二百二十一話 ルリゼゼと決着

 彼女が向かってくる間に、右手に魔槍杖を召喚。


 しかし、タフな女魔族だ。四眼ルリゼゼ。

 普通ならあの魔力拳で潰れている。


 彼女は飛んでくる速度を生かすつもりなのか、腕の軌道、リーチを犠牲にしながらも肘を曲げ、振り幅を小さくした寝かせた刃で俺の頸を払おうと薙いできた。

 さっきより剣速が速い。


 俺はその剣速を目で追いながら魔闘術を一時的に解除。

 速度を落としても、彼女は右手に握る朱色の剣一本のみ、その動きは追える。

 横から迫るルリゼゼの曲剣へ八の字を描くように紅矛を衝突させた。


 魔槍の紅矛が紅色の虎が口を広げ曲剣を食うかのように外側へ弾く。


 紅い軌跡が視界に残る中、その魔槍の紅矛をルリゼゼの胸元へ伸ばす。

 彼女は怪我を負いながらも滞りのない足捌きで円運動を行い、弾かれた曲剣を胸元に構え戻しながら、俺の紅矛の突きを避けてきた。


 左側の位置に移動したルリゼゼ。

 彼女は地を蹴り、僅かに宙に浮かぶ体勢で朱色曲剣を斜め下へ向け伸ばしてくる。


 その朱色の釼先は俺の胸をえぐり取るような軌道。

 だが、突きの速度はさっきより一段階下がった。

 ルリゼゼは怪我の影響か動きが不安定なのかもしれない。


 俺は爪先を軸とした必要最低限の回避運動を行う。

 身に迫る剣突きを余裕ある間合いで避けながら、引いていた右手を前へ捻り出す<刺突>を彼女の腹へ向けて繰り出す。


 ルリゼゼの腹へ、螺旋する紅矛<刺突>が刺さる。かと思われた瞬間、彼女は大柄な体格に似合わない動きを見せた。

 螺旋する<刺突>の魔槍を棒高跳び競技の棒にでも見立てたかのように、彼女は朱色の曲剣を握る右手が伸びきった状態で、魔槍の上をくるり舞い回り<刺突>を華麗に避けてきた。


 ――凄い、素直に称賛。


 彼女は膝を曲げ重心が下がった体勢の着地。


「終開眼<魔靭・鳴神>」


 そう呟いた瞬間、緑のオーラのような魔力を身体中から噴出させる。

 そして、バレリーナのような足先で湖面の上を削り取るように水飛沫をあげる水面蹴りを放ってきた。


 俺は湖面に沈む自身の足を、更に深く沈み込ませてから地を蹴り、跳んでその蹴りを避ける。


 蹴りなら蹴りを!


 地を這う水面蹴りを跳躍しながら避けると同時に、邪界導師キレが使っていた簡易バージョンを意識。

 宙で腰を捻る上段回り蹴りを、ルリゼゼの頭へ放つ。


 ルリゼゼは左顔面が腫れて血塗れた顔だが、愉悦を感じさせる嗤い顔を浮かべながら背を弓なりに反る体勢で俺の蹴りをあっさりと避けた。

 やはり、キレ・・がまだ足らない。


 緑の魔力を纏った彼女は身体能力が増したのか、仰け反り姿勢からむくっと素早く体勢を持ち直す。


 それから魔族らしく鋭い歯を見せる。

 傷付いた歯牙の間から、くっはっとした独特な冷笑を溢しながらナイフトリックを行うような素早さで、曲剣の持ち手を左の上腕の手へ変えていた。


 俺の<導想魔手>で殴った左側面側の殴打は、表面のみであまりダメージは蓄積しなかったのか?


