ドジメイド誕生!? シャモエとの邂逅

「――――はぁ、やれやれ。この状況もそろそろ飽きてきたな」

 あきれと憂いを込めため息をき腰に手を当てるリリィン・リ・レイシス・レッドローズ。

 身体をクルリと半回転させると、自身の真っ赤に彩られた髪が波打つように動いた。

 周りでは多くの者たちが横たわっている。頭には獣耳が生えており、臀部でんぶ近くからは尻尾も確認できた。

 彼らはこの世界で獣人と呼ばれる種族である。

 そして今、リリィンが立っている大地は彼らが住まう獣人界。

 旅をしているところを彼らに見つかり、突如として襲い掛かってきたので軽く相手をしてやったというわけだ。

 しかも今日で襲撃は三回目。獣人界に入って数え切れないほどの望まない戦いに身を投じてしまっている。

「食事時だというのに無粋な方たちでございますな」

 リリィンに近づく一人の白髪男性。

 彼は執事としてリリィンに仕えるシウバ・プルーティスだ。ここ数百年間、ずっと一緒に過ごしてきた家族とも呼べる存在である。

「しかしさすがはリリィンお嬢様の《幻夢魔法ファンタジア・マジック》でございます。どのような方たちでも一瞬で無力化されるとは、いつ見てもれ致しますなぁ、ノフォフォフォフォ!」

 執事としては有能な彼だが、このバカ笑いと……ある性癖に問題があり……。

「ああ、それにしても死屍累々ししるいるいの中にたたずむお嬢様の凛々りりしさといったらもう……我慢できまっせぇぇぇんっ、おっ嬢様ぁぁぁぁぁぁぁっ!」

「そのまま貴様も死屍になれ愚か者がぁぁぁっ!」

「あぶほぉんっ!?」

 鼻の穴を広げて興奮気味に飛びついてくるシウバの腹に痛烈なパンチを一発お見舞いしてやった。

 彼は激しく大地を転がり――そのままむくろに……。

「ノフォフォフォフォ! さすがはお嬢様! 愛のむち頂きましたぁ! わたくしは幸せいっぱいでございます! ノフォフォフォフォ!」

 ……ならなかった。

 無傷で立ち上がり再びバカ笑いをしながら近づいてくる。

(くそぉ、どうやったら死ぬんだこのアホ精霊は!)

 そう、彼はこの世界に存在する四つの種族――『人間族』、『獣人族』、『魔人族』、『精霊族』の中の一つ、『精霊族』に属する者。

 その中でも同種族にも異端視されている『闇の精霊』だ。

 リリィンは魔人なのだが、自分もまた住んでいた【魔国・ハーオス】の王族たちに煙たがられていたという事実を鑑みると、異端とも呼べる存在だろう。

 リリィンの夢――野望はそんな世界から爪弾きにされる者たちの居場所を造ること。

 そのために世界を長年旅してきたのだ。

 しかし進捗状況は…………芳しくない。

 仲間であるシウバを手に入れたということが一番評価の高い結果かもしれない。

 人間、獣人、魔人、この三つの種族は数百年経っても関係は変わらず、ずっと争い合う状態にある。

 そのせいでただ種族が違うというだけで、問答無用に襲い掛かってくるのだ。

 今のこの状況もそういう時代の流れを体現したもの。

「? お嬢様、そのような深刻そうな顔をされてどうされました?」

「……そろそろ魔界の屋敷に戻るか」

「! よろしいのでございますか? まだここで成すべきことがあるのでは……」

 彼の言う通り、まだ獣人界で見回っていない場所もある。しかし行く先々で襲われるのだから、さすがに嫌気が差してくるのも当然だろう。

「戦争も激化してきた。下手へたに動き回っていると、今度は国が絡んでくるかもしれんからな」

「なるほど。確かにここ最近戦の数が増えておりますな。以前にも巻き込まれそうになりましたし。そのせいで獣人たちも気が立っているからこそ、こうしてこちらの話も受け付けずに襲い掛かってくるのやもしれませぬ」

「情勢が落ち着くまでは屋敷で大人しくしておいた方が良いかもな。これ以上、獣人界を渡り歩いたところで意味がないとは言わんが、話すら聞かないやからを相手するのは疲れる」

「しかしお嬢様、【獣王国・パシオン】にはお知り合いがおられるのでは? 会いに行かれないのでございますか?」

 知り合いというのは、ずいぶん前に出会ったルルノという獣人少女のことだ。リリィンが初めて仲間にしたいと思った存在だったが、彼女はリリィンの野望を支持してくれて、そのためにも国の中から獣人の意識を変える必要があると言い、【パシオン】に移り住むことになったのだ。

