百三十話 変わった凹凸コンビ
あの扉の先にはいかにも、何かいると感じさせる。
怪しさという黒いオーラがランタンの明かりと混ざり渦が巻いて見えた気がした。
石大扉の前にある広場では冒険者たちが休憩、順番を待っている状態。
あちこちに篝火が置かれ魔法の光源がぷかぷかと浮いていた。
床に布を敷き、その上に各種色違いのポーション類、怪しい粉類、沢山の陶器瓶を並べ売っている冒険者もいた。
それらを見ていると、周りで休憩している冒険者たちから、視線が集まってくる。
俺たちがどんなパーティか、探っているのかな?
単に新しい面子を見ているだけかもしれない。
ま、そんな視線は無視。
可愛い
少し遅れて、ヴィーネがついてきた。
エヴァとレベッカも遅れてついてくる。
広場の中心に到着。
すると、右辺から大声で怒声が聞こえてきた。
何やら揉めている冒険者たちがいる?
揉めている声の方へさりげなく視線を移す。
それは人族たちと、ペンギン種族だった。
「何しやがるっ! ネームスを馬鹿にしやがって、おめぇらはこの俺様に喧嘩を売るってことだな?」
ペンギンは一本の刀剣を背中から抜き、正眼に構えた。
小柄で可愛い。
だが、その所作には精練された動きの質が感じられる。
ペンギンは着ぐるみではない。
青毛と白毛と黒毛がペンギンらしさの三角形顔ラインを構築し乱暴な口調で喋っている黄色い嘴も、リップシンクに合わせてリアルに動いている。
青毛に覆われた小さい翼。
あれは両手らしい。もこもこしてそうな両腕。
内側には小さい鳥足のような肌色の手があり十本の小さい指たちが刀剣の柄巻を握っていた。
ちゃんと人族のように十本指があるようだけど、足はペンギンだ。
しかも、全身から魔闘術らしき魔力操作を行っていた。
あのペンギン、ただのペンギンじゃねぇな。
「……なんだそりゃ、そのなりで剣術か? 笑える――なぁ?」
「ははは。確かに滑稽だ。小さい鳥種族のくせに、いっぱしな剣士を気取るとはな」
「おい、なんだなんだ?」
「吠えているねぇ」
言い合いしていた冒険者の仲間がペンギン種族を中傷する言動を吐きながら囲い出した。
人族四人組対ペンギン種族一人の構図。
剣呑な雰囲気。戦いになるのか? と思った時。
「――ネーームスッ!」
突然に“ネームス”と野太い怒声が響く。
うは、なんだありゃ。
太い黒柱だと思っていたのが急に動いた。
ペンギン冒険者を守るように、仁王立ち。
黒い鋼鉄腕を左右へ広げている。
大柄な巨人。
植物と鋼鉄が微妙に混ざり合ってできた不思議種族巨人だった。
身長が三メートル以上はある。
二本の足を持つ人型で頭部もあるが、モンスターと言われても分からんぞ、あれは。
顔は長方形、特徴的な相貌で小さい鼻穴を持ち、細い顎先には小枝が伸びている。
双眸はどこか可愛さがある緑色な丸い水晶体だ。
口は樹皮が裂けた歪なタラコ形だけど。
鋼鉄ブロックのような左肩からは大きなタンポポ系の花が咲いていた。
右肩には変な漢字らしきモノが彫られてある。
「う、動いただと?」
「でけぇ、こ、こいつ、モンスターだろ?」
「……お、おい、鳥種族、こ、こいつは何だ?」
ペンギンを囲っていた人族の冒険者たちは巨人の姿を見ては動揺した表情を浮かべ逃げ腰になっていた。
囲まれているペンギン種族は黒く縁取った黄色い嘴を動かして、喋り出す。
「何だ? じゃねぇよ。それに、俺は鳥じゃねぇ。モガ族の剣士だ。それと、こいつは相棒だ。名前はネームス、れっきとした冒険者だ。さっき柱だと勘違いして、ネームスを何回も蹴っていたお前、許さねぇからな。モガ流剣術で斬り刻んでやる」
あれでも、冒険者なんだ。
鋼木巨人とペンギンか。
「フンッ――、ネーーーーームスッ!!」
鋼鉄と木の巨人ネームスは怒りを感じさせる鼻息を吐きながら、大きな声で名乗りを上げた。
鋼鉄と木が混ざりあった巨腕を高く振り上げる。
巨椀をペンギン種族を囲っていたチンピラ冒険者たちにぶつける勢いだ。
「ひっぃぃぃ、わ、わるかった。蹴って悪かった」
「へ、変なこと言って悪かったよぉ。俺たちはもう帰るからさ、怒らないでくれ……」
頭を抱え悲鳴をあげる冒険者たち。
「ふん、ネームス。許してやれ」
「わ……た、し……は、ネームス」
またゆっくり口調でネームスと名乗った鋼木巨人は、振り上げた腕を元に戻し、その場で柱のように佇む。