 ルリゼゼはその素早い所作で左手に握り直した曲剣の釼先を、疑問を浮かべている俺の胸元へ向け、連続的に突いてきた。


 緑の魔力を纏った彼女は動きが疾い。

 曲剣の切っ先が頬をかすめ、肩先に食い込み、血が間断なく噴き出て痛みを感じるが、俺は円軌道を維持して踊るように避けた。


 そこで魔闘術を再度、両足に込める。


 <血液加速ブラッディアクセル>の血が末端の神経にまで行き渡るように血流を魔闘術が後押す。

 速度を増してから砂地を強く蹴り、円から直角軌道の動きに変えて、ルリゼゼとの間合いを詰めた。


 槍圏内に入った直後――。

 鋭い踏み込みから普通の紅矛の突きをルリゼゼの胸元へ伸ばすが、彼女は左上腕に握られた曲剣の刃を上向かせる。

 滑らかな刃の軌道で自身に迫る刺突の紅矛に沿うように剣刃を当ててきた。

 そのまま指で押すように外へと螺旋した紅矛を弾く。


 突きを簡単に往なしてきた。


 間髪容れずに魔槍杖を下から弧を描くように動かす。

 石突部位である竜魔石でルリゼゼの臀部を狙うが、また、半円を描くように曲剣が動く。

 まるで栁の枝を連想させる軌道の刃により竜魔石が外へさっきと同様に押し出される。


 俺の力を逆利用するような柔剣術により、股間潰しの竜魔石攻撃は防がれた。

 ルリゼゼは俺の魔闘術と血液加速の速度に対応している。

 彼女が呟いたように、魔眼<魔靭・鳴神>とやらの最終段階の力か。


 力、速度、技術が一段階上がったように動いていた。


 剣を持っていない三本腕もそれぞれリーチが違うのを生かすように、風を生み出すような高速のストレートパンチを繰り出してくる。


 俺は槍組手で対抗。


 彼女の腕を絡め取ろうとするが、ルリゼゼはスラリと伸びた足技も繰り出してきた。


 彼女の砂金のような汗の粒が足筋の上を流れ飛んでくる。

 戦士の汗と息深いを間近で感じながら、俺は彼女とダンスを踊るように踝、足首、脛、膝といった部位へ、同じ足の部位を衝突させる。その華麗な足技を即座に封じた。


 しかし、彼女は朱色の剣刃も別の生き物のように動かしてくるので、その剣刃を避けつつ魔槍で弾きながら間合いを維持するように戦う。


 一進一退の攻防が続く。


 コンマ何秒の間の争いの中、何十人も殺せそうな技の応酬を互いに繰り出すが、魔槍杖の決定的な一撃が打ち込めない。


 だが――ここらで均衡を崩す。


 首筋を狙うような鋭い薙ぎを紅斧刃の上部で受け止め、逆に力で押し返す。

 昔、師匠にも褒められた一流の類といわれた魔闘術の質はさらに伸びていると自負している。

 偉大な神王位たちリコ&レーヴェ・クゼガイルの魔力操作、戦いの技術、カルード、ヴィーネ、ユイの歩法、剣術、魔力操作を身近で学び、少し前に戦ったキレの魔力操作と蹴りの技術を実戦で学んだ経験はプラスになっているはずだ。


