六十三話 ペル・ヘカ・ライン大回廊

 

 今日はギルドへ向かうことにする。


 その前に格納をタッチ。

 いつものようにウィンドウを表示させた。


 この銀水晶のハルバードをアイテムボックスに入れてっと。

 ウィンドウ上部の格納の隣の人型マークをポチッと押す。


 ウィンドウが変化し、装備画面に切り替わる。

 画面にデフォルメ状の四つ目の宇宙人っぽい生命体が映った。


 右手にタンザの槍が登録してあったが、そのタンザの名前は消えている。

 折れたタンザの槍は魔竜王戦でどっかにいった。

 アイテムボックスの中にも戻してないから、当然といえば当然だ。


 右手の__空欄に銀水晶のハルバードを登録。

 その右手の空欄に、銀水晶のハルバードを装備しますか? Y/Nとあるから――。


 Yを選択。


 よし、登録された。

 これで、瞬時にこのハルバードを取り出せる。

 ウィンドウを消して冒険者ギルドに直行した。


 ギルドに入り、ボードが並ぶところへ歩いていく。


 新しくCランクになったし、心機一転だ。

 ドワーフ兄弟に依頼してある新しい装備類ができるまでの間にこなせる依頼がいい。


 期間的にちょうど良い依頼を探そう。

 依頼が貼り出されたボードを、他の冒険者たちと一緒になって、上から下へとチェックしていく。


 お、この依頼。期間がちょうどいいかも。



 □■□■



 依頼主:ピサード大商会

 依頼内容:Bランク依頼、ペル・ヘカ・ライン大回廊迷宮の探索及び、ゼリウム骨の収集。

 応募期間:金牛の春四十五日が最終期日。出発は午後。

 討伐対象:主にゴブリン、オーク、ゼリウムボーン。

 生息地域:ペル・ヘカ・ライン大回廊

 報酬:金貨一五枚

 討伐証拠:ゴブリンの耳、オークの耳、ゼリウム骨

 注意事項:回廊迷宮はトラップも多く注意が必要。迷宮深くにゼリウムボーンが出現する。硬いので倒すときは神官系か巫女系の魔法系スキルを持つ者を連れていくように。

 備考:依頼を受けたら〝スカウェの酒場〟前に集合してください。尚、リーダーとして高ランククランの【アリアの放浪者】が参加を決定しております。今回の目的はゼリウム骨の収集、各自五キロを目安とします。

 それ以上の収集は臨時ボーナス。また、黒寿草やリリウム結晶を手に入れたら、別途高価で買い取ります。

 尚、オークの耳は銀貨一枚、ケビンズ型ゴブリンの耳は大銅貨五枚買い取りです。



 □■□■



 金牛の春四十五日……、今日、何日なんだ?

