百五十二話 高級戦闘奴隷

 キャネラスと共に俺たちは屋敷から外へと出ると、綺麗な庭を通り門まで進む。

 すると、門の前に停まっている長方形の特殊馬車が見えた。


 お、あの大型馬車見たことがある。


 その馬車の後方にキャネラスが近寄り、彼は片手を上げる。

 即座に馬車の後方の扉が上向いて開く。

 洒落た扉だ。

 馬車の下部から木製タラップが地面へと伸びる。


「この馬車で進みたいと思います。どうぞ、皆様も乗ってください」


 キャネラスは深みのある独特の笑みを見せてから、タラップの上を歩いて馬車の中に入っていく。


「大きい馬車ね」

「俺たちも乗り込むぞ」

「ん」

「はい」


 俺たちはキャネラスに続いて馬車の中へ入り込む。


 馬車の中はソファの椅子が横に並ぶ。

 小さい机と箪笥も真ん中にあった。

 天井は水晶体の光源がある。

 前は、四角い木枠の窓がある。

 その窓から手綱を操作する御者の背中が見えていた。


 しかし、豪華な馬車だ。

 VIPが乗る専用のロールスロイスという感じか。


「ささ、皆さん座ってください。奴隷商館まで出発しますよ」

「あ、あぁ」


 きょろきょろしながらソファに座った。

 皆、赤茶色の革張りソファーに座る。


 エヴァは魔導車椅子だ。

 入った位置で待機。

 あまり馬車の奥には進まず様子を見ていく。


 緊張を持って座っていると、キャネラスは馬車の仕切られた前部を叩いた。


 その瞬間、馬車は走り出す。

 通りは舗装した街道だからかもしれないが……。

 思ったほど馬車は揺れない。


 この辺からしても高級馬車なのかもな。

 そんな馬車について感想を持っていると、キャネラスが話しかけてきた。


「シュウヤさん。奴隷はどんなのをお求めで?」


 どんな奴隷か。

 まぁ、希望だけいうか。


「迷宮の深部を経験している……できれば〝強くて綺麗〟な奴隷がいいです」


 と、望みを言った。

 対面のキャネラスは片方の金色の眉をピクリと動かして、


「深部といいますと、現時点で最深部であると言われている十一階層ですか?」


 と、聞き返してきた。

 十一階層はさすがに無理があると思うが。

 一応、聞くだけ聞くけどさ。


「……そのような深部に挑戦できる凄腕の奴隷がいるのでしたら嬉しいですが」

「深層に潜るだけのポーター荷運び人としての役割でしたら、普通の奴隷で豊富にいますよ」


 あっさりと肯定。

 荷物持ちだけとはいえ、いるのかよ。

 転移場所である水晶体の場所が安全なら大丈夫か。


 キャネラスは俺の反応を楽しむかのように話を続けた。


「……しかし、十一階層に出現するモンスターと戦える戦闘奴隷と、なると、さすがにいませんね。十一階層で戦える戦闘奴隷は六大トップクランでも欲しがる人材ですから」

「そりゃそうですよね」

「はい。ですが、わたしが持っている高級戦闘奴隷の中に、八階層までを経験しているベテラン冒険者並みの戦闘奴隷を数人……それと、迷宮の経験は浅いですが〝強い〟と思える奴隷はそれなりに揃えています」


 八階層までの経験を持った戦闘奴隷か。

 それは理想的だ。経験は浅いけど強そうな戦闘奴隷も気になる。


「少し楽しみになってきました」

「それは僥倖。実は先日、シュウヤさんとお別れした直後のお話なのですが、わたしは色々と伝を使い、使える戦闘奴隷を買いあさりましたからね、地下オークション級の者も用意できましたよ」


