第八話 信濃攻略(後)

 上田原の合戦で生涯初の敗北を喫した晴信は、村上義清から受けた傷を回

復させるために数ヶ月を甲斐の某所にある温泉での療養に費やさねばならな

かった。正確な場所は限られた重臣しか知らない。鳶加藤ら戸隠の忍びによ

る暗殺を警戒してのことだ。府中の躑躅つつじヶ崎館には、「影武者」として孫六

を置いた。

 晴信は、武田政権の政治と軍事の要であった二人の重臣を失っている。

 なりを潜めていた信濃諸将も一転して、武田を信濃から駆逐するべく攻勢

に出ていた。

 ただいちどの敗北のために、いまや武田家は崩壊寸前となっていた。

 急いで態勢を立て直さねばならなかったが、晴信自身が深手を負って体力

を失っている以上、歯ぎしりしながら静養を続け怪我けがの回復を待つしかな

かった。

 むろん、ただ治療と体力の回復に専念していたわけではない。

 日夜、温泉内で極秘の軍議を開いた。

 柱石だった板垣、甘利が戦死し、横田備中はやり働きにしか興味を持たず

まつりごとには滅多めつたに口を挟まない。

 晴信自身の構想よりも数年も早く、今の武田家は姫武将が中心となってい

た。いや、信虎時代から仕えてきた多くの重臣が上田原で戦死した以上、そ

うならざるを得なかった。

 ゆえに、「晴信の隠し湯」は密談・謀議の場として最適だったのだ。

 板垣、甘利不在となった武田家の新体制を決定するその日、晴信とともに

湯に浸かって軍議に参加した者は――。

 妹で副将の次郎信繁。

 義妹の童女巫女・四郎。

 上田原の合戦で晴信を守るという功績を立てた、山本勘助の四人の愛弟子。

 馬場信房。

 飯富三郎兵衛。

 春日源五郎。

 工藤なにがし。

 そして、新規に召し抱えた信濃真田の庄の真田一族。

 真田家当主、「真田の母」こと真田幸隆。

 鳶加藤の晴信暗殺を防いだ双子の真田姉妹。

 その真田姉妹が連れてきた、見知らぬ新顔の童女。四郎と意気投合してお

湯を浴びせあっている。

 一同の護衛役として、猿飛佐助。少年のように見えるが、娘である。

「あちこちで反乱と信濃勢の攻撃が続いている中、よく集まってくれた。勘

助と太郎、そして飯富兵部も呼んだのだけれど、なぜか来なかった。飯富

兵部は『たたた太郎と混浴なんて冗談じゃねえ! へそ見られるじゃねー

か!』と逃げてしまい、太郎は太郎で『飯富兵部と混浴なんて恥ずかしくて

できるか!』と来てくれなかった。あの二人は幼なじみだし昔から一緒にお

風呂に入っていたのにどうしたのかな、次郎ちゃん? ケンカでもしてる

の?」

「はあ。姉上。当主になってから孫子そんしの兵法書ばかり読んで、源氏物語を読

まなくなったからそんな朴念仁ぼくねんじんみたいなことを言えるのよ」

「というと?」

「二人とももう、お年頃なの。お互いを異性として意識するようになってい

るの」

「異性? 男と女、ということ? あの二人はきょうだいみたいなもので

しょう?」

「えええ……姉上って欠点のない完璧な武将だと思っていたけれど、意外と

そのあたり幼いのね。身体のほうは成熟しているのに、不思議だわ」

「??? まあいい。しかしいちばんわけがわからないのは勘助だな。あの

男は女体にいささかの興味も抱かない変わった男なのに、温泉に来いと誘っ

たらなぜか鼻血を噴きだして倒れてしまった。軍師が不在の軍議など、ある

ものだろうか。板垣、甘利がいなくなった今、男武将の代表として活躍して

もらわねば困るのに。混浴ができないとは困った男だ」

「勘助が? 女体に? 興味がない? ほんとうなの、姉上」

「ああ。そもそもあの男はあたしが温泉に浸かっている時に乱入して軍師と

して雇えと押しかけてきた。その際、まるであたしの身体によこしまな興味