 経験を自らの身体に言い聞かせるように、身体に纏う魔闘術の配分を微妙に変化させた。


 ――ルリゼゼのタイミングを微妙に狂わせてから、突きモーションの魔槍杖をルリゼゼの胸元へ真っすぐと伸ばし浅く・・小突く。


 小突いた槍は想定通り軽く往なされる。

 直ぐにルリゼゼは、前に突進しながら朱色の曲剣の釼先で俺の胸を突き刺そうとしてきた。

 両手に持っていた魔槍を前に押し出し中部の紫棒をその朱色の釼先へ衝突させる。

 そこからリコの技術を応用し、その押し出した魔槍を横へ小刻みに動かしながら朱色の剣を引っ掛けるように払い流す。


 同時に、微妙に変えていた全身に纏う魔力を強化しながら足を根にした爪先を軸に体躯を横回転させる。

 体幹はあまり揺らさず、駒の回転運動を超えるような速度を出しながら、魔槍杖を右から左へ疾風迅雷の域で振り抜いた。

 朱色の剣が左へ引っ掛かり体勢を僅かに崩していたルリゼゼはこの神速を感じさせる一閃に対応はできない。


 彼女の上肢の右手の一部を紅斧刃で斬ることに成功した。

 同時に薙ぎった魔槍を持つ右手を胸元に引き寄せる。


「くっ――」


 ルリゼゼから苦悶の表情と痛みの声が漏れた。

 そこから畳み掛ける。

 布石・・の魔力を込めた下段足刀で、相手の足を狙った。

 彼女は右手を斬られていたが、即座に反応。

 緑の魔力を纏った体躯で、地を蹴り、バレリーナのように跳躍して俺の蹴りを避けてきた。


 その空中に居るルリゼゼへ向け、引いていた魔槍を持つ右手を捻り渦を出すイメージで突く紅矛螺旋の<闇穿>を発動。


 風を巻きこむように螺旋する闇靄を纏った紅矛と紅斧刃。

 宙に浮く体勢のルリゼゼの胴体へ風穴を空けてやろうと思ったが、彼女は魔槍の回転に合わせるように緑魔力に包まれている自らの体躯を捻り横回転させながら朱色の曲剣を闇靄を纏った紅矛へ柔らかく衝突させて上方へ闇の紅矛を弾いてきた。


 闇穿が弾かれた。

 ある程度予想はしていたが、少しショック。

 しかし、俺の本命はこれだ――魔槍杖を握る手を引き戻しながら肘を僅かに曲げコンパクトを意識しながら魔槍を掌の中で縦回転させる。


 と、同時に微細な魔力を魔槍杖へ注ぐ。


 ペンマジックを行うように掌の中で回転している魔槍の表面から魔力の波紋が透き通りながら石突部位の竜魔石へ向かっているのが視界にチラつく。

 魔力が竜魔石にへ注がれた瞬間――。

 竜魔石の中心にある小さい円環のような方位体が魂を得たかのように強く煌いて竜魔石が蒼一色に輝くと同時に蒼氷の広刃剣が生成された。


 掌で回転を終えた魔槍杖は上下が逆さま状態。


 しかし、先端の竜魔石から表面に薄っすら白い靄を宿している蒼氷の広刃剣がまっすぐと伸びているので、紅矛と紅斧刃が後端に見えてくる。

 ルリゼゼは四つある眼で隠し剣氷の爪を見て、驚いているが遅い。

 闇を纏った螺旋の紅矛を柔剣術で弾いたので、彼女の片腕で扱う朱色の剣刃は方向が逆だ。

 そのまま<刺突>を発動。

 螺旋回転する隠し剣氷の爪が、ルリゼゼの無防備な鳩尾みぞおちを捉え貫いた。


「――ぎゃっ」


 痛みの声をあげたルリゼゼ。

 彼女の装着していた特殊な黒革鎧が回転する隠し剣氷の爪により綺麗な円形に捲れ貫かれ身体も回転し吹き飛んでいく。

 ルリゼゼは後方の中央にあった巨岩に背中から衝突。

 岩を破壊した反動により浅い湖面の上に転がり仰向け状態で動きを止まる。


 浅い湖面の上に血の波紋が流れ、赤く染めていく。


 彼女の身体を覆っていた緑のオーラ魔力も消えていた。

 もう起き上がれないはずだ。

 普通なら死んでいると思われるが……なにしろ彼女は普通ではないので、まだ分からない。


 決して油断した訳じゃないが、ここで魔闘術を解除。

 血の放出も止めて、血魔力<第三関門>を自然に閉ざす。


「勝負あった? てか、焦ったわよ。足が斬られるとこなんて初めて見た。シュウヤも完璧じゃないのね」

「ご主人様の槍使いとしての実力を以ってしても、未知の強者には苦戦もします」

「うん、でも正直、心臓に悪い……」


 レベッカが泣きそうな顔を浮かべて呟く。

 済まん。しかし、ヴィーネがいうように強い奴は本当に強い。

 魔族のルリゼゼ、邪族のキレ、偉大な強者だ。キレは殺してしまったが、尊敬を抱かせる動きの質。

 彼はルリゼゼと同じ四剣使いのようだったが、あの華麗な足技の方が印象深かった……今後も、ヤゼカポスの短剣とレンディルの剣を持っていた青銀のオゼと同様、脳裏に焼き付いて残り続けると思う。


