百三十一話 黒飴水蛇
皆へ指示を出しておく。
「敵は大きいが一匹だ。真ん中に居る。各自“黒飴水蛇”を視認しだい、遠距離から攻撃だ。その後は、臨機応変に行くぞ!」
「にゃ」
巨大化して怪獣大決戦という感じではないらしい。
「んっ」
エヴァは冷静な顔付きで頷く。
車椅子を動かして右端から進む。
「了解!」
レベッカの声は後方だ。
「はいっ!」
ヴィーネは俺の左斜め前方から行くようだ
その手には銀剣ではなく、弓を手にしている。
俺は部屋の中心へ目指す。
見た目は大蛇とナマズを掛け合わせたような感じだ。
頭部には二つの黄緑眼と二つの黄色い眼を持ち、大きなナマズ髭に大きな横広い口で、緑色と黒色の歯を覗かせていた。
体長は約十メートル強と判断。
鱗付きな上部と下部の腹が伸縮しているので確かじゃないけど。
『閣下、わたしも出ますか?』
『いや、
『はい』
ヘルメが視界から消えると、早速、左にある黒柱の影に位置を取ったヴィーネが
しかし、続けて放たれた矢が下腹部に直撃。
下腹部は柔らかいらしい。矢が数本刺さっていた。
まるでワイン樽に矢が刺さったかのように黒い液体が漏れ出ていく。
黒血じゃなくて、本当に黒い甘露水なのか?
突き刺した触手を素早く収斂させ違う柱の陰へ走っていく。
ヒット&アウェイの動きを見せていた。
「ん、わたしも隠れながらやる」
エヴァは
紫魔力に包まれた車椅子の車輪部位の外側が自動的に開き、中から沢山の鋼針、扇状の金属が宙へ飛び出していた。
飛び出した鋼針、扇状の金属群は、紫の流星のように
「ギィィィァァァァ」
レベッカも火球魔法を撃ち放ち、胴体へ直撃させていた。
「ギィアガッ」
痛みの声を我慢するように、緑色と黒の歯を噛み、歯の隙間から痛みの声を僅かに出していた。
黒い甘露水が蒸発したのか、なんとも言えない甘い匂いが漂ってきた。
天に誘うかのような芳醇なシロップ系……ケーキが食いたくなる。
くっ、たまらんぞっ、新手の精神攻撃かっ。
蛇らしく胴体をくねらせながら、一番痛かったであろう攻撃を繰り出してきたエヴァのもとへ直進していた。
大きいくせに直進は速い。
「直進が速い。皆は小回りして回避を優先しろ――」
そう指示と飛ばしながら、灰色外套から両腕を出す。
狙いは緑ではなく黄色い眼。左手を掲げ<鎖>を射出。
そんな長い舌をちょろちょろ出してる蛇頭へ――鎖は直進。
一つの黄色い眼をコントロールされた鎖が貫いた。
「――グギャオオオオオオォォォォ」
鎖が刺さった痛みの声と共に、頭を激しく左右に振り回してきた。
貫かれた眼窩からは、黒い液体が大量に放出されていく。
鎖が腕ごと引っ張られそうになったので<鎖>を消去させる。
黒い液体を撒き散らしながら横広い口を開くと、緑色の歯を眩しく煌かせて緑のブレスを撃ち放ってきた。
――酸か?