を抱いた様子がないのでこの者は立派な軍師だと信用したのだが……ほんと

うに、どうしたのだろう?」

「……山本勘助……そうだったの……男の分際で、姉上の美しい裸体をのぞ

見たなんて……いずれ殺すわ」

「次郎ちゃん?」

「なんでもないの。誰か、勘助を呼んできてくれる?」

 誘っても来ませんよ、と新参者真田幸隆が笑った。

「四郎さまと混浴など畏れ多くてできませぬ! とわめいていましたから。

あの者は四郎さまを生き神さまかなにかのようにあがめているらしく、自分の

よこしまなまなざしで四郎さまの裸を見たら四郎さまが汚れると」

「……姉上は汚してもいいというの……山本勘助。いつか殺すわ」

「じ、次郎ちゃん? 顔が怖いよ?」

「冗談よ姉上。たとえ勘助相手でもはしたないから、裸を見せないように」

「そう? 次郎ちゃん、乙女の裸体ってそんなに隠すべきものなの? 美し

いのだから堂々と誇っていればいいんじゃないの? こそこそ隠すなんて、

かえっていやらしくない?」

「隠すべきものなのっ! 姉上には乙女として大切な羞恥心が欠落している

のかもしれないわね。でも、この大事な軍議に勘助不在は困ったわね」

「心配ご無用。勘助どのの腹案はすでに伺っていますわ。ふふ」

 真田幸隆がまた笑った。

 春日源五郎と工藤なにがしが「軍師どののほうに興味がなくても」「こっ

ちが男なんかに裸を見られたくないですよね。あ、私はどうせ見てもらえま

せんが。ええ、どうせ気づかれませんが」と顔をしかめている。

 童女組を除けばいちばん小柄な飯富三郎兵衛が、「姫さまの胸はいったい

どうなっているのかしら。寝込んでいるうちにまた成長したような……幸隆

どのだって子持ちなのに胸が垂れていないし、おかしすぎるわ。それにひき

かえわたくしの平らな胸はなにごと」と屈辱に震えながら、幸隆をにらんだ。

「真田幸隆どの。それはあなたの腹案じゃなくて? 上田原での日和見のせ

いで、わたくしたちはまだあなたに全幅の信頼は置けないわ。そもそも六文

銭の旗印ってなに? 真田家は商人なのかしら?」

「わたくし、居城を失って以来一族を抱えて各地を流浪し、ずいぶんと貧乏

しましたの。それですっかり小銭稼ぎが趣味に。むろん真田は一応は武家で

すわ。三途さんずの川の渡り賃が六文銭なのだそうで。意外とお安いこ

と」

「……その双子と、そして童女は? まだ正式に紹介されていない」

 馬場信房が切りだし、真田幸隆が「そうでしたわね」とまず双子を紹介し

た。

「この双子はわが娘。真田信綱のぶつなと、真田昌輝まさてるですわ」

「……(ぺこり)」

「どうも」

「無口で感情をあまり見せない二人ですけれど、武人としてはなかなかの器

量の持ち主」

「身体が細いし、ずいぶんと肌が白いけれど」

 晴信が双子の体の状態を心配したが、幸隆は「戸隠の山を探索してご神体

の力を浴びて以来、肌が日に焼けない体質になったようです」とそっけない。

「ご神体の力を? 浴びた?」

「戸隠の山?」

「佐助に聞いたところでは、そんなことをしたら十中八九死ぬのでは」

「ふふ。死なないほうに賭けて勝ちましたのね。この姉妹は、真田家の没落

を黙って見ておられず、一か八かで佐助のような異形の能力を手に入れよう

と欲したのですわ。力を使うと鼻血が止まらなくなるみたいですけれど、病

気ではありませんので」

「力? 佐助と協力して鳶加藤を止めた活躍は見ましたけれど、結局どうい

う力なんですか?」

「……どうやって鳶加藤の鳶ノ術を見切ったのか、知りたい……」

 武力を欲して戸隠へ入った二人でしたが、実際に身につけたものは以心伝

心の術とでも言うのでしょうか、と幸隆が苦笑した。

 双子が同時に「こくり」とうなずいた。

「姉者の発した言葉が、離れた場所にいても聞こえるようになった」

