白い怪物を睨む。


 紋章魔法の《凍 刃 乱 網フリーズ・スプラッシュ》を発動。


 透けた水色の魔法陣が目の前に展開。

 円の表面から身の丈ほどの氷の線が発生。

 氷の線は重なって、網目状となって拡大しつつ回転。


 氷の大きな網が洞窟の大気を捉えるように白き怪物に向かう。

 白い怪物は巨体。

 紋章魔法の氷の大きな網は避けようがない。


 その《凍 刃 乱 網フリーズ・スプラッシュ》は、白き怪物の顔から胴体にかけて独特の音を立てて直撃。


 一瞬で網目の模様が白き怪物の体に出現。

 その白き怪物の体に網目の《凍 刃 乱 網フリーズ・スプラッシュ》が浸透――。


 すると、タワワな乳房の群を含めた、白い怪物の頭部染みた部位が、網目状の形でバラバラと湖面に落ちる。


 白き怪物をバラバラにした《凍 刃 乱 網フリーズ・スプラッシュ》は、勢いを失わず浅い湖面をも切り裂いた。


 そのまま小さいナイアガラの滝を連想させる渓谷を作り出す。

 独特の白煙もその滝から昇っている。

 白き怪物だった白いゼリーのようなモノがドロドロと流れ落ちた。


 タフなモンスターだったが倒したか?