 今まで、あんまり日にちを意識していなかったからな……。


 カレンダーはでかでかと受付近くのボードに貼ってある。


 確認。


 ……どうやら、今日が四十五日らしい。

 依頼の最終期日だ。まだ間に合う。これを受けよう。


「ロロ、今回はこれを受けてみる」

「にゃっ」


 黒猫ロロは依頼の紙をジッと見ている。

 読めるわけじゃないんだろうけど……視線の先をよく見たら、羊皮紙の端が切れかかって揺れていた……。


 なるほど。


 じゃれたいんだな。

 と、黒猫ロロに微笑みながら、ボードの下の木札入れから一枚の木札を取って受付前に向かう。いつもお世話になっていた受付嬢おっぱいさんはいない。

 受付嬢は、犬耳を持つ女獣人さんだった。


「これをお願い」


 同時にカードと木札を提出。


「はい。確かに、では水晶の上に手を」

「了解」


 依頼はすんなり受理された。

 備考にあるスカウェの酒場はどこにあるのか聞くかな。


「すみません。スカウェの酒場はどこにありますか?」

「そこなら向かい側ですね。バボンの店の裏側にありますよ」

「あそこの裏ですか。ありがとう」


 なんだ。通り向こうにある店で近くじゃん。

 目の前だ。冒険者カードを返してもらい、ギルドを後にした。


 黒猫ロロを連れながら背曩をチェック。

 今回の依頼は長期間だが、心配はしていない。


 携帯食料も入れた。

 アイテムボックスの中には温かい汁物もたっぷりと入っている。


 背曩を背負い直して新品のハルバードを右手に出現させて、肩に担ぐ。

 馬車が行き交う大通りを急ぎ渡ってバボンの店に到着。


 ここの裏に酒場があるんだっけ。

 その前に自分のカードをチェック。


 名前:シュウヤ・カガリ

 年齢:22

 称号:竜の殲滅者たち

 種族:人族

 職業:冒険者Cランク

 所属:なし

 戦闘職業:槍武奏:鎖使い

 達成依頼:9


 達成数が九に。おぉ、称号がついてる。

 侯爵からは指輪も貰ったし、そりゃ噂にもなるか……。


 さて……。


 バボンの店に入らず右脇を歩く。

 先には路地裏的な広場がある。

 酒場らしき建物もあった。

 広場に冒険者たちが屯している。

 早速、そこへ歩いていった。


 すると、

 武者のような雰囲気を持つドワーフが、


「依頼を受けたのか?」


 と、話しかけてきた。

 地球の中世でノルマンヘルム。

 鼻の前に面当てがある兜を被る。

 もみ上げが太い。

 ドレッドヘアの三つ編み髪には金具が何房も纏まって垂れていた。

 首元はビーヴァーの顎防具を装着している。

 日本だと面頬めんぽおだ。


 防具の名前がスラスラと頭に過ってくる。

 といっても、この世界の武器や防具の名前は元の世界とは必ずしも一致はしないはず。


 その兜のせいで、ドワーフの顔は判別できないが、ギラギラした鳶色の目が印象的だった。

 全身にチェインメイルを着込む。

 腰に差す武器は魔力を宿している片手斧。

 左手には丸い鋼鉄の盾を持っている。

 経験を豊富に積んでそうなドワーフ戦士に見えた。


 聞いてみるか。


「……そうです。期日ぎりぎりですが、大丈夫ですか?」

「大丈夫だ。というかギルドで受理されただろう?」


 それもそうだな。


「そうです」

「まぁ確かにぎりぎりだったがな? もうすぐ締め切りの午後になる。ここからじゃ聞こえないだろうが、教会の鐘が三回、そろそろ鳴るはずだ」


 武者ドワーフはそんなことを語り、眩しげに手で庇を作りながら空を見上げて、太陽を見た。


 俺も釣られるように空を見る。

 黒猫ロロも同じように釣られて、空を見上げていた。


 太陽が天の真ん中を通過中。

 俺は視線をドワーフに戻し、話しかけた。


「……鐘ですか。では名乗っておきます。俺はシュウヤ・カガリ。シュウヤと呼んでください。冒険者Cランク。足元にいるのが黒猫のロロディーヌ。略してロロ。使い魔です」


 ドワーフは黒猫ロロと俺を見てから、頷く。


「槍に、使い魔か。よろしくな。シュウヤ。かたっくるしいドワーフの挨拶は抜きだ。俺の名はイグ、冒険者ランクBだ。お前さんも楽に喋ってくれてかまわんぞ」


 俺とイグがお互いに名乗りあっていると、他の冒険者たちが集まってきた。


「よぅ、イグ、新しい冒険者か?」


 そう軽い口調で話しかけてきたのは首が長い痩せた虎獣人の男。


「おう、そうだ」

「どうも、シュウヤです」


 イグはこの虎獣人と知り合いらしい。


「俺の名はアルベルト・チェイダー。イグと同じBランクだ。フジク連邦出身、部族名は別にいいか、よろしくな。見たところ槍使いなのか? 鎧はボロボロだが、その中身からは何か〝雰囲気〟を感じさせるね」


 リアルな虎獣人の鼻がヒクヒク動いていた。

 雰囲気?

