四十九話 紅虎の嵐

 

 やがて、咆哮を轟かせているドレイクが見えてきた。

 ……あれがドレイクか。

 個体差があるが、それぞれ五メートル以上はありそうだ。

 赤と緑の鱗を持つドレイクが五匹。ドラゴンと言われても納得できる。

 だが、さっきのワイバーンより若干小さいか?

 そんな強そうなドレイクと戦っているクランは優秀らしい。


 前方にいるドレイク三匹の動きが止まっている。


 魔法使いらしき綺麗な女性が放った魔法の効果のようだ。

 前に立つ戦士系の二人が連携してドレイクを翻弄していた。

 やるなぁ。連携が見事だ。

 ドレイクたちと互角以上に戦っている。


 その戦いに参加するか迷いながら近付いていく。


「――隊長っ、右で押さえている三匹、《光の戒スペクトル・レスト》があと十秒で解けるわ。次まで更に詠唱五秒っ」

「――了解、ブッチ! こっちのはわたしが一人で殺る。向こうでルシェルとべリーズのフォローに回れっ!」

「あいよっ」


 斧を持った大柄の男獣人は軽く返事をすると、指示を出した女獣人から離れて、魔法で止まっているドレイク三匹へ斧で殴るように斬りかかっていった。

 一方、隊長と呼ばれた女獣人が一人で二匹のドレイクと相対、危なそうな戦いを始めている。


「ロロ、あの左の女獣人を助けるぞ」

「にゃお」


 俺は走りながら、


「助けに来ました。左の一匹は貰います!」


 大声で善戦していた冒険者集団に呼び掛けた。


 と、左のドレイクが鉤爪が目立つ左前脚を振り上げて女獣人を攻撃しようとしている。

 急ぎ魔脚で駆け寄り、振り上げている左前脚の根元へ黒槍をぶち当てる。鱗を弾き飛ばし、緑色の肉を削いだ。

 そのままドレイクの左後方へ回り込み、右足で強く踏み込みながら、腰から腕へ伝搬した力を乗せた黒槍の<刺突>を後ろ脚へ喰らわせた。


 後ろ脚に穴が空き、ドレイクは体勢を崩す。

 俺の急な攻撃に対処できないようだ。


 その体勢を崩したドレイクの眼球に黒猫ロロの触手骨剣が突き刺さっていた。


 痛いのか、ドレイクは首を上げて悲鳴に似た甲高い咆哮をあげる。


 首を晒し過ぎだ。そこを狙う。

 黒槍を振り上げながら地を軽く蹴って跳躍――ドレイクの首へ黒槍を衝突させ、首へ刃がめり込むように力を入れた。

 ずにゅっという音を立てながら刃が侵入、そこから強引に真横へ薙ぎ払う。

 薙ぎ払った方向へ緑色の血飛沫が雨のように降り落ちていく。

 切り裂かれたドレイクの首は自身の頭を支えられなかったのか折れ曲がり、大きい頭が地面とキスするように項垂れる。


 倒したか? と思ったが違った。


 ドレイクは項垂れた頭で地面を擦り、反撃しようとしているのか歯をカチカチと鳴らし、翼を横に広げて動かす。


 ――その翼から突風を巻き起こした。


 黒猫ロロは突風を受けて後ろへ後退していく。

 ドレイクは地面を食べるように頭や口を何回も動かして唸り声をあげる。

 無事な片眼を見開き、口も広げ、血が垂れている乱杭牙を見せつけながら蒸気のような息吹を発していた。


 タフだな。竜の意地を感じる。


 ドレイクの生命力に尊敬の心を抱きながら、また地を蹴り跳躍。

 苦しませず一気に終わらせてやろう。

 体を捻り回転を加えた大上段の構えから、ドレイクの頭へ黒槍を撃ち下ろした。


 豪の一撃が、項垂れたドレイクの頭蓋を大きく円形に窪ませる。


 頭蓋骨が一気に沈み込み、脳を潰す。

 これでさすがに終わりだろう。

 脳が圧殺されたドレイクは動かなくなる。

 その時、一瞬だが、戦場が止まったかのように視線が集まるのを感じた。


 それはその場にいたもう一匹のドレイクも同じ。


 二剣を操る女獣人に集中していたドレイクだったが、俺を脅威に思ったらしく、頭をこちらへ向けて首元を膨らませ始める。


「ブレスが来るぞ!」


 女獣人が警告の声を発してくれた。


 急遽――魔闘脚で回避行動を取った。

