百六話 魔法通り
「もうすぐよ。ここの路地を北に出て、第二円卓通りから先が魔法通りと呼ばれるわ」
レベッカに案内され、その魔法通りに到着。
「おぉ、ここが魔法通り」
青白い光を発している広告の看板があちこちにある。
近未来のネオン街、とまではいかないけど、白と青のコントラストは冷たい未来の街並みを感じさせた。
青白い光を放つ杖を握るマークに【魔法ギルド】の看板が飾られた二階建ての建物。
特徴的な店舗姿と看板が立ち並ぶ。
他の通りには無い光景だな。
というか、他の都市でもこの光景は見たことがない。
おっ、この光は……。
以前にも見たことがある電灯らしき小塔があった。
「こりゃ……」
蛾や羽虫が群がりそうな青白い光。
電灯のような塔は歩行者用の道を確保するように通り沿いに幾つか並び立ち奥まで続いている。
『近くで見ると不思議な光ですね』
確かに……。
ヘルメもこんな間近でこの光を見たことが無かったようだ。
「どうしたの?」
レベッカが不思議そうな顔を浮かべて聞いてきた。
俺が光る塔に注目しているのが、気になるようだ。
「光を灯す塔が不思議だなと」
「これは魔塔の一種。モンスターを近寄らせない効果があるの。因みに、これが存在するという事は、【魔法ギルド】の関係者が近くに居るという証拠なのよ」
なるほど“魔霧の渦森”にあったのも同じような魔塔か。
ゾル・ギュスターブの家前に設置してあったのは、やはり結界だったか。
「この塔にはギルド特有の“何か”があると」
「うん。迷宮が出る魔石と魔法陣による結界魔法らしいけど、その“何か”は秘匿されているわ」
「レベッカはその【魔法ギルド】とやらには所属しているの?」
「ううん。所属できないし、したくもないわね。所属する人材も魔法学院を首席で卒業するような高ランクな戦闘職業、魔力、精神、を持つ者が求められるし。色々な魔法の研究をしてみたいとは思うけど、その分、様々な条件と規則が厳しいから、わたしは所属したくないわ」
魔法ギルドとはそんなに厳しいんだ。
「冒険者ギルドとは違って、所属するには条件が必要なのか……」
「――シュウヤは魔法が使えるのに知らなかったの?」
レベッカは両膝を斜めに折って、背を屈めて
「そうだよ。【ヘカトレイル】には【魔法ギルド】が無いし【ホルカーバム】じゃ、魔道具店も数える程度で、あまり探しもしなかった」
「ふーん。まぁ、旅をしてきたのだから当然か。国によって【魔法ギルド】に所属することにより国外に出る事が禁じられることもあるからね。ギルドの高度魔法を秘匿したり、戦争に利用する為なんでしょうけど」
うへ、国外に出ることが禁止かよ。
「それは嫌だなぁ。仮に【魔法ギルド】に所属したとしたら、今も【オセベリア王国】は国外に出るのを禁止してるのかな?」
「現時点ではされていないわ。帝国との戦争が激しかった頃は国外に出ることは禁止されていたようね。でも、まだ帝国との戦争は続いてるのだし……戦争が激しくなった場合、また、国外に出るのは禁止されるでしょうね」
「なるほど。そんなことなら、魔法ギルドとは、俺もご遠慮したいな」
そこで、レベッカは立ち上がり、俺を見て笑う。
「ふふ、シュウヤは冒険者でしょ? 魔法ギルドに入らなきゃ大丈夫よ。それじゃ、目的の店があそこにあるから、そろそろ中へ入らない?」
レベッカは顔を横に傾けて聞いてきた。
その仕草がいちいち可愛い。
「あぁ、行こう」
「ロロちゃんも行くよ~」
「にゃあ」
彼女はすぐに足を止めた。
ここの店か……。
店の外観は“ 特殊 ”の一言。
レベッカは特殊な外観の店を紹介するように手を伸ばす。
「ここよ。わたしがお勧めする店。クリシュナ魔道具店。未知の魔導具店、穴場の魔法具店とか、色々と言われている」