 まぁ、適当に笑顔で返す。


「えっと、そんな雰囲気があるか?」

「ンン、にゃ」


 俺が質問すると、足元にいるロロは鳴いていた。

 造形がしっかりとした虎顔に興味を持ったのかね?

 アルベルトの顔をジッと見つめている。


 まぁ、リアルだもんな。虎と人が合体した感じ。


 アゾーラの兎獣人の顔はまだ人族に近い四角い顔立ちだったが、この虎獣人は完全な獣に近い。

 茶色、白色、黄土色が混ざった顔の毛に、鼻の横下に伸びた数本ある白髭なんて〝虎〟その物だ。


 それでいて、同じ言葉を話すのだから……。


「……そうだぞ。俺は斥候スキル持ちで特殊な〝匂い感覚〟を持つからな。強い奴の雰囲気を独特な匂い感覚で感じ取れるのさ。といっても戦闘は苦手でね。索敵と罠解除が得意だ。得物はこのエレンガダガーと犀赤角ライノレッドホーンの弓だ」


 そこに、にやけ顔のドワーフ、イグが割って入る。


「ま~た。その感覚か? お前さんが言う感覚は〝あっちの方〟ばかりに役立ってるではないか」


 ドワーフのイグは指で卑猥なことを描くと、からかう口調でアルベルトを馬鹿にした。


「なんだとぉ、しかし、言い返せないのが悔しいぜ……」

「ははは、そりゃそうだ。酒場にいるお前と同胞の虎獣人ラゼールの女酌婦たちを次々と妊娠させた男として、有名だからな」


 へぇ、ラゼール。虎獣人はラゼールという種族名なのか。


「それは嘘さ、噂でしかない。俺は会話を楽しんでいただけだって」

「ほぅ、こないだそこの酒場で、エオが言ってたぞ。〝噂通りだったわ、アルちゃん、素敵だった〟と、ハートマーク付きでな?」

「うおぉっ、エオが……つか、なんで、イグがそんな話を聞いてるんだよ」


 そんな他愛もない会話を繰り広げていると、リーダー格と見られるローブを纏った女性が話しかけてきた。


「皆さん、そろそろ出発しますので、こちらへ集まってください」

「はいよ」

「おう」


 虎獣人のアルベルトとドワーフのイグは変な会話を終えて、呼ばれたところへ歩いていく。

 俺もついていった。

 同じ依頼を受けているのは、この数人だけのようだ。

 その中で神官風のベールの帽子を被る女性が前に進み出る。


「わたしは、スコラ・トルツェッタと言います。冒険者クラン【アリアの放浪者】のリーダーです。今回の依頼でもリーダーを務めさせてもらうことになりました。基本的に依頼の紙に書かれてあった通り、ゼリウム骨が目当てです。ゼリウムボーンが相手の時は、わたしたちの魔法で弱体化させるので、お任せください」


 その挨拶にイグが斧を持ち上げて、


「わかった。雑魚の敵は俺の斧が粉砕してくれる」


 力強く宣言していた。


「はい。イグさんには期待していますよ。それから皆さん、ゼリウムボーンの弱点は〝頭〟なので覚えておいてくださいね。尚、当面はゴブリン、オークなどが相手になると思います。その辺りは各自の判断にお任せすることになるでしょう。それと、転送直後にお祈りを致します。再度集合してもらう予定です。では、一旦ギルドでPT登録してから行きましょうか」


