百五話 お試しパーティ
「ロロはここで寝ているか? ギルドへ行くぞ?」
「――ンン」
丸まった体勢からむくっと頭部を上げた。
「にゃ、にゃぉぉん」
牙を見せるように口を開けながら、長めに鳴くと寝台から降りていた。
俺の足に頭部を寄せてくる。俺はズボンをはいているが、
イカ耳を作った
頭部を前後させて、自らの頬と白髭を、俺の脛で擦る相棒ちゃんだ。
そんな
ふさふさを体感するか! と、ニヤニヤしながら手を伸ばすが――。
くっ、気まぐれな猫め。
「器用だな……」
「ンン」
そのまま細い手摺の上を、器用に細い足を交互に前に出しては、綱渡り風に歩く……。
尻を手摺に付けて一階へと滑り降りていた。
尻は痛くないのか?
が、まずは、うんちが手摺にこびり付いていないかと、手摺を布で拭きながら降りた。
先に滑り降りた相棒は、宿の玄関前にお座り。
ちょこんとした姿勢で、扉を見上げている。
その
ミーアキャットの如く上手く立ちつつ、両前足を宿の玄関口の扉に当てている。
ここを〝あけてあけて〟――。
爪とぎを行うように両前足を上下にさせていた。
「はは、可愛いな。が、ロロさんよ、扉に傷を作っちゃだめだぞ――」
と言いながら、玄関を開けて外に出た。
「ン、にゃ」
そのままランプの明かりが目立つ敷地を歩き路地に出た。
路地に出ると、先を走っていた
「ンン、にゃ」
『ここに乗れニャ』という感じの鳴き声に従う。
黒馬のロロディーヌの上に跨った。
触手の手綱を片手で握り素早く路地を抜けて、第一の円卓通りへ進む。
すぐに冒険者ギルド前に到着した。
「ロロ、ありがと」
馬のロロディーヌにお礼を言いながら地面に降りた。
そのまま慣れた手つきで、黒い毛並みの首元を撫でてやった。
すると、気持ちよさそうに首元を震わせた馬に近い姿から小さい黒猫姿へと戻り、お返しなつもりなのか、俺の足へ頭を擦りつけてくる
そこで視線をギルドへ向ける。
ギルドの入口である木製の大きい両扉は開かれた状態だ。
そういえばヘカトレイルで冒険者ギルドに足を踏み入れた時もあんな感じに広がっていた。
入口からは多数の冒険者が行き交っている。
この様子だと、中も混み合っていそうだ。
混雑は嫌だなぁと思いながら、
ギルドの中は手前から大きいホールが奥にまで広がる大空間。
依頼が貼り出されたボードが一列に並ぶ。
広いが、予想通りに混んでいた。
毎度おなじみの光景だ。
冒険者たちがボード前で悩みながら依頼を選んでいる。
木札を取っては受付へ歩いている動線は変わらない。
ざわざわ、がやがや、と喧騒が激しい。
どんな依頼があるのかなぁっと……。
ボードを先に見ていく。
意外なことにモンスター討伐依頼と同じぐらいの数で〝パーティ申請〟や〝メンバー募集〟に関する依頼の内容が多かった。
大柄種族の盾使い募集、後衛、魔術師系募集、ヒーラー大募集、鍵開け、罠解除ができるスキル持ちの方を募集。
此方、前衛三人戦士です。パーティを組みませんか?
