百二十二話 思いがけない再会
俺はルビアとミアに関する情報を得ようと冒険者ギルドに入った。
ボード前は相変わらず、混んでいる。
安売りスーパーの特売日という感じだ。
混んでいるボード前を歩いて受付がある奥へ移動。
ボード前と違って、多少は空いているかなと、期待したが……ここもここで、手続きしようと並ぶ冒険者たちで混雑していた。
比較的列が短いとこを選び、最後尾につけ、待つ。
すると、肩で休んでいた
お昼寝タイムらしい。
お前は気楽でいいな。呑気なこった。
列に並ぶ冒険者たちの観察を続けていると、列が自然と消化。
後は、この冒険者が終われば俺の番だ。
しかし、この目の前に並ぶ冒険者……俺よりも背が高い。
百九十センチはあるか? 銀色のツーブロックの総髪を後ろで一本に纏めている。
大きな背中には主力武器の大剣と副武器の二本の長剣を背負い、腰にも骨の鞘が目立つ小剣を装着していた。
この冒険者……後ろ姿からして一流の類の雰囲気だ。
血濡れた鶏冠付きのモンスターの頭部を受付台の上に乗せて提出。
モンスター討伐の帰りと分かる。
鶏冠と頭部の大きさから判断すると、モンスターの胴体は中々の大きさだったはず。
モンスターの頭部は嘴が鋭く鋼鉄のような光沢を帯びて目立つ。
が、一対の眼の方が特殊だった。
錦色の虹彩の中に黒い渦のようなモノがある。
二つの眼が虹彩の中に存在している?
摩訶不思議な眼。
まるで、黄泉の国から死者を呼び出す的な魔眼にも見える。
そんな大物モンスターの素材をチェックする受付嬢。
「凄い。Aランクの、大草原に湧く草原コカトリスの頭ですね。個人で倒されたのですか?」
「あぁ」
低音の渋い男声を発する銀髪の冒険者。
「まぁ、本当にすごい」
受付嬢は女性らしい鈴の音を感じさせる声をあげて、冒険者を見つめていた。
あの鳥頭、コカトリスという名前なんだ。しかもAランク。
そして、機嫌を良くした女性の受付嬢は、中々に仕事が早い。
小気味良い台詞に、てきぱきと機敏に動く。
上から目線で観察していると、銀髪の冒険者は受付嬢からカードを返されて報酬を貰っていた。
金貨袋の重さを確認。
目尻の皺を伸ばし、嬉しそうな横顔を見せている。
黄色い猫目のような瞳は魔力を帯びていた。
銀髪の冒険者は金貨袋を懐へ仕舞った。
そのままくるりと爪先回転を行い、踵を返すと、受付から離れていく。
やはり、振る舞いが一流の戦士だ。カッコイイ。
受付嬢も目がハートだし。
『閣下、今の冒険者、魔力が〝瞳〟にしか感じられませんでした。確実に凄腕ですね……』
だろうな。無名の冒険者の中にも強者がいるということだ。
中年の銀髪男で、渋いから確実に俺よりモテるだろう。
さて、次は俺の番だ。
前に進み、若い受付嬢に話しかけた。
「すみません。知り合いの冒険者のことを聞きたいのですが」
「はい。まずは冒険者カードを提出してください」
受付嬢に促されたので、俺はカードを提出。
「……はい。では確認します。……完了です。では調べますので、その方の名前は分かりますか? または所属しているパーティー名かクラン名を教えてください」
受付嬢は俺のカードを確認して、俺がちゃんとした冒険者だと分かると、そんなことを聞いてきた。
やはり、調べてくれるらしい。
「……ルビアとミアが名前です。どちらも女性の冒険者。ルビアは金色の長髪に青目。戦闘職業は不明。ミアは黒色の長髪。戦闘職業は魔法使い系。パーティーやクラン名は知りません」
「ルビアさんとミアさんですね。調べてみます」
目をぱちくりさせながら名前を復唱する受付嬢。
調べる為にギルドの奥へ移動していく。
……しばらくして、羊皮紙を片手に持ちながら戻ってきた。
「お待たせしました。ここ一ヶ月以内でルビアと名乗る冒険者は二人登録されています。クラン【蒼い風】と【バストー】に所属していますね。ミアという名は五人登録されていますが、魔法使いは一人だけです。この方はクランではなく【ゴーレム】という名のパーティーに所属しています」
随分と詳しい情報を渡してくる。
個人情報云々の規制はあんまりないようだ。