 周りにいた俺を含めた冒険者数人は自らリーダーと名乗ったスコラさんの言葉を聞くと、頷きながらギルドに向かって歩き出す。


【アリアの放浪者】は聞いたことがある。


 この人たち全員が統一された衣服を着ていた。

 あの衣、特殊な素材と分かる。黒と赤茶の線で魔法文字を彩るように刺繍が施され刺繍文字からは魔力が発せられていた。

 衣は胸元が開いているので、自然と、胸元に視線がいく。

 普通サイズの双丘。少し大胆な格好だけど、神官さんたちだ。

 下は丈が長いスカートと袴が合体した形。


 その衣を身に着けている中でリーダー格のスコラさんだけ、赤と黄色の前掛けの帯をマフラーのように首元に巻いている。

 彼女の目はくりくりっとした緑目。鼻も小さく小顔なベビーフェイス。

 可愛さを感じさせる女性だ。

 血管が浮かんで見えるぐらいに白く細い手には大杖が握られ、大杖で地面をつきながら歩いている。

 大杖の先端部分には二匹の蛇が絡まったようなデザインが施されてあった。


 スコラさんをじろじろと観察していると、そのスコラさんが話しかけてきた。


「すみません。貴方は槍使いのシュウヤさんですか?」


 ん? 俺の名前を知っている?


「はい。そうです」

「やはりっ、その肩にいる黒猫といい、鎧はボロボロですが、そうではないかと思ったのです」


 あれ? 俺、話したことあったっけか?


「あのぅ……何処かで?」


 俺が自信なさげに問うと、律儀にお辞儀をしてスコラさんは答えてくれた。


「突然すみません。魔竜王戦の時、見ていたんですよ。わたしは後方で支援を含め回復役をしてましたから、前線で活躍している【紅虎の嵐】やシュウヤさんの行動は目に焼き付いてます」

「あの時ですか」

「ええ、それに、シュウヤさんは竜の殺戮者たちと呼ばれる中で、唯一、〝ただ一人の個人〟で、その名を連ねている存在ですし、高ランククランの間ではあの〝槍使い〟をどうにかして引き抜けないか? と、競争が起きているとか」


 えぇ、そんなことに?

 確かに紅虎の誘いは断ったけれど……。


「はは、そんなことが……」

「ン、にゃ」


 黒猫ロロはドヤ顔を向けながら、そう鳴くと片足をポンッと上げて俺の肩を叩いていた。


「はい、そうなんです。我々も狙っています」

「えぇ?」

「冗談です。でも、あの魔竜王戦で、よく生きてましたね」


 真面目な顔して冗談かいっ、とは言わず。普通に返す。


「はは、激戦でしたからね。必死で頑張りましたよ」


 俺の言葉に彼女は納得するように頷き、顔を沈ませながら答えた。


「えぇ、確かに激戦でした。わたしの仲間たちも、あの戦いで死んでしまいました……」

「……ご愁傷さまです。俺も知り合いアゾーラその魔獣パウが逝ってしまい……」


 ――アゾーラとパウの姿が脳裏に過る。

 俺の表情を見たスコラさんは察してくれたのか、笑顔を取り戻し話を続けた。


「……では、もう暗い話は終わりにして、依頼のことを軽く、そして気軽に話しましょう。わたしたちはランクがAと高いですが、全員が基本後衛なので前衛は頼みますね」

「了解。槍には自信があるから任せてくれ」

「はいっ、では、いきましょう」

「おう」


 ギルドに向かいリーダーのスコラさんが手続きを行う。

 アリアの放浪者とパーティ名を書いて登録していた。


 すぐにギルドにある転移陣から、皆で転移。


 大回廊の地下空間に到着。

 魔法陣が設置された場所は広い円の形だ。

 古くからある石切場のような雰囲気がある場所だった。


 左右の石壁には神々の彫像が並ぶ。

 後ろには上り階段がある。

 俺がきょろきょろと周りを確認していると、リーダーのスコラさんが声を発した。


「では皆さん。少々お待ちください。無事に戻るためにも必要なので」


 スコラさんは静かな口調で語る。

 石壁にある女神像らしき所に歩いていった。


 その女神像の前には何人か膝をついて祈りを捧げている。

 神官や巫女だけじゃなく、鎧姿の騎士や冒険者と見られる人も祈っていた。

 この辺りはどこの迷宮も同じなのかな?


