五十一話 魅惑のデルタ地帯

 クランやパーティのリーダーたちが円陣を組むように集まり、その真ん中にいたエリスさんの声が響く。


「【コクダラ】のキングさん、【天の剣】のキョウさん、【ハイムの守り】のアメリさん、【戦神】のガルナノフさん、【ファイダート連盟】のシセアさん、【紅虎の嵐】のサラさん、そして、私【八乙女】のエリス。各クラン、パーティのリーダーに集まってもらいました」


 リーダー格の人たちか。いい面構えだ。

 その中で、脛を包む緑色のレギンスを履いているドワーフが訝るような視線で俺を見た。


「それで、その男は?」


 ドワーフはエリスさんへ向けて疑問形の言葉を投げかける。

 同時に皆の視線が俺に集まった。


「この方はシュウヤさんです。個人参加ですが、さきほどの戦いで活躍していた槍使いですよ。かなりの戦力なので、この作戦会議に参加してもらいました」


 そこでざわざわと周りが騒ぐ。


「あ~あの槍使いか」

「個人参加だったのか」

「……槍か」


 近くにいた各クランのリーダーたちは品定めでもするように俺を見つめ、頷き合い呟いていた。


「ゴホンッ。では良いですか? 改めて、ギルドの参謀として、エリス・ファフナードが話を進めますよ?」


 エリスさんの参謀としての言葉が響くと、騒ぎが一瞬で収まり沈黙が流れた。

 少し間が空いてから、


「……では、話を進めます。皆さんのお陰で、転移陣の周りに出現していた竜と蟻はある程度殲滅できましたが、まだ残っている敵がいます。ご存知の通り、ワイバーンと近衛大蟻インペリアルアントです。強敵ですが、排除します。ですので、これからあの中央部を押さえに入りたいと思いますが、何か意見はありますか?」


 エリスの言葉にいち早く反応したのは戦士の格好をした人。


「前衛のみで構成された【コクダラ】だが、障害物が欲しいところだな」

「【天の剣】も前衛組だが、その意見に賛成だ。確かに障害物があれば後衛がやりやすくなると思う。作戦はエリスの指示に従おう」


 次は魔法使い系のローブを着る人が口を開く。


「はい。わたしたち【ファイダート連盟】は魔法使いが多いですから、先程のご意見通り、障害物があれば楽になります。ワイバーンや近衛大蟻インペリアルアントとなると、遠距離からの攻撃もあるので怖いですからね……前衛さんを信用していない訳ではないのですが」

「――わしたち【戦神】は前衛がメインだ。竜殺しの特攻斧を持つわしは、ワイバーンを狙いたい」


 魔法使いの弱気な発言終わりに被せるように発言したのが、この中で一番背が低いドワーフ戦士だった。

 彼は重そうな巨斧を持ち、顔には複数の入れ墨がある。

 まるで北欧のバイキング。


 次は弓使いの女性が一歩前に出ながら、


「【ハイムの守り】は遠距離型、弓だけじゃなく、回復魔法が使える魔法使いが二人在籍しているので、やはり障害物が欲しいところです」

「わたしたち【紅虎の嵐】はバランス型と言っていいだろう。障害物は確かにあったほうが良いが、ワイバーンも近衛大蟻インペリアルアントも後方には行かせるつもりはない。動きを止めて各個撃破する」


 最後に紅虎のサラが発言を終える。


「そうですね。やはりBランククランでもある【紅虎の嵐】さんに先陣を切ってもらい、他のクランやパーティはそれをフォロー。後方から一匹に集中して攻撃。こんな感じでどうですか?」