「わたしも一瞬、身が凍った……。でも、同時に相手の四眼、魔力操作、四剣の技術、どれもが素晴らしい技術を持った剣士だったから、シュウヤじゃなくて、その動きを自然と追っていたわ」


 ユイも剣術を扱うからな。


「武術も奥が深いのね……」


 レベッカは腕を組んでユイの言葉に頷く。

 彼女には珍しく真剣な表情だ。


 確かに武の奥は深い。同時に師匠の言葉が過る。


『……最後に一つ忠告しとく。魔技の術を修めたからといって“絶対強者”ではないということだ。常に世の中、解らんことが起こる、気を付けるのだぞっ。そして、ロロ様とシュウヤの旅の無事を祈る、ラ・ケラーダッ!』


 ラ・ケラーダ!

 師匠、その通りでした。強者は無数に居ます。

 そして迷宮という地下二十階層は別大陸という別世界。

 翻訳スキルがなきゃ到底理解できないことばかりでした。


「はい、武術には限りがなく……特にあの片手剣に移行してからの剣技術は特筆すべき動きでした。尊敬に値します。ご主人様はその尊敬できる相手に勝利しました。凄く誇らしいです」

「ん、途中のドガァッて吹き飛ばして、また戦い出してから激戦になった。槍のピューと持ち上げ、ジャッと、振り下げるとこ、凄い!」


 エヴァはヴィーネの言葉に同意しながら、一生懸命にトンファーを使い再現しようとしている。

 その仕草は段々と上手くなっている気がした。


「訓練の時から思っていたけど……マスターの槍って、非常に洗練された槍の動きよねぇ。素人の目でも分かる。素朴な疑問なんだけど、なんで、そんなに槍が“糞”上手いの?」


 ミスティが聞いてきた。


「前にも少し話したけど、槍のお師匠様がシュウヤには居るからね」


 俺が答える前にユイが説明していた。


「あ、影響が云々って話ね」

「うん。昔、命を救われた時、シュウヤは尊敬できる偉大な師匠だと話してくれた。コテンパンに倒されながら槍武術を学んでいたんだ。と、楽しげに教えてくれたの」


 ユイが自慢気にミスティへアキレス師匠のことを語る。


「あの繊細かつ豪快な槍武術には、大本が居ると……」


 ミスティは納得顔を浮かべて、羊皮紙の切れ端で作られたメモ帳にまた走り書きを行っていた。

 こうなると、もうあの走り書きも一種の癖なのは確実だな。


「前に少し聞いた事があります」


 ヴィーネは小さく頷く。


「先生、元気にしているかな……」


 エヴァは昔を思い出したのか、愁いの表情を浮かべている。

 彼女を教育した先生には会ってみたい。


「……さぞや、偉大なる槍マスターなのでしょうな」


 カルードは武人として呟く。


『わたしも閣下のお尻の中で生活をしていましたから、詳しくは知らないですね。そもそもお尻の教育――』


 視界に現れた小型ヘルメちゃん。

 彼女は腕を組み、小さい頭を何回か頷きながら話すと、いつものお尻に纏わる変な蘊蓄を語り出したのでシャットアウト。


 彼女たちが師匠のことを話すので否が応でも……思い出す。

 今、師匠はどうしているだろうか。

 いつもの日課に槍の訓練をしているのかな。

 レファ用の弓をもう仕上げた頃かもしれない。

 ラグレンと一緒に酒を飲んでたりして……畑、薬作り、鍛冶、趣味の将棋のような駒を作りこれは悪手だ、とか独りでぶつぶつ言っているかも。


 あの頃は、激しい訓練の毎日だったけど……。

 新しい発見の毎日で面白かったなぁ。

 懐かしい……会いに戻るのも、面白いかもしれない。

 巨獅子型黒猫ロロディーヌに乗り、エルフの国がある場所を迂回しながら山間部を越えて、マハハイム山脈の高原地帯を目指すか?