 ……んお? まだ蠢いている。

 滝に流失した白い肉片が逆再生でもするように集結。

 粘土のように、ぐにょりと音を立てつつ変形を繰り返した。


 そんな変形を待つほどお花畑ではない。

 <光条の鎖槍シャインチェーンランス>を二発、発動。

 《氷矢フリーズアロー》を無数に放つ。


 が、光槍は白いドロドロを突き抜けてしまう。

 《氷矢フリーズアロー》も鈍い音を立て、突き抜けてしまった。


『侮れません。なんという生命力、魔法生命体なのでしょうか……』


 魔法が効いたり効かなかったり……白き怪物はそのまま、また甲羅皮膚を持った怪物となる。

 また、メタモルフォーゼを行った……。

 姿は中型サイズ、さっきより小さくなったが、人型へ姿を変えていた。


 にょきっと生えた頭らしき部位を、いい攻撃を喰らったな。と、言わんばかりに左右へ振っていた。


 大量の乳房が消えたことが救いか。

 しかし、つるっとしたあの綿棒のような形をした頭といい、まさに、最終形態のボスだ。

 余裕めいた感じ。

 さすがは二十階層の宝箱から出現する守護者級、一筋縄ではいかない。


 形を人型に変えた白き怪物。

 幽婉ゆうえんと程遠い顔は気色の悪い黄色い眼球らしきモノと口裂け女を連想する口を新たに形成している。


 白き守護者級モンスターは、黄色の毛細血管が目立つ眼球をギョロリと動かして睨みを利かせる。

 血管も目立つ眼球の底から、粘りつくような強い光を発してきた。

 更に、裂けた口を歪めるように広げる。


「グォゲェッー」


 んお? その裂けた歪めた口で、言語を感じさせるはらわたをしぼるような叫び声――。

 全身から白い突起物を吐き出した。

 その吐き出た突起物は瞬間的に槍に成長を遂げる。


 その無数の白槍は中空で弧を描きながら俺へ向かってきやがった。


 瞬時に左手の<鎖の因子>マークから<鎖>を射出し、<鎖>による盾を形成。

 同時に――<血道第三・開門>。

 ――<血液加速ブラッディアクセル>を発動。


 <鎖>の形は方盾。

 瞬時にイメージしたから簡素バージョンだ。

 その<鎖>の方盾を使い、初撃の正面からきた白槍触手を弾く。


 <導想魔手>も発動――。


 迫る白槍触手を飛び交う蠅に見立て<導想魔手歪な魔力の手>で上から叩き潰した。


 忍者をイメージした足捌きを実行。

 浅い湖面を走った。

 水飛沫を飛ばしながら白槍触手の攻撃を避ける。


 さあて、受け身の行動はここまでだ。


 ジグザグに走った体の方向を急に変える。

 白き化け物を見据えるように睨みつけてから、左手に魔剣ビートゥを召喚。


 次々と、左上、左、右、右上から迫る白槍触手。

 訓練通りの動きを思い出しながら左手に握る片手半剣に力を入れた。

 紅い血色の魔剣魔剣ビートゥで、宙へCの文字を描くように魔剣を動かす。


 左から迫る白槍を柔らかいバターでも切るように切断――。

 一方、右手の魔槍杖で、宙に八の字を描く。

 迫りくる白槍を紅斧刃で両断――。


 白き怪物に近付くほど白槍触手群の攻撃は激しくなるが動きを止めるつもりはない。


 カガリ槍剣流の開祖の如く、魔剣を振るい、魔槍杖で突き、そのすべてを誤差なく撃ち落としながら――じりじりと白き怪物へと、にじり寄った。


 槍圏内に入った刹那。

 ――魔闘術を全身に浸透させる。


 魔槍杖を持つ右手をコンパクトに引きながら<光条の鎖槍シャインチェーンランス>を白き怪物の至近距離で連続射出。


 三つの<光条の鎖槍シャインチェーンランス>が白い怪物を貫く。

 <光条の鎖槍シャインチェーンランス>の後部から分裂しつつ光の網を形成し、光の網が、白い体を捕らえたことを視認しつつ<魔闘術>を強化。


 速度を増した俺は前傾姿勢で突進。

 交互に出す右足と左足で強く地面を蹴る。


 浅い湖面の水を潰す勢いで、左足が地を噛む。


「いくぞ――」


 そのまま腰を捻った。

 魔槍杖バルドークを前に出しつつ――。


 必殺の槍<闇穿・魔壊槍>を発動――。


 闇属性の強烈な突き技<闇穿>が白い怪物を捕らえた。

 胴体の一部を<闇穿>が貫いた直後。


 壊槍グラドパルスが出現。


 壊槍グラドパルスの闇のランスは唸り声をあげる。

 凄まじい回転速度で直進し、白い怪物の体へと侵入した。


 壊槍グラドパルスは瞬時に白きモノを、穂先のドリルの溝と螺鈿細工に巻き付けながら――直進する。白き怪物の上半身をくり抜いた。


 壊槍グラドパルスは奥に抜けると――。

 パッと次元世界に穴を空けるように消えた。


 怪物も、これは効いただろ。


 と思ったが――。

 白き怪物は、上半身がドリルにくり貫かれたような傷痕を残しても、その傷口から染み出すように白いドロドロしたモノが蠢き出していた。


 また、再生する気か?

 厄介だ。


 急ぎ<夕闇の杭ダスク・オブ・ランサー>を連続で射出。

 ――<夕闇の杭ダスク・オブ・ランサー>の闇杭が、白き怪物の傷から出したドロドロしたモノと体の塊と衝突し貫く。

 

 だが、貫いた闇杭は白い塗料をかぶったまま、白い怪物の背後を直進。

 液体を攻撃しているようで、あまり意味がない。


 白い怪物を<夕闇の杭ダスク・オブ・ランサー>が貫いた穴は瞬時に塞がる。

 回復が異常に速い。


 ならば、デイダンを屠った技を使うとしよう。

 魂の内側から闇の仏像たちを呼び覚ますように――。


 魔力を大量に消費する<闇の千手掌>を発動させた。

 虚空から闇杭の群れが瞬時に出た。

 闇の掌底、闇の大砲の弾、闇のシャワーのような多連撃を浴びせてやった。


 白きものが蒸発したように少なくなった。

 すると、真っ白い水晶の塊が見えた。

 禍々しい魔力を有した水晶の塊だ――。


 あれが心臓部か?

 急ぎ、壊す!