 まじか、あんさんやるねぇ。

 さすが、胸毛が毛深いだけはある。


 今は見せてないけど。


「……そこまでですか、期待しますよ」


 称賛する気持ちでキャネラスを見ながら語る。


「えぇ」


 キャネラスは奴隷商人の意地なのか、自信満々の笑顔だ。

 商人とお得意さんの、会話を続けながら一時間ぐらい時が経つと、走っていた馬車がストップした。


 馬車の後部が持ち上がり扉が開く。タラップが地面に降りる。

 時間的に昼下がりかな。場所は大通りのようだ。

 馬車の中からでも、多数の人々が行き交っているのが見えた。


「ここです。降りましょう」

「はい」


 皆、タラップから降りた。

 降りたメンバーを確認したキャネラスは、腕をさっと伸ばし、


「目の前の赤煉瓦の建物が、我が商館、【ユニコーン奴隷商館】ですよ」


 と、発言。

 その商館は煉瓦仕立ての横広い一階建ての作り。

 左右対称のアールデコ風。

 玄関口も瀟洒な細工がなされた彫像が多数並ぶ。


 どこぞの高級貴族が住む洋館という感じだ。


「では、先導しますね」


 キャネラスは、俺たちの表情から満足感を得たのか、独特の笑顔を繰り出す。

 そのキャネラスは俺たちに一礼すると商館に向けて歩いていった。


 俺たちも続く。


「ん、床が地続きで入りやすい」


 地べたを車椅子で進むエヴァが玄関口を通りながら話す。


 確かに、床がコンクリ―トのような石道だ。

 なだらかに続く坂。バリアフリー。


 たまたま、バリアフリーな作りになっているだけかと思うけど、素晴らしいね。

 エヴァはスムーズに車輪を動かしていた。


「他と少し違うな、坂になってる」

「ん」


 エヴァも頷く。

 やはりこんな玄関口は他には無い作りなのだろう。


 そのなだらかな石坂を上がると、大きな玄関扉があった。


 その大扉は左右へ開かれてある。

 キャネラスがその玄関扉に近付くと、中から使用人たちがぞろぞろと現れてキャネラスを出迎えてきた。


「旦那様、お帰りなさいませ」

「「お帰りなさいませ」」

「おう。前に一度話していた重要なお客たちだ。失礼のないようにな。奴隷たちが待機しているホールに行くぞっ」

「――ははっ」


 キャネラスは胸を張るように奴隷商人らしい振る舞いを見せて、使用人たちを伴りながら煉瓦建築の中に入っていく。


 奥に消えたキャネラスの代わりに俺たちの前に立ったのが使用人の代表格と見られる人物だった。

 銀髪オールバックの髪型を華麗に決め、顎ひげ以外は綺麗に剃り落としてある渋顔の中年男。


「では、皆様、こちらへどうぞ」


 風格ある使用人は俺たちへ丁寧に挨拶を行い、くるりと踵を翻して廊下を進んでいく。


 その所作はザ・執事たる完璧な動き。


 俺たちが案内された場所はありがちな客間ではなく大きなホールだった。

 ホールを改築した造り。


 そこには奴隷たちがいた。ここに住んでいるようだ。

 見たところ……種族は様々。

 ホール内には檻のような鉄棒で区分けされた大きな部屋が各所に存在している。

 区分けされた部屋の中はあらゆるものが用意されていた。

 鉄檻なので、外から生活の様子が丸分かりだ。


 衣食住は完璧らしい。


 外で乞食のように生活している貧しい人たちに比べたら、断然にこちらの奴隷たちの方が良い暮らしをしていると思える暮らしぶり……彼ら戦闘奴隷は鉄檻の空間に閉じ込められているだけで、何不自由無く暮らしているようには見えた。