レベッカの説明を聞きながら、白太い骨柱が螺旋状に伸びて赤傘の屋根が蓋をしているを見ていく。
正面両扉の枠には白い螺旋状の不思議な図形マークが飾られてあった。
右足をぽんっと柱へ押し当て、爪は立てずに肉球を押し付けたり、尻尾を絡ませたり、匂いを嗅いだり、猫の匂い付けな作業とは違う、魔法の匂いを独自に嗅いでいるような不思議な行動を取っている。
「……実に面白い」
俺は店を見上ながら小さく呟く。
「えっ?」
レベッカが俺の呟き声に疑問の顔を向ける。
「いや、何でもない。……魔道具や魔法書を見てみたい。ロロ、匂いを嗅いでないで、中へ入るぞ」
「にゃ」
「変なシュウヤに、変なロロちゃんね。こっちよ」
扉を開け、レベッカと共に店の中へ入っていく。
店内に入ると、いきなりの不思議空間が出迎えた。
床、天井、内壁、柱。飾り梁、その何れもが、幾何学模様入りの石材と古びた木材で構成されている。
中世、近代時代の古ぼけた文化のようだけど、現代にもありそうな感じ、トリックアート的で、何とも言えない。
商品も見たことがない物ばかり。
最初に目に付いたのはマネキンに飾られた帽子。
帽子の鍔と同化している蝋人形のような角が生えた小人が、沢山、蠢いて働いている? 帽子だった。
肩に乗ってきた黒猫は、その動いてる角小人を紅い瞳で追っている。
帽子なのは分かるけど……。
小さな角が映えた小人、禿げた親父風の小人もいた。
それが、パントマイムをして動いている……。
『不思議な帽子ですね。小さな小人ですが、一つ一つから濃密な魔力を持ち、精霊の気配を感じます』
ヘルメが視界に現れ説明してくれた。
「ロロ、反応しちゃだめだぞ」
「にゃ」
レベッカは俺と黒猫の反応を見て、少し笑っていたが、黙って見ていてくれた。
店内を進む。また、不思議な物が視界に入る。
インバネスの魔法のコート。藍色でシックに纏まっているが、襟の首元から背中にかけて孔雀の羽のように広がっている白爪が気色悪かった。
ノコギリの刃を持つ白爪が、一本、一本、不気味に動いている。
「これ触っても大丈夫?」
「うん。売り物だから気を付けてね」
「あぁ」
興味があったので、その藍色コートの内側を捲ってみた。
内の裏地には銀色の魔法文字がびっしりと書き込まれてある。
魔力がかなり内包されてるや、凄い防具かも。
「そのコート、傷を受けても自動修復されるらしいわ。秘術系のカウンターマジックである《
魔察眼で確認してると、レベッカが説明してくれた。
「詳しいな」
「ここの店には何度か、通っているからね」
「そっか。コートが売れてないのは見た目のせいかな?」
「うん。たぶん。木札に書かれた通り、値段も高いし。不気味な見た目な上に、首が逆に危なくなるほどの白骨の爪。……防具としては致命的だから売れないんでしょうね」
「なるほど」
確かに不気味だ。
そこで、隣にあった商品へ視線を移す。
これも奇抜な物だ。
黒狼か熊の剛毛で出来ている、着れば暖かそうなコート。
肩から腕の部分にかけて狼と熊の頭があり、その頭部はまるで本物の生きているように口が動いている。
目玉や口の動きが特にリアルだ。
まさか、生きているのか?
と、頭の部分を触ろうと近付くと、急に狼熊の口が急に動く。
――うひゃっ。
顎の上下に生えた鋭い牙が、まるで生きているかのように激しくカチカチカチと縦に動き交差させてきた。
その不気味な音には
「これ、生きてるのかっ」
「ッ、シャァ」
前足と後脚の爪が伸び、触手も少し伸びていた。カチカチ動く牙へ今にも飛びかかる勢いだ。
足の爪に力が入っているのを、外套ごしにひしひしと感じ取る。
「ロロ、大丈夫。落ち着け、これは商品だ」
「あははっ、驚いた? その装備品は知らない人が近付くと、皆、同じように吃驚しているわねっ」
レベッカは笑っていた。
知っていて、俺たちの反応を見ていたな?