 エリスさんは話を纏め始めた。


 障害物があれば有利か。

 この周りに転がる大きい鎧将蟻オフィサーアントの甲殻を使えば良いのに。

 言ってみるか……。


「あの~、いいですか?」

「えぇ、どうぞ」


 エリスさんは笑顔で了承してくれた。

 俺は頷き、思ったことを口にしていく。


「障害物なんですが、この鎧将蟻オフィサーアントの甲殻を利用すれば、簡易の防護壁になるのでは?」

「あっ、そうですね。ですが……」

「ははは、坊主、いい考えだが、それは重いし人数がいる。それとここには荷車もないぞ?」


 ドワーフのバイキングな中年親父、戦神クランのリーダーが腕を組みながら笑ってそう言う。


「では、誰かが転移陣を使ってギルドに一旦戻り、人を呼んで荷車を持ってくればいいのでは?」


 他のクランリーダーがそう発言した。

 俺はその言葉に、


「――その必要はないです。俺が運びますから。とりあえず中央部近くまで運べばいいですか?」


 そう言って、腕輪に触ってオープンと小声で言い、出現した格納を押す。

 アイテムボックスの中へ周りにある鎧将蟻オフィサーアントの甲殻を入れていく。

 まぁ、手掴みで持って運べるけど、アイテムボックスなら楽に運べるからな。


「あれが……」

「へぇ、これで端緒が開けたな」

「ということは、迷宮都市か塔で活躍している奴なのか?」

「さあな、確かにここでは珍しい」


 皆が唖然としている中――、周りに散らばる甲殻を全てアイテムボックスの中へ収納した。


「それはアイテムボックスですか?」


 エリスさんが驚きながらも聞いてくる。


「そうです」


 俺は素直に答えた。


「やはり」

「予想通り迷宮都市出身なのか?」

「迷宮だとすると、もしや六大トップクランと繋がりがあるのでは?」

「どうだろう、迷宮都市ならば比較的手に入れやすいと聞いたが……」

「しかも、あれほどの槍使いだ、八槍神王の何れかのもとで修行を重ねていたに違いない」

「……確かに、八槍神王第五位の一槍のアキュレイ・アキレス、八槍神王第第七位の魔槍リコ・マドリコスの辺りは門徒が多いと聞いた」


 各リーダーたちがそんなことを言っていた。

 アキュレイ・アキレスという名前は非常に気になる。まさか師匠繋がりか? それと、この辺だとアイテムボックスは珍しいようだな。

 近くに来たエリスさんが小さい声で、


「シュウヤさんは迷宮都市で冒険者をしていたのですね……」

「いえ、これは迷宮都市産だとは思いますけど、俺自身はまだ迷宮都市には行ったことないですから」

「そうですか。父は持っているんですが、くれないんですよねぇ」


 エリスさんはそんな愚痴を溢すと、ジトッとした視線で俺の腕輪を見つめている。

 俺はそんな視線と言葉はスルーして、


「ここにある甲殻は全部入れましたから」

「ええ、はい。 では、シュウヤさんに甲殻の、障害物の件はお任せします。今からでも、中央部から前方にかけての設置をお願いできますか?」

「はい、了解です」


 そこで、エリスさんは皆へ視線を向けた。


「それでは、作戦会議はここまでにして、皆さんは休憩に入りましょう。今話していた作戦は外が明るくなり次第決行する予定です。先陣は【紅虎の嵐】を中心にして突撃。ワイバーン、近衛大蟻インペリアルアントの内、そのいずれか一匹に集中する形で先制攻撃を行いたいと思います。夜間の見張りはクランの方々独自の判断でお願いしますね。では、解散」


 エリスさんの言葉に皆が一斉に頷き、


「わかった」

「頑張りましょう」

「おう」

「明日か」

「しかし、実力があるとはいえ、あの槍使いに任せて平気なのかね」

「さぁな。とりあえず休憩だ」


 冒険者たちはそれぞれ話しながら転移陣の周りに集まると、休み出す。


 さて、指示された通りに甲殻を置いてくるとしますかね。

 俺が移動しようとした時、サラが話しかけてきた。


「シュウヤ、重い甲殻を障害物に再利用するとは機転が利くな。休憩も取れるし、これで多少は楽にワイバーンや近衛大蟻インペリアルアントと戦うことができそうだ」

「たまたまだよ。皆の役に立てて良かった」

「でも、シュウヤがアイテムボックス持ちとはな」

「俺が持ってちゃダメか?」


 俺は心外だ、という感じの顔色を表に出して話していた。

 サラはかぶりを振って否定。


「いやいや、そうじゃない。この地域では珍しい部類だから」

「サラは持ってないのか?」

「持ってない。迷宮都市や不窟獅子の塔にはまだ行ってないからね」


 ここでは手に入りにくいだけで、他の場所ではアイテムボックスは売っているようだ。


「なるほど」

「でもいいなァ、その腕輪のマジックアイテム。シュウヤさん、わたしもいつかゲットしてみせますからね」


 ルシェルさんは物欲しそうに俺の腕輪を見ていた。


「ルシェルが欲しがるのも分かる。迷宮都市ならそれなりに金を出せば買えるだろうけど、この都市じゃ中々出回らないしねぇ……ってことで、隊長には悪いけど、わたし、シュウヤが気にいったかも」