 俺たちがそんな奴隷たちの暮らすホール内に入ると、そこで暮らしていた奴隷たちから、一斉に視線が集まってくる。


「ここの個室を与えられているのが高級奴隷たちです」


 銀髪の渋顔使用人が説明してくれた。

 個室ね。檻の中だが、確かに生活用品は豪華だ。


「モロスもう良い、下がれ」


 キャネラスが俺たちに説明してくれていた渋顔使用人へ指示を出しながら、近寄ってきた。


「はっ――」


 あの使用人はモロスさんか。

 モロスさんは素早い所作でキャネラスの背後へ回り、他の使用人たちの列に加わる。


「では、全員を一箇所に集めますので、少々お待ちを、――お前たちっ」

「はい」


 キャネラスは俺たちに向けて、一度頭を下げると、すぐに頭を上げてから背後に控えていたモロスさんを含めた使用人たちへ、パンパンっと手を叩いて指示を出していた。


 指示を受けた使用人たちはホール内にある各部屋に散っていく。

 奴隷たちに命令を下す怒声があちこちから響いてきた。

 そして、一箇所、俺たちが居る場所に高級奴隷たちが集められていく。


 ……これが高級奴隷たちか。


 最初に注目したのは人族と蛇が合体したような種族。


 下半身は完全に横太い大蛇。

 蛇だけど鱗が綺麗だ。


 上半身は比較的、女の人族に近い作りだ。


 下半身から続いている鱗皮膚の模様が上半身のあちこちに延びている。 

 その鱗の造形と色合いバランスが良くて少しカッコイイ。

 胸には特徴的なおっぱいが三つも付いてるので、思わず視線が釘付けにされた。


 特殊なブラジャービキニだ。

 三つのおっぱいを支えている。


 ……やはり、おっぱいロマン派協会会長として、知られざるおっぱいには注目せざるをえない。


 そういや、前に一度だけ、奴隷市場で同じような種族を見かけた。

 こっちのは色合いと鱗の形も違うけど。


 次は……あの大柄獣人。

 服がアジア系の民族衣装でふっくらとしているので、中身があまり判別できないが、足先や腕先から僅かに見えている筋肉は少し太かった。


 骨太いとも言える。

 虎型の女顔には独特の迫力があるし、戦士型と分かる体付きだ。


「この戦闘奴隷たちです。どうぞ、品定めを」


 もう、観察しているんだけどね。


 キャネラスは自信満々に腕を伸ばして語っていた。

 一応、お触りは大丈夫なのか聞いてみる。


「触って大丈夫ですか?」

「はい。傷つけない範囲でお願いします」


 お触り大丈夫か。


 さて……どう選ぶか。

 こういう時、転生者でもある占い師のカザネが持っていた鑑定スキルがあれば便利なんだがなぁ。

 ま、俺だってカレウドスコープという、簡易分析的な眼を持っているし。

 魔察眼もある。


『閣下』


 突然、くるくる回りながらヘルメが視界に現れる。


『何だ?』

『買うのはあの奴隷たちですか』


 小さい姿の精霊ヘルメは羽根付きの妖精のようにふわふわと宙を飛び、くるっと回って奴隷たちを見ている。

 実際に移動している訳じゃないんだけど、視界の中ではそんな動きだから面白い。


『……そうだ。買うつもり』

『はい。魔素が高いのが数人いるようですね』


 ヘルメは指を差す。

 魔察眼で確認。確かに、右の奴隷に濃密な魔素を体内で操作して魔素を動かしている奴隷がいるな。


 あれはエルフか?