舌をチョロっと可愛く出している仕草がまた可愛い。
『閣下、仲間に推薦しましたが撤回します。偉大なる恩方たるお顔を馬鹿にし、今も、悪戯顔を浮かべている。生意気です。お尻に氷槍を――』
『いや、それはダメだぞ』
『はい』
怒るヘルメに念話で注意してから、気にせず店の奥へ進むと、また不思議な物があった。
それはビーカーの中に入った薄い青透明の水?
青透明の何かは蠢いている。
これ、一体何に使う物なんだろ?
近付いて、観察。
「リアルなスライムみたいだ」
そんな感想の言葉に、スライムが反応。
ビーカーの中に溜まっていた青透明の液体の形がうねり蠢く。
うひょ――突如、俺、そっくりな顔に成った。
「!? 俺の顔だ」
液体は形態模写をするように、驚いている顔、怒った顔、笑った顔、悲しむ顔、様々な顔へ変形していく。
青白い液体は更なる変化を起こす。
にょろりと眼球に似た二つのモノが出現。
口も現れて動いた。
「……オ前、フシギナ、マ力ヲ、感ジル」
「ロロ、ダメだぞ?」
軽く注意すると、
「えっ!? 言葉を話している? この青いのが反応しているところは、初めて見た」
レベッカも驚いていた。
ビーカーと俺の姿を交互に見ている。
『閣下、これは、名もなき水の眷族。濃度の濃い水精霊の一部分と思われます』
ほぉ。
『これが水精霊の一部? ヘルメに似た種族ということ?』
『はい。精霊には様々無数に存在します。この小さい精霊は一部でしかない上に魔と混じり固定化されてますので、助けてあげたいのですが……無理のようです』
……精霊かモンスターか、いまひとつ分からない。
レベッカの方を見ながら、
「普通はこんな反応は無い?」
「わたしは初めてみたわ」
「なら、俺に反応したのかな」
そう言って、顔をその不思議の青白い液体が入ったビーカーに向ける。
「オマエは何だ?」
「……セイレイ、マ、デアリ、水デモ、アルモノダ」
そのまんまだ。
『ヘルメが言ってた通りだ』
『はい。長らくこの入れ物に固定化されているのでしょう……』
ただのビーカーに見えるけど魔道具?
『ヘルメ、悪いが買う気はない。ほっとくぞ?』
『はい』
ヘルメと念話を終える。
「不思議な精霊か。この不思議なスライム、何かを語っているけど?」
頭を傾げて、レベッカへ疑問顔を向ける。
「答えを求められても……」
彼女も微妙な顔を浮かべている。
「……だな。奥へ行こうか」
「……そうね」
ビーカーのもとから離れると、青白いモノは形が崩れ元の液体に戻っていた。
本当に摩訶不思議な店だ。
レベッカと一緒に店内にある不思議商品をチェックしながら、受付前まで進む。
あれ、店員いないのか?
受付がある長方形の台の周囲には、他にもお客さんがいるのだけど。
この雰囲気からして、知る人ぞ知る隠れた名店なのかもしれない。
受付の上段にはハンバーガーショップのメニューのように絵画が横斜めに飾られてずらりと並ぶ。
絵画たちの絵はモンスターの絵のみだが、写真のように詳細に描かれていて見事な作品ばかりだった。
僅かに肉が付いた骸骨系が長剣や盾を持ち構えている姿。
宙に浮いて足がなく灰色のフード付きコートを着込み、胴体から生えた青白い右手には刃先がギザギザの長剣が握られ左手にはランタンを持つ姿。
鬼顔で太い胸に長剣が突き刺さり、両腕が切断された跡が生々しいが、その血塗れた両腕の先には何故か、切断された両腕が浮いて黒光りする長剣を持っている姿。
首の周りに黒環がある狼の姿。
色んなモンスターが描かれてある。
しかし、絵が描かれていない額縁も置かれてあった。
大小様々、ゴシック調、無垢、黒や茶色のぶつぶつが付いた硬そうな額縁。
鋼鉄製と思われる額縁もある。
ん? よく見たら、ぶつぶつは飾りじゃないのか?