 あれから何度か会いに行ったが、巡り合わせが悪かったのか会えずじまいに終わっている。

 情報では研究者となり、国の長である獣王にも頼られる存在となっているらしい。また結婚もして子も授かっているとか。

 一応伝手つてで祝いの品と手紙は送っておいたが、届いているだろうか。

 いつか会いに行こうと思いながら旅をしていたが、結局今日に至る。

「アイツも今や国を支えている一角ひとかどの人物だ。今の状況で魔人と会うのは周りに余計な波紋を広げるだけで、アイツにとって良いことはないだろう」

「……それでよろしいのですか?」

「なぁに、獣人は長生きだ。情勢が落ち着いたらまた会いに行けばいい」

 それがいつになるかは分からないが……。

「とりあえず今はさっさと獣人界を抜けて――ん?」

「お嬢様、お下がりください」

 前方にある茂みが不自然に動いたことで、リリィンたちは警戒を強める。まだ隠れている獣人がいたのかもしれない。

 だが茂みの中から現れた人物を見て、リリィンたちは言葉を失ってしまう。

 間違いなく姿は獣人の男性だ。しかし全身は傷だらけで、大量の血を流しながらフラフラと覚束おぼつかない足取りで出てきた。

 さらにその背後から強烈な殺気とともに、身体が真っ赤に染まっている巨大生物が姿を現す。

「――ユニークモンスターだと!?」

 普通のモンスターよりも稀少度が高く、その身に秘める実力も格段に高いものを持つ。

「あれはレッドスパイダー、Sランクのモンスターでございます! 強力な糸を吐いてターゲットを捕食する厄介な存在だったかと!」

 人を丸飲みできるほどの大きな身体を持つ蜘蛛くも。そこにいるだけで存在感が半端ない。

 腕利きの武人が十人集まっても勝てないとされているユニークモンスター。出会えば必ず逃げろというのが世の習わしでもある。

「ククク、しかしたかがSランクでワタシの歩みを止められると思うな」

 リリィンが魔力を瞳に集中させると、紅き双眸そうぼうが怪しく光る。

 レッドスパイダーがリリィンたちに向けて糸を吐いてくるが、その糸が突如として急に曲がり、鋭い刃状になってひとりでにレッドスパイダーの足を切断していく。

 痛烈な悲鳴を上げながらも逃げようと身体を動かすが、今度はレッドスパイダーの頭に糸が巻きついてそのまま締め付けられていき――ザクッと断頭された。

「フン、雑魚ざこが。敵とするものを間違えたのが運の尽きだな」

 怪しく光っていたリリィンの瞳が元の輝きに戻る。

 レッドスパイダーはピクリとも動かない。ただし――五体満足の身体で、だ。

「……もしや魔法をお使いに?」

「その方が手っ取り早いだろう」

 今、レッドスパイダーに起きた事象はすべてリリィンが作り出した幻だった。

 魔法でレッドスパイダーの精神を乗っ取り、濃厚な精神的な死を与える。精神の弱い者は、この幻だけで本当に絶命してしまうのだ。今のレッドスパイダーのように。

「さすがはお嬢様でございます。ユニークモンスターですら相手ではありませんな」

「当然だ。それよりもその男のことだが……」

 地面に倒れている血塗れちまみの男。

「傷口から察するに、恐らくはレッドスパイダーに襲われたのでございましょう。しかしこれでは……」

 彼の言いたいことは分かる。すでに致命傷だ。手の施しようがないのは一目瞭然だった。

 リリィンもシウバも治癒関係の魔法は一切使えないのである。

 リリィンは、これも何かの縁だと思い男に近づく。

「何か最後に言い残すことはあるか?」

 男は必死にまぶたを開けながら、震える唇を動かして「手……を」と言った。

「手? おいシウバ」

「はい。……これは」

 シウバが男の握っている手を開いてみせると、そこには鈴の形をしたペンダントが握られていた。

「……ポケット……に……手紙……が」

 途切れ途切れではあるが、何を言いたいのか察し、彼のポケットをシウバに探らせる。

 ズボンの右ポケットから、折り畳まれた一通の手紙が出てきた。

「たの……む……っ、それを……どうか…………届けて……ほし……い」

 風前の灯火のような状態で、必死にシウバの腕をつかみながら頼み込む男。

「シウバ、それを貸せ」

「はっ」

 シウバから手紙を受け取る。

「おい、中を確認するぞ」

 男が僅かにあごを引いて了承の意を示す。

 手紙の内容というよりは、誰に宛てたものかを知る必要があったからだ。

 そこには二人の人物の名前が記載されていた。

「……この二人は?」

「……むす……め…………妻……だ」

 何となくそうだろうなと思っていた。

「この近くにお二人が住んでらっしゃるのですか?」

 シウバが尋ねるが、男は「いいや」と言って否定する。

 そして衝撃の言葉が告げられた。

「…………妻と……娘は………………魔界に……いる」


     ※


 ――数ヶ月前。

 魔人たちが住む大陸――魔界の僻地へきち

 鬱蒼うっそうと茂った森が広がる中、ポツンと木造の小屋が建てられている。

 そんな小屋をホッとした様子で見つめる三つの人影。

「お父さん、ここが今日からシャモエたちのお家(うち)なんですね!」

 揚々とした表情で言う少女の名は――シャモエ・アーニール。ボリューミーな桜色の髪に、頬のそばかすが特徴の女の子だ。

「おう、そうだぞ。結構立派なもんができただろ?」

 この小屋は彼――シャモエの父が中心になって建ててくれたもの。新しい三人家族の家である。

「これならしばらく住むには大丈夫だろう」

 しばらく――彼の言葉を聞いて、シャモエは不安色に顔を染めた。

「ごめんなさいです……お母さん、お父さん。シャモエのせいで……」

 何故謝るのか、理由は明確だ。

 それは自分のせいで、今まで住んでいた場所を追われたから。

 この世界の常識。それは――他種族差別。自分たち以外の種族はすべて敵という考えだ。

 そしてさらに忌避される存在としてハーフが挙げられる。

 シャモエは、魔人の母と獣人の父との間に生まれた二つの血を引く《禁忌》と呼ばれる存在。どの種族からも異端視され、問答無用に拒絶されてしまう。

 故にシャモエの存在を知られるだけで、住む場所を追われるのである。

 今回の件を含め、物心がついてからシャモエが数えるだけで八度の引っ越しを余儀なくされてきた。最初は何故こうも住む場所を転々とするのか分からなかったが、さすがに八度も経験すると理解させられる。 