魔法使い募集、等、こんな依頼ばかり。
それらの依頼の紙を食い入るように見ている多数の冒険者たち。
俺のすぐ隣にも、魔法使い系と思われる長杖を持つ女性が居た。
おぉ、綺麗な子だ。
間近で見ているせいか、目が大きく見える。
大きな目は薄蒼い色彩に包まれた綺麗な瞳で、美しい……。
耳はエルフより短いが、エルフ系統の細長い耳だ。
可愛らしい。
左サイドの金髪をバックに流し、ルーズに纏めながら逆サイドに流した右側の髪と一緒に
じっと、その綺麗な女性を見ていると、目が合ってしまう。
「あのぅ、何か?」
訝しむ、蒼目の女性。
うひゃ……見惚れていた。
とは言えないので、適当に誤魔化す。
「あ、いえ、こういう依頼は一杯あるんですね。初めて迷宮都市に来たものですから……」
すると、蒼目の女性は一瞬目を光らせる。
微笑を浮かべては小さい唇が動く。
「そう。初めてなんですね、貴方も迷宮に挑戦をするつもりなんですか?」
勿論、挑むつもりなので、敬語で軽く返す。
「えぇ、はい。そのつもりです」
「そうですか……もう〝初心の酒場〟でパーティやクラン、仲間は見つけたのでしょうか?」
〝初心の酒場家〟か。初心者が集まる酒場があるのか。
名前的に某国民的RPGに出てくる酒場のような感じだ。
ありきたりの返事をしておこう。
「……いえ、
女性は俺の言葉を聞くと、斜視気味な双眸の蒼い瞳を輝かせる。
その特徴的な蒼瞳で俺の全身を舐め回すように見つめては、独り頷いて納得していた。
そして、肩に飛び乗っていた
彼女は勇気を絞り出すような顔付きに変化。
蒼い瞳から炎を灯すように……というか本当に灯って見えた気がした。
小さい唇が開くと、綺麗な声が生まれ出る。
「……そうですか。なら、一回だけ、一度だけ、〝試し〟にわたしとパーティを組みませんか?」
パーティ。試しの部分を強調していたが、綺麗な蒼目の金髪女性からのお誘いだ。
しかし、一瞬、騙されたクナと組んだ時を思い出す。
でも、良いや。騙すより騙されろの精神で。
迷宮のことは知らないことも多いうえに、綺麗な女性だ。
一度は組んでから良し悪しを判断すればいい。
「……いいですよ。一回だけ、試しで。しかし、俺は迷宮に関して知らないことも多いです、大丈夫ですか?」
「勿論。わぁ――やった。本当にわたしと組んでくれるのね?」
蒼い瞳の女性は本当に嬉しそうに頬を緩めて、華やかな態度に変わった。
えっと、そんな喜ぶことなのか?
周りの冒険者たちからの視線も何処となく、乾いた視線だ……。
気にせずに、女性の態度に応じて軽い口調に戻し、名前でも名乗っておくか。
「……そうだよ。俺の名はシュウヤ・カガリ。シュウヤとでも呼んでくれ。冒険者ランクはCランク、それでこいつは相棒、使い魔の黒猫ロロディーヌ、ロロだ」
「にゃ」
肩で休んでいる
「あ、わたしも名乗っておくわね。名はレベッカ。冒険者ランクCよ。シュウヤにロロちゃん。よろしくね」
レベッカか。笑顔が可愛らしい。
「レベッカ。よろしく頼む」
「ンン、にゃお」
「うん? ふふ、カワイイ猫ちゃんね。それで、わたしは炎が大得意。属性は炎、風、を持っているわ。見た目通り、魔法使い系の戦闘職だけど、シュウヤは?」
「俺は魔法戦士とでも思ってくれ」
レベッカは納得するように頷く。
「へぇ、大柄だから戦士だと思ってたけど、使い魔を持っているし、やはり魔法も使えるのね」
「……前衛も中衛もそれなりに動けると思う」
「うん。前衛は任せるわ。それじゃ、迷宮の一階層なら〝バルバロイの使者〟も来ないし、二人でも大丈夫だから、早速、行ってみる?」
その〝バルバロイの使者〟とやらが分からない。
だが、会話はスムーズだ。
敬語からいきなりフランクな会話になっていた。
しかし、迷宮へ行く前に、俺は魔道具店とか見て回りたいんだよな。
話の流れて的にも大丈夫そうだし……。
ついでだ。聞くか。
「ちょっと待った。その迷宮に行く前に、見てみたいとこがあるんだけど、いいかな?」
そんな俺の言葉に
「……な、なに?」
レベッカは少し動揺したそぶりを見せる。
あれ、失敗したかな?