 左へ<脳脊魔速>は使わずに走る。

 黒猫ロロは既に察知していたのか、遠くへ逃げていた。


 さっきまで俺がいた場所には紅蓮の炎が満ちていた。

 地面を焦がす炎の海が周囲を飲み込むように広がっていく。


 これが竜のブレス。

 ドレイクの口から放たれた紅蓮の炎。

 ――熱い。

 無事に避けられたが、熱い空気がぶあっと顔に当たった。

 だが、そのドレイクの炎は長続きしなかった。

 ドレイクが炎を作り出していると思われる膨れた喉に矢が何本も刺さっていく。


 すると、喉が爆発。

 ドレイクは悲鳴をあげることもできずにのたうち回る。

 そこから隊長と呼ばれていた女獣人の怒涛の攻撃が始まった。


 女獣人の両手には反った長剣カトラスが握られている。

 反った長剣カトラスを左から右へ風のように素早く扱い、剣線がかすかに見える斬撃を繰り出していた。

 ドレイクの右後ろの脚を反った長剣カトラスで斬り下げると、反対の手に握る反った長剣カトラスで翼の一部を斬り上げながら、自身も攻撃に合わせるように跳躍している。


 凄い。流れるような剣捌き、踊っているかのようだ。

 <魔闘術>と見られる魔力の移動もスムーズ。

 今度は右手に握る反った長剣カトラスで、ドレイクの腹を斬り上げていた。

 女獣人は首元に朱色のマフラーを巻いていて、それがヒラヒラと宙を舞う。それに、髪が長い紅髪なので、紅と朱が混ざり、赤色の濃淡が炎のように煌めいて見えた。

 そんな長い紅髪を靡かせ舞いを踊るようにドレイクを切り刻んでいく。そうして最後にドレイクの左後ろ脚をもう一度斬り下げて、剣の舞いは終わった。


 ドレイクは脚の腱を切られたようで、力なく胴体が地面へ沈んでいく。


 倒したのかなと思ったら、まだ続きがあった。

 女獣人は腕をクロスさせながら、地を蹴り跳躍している。

 クロスさせた斬撃をドレイクの頭部に、ええ!?


 ――すご! 腕と握ってる長剣が一瞬膨らんだ?


 ドレイクの頭蓋に大きなXの傷ができ、窪んでいく。

 口から大量の緑色の血が出て、長い舌が飛び出した。

 完全に圧殺。さっきの俺の一撃と同じぐらいの威力がありそうだ。

 しかし、一瞬だけど、あの腕、魔力が集中して膨れたように見えたが……。

 攻撃を終えた女獣人はくるくるっと回転して着地。

 長い紅髪がふあっと浮かび、その頭部に可愛らしい茶色のネコミミがあるのが見えた。


 そこで、顔を上げた女獣人と視線が交じり合う。


 ――わぉ、美人だ。

 一瞬だが、その綺麗な顔が目に焼き付いてしまった。


 顔は人族に似ていて、綺麗な肌に茶色の瞳。

 美人と可愛いがマッチした理想的な顔立ち。

 その女獣人は一瞬、俺に悩殺するような笑顔を向ける。

 だが、すぐに仲間が戦っている三匹のドレイクのもとへ向かう。


 踵を返し、走っていった。

 その後ろ姿が、またなんとも……。

 思わず視線が吸い寄せられてしまう。

 腰巻きの布がひらひらと捲れて、女獣人のお尻さんが良い加減で見え隠れしていたからだ。


 走っている女獣人はワンピース系の衣服に腰巻きと皮鎧を着ている。


 そのお尻さんから太股まである革防具がガーターベルトと繋がっていて、そのガーターベルトのせいか、余計にむちむちぷりんなお尻さんが強調されていた。


 思わずごくっと生唾を飲み込む。

 と、見てばかりいられない、俺も走って近付いていく。

 そんなあからさまなエロイ視線を向けている俺の隣では、黒猫ロロも走っていた。


 そこに詠唱の終わりの文言が聞こえてくる。


「麻痺の陣と成りて現れよ――《光の戒スペクトル・レスト》」


 その魔法が放たれると、瞬時にドレイクたちの足下に巨大な魔法陣が敷かれる。

 魔法陣の上にいたドレイクたちが、魔法陣から伸びる光の筋のような物に囚われ動けなくなっていた。


 おぉ、さっきの魔法か。

 間近で見ると圧巻だな。ドレイクの動きが止まっているし。

 いや、圧巻と言うより珍妙か?