 ――ああ、自分のせいなのだ、と。

 荷物を抱えながら、前を歩く両親に向かってシャモエは申し訳なさでいっぱいだった。

「ははは、気にするな気にするな。家族一緒にいられるなら、俺はそれで十分だ」

「お父さん……」

「そうですよシャモエ。あなたは何も悪くない。悪いのは世界の環境の方。だからあなたは胸を張って生きて行けばいいんですよ」

「お母さん…………はいです」

 優しい両親の存在だけがシャモエの救い。この二人がそばにいてくれれば、シャモエは何もいらなかった。

「そうだな。けど腰を落ち着けられる場所ってのもあることにこしたことはないよな。……よし! お前たち、少し考えがあるんだけどいいか?」

 不意に足を止めた父が、満面の笑みを浮かべながらそう言った。

「どうかしたのですか、あなた?」

「おう、実はな、獣人界に行こうと思うんだ」

「ですが……」

「ああ、お前の懸念は分かる。獣人たちでも俺たちを受け入れてくれるわけがないっていうんだろ?」

 母が父の言葉に対してうなずく。

「けど環境的にはまだ獣人界の方が住みやすいし、俺が昔住んでた所を訪ねようと思うんだよ」

「……いきなり行っても大丈夫なのですか?」

「そうだな。だからとりあえず俺一人でまずは行ってみる。そんで住める環境を整えてすぐに戻ってきたら、一緒に向こうへ行こう!」

「あなた……」

「お父さん、一人でどっか行っちゃうんですか?」

「あはは、大丈夫だって。すぐに帰ってくるから。それまでお前たちは魔界で待っててほしいんだ」

 シャモエの頭をでる父。気持ち良いが、父がいなくなるという不安は拭えない。

 話の内容から、自分たちのために父が単身獣人界に渡るらしいが、それでもやはり心配になってしまう。

「…………分かりました。でもできるだけ早く戻ってきてください。無理だけはしないでくださいね」

「ああ、分かったよ」

 母と父が互いに抱き合う。シャモエもそんな二人に抱きつく。

 こうして父は一人で獣人界へ向かうことに。彼は一カ月以内には戻ってくると言い残し去って行った。

 シャモエも彼の言うことを信じて、無事に帰ってくるように祈る。

 しかし――。

「ねえお母さん、お父さんまだかえってこないですね」

 すでに父が言った一カ月は過ぎてしまっていた。

「そうですね、きっとあの人のことですから、私たちのために頑張り過ぎているんですよ」

「うぅ~、がんばらなくていいから早くかえってきてほしいですぅ」

「ふふふ、そのうちひょっこりと顔を見せてくれますよ。それよりこれをテーブルの上に置いてくださいね」 

 母に手渡された一つの皿。母が作った《野菜炒め》が載ったそれを「はぁい」と返事をしながら受け取り、テーブルへと持っていくのだが――。

「へぷっ!?」

 こけてしまった。当然床に落ちた皿は割れて料理は台無しに。

「ふぇぇぇぇ!? 痛いですぅぅ~!」

「はぁ、あなたって子は。いつももっと足元をしっかり見て歩きなさいと言っているでしょう」

「ごめんにゃしゃぁぁい」

 せっかく母が作ってくれた料理だったのに、申し訳なさでいっぱいだった。

 するとふわっと全身が温もりに包まれる。抱きしめられていることはすぐに分かった。

「失敗は誰にでもあります。そのくらいで泣いてはいけませんよ」

 母の優しさにシャモエは心穏やかになっていく。この温かさと優しいニオイがシャモエは一番好きだ。

「さあ、もう一度作るから手伝ってくれますか?」

「はいです! シャモエはいっぱいがんばります!」

 父がいないのは寂しいけれど、母が傍にいてくれる。だからシャモエは強く生きていけるのだ。

 それに父だってもうすぐ帰ってくるのだから。そう、何も心配なんていらない。

 ――しかし、さらに一カ月の日が過ぎようが父は帰って来なかった。

 次第に不安が増していくシャモエと母親。

 悪い予感が浮かび上がるが、さらに悪いことが重なってしまう。

 現在住んでいる場所が、またも魔人に見つかってしまったのだ。

 魔人である母は問題なかったが、魔人にしてはあまりに魔力量が少ないシャモエに疑問を感じた者がいて、シャモエの存在をいぶかしむ者たちが出てきた。

 魔人特有の褐色の肌も持ち合わせてはおらず、基本的に魔力量が多いという特徴もない。

 魔人たちは、シャモエに魔法を使ってみろと言う。

 ハーフは魔法を使うことができない。魔人であるならば、程度の差こそあれ魔法を使うことができるはず。

 それを確かめるために魔人たちがシャモエに要求したのだが、当然ハーフであるシャモエに魔法を使うことはできない。

 魔人たちがその事実に罵詈雑言ばりぞうごんを浴びせかけ始める。

 この地から出て行け、異端者ども、と。

 他にも次々と耳を塞ぎたくなるような言葉をぶつけられる。

 母がシャモエの前に立って守ってくれる。

「子供に手を出さないでください!」

「お母……さん……っ」

 なら即座にここから立ち去れと言ってくる。だが父との約束の場所から離れるわけにはいかない。母は断固として首を縦に振らず、彼らの拒絶に対し真っ向から向き合った。

 しかし日を追うごとに魔人たちの嫌がらせはエスカレートし、ついに蓄えていた食料が奪われた。

「あなた方はそれでも誇り高き魔人ですか! 恥を知りなさい!」

 当然母が犯人としか考えられない魔人たちに向かって非難をぶつける。しかし彼らは悪びれる様子が一切見せない。

「ふん、そんな“忌み子”を作っておいて何を言うんだかな。それよりもさっさと出て行け! さもないと強制的に追い出すぞ?」

 明らかな脅し。しかし怯えるシャモエとは裏腹に、母は気丈にも彼らには屈せずに「帰ってください」と言い放ち、彼らを追っ払った。

 だが翌日のことだ。小屋が半壊状態にされてしまったのである。

 それはちょうど食材探しに出掛けて帰って来た時のことだった。

「お、お父さんが作ってくれたおうちが……!?」

 隣に立つ母も壊された小屋を見つめながら、悔しげに下唇を噛み締めて怒りに耐えようとしていた。ここで暴れてしまえばシャモエまで危険にさらされるからと我慢しているのは明白。

(ひどい……です。シャモエたちは何もしてないのに……どうしてこんな)

 それ以上に父と母に申し訳がなかった。

「おか……あさん」

「……シャモエ、耐えるのですよ」

「ふぇ?」

「諦めずに耐える。耐えて耐えて、自分の信じることを貫けば、必ずその先には幸せが待っているのですから」

「……ほんとですか?」

 母がニッコリと笑みを浮かべて「ええ」と言いつつ頭を撫でてくれた。

「お父さんが帰ってきたらピクニックでも行きましょうか」

「ほんとですか! 行きたいですぅ!」

「ふふふ、あの人のことだからシャモエが頼めば一発ですよ。きっと数日前から入念に下調べまでして、シャモエが安全に楽しめるようにしてくれますよ。しかもサプライズとかも用意して。あの人はシャモエのことが本当に大好きでたまらない親バカですからね」

「シャモエもお父さんのこと大好きです!」

「そうですね。この小屋はお父さんとの再会の目印ですよ。だから最後まで傍にいましょう。あなたの大好きなお父さんが迷わずに帰ってくることを祈って」

 壊された小屋から、近くで見つけた洞穴へと移動し、そこで過ごすことになる。

 それでも執拗しつような嫌がらせは終わることがない。シャモエは、気丈に振る舞う母が次第に心配になってきた。何故ならば、最近目頭を押さえてフラつく母を何度も見ているから。

「……お母さん、お身体悪いんですか?」

「っ……大丈夫ですよ。少し風邪気味なのかもしれませんね」

 シャモエを安心させるように笑う彼女の心遣いに、シャモエもまたホッとしていた。

(お母さんは強いです! お母さんがいれば何も怖くありません!)

 絶対的な母への信頼。だからこそ、魔人たちによる過剰な嫌がらせのせいで、母が心に大きな痛手を受けていたことに気づかなかったのだ。

 そして――とうとう母が心労で倒れてしまった。

 元々母はシャモエと同じで、優しく気弱な性格の持ち主だ。度重なる精神的負荷が彼女の心を徐々にむしばんでしまっていてもおかしくはなかった。

「お母さん……大丈夫?」

「……ええ、大丈夫ですよ」

「きっとお父さん、もうすぐ帰ってくるから!」

「そうですね。遅刻したお父さんを叱らないといけませんしね」

 二人にとって、父が帰ってくるという希望だけが支えだった。

 しかしそれからさらに一カ月経っても、父が戻ってくる気配がなく、母の容体も悪化していくばかり。

 まだ五歳のシャモエに、この状況を覆せるような力などなかった。

「ごめん……なさい……シャモエ……」

「元気出して、お母さん! 死んじゃいやですっ!」

 最近では食事もほとんどらず寝たきりになっていた母。それでも魔人たちの嫌がらせは執拗に続く。

「シャモエの……せいで……っ」

 自分のせいで大好きな母が病気を患ってしまったと考えるとやるせなかった。

「何を……言うんです……か」

 母が横になりながらも穏やかな微笑を見せ優しく頭を撫でてくれる。それだけでシャモエは安心感を覚えた。

「あなたは……何も悪くあり……ませんよ」

「お……母さ……ん……っ」

「あなたは私と……お父さんの大事な宝物……です。優しくて……強い子……なのですから、泣いては……ダメ。諦めなければ……幸せは……やってきます」

「お母さん……でもぉ」

「約束……ですよ」

「や、やくそく?」

「ええ。あなたはあなたのまま…………強い子に育って……」

「なる! なるからぁ! 強い子になるから死なないでぇっ!」

 ホッとしたように母がはかなげに笑う。

「そして……お父さんが戻って……来るまで…………一緒に……」

「! ……お母さん?」 

 不意に頭から離れる母の手。力なく垂れ下がった彼女の手と、動かない表情を見てシャモエは顔を真っ青にする。

「ね、ねえお母さん? お母さんってば! いやです! いやですよぉ! お母さぁぁぁぁんっ!」

 何度身体を揺すっても、声をかけても、もう二度と母がシャモエに応えることはなかった。



 一人になったシャモエは、しばらく洞穴の中から動かずに貯蔵されていた食料と水を口にして過ごし二日ほど経ったが、とうとうそれも底をつく。喉が渇きに負け、近くの水場まで不安だが一人で行くことに。