 またも地震を起こす勢いで僅かに前進。

 左足で、湖面ごと地面を破壊するように踏み込みから――。

 

 迅速に魔槍杖バルドークを前方に伸ばした。

 右手が槍になった如くの一の槍の<刺突>を水晶の塊に喰らわせた。

 真っ白い水晶の塊を紅色の矛が貫く。

 その刹那、目が眩むような閃光を生み出した――。


 放電か、桃色のカスミ網のような閃光――。

 独特の唸り声にも似た音響も轟いた。

 水晶の塊を破壊。

 再生中だった白色の肉が、本当のゼリーのように浅い湖面へと雪崩が起きたように落下。


 守護者級を完全・・に倒したようだ。

 魔力の気配もぱったりと消えた。

 しかし、壊槍グラドパルスで仕留められないとは、強かった。


 俺にとっては<闇穿・魔壊槍>は最大級の必殺技だが……。

 相性に範囲もあるか。


『凄いです! 閣下の槍と魔法で、巨大でタフな魔の王を感じさせる怪物を殲滅です!』

『強かったな……あの強力なおっぱい幻術が精神的に一番キタ』

『閣下……わたしが後で癒やしてさしあげます』


 そんな脳内会話を一瞬の間で行いつつ……。

 極大魔石が白ゼリーな肉片の中に混じって落ちていることを確認。


 しかし、これで、ようやく仲間の戦いに加勢できる。


「――守護者級の存在を倒した! 混ざるぞ」

「了解――こっちは大丈夫」

「――連携戦術にて対応してますぞ」

「……ゴーレムを動かしているだけだから、状況は把握できてないわ」


 ミスティはそう語るが、彼女の操るゴーレムは主軸となっていた。

 黒い鋼鉄、鉄人さんを連想させる簡易ゴーレムが、中型の骨怪物と正面からがっぷり四つ状態で対峙しているお陰で、ユイとカルードが戦いやすい環境を作りあげている。

 