 ベリーズさんは妖艶な笑みを浮かべてそんなことを言っているし……。


「――何っ、ベリーズ、シュウヤはダメだぞ」

「ふふ、隊長と勝負……」


 サラが猫耳を紅く染めながらベリーズを睨むと、ベリーズさんも微笑を浮かべてサラを見返している。

 争いが始まっていた。目と目から光線でも出すように衝突させているし、これ、反応に困るな。


「隊長もベリーズもダメですよ。――シュウヤさんが呆れてるじゃないですか~。ねぇ~? シュウヤさん?」


 そう言って、ルシェルさんは俺の腕を掴みボディタッチしてきた。


「ルシェル? あぁ、何を触ってるっ。それに何がねぇだ」

「あっ、隊長が怒った」

「ルシェルも案外手が早いわね。――シュウヤ君~、この依頼が片付いたら……ね?」

「にゃにゃぁ」


 ベリーズさんも、俺の反対側の手を掴んで豊満な胸を押し付けてくるっ。

 良い匂い、シトラス系の香水だ。

 そのまま耳に息を吹き掛けてくるし……。

 ロロもスキンシップに混ざりたいのか、俺の足にすり寄って頭を擦りつけてきた……。


 こ、これがモテキという奴か? ハーレム?

 ヤバイヤバイ、依頼中だってのにっ。


「……え~っとだな。二人とも感触は最高だが離れてくれ。まだやることが残ってるし」

「――あっ」

「――ふふっ」


 名残惜しいが、理性を保ち強引に引き離した。


「シュウヤのいう通りだ。全くっ、二人とも、こっちにこいっ」

「そうだぞっ、お前ら調子に乗りすぎだ。団長が怒ってるじゃないかっ! しかし、シュウヤのせいか……」


 サラはルシェルさんとベリーズさんの頭へ拳を落とすと、引き摺るように連れていった。

 ブッチさんはサラの隣で愚痴をいうように吠えていたが、途中から俺のことを睨み出している……。


 何も俺は悪いことはしてないぞ?

 おっぱいの感触は得たが……。


「はは、大変ですね」


 そこに、エリスさんが笑いながら話しかけてきた。


「あぁ、済みません。変なとこ見られましたね」

「いえいえ、ルシェルやベリーズさんの気持ちは分かるんで……ゴホンッ。では、行きましょうか、甲殻を置きに」


 エリスさんも大きな目が泳ぎ、わざとらしく咳を……。

 んん、気持ちが分かる?

 ということは、おっぱいを俺に当てたい?

 違うか。自意識過剰じゃなきゃ、好意を寄せてくれているのかな?

 やはり、ついに俺にもモテキ到来か。

 でも今は依頼中だ。調子に乗らずに、仕事をしなければ。

 というか、エリスは甲殻を置きに一緒に来る気か?