 しかし、師匠がくれた地図はもうないし、ある程度は頭に入っているけど、ゴルディーバの里をピンポイントで探すとなると……。


 それなりに時間が掛かるだろうな。

 あの沼、崖、森林、山、隘路あいろの大いなる自然地帯。


「……シュウヤ、あの怪物が、まだ動いているっ」


 と、レベッカの甲高い女性声で過去の光景から呼び戻された。 


「やはりまだ生きているか」


 四眼ルリゼゼは眼、口、から出血し、左胸に岩が突き刺さり、鳩尾が隠し剣氷の爪により穴が空いている。

 彼女は必死に立ち上がろうとしているが、足や手が震えて思うように動かないようだ。


 その倒れているルリゼゼに近寄っていく。


「ルリゼゼ、勝負はついたな」

「ぐ……ぐぁ」


 喋ろうとした彼女は勢いよく吐血した。

 胸、人でいう肺の位置に岩の欠片の一部が、鎧を突き抜けている。


「我、負けっ、ぐふぁっ」

「もう喋るな――」


 アイテムボックスから高級回復ポーションを数個出す。

 殺し合いの結果だが、もう十分だ。


 自然と助けようと行動を起こしていた。


「……最初は痛むが、我慢しろ?」


 突き刺さった岩を右手で掴み、素早く引き抜く。

 悲鳴をあげるルリゼゼへ回復ポーションを掛け、人に似たピンクな唇を無理に指でこじ開ける。


 折れた鮫歯を数本取り出してから、ポーション瓶のお猪口の部分を傾けるように口の中へ注ぎポーションを飲ませてあげた。


「――ゴホッゴホッゴファッ」


 咳き込んでしまうが、左胸の穴と鳩尾の鎧穴からは出血が止まっているので、傷は塞がっているはず。


 一応、上級の《水癒ウォーター・キュア》を念じ、発動。


 水球、光と丸み帯びた透き通った水塊が目の前に発生。

 その水塊がぐにゃりと崩れ、細かい霧粒子となって四眼ルリゼゼの全身に集中して降り注ぐ。

 ポーションにより怪我の個所は治っているので、この魔法は余計かもしれないが、一応かけた。


 彼女の咳が止まる。


「……助かったの、か?」


 四眼ルリゼゼは低い口調でたどたどしく語りながら四つの眼を目まぐるしく周囲へ動かす。


 そして、ゆっくりと大柄な上半身を起き上がらせた。


「そうだ。助けた。魔族か分からない種族でも、ポーションとか回復魔法は効くんだな」

「……光属性以外のなら何でも効く。しかし、我は魔眼<魔靭・鳴神>を解放して負けたのか。そして、殺されず助けられた、と……屈辱。だが、不思議と心が澄み切って気持ちがよい……」