 竹筒を持って清流まで行って水をむ。

(……あ、お花さん)

 目に映った可愛い白い花。

(お母さんにあげたいです)

 一輪だけ摘んで洞穴へと向かう――が、シャモエは足を止めて竹筒と花を落としてしまう。

 信じられない光景。父が建ててくれた小屋が燃え盛っていたのだ。さらにその周りには、恐らく火を放ったであろう魔人たちの姿もある。

「やめてぇぇっ! それはお父さんがかえってくるための大事なものなんですぅ!」

 しかし魔人たちはシャモエの腕を掴み動けなくさせる。何故ここまでひどいことができるのか信じられなかった。これ以上、自分からり所を奪わないでほしい。

 さらに、そのままシャモエを引っ張りどこかへ向かおうとする。追い出される、とすぐに理解できた。

「ま、まってください! お母さんが! お母さんがぁ!?」

 洞穴で横たわっている母を放ってはいけないと思い叫ぶが、魔人たちはそれを許してはくれなかった。どうせ死人だろと、すでに確認したかのように言う。

 殺さないだけマシだと思え、と続けて言ってくる。

 そんなゆがんだ優しさなどうれしくない。しかしシャモエはまだ小さく力もないので、抵抗もできずにどことも知れぬ場所へと連れて来られて放置された。

 周りはびっしりと枯れ木で覆われていて、不気味な森のようだ。

 シャモエは泣きながらも、彷徨さまようように歩くことしかできなかった。

 つまづいては転びを繰り返し、飲まず食わずでどれだけ歩いたか分からない。

 靴もすでに無く、足は傷だらけで服はボロボロだった。

 腹が鳴る。もう何度目の警告か数えていない。

 周りには食べられそうなものは何一つなく、喉を潤すものもない。

 ハッキリ言って子供のシャモエはすでに限界だった。

 ガクッと膝を折り、倒れてしまう。

(ああ……死ぬのかな……)

 もういい。だって、死ねばきっと母のところへ行けるだろうから。

 そう思いまぶたを閉じた時のことだった。地面をなぞるような乾いた音が耳朶を打つ。

 ふと顔を上げて前を見てみると、そこには大きな口から毒々しい紫色をした長い舌を出した巨大な蛇が自分を見下ろしていたのだ。

「ひぃっ!?」

 まだ起き上がれる力があったことに驚くが、反射的に上半身を起こして尻餅をつきながら後ずさる。

 自分など丸飲みにできそうなほどの巨大生物が、捕食者の目つきで近づいてきた。

 相手の威圧感に完全に恐怖し、腰が抜けて立つことはできない。

 よだれを垂らしながら、徐々に距離を詰めてくる蛇に対し、シャモエはガタガタと震えることしかできなかった。

「い、いや……っ」

 先程まで死ぬことは怖くなかった。そうすれば母のもとへ行けるから、と。

 しかし圧倒的な死の予感をぶつけられて、本能は強く拒絶する。

 やっぱり死にたくない――。

 そうだ、自分が死んだら父は?

 父を一人にしてしまうではないか。

 そう思い、父を悲しませないためにも自分は生きなければという強い想いが駆け巡る。

 しかし想いをよそに身体は動いてはくれない。

「だ、誰か……っ」

 目の前には、すでに大口を開けて今にも食べようとしてくる蛇がいる。

(もう……終わりなの……かな……っ)

 周りには誰もいない。いや、いたところで魔人が自分を助けてくれるわけがない。

 何故なら――自分はハーフなのだから。

 でも……それでも生きたい。父に会いたい。会って頭を撫でてもらいたい。

 それに母に託された約束が――ある。

 決して諦めずに、母と一緒に父を待つという誓いが。だから――。

「助けてぇぇっ、お父さぁぁぁぁぁぁんっ!」

 力一杯叫んだ。

 すると――バキィィィッ !

 突然蛇の頭上から降ってきた小さい人影。蛇は頭を強打され、その勢いで地面と激突してしまった。

 シャモエは見る。ヒラリと波打つ紅き髪に、黒い翼。

 自分を守るように降り立ったのは、小さな背中を持つ小さき存在。

 しかしながら何故か、その背中がとても大きく父の背中とかぶってしまった。

「お父……さん……?」

 その小さき存在が、もう動かない蛇を一瞥いちべつしてからシャモエの方に振り向く。

 キリッとした力強い瞳を持つ少女だ。そんな彼女が口を開く。

「――貴様に問おう。名をシャモエ・アーニールというか?」


     ※


 目の前でボロボロになったまま座り込んでいるピンク髪の少女に、リリィンは名前を尋ねた。 

 恐らく見た目からして間違いないだろうが、それでも確かめる必要はある。

 獣人界で致命傷を受けた男から聞いた外見がピッタリ一致するからだ。

 ピンクの髪、そばかす、五歳児の見た目、尖った耳、そして――褐色ではない肌。

 そのすべてに当てはまっている。

 しかし質問したのはいいが、くだんの少女は目を見張ったままほうけたように固まっていた。

「……おい、聞いているのか?」

「…………」

「おいっ!」

「ふぇう!? あ、え、えっと……」

「お嬢様、そのような大きな声を出されては彼女が怯えてしまいますぞ?」

 倒れた蛇の背後から静かに現れたのはシウバだ。彼にはここへ来てシャモエという少女を探すために別れていたが、きっと気配を感じてやってきたのだろう。

「初めまして可愛らしいお嬢さん、よろしければお名前を聞かせて頂けないでしょうか? わたくしはシウバ・プルーティス、こちらは我が主のリリィン・リ・レイシス・レッドローズと申します」

「っ……ま、魔人……っ」

 丁寧な態度でシウバが尋ねたというのに、少女は後ずさって逃げようと距離を取る。

 どういう状態か、獣人界で看取った男にある程度聞いたが……。

(やはり魔人に追い詰められたというわけか。それにしても一人……)