額縁を手で持てるように手形の凹みになっているのか。
へぇ、なるほど。
この絵画たちは持ち運べるように工夫されているらしい。
よく見たら、額縁の四方にも取手のような部位があるし、肩に掛けられるぐらいの皮紐ベルトもぶら下がっていた。
でも“絵”なんてどうして、ここに売られてあるのだろう。
レベッカに聞いてみよ。
「……あれは?」
「魔法絵師専用の装備品よ」
「魔法絵師?」
「そう。魔法使い系でも希少な戦闘職業と言われている職業。特殊な魔道具の額縁の中へ、自分のスキルを使いモンスターを封じ込め、その封じ込めたモンスターと契約し使役が可能となる。特殊戦闘職。他にも魔法絵師系には魔霊絵師、蒼炎絵師という額縁を使わない、使えない。モンスターを封じ込めるとかじゃない、意味の解らない変な特殊な物もあるの」
彼女は語尾の方で残念そうに語っていた。
自分に関係することでもあったのかもしれない。
「へぇ……そんなのまであるのか」
「何方かは知りませんが“そんなの”とは心外ですねぇ」
俺が発した言葉に反応した客がいた。
受付の横で、俺と同じように絵を見ていた客の一人。
話し掛けてきた男の見た目は魔法使いのようだが、大柄で戦士のような体躯だ。
頭には金色大目玉の刺繍が施されてある黒色とんがり帽子をかぶっている。
上着服には金色と赤斑模様のツインチュニック。
肩から羽織っている黒マントには金の刺繍で魔法文字が縫われていた。
下半身はラメ調黒革の長ズボン。
黒色と金色が目立つラメ革ブーツを履いていた。
ラメ皮が太い足にビッシリと表面を覆っているので、筋肉質と分かる。
全身高級な装備、上級貴族のような出で立ちだ。
絡まれるのは嫌なので、軽く謝っとこ。
「………あぁ、気を悪くしたのなら謝ります。悪かったですね。“そんなの”と言いまして」
皮肉っぽく謝る。
「これはご丁寧に、謝って頂きましたので、こちらといた――おっと失礼、帽子を脱ぎますね」
金色目玉の刺繍が目立つ長帽子を外しながら、お辞儀をしてきた。
長い金髪の中分け気味の髪形。
瞳の色は綺麗な青。キザな割りには牛とハンプティ・ダンプティが合わさった丸顔で、鼻筋が横に伸びていた。
揉みあげがとぐろを巻いている。
失礼だが、特徴的な顔とマッチしている髪型と言えた。
「何分、わたしたちのような“魔法絵師”を生業としていると、偏見な目で見られがちなモノですから。魔法絵師は“モンスター”を使役して自らは戦わない、卑怯者と言われる始末でしてね。まぁ、その通りなことがほとんどなんですがね。――フフフ」
牛顔男はロン毛が目に掛かったのを手で掻き上げる。
髪を直す仕草を行う。この牛顔で派手な男。
キザ男の行動をしているが、顔が顔だけに似合わねぇ。
牛顔男の表情は満足げに微笑み、相好を崩す。
「はぁ……そうなんですか」
レベッカの方を見て、どうなんだこの人は? と、必死にアイコンタクトするが、彼女は知らんぷり。
スルーするみたいで、ニコっとウィンク。
笑顔を返してきた。
意訳すると、
“怪しいからアンタに任せるわ~”
“ごめんねぇ”
という感じだろうか。
レベッカめ……。すると、
「……あまり実感がないようですね? では――」
牛顔の男は俺が視線を逸らして、気のない返事をしているのが気に食わなかったのか、自慢気な表情を作りながら内側のマントを広げていた。
マントの内側から“魔法絵師”の証拠である絵画が出現。
――おぉ、驚きだ。
あのマント、アイテムボックス付きかよ。
あんな魔法のマントがあるのか。
内側にアイテムボックスとか便利そう。
牛顔の男は鋼鉄製の額縁を軽々と片手で持ちながら、俺に見せつけてくる。
重そうな額縁だけど、彼は平気のようだ。
不気味な笑顔でタラコ系の唇を動かす。
「どうですか?
大袈裟な言い方だけど、絵はすごいリアルだ。
モンスターの絵画だけど、本当に契約しているのか?