 対峙中の骨型怪物は、足を一本失ってバランスを崩している。

 が、尻尾のように新しく生やした脚を使いバランスを保っていた。


 ミスティの戦い方は邪界導師キレとの戦いとは正反対だな。

 あの時、彼女は怯えてゴーレムの背後に隠れていた。


 そのゴーレムの陰から飛び出したユイ――。

 骨怪物の上部の太い触手腕を上手く斬り落とす。

 触手を斬り落とされた骨怪物は、反撃の触手をユイへ向けて放つ。

 が、ミスティの簡易ゴーレムの太い鋼鉄腕が、そのユイへ向かった触手の攻撃を見事に防ぐ。

 連携も見事。

 次にユイの反対側のカルードが動く。

 ゴーレムの足の陰にいたカルードは前進しながら骨怪物の右の触手を斬った。

 しかし、返す刀は行わない――。

 カルードは連携を重視しているのか――。

 素早く踵を返すと、簡易ゴーレムの背後へ走り戻った。


 ミスティが操る簡易ゴーレムが中心か。

 その簡易ゴーレムを盾にした暗殺者親子の魔刀と魔剣による連携剣術が冴えていく。


 四眼ルリゼゼも同様だ。

 簡易ゴーレムを前衛として盾として利用する。


 ユイとカルードの連携剣術の邪魔をしないように――。

 上腕と下腕が握る銀色の直刀剣と朱色の曲剣を使う。

 骨怪物の触手腕の一つ、二つを斬り落とし、一回転しながら追撃の唾の遠距離攻撃を切り落としてユイとカルードのフォローしてくれていた。


 一方、黒豹ロロと沸騎士たちが戦うガーゴイルのモンスターたちは全滅。

 黒豹ロロは岩石のガーゴイルの腕を口に咥えつつ――。

 捥ぎ取ったであろう違う岩石の腕に猫パンチを喰らわせて転がす。

 浅い湖面を転がっていく岩石の腕を追い掛けていく相棒ちゃん。


 神獣ってより猫として遊び出す。


 いつものアイスホッケー遊びだ。

 あの転がす遊びは好きだからなぁ……。


 沸騎士たちは遊ぶ黒豹ロロへ何かを話しかけてから――。

 中型の骨型怪物に向かう。

 その中型の骨型怪物と戦うのは、ミスティが操作するゴーレム。

 ユイとカルード。

 四眼ルリゼゼ。

 黒豹ロロは獣の習性が出たから戦力外。仕方ない。


 数の多い獅子獣人モンスターたちへ視線を向ける。

 蒼炎の髪が巻き角に絡んでいる。

 不思議な髪と角だ。


 そんな頭部を持つ獅子獣人モンスターは出現しすぎて、白い巨大怪物の守護者級に押し潰されていた。


 すると、ヴィーネがラシェーナの腕輪を使う。

 ラシャーナの腕輪から闇の妖精ハンドマッドを数体呼び出した。


 それらの闇の妖精たちは獅子獣人モンスターの数体を拘束。

 

 速やかに翡翠の蛇弓バジュラを構えたヴィーネ。

 光線の矢を射出した。

 闇の妖精が拘束中の蒼炎の髪を持つ獅子獣人モンスターの眉間を捕らえて、頭部を貫いた。

 

 獅子獣人モンスターの頭部から体に緑色の蛇が一瞬で展開するや、獅子獣人モンスターは爆発。

 ヴィーネは魔毒の女神ミセア様の力を宿っているようにも見える翡翠の蛇弓バジュラから、次々に光線の矢を放つ。


 他の獅子獣人モンスターの頭部、足を射貫いて倒していった。


 レベッカはグーフォンの魔杖を振るった。

 杖から迸る火炎が唸りをあげて四方に広がる。


 ――炎の壁を幾つか発生させた。


 蒼炎の髪の獅子獣人モンスターは炎に巻き込まれ炎上。

 蒼炎の髪は元々燃えているから、グーフォンの炎が燃え移ることはなかったが――獅子獣人モンスターの胴体は燃えている。


 エヴァは紫色の魔力を放出。

 <念導力>が操作する緑皇鋼エメラルファイバーの金属の刃の群れを宙に展開させた。

 

 その金属刃の群れを獅子獣人モンスターに向かわせた。

 一部の獅子獣人モンスターは全身に緑皇鋼エメラルファイバーの金属の刃を喰らう。


 そうして、皆の遠距離攻撃と火炎魔法を浴びた数十体の獅子獣人モンスターは倒れた。


 しかし、機敏に避けた獅子獣人モンスターたちが存在した。


 獅子獣人モンスターはモーニングスターフレイルを振り回す。

 蒼炎が灯る鉄球でレベッカ、エヴァ、ヴィーネを攻撃。

 ヴィーネは翡翠の蛇弓バジュラを背中に仕舞う。


 黒蛇と銀剣を引き抜く――。

 居合い斬りが鉄球を四つに両断。

 エヴァは黒金属のトンファーを振るう。

 蒼炎を灯す鉄球をトンファーで打ち返して弾いていた。


 野球ができるかもしれない。


「行きます!」


 再びヴィーネの声だ。

 仲間に掛け声を発してから前に躍り出た。


 左右の手が握る銀剣と黒蛇の刃を煌めかせつつ――。

 前傾姿勢で蒼炎髪の獅子獣人たちへと突進。

 エヴァに鉄球攻撃を繰り出した獅子獣人モンスターの脇腹を斬る。

 脇を切り裂いた――斬った武器は黒蛇か。


 獅子獣人モンスターの斬られた腹が毒々しい緑色へ変貌していた。


 しかし、妖しい緑の軌跡を残す一閃は見事だった。

 

 そんな素晴らしい胴抜きを披露したヴィーネに対して――。

 集まる蒼炎を頭部に灯す獅子獣人モンスターたち。


 聡いヴィーネは囲まれる直前――。

 エヴァの近くに素早く後退。


 その退いた瞬間。


 レベッカの蒼炎弾がモンスターたちに向かう。

 三メートル程の大きさはある蒼炎弾だ。

 