「……エリスさん、休憩するんじゃなかったんですか?」

「わたしも一緒の方が良いかな……と」


 さすがに一人のが楽だ。

 断っとこう。


「いや、俺一人のがやりやすいですからいいですよ」

「危険地帯ですが、大丈夫ですか?」


 エリスさんは顔を傾げている。


「はい。それより、休憩と言っても、ここは蟻の巣ですから、いつ他の蟻や残っている竜が襲ってくるか分からない。ですから指揮官は残っていた方がいいですよ」

「確かに……そうです、ね。わかりました。障害物作り、気を付けてください」


 彼女は納得してくれた。


「大丈夫ですよ。転移陣の前方に置いてくるだけですし、危険地帯のワイバーンと近衛大蟻インペリアルアントが争ってる現場では隠れながら上手にやってやりますよ」

「はい、期待しています」

「はい」

「ンン、にゃぉ」


 黒猫ロロも任せろにゃっ的に鳴いてから、俺の肩へと跳躍。


 そうして、黒猫ロロを肩に乗せたままワイバーンと近衛大蟻インペリアルアントの激しい戦いが起きている現場へ向かう。

 巻き込まれないように要所要所で<隠身ハイド>を発動させ、アイテムボックスから甲殻を取り出し、配置していく。


 甲殻の配置は意外に簡単に終わり、直ぐに転移陣の前まで戻ることができた。

 冒険者たちは転移陣の周りを囲うように休憩している。


 俺もその中で空いてるスペースに座ろうとしたら、エリスさんが俺に気付いたようで、話しかけてきた。


「シュウヤさんっ、良かった……」


 無事で良かった的なニュアンスだ。

 心配してくれていたのか。

 笑顔で答えよう。


「ただいま戻りました。全部置いてきましたよ。あのワイバーンと近衛大蟻インペリアルアントたちは自分たちの戦いに夢中で、俺には反応を示さなかったので楽でした」

「そうですか、さすがですね。ご苦労様です」


 俺とエリスさんが話していると、サラが休憩場所である焚き火の側から離れて、急ぎ近寄ってくるのが見えた。


「……シュウヤ、お帰り。一緒に休憩しないか?」


 サラに誘われた。

 お邪魔するかな。


「あぁ、そうさせてもらう。それじゃ、また明日、エリスさん」

「……はい」


 エリスさんは残念そうな表情をみせていた。済まんね。


「にゃ」


 黒猫ロロも肩に乗りながら小さい声で鳴く。

 俺はそのままサラに連れられ、紅虎の面々が休んでいる焚き火に案内された。


「よっ、もうあの大きい甲殻を障害物として置き終わったのか」


 俺が焚き火の側に座ると、ブッチさんが話しかけてくれた。


「うん。一応隠身ハイド持ちなんでね。だけど、隠身ハイドがなくても平気だったかも、俺のことなんか眼中になかったし、あいつら」

「ひゅ~、つうことは斥候持ち?」


 口笛を吹くブッチさん。

 斥候? 偵察専門のスキルか戦闘職業のことかな……。


「……いや、そこまでじゃないよ」

「そかそか。まぁ飲めよ」


 ブッチさんは顔が少し赤くなっている。酔ってるぽい。


「はぁ、じゃあ少し……」

「ははは、遠慮するな」


 木のコップごと貰った。

 中に入っていた液体を少し口に含む。

 やっぱ酒か。ついでに、ポケットから乾燥肉を取り出した。


「こら、ばかブッチ。休憩なんだから本格的に酔うなよ?」


 べリーズさんはそう言って、パンみたいなものを食べている。


「なんだとぉ、まだ少量しか飲んでないぞ」


 ブッチさんは腕を曲げて、上腕二頭筋のりっぱな力瘤をアピールしながら、酒の入っているゴブレットを見せた。


「ブッチ、今日はそのコップに入った酒のみだぞ」

「えええ、そんな、団長……」


 ブッチさんは酒が大好きのようだ。


「ブッチ、隊長が決めたことは絶対ですよ? シュウヤさんも、飲み過ぎないように注意してくださいね」


 ルシェルさんは体育座りをしながらエジプシャンメイクが綺麗な笑顔を見せる。

 だがしかし、重大な懸念が発生していた。

 ローブの下、悩ましい太腿の間から黒いパンツが少し見えていたのだ。そう、所謂絶対領域、絶対空域に存在するものが……。


「……あぁ、これだけにするよ」


 一瞬凝視。えぇ、パンツ食い込み委員会と理性を戦わせましたとも。俺は極自然に、視線を違う方向へ向けて乾燥肉を口に運ぶ。


 脳内裁判を起こすまでもなく、理性が勝ったよ。


「ンンン、にゃ」


 と内心どや顔をしていたら、――ロロが鳴きながら肩から飛んで俺の食べかけ乾燥肉を奪っていきやがった。


 あぁ、素早いっ、ったくもう。

 腹が減ってたのか、しょうがない。


「ロロ、もっといるか?」


 黒猫ロロは尻尾をぽんっと反対側へ動かした。


「ロロちゃん、尻尾で返事してます」

「そうらしい……」

「はは、ロロちゃんは腹が減ってたらしいな。ところでシュウヤ、真面目に聞くが……」


 サラは小さいネコミミをピクッと動かすと、近寄ってくる。

 その目は真剣な眼差しだ。


 明日の作戦についてか?