『あの金髪エルフか』

『はい』

『後で、話を聞いてみる。ヘルメは視界から消えていいぞ』

『はっ』


 ぱっと精霊ヘルメは視界から消えた。


 ――良し、魔察眼を行いながら、右目のカレウドスコープを起動しよう。

 それからエヴァに目当ての奴隷に触ってもらって相手の心情を探りながら調べていくか。


「……」

「……シュウヤ、調べないの?」


 レベッカが念話と思考で軽く考えを纏めていた俺に聞いてくる。


 見ているだけで、沈黙してたのが気になったらしい。


「あぁ、調べるさ、少し考えてた」

「そう。わたしもパーティーメンバーだし、一応、意見は言うわよ」


 レベッカは偉そうに両手を胸に組むと、そんなことをいってきた。


「了解、レベッカ様の神通力に期待している」

「ぷっ、何よそれ」


 レベッカは笑っていたが、俺は真剣な目を浮かべて、奴隷たちへ視線を移す。


 右目の横を指でタッチ。

 カレウドスコープを起動した。


 右視界が色彩が鮮やかなブルーに変化。

 あちらこちらにフレーム表示が追加される。


 大小様々、玉石混淆と思われる奴隷たちを見ていく。

 視界に移る全ての生命体は線で縁取られて、▽カーソルが出現していた。


 カーソルに意識を集中する前に、少し情報を聞いておこ。


「この方の種族は何ですか?」


 俺は指を差して聞く。


「種族は蛇人族ラミア。南マハハイム地方では数が少ないですが、遠い東、レリックを越えたフジク連邦の、更に北東にある地域で数多くの同胞が暮らしていたそうです。しかし、グルドン戦役に続いて、リザードマンとの長きに渡る戦乱により故郷がなくなり、奴隷商人に捕まり売られて、戦闘奴隷として経験を積みペルネーテに来ることになったとか、因みに元B級冒険者であり、迷宮八階層までを経験しています」