 集結していた獅子獣人モンスターたちと蒼炎弾が衝突。


 蒼炎弾が彼らの鎧ごと太い胴体を抉り取る。

 一気に数体を纏めて屠っていた。


 そのまま全身に蒼炎を纏ったレベッカ。

 ヴィーネとエヴァに混ざり、前衛と後衛を繰り返す。


 蒼炎を纏う拳で自身に迫った鉄球モーニングスターを簡単に左へ打ち払った。


 そのレベッカは攻撃をしてきた獅子獣人モンスターを睨むと、モンスターへ素早く前進―――。

 

 ――蒼炎の正拳突きを繰り出す。

 獅子の顔を蒼炎の拳で殴りつけて吹き飛ばした。

 カッコいいレベッカだったが、


「痛いぃ」


 レベッカは正拳突きを繰り出した腕が折れたのか?

 腕から夾竹桃の花のような血液を散らす。

 

 白魚のような手で押さえていた。

 しかし、殴られ吹き飛んだ獅子獣人モンスターは背後にいた仲間たちにも衝突し、その仲間の獅子獣人モンスターを巻き込みながら転倒。


 レベッカの見事な正拳突きではあったが……。

 レベッカの腕は鋼のように強化されているわけではないからな。


 勿論、ルシヴァルの<筆頭従者長>になったから骨とか筋肉とかはパワーアップしているとは思うが、基本は肉と骨。

 ハイエルフ故の力と蒼炎神の加護があっても、腕を折ったように極端に丈夫になったわけではないってことだろう。


 そのレベッカは痛かったことが応えたのか――。

 エヴァの隣に逃げるように退いた。


 違う方向から迫る獅子獣人モンスターたちに蒼炎弾を<投擲>。


 エヴァは前衛となった。

 近距離戦になった獅子獣人モンスターの爪攻撃を冷静に見る。

 そして、袖から出したトンファーを出して対応。

 巧みに宙に円を描くようにトンファーを動かした。

 爪の攻撃をトンファーで簡単に防ぐと――。

 そのまま紫色の魔力で体を包んだエヴァは魔導車椅子から離れて縦回転を敢行――爪攻撃を繰り出した獅子獣人モンスターの角が目立つ頭部へと、その縦回転の威力を乗せたトンファーを喰らわせた。


 ――天誅!

 

 といった声は聞こえないが――。

 そんな調子で、獅子獣人の頭部を粉砕。

 