即座に<導想魔手>を発動。
足に魔力を溜め、魔脚で走りながら右斜め上へ跳躍。
濃厚な緑色の泡ブレスを躱した。
灰色外套に酸が少し触れてじゅあっと臭い匂いが漂った。
そこから<導想魔手>を足場にして空中から二段ジャンプ。
重力で落下する前に、斜め前の天井へ<鎖>を射ち、鎖を固定。
鎖を収斂させ引き込む速度を得たところで<鎖>を消す。
宙にある<導想魔手>の足場を魔脚で強く蹴り、更なる速度を得る。
視界に映る
そんなナマズ髭を蓄えている口へ、身体を一回転させながらの重力を味方につけた魔槍杖を縦に振り下ろした。
紅斧刃の一撃が、蛇の口元を捉え――舌ごと下顎を真っ二つ。
「ギョボブォガァァァァァァァァ」
下顎が舌ごとパックリと割れ、喉から胴体上部がご開帳――。
しかし、クパァっと開いた傷口から黒い甘露水が津波のように発生。
――それはダムが決壊するぐらいに勢いある水量。
物凄い水量だった。
俺は空中で一回転斬りを終えた直後だったので、その黒い津波にザブンっと全身を飲み込まれてしまう。
この黒い甘露水の津波。泳げる勢いだ。
勢いよく流されていく中だけど、飲んでみよ。
ごくごくごくと、泳がずに、この液体を飲んでいく。
うまうまうまうま。うまい。
本当に甘くてスッキリする。だけど、コーラじゃなかった。
甘いんだけど炭酸じゃないのに、喉がスカッとする。
旨い、不思議だけどうめぇぇぇ。
これ回収しとこ。癖になる。
濁流となっている黒い甘露津波に飲み込まれながらも、体勢を整えると、泳ぎながらアイテムボックスを操作。
水差しを取り出した。
その水差しの中に黒い甘露水を満たしてはアイテムボックスの中へ放り込んでいく。
結局、黒い甘露水の回収を続けながら、黒い津波の濁流によって、入口付近まで運ばれていた。
ダメージは全くない。
やがて、海のような黒い甘露水の津波は地面に吸い込まれて消えていく。
そこに本体の
まだ生きてるのか。
入口近辺に運ばれてしまったので、少し距離がある。
なので急いで戻ろっと。
湿った地面を蹴り中央へ走っていく。
中央に戻ると、黒い甘露水を放出しながら踊るように跳ねている
左から
右から飛び出したヴィーネが華麗な銀剣による横薙ぎを下腹部へ決めていた。
続いてヴィーネと
その度に
ヴィーネと
魅せるね。
その後に、エヴァの車椅子から放たれた円月輪が宙を舞いながら大蛇頭部に直撃。
違う操作がされた円月輪たちも黒い側頭部を切り刻み無数の切り傷を負わせていく。
そして、レベッカの大きめの火球が
その頭部の半分が焼け爛れている。
「ひぃあー、こっち向かないでよっ」
レベッカは慌てて黒柱がある後方へ走って逃げていた。
斬られて、穴だらけで、燃やされているのに反撃しようとするとはな。
だが、ここまでだ――止めは俺が貰う。
「ここからは、俺が貰うぞ――」
大声で仲間に宣言。
跳躍しながらスキル<導想魔手>を使い宙に足場を作ると、自らの足でそれを踏み蹴って、タッタッと宙へ駆けて、更に、跳躍。
斜め前にジャンプをしながら<鎖>を斜め天井上に突き刺し固定。
そのタイミングで――<鎖>を勢いよく収斂。
一気に身体を前へ運ぶ。
さっきよりも速度を増した状態で、宙を駆けた。
少し、素の本気を出すか。
空中での移動中だが、構わず、全身に魔力を循環。
魔闘術により全身を強化させた。
恒久スキル<真祖の力>に内包された身体能力の力を見せてやろう。
傷だらけの大きい黒飴水蛇の姿が視界を占めてくる。
レベッカの火球により燃えている頭部に狙い定めた。
魔槍杖を持つ右手首を素早く返して、紅斧刃を横に寝かした状態を維持。
力を溜めるように背中や腰の筋肉を軋ませながら、腕を後方へ捻り、魔槍杖を弓の弦に見立て引くように後方へと引いていく。
イメージは古いがトルネード投法だ。
そして、空中からの速度と筋肉の力を魔槍へ乗せて一気に紅斧刃を前部へ押し出し――大蛇の頭を力強く、一閃。
紅線、真一文字の血傷が
手応えあり。
その直後に、紅線が爆弾の導火線の如く燃え出し、傷の線の境目から連鎖爆発するように頭部が背後へずれ落ちていく。
※ピコーン※<豪閃>スキル獲得※
薙ぎ切った勢いを維持して横回転しながら着地。