 ここからじゃ聞き取れないがスコラさんはそこで、詠唱を開始。

 聞いたことのない言語魔法を唱えていた。

 アリアの放浪者のメンバーたちも彼女と同様に詠唱を開始している。


 詠唱後もキリスト教の祈りのポーズのように両手を組み祈っていた。

 数分後、戻ってくる。

 興味があったので聞いてみた。


「お祈り?」

「えぇ、そうですよ。〝愛の女神アリア〟に感謝です。これでもう、迷宮に迷うことはなくなりました」


 お? どういうこと?


「迷うことがない?」

「そうです。我々【アリアの放浪者】は全員が巫女のスキル<再誕の回帰リーターナー>を持っていますので、皆さんは楽をできるはず」


 ほぉ、呪文に加えてそんなスキルが……。

 あぁ、だから、各迷宮入り口に神々の彫像が置かれているのか。

 信仰すれば神々からの恩恵に与れる?


 俺も女運や幸運に恵まれるように祈ろうかな、てへ。


「「愛の女神アリアに感謝をっ!!」」


 俺の不純な動機を見透かすように、背後から大声でそう言われ、ビクッと反応してしまった。

 声の主はスコラの背後にいた【アリアの放浪者】であるクランメンバーの二人。

 スコラさんは話を続ける。


「では、皆さんに守護魔法を唱えますね」


 背の低い彼女はその場で大杖を掲げた。


「……女神アリアよ。我が魔力の礎に呼応し、守護なる大盾を与えたまえ――《大盾の恵プロテクト・オブ・アリア》」


 呪文を唱えたとたん、大杖の二匹の蛇が生き物のように蠢く。

 二対の眼が青白く光り、スコラの頭上に青白い女神の幻影が現れた。

 詠唱が終わると瞬時に蛇は元の形に戻っていく。


 おぉぉぉ。

 何処となく……彫像の一つにあった女神像に似ている。


 俺を含めたスコラのPTメンバーの頭上に青白い盾が浮かぶ。

 そのまま青白い盾は個々の体に染み渡るように消えた。


 確かに、魔法が掛かっていると実感がある。

 フォースフィールド的といえば分かりやすいか……。

 うっすらと青白い層が鎧や服の上、皮膚の表面に浮かんでいた。


 すげぇな。


 この魔法の規模や種類はまったく分からないが……。

 【アリアの放浪者】たちが高ランク冒険者たちだと分かる。

 そして、スコラさんは優秀な方なんだろう。

 が、女神アリア様か……。

 その愛の女神様と信奉者たちが冒険者としてモンスターと戦うってどうなんだろうか?


 その単純な疑問をぶつけてみようか。


「スコラさん、少し質問があります。大丈夫でしょうか」

「はい。何でしょう?」

「愛の女神を信奉しているのに、戦うのは何故ですか?」


 スコラは俺の無知な質問にも慈愛の表情を浮かべて話してくれた。


「それは……女神アリア様の教えをご存じないのですね。〝愛があるからこそ戦いがある〟。この言葉は有名な預言者ラーゼのお言葉であります。そのラーゼ様が聖地コーデリアを見つける前に女神アリア様の信仰を各地に伝えながら放浪したことは有名ですから、こういった教えに倣い、我ら神官になった者たちは女神の教えを各地を伝えるために放浪するのが義務となりました。女神アリアの教えを伝えるということは、わたしたちの戦いでもあります。ですので、モンスターや悪しき者と戦うのは当たり前ということです――」