 そして、素早くストンと魔導車椅子に座る。


 エヴァの背筋がピンと張った姿勢だ。

 座る姿勢は、すこぶる可愛いが、格好良さもある。


 刹那、その可愛く凜々しいエヴァが、視線を鋭くさせた。


 その視線も可愛い――。


 近寄ってきた獅子獣人モンスターに対して――。

 エヴァは魔導車椅子の車輪の角度を変えた。

 車輪と接した地面から焼け焦げたような煙が出る。

 そして、<念導力>の紫色の魔力が包む円月輪を車輪から出した。

 その円月輪は獅子獣人の蒼く燃えた髪を切断。


 三つの巻き角を切って獅子獣人の黒色の鎧ごと胴体を両断した。

 紫色の魔力念動力が強すぎて――。

 どの金属を基にしているのか分からなかったが、あの車輪から飛び出た円月輪は強力だ。


 エヴァ、ヴィーネ、レベッカは上手く連携しつつモンスターを対処していった。

 が、まだまだ、蒼炎の髪と三つの巻き角を持つ獅子獣人モンスターの数は多い。


 このまま各個撃破でもいいが、ここは纏めてやるか。


「――レベッカ、ヴィーネ、エヴァ、纏めて引き寄せながらこっちに連れてこい」


 大声で指示を出す。


「了解――」

「ん、分かった」

「お任せください」


 素晴らしい。

 彼女たちは自然と殿戦、繰り引き戦術を個人単位で行っている。


 エヴァとレベッカが退いたところにヴィーネが単独で奇襲。

 奇襲をしたヴィーネはすぐに後退。


「ぐぉおおおおおお」

「ぐじゅうううう」


 蒼炎の髪と三つの巻き角を頭に生やした獅子獣人モンスターたちは悔しそうに吠えて、ヴィーネを追い掛ける。

 そこに、退いていたエヴァとレベッカが追撃に出たモンスターたちに急襲して、ヴィーネは楽々と後ろに下がった。


 エヴァとレベッカは急襲後、速やかに後退。 

 当然、モンスターたちは彼女たちを追い掛ける。

 そこに退いていたヴィーネがまた急襲するという仕組みだ。


 確実に追い掛けている獅子モンスターは数を減らしていく。


「――お待たせ、後は頼むわ」

「ご主人様っ」

「ん、まだ数は多い」


 彼女たちが後ろに下がったところで、


「後は任せろ、俺より前に出るなよ。<血道第三・開門>――」


 魔石は減るだろうが、構わない、指定座標確認。

 <始まりの夕闇ビギニング・ダスク>を発動。


 一瞬にして、指定の範囲に闇が生まれ出る。

 闇が洞穴を侵食した。


「グォォォ」

「ギュォッ」

「ガギュウウッ」


 突然の暗闇世界の誕生に蒼炎の髪が目立つ獅子獣人たちは大混乱。

 目の前を進めずに右往左往しながらモーニングスターを振り回し始めて互いに殴り合いを始めていた。


 そんな闇、狂気の世界へ俺も足を踏み入れる。

 モンスターとて、闇世で狂い咲くのは変わらないか。

 邪悪な笑みを浮かべてから……。


 <夕闇の杭ダスク・オブ・ランサー>を発動。


 闇の杭が地面から湧き立ち、目印のように目立つ蒼炎の髪と巻き角を持つ獅子獣人モンスターたちの全身を串刺しにしていく。


 杭の嵐により、蒼炎髪が舞い獅子たちが踊っているようだ。


 続けて、<闇の次元血鎖ダーク・ディメンションブラッドチェーン>を発動。


 意識とリンクした闇世界の虚空から紅蓮の血鎖たちが生まれ出る。

 血鎖は闇世界を貫く。

 鏡が割れるようなオーケストラが響き渡り血鎖は全てを引き裂いた。獅子獣人モンスターたちの痕跡は跡形もない。

 少しだけ大きな魔石が落ちていたが。


『闇の帝王たる力です』


 視界の端に居る小型ヘルメは頷きながら注射機を空へ掲げて喜んでいた。


「ん、怖いけど、興奮する、わたしたちと同じ血だから?」

「深淵なる闇……血の鎖?」

「前にも見たことがありますが、この御業は恐怖を覚えますね……」 


 暗黒の技を間近で見た彼女たちは、恐怖と同時にルシヴァルの血が騒いだらしい。


 もう一つの戦いの現場であったミスティが操作している簡易ゴーレム、ユイ、カルード、沸騎士たち、四眼ルリゼゼが戦っていた触手を持った骨型のモンスターも、その全部が倒されていた。


「これで、全部倒したか」

「ん――」


 エヴァは乗っている魔導車椅子を変形させて車輪が足の横に付いた初号機モードへ変化させている。

 くるりとその場で回り、菖蒲の花を彷彿とさせる瞳を輝かせて微笑していた。


「やったあ、ミスティたちもがんばった。ていうか、こっちのは数が多かった」


 レベッカは全身に纏っている蒼炎を維持した状態だ。


「はい、さすがに小規模の軍隊を相手しているようで、大変でした」

「皆、頑張った」


 そのまま宝箱の場所へ皆で歩いていく。


「――にゃお」 


 姿をいつもの姿に戻していた黒猫ロロが鳴きながら肩に乗ってきた。 

 アイスホッケー遊びに飽きたらしい。 


 四眼ルリゼゼも武器を仕舞いながら近寄ってきた。


「シュウヤは言うまでもなく圧倒的だが、お前たちも凄い。まるで……死海騎士のようだった」

「死海騎士とは何だ?」


 俺が問うと、ルリゼゼは眼帯を掛け直しながら、


「ん、地上では知らぬのか。魔界で有名な騎士たちだ。暴虐の王ボシアド様が有する最強の騎士たち。その暴虐の王ボシアド様もお前たちの動きを見たら、陣営に引き込みたくなるだろう」