ひさびさに赤い文字で視界にスキル獲得と出た。
ピコーンの響く音もいいね。
そんな感想を抱きながら
すぐに口を開けて、飲む。うまうまだ。
黒い甘露水が放出されている死骸の根本からは、ぽこぽこっと空気が漏れる音が立つ。
そこには魔石も浮いていた。
降り注いでくる黒い甘露水を飲みながら現れた魔石を凝視。
あれは中魔石より確実に大きい魔石。
しかも蛇型の形状だし。
その魔石を触って確認しようとすると、黒い甘露水が溢れる死骸近くの地面から魔素が大量に湧き出た。
――うひゃっと、思わず反射的にビクッと身体を震わせる。
黒水浸しの地を蹴り、水飛沫を作りながら俺は退いていた。
その瞬間、魔素の噴出ポイントから銀色の宝箱が地面に出現。
思わず両腕を使い、ヘルメの物真似じゃないが
驚いた。銀色の箱は大きくかなり綺麗。
きらびやかな銀色でゴシック調のデザインが施されてある。
「ええええっ? 鉄じゃなく、銀色宝箱! すごいすごい、本当にすごいよぉ」
口元を黒く汚しているレベッカが大興奮。
大蛇を倒したことより、この宝箱の出現の方が確実に反応が上という。
いや、まぁ、俺も驚いたけどさ、まさか本当に宝箱が出現するとはな。
俺と
銀製宝箱が突然に出現したが、その周りには黒飴水蛇の死骸から溢れる黒い甘露水によって浅い湖のようになっていた。
足元が黒色の水に浸かる。
しかし、底の地面が水を勢い良く吸い込んでいるのか、どんどんと水位が下がっていく。
これ、レアモンスター部屋特有の仕掛けという訳か。
黒水面を眺めていると、水を跳ねている音が響く。
音の方を見ると、
飲んでいるというより、しょうがなくか?
歩くたびに肉球の脚裏が濡れるのが気になるようだ。
舐めた後に、濡れた片脚を上下左右へ激しく振り水分を飛ばしては、また、脚を舐めて対処している。
しかし、舐めた後も降ろせば地に脚が付くので、その度に何度も脚を濡れてしまう。
しまいには濡れるのに慣れたのか、四肢を上手く使い黒水面を滑るように遊び出していた。
はは、開き直ったな。
……暫くは放っておこう。
「……まずは宝箱より、この黒い甘露水を確保するか? 水差しなら一杯あるし――」
俺はわざと大きな声で話しながら、アイテムボックスから水差しを取り出しては、地面へ投げるように大量に置いていく。
「はい。もう無くなりかけていますので、急ぎ掬います」
ヴィーネは指示通り、素早く水差しを掴むと、黒い甘露水を回収していく。
「ん、手伝う」
エヴァも黒の甘露水の水面に車椅子が浸かっていたが、水面に波紋を作りながら車椅子を進めて、水差しを拾うと汲むのに手伝ってくれていた。
ところが、約一名は……。
「宝箱~宝箱~何が出るだろ、宝箱っ、銀、銀、銀っ」
レベッカは完全に宝箱へ魅了されている。
変な歌を口ずさんでいるし。
杖を旗かバトンに見立てたのか、小刻みに振るうように使って踊っている。
新体操選手には見えないが……。
俺の言葉は聞こえてないようだ。
コマネチでもしてやろうか?
それは自制した。
「……おぃ、レベッカ、聞いているか?」
水差しに黒い甘露水を掬いながらレベッカに問いかけた。
「うん? あ、何? 聞いてなかったごめん」
「この、黒い甘露水を今のうちに確保しておこう」
「あ、うん。そうね。手伝う」
レベッカも宝箱から目を離し、俺の話に軽く頷くと、水差しを手に取り黒い甘露水を掬い上げていく。
こうして、皆で、黒い甘露水が地面に吸われて無くなるまで回収を続けた。
昔、この空いた水差しをヘカトレイルで買っといて正解だったな。
黒い甘露水が入った沢山の水差しは、全て俺のアイテムボックスの中へ入れておく。
さて、次は、
「この立派な銀製宝箱だけど、絶対に罠が掛かり鍵が掛かっていると思うが、どうだろうか」
俺は綺麗な宝箱を見つめながら、素朴な疑問を言ってみた。
「あっ! あぁぁぁ、そうだった。鍵に……罠……」
レベッカは俺の疑問声に、今さら気付いたのか、濡れ湿った床面に膝をつけて、愕然と、している。
その姿はコーナーに座り燃え尽きた真っ白なボクサーのようだ。
と、ツッコミを入れたくなるほどの項垂れようだった。
「ん、当然。銀色。グレード高い銀宝箱」
エヴァは頷く。もしかして、鍵開けとかできるかな?