 ありがたくない説教が長々と続いた。

 ラーゼという人物は本で前に見たな。

 ……洗脳されて宗教に入りたくなるような会話が続いてから迷宮に進むことになる。


 そうして、その説教してくれたスコラさん率いる【アリアの放浪者】たちを中心に、回廊の探索が始まった。


 大回廊はその〝大〟がつく名前の通り、地下に大樹が根を張るように回廊があちらこちらへと犇めくように広がっているらしい。作ったのは古代ドワーフとされているが、実際のところ誰が何のために、何の目的で作られたのか、一切解明されておらず、唯一分かっているのが【迷宮都市ペルネーテ】の近くまで大回廊が続いてることなんだとか。


 だから、ペル・ヘカ・ラインとの名前が付いているらしい。


 そんな地下回廊を進んでいく。


 石壁には幾何学模様の不思議なマークがあり、そこから白光や紫光が発せられ、淡い光源が続いている。

 所々、暗いところがあるが、人工的な菱形の石のオブジェらしき光源があちこちにあったのでスムーズに進むことができた。


 所々で石槍が飛び出る罠や大きな岩が転がってくる罠が発見されるが、その度に虎獣人のアルベルトが活躍。罠を解除してくれた。


 そんな調子で、初日から三日目までを順調に過ごしていく。


 ここまでに出現するモンスターの大半はゴブリン。

 俺を含めた冒険者たちは簡単にゴブリン共を屠っていく。


 三日目が過ぎた。


 順調に罠を解除してモンスターを倒し迷宮の奥へ進む。

 そこで、リーダーのスコラさんがパーティに指示を出す。


 休憩。


 食事タイムとなった。


 俺は端っこに移動し、アイテムボックスから出来立てホヤホヤの汁物を取りだす。

 黒猫ロロと一緒にほくほく顔で飯を食べていた。


 その様子に、


「シュウヤ、いつも……こそこそと食ってないでこっちにこい」

「しかも、アイテムボックス持ちとはな……そりゃ毎回毎回、旨そうな匂いを漂わせるわけだ」

「俺らは、堅いパンに塩漬け肉や干し野菜だけだってのに」


 ドワーフのイグと虎獣人アルベルトは自らの食事に我慢ができなかったのか、不満を口にしながら話しかけてきた。


 何か、気まずくなったので、少し分けてあげるか……。


「悪かったな。少し食べるか?」

「おぉ、良いのか?」

「シュウヤッ、良い奴だな、友達にしてやろう」

「あのぅ、わ、わたしたちも少し汁物を……」


 ありゃ、スコラたちまでもか。

 まぁ、良いか。まだ食料は余裕あるし。出してあげよう。


「あぁ、良いよ。今出すから」


 そんな感じで、食事時は時々俺が分けて過ごすことになった。


 食事が終わり数刻、ドワーフのイグは兜を外して横たわって休んでいる。

 そんなイグへ黒猫ロロは興味を持ったのか近付いていった。


「どうしたのだ、猫よ」


 イグはドレッドヘアを揺らして黒猫に顔を向ける。

 髪を結んで纏めている金具もじゃりじゃりと音を立てた。


「にゃお」


 ロロはイグの顔、いや、髪が気になるようだ。ドレッドヘアの金具に顔を寄せて匂いを嗅いでいる。


 あっ、くちゃぁー顔になった。

 フレーメン反応だ。


「――ぶっ、ふはは、イグ、それ臭いってよ」


 アルベルトが飲んでいたお茶を噴き出して笑う。


「な、なんだとぉ、黒猫め、失礼だろうがっ」

「ンン、にゃおん」


 黒猫ロロは臭いのに、また匂いを嗅ぐ。

 またまた、くちゃぁー顔を披露した。


「ふはは」


 俺も笑ってしまう。


「ふん、皆で笑いよって、この髪は臭くても切らんからな……」


 イグはいぢけてしまう。

 黒猫ロロはごめんというようにドワーフの手を舐めていた。


「……猫よ、俺が好きなのか?」

「にゃお」

「ふんっ、可愛いやつだ」


 イグは機嫌を直して黒猫ロロといちゃいちゃし始めていた。

 こうして、より仲良くなった俺と冒険者たち。


 探索チームは順調に進む。

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