ま、ここは迷宮都市。冒険者同士の交流をしやすくしたり組み易くする必要も、あるのかもしれない。
肝心のルビアという名前は二人か。
これはどっちかが当たりだと思うが、ミアの場合は名前を変えてなかったのが前提なのでハズレだろうな。
「……そのクランやパーティーメンバーには何処に行けば会えますか?」
「【バストー】の本拠地は不明ですが、【蒼い風】はここから東にある初心の酒場を本拠地にしているクランのようです。ミアさんが入っているパーティーの【ゴーレム】も、そこの酒場を本拠地に活動を行っているようですし、直接、そこへ向かわれてはどうです?」
そうしよう。
【蒼い風】から探すとしますか。
東にある初心の酒場とやらに行く。
そういや……その酒場の名前、少し前にレベッカから聞いたことがある。
「そうしてみます。ありがとう」
「はい。場所は第一の円卓通りですから近いですよ。では、後ろの方どうぞ~」
受付嬢は素早く次の客にシフトした。
若いのにベテラン的な回転効率の速さだな。
若くて綺麗な受付嬢へと尊敬の眼差しを送ってから、その場を離れる。
混んでいる電車から降りるように、後ろに並んでいる冒険者たちのすぐ真横を歩きながらボード前を通る。
さっきよりもボード前は混雑している。
冒険者たちが依頼を選んだり仲間同士で迷宮に関する話題を話していたりする熱気にあふれる中を掻き分けるようにして進んだ。
……ふぅ、無事にギルドの外に出られた。
ここから東に歩いてすぐ、か。
円卓通りを歩いた。
早速お目当ての建物に到着。
本当に近くだった。
古びた木製の看板には黒字で初心の酒場と彫られてある。
漆喰と木材で作られているだろう二階建ての建物。
円卓通りの円形に沿う一階の出入口が若干丸みを帯びている。
少し変わった玄関口だった。
その玄関口にある木製の両扉に向かう。
両扉の上には暖簾のような白布の帳が下りていた。
扉自体は開いている。
その布扉を潜り、初心の酒場に入った。
すると、酒場の店内から喧騒が響く。
酒や煙草の匂いが鼻孔を刺激。
空気を吸うだけでも酔いそうだが、煙草の煙はそうでもない……。
鼻を
どことなく気分が良くなる香りだった。
ハーブ的な感じかな。
煙草を吸う人たちは、実に気持ち良さそうな
先端に火が点いてる葉巻はキューバサイズで少し大きい。
ぷかぷかと口から煙を吐き出していた。
その時、ウェイトレス風の女給仕たちとすれ違う。
彼女たちはどんちゃん騒ぎを起こしているテーブル席へ酒や食べ物を運んでいた。
給仕はどの子もカワイイ子ばかりだ。
エプロンにフリフリがついた衣装も良い。
この酒場独自のユニフォームのようだ。
可愛い女の子が着るエプロンには華があるねぇ。
可愛い女給仕たちを見ながら……。
比較的明るい店内を見渡す。
と、中央にバーカウンターがあったから向かう。
カウンターの机は高級木材。
縦横に四つの太い高級木材が組合わさって四角形を構成したカウンター。
四隅には天井を支える飾り梁があるし、その飾り梁には、竜、鳥、亀、虎の造形が施されてあった。
そんな四角形のカウンターが囲う中央には調理場がある。
調理場では四人のシェフたちが客に見える位置で調理を行っていた。
従業員が働ける空間が確保されてあるし、沢山の食材、酒樽が床に重なるように置かれて種類ごとに整理されている。
今も鉄板の上で野菜炒め風の料理を作る調理人。
胡麻油に似た油の匂いが漂ってきた。
反射的に、ごくっと唾を飲みこんだ。
美味しそうな匂いに反応し、喉を鳴らしながら見学していると、
「いらっしゃい。何にするんだ?」
調理が終わったシェフのおやっさんから話しかけられた。
シェフは現代風に白帽子とかは被っていない。
大柄で、冒険者風の革鎧を着こなすバーコード頭を持つ渋顔なおやっさんだ。
とりあえず、一杯いっとくか。
「……あ、軽く飲める物を一杯」
「――はいよ。蜂蜜酒だな。小銅貨一枚だ」
おやっさんはビヤ樽風の酒樽から出ている注ぎ木口から木製のゴブレットへと酒を素早く注ぎ、ゴブレットを満杯にすると、カウンターの上にゴトッと勢い良く乗せてきた。
酒が少し溢れている。
色的に黄色いビール色。
液体が垂れて、旨そうに見える。