「エヴァは鍵開け可能?」
「ううん、無理」
顔を横に振り、あっさりと否定。
「やっぱそうだよな。俺もそんな鍵開けなんてしたことないし……」
諦め口調で話していると、忍者が出現するように、ぼんっと小さな煙の演出を加えた精霊ヘルメが片膝を地面につけて頭を下げた態勢で、俺の視界に登場。
『閣下、わたしが鍵穴に潜り込んでみますか?』
登場の仕方に少し驚いた、とは言えない。
『……それはどうだろう。もし罠が発動したらモロにダメージがこないか?』
『その可能性はありますが……』
『人族の屋敷とかならいざ知らず、ここはダンジョンの宝箱だ。火炎系の罠爆発が直撃した場合、ヘルメの体、大丈夫?』
『怖いですが、ある程度の炎なら相殺できます。しかし、さすがに、炎神クラスの一撃ですと蒸発しちゃいそうですが……』
視界に現れているヘルメは小さい姿だが、その顔色からは恐怖が滲み出ている。
水の精霊でも、炎神とやらの攻撃が怖いらしい。
『うーん、さすがにそんな罠はないと思うけど、判別できない以上解らない。だから、今回は無理しないでいい。今は見てて』
『はい』
ヘルメはお辞儀をして視界から消える。
「……がーん。これはショック過ぎるわ……目の前に人生初の銀製宝箱が出現したというのに……」
レベッカのショック姿は暫く続くようだ。
そこに、ヴィーネが素早い身のこなしで隣に来る。
俺の耳元で呟くように、小さい声で語りかけてきた。
「ご主人様……わたしは鍵開けができます」
「お、銀製宝箱でも開けられるのか?」
「はい。盗賊系スキルから派生する鍵開けスキルも身に付けておりますので、金製宝箱でも開ける自信があります」
まじかよ。そんなスキルも持っているのか。
さすがは高級奴隷だ。やるねぇ。
どういった理由でそのスキルを得たのか、気になるとこだが、任せてみよう。
「わかった。開けてみろ」
「はっ」
その時、車椅子に乗っているエヴァが鋭い視線で、俺とヴィーネのやり取りを見据えていた。
どうしたんだろ。と、エヴァと視線を合わせると、ニコっと笑顔になるエヴァ。
そんなエヴァに報告しとく。
「エヴァ、ヴィーネがこの宝箱開けられるらしい」
「ん……優秀」
エヴァは頷き、宝箱へ近付くヴィーネを見る視線がどことなく厳しい。
「えっ? ほ、ほんと?」
レベッカは鍵を開けられる話を聞いていたのか、沈ませていた顔を上げ、七転び八起きの勢いで食い付いてきた。
「らしいけど……」
若干、レベッカの勢いに引きながら、ヴィーネを見る。
彼女は銀製宝箱にある鍵穴を覗く。
罠か鍵に判断がついたのか、ダークエルフらしい銀色の長髪を揺らしながら軽く頷く。
腰ベルトについた袋から針金みたいのを取り出すと、その針金の先端を鍵穴へ突っ込み、慎重に作業を行ってた。
すると、あっさりと、カチャンッ、と鍵が開いた音が響く。
「罠も解除され、鍵が開きました」
ヴィーネが鍵を開けてくれたようだ。
何の罠だったのだろ?