なにが動揺したのか分からないが、買い物のことを話す。
「さっきも言った通り、迷宮都市に来たばっかりなんだよね。それで、宿は決めたけど、準備のために魔道具店を見てみたいなぁ~、なんて……」
それを聞いたレベッカは安心した顔つきに戻る。
「……そう、なら、試しに簡単な依頼だけを先に選んで、魔道具店をわたしが案内してあげてもいいわよ」
「おぉ、いいのか?」
「勿論よ。わたしにとっては、本当に久々のパーティメンバーだからね。協力するわ」
「ありがと。それじゃ、先に依頼を見ようか」
「そうね。CかDランクを選びましょ」
改めて、依頼のボードを二人で見ていく。
モンスター討伐などは迷宮だけでなく【ペルネーテ大草原】に出現するモンスター類も多い。
俺とレベッカは迷宮に関するモンスターに絞り、討伐依頼を探していく。
迷宮にある討伐依頼はCランク以上ばかりだ。
二階層から出現確認されている
三階層以降に出現する
これも三階層か。
他にも色々とモンスターの名前が書かれた依頼があるけど、馴染みのあるゴブリンやオークといった名前の依頼がない……。
そういった依頼は【ペルネーテ大草原】の方にはある。
迷宮依頼の中で一番多いのは魔石収集の依頼で、魔石買い取り表が大きな紙に書かれ、羅列されてあった。
小、中、大、極大、とサイズが大きくなるほど、魔石の買い取り値段は跳ね上がっている。
他にも色や形で細かく種類があるようだけど……。
Dランク依頼には小魔石五個収集などがある。
CやBと冒険者ランクが高くなるにつれ、魔石の収集数と大きい魔石が求められるようだ。
その他に比較的多い依頼は、用心棒、護衛などの依頼だ。
レベッカに聞いてみよ。
「……レベッカ、ちょっといいか?」
「うん?」
「迷宮のモンスター討伐依頼には普通のゴブリン退治の依頼が無いけれど、外の平原では討伐依頼がある。これは何故なんだ?」
その言葉を聞いたレベッカは少し鼻で笑う。
「それは〝魔石〟が重要だからよ。ゴブリンやオークの討伐が、迷宮の依頼に無かったのが疑問に思ったんでしょ?」
ビンゴ。レベッカの対応から、ここでは当たり前なことのようだ。
少し恥ずかしい。
ま、聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥と言うし。
「その通り」
「勿論、迷宮にも多数というより無数なゴブリンやオークたちは出現するわ。そして、迷宮内でモンスターを倒せば〝必ず〟その体内に強さに応じた〝魔石〟を持っている。けどね、迷宮外だと魔石を持っていることは少ないの。だから直接ゴブリン討伐する依頼は、迷宮外のことの方が多いってことよ」
迷宮なら必ず魔石を出すのか。
「なるほど、そういうことか」
「うん。〝魔石は色々な素材〟になる必需品。因みに、大きい魔石は魔晶石とかいわれていることがあるけど、殆どが大魔石とか極大魔石とかいわれているわ」
魔晶石か、化石燃料みたいな感じかも。
アキレス師匠が話してたような気もする。
「いやぁ、すまんね、基本的なことを聞いちゃって」
ぽりぽり、と頭を掻く。
「ううん、別にいいわよ。初めてなんだし、それじゃ、シュウヤのランクはCだけど、ここ、初めてだから、バルバロイが出現しない
彼女は綺麗な細い指で、依頼の紙を差し、トントンとボードを叩く。
そのまま、そのボード下にある小口から木札を取っていた。
Cの依頼だ。
依頼主:迷宮管理局
依頼内容:Cランク小魔石。品質問わず〝二十個〟
応募期間:無期限
討伐対象:なし
生息地域:迷宮第一層~
報酬:銀貨十枚
討伐証拠:魔石
注意事項:各種、モンスター。
備考:なし
依頼主が迷宮管理局か。
魔石に関する依頼主には迷宮管理局のが商会よりも多い。
国からの依頼か。
「いいよ。それを受けよう」
「因みに、この魔石依頼は複数重ねて受けられないからね? 一回の依頼で一回のみ。モンスター討伐依頼は複数受けられるけど」
「へぇ、覚えとく」
レベッカと俺はその木札を持ってさっきの受付に向かう。
受付でカードと木札を提出。
レベッカはすんなりと手続きを済ませた。
受付嬢は俺の冒険者カードを銀色の鉋のような大工道具で削る?
いや、スキャンしていた。魔道具なのだろう。
情報を読み取っている。
初めてみる。迷宮都市、独自の物か?
「……シュウヤ・カガリ様。迷宮は初めてですよね?」
「はい。そうです」
初めてかどうか分かるらしい。
「国から一枚の銀貨が徴収されますが、宜しいですか?」
ここの冒険者ギルドは国が直接管理してるのか?
税金かな?
「分かった」
簡潔に了承の返事。
アイテムボックスから銀貨を取り出し銀貨を払う。
「それでは、この【迷宮都市ペルネーテ】冒険者ギルドでのルールを説明しますが宜しいでしょうか?」
レベッカの方を見ると、黙って頷いてる。
〝待つから受けときなさい〟ってことかな。
「――はい」
ここのギルドには銀行や貸金庫のようなシステムがあり、パーティでは〝メッセージボックス〟が利用可能で〝クラン〟であれば無料で貸金庫を一つ利用できるらしい。
ヘカトレイルにも似たようなのはあったような気がする。
だが、そのクランを作るのに金貨が百枚掛かるんだとか。
迷宮内や依頼の騒動は基本ギルド側はノータッチ。
受付嬢の説明は続く。
「貴族との争いや、闇ギルド、殺人、モンスター擦り付け、一切の関わりを持ちません」
理不尽行為にあった場合は〝迷宮管理局の兵士にご連絡してください〟と笑顔で説明を受ける。
俺は黙って聞いていた。
暗黙の了解というか、純粋な力や、権力が物を言うのはどこも変わらないと。
その後の手続きはすんなりと終わった。
他の都市と同様に水晶に触り、すぐに依頼が受理される。
俺とレベッカはギルドを後にした。
店のことでも聞くかな。
「レベッカ、魔法書が売っている魔道具店がいいんだけどお勧め場所はあるのかな?」
「そりゃあるわよ――わたしの戦闘職業は魔法使い系よ? まかせなさいって。かなりの頻度で通っているところがあるから、そこへ向かうわ」
レベッカは軽く跳躍して、語る。
白魚のような手に握られた長杖、その先端には小さい赤宝石が付いていた。
長杖をバトンのようにくるりと回し、可愛らしく笑顔を向けてくる。
今、スカートが少し捲れたぞ?