「なんだ?」

「突然だが、わたしたちのクランに入らないか?」


 違った、お誘いか。


「……また唐突だな」


 クランか。ん~。


「あらま、隊長が直接誘ってる。めったにないですよ。シュウヤさんを相当気に入ったようです」

「まぁ、団長が気にかけるのは分かる。槍使いとしての腕は確かだ。俺たち獣人の戦士タイプは純粋な力に惹かれるし」


 ブッチ氏もそう褒めてくれた。


「わたしも、紅虎に入ってくれるなら嬉しいわ。いつでも狙えるし……」


 ベリーズさんは台詞といい、笑顔が怖い。妖艶な感じだ……。

 狙われてみたい。おっぱいで叩かれてみたい。


「ベリーズ、狙うって、その目が怖い~」

「あら? ルシェルだって変な笑顔になっていたわよ?」

「えぇ? ブッチ、わたし変顔してた?」

「いや、そんな顔はしてないぞ? パンツはさっきから見えているが」


 ルシェルさんは慌てて臀部をローブで隠す。


「あぁっ、ブッチ! エロブッチだ!」

「ちっ、ちげぇぇぇ」


 エロブッチ先生。

 俺は決して責めたりしないよ。


「――はは、というか、おまえたちうるさいぞ! シュウヤの返事が聞けないだろう」


 ん~、今はな……。


「……そうだな。仲良くしてもらっておいて悪いが……断る」

「えぇ?」

「断るの?」


 ルシェルさんとベリーズさんは驚いた反応を示す。

 サラも俺が断るとは思っていなかったようだ。


「そうか……理由を聞かせてくれないか?」

「単純だ。俺にはやるべきことがある。それと、今は気ままに過ごしていたい」

「……そうか。残念だ」


 サラは言葉通り、耳を凹ませを俯いてしまった。

 俺としては、こんな美人たちと過ごすのも良いかなと思っている。

 だが、正直いうと、美女の笑顔が少し怖い。

 病名はクナショック。アナ、もとい、クナフィラキシーショック。

 まぁこれは冗談半分だけど、第一の目的である黒猫ロロとの約束もあるうえに、ゲート先を一個一個確実に調べるのには、軽く年単位の時間が掛かると思われる。クランに入ったら自由が利かない。

 何より、俺の場合は自ら作った方が良いだろう。


「……団長の誘いを断るとは」


 ブッチさんもそう呟いていた。


「――本当にガッカリだけど」


 ベリーズさんはおっぱいをゆらして立ち上がった。

 ニヤッと笑顔を見せる。

 彼女の瞳はどこか潤んで見えた。

 俺に素早く近寄ってくると、隣にすとんと座り、腕を絡めてくる。


「クランに入らないのは残念だけど……今日は傍にいて――」

「コラッ」

「何をしているっ」


 怒声はサラとルシェルさんだった。


「オイッ、な~にがそばにいてだ」

「そうですよー。全く、油断も隙も無い……」


 蓮っ葉口調のサラとルシェルさんのご両人。

 頬を膨らませた二人はいつの間にかベリーズさんの背後にまわっていた。

 そのままベリーズさんの両腕を掴み、引き摺るように焚き火から離れていく。


「あはは、済まんな。ベリーズは一度気に入ると積極的だからなぁ」


 ブッチ氏はほろ酔い気分らしい。

 怒らずに笑っていた。


「はは……」


 こうして、ある種、男冥利に尽きる緊張感に包まれた夜を過ごしていく。

 ――だが、ここは蟻の巣。深夜すぎに蟻が湧くのは当たり前。

 なので、そんな馬鹿げた緊張感はすぐになくなり、俺と黒猫ロロと紅虎のメンバーは近寄ってくる手長蟻ロングアントなどを狩り続けていた。

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