「やったぁ。シュウヤ! 開けてみせてっ」
レベッカは嬉しそうに笑顔を浮かべては俺に宝箱を開けるように催促してきた。
今までの行動からして、自ら宝箱を開けようとするかと思ったけど、さすがに遠慮しているようだ。
それとも罠がまだあったら嫌だな。
とか思っていたりして……。
ま、いい。開けてやる。
罠を食らい怪我をしても、俺の場合は痛いのを我慢すればいいだけだ。
「……わかった。開けてみる」
いったい、この銀製宝箱には何が入っているのやら……。
こないだの木製宝箱よりは、確実にこの銀製宝箱のが大きいからざっくざくに金貨が入ってたりして。
ニヤつき、わくわくしながら宝箱の上部に手をかけて、蓋を持ち上げる。
その宝箱の中には数種類のアイテム、紫色の炎を出している水晶インゴット、黄金色の鉱物、地図らしき物が入っていた。
金貨ざっくざくという夢は破れる。
しかし、アイテムは何れも魔力を宿していた。
アイテムは中々の代物と予想できる。
まずは銀製の指輪。
リングの中心に藍色と白色が混ざり渦を巻くようにデザインされている大きい丸い宝石が目立つ。
周りにもダイヤモンドの用な小粒の宝石が散りばめられ、リングを一周するように並べられていた。
この指輪が宝箱の中で“一番”の魔力を内包している。
海の水を生み出すことのできるあのウォータエレメントスタッフに近いぐらいに魔力の渦が巻いていた。
『閣下、この指輪は他とは違いますね』
『そうだな』
ヘルメも同様に指輪を注目していた。
次は銀製の杖。
全部が透き通るような色合いで銀色に輝いている。
銀杖の先端には赤と白の宝石が埋め込まれてあった。
二つの宝石は独立して嵌まっている。
魔力も指輪ほどじゃないが、かなり内包されていた。
次は黒鱗に包まれた刀剣。
勿論、黒鱗が鞘のことなんだけど、持ち手の柄巻きのデザインが黒蛇のデザインだった。
これは
次は銀糸で縫われている洋服。
薄い銀素材で出来ている半袖服だ。
網目模様が非常に細かく再現されてデザイン製も高く、魔力が込められた銀布を触ってみると意外に少し重い。
布じゃなく金属製のふんわり柔らかい服という、あり得ない服。
これ、魔力を帯びているし防具の品としても、優秀そうだ。
次は黄金色と赤茶色の鉱物が合体した塊。
これは金塊か? 魔力を放出してるので特別な鉱物だと思うが。
次は蓋付きの専用の箱に包まれている紫炎を出してるインゴット。
これは金塊とは違い精錬され長方形の整った水晶体。
紫色の炎が長方形を纏って燃えているけど、紫色の炎からは何処かで嗅いだことのある香水のような良い匂いがした。
魔力も微量にだが放出している。
次は古地図のような羊皮紙。
魔力を宿した紙。地形が描かれてあるのは分かる。
これ宝の地図なんだろうか?
アイテム類を見ては、感嘆の表情を出し頷いてると、皆が宝箱前に集まってきていた。
「わぁ……銀製の杖がある、魔宝図もあるし……何か良い匂いもする」
「ん、凄い、鉱石……。あ、懐かしい、ブルーインもある」
レベッカとエヴァはそれぞれ感想を述べていた。
「こ、これは」
「ンン、にゃ」
ヴィーネと
いや、一匹は違うか。
甘えたいのか、匂い付けをしたいのか解らない。
銀箱に匂い付けの作業をしても、しょうがないと思うが……。
縄張りか。宝箱は『わたしのものニャ?』
とか、言いたいんだな?