 魔界の神様か……。

 魔界セブドラの神絵巻にも描かれてあった。

 マッチョ的なイケメンの神様。


 そんなむさくるしい陣営には誘われても所属はしたくない。


 少しトラウマになりそうな乳房の群で……。

 おっぱい研究会が根底から揺さぶられる経験をしたが……。

 所属するなら……。

 おっぱい神……ではなくて魔毒の女神ミセア様がいい。

 ヴィーネ繋がりもあるし。

 あの巨大な巨乳の上で寝たら……。

 そんな巨乳で行う、おっぱいトランポリン同好会を立ち上げるのだ。


「……シュウヤ、何を考えている?」

「おっぱ、いや、それよりルリゼゼだ。今の魔宝地図戦を手伝ってくれてありがとう」

「まともに礼を言われるのは数千年ぶりだ……」 


 ルリゼゼは頬を朱に染めた。


 すると、俺の肩を前足で叩いている黒猫ロロが、ルリゼゼを見ながら、


「ンン、にゃお」


 と、鳴いている。

 ルリゼゼの顔は他とは少し違うから?

 黒猫ロロは興味を持ったとか?


 その黒猫ロロは、


「ン、にゃんお――」


 そう鳴いてから肩から跳躍。

 地面に足をつけた黒猫ロロは黒豹に変身。


 黒豹となった相棒はルリゼゼに攻撃でもするのかと、少し焦ったが、杞憂だった。


 相棒は湖面を走る。

 走った先には守護者級の名残の……。

 白い肉の塊と一緒になっていた極大魔石。

 その極大魔石に触手を伸ばすと、絡ませる。

 

 その極大魔石を握った触手を俺の前に運んでくれた。

 肉球が包むような極大魔石だ。極大魔石を受けとる。

 回収してくれたお礼に――。

 モミモミと、触手の肉球を優しくマッサージ。


「ロロ、ありがとな」

「にゃお」


 相棒は嬉しかったのか。

 四肢を躍動させるように、俺の足元に戻ってくる。

 

 脛に頭部を衝突させてきた。

 脹ら脛の臭いでも嗅ぐように甘噛みを繰り出す。

 黒豹だから痛いが……我慢。


 黒豹ロロは満足したのか「ンン」と喉声を発してから、脛に尻尾を擦りつつ見上げてきた。


 紅色の虹彩と黒色の瞳が可愛い。

 やや黒色の瞳が散大している。少し興奮気味か。


 ――膝を折るように屈んだ。

 その可愛い黒豹ロロと視線を合わせる。

 頭部の薄い毛を指で梳くように耳まで撫でて上げた。


 黒豹ロロは俺が撫でるたびにゴロゴロと喉を鳴らす。嬉しそうに双眸を閉じては開くを繰り返す。すると、俺の腕を咬むように頭部を寄せてくる。

 そのまま後脚で立つような体勢となって、少しジャンプでもするように、俺の頬にも頭部をぶつけてきた。愛情の伝え方が可愛い。

 そんな愛しい黒豹ロロの鼻先を指でツンと突いてから立ち上がる。


 洞穴の中心に存在している白銀の宝箱を見た。

 宝箱の白銀光が湖面に反射して、キラキラと輝きが辺りを神々しく感じさせた。


 さて……。

 白銀の宝箱の中には、どんなお宝が入っているんだろう。

 楽しみだ。わくわくする。

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