 リリィンの脳裏に悲劇が浮かび上がる。

「貴様、母親はどうした?」

「こ、こないでくださいですぅ!」

 一歩リリィンが近づくが。明らかな拒絶を示してくる。

「……はぁ。おいシウバ」

かしこまりました。お嬢さん、わたくしたちはある方から依頼を受けてここに来ました。そのある方とは――タスク・アーニールというのですが」

「! お、お父さんの名前……っ」

 やはりそうだったか、と少女の反応で確信し、シウバと目を見合わせて頷き合う。

「安心してください。わたくしたちは、あなたをそのような目に遭わせた者たちと同じことはしません。たとえあなたがハーフだとしても、です」

「! …………ほんと、ですか?」

「当然だ。ワタシをくだらないことをする連中と一緒にするな」

「ひっ、ご、ごめんなさいですぅ」

「お嬢様、ですからそう威圧されては……」

「む……なら貴様が説明しろ」

 別に威圧をしているわけではないが、どうも消極的そうな子供は苦手だ。

「改めまして、わたくしはシウバと申します。よろしければお名前をお教えくださいませんか?」

「…………シャモエ……です」

「ふむ。やはりあなたがタスク殿の娘さんなのですね」

「……はい、です」

「ではこちらを」

 シウバが彼女に手渡したのは一通の手紙。一瞬取ろうか取るまいか悩んだ末、結局シャモエは手を伸ばした。

 手紙は必死で書きなぐったような文字で書かれている。タスク曰く、自分の最後を悟り咄嗟とっさに何かメッセージを遺したく急いで書いたのだという。つまりは――遺言書。


『この手紙が届くのならば、きっと俺はもうこの世にいないと思う。こうして死に目にも会わせてやれず本当に申し訳ないと思っている。本当はここ獣人界でお前たちと一緒に平和に暮らしていきたかったけどな。本当にすまない。本当に……。ただこれだけは信じてほしい。俺はお前たちの幸せだけを願っている。だからどうか……生きてくれ。頼む。我が愛しの妻――モラン、愛しの娘――シャモエ。今までありがとう、愛しているよ』


 手紙を持つ手を震わせるシャモエ。

「う……うそ……です……っ」

「受け止めろ、それが現実だ」

「いや……いやぁ……っ」

「貴様の父は死んだ。その手紙をワタシたちに託してな」

「言わないで……ください……っ」

「お前の様子から察するに、母親も無事ではないのだろう」

「っ!? い、い、いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 全力で悲鳴に似た叫びを上げたあと、プツンと意識を絶ってシャモエは気絶をしてしまった。倒れる彼女をシウバが優しく抱える。

(母親のことを聞いて失神か……)

 一人でこんなところにいるのだから容易に想像がつく。

 ハーフである子供を持つ親。世間の風当たりがどれだけ厳しいかはリリィンにも分かっている。何があったか詳しくは分からないが、こうして離れ離れになってしまうほどの事態が彼女たちを襲ったのだろう。

 とりあえず彼女が起きるまで、ここで待つことにした。



 シャモエが目を覚ましたのは数時間後のことであった。

 恐らくシウバが自身の影から取り出したキッチンで作っているスープのニオイで目が覚めたのだろう。シウバは得意の闇魔法で、その影にテーブルや椅子、果ては食材なども収納しておくことができるのだ。

 しかしまだシャモエは困惑しているのか、リリィンたちを見て小さな悲鳴を上げ恐怖におののいている。そしてずっと放さなかった手紙に意識が向くとまた泣き出した。

 タスク曰く、シャモエは頭の良い子らしい。だから手紙に書かれた文字が父のものだということも、父に何があったのかをちゃんと悟れているだろう。

 リリィンたちは泣きじゃくる彼女を見守り、静かに落ち着くのを待った。

 しばらくして、シャモエは虚ろな表情のまま座り込んでいる。

「――さて、貴様に聞きたいことがある」

「…………」

「母親はどうした?」

 尋ねるが答えてくれない。呆然自失といったところだろうか。

 そんな彼女の顔の前に、鈴形のペンダントを見せる。

「これが何か分かるか?」

「…………」

「これはな、貴様の父が貴様のためにと買ったプレゼントだそうだ」

「! お、お父さん……が?」

 ようやく意識をこちらへと向けてくれた。

 リリィンから受け取った鈴を両手でギュッと握りしめるシャモエ。

「これを……お父さんが……お父さん…………お父さぁん……っ」

「凶悪なモンスターに致命傷を負わされてもなお、手紙とプレゼントだけは決して手放しはなさいませんでした。最後まで立派な素晴らしいお父上でございましたよ」

「う……ぁ……あぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ」

 余程仲の良かった父親だったのだろう。シウバの言葉を受け、せきを切ったかのような彼女の痛々しいまでの嗚咽おえつが響く。

 彼女が泣き止むのを待って、シウバが彼女の前に一つの皿を置く。その中には彼が作っていた黄金色のスープが入っている。シャモエがゴクリと喉を鳴らしてスープを見据えた。

「元気が出ますよ」

 不安ではあるだろう。どこの誰とも知れぬ者が作った料理だ。しかし相当に喉が渇いていたのか、皿を取ってチョコンと舌をつけたあとは、もう止まらないようで喉を鳴らしながらスープを堪能していく。

「……はふ…………あったかいです……」

 ようやく見せてくれた安堵あんどの表情。こんな何もないところに放置され、腹も減っていただろう。スープを口にしてホッと息を吐いている。

 そんな彼女がスープを飲み干してからリリィンへと顔を向け、鈴をギュッと握りしめた。

「……こ、これを届けていただいて……ありがとうございますです……」

「別に構わん。たまたま死に目に会って、気まぐれに事を起こしただけだ」

 とは言うものの、タスクから魔人の妻との間にハーフであるシャモエを授かっていることは当然聞いており、自身の野望のためにも彼女たちに声をかけようと考えたという理由も大きい。

「再度聞くぞ。母親はどうした?」

「………………守れませんでした」

「! ……そうか」

 その一言で察した。魔人の中には気性の荒い者も多くいる。元々同じ種族でも、一族身内以外の者とはつながりを持とうとしない輩がほとんどだ。

 他を拒絶する意識が強いため、獣人と子を成したというシャモエの母を攻撃的に接することは十分に考えられる。

 シャモエのボロボロの姿から予想できることは……。

「母親と無理矢理引き離されたのか?」

「! ……はい」

「母親は無事か?」

「…………うぅぅ」

 また涙を流す彼女を見て、シウバの顔を見る。彼もまた察したようで悲しげに表情を歪めていた。

「殺された……か?」

 可能性としては高いと思ったが、シャモエは自分たちに何があったのか、声を震わせながらも説明してくれた。

「――――なるほど、心労で倒れてそのまま、というわけだな」

 コクンと力なく頷くシャモエに、シウバも「何と酷い……」と悲痛な声を漏らした。

 確かに悲劇だ。母も死に、父も死に、まだ五歳程度で野に晒される。しかもそれをされたのは、同じ血を半分も引き継ぐ魔人なのだから。

 しかしこういう悲劇はこの世界ではありふれている。旅をし続けたリリィンはそれを痛いほど理解していた。

 この世で異端者の扱いは最低だし、末路も酷いものなのだ。

 だからこそ、リリィンは彼らの拠り所を造りたいと思った。

 それが亡き母が切望した願いだから――。

「…………シャモエ・アーニール」

「? ……何で……すか?」

「貴様の母がいる場所へ案内しろ」

「え……」

「ちゃんと葬ってやりたくはないのか? 誰もいない洞穴で放っておくことができるのか? どうせ愚かな魔人どものことだ、そのまま放置している可能性が非常に高いしな」 

「! いやです! お母さんを……お母さんをお父さんと同じ場所で眠らせてあげたい! せめて……せめて……それがシャモエのできること……だからぁ……っ」

「なら案内しろ。手を貸してやろう」

「…………ほんと、ですか? で、でもどうして……ハーフ……なのに」

 疑ってしまうのも無理はないだろう。出会ったばかりだし、自身が忌み嫌われる存在だというのも理解しているはずだ。それなのに……と思うのも当然である。

「シャモエ殿、我が主は虐げられる者の味方でございます。一度口にしたことは決して曲げたりはせぬお方です。信じてくださいませ」

 シウバの穏やかで丁寧な口調にホッとしたような表情をするシャモエ。

「っ! ……あ……ありが……とう……ございま……しゅぅ……っ」

「あーもう、泣くな。泣いて立ち止まるより、笑って前へ進め。その方が死んだ両親も喜ぶはずだ」

「…………はい、です」

「よし。シウバ、シャモエから洞穴がある環境を聞いて、それらしい場所を探ってこい」

「畏まりました、リリィンお嬢様」

 そうしてシャモエの記憶にある、洞穴の形やその周りの環境などを聞き出したシウバが、一人で一致する場所を探すためにその場をあとにした。

 