「す、済まなかった。ありがとう」
狼狽し青ざめた顔色を浮かべた冒険者たち。
彼らは次々に鋼木巨人ネームスへ謝ると、すごすごと撤収していく。
その姿は情けなく、周りで見学していた冒険者たちから白い目で見られていた。
「ははは、順番待ちが少し減ったな、ネームス」
「……ネームス」
佇んだ鋼木巨人はのっそりと上半身を動かし顎が小さい顔で笑うペンギンへ大きい顔を向けると、クリスタルな目をぱちくりと瞬きさせながら、また小さい声で名前を名乗っていた。
あの鋼木巨人は
そんなことよりここで待つといっても、順番が分からない。
と言うことで、背後を振り返る。
きょとん、とした顔を浮かべて、巨人を見ているエヴァに話しかけた。
「なぁ、あんな連中でも冒険者なんだよね?」
「んっ巨大。初見」
エヴァはコクコクと細い首を縦に揺らして反応している。
「うん、わたしも黒鋼な樹木巨人の方は見たことのない種族だけど、モガ族なら見かけたことがある」
レベッカも鋼木巨人は見たことがなかったようだ。
そこで、ヴィーネにも“何か話せ”と言うように視線を向ける。
「……喋る植木? なら聞いたことはあります」
へぇ、少し知っているらしい。
と思っていると、
その話題にしていた鋼木巨人の方へ走った。
ありゃ、しかも、ネームスと名乗っていた鋼木巨人の肩へと上っているし……。
迷惑をかけるまえに
仲間といる場所から一時離れて、ネームスとペンギンがいる場所へ向かった。
「ンンン、にゃ」
「わ、たしはネームス」
鋼木巨人はのっそりと頭を動かし、肩にいる
「にゃお」
「わたしはネームス」
鋼木巨人のクリスタルな目が少し動くがあまり変わらず……。
「にゃん、にゃ」
「わ、た、しはネームス」
「ンン、にゃ~ぁ」
「わた、しはネームス」
「にゃお」
「わ、たし、は、ネームス」
「にゃんお」
「わたし、は、ネームス」
何とも言えない空気に……固まってしまう。
『閣下、ロロ様は不思議な種族が大好きなのですね、可愛らしく素敵なお尻です』
『お尻なのかいっ』
と、軽くツッコミを入れてから
まだ、不思議な会話を繰り広げていた。
やはり、鋼木巨人と会話をしているのだろうか。
「おい、なんだその黒猫は?」
ペンギン種族のモガ族が、
「……わたしはネームス」
鋼木巨人のネームスは肩に
「なんだあ? ネームス、その黒猫が気に入ったのか?」
「わたしは、ネームス」
鋼木巨人はゆっくりとクリスタルの目を閉じて、開く。
瞬きしてるのか? よくみたら睫毛らしき小さい枝が生えている。
「おぉ、珍しいな……」
「ンン、にゃお」
「よう、黒猫、お前さんは何処から来た?」
俺も挨拶しといた方が良さそうだ。
「――あのぅ、突然にすみません。その黒猫はロロディーヌ。ロロが愛称です。俺の使い魔であり相棒です。俺の名前はシュウヤ・カガリと言います」
「にゃ」
丁寧にペンギンさんへ頭を下げて、挨拶。
頭を下げていると、
「これはご丁寧にどうも、俺はモガ族の剣士であり冒険者だ。名はギュンター。ギュンター・モガだ。よろしくな。背が高い人族、シュウヤ」
モガは軽装な防具を身に着けている。
だが、やはり近くで見ても顔はペンギンだった。
頭の毛が人族のように纏まっているけど、青、白、黒の毛に覆われていて、口が黄色い嘴だ。
モガ族……不思議だ。
「わたしは、ネームス」
俺がモガ族のギュンターに注目してると、鋼木巨人ネームスも名乗ってきた。
のっそりと動いて俺へ顔を向けてくる。
でも、ペンギンより鋼木巨人のが不思議だな。
「……よろしく、ネームスとギュンターさん」
笑顔を浮かべては、鋼木巨人へ向けて挨拶しておく。
「わ、たしはネームス」
鋼木巨人はつぶらな水晶の目を瞬きしながら、小さく頷く。
「へぇ、またか。ネームスが人族にちゃんと挨拶するとは。そのロロという黒猫とお前さん、シュウヤは、何か通ずるところがあるのかねぇ?」
と、皇帝ペンギンに似ているモガが語るが……。
俺にだって分かるわけがない。
そこでまた鋼木巨人を見上げる。
このネームス……巨人さん。
硬そうな黒鋼な鉄と樹木が合体してスムーズに動いてるが、本当に生命体で種族なのだろうか。
鋼鉄のような部分は、鉱物から造られていると判別できるが……。
シリコーン、ケイ素系生命体かもしれない。
或いは、ソリッドステート、中身は演算回路の機械が詰めこまれてた電子的な人工生命体とか?