 清々しい顔色だ。

 壮絶な武術を使った殺し合いの結果だが、憎しみとは違う何か・・を感じたのはルリゼゼも同じらしい。

 しかし、心が澄み切って気持ちがいい、か……。


 言い得て妙だ。

 何か・・ではなく、その通りだと思う。


 さて、本題に入る。


「……ところで、もう一度問うが、ここで魔宝地図を使用していいよな?」

「ふ、構わん、好きにするがいい。わたしも魔宝地図の戦いは見たいが……」

「戦いをか? 邪魔はするなよ?」

「……そんな無粋な真似はしない、偉大なる強者シュウヤよ……」


 ルリゼゼの四つの眼を震わせながら語る。

 彼女は俺の顔を一心に見つめてきた。


「わかった」


 彼女へ笑みを浮かべてから踵返し、仲間たちのもとへ歩いていく。


「魔宝地図を置く許可がおりた。皆、戦闘準備」

「うん、けど、あの四つ眼の怪物はどうするの? 助けていたけど……」

「見学するらしい」


 視線を四眼ルリゼゼへ向けながら話す。

 彼女は壁にある出っ張り岩椅子に座っている。


「信用できるの? 守護者級と戦っているところに、厄介な敵がもう一つ増えるのはいやよ」


 レベッカが蒼い双眸で睨みながら腕を組む。


「それはないと思う。あいつ、俺が二本腕だからか、最初二つ目と二本の腕のみで戦おうとしていた武闘派だ。見た目と違い、できるだけ対等な立場で真剣勝負をしたい純粋な戦闘狂と見た」

「粋な女、素晴らしい戦闘民族です。興味が湧きました」


 ヴィーネは壁に座り休む四眼ルリゼゼへ向けている。

 強者を尊敬するダークエルフ的に相性はいいかもしれない。


「あいつの名前はルリゼゼだ。魔族、シクルゼ族とか、んじゃ、地図を設置するとして、こないだと同じように守護者級は俺が貰う。皆は他のモンスターに対処してくれ、いいな?」

「了解」

「……納得はしてないからね! わたしはあの怪物ルリゼゼから離れた位置の反対側で蒼炎弾を用意しとく」


 レベッカは俺を真面に斬ったルリゼゼが怖いかムカついているのか分からないが、反抗を示した。

 ま、四眼を持つし、言葉も分からないし怖いよな。


「ん、レベッカ、心配しすぎ、向かってきたら緑皇鋼エメラルファイバーの金属で穴だらけにする」


 エヴァはレベッカに対して、ヴァンパイア系らしい目尻に血管を浮き出させながらの、死神天使たる微笑を浮かべている。


「う、うん」


 レベッカは目をぱちくりと瞬きしてエヴァの顔を見る。


 そのエヴァは、気にせず魔導車椅子をエヴァ初号機へ変化。


 無敵なヒーローを連想させるローラー滑りで素早く移動。

 滑りながら相手を壊す競技にも、出ていそうな感じだ。

 足裏の金属から杭が出て回転に利用している。


 エヴァの機動に感動を覚えながら魔宝地図を持ち、浅い湖面の中へ水が染み込んだ革靴を埋めながら歩いていく。

 ルリゼゼとの衝突により中央の岩は崩れて散らばっている。


 魔宝地図の指定場所はここだ。そこで、振り返った。

 仲間たちの姿を確認。


 直ぐ後ろに、ミスティの操る金属の簡易ゴーレムが仁王立ちだ。

 左に、盾前衛の黒沸騎士、右に、赤沸騎士が方盾と剣を構えて立つ。


 少し離れた左の後方に強襲前衛のユイ。

 右の離れた位置にカルードが魔刀の持ち構えている。


 中衛には黒豹ロロが無数の触手を宙に漂わせながら出現する獲物を虎視眈々と待つ。

 その隣には翡翠の蛇弓バジュラを構えたヴィーネが立つ。


 後列にエヴァ。体から紫色の魔力を放出させつつ体が浮いていた。

 魔導車椅子も両足を乗せる踏み板と、その足の両側に車輪が付いた乗り物に変化させている。

 周囲には緑色の金属の刃も浮いている。


 エスパー・エヴァと呼びたくなる格好だ。


 ミスティはその浮いているエヴァの後ろに立つ。

 ミスティの前衛として前に立つゴーレムと距離は離れているが、ミスティ的に支障はないようだ。


 レベッカは最後尾の位置。

 グーフォンの魔杖を持ちつつ周囲に蒼色に燃えている丸い弾を五つ浮かせている。

 そのグーフォンの杖の周りに漂わせて、新しいお手玉を披露するように遊んでいた。


 そのレベッカが警戒している四眼ルリゼゼは、俺たちの正反対の位置にある岩壁を削られてできた岩の椅子に座り、こちらの様子を眺めていた。


 レベッカは心配しているが、彼女は寧ろ味方してくれるような気もする。


「それじゃ、置くぞ――」


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