 キャネラスが種族の説明と近況の情報を言ってくれた。


「へぇ」


 種族はラミアで、冒険者B級で迷宮八階層を経験か。

 依頼はそれなりにこなしている訳だな。


「ラミアね、奴隷市場で何度か見かけたことはあるわ」


 レベッカはそんなどうでも良い情報を喋っている。


「ん、基本は前衛クラスが多いと聞いたこともある」


 エヴァはちゃんとした情報をくれた。


「なるほど」


 情報を得ながら、俺は蛇人族の▽カーソルに意識を向ける。


 CTスキャンを行うように足元から中身をスキャンしていく。

 下半身は筋肉の塊のような感じだ。骨の構造がよく分からない。

 上半身は見た目どおりの内臓だ。


 人間のようだ。


 首輪の下もちゃんと透き通り、頭の透過していくスキャンが終わると、



 ――――――――――――――――

 炭素系ナパーム生命体zch##7443

 脳波:安定

 身体:正常

 性別:女

 総筋力値:66

 エレニウム総合値:118

 武器:なし

 ――――――――――――――――


 こんな表示が出た。


 筋力が高い。だが、今まで人族とダークエルフしか、調べたことがないので、何とも言えない。


 ラミア種族としては標準なのかも知れないし。

 種族は人やダークエルフと違うけど、炭素系ナパーム生命体なのは変わらないんだな。

 番号は完全に意味不明だけど。


 エレニウム=魔力と思うから、魔法は期待できそうにないか。


 こんな程度の情報じゃ見た目を多少補完するだけであんまり意味がないかもなぁ。


「エヴァ、どう?」


 俺は触ってみるか? とエヴァに視線を向ける。


「ん、質問いい?」

「たぶん、――キャネラスさん、この奴隷と話していい?」

「構わないですよ。彼らは高級戦闘奴隷。共通語は全員がマスターしています。じゃんじゃん聞いてやってください」


 凄腕奴隷商人らしい口ぶりで、笑顔のキャネラスだ。


「だ、そうだ」

「ん、それじゃ――」


 エヴァは俺の言葉に頷くと、車椅子を前進させて、ラミア種族のもとへ近寄っていく。

 ラミアの下半身、鱗の部分を手で触れながら口を開いた。


「あなたは戦士?」

「少し、違う。騎士だ」

「ん、そう。どうして奴隷に?」


 そのエヴァの問いに、蛇人族ラミア種族の女は、少し間を空けてから口から蛇舌を伸ばし早口で語る。


「……我は戦争に敗れたからだ」

「……そう。あなたを、後ろにいる背が高い黒髪の冒険者が買ったら、ちゃんと尽くす?」

「無論だ」

「……分かった」


 エヴァは間を空けてから、小さく頷いて呟く。

 蛇人族に触れていた手を引っ込めて聞き取り調査を終えていた。

 車椅子を反転させて俺の側に戻ってくる。


 俺は背を屈めてエヴァの顔に耳を傾けた。


 エヴァが小声で話してくる。


「……彼女の言葉に嘘はない……戦争で家族を殺された恨みを人と蜥蜴に向けているけれど、基本は無害……命令すれば忠実に動けるはず」


 エヴァの心を読むサトリはすげぇな。


「分かった。なら買っても大丈夫そうだ」

「ん」


 エヴァが天使の笑顔で微笑むと、


「ちょっと、何よ~。何で二人だけで相談しているの?」

「そうです。ご主人様、わたしには聞いてくださらないのですか?」


 ハブられていたレベッカとヴィーネがそれぞれに不満な表情を浮かべて、俺に迫ってくる。

 レベッカはともかくとして、ヴィーネが珍しく動揺した顔を見せていた。

 いつも、ヴィーネの言葉を第一にして聞いていたからか?

 エヴァのスキルのことは話すことはできないので、適当にはぐらかすか。


「……いやいや、そうじゃなくてだな。エヴァの冷静な言葉を聞きたくてね。たまたま重要視したんだよ」

「……そうですか」

「ふーん」


 レベッカとヴィーネはいじけてしまった。


「ん、なら、レベッカとヴィーネ、何か意見を言ったら?」


 エヴァは車椅子をくるりと反転させてから、目を細めて、レベッカとヴィーネに反論するように言う。


「そ、そうねぇ。得意武器とか、スキルは何を持つとか、属性魔法は何が使えるとか、色々あるじゃない?」

「確かに、それはまだ聞いてなかった。ヴィーネは何かあるか?」

「はい。蛇人族ラミアの種族にはその瞳に魔眼を持つ者も存在すると聞いたことがあります」


 へぇ、魔眼か。


「それは興味深い。ありがとな。早速、俺が聞いてみるよ」

「はいっ」


 ヴィーネは俺が褒めると、素直に喜んでいた。

 もう不機嫌さは顔色から消えている。


 そんなヴィーネから視線を外して、今のやり取りを聞いていたであろう蛇人種族のもとへ移動。


 話し掛けていく。


「……俺たちの会話を聞いていたな? お前の得意武器、魔眼とやらを含めてスキルの有無、魔法属性を全て答えてもらおう」

「了解した。得意武器は剣、盾、槍。スキルは<咆哮>、<盾崩し>、<二連斬剣>、<三連盾崩し>、<返し突き>、<盾突き>、<仁王立ち>、<刺突>、<投擲>、魔眼である<麻痺蛇眼>。属性は風、魔法は使えない」


 紫色の蛇舌をしゅるるるっと細長い唇の中から出しながら、すらすらと早口で語る。


「ヒュゥ――やるじゃん」


 思わず口笛で反応していた。

 スキルが豊富。完全に前衛向きな種族だな。


 するとラミア種族の女は人族に似た双眸をぎょろりと動かして、縦割れた両生類の瞳へ変化させた。


 そして、細い唇を動かす。


「……我は蛇人ラミアエボビア区出身。戦闘職は武装騎士長である。当然だ」


 俺が褒めたので調子を良くしたのか蛇人族は自らの出身と戦闘職業を名乗ってきた。


 武装騎士長、蛇人族の騎士か。

 こいつは買うとして、キープ。


「そうか。とりあえず、次を見る」


 隣の奴隷も見ていく。

 今度は小柄で全身がもこもこの毛に覆われた種族。

 頭には可愛いらしい犬耳を持っていた。


 ダックスフンドの犬耳のようだ。


 やべぇ、俺は猫派だが、可愛いぞ。

 小柄用の奴隷首輪も可愛らしくみえる。

 そんなもこもこ種族を縁取っている▽カーソルをチェック。


 スキャンは瞬間的に終わる。

 身体が小さいからな。


 ――――――――――――――――

 炭素系ナパーム生命体Uks#83#

 脳波:安定

 身体:正常

 性別:女

 総筋力値:9

 エレニウム総合値:249

 武器:なし

 ――――――――――――――――


 筋力が低く、魔力が少し高いか。

 その背が小さい、もこもこ種族の目の前に移動。


「……っ」


 俺が近寄ると、犬耳を凹ませて怯えた表情を浮かべていた。

 こんな臆病そうで、小柄な種族が戦闘奴隷なのか?