……まぁ、それは置いといて。
「ヴィーネ、宝箱開けてくれて、ありがと」
「いえっ、滅相もないです。ご主人様の役に立てて光栄です」
ヴィーネは即座に宝箱から一歩退き、頭を下げていた。
「……ねね、このお宝類、鑑定してもらうとして、どういう風に分けるの?」
「ん、シュウヤが好きなの持っていけばいい」
「え? エヴァ、貴女は要らないの? このお宝」
レベッカは信じられない、という顔付きで、車椅子から身を乗り出して宝箱を覗いているエヴァの横顔をマジマジと見ていく。
「ん、欲しいのはある。けど、黒飴水蛇を倒したのは、ほぼ、シュウヤ。それに宝箱開けたのは、シュウヤが所有する奴隷、パーティだけど、シュウヤの考えを聞く」
「そ、それはそうだけどさ……パーティだし、わたしも頑張ったもん」
レベッカは宝と俺を見比べるように視線を行ったり来たりさせている。
金眉をいじらしく下げては不安気な表情を作り、懇願するように綺麗な蒼い瞳で俺を見つめてくる。
はは、可愛い顔。
端から独占なんてするつもりはない。
「レベッカ、大丈夫だよ。独占なんてしない。皆の意見を聞く。それで、レベッカは何れが欲しい?」
「あ、うん。それじゃ、この、――銀製の杖っ」
宝箱にある銀製の杖を指さすレベッカ。
「なるほど。魔法系らしい。それで、エヴァはどれが欲しい?」
「わたしはこれ――」
エヴァは不思議と黄金色と赤茶が混ざる鉱石を指していた。
金塊が欲しい訳でもないだろうし、戦闘職業が鋼魔士だからか? 分からない。
「ヴィーネは?」
「ぇ?」
「ん」
「奴隷にも選ばせるの?」
三者三様に驚く。
「意見を聞くだけだ。――それでヴィーネ、お前ならどれを選ぶ? ちゃんと欲しいと思える物を言え、命令だ」
俺はレベッカに少しキツイ視線を送った後、ヴィーネを見て命令を下す。
「はい、では――」
ヴィーネは恐る恐るだが、腕を伸ばし、黒鱗の刀剣を選んでいた。
「なるほど。よし、皆、その選んだ物を取っていいぞ。俺はあの指輪と銀服を貰っとこう、地図と紫の水晶は回収だけしとく」
「それだけ? 欲がないね、それじゃ、ほんとに貰うわよ」
レベッカは特に不満がないのか、自分が狙いをつけた銀杖を狩人のように睨んでいる。
「ん、わかった」
エヴァは至って普通に頷き、宝箱の縁に手を掛けながら反対の手を宝箱の中へ伸ばしていく。
ヴィーネも刀剣を取る。
三人の手にはそれぞれアイテムが握られた。
俺も銀の指輪、紫水晶、地図、銀服を回収。
一先ず地上へ出るまで、アイテムボックスへ入れておく。
レベッカはプラチナブロンドな金髪を揺らしながら、古い杖を細い腰に差し直し、新しい銀製杖を両手に握ると斜め前方へ伸ばして構え出す。
そして、白銀に輝く杖を目もとに引き寄せると、蒼目を寄り目気味に集中させ凝視しては“うふふ”と声を漏らし、銀光りする光沢にうっとりしていた。
エヴァも嬉しそうに金塊鉱石らしき物を掴み見つめると、微笑を浮かべながら、アイテムボックスへその金塊鉱石を入れていく。
ヴィーネは黒鱗の鞘から刀剣を引き抜き、黒色と緑色のきらびやかな刀身を確かめるように眺めていた。
刀身には緑色の紋様が刻まれている。
気色悪い色合いだから、毒効果がありそうだ。
そして、銀製の宝箱から中身が全部消えると、宝箱は一気に消失。
「あ、消えちゃった」
「初めて見た。グレード高い宝箱は自動的に消えるんだ」
「ん、わたしも初見」
銀製の箱だったから、回収できたら高く売れそうだったのに……ま、しょうがない。
それと、今回の宝について説明しとくか。
「今回手に入れた宝物は個別に手に入れたから、売らずにパーティの利益には換算しないけど、良いよな?」
レベッカがうんうんと頷く。
「勿論よ。元々、誘われた身としては貰えるだけでも嬉しいし。だけど、パーティによっては鑑定してから、店売りとかオークションとかで売りに出して、皆で利益を分け合うのが多いからね。覚えておいた方が良いわよぉ~」
彼女は手にした銀杖の光沢を眺めながら、流暢に語る語る。
「ん、確かに、固定パーティではその方法は多い。でも、野良を含めると、わたしたちのように話し合いで決まることが常。……最悪な場合、宝の分配で争い、殺し合いになるパーティもあるとか聞いたことがある」
エヴァも怖い情報を付け加えてきた。
「そ、そうか。殺し合いは嫌だなぁ」
「……シュウヤの場合、その実力を知っていれば“絶対”に起きないから安心しなさい」
レベッカがニコニコと笑いながらツッコミをいれてくる。
さて、もうこの部屋には用がない。部屋を出るか。
その前に……。
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