 やって来たのは一つの洞穴。

 シウバがシャモエから得た情報をもとに探り当てた場所で、シャモエ自身も母が安置されているはずの洞穴であることは間違いないという。

 しかし中に入ろうとすると――。

「ほほう、こんな辺境に住む魔人どもが、何かワタシたちに用か?」

 突如としてリリィンたちの周りを魔人たちが囲んだ。その表情はシャモエを見て強張っている。どうしてその子供がここにいるのだといったような様子だ。

「おい“忌み子”め! 何しに帰ってきた!」

 魔人の男の叫びに、「ひっ!?」とシャモエがシウバの後ろへ隠れる。

「おやおや、このような幼気な女子を怯えさせるとは、男の風上にもおけませんぞ?」

「黙れジジイ! そいつが何か知ってるのか? ハーフだぞ!」

「はぁ、それがどうかしたので?」

「何だと?」

「シウバの言う通りだ。ハーフだから何だというのだ? 感情があり話すこともできる。貴様らと何が違う?」

 リリィンの言葉に対し、明らかに魔人たちは憤慨気味に顔を真っ赤にする。

「ふざけるな! 他種族と交わりを持つような汚らわしい輩と同じに扱うな!」

「…………はぁ。貴様らに何を言ったところでムダ、か。こんなガキを追い出すくらいだしな。もういい、ワタシたちは洞穴の中に用があるだけだ。邪魔をするな」

「動くな!」

「…………何の真似だ?」

 リリィンたちの周りの地面から伸び出た土の針。それが今にもリリィンたちに突き刺さろうと先端が向いている。彼らが土魔法で大地を操作したのは明白だった。

「今すぐここから去れ。さもないと…………殺すぞ?」

「……仮にもワタシは同じ魔人だが?」

「《禁忌》を擁護するような輩を同族扱いしろと?」

「――――ククククク」

「な、何がおかしい!?」

「いやすまないな。あまりにもうんざり過ぎる典型的な発言に笑ってしまった」

「は、は? ……まあどうでもいい。どうせハーフをかばうような頭のおかしい奴らだしな! そいつの親と一緒だ!」

「! 違いますっ!」

 突如シウバの後ろからシャモエが声を張り上げた。

「あぁ? 何が違うってんだガキが!」

「うっ…………お母さんたちを……お母さんたちをバカにしないでください!」

 この状況の中で、ハッキリ間違っていると自分よりも強者に対して言い張れる。その強さにリリィンは感心した。

「それに……それにこの人たちもいい人です! あ、あやまってくださいですぅ!」

「うるせえっ! ハーフのくせに勝手にしゃべってんじゃねぇぞこらぁっ!」

「ふぇうっ!?」

 さすがにこれ以上は反論できないのか、完全に怯んでしまった。

「……シウバ。そのガキを守るだけでいい。手は出すな」

「畏まりました、リリィンお嬢様」

 彼はこれから自分が何をするか察してくれている。シャモエのことは彼に任せていれば大丈夫だ。その強さも存在もリリィンが認めている者だから。

「――さて貴様ら、最後通告だ。ワタシたちに構うな」

「ふ、ふざけるな! おいお前たち! 情けは無用だ! “忌み子”もろとも殺せ!」

 魔人たちが殺気をみなぎらせて行動を起こす。手初めに突きつけていた土の針を動かしてリリィンたちを串刺しにしようとする――が。

「な、何ィッ!?」

 リリィンたちが大きく空へと跳び上がった。シャモエはシウバが抱えている。

「ま、魔法で撃ち落とせぇ!」

 魔人たちから火球や風の刃などが放たれる。

「ククク、低レベルな魔法だ」

 リリィンは身体から膨大な魔力を放出しただけで、それらの攻撃をあっさりと弾いてしまう。

「う、嘘だろ!? 魔力だけで弾いた!?」

「ぼうっとしている暇があるのか?」

「っ!? いつの間に後ろにがはぁっ!?」

 リリィンは男の背中に蹴りを入れて弾き飛ばすと、すぐに移動し次々と魔人たちを一撃のもとに沈めていく。

「何だコイツ!? 信じられない強さだぞ!」

「うぐわぁぁぁぁぁっ!?」

「いてぇっ! いてぇよぉぉっ!?」

 殴り飛ばされたり骨を折られたりしてもだえ苦しむ魔人たち。

「シウバ、今のうちにそいつの母親を回収しろ!」

「はっ! しっかり掴まっていてくださいシャモエ殿」

「は、はい! ふぇぇぇぇぇっ!?」

 リリィンの言いつけ通り、シウバたちは洞穴へと向かった。

「く、くそがっ! てめえも魔人だろうがっ! 何であんなハーフをかばう!?」

 リリィンに折られた右腕を押さえながら怒気を込めた発言が魔人の男から発せられた。

 そんな彼の言葉を涼しい顔のまま受け、リリィンは黒い翼を生やしてフワリと空中へ上がり彼らを見下ろす。

「貴様らの常識は確かに今の世の常識なのだろう。特にハーフはどの種族からも忌み嫌われる」

「ったりめえだ! どっちつかずの中途半端な失敗作みてえなもんだろうが!」

 辛辣な言葉だと思うだろう。しかし今の男の見解こそが普通なのである。

 旅の中で飽きるほど聞いてきた言葉だった。

「だがそのような常識にとらわれない者もまた存在する」

「っ……それがてめえってことかよ! 常識を! ルールを守れよこらぁっ!?」

「……憤慨しているところ申し訳ないがな、貴様らの言葉は一生涯ワタシには届かん」

「な、何だとぉっ、それでも同じ魔人か! 魔人としての誇りはねえのかよぉ!」

 地上では「そうだそうだ」と男を擁護する言葉が飛び交う。

「魔人としての誇り? ククク、弱者をいたぶる貴様らがそれを語るか」