「この種族は?」


 疑問形でキャネラスに問う。


「犬獣人族系のノイルランナーです。ノームやドワーフの親類とも云われていますね。因みにその奴隷も元冒険者。八階層を経験しています」


 マジで?


「へぇ」


 俺はじっと、小柄獣人ノイルランナーを見ていく。


「君は何が得意なんだ?」

「……僕は足の速さを生かした剣術が得意。飛剣流を学んでいた。訓練の野試合で烈級の手練れを倒したこともある。迷宮では“高鬼”オーガを一人で倒した」


 確か……剣術や槍術とは、初級、中級、上級、免許皆伝、烈級、王級、神級、といった強さの位があるんだよな。

 魔法には皇級があるんだっけ。

 ということは、見た目に反してかなりの剣術の腕前を持つんだ。


 速度を生かした前衛ね。

 とりあえずキープだな。


 このちっこいのを見てると、迷宮で出会ったペンギン剣士を思い出すなぁ。

 ……あのペンギン剣士の冒険者はモガ族とか言ってたっけ。

 このノイルランナーとかいう種族は見た目通りの種族だし、皆に相談する必要もないか。


 次の奴隷を見ていく。


「なるほど。んじゃ次を見る」


 次は大柄の人族……。

 見た目は、完全にプロレスラーだな。


 短い髪に、ロシア系の傷だらけの顔。

 太い黒色の首輪から分厚い鎖骨に、隆起する胸板のこれまた分厚い筋肉の上半身に目立つ。

 おっぱいは殆ど無い。

 上半身はビキニとも言える感じの麻布ブラジャー的な物を着けていた。


「チェンジ、で」


 思わず、俺は即断。

 隣の奴隷たちを見ていく。


「……シュウヤ?」


 後ろで見ていた、レベッカが冷淡な声をあげる。


「ん?」


 振り向くと、レベッカが氷点下の風を纏ったような、冷然とした表情を浮かべて、俺をジッと見ていた。


「……こっちに来なさい」


 ここは場の空気を読んで行動するか。


「はい」


 俺は然り気無く、右の目元をタッチして普通の視界に戻してから、反省した犬のようにレベッカに近寄った。


「……あのねぇ、選んでるのは戦闘奴隷なのよ? 見た目だけで判断しちゃだめなんだからね?」


 と、言ってくる。

 まぁ、彼女の意見は当然だな。

 今、俺がチェンジといった言葉を聞いて、強そうな奴隷を買わずに綺麗な女奴隷しか買いそうにないと考えたんだろう。


 俺のスケベ心を読んで、判断が曇ると思っているのかな?