 ドレイクの前足が空中で止まり、太い後ろ脚も完全に止まっている。


「やったぁ、成功」

「またかかったわ。ルシェルの魔法はさすがねぇ。それからブッチ、誘導ナイス。これであの三匹は二十秒近く動けないはず」

「あったりめぇだ。足に傷を負わせた奴は残して、無傷の奴を優先するぞ」

「いいからはやく攻撃しなさいっ――バカブッチ」


 エルフの綺麗な女性は、ブッチと呼ぶ男獣人に喧嘩腰で命令しながら矢をドレイクに射る。


「うるせぇ、やってるだろうがっ」

「――わたしも混ざるぞ」


 そこで、反った二剣カトラスを持つネコミミ美人の隊長さんが喧嘩腰の会話に割り込み、連携に参加。


 ドレイクに一撃を加えていた。

 俺も楽しみを終えて参加する。


「連携してるとこ悪いですが、混ざります」

「にゃぁ」


 俺と黒猫ロロも、同時に傷を負っていないドレイクへ攻撃した。


「――お前さん、良い腕してんなあっ」


 ブッチは大斧をドレイクの左前足を折るようにぶち当てながら、余裕顔で俺を褒めていた。

 タフな竜種といえど、動きを止められたらただの的でしかない。

 それがドレイク数匹程度では致命的だ。


 その場にいた全員から連携攻撃を受けると、ズダズダに切り裂かれていく。


 だが、さすがに竜種なのか、物凄い生命力だった。

 頭が無傷だと、胴体や足に穴が幾つ空こうが動き続ける。最後まで生き残ったドレイクは、地面に這いつくばりながらも強気な態度を見せるように僅かに頭を上げて、血だらけの乱杭牙を見せつけていた。