樹木も混ざっているから想像がつかない。ま、生命の神秘について思考を重ねても仕方がないし、ギュンター・モガにこの順番待ちについて聞くか。
「……さあ? どうでしょうか……それより、この大扉の先にいる
広場に視線を移しながらギュンター・モガへ質問をした。
「それなら、広場の左からクランやパーティ順だ。お前らも並ぶなら、俺らの後だな。今一組のパーティが居なくなったから五組目だ。次、扉に入るのはあそこのパーティー、騎士団風の【アルゴスの飛燕団】の奴等だ。その次が奴隷で固めているパーティ【恐道リブキー】次がクラン【ナナシ】の連中、その次が俺ら二人組のパーティ【剣王モガと黄昏ネームス】だ」
ペンギン、もとい、モガ族のギュンターさんは渋みのある声で丁寧に説明してくれた。
確かにギュンターさんの言う通り広場左手前から、準々に纏まっているグループがいる。
しかし、ギュンターさんの見た目はペンギンだ。
相方のネームスさんは鋼木巨人だから強そうだと分かる。
この凸凹二人組のパーティだけで、
ここに居る時点で倒せる自信があるのだろうけど。
実はめちゃくちゃ強いのか。
さっき体に纏っていた魔闘術もスムーズだったし、ひょっとしたらパーティの名前通り、本当に剣王なのかもしれない。
「……わかりました。ギュンターさん、ありがと」
「いいってことよ。俺はモガか、ギュンターでいいぞ」
小さい鳥足のような手で親指を立てるモガさん。
少し可愛いとは言えない。
「わかった。モガ、ありがとな」
「おうよ」
お辞儀をしてから
皆のところへ戻り、話の経過を仲間たちへ説明した。
「五番目か、待ちましょ」
「ん」
「了解、休憩するか」
「はっ」
「にゃお」
四人と一匹で輪になるように、その場で待機。
レベッカは背曩を床に置いて荷物をチェック。
エヴァも車椅子に付属している簡易袋から毛布を取り出している。
ヴィーネは俺を見上げていた。
眠るらしい。
なら、俺も少し休むかと、その場で尻を地につけ待機。
ヴィーネも俺の傍に寄り片膝を付いて待機した。
◇◇◇◇
――数十分後、大石扉が開かれる。
中からパーティの一団が外へ出てきた。
パーティの様子は怪我人が多く、そうじて俯き暗い顔。
彼らは、それぞれに黒い甘露水を回収した容器を持っていたが、喜ぶ様子もない。
どうやら、仲間に死人でも出たようだ。
「人数が減っているな。あの【憂いの月下】がな……」
「“隼のアシュー”だけは無事か、まぁ個人ランクも混合が多く新人も居たようだからな」
他の冒険者たちが、退出してきたパーティの様子を見るや否や、それぞれに感想を述べたり呟いたりして、見守る中【憂いの月下】と呼ばれていたパーティはすごすごとホールを退出していく。
きっと、パーティ名が悪いんだと思う。
続いてすぐに金属製の騎士鎧を着込む【アルゴスの飛燕団】の八人が大扉の中へ入っていく。
数時間して、大扉が開かれた。
【アルゴスの飛燕団】は全員無事。
着ている鎧が緑に変色し溶けたように凹んでいる人が多数いるけど、皆、そうじて笑顔。
笑い喜びの言葉を紡ぐ詩を歌い出す。
あの歌、どこかで聞いた感じがする。
そのまま足を揃えては、軍隊が行進するように広場から通路へ出ていく【アルゴスの飛燕団】の一行。
続いて大扉に入ったのが複数の奴隷を従えた【恐道リブキー】の一団。
俺たちの順番は、後、三つか……。
そこで、視線を四人で囲う場に戻す。
エヴァはアイテムボックスから茶色のフランスパンに似た穀物を出しては口へ運ぶ。
レベッカも背曩から黒パンを取り出し、小さい口へ運び齧っていた。
へぇ、エヴァが食べているあの長いパン。
見た目は完全にフランスパンだけど、この都市にはあんなパンも流通しているんだ。
この世界じゃ、何気に初か?