『閣下、この女とパーティを組まれるのですね』
ヘルメがくるくる回りながら視界に登場してきた。
『あぁ、試しにな』
『そうですか。お気づきだと思われますが、優れた魔力操作を持っていますので、優秀な魔法使いと言えましょう。ただし、持っている杖はゴミですが……』
『精霊から見ても優秀なら、レベッカは優れているんだな』
『はい。良きメンバーかと思われます。パーティではなく閣下の部下へ推薦します』
『部下か、気が早い、もう消えていいぞ』
『はいっ』
俺は瞬間的にヘルメと脳内会話をしながらも、レベッカの身体を見ていた。
レベッカの身長は百五十~百六十ぐらいの間と判断。
服装は上から、蒼色シャツに肩から黒っぽいポンチョのようなケープを羽織っている。
膨らみのない胸元を隠すように黒ケープの上から銀チェーン付きの花ブローチが胸元に留めてあった。
腰にも幅広のチェーン付き黒帯ベルトが細い腰を締めてポーションやら小物入れが黒帯のベルトに装着してあった。
下半身には赤色布のスリット入りな腰にぴったり巻かれたミニスカート。
ミニ系だから太股が見えていた。
だが、スパッツのようなズロース下着だ。
残念ながらパンツは見えない。
足には黒の長めの靴下と、いかにも魔法使いが履くような先端が尖ってる厚底靴を履いている。
確かに魔法使い系か。
ヘルメの指摘通り、体内魔素の移動もスムーズだ。
また、細い手に持つ長杖をくるくると回しては長杖を掲げている。
その長杖の先端に嵌っている赤宝石からは僅かな魔力が感じられてた。
「……何? 視線が怪しいのだけど?」
「すまん。その長杖からして、魔法使いなんだなぁとね」
「変なの、魔法使いなんだから〝杖〟を持つのは当たり前じゃない。それで、ここから左上に向かうわよ。第三の円卓通りから第二の円卓通りにかけてある場所なんだけど、通称〝魔法通り〟と呼ばれている場所にいくの」
ほぉ、そのまんまな感じだ。
「分かった。いこうか」
レベッカに案内される形で歩いていく。
俺の肩に乗った状態で休んでいる。まぁいい。
たまには歩いて綺麗な女とデートも良いな……。
「なあに? ニヤついて、平たい顔がちょっと気持ち悪いわよ?」
うぐ、ハッキリと言うね?
気持ち悪い、言われた……。
「別にニヤついたって、いいだろう?」
ちょっと動揺した俺をレベッカは軽く笑いながら話す。
「ふふ、それもそうね。ところで、シュウヤはCランクの冒険者と話していたけど、この【迷宮都市】に来る前はどこで活動していたの?」
首を少し傾けて質問してくるレベッカ。
「旅をしながらだからな。こないだまで魔鋼都市ホルカーバムで活動していた。その前は城塞都市ヘカトレイルに居た」
「ホルカーバムにヘカトレイルかぁ。そんな東で活動していたのね。わたしは生まれてから〝ここ〟しか、知らないの。ずっと、
「それじゃ、それなりに迷宮は経験して稼いだりしている?」
「それが……」
レベッカは若干、話し辛そうに顔をしかめて伏せる。
ん? 何か変なこと言ったか?