「ぐぬぬぅっ! もういいっ、そのまま死んでしまえぇっ!」

 男が折れていない左手でリリィンに向けて火球を放ってきた。当然空中にいるリリィンは避けようとする――が、ガシッと両足を何かに捕まれ移動できない。

「なっ!?」

 地面から伸びた土が手の形に変わっていて、リリィンの両足を決して離さないといった様子で掴んでいたのだ。どうやら他の魔人の仕業らしい。

「ハーッハッハッハ! そのまま死ねぇぇぇっ!」

「くっ!?」

 焦りの表情を見せながらも、身動きが取れないリリィンに火球が直撃した。

 さらに魔人たちは好機とばかりに次々と魔法を放ってくる。爆発音や炎、煙などが蔓延まんえんし空を覆う。

 ――どれくらいの時が経っただろうか。息も吐かせぬ魔法攻撃によって生まれた煙の中から、突如ボロボロになったリリィンが落下してきた。

「ハ、ハハ……ハハハハハハ! やった! やってやったぞバカめ! 魔人のくせに異端者を庇うからそうなるんだ! よしお前ら、次は洞穴に入った連中を――」

 しかし周りを見た男がギョッとして固まる。

 何故なら仲間たちが、いつの間にか誰一人いないのだから。

「え……は?」

 そこにいるのは男と動かないリリィンだけ。困惑するのも当然だ。先程まで確かにいた仲間が消えているのだから。

 するとビクビクと絶命したはずのリリィンの身体が動き始める。

「――うわっ、な、何だよ!?」

 まるでゾンビのように立ち上がり、ゆっくりと男へと近づく。

「く、来るなっ!」

 魔法を放っても放っても、立ち止まらず、死なず、ただただ男の方へ向かうリリィン。魔法によって腕や身体の一部が吹き飛ばされても、何故かすぐに復活してしまう。

「ヒィッ!? バ、バ、バケモノォッ!?」

 さらに男の後方に現れたのは、ゾンビ化した彼の仲間。

「お、おおおおお前ら!? 何でっ、い、一体どうなってんだよぉ!?」

 明らかに恐怖で怯える男に対し、仲間たちが彼の身体を拘束していく。

「ぐあぁっ、放せ! 放してくれぇぇっ!?」

 そんな彼にリリィンがゆっくり近づき、耳元で囁く。

「――殺す者は殺されることを覚悟しろ」

 冷徹な響きとともに首を絞められていく男。そしてそのまま瞼が下りていき――。

 ――パリィィィンッ!

 空間にヒビが入ってガラスを割ったような音とともに周囲の景色が変わる。

 そこには倒れた男たちの中に威風堂々と佇むリリィンの姿だけがあった。

「どうだ? 楽しい悪夢ユメは見られたか?」

 ピクリとも動かない男たちを冷ややかに見下ろしている。

 実はすでに空へ上がる前に彼らを《幻夢魔法ファンタジア・マジック》で幻術の世界に落とし込んでいた。

 そうと知らずに幻の中でいろいろ奮闘していたようだが、すべてはリリィンが作り出した演出に他ならない。

「殺しはしない。貴様らのような奴らは殺す価値もないからな」

 そこへ布をかぶせた物体を抱えたシウバとシャモエが洞穴から出てきた。

「……それがシャモエの母親か?」

 その質問にはシャモエがこっくりと頷いて答えた。目が腫れている。また亡骸を見て泣いてしまったのだろう。

「シャモエ、これからどうしたい?」

「……お母さんを、お父さんと同じ場所で眠らせてあげたいです」

 そういえばそんなことを少し前にも言っていたような気がする。

「分かった。なら今から獣人界へ向かうぞ。一応簡易式だが貴様の父にシウバが墓を作ったからな。シウバ、その亡骸は貴様の魔法で収納しておけ」

 そうして三人で獣人界へと向かうことになった。



 シャモエの父親であるタスクの墓は、獣人界の北西端にひっそりと佇んでいた。

 高山の一角。周りには木や草花など自然が溢れ、またそこから獣人界を一望できるのでタスクも喜ぶだろうとシウバが気を利かせて作ったのである。

「これが……お父さんの……お墓」

 今墓の前には、白い花束を手にした小さな少女――シャモエが立っている。その少し後ろにはリリィンとシウバも付き添っていた。

 また泣くのか、そう思われたが振り向いて顔を見せたシャモエの表情は辛そうではあったが泣き喚くようなことはしない。

 ただ頭を下げて……。

「お母さんを、埋めてあげたいです」

 シウバが影に沈み込ませていた母親の亡骸を取り出し、シャモエも彼とともに地面を掘った。

 そして、タスクに寄り添うように亡骸を埋めたのだ。

「……これでさびしくないですよね、お母さん……お父さん」

 用意してきた花を墓石の前に添えるシャモエ。

 リリィンはしゃがんでいるシャモエの小さな背中を見つめる。小刻みに震えていた。

 それでも現実をしっかりと受け止めているのか、自暴自棄になったりなどはしない。

(……強い奴だ。普通なら自害しそうなものなのにな)

 とても頼りなく弱い存在だと思っていた。

 しかし強い心を持つ子だということは分かる。そして優しい子だ。

 恐らく今までハーフとして彼女が受けてきた数々の嫌がらせがあるだろう。それでも彼女は誰かを憎むようなことはしていない。

 こうまで真っ直ぐ純朴な性格のまま普通は育たないだろう。自分ならば親以外のすべてを恨み復讐ふくしゅうさえ考えるはずだ。たった五歳でも。

 しかし彼女の瞳に悲しさや寂しさはあれど、決してけがれなどなかった。

(それはコイツが生まれ持つ心の強さあってのものなのだろうな)