そういえば、この都市に来てから食材が出回る市場の見学をしていない。
今度、市場をぶらつくかな。と、視線を綺麗なヴィーネへ移す。
彼女は隅っこで背曩からビスケットを取り出しては独り寂しく食べている。
あのビスケット、俺がキャネラス邸で食べた物に似ていた。
パサパサして不味い物。
同じ奴なら可哀想だ。何かあげるか。
アイテムボックスを素早く起動させて、コップ代わりの水差し、パン、肉、レタス風野菜、二人分の食材を選ぶ。
チーズもあったから、ついでに出す。
軽くサンドイッチを作った。
一口、むしゃっと味見しとく。うまうまだ。
もぐもぐしてると、エヴァが車椅子を動かし近寄ってきた。
「どうした?」
「これ」
フランスパンを切ったらしい。ひときれを渡してくれた。
「ありがと」
「ん」
エヴァは頷き優しい笑顔を浮かべると、車椅子を動かしレベッカのもとへ移動していた。
同様にパンのひときれを渡している。更に、端で縮こまるようにビスケットを食べていたヴィーネの側へ移動していた。
ヴィーネの手を触り、優しくパンを渡している。
彼女は慇懃な態度でエヴァへ頭を下げてお礼を述べていた。
その様子を見ていたエヴァの目が一瞬鋭くなったけど、すぐに優しい笑顔を浮かべている。
気のせいか? まぁ、何にせよ、エヴァは優しいな。
俺もヴィーネに何かあげよ。
「……ヴィーネ。――こっちに来い」
隣の地面を叩き“ここに座れ”と呼ぶ。
「……はいっ」
呼ばれた通り、俺の隣に片膝をつけ姿勢を低くするヴィーネ。
その彼女に、サンドイッチと水差しを渡す。
「――ご主人様、これは?」
「俺が作った。サンドイッチという食いもんだ。新鮮で旨いぞ」
「い、いえ、そうではありません。わたしは奴隷。ご主人様と同じ物を戴くわけにはいけません。食事ならキャネラスから貰い受けた菓子がありますから、それに、今しがたエヴァ様からも、パンのひときれを貰いましたし……コンナ、モノ……カシノ、ガ……」
拒否ってきた。
しかも、小さな声のエルフ語を変化させたような言葉でぶつぶつと呟いてる。
分からないと思っているのだろうか?
ま、いいけど。
「……エヴァのパンは良かったな? だが、さっきヴィーネが食ってたのは、あのビスケットだろ、高級かもしれんがパサパサして不味い。こっちのが新鮮で旨いはず。食ってみろ。まさか宗教的な理由で、肉や野菜が食えないとか、チーズがダメとか?」
「いえ、そういうわけでは……」
「あっそ。なら命令だ。パンがあるなら、そのパンの上に肉と野菜にチーズも渡すからここで食いなさい。腹一杯なら、別に食わなくていい」
そう言って、肉、チーズ、野菜、水差しを渡す。
「は……っでは、ご相伴にあずからせてもらいます」
ヴィーネは受け取ってくれた。
彼女はひときれのパンの上に肉、チーズ、野菜を乗せると、パンを食べていく。
「旨いか?」
「……はいっ」
美しい紫唇が動き小さい口で旨そうに食べていた。
意外に旨いじゃん、という顔付きだ。
パンを食いながら嬉しそうに声を出し、もぐもぐと食べ進めているヴィーネ。
青白い肌だが、若干に左頬が紅くなっているのが分かる。
「よかった。俺も食おっと」
食い掛けのサンドイッチを胃の中に運ぶ。
うむうむ。うまうまだ。水もごくごくっと飲んでおく。
すると、背中にある頭巾で寝ていた
はは、食い時になると必ず起きるね。
「ンンン、にゃぁ」
頭巾から肩に移動して『何を食っているのにゃ?』的な感じで鳴きながら、俺の顔を見る
「待ってろ、今、お前の分も用意するから」
「にゃお~ん」
嬉しそうに鳴く
アイテムボックスから肉と野菜を多めに出し、皮布の上に置いてやった。
「……ロロちゃん、化け大茸をいっぱい食べていたのに、すごい食欲」
「元気良く食べている。それが可愛い」
こうして、ほのぼのと順番が過ぎていくのを待ちながら、休憩を重ねていく。