彼女は少し先を歩いていく。
「どうした?」
「ううん。わたし、迷宮には沢山潜ったけれど、あまり稼いでいないから……」
「なんで、稼げていないんだ?」
少し先を歩いていたレベッカが俺の問いに肩をビクッと反応させ、立ち止まる。
神妙な面持ちを浮かべながら、俺に振り返った。
――窺うような視線だ。
「なんだ? そんな顔を浮かべて、喋りたくないなら話さなくてもいいぞ」
「魔法の腕には自信はあるの。魔法学院出の秀才たちよりもね……」
「ん? 話が見えないが……」
「ううん。あぁ、もう、いっちゃうか。この際だからいっとく。わたしはハーフエルフなの……」
ハーフか。耳の形状からしてそうだろうと思ったけど。
「それがどうかしたか?」
「え? えっと、だから、パーティ組んだりしても、すぐに弾かれてしまうことが多いのよ。エルフと人族の子というだけで、縁起が悪いと言われることがあるし、最初はそんなの気にしないでパーティを自由に組めていたんだけど……実際に迷宮に潜る度にわたしが入ったパーティのメンバーが罠に掛かって死んだり、モンスターに殺られたり……その都度、パーティは半壊してしまい……」
うへ、運がない? 美人なのに幸が薄い女なのか。
「そんなことを繰り返している間に、ついた渾名は〝疫病神〟。ハーフエルフというだけで、あまり良い顔されないのに、こんな噂がついたせいで、わたしはあまりパーティを組めなくなったという訳。シュウヤのように何も知らない人とはパーティを組めても、わたしの噂を聞いたメンバーは露骨に嫌がることが多くてせっかく組めたとしても、明日や明後日にはすぐにPTは解散、なんてことは日常茶飯事。もう、あんたとは組みたくないから来ないでくれって、何度も言われたりしてたわ……」
そんなことが……。
疫病神と聞いて、忌み子と言っていたルビアのことを思い出す。
あの子は大丈夫だろうか。
しかし差別はどの世界どの街にもあるな……。
その時、レベッカの杖を握る細い手に力が入ってるのが見えた。
綺麗な金眉の内側が上り、中央に集まっている。
悲しみを抑えて、勇気を出して話しているんだろう。
少し切なさを感じた……安心させてやるか。
「……レベッカ、なんで、俺にそんなことを話した?」
「今はお試しで組んでくれているけど、何れ、だれかしらからわたしの話を聞くことになると思ったから、先にわたしからいいたかったの。迷宮は一度に十人で挑めるから、シュウヤが他のメンバーを集めるか募集するときに印象悪くするのも嫌だからね」
「そっか」
「だから、わたしとのパーティを断りたかったら、お試しを止めて、今すぐ断ってくれても構わないわ。あ、他にもこんな感じに嫌な二つ名付きの冒険者は沢山いるから気にしないでよ? 今はちゃんと魔道具店の案内だけはしてあげるから……」
随分とマイナス思考。
しかし、俺の方こそ、レベッカに迷惑が掛かるかもしれない。
なんせ、闇ギルドと喧嘩中だ。
知り合いをマークされるかも知れない。
掌握察の範囲にはつけてる気配は感じられないので、考えすぎかもしれない。
だが、そんなことを考えてたら、交流もできなくなってしまうからな……。
ま、いざとなったらエリボルの屋敷を探して頭を潰せばいいだろう。
「……まったく気にしないよ。俺にだって実はパーティを組みにくい理由はあるからな。だから、気にしない。さぁ、店に案内してくれ」
レベッカは俺の言葉を聞くと、パーッと晴れやかな女の子らしい明るい顔を浮かべるが、はっとした顔を浮かべて、口を尖らせながら、
「……本当?」
と、疑問形で聞いてきた。
「そうだよ。正直に話して欲しいのか?」
「うん」
彼女もパーティを組むのに色々考えてから話したのだろう。
俺もスケベな本音をいっちゃうか。
「良し、なら腹を割って話してやろう。他のメンバーとかは今は何も考えてない。何度も言うが、ここの迷宮は初だ。さらにこうやって店に案内してくれている人物を嫌うことはないよ。そもそも俺にとって種族がどうとか、本当にどうでもいい。問題はレベッカが〝女〟だってことだ。男だったら、一番最初の誘いの話すら膨らませずにその場で終了だったと思う……自分で言うのも何だが、女は好きだからな。んで、単にレベッカが可愛いから、パーティを組んだ。それだけだったりする」
「……え、え!? もうっ、何を言ってるの―――」
レベッカはその場で、タコのように顔が赤く茹で上がってしまう。
大切な商売道具である長杖を地面に落とし、両手で顔を隠す仕草を繰り返す。
「深い意味はないぞ? 本音だ。レベッカ、杖落としてるが……」
「――あ、うん。ストレート過ぎて調子が狂っちゃう。もうっ、さぁ、こっちだから、行くわよ」
レベッカは頬が赤くなっているのを誤魔化すように杖を拾うと、プイっと前方へ振り向き直し、先に歩き出す。
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