俺は代金をカウンターに置いてから、その酒がたっぷりと入ったゴブレットを口に運び、ごくごくっと酒を飲んでいく。
ぷはぁっ、蜜というだけに、甘いし濃い。
あまり好みじゃないが、まぁしょうがない。
ついでに、このおやっさんに聞いてみるか。
「おやっさん。聞きたいことがあるんですが」
「ん? おやっさんだと? 俺にはブロンコスという偉大な名があるぞ」
そうブロンコスは睨みを利かせて俺に喋る。
ん、ブロンコスという、名前、どっかで聞いた覚えが……。
それにあの渋い顔、頭のバーコードも何処かで……。
「……そうですか、ブロンコスさん」
思い出せないので、無難に笑顔で名前を言っておく。
「よせやい、〝さん〟なんて柄じゃねぇよ。気軽に話せや、青年よ。俺はブロンコスでいいぞ。……ん、お? お前さん……」
髭ソリ跡が目立つ頬が、若干赤い。
おっさんのツンデレなんて見たくないぞ。
ま、そんな考えは表に出さず、フランクに話しかける。
「どうかしたか?」
「あっ、思い出したぞ。レフテン王国で一度、会っただろう? お前は俺のキャラバン隊の若い衆に、この場所は何処かとか、聞いてきた男だ」
――あぁ。
「そうだ。そう。俺も思い出したよ」
「ははは、互いに特徴のある顔だからな、俺はすぐに思い出したぞ」
確かに、俺は平たい顔だからな。
「しかし、あの時は酒場を経営していると言ってたが、シェフが本職だったり?」
「本職じゃないんだが、まぁ、冒険者出身は器用貧乏が多いんだよ。最近は迷宮慰霊祭の準備で冒険者稼業どころじゃないんだがな。それよりお前さん、冒険者になったようだな?」
ブロンコスはニヤッとした笑顔を浮かべて聞いてくる。
迷宮慰霊祭とは何だろうか。
気にはなったが、冒険者のことを報告しとくか。
「……そそ。冒険者Cランクだ。Bランクも近い」
「――早いな。ついこないだ冒険者に成る。と言っていたが、もうC超えかよ。すると、ずっと依頼を成功させているのか。優秀だ……やるねぇ。まぁ、あの時、自ら腕には自信がある。と豪語していただけはある」
ブロンコスは眉を動かして反応していた。
「はは、まあね」
「それで、ここに来たということは、何処かのパーティー目当てか、パーティーメンバーを募集か?」
「……いや、そうじゃなくてだな、人探しだ。クラン【蒼い風】やパーティーの【ゴーレム】は聞いたことがあるか?」
俺は当初の目的を話す。
「あぁ、あるぞ。【蒼い風】なら最近調子が良いようだな。癒しのルビアという神官戦士の新人を雇って以来、迷宮で稼ぎまくっているとか。パーティーの【ゴーレム】の方も、ここにちょくちょく顔を見せている。最近は一階層を卒業し、今は二階層を主戦場にしているとかで、稼ぎは順調なようだ」
おぉ、癒しのルビア。
やっぱり俺が知っているルビアだ。
たぶん、無詠唱での回復魔法を使っているから、そんな二つ名がついたのだろう。
「……ほう。そうなのか。それで、その【蒼い風】と【ゴーレム】はいつ頃この酒場に?」
「ん、相手はコレか? 恋人か何かか?」
ブロンコスは顔をニヤッとさせて、小指を上げている。
表現が古っ。
「いやいや、昔の知り合いがそのクランに所属しているらしくてね」
「そかそか【蒼い風】なら四日に一度、この酒場に来る。さっき言ったように最近は調子が良いらしく、迷宮に潜る頻度も高くなっているようだ。そして、昨日から姿を見せていない。だから、今日は来ないと思うぞ。ここに来るのは明後日以降だろうな。【ゴーレム】の方は最近メンバー募集をしているのか、毎日夕方から夜に掛けてここに来る」
【蒼い風】は明後日以降か。
ゴーレムの方なら、ここで待っていれば会える。
なら、それまで暇を潰そっと。
「……そっか。ブロンコス、情報をありがと――」
酒をちょびっと飲みゴブレットを置く。
「いいってことよ。んじゃ少し下がるぞ」
「あぁ」
ブロンコスはそういうと、持っていた調理道具を弄り始めて、料理用の素材を探すようにその場を離れていく。
「ンン、にゃあ」
喉声を鳴きながら
頭巾から肩へ移動。
その場で、鼻をひくひくと動かし周りの匂いをチェックしている。
腹が減ったか?