 ま、正解だけど正解じゃない。


 確かに綺麗な女は大好きだ。


 でも、ちゃんと強そうなのを選ぶ。

 そう、強くて、できるだけ綺麗な……奴隷をな。


「……分かっているさ。パーティのために強い奴を選ぶ。んだが、まだ何人かいるし、選考中だから。まずは、俺が選んだ奴隷を見てから文句を言ってくれ」

「……それもそうね。ごめん。つい口走って……」


 レベッカは気まずそうに顔を下げていた。

 だが、少なからず、的を射た意見だ。


「はは、別にいいさ、レベッカらしく、可愛く突っ込んでくれ」


 と、笑いながら発言。

 強そうなプロレスラー、選ばなかったからな。


「もうっ何が可愛くよっ」

「んじゃ奴隷を見てくる」

「うん、ちゃんと選んでね」


 レベッカは少し笑いながら頷く。


 俺は奴隷たちのもとに移動して、選考を再開。

 次、見てないのは……。


 虎顔の大柄獣人。

 両手を組んでいて、良い面構えだ。

 さっき気になった奴だな。着ている服はアジア風、民族衣装的な物。


 その虎獣人に近付いていく。


「君の出身とアピールできる物は何だ?」

「……わたしはフジク連邦ラーマニ部族出身の虎獣人ラゼールであり、特異体。フジクで虎拳流と絶剣流を学び、弓もある程度使え、狩斥候、罠探知、罠解除も得意。それに<嗅覚列>という虎獣人ラゼールが持つ特殊スキルがあるので臭いによる探索も可能です。フジクでは冒険者クラン、傭兵たちを率いて侵略王六腕のカイが率いるグルドン帝国との戦争に従事していた経験があります」


 さっきもグルドン戦役とかいっていた。

 侵略王六腕のカイが率いる国と戦争か、彼女はそれなりの人数を率いていたなら指揮能力はありそう。


「了解。考えとく」


 右へと歩いて、次の奴隷をチェック。


 次は最初にヘルメが指摘していた金髪エルフだった。

 黄金色の髪に美しい顔を持つ、瞳はエメラルドグリーン。


 着ているのは麻服のワンピースだけど、スタイルがよいと分かる。

 双丘もふっくらと盛り上がっているし、目の保養には完璧だな。


「……ゴッホン」


 俺の後ろから、わざとらしい咳の音が聞こえた。

 更に、沢山の視線が背中に集まっている気がするが、無視。


 一応キャネラスに聞いておくか。


「この綺麗な奴隷は?」

「はい、種族は見ての通り、エルフ。そして、迷宮八階層を経験している元A級冒険者です」


 おっ、元A級ときたか。


 俺は金髪エルフが立っている場所へ近寄っていく。

 頬から細い顎ラインにあるエルフ特有の刺青マークを確認。

 虎のようなマークが施されてある。


 首輪も普通サイズ。

 エルフの女は瞬きして、俺に注目してきた。


「君は何ができる?」

「わたしは魔法が得意。属性は土と水、特に土が専門。下位から上位魔法はある程度使えます。不得意ですが、水も軽いキュア系を使用できます」


 属性の数が少ないが一点集中型と思えば使えるのかな。

 ヒーラーもできるとなると結構使えるのかも。


 そこで右目の横を触り、カレウドスコープを起動させた。


 また、半分の視界の色彩が鮮やかなブルーに変化。

 フレーム線が世界を埋めるように表示、金髪エルフも線で縁取られていく。


 金髪エルフは突然に俺の右目が変化したことに驚いて、目が見開き、口を開いて唖然とする。


 緑の瞳を縮小、散大させて、顔が引きつっていた。


 この目の変化を間近で見たらそんな反応を起こすのは分かる。


 俺は気にせず、金髪エルフの縁取る線の上にある▽カーソルに意識を集中。


 足元からスキャンされていく彼女の身体。

 少しエロイ視線になるのはしょうがない。

 と、期待をかねてスキャンを見ていく。


 んお? 何だあれ……。


 足、胴体と、別に異常はなかったんだけど、首輪の下、首上のとこから脳にかけて変なのが映ってる。


 げぇ、キモイ。


 蟲かよ。頸から上にくっ付いているようだ。

 しかも、脳を侵食するかのように蟲の口と思われる箇所から細かな無数の触手たちが脳内へ放出されている。


 表は綺麗なエルフだけに、その異様さが際立ってる。


 ――――――――――――――――

 炭素系ナパーム生命体ng#esg88#

 脳波:異常 寄生蟲による干渉下

 身体:異常 寄生蟲による干渉下

 性別:女

 総筋力値:11

 エレニウム総合値:565

 武器:あり

 ――――――――――――――――



 ステータスはこんなのが表示されていた。


 彼女はいったいどうなってんだ?

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