 南無三、生きようとする意思へ祈りを込めながら、気高き竜の左眼へ止めの<刺突>を撃ち放った。


 黒槍の穂先はズバッとドレイクの眼窩に侵入。

 穂先が大脳に達したのか、ドレイクは完全に息絶えた。

 それにしても、あの麻痺魔法、便利だな――。

 そんなことを考えながら、深々と突き刺さった黒槍をドレイクの頭蓋から引き抜く。


 その引き抜いた反動を利用。

 黒槍を横へ振り払ってこびりついたドレイクの血を飛ばし、麻痺魔法を唱えていた女性に視線を向ける。


 その女性は手に持った大杖を背に装着していた。

 その魔法使いの女性はエレガントな日本人のような、東洋の神秘を感じさせる雰囲気を持つ。

 クレオパトラのように前髪が切り揃えられた額にはサークレットがあり、それについた青い綺麗な宝石がチラチラと前髪の間から見え隠れしていた。


 髪色も黒だし。

 パリコレに登場しそうな薄いエジプシャンメイクが決まっているアジアンビューティと言えばいいか。


 唇は小さいアヒル口。顔も小さく、逆三角形。

 服装は魔法使い系らしい外套。

 外套は胸元が開いているので、体付きは細身だろうと判断できた。

 胸元から悩ましいデコルテ部分が見え隠れしていて、上着の薄緑色のチュニックが清楚感を醸し出している。

 下半身は外套であまり判別できないが、膝下まである白っぽいスカートを覗かせていた。


「――そこの人族の青年っ」


 魔法使いの女性を凝視していると、近くにいた美人な隊長さんに話しかけられた。


「はい?」

「加勢に来てくれてありがとう。お陰で助かったわ」


 隊長さんの頭にあるネコミミがピクピクと動いている。


 かわいいなぁ。

 さっきも見たけど、隊長さんをもう一度チェック。


 首元を覆う朱色のマフラーが似合うね。凜とした雰囲気。

 腰巻きが細いウエストにピッタリで、太股まであるグリーブ系の防具も足にフィットしている。


 モデルのようにスラリとした足がより長く見えた。


 そのグリーブ系の防具だが……。

 どういうわけか足首でなくなっていて、素足の甲が見えていた。

 靴はサンダルのような物を履いている。

 足の甲には獣人系らしい紅色の毛並が生え揃っていて、指にも生えていた。


「……礼には及びません。俺がいなくても、何とかなったでしょうし」


 鼻息を荒くしながら凝視している最中の言葉なので完全に不審者だけど、丁寧に返しておいた。


「たとえそうでも、一瞬で勝負がつく世界だからね。素早く倒すことに非はない。なにより、加勢によって凄く早く倒せたし――」

「にゃぁ」


 そのタイミングで、俺の足元に居た黒猫ロロが挨拶するように鳴く。


「あら、さっき活躍してた可愛い使い魔ちゃんね」

「きゃぁ、可愛すぎる」

「本当、抱きしめて弄りたくなっちゃうわ」


 ロロに反応してきたのは魔法使いの女性と、弓を扱っていたエルフの女性だ。


 さすがは可愛い黒猫ロロなだけはある。

 美女からの食い付きが半端無い。隊長さんも撫でている。


「こいつの名前はロロディーヌ、愛称はロロです。俺の名前はシュウヤ・カガリ。シュウヤでもカガリでも、好きに呼んでください」

「ふふ、この子、ロロちゃんって言うのね。あ、わたしの名前はサラ、サラ・フロライドよ。【紅虎の嵐】ってクランの代表なの。よろしくね、シュウヤ」


 最初に笑顔で自己紹介してくれたのは、やはりリーダーだった猫耳の獣人女性だ。

 名前はサラさんかぁ。


「はい、よろしくです」

「シュウヤさんにロロちゃんですね。わたしはルシェル・アドキンス。サラ隊長が率いる冒険者&傭兵クランの【紅虎の嵐】で副長をやらせてもらっています。冒険者Bランクの魔導使いのルシェルです。ルシェルと呼んでください」


 あの便利な麻痺魔法を唱えていた女性だ。


「わたしも紅虎のメンバーよ。Bランクで弓使い、お色気担当のべリーズ・マフォン。べリーズでもマフォンちゃんでもいいからね。よろしく、シュウヤ君」


 女性が多いな。


「はい、よろしく――」


 挨拶の言葉終わりに、思わず視線がベリーズさんの胸へ行ってしまう。

 所謂一つの、いや、二つの爆乳だった。

 タワワな果実、豊満な胸だなぁ、おっぱい万歳。


 思わず長らく見つめてしまった。


 急いで誤魔化すように視線をあげる。

 ベリーズさんはそんな俺のエロい視線に目を合わせてきた。

 一瞬鋭い視線で俺を見てくるが……。

 切れ長の青い瞳の瞼を一旦閉じて開くと……優しく見つめ返してくれた。


 薄紅の唇が妖艶な口角を作り、微笑んでいる。


 耳が長く特徴的なのは言わずもがな、青い切れ長の目の綺麗なお姉さんは好きですか? 