奴隷で構成されたパーティ【恐道リブキー】が扉を開けて退出し、次にクラン【ナナシ】が終わり【剣王モガとネームス】の二人組が大扉から出てきた。
鋼木巨人ネームスが巨体の幅を生かすように幾つも瓶を抱え持っている。
ペンギンのモガも小さい身体を黒く染めて、片手で瓶を抱えながら、扉の前に居た。
俺は出迎えるように歩いていく。
「よっ、一杯“黒い甘露水”集めたぜぇ。俺の身体も黒甘くなっちまったぁ~」
モガはペンギン顔だが、変顔を浮かべジョークを飛ばしてくる。
そんなふざけたことをする彼らが、時間的に一番早く大扉から出てきた。
結局、アルゴスの飛燕団というパーティが一番時間を掛けていたな。
「……本当だ。焼いたら旨そうだな?」
半笑い顔を浮かべて、冗談を返してやる。
「なにぃ、俺は焼き鳥じゃねぇぞ」
冗談だってのに、モガは俺を警戒するように片手で刀剣を持とうとしていた。
「ははは、焼かないって」
「そ、そうか。人族は本当に俺を食う気でいる奴がいるからな……」
モガは安心したのかホッと息を吐き、構えを解く。
「それより、
「おうよ。なんせ相棒とオレだけだからな。持てる量も少ないから早く倒すしかないのさ。巨体のネームスが大量に瓶を持てるけどな? それでもさすがに持てる量は限られる」
「わた、しは、ネームスっ」
鋼木巨人ネームスが大量に瓶を持ちながら、また気持ちを込めた名乗り声を上げている。
そして、何を思ったか、徐に大きな胴体を斜めに動かし俺の顔へ鋼鉄と樹木でできたゴーレム顔を近付けてきた。
「おい、ネームスどうしたんだ?」
背後ではモガが驚いているが、巨人ネームスさんは微動だにせず、瞬きさせた可愛い水晶の瞳で、何かを訴えるように俺の顔を一心不乱に見続けてきた。
『瞳の奥に深い知性を感じるのは気のせいでしょうか?』
小さいヘルメが巨人の水晶瞳へ指を差して指摘する。
『んー、もしかして、あの水晶の奥底には小さい宇宙人が無数に存在し文明的な生活を営んでいたり、蟻は蟻の世界があるように、俺たち三次元世界では捉えられない、次元世界があの水晶の奥に存在するのかもしれない?』
『……閣下、難しくて意味が分かりません』
そりゃそうだな。
ここは黒服を着た特殊な二人組がいる世界ではない。
「……わたしは、ネームス……」
お、少し口調が変わったか?
彼か彼女か性別が分からないが、その顔からはどんなことを考えているか、全く分からない。
「ネームスさん、後ろにいる相棒が驚いているよ?」
「わた、しは……ネームス」
頷いたか分からないが顔を左右に揺らすと、胴体を持ち上げ体勢を元に戻すネームス。
そのまま、どすどすと巨体の重い足を響かせ広場を歩いていく。
「――あ、ネームス、先に行くな。んじゃシュウヤ、悪いな。また何処かでなァ」
「あぁ、またな」
モガは軽い口調で挨拶。
そのまま、ペンギンらしい足をピョコピョコと動かし、軽い身のこなしで去っていく。
……不思議で変わった凹凸コンビだった。
それよりやっと俺たちの番だよ。
背後へ振り返り、仲間を見る。
「よし、俺たちの番だ」
「にゃお」
「ん、いく」
「了解、いくわよ~」
「はっ」
皆、準備万全。石の大扉を開けて、中へ突入した。
俺たちは小走りで進む。
自然とツリー型の隊列になっていた。
部屋は待っていた広場とほぼ同サイズの広い部屋。
天井が高いので、同サイズではない。
その高い天井を支える太いパルテノン級の黒柱があちこちにあり、薄暗い空間。
床は暗いので、色は黒と仮定。
そして、巨大な魔素を感じる。大型生物と分かる大きさ。
あの螺旋細工が綺麗なパルテノン黒柱が並ぶ間の真ん中、薄暗いとこに居るようだ。
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