「ロロ、こっちにこい。大人しくしていてな?」
「ンン」
赤い瞳で見つめてきた。
俺は指でとんとんっと机を叩き、近くに来いと指示を出す。
「にゃお」
やべぇ、柔らかそうな腹を見せて、可愛い。
もふもふしてやる。
そんな調子で
だが、それだけのためにここに来たのではない。
この俺が座っているカウンター席は、酒場の中央部。
酒場の左右にあるスペースには円テーブルがあちこちに点在し、踊り子が踊るようなミニステージ台も存在している。
今はまだ踊り子は居ないけど。
そんな不規則に置かれた円テーブルを囲うように冒険者たちが集まり、互いに酒や食い物を飲んだり食べたりして談笑していた。
視線を目の前のカウンター席に戻す。
あんな風に楽しむのもありっちゃありだな。
そこで、調理をしているブロンコスに酒とつまみを注文。
酒を飲み、つまみを食べ、
たまには酒を飲んで、ぼうっと過ごすのも悪くない。
人間観察、もとい、冒険者観察をしながら、まったりと過ごす。
ほろ酔い気分。
気付いたら、夕日が窓から差し掛かっていた。
そんな時、ブロンコスの野太い声が俺の耳に響く。
「おっと、お前さんがさっき言っていた連中、パーティーの【ゴーレム】が入ってきたぞ」
「どれどれ――」
そう言って、ブロンコスがチラッと視線を動かし、誘導してくれた。
三人の女か、ミアはいるかな?
おおお、マジか。
ミアじゃなく、知っている顔の女がいた。
彼女の名前はミスティ。ゾル・ギュスターブの妹。
特徴的な額の紋章はバンダナで隠してるや。
あの時、冒険者にでも成れば?
そう勧めて、また会えると言って別れたが、まさか本当に冒険者へ鞍替えしているとは……昨日の淵は今日の瀬か。
連れの二人は知らない女性だ。
ミスティは俺には気付いていない。
仲間を連れて円テーブルの一つに座っていた。
ルビアはそのうち会えるだろうし、ミスティに挨拶だけでもしていくか。
「少し挨拶してくる。ロロ、ここでツマミでも食って待っとけ」
「にゃ」
「やっ、ミスティ、久しぶり」
「――誰? 先生の知り合い?」
先生? 円テーブルに座っていた【ゴーレム】のパーティーメンバーの女の子が驚き、俺を舐めるように視認しては、ミスティのことを先生と呼んで問いかけている。
肝心のミスティも驚き、口をぱくぱく動かしてから、
「あ、あぁぁぁっ! シュウヤ、あんたもこの都市に来ていたのね!」
「そうだよ。元気そうでなにより」
「ほんとに、ほんとに、再会できた――それより、あの時はありがとう。今のわたしがあるのは貴方のお陰よ」
ミスティは席から立ち上がり、俺に頭を下げてきた。
「まぁ、頭をあげてくれ。俺は些細なきっかけを与えたに過ぎないからな。しかし、元気に会えたのが嬉しいよ。ちゃんと冒険者になったんだな」
ミスティは目もとを潤ませる。
「う、うん。……あ、紹介するね。今、パーティーを組んでるミアとエル」
紹介されたので、軽く二人に挨拶。
「ども、よろしくです。俺は名はシュウヤ。Cランクの冒険者です」
「はい、よろしくです。ミスティ先生と同じパーティーのミアです。冒険者ランクはまだFランクです」
「エルよ。同じくFランク」
二人とも若そうだな。Fランクか。
ミアと名乗った女の子は、やはり俺が知るミアではない。
この子は温容な顔だし、やはり別人だった。
「皆さんは、ミスティと、この都市で知り合ったのですか?」
「はい、そうなんです。わたしとエルは魔法学院ロンベルジュの生徒ですが、経験を積むのに良いかと思い、臨時講師であるミスティ先生とパーティーを組んでもらいました。お金も稼げるし」
ミスティが講師だと?
どういう経緯で、偽装か? 額の魔印を利用したのか?