 少しまぶしいな、そう感じたリリィンだった。

「――さて、シャモエよ」

「あ、はいです」

「これから貴様には幾つかの選択肢がある」

「…………」

「頭も悪くないようだな。ちゃんと分かっているようだ」

 五歳にしては優秀だ。おほん、と一つ咳払せきばらいをしてからリリィンは声を出す。

「このまま親の後を追うか?」

 フルフルと頭を左右に振るシャモエに、「何故だ?」と問う。

「……リリィンさんは言ってくれました。泣いて立ち止まるより、笑って前へ進め。その方が死んだ両親も喜ぶはずだ、って」

「ふむ。ならば生きていく、か。一人で野に出るか?」

「…………」

 無理なのは理解しているのだろう。まだ子供。加えてリリィンたちのように戦闘能力に秀でているわけでもない。自分一人で旅に出たところで一寸先は闇だ。

「シャモエは……シャモエは…………今もずっとたおれたまんまのような気がします」

 それは今の彼女には支えがない、と言っているのかもしれない。

「お母さんたちのためにも、強い子になりたいっ……です。でも……でも一人は…………一人はいやなんですぅぅぅ……っ」

「シャモエ殿……」

 シウバが悲痛な面持ちでリリィンの顔を見つめてきた。そんな顔をしなくても分かっている。

「……倒れているのなら、一人で起き上がれないのなら誰かに頼ればいい」

「……!」

「そうして起き上がり、再び歩けるようになるまで力をつければいい」

「リリィンさん……」

 リリィンは彼女に向けて右手を差し出す。これまで異端者と呼ばれる者に対してそうしてきたように。

「シャモエ・アーニール。生きたかったらついて来い」

「っ!?」

「ワタシに仕えろ。少しでも恩を感じているなら、生きて少しずつ返せ」

 リリィンに与えられる選択。この手を取るかどうかはシャモエ次第だ。

「ワタシはいずれ、貴様のような世間からはみ出された者たちが安心して過ごせる場所を造るつもりだ。その手伝いをしてみろ。ワタシと……いや、ワタシたちとともに」

「っ…………いいんでしゅか?」

 ただただ真っ直ぐシャモエの瞳を見返し手を差し伸べる。

 シャモエが自身で涙を拭い、シウバの顔を見ると、彼は優しげな笑みで頷く。そのままシャモエは視線をリリィンへと移す。

 そして――リリィンの手に、小さくて暖かい温もりが伝わってきた。



 ――魔界の僻地。周囲は尖った針のような細長い木で囲まれている。

 その中において奇妙な赤い湖が広がった場所があった。通称――【レッドレイク】。

 ドーナツ型の大きな湖の中央にポツンと存在する島の上に、違和感しか覚えないような豪華な屋敷が建てられている。

「ほ、ほえぇぇぇぇ~!? み、水が赤いです! そ、それにどうしてあんな場所にお屋敷が!?」

 湖畔に佇むリリィンたち。ここへ連れてきたシャモエが、初めて見る大きな屋敷に驚いている。

 シウバが用意したボートを使って湖を渡り屋敷へと向かう。

 この屋敷こそが、今のリリィンたちの拠点とも呼べる場所である。完全にリリィンの趣味ではあるが、ここなら景観も悪くないし静かに過ごせると思い移住してきたのだ。

「さてシャモエ、今日から貴様もここに住むのだが……って、何をキョロキョロしている?」

 見れば屋敷の前方に広がる敷地を見回しているので気になった。

「んん~……もったいないです!」

「は? 何がだ?」

「これだけの広さがあるのにもったいないです! ここならたくさんのお花畑や野菜も作れましゅよ! あ、かんじゃった……」

「ふむ、なるほど……」

 そう言われてみれば確かにここの土壌は悪くないし畑にしても問題はない。それにリリィンも何も手を加えていない敷地に物足りなさを感じていたのも事実。

「ノフォフォフォフォ! もしかしてシャモエ殿は農業にお詳しいのですかな?」

「あ、はいですシウバさま! その……お父さんとお母さんに教えてもらって……。お花やお野菜を育てるのが好きで……」

「それはそれは。お嬢様、ではさっそくシャモエ殿にお仕事をお与えになられてはいかがでしょうか?」

「……言ってみるがいい」

「ここ一面を菜園とする役目を」

「ふむ。……シャモエ」

「あ、はいでしゅ!」

「噛んだな」

「噛みましたな」

 二人のツッコみに「ふぇぅぅぅぅ~っ」と可愛らしく顔を赤らめるシャモエ。

(ほほう、これはいい。ここにはむさいジジイしかいなかったからな)

 可愛いシャモエがいれば、華やかにも癒しにもなる。さらに屋敷を彩るのにも、シャモエならば同じ女としてもリリィンの好みを理解しこなしてみせるかもしれない。

(とりあえずコイツが大人になって、やりたいことを見つけるまで面倒をみてやろう)

 それが成り行きとはいえ、事件に首を突っ込み、ここまで連れてきた自分の責任だ。

「おほん。改めて、シャモエよ」

「あ、はいです!」

「貴様にはそうだな……環境大臣として屋敷とその周辺を華やかにする役目を与えよう」

「な、何だかカッコいいですぅ! シャ、シャモエがんばりましゅ!」

「……環境大臣とは何ですかな、お嬢様?」

「そこをツッコむな。ノリだノリ」

「ほほう、ならわたくしはお嬢様大臣ということですな」

「…………一応聞くが何をする仕事だ?」

「ノフォフォフォフォ! それはもちろん! おはようからおやすみまでの間、ひたすらお嬢様の身の回りのお世話をする役目で、それは当然お風呂とおトイレぶっへんばぁっ!?」

「そのまま空にかえるがいい変態めぇっ!」

 リリィンに痛烈なアッパーをお見舞いされて鼻血を出しながらロケットのように飛んでいくシウバ。

「ふぇぇぇぇぇっ!? シウバさまぁぁぁぁぁっ!?」

 顔を血塗れにしながら大地に落ちてきたシウバにシャモエが駆け寄る。

「ノフォ……き、効きます……なぁ……がふっ」

「し、しっかりしてくださいぃ! 死んじゃダメですぅぅぅ!」

「放っておけシャモエ。その変態はそんなんじゃ死なん。それよりも屋敷を案内してやるからついてこい」

「あ、は、はいでしゅぅ! ――はぅっ!?」

 ……シャモエが倒れてしまった。

(……何もないところでこけたぞ?)

 もしかして泣くのか、と思いきや。

「ひっぐ……うぅ、にゃ、にゃかにゃいでしゅ……っ」

 偉いぞシャモエ。どうやら強い子のようだ。半泣きではあるけれど。

 しかし彼女のドジはそこで終わらなかった。

 ――屋敷の中。

「ふぇぇぇぇっ!? ツボが割れちゃいましたぁ!?」

「…………」

「ふぇうっ!? 本が雪崩みたいに落ちてきたでしゅぅぅ~!」

「…………」

「リリィンしゃまぁ~! 包丁で指切っちゃいましたぁ! いたいでしゅぅ~!」

 見事なまでのドジっぷりだった。

(おかしい、何故ワタシの傍には一癖も二癖もある輩が集まるのだろうか)

 退屈はしないが…………騒騒し過ぎる。しかし――。

「リ、リリィンしゃま! シャモエは! シャモエはがんばってお役に立ちますぅ!」

 人が頑張る姿というのは自分にもまたやる気を起こさせる。

 それに騒がしい日々になりそうだが、人を育てるというのもまた面白い。

「ふぇぇぇぇっ!?」

「ああもう、今度はどうしたぁ!」

「シ、シウバさまの鼻血がとまりましぇ~んっ!」

「あ、ああ……働く幼女……頑張る幼女……メイド幼女…………す、素晴らしき萌えぇ……ノフォフォ……」

 どうやら近々また二人暮らしに戻りそうだ。

 何故なら変態を粗大ゴミに出さないといけないようだから。

 他ならぬ新たな家族シャモエの貞操を守るためにも。

 それにしてもシウバではないが、確かに今のシャモエのメイド服は似合っていて可愛らしい。シウバが用意して着させたのだろう。そこはグッジョブである。

 ふと首元を見てみると、父親のプレゼントである鈴が備え付けられてあった。

「ノフォフォフォフォフォフォフォフォ~ッ!」

「な、何かシウバさまが壊れたように笑い出しましたぁ!?」

「ええいっ、うるさいわ貴様らぁぁぁっ!?」

 世界情勢に嫌気がさしていたリリィンだったが、守るべき仲間が増えたことで、また気持ちを新たにし、野望を追う決意ができたのだった。

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金色の文字使い ─勇者四人に巻き込まれたユニークチートー 外伝/十本スイ ファンタジア文庫 @fantasia

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