 勿論好きです。的な感じだからな。髪もザ・エルフの黄金色で長髪。右サイドには小さい三つ編みがあり、耳元へ伸びていた。

 反対側にある髪留めが可愛さを強調しているし……。

 それと、右頬には、小さい虎か豹のような特徴的な刺青があった。


 薄紅の唇の近くにはホクロもある。

 そして、またデカい胸に視線が戻ってしまった。


 ……男なら絶対二度見すると断言できるぐらいのグラマーな胸。

 彼女は豊満な胸を強調するようなV字より深いプランジングネックが特徴の赤い革服を身に付けていた。


 どうしても視線が胸に行ってしまう。

 おっぱい研究会顧問としては自然なんだが、ま、俺は変態だからな。


 そこに、ゴツイ男の声がわざとらしく乱入してくる。


「ゴホンッ、因みに、俺も紅虎のメンバーだ。ブッチ・ザマル。斧使いで、Bランクだ」


 俺の露骨な視線に機嫌が悪そうな大柄の男獣人。

 赤髪で、短い角刈り風の髪型だ。

 口の横から顎にかけて、ふっくらと生えた赤髭がワイルドさをアピールしている。


 分厚い皮鎧の下の胸筋や上腕二頭筋が目立つ。

 まるでどこかの軍曹。マントヒヒ顔で、強そうだ。

 ……だが、サラと同じように猫耳ときたか。

 マントヒヒ顔にネコミミとは、シュールすぎるぞブッチ氏。


 だが、一応謝っておこう。


「……すまない。その……このクランの女性陣は、皆綺麗なんですね」


 俺の変態的な視線は印象悪すぎだからな。

 ブッチさんに、照れくさそうに、弁解を兼ねて言ったつもりだった。


「そ、そうか? 初対面で随分とはっきり言うのだな」


 ブッチさんはぶっちょう面で答えている。


「えっ」「わたしが……」


 隊長のサラさんと副長のルシェルさんは、容姿を褒められるのに慣れていないようで、そんな言葉を漏らしていた。


「あら、ふふ」


 一人だけ、当たり前よっと言わんばかりに笑っている方がいた。

 ベリーズさんだ。

 そのベリーズさんが、ブッチさんに、


「あらぁ? ブッチ、最初の疑問形の言葉は、わたしたちが美しくないと思っているのかしら?」

「そ、そんなことはないぞ」

「はは、あの堅物ブッチが顔を赤くしてる~」


 ルシェルさんは片手を口にあてながら、もう片方の手でブッチさんを指差して面白がっていた。


「うっ、堅物とはなんだっ」

「そういえば、あのブッチらしくないわね?」

「げ、団長まで……」


 と、そこでなぜかブッチ氏に睨まれてしまった。

 俺のせいか? 知らねぇってばよ。


 サラさんは黒猫ロロのなでなでに満足したのか、俺を見つめながら、


「シュウヤ、さっきの槍捌き、凄かったけど、実は冒険者ランクAやSだったりするの?」

「いえ、槍には確かに自信がありますが、ランクはDです」


 サラさんは納得するように頷いて、


「へぇ、もしかして冒険者登録をしたばっかりとか?」

「その通り、よくわかりますね」

「時々いるのよ、強さとランクが伴わない人が。例えば、何処かの流派で既に免許皆伝とか王級とか、そういう隠れた手練れの武芸者がね」

「なるほど。サラさんはクランを率いるだけあって、経験豊富なようだ」

「さんは止してよ。今は緊急依頼を受けている者同士。だから、気軽にサラと呼んでほしいな」


 サラは茶色の耳と頬を若干紅く染めながらウィンクしている。

 可愛いすぎる。


「わかった、サラ」

「うん、よろしい。ふふ」


 笑顔も素晴らしい。紅色の髪に茶色のネコミミが似合うな。

 と、そこでルシェルさんがわざとらしく、


「あらま、ついに隊長に春が……」


 そのルシェルさんの呟きを聞き、サラはネコミミをピクピクと動かして笑顔を止め、耳を紅く染める。


「こら、ルシェル、からかう言葉が聞こえたが?」

「さすが地獄耳ぃ。でも、良かったじゃないですか。シュウヤさん、平たい顔ですけど、カッコイイですし……」


 平たい顔でスンマセン。


「そ、そんなぁ、団長を呼び捨てだとぉぉ?」


 ブッチさんはそこでなぜか悲しんでいた……。


「ブッチ?」


 サラはブッチさんの残念そうな顔を見て首を傾げている。


「そうねぇ、多少はブッチの気持ちがわかる気がするわ。まさか、隊長のあの耳サインがこんなに早く出るとは……」

「はい、久々ですね」


 ルシェルさんとベリーズさんは二人して頷いている。


「うん。まあ、相手が人族とは言え、獣人を超える強さだからねぇ。顔は平たくて、わたしの好みとは少し違くて残念だけど、整っている方だとは思うし?」

「そうですよぉ、ベリーズもそう思いますよね」


 残念で悪かったな。

 俺は元日本人。平たい顔族なのだから……。


「うん。珍しくルシェルと意見が合うわ。若い子で背も高い。わたしから見てもかわいいから……ありえるか。ブッチには災難だったわね。憧れの隊長がこの一瞬の間にコロッと落ちちゃって。そして、更にもうお互いに呼び捨てし合う仲にまで発展だからね」


 サラはベリーズさんとルシェルさんのからかいを真に受けて、恥ずかしいのか頬を少し膨らませて可愛らしく怒る。


「むぅ~、ベリーズまで……」


 と言いつつ、まんざらでもないのか、

 頬から耳まで少し赤くするサラ。

 今、俺のことをチラッと見た。

 そのまま優しく微笑んでくれる。

 俺も気になってきちゃうだろうに……。

 ここは誤魔化すように――。


「……はは、皆仲が良いですね。戦友であり、仲間なんですね。さっきのドレイクも良い連携で倒していましたし」

「――ありがとう。そうなの、皆最高のメンバーだよ。ね?」

「そ、そうだぞぉ」


 ブッチ氏は泣きそうな顔を浮かべて返事をしていた。


「はい、その通りです」

「えぇ、勿論よ」


 ――ん?

 そこで、そんなほのぼの会話を邪魔するように魔素の反応。


 またドレイクたちだ。

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