よく就職できたもんだ。
訝しんでミスティを凝視。
ミスティは、両手で俺を拝むように合わせて、可愛らしくウィンクをしてくる。
過去のことは〝黙っていて〟とアピールをしていた。
はは、再出発の邪魔をするわけないじゃないか。
「わたしはミアが心配で一緒に入ったの」
内気そうな片方の若い女子がそう発言した。
この子たちは生徒たちか。
格好もフード付きのコート。
コートは夏用なのか薄い生地で、胸元が開いている。
中にそれらしき制服を着ているのが見て取れた。
そういえば、俺の知っているミアも似たような制服を持っていたな。
セーラー服風でブレザーか。女子高生的。
「……学生さんでしたか。迷宮に挑むとは腕に自信があるんですね」
「はい。この通り――魔法なら自信があるんです」
「わたしも魔法が得意」
二人は元気の良い動作で、ローブの中から腕を伸ばす。
その細い手には木製のねじれ杖を持っていた。
杖先には赤い魔宝石と青い魔宝石が嵌められている。
「杖ですね。戦闘職業は魔法関係ですか」
「はい」
「当然」
二人を観察していると、ミスティがジッと俺を見て、口を開く。
「ねぇ……」
何か、期待してるような眼差し。
「ん?」
「シュウヤはパーティーを組んでいるの?」
「まだ正式には登録していないが、組む予定の人はいる」
その言葉を聞くと、ミスティは明らかに残念顔を浮かべて肩を落とす。
「……糞、そっかぁ、残念。わたしのパーティーに誘おうかと思ったのに……」
「悪いな。そういやメンバーを集めているんだって? そこの酒場のおやっさんから聞いたよ」
「そうなのよ。あ~あ。糞、糞、糞っ、せっかく、シュウヤを見て期待していたのに、あの槍使いが仲間になるかも、と……あ~あ、一瞬の喜びも束の間だったわ」
糞、糞、の口癖は講師になっても直らないか。
「……だが、俺のパーティーはまだ増やすと思うし、なんなら、今度一緒に組むか?」
「え、いいの?」
「あぁ、喜んで」
「嬉しい……でも、今は先生の立場だから、シュウヤのパーティーへわたしが入るのは……少し時間が掛かると思う」
「いいよ、俺が泊まっている宿を教えとく」
迷宮の宿り月の名前と場所を教え、ミスティと積もる話を続けていった。
「……シュウヤさんは槍使いなんですか?」
魔法学院の生徒のミアが話しかけてきた。
武器を持っていない俺の姿を見て、不思議に思ったらしい。
「そうですよ」
「ミアも見たらびっくりすると思う。シュウヤは超がつくほど強いんだから、あ、そういえば、ロロちゃんは?」
「あぁ、あそこだよ――。酒のツマミを食ってる」
そう言って
小魚を食うのを止めて、こっちを見上げていた。
「――可愛い。紅色と黒色のおめめで、こっちを見てる」
「呼ぶか?」
「ううん。いいの。食べさせてあげて」
「いいのか? それで、ミスティたちが、今、募集しているパーティーメンバーは集まりそうなのか?」
「たぶんね。このテーブル上にある飾り旗。この緑旗は野良のパーティーメンバーを募集しているという印だから、そのうち集まると思う。それに、ミアの友達も入りたいと言っているから、その子が集まりしだい一階層から二階層で狩りをするわ」
確かに円テーブルの上には緑布の旗が置かれてある。
周囲には緑旗の他に白、赤、青、黒があった。
それぞれに意味がありそうだけど、今はいいや。
ルビアとミアに会えなかったけど、ミスティに会うことができたし。
もう、外に出よ。
「そっか。メンバーが順調に集まるといいな? それじゃ他にも用があるんで、ここを出るよ」
「もう行っちゃうの? まだまだ話していたいのに」
「はは、生徒が見ているんだ。講師の仕事はちゃんと全うしないとな? 暇ができたら宿に来いよ。俺も迷宮に潜って会えないかもしれないが、連絡は宿の女将、宿の関係者に知らせてくれればいい。それじゃ、パーティーのお二人さんも、ミスティを、綺麗な先生をよろしく――」
二人の女学生は笑顔で頷き、
「はい」
「わかった」
と、女子生徒たちは返事をしていた。
最後にミスティの笑顔を見てから、挨拶を済ませて立ち上がる。
もう
俺が戻ってくると肩に戻ってくる。
口が少し魚臭い。
さて、外に出るか。
「ブロンコス、一旦外へ出るよ。またな」
「おうよ」
ブロンコスに挨拶してから、踵を返す。
洒落たクラブのように冒険者の出入りが激しい酒場の出口へ向かい外へ出た。
もうじき夜になる。
さて、【梟の牙】の本拠地に乗り込むとするか。
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