威風堂々とした甲殻な鎧を身に付けた三つの頭首を持つ犬系のモンスターの絵。
地獄の番犬というイメージ。
「ン、にゃ?」
肩でじっと沈黙を守っていた
紅い瞳を輝かせては、興味深そうに絵を見つめていた。
「おっと、ん?……」
んお? なんだ?
豹変した顔だ。
牛顔の双眸が、急に鋭く獲物を追う目に……。
背中に寒気がくるほどの底冷えするような視線だ。
思わず魔察眼で牛顔を確認する。
双眸と絵画にも魔力を溜めては、
牛顔男は何かを探っている?
この牛顔の金髪は何者だ?
そこに、ヘルメが視界に登場した。
『わたしには気付いていないようですが……目に魔力を溜める動き、絵画を囲う魔道具、魔力の制御も中々です。優秀な魔法使い系なのでしょう』
そうらしいな。
「……絵画、素晴らしいですね」
牛顔男の視線を
「……はい。ありがとう。自慢の使役モンスターです」
牛顔の派手な男は無難に言葉を返してくるが、視線が怪しかった。
俺と
「強そうなモンスターですね」
「ええ、強いですよ。それと――貴方は見たところ、魔法戦士か“何か”ですかな?」
俺に“何か”を言い含めるように尋ねてきた。
目に魔力を留めてることを暗に指しているのかね?
ま、適当に喋るか。
「似たような“何か”ですが、何か?」
俺と牛の視線が交ざり合い、どことなく剣呑な雰囲気を作る。
……暫く、間が空いたが、先に牛顔男が折れるように話を切り替えてきた。
「……そちらのお嬢さんの護衛の方かなと」
「――違う、わたしは護衛を持つような“お嬢さん”では無いわよ。この店に案内してあげているだけ」
やっと。レベッカが反応してくれた。
「おぉ、そうでしたか。――これは失礼を」
牛男は軽く頭を下げた後に、キザな魔法絵師は言葉を更に重ねる。
「わたしは……。てっきり護衛の方と、勘違いをしていたようです」
「いや、別にいいさ。いざとなれば護衛みたいなことはするだろうし」
と、言ったら、レベッカは頬を少し赤くしていた。
「これは……これは、紳士な方でしたか。おっと、まだ、名乗っていませんでしたね。わたしの名前はバーナビー・ゼ・クロイツ。これでも冒険者でもあるのです。是非、此を機会に、お見知りおきを……」
冒険者であり、貴族か?
「はい。バーナビー様ですね。俺の名前はシュウヤ・カガリと言います」
「そうですか。シュウヤさんですね。“覚えておきましょう”」
ん、俺より
「では、わたしはこの辺で失礼しますよ。ここには売り物の魔導額縁を見に来ただけですので」
金髪の牛男はデカ鼻を擦りながら、そう述べ、帽子を片手に華麗にお辞儀をした後、マントを翻し出口へ歩いていった。
「はぁ、変なのに絡まれた」
バーナビー・ゼ・クロイツか、牛顔の魔法絵師。
覚えとこう、あの顔は忘れたくても忘れないか。
「そんなことより、ほら、こっちの棚にも色々あるわよ」
「そうだな」
レベッカは魔法瓶が重なり置いてある棚を指している。
ロレントの筒が棚に陳列されていた。
魔法瓶、表面はゴツゴツした岩石の魔法瓶。
既に持ってるし、俺には必要なし。
「霊魔鉱の粉末にルーン結晶もあるし、ほら、高いけど隣には結界を作れる魔石もある。こっちにはスクロールの元になる羊皮紙が纏まってるわ」
色々あるが、肝心の魔法書はどこだろう。
「魔法書はどこ?」
「あ、魔法書が欲しいんだっけ? なら受付で店長を呼べば在庫を出してくれると思うわよ」
「わかった。魔法書が欲しいから呼ぶよ」
受付前には誰もいないけど、奥に布帳が見えた。
その奥に向かって、少し、声を強めに呼んでみる。
「すいませ~ん。魔法書をみたいんですがー」
店員を呼ぶ為、大きな声で言った。
「にゃ~」
すると、奥の紺色の布が揺れ開いて、店主と見られる老人が姿を現した。
年老いた人族の男はゆったりとした動きで、歩み寄ってくる。
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