「妹が口にした声が、遠くから聞こえるようになった」

「鳶ノ術の仕組みは、実は、宙を舞う猿飛の術と同じ」

「鳶加藤は、瞬間的にある地点から別の地点へ移動しているように見せてい

るが」

「実は、人の目の死角へ入っているだけ」

「ただし、鳶加藤は己の身体が大地に引かれる力を一時的に無効にして、鳶

のように軽々と宙を舞う」

「空を飛ぶ人間などいないと誰もが思い込んでいるので、上空が死角にな

る」

「われらは以心伝心の術を用いて、一人が村上軍の兵に化けて鳶加藤に付き

従い、鳶加藤が鳶ノ術を用いて飛んだ瞬間に声をあげた」

「御屋形さまの本陣に潜んでいたもう一人がその声を聞いて、上空へ佐助を

放った」

「佐助の猿飛の術で鳶加藤を迎撃させた」

 もちろん拙者せつしや一人では到底間に合わないでござる、拙者が鳶加藤の気配に

気づいた時にはもう手遅れでござるよ。お二人が目と耳になってくれたので

鳶加藤を食い止められたのでござる、と佐助。

「あの者は鳶ノ術を隠形おんぎように用い、暗殺のための術に特化させていますからな。

拙者は派手に宙を舞って長距離を素早く疾走したり人をおちょくるために力

を用いている分、隠形に力を用いるあの者とは相性が悪いでござる」

「空を飛ぶだなんて……そのような無茶をして人の身体がつのかしら? 

だいじょうぶなの、佐助?」

「ウキ。たしかに大きな負担がかかるので、あまり長くは用いられぬでござ

るな。戸隠で生き延びて運良く猿飛の術、もしくは鳶ノ術を手に入れても、

力を制御できずに死ぬ者が多いでござる。力を長く使いすぎて限界が来ると

身体が膨張して爆発するでござるよ。その頃合いが難しいでござる」

「ば、爆発?」

「ですから、忍びの体術と組み合わせて、力の使用を最小限ですませるため

に修行せねばならぬでござる。双子にしても同じことで、戸隠で特別な力を

得てから、その力を術として完成させるために行う忍術修行のほうが実はた

いへんでござる」

「そうなの……体術のみを用いる通常の忍びよりもずっと厳しいのね。くれ

ぐれも注意してね」

 そもそも鳶ノ術や猿飛の術を好き放題に用いられるのならば、戸隠の忍び

がとっくに天下を獲っているでござるよ、と佐助が頭をかいた。

「二代目に引き継げる力でもありませんからな。一代限りでござる。しかも

外れくじをひいたら死ぬというのに、こんな厄介なものを手に入れようとし

た真田姉妹はご母堂に似て変人でござる」

 戸隠から来た佐助たちを見ていたら面白そうだったから、と双子が同時に

同じ言葉を口にした。

「この工藤祐長も挑戦してみたいです! どこにいても人に見つかってしま

う力が欲しいです! 誰にも気づいてもらえない存在なんて、生きながらに

死んでるのも同然なんですよっ?」

「……たぶん原は、身体が透明になる力を手に入れると思う……」

「そこの背が高くて胸もでかくて無言でいてもやたら目立つ姫武将! 私の

名は工藤ですっ! 覚えてくださーい!」

「……渡邊わたなべ?」

「工藤ですううう!」

「今は鳶加藤が結界を張っておりますから、戸隠山には入れませんな。にん

にん。あやつは、戸隠を姫さまが国盗りの野望のために好き放題にすると

思って敵に回ったでござるよ。魔性のものと嫌って打ち壊すか、あるいは武

田軍による戸隠忍びの育成の場に変えてしまうか。諏訪どののかたき討ちという

のは表向きでござる」

 あたしは戸隠をどうするかは決めていないけれど、いずれにせよ鳶加藤は

板垣と甘利の敵。村上義清を倒すためには、あの男にも勝たねばならないわ

ね、と晴信は途方もない話に目眩めまいを覚えながらため息をついた。

「それで、四郎と遊んでいるもう一人の童女は誰?」

「次郎さま。この子は源五郎と申しまして、やはりわたくしの娘。双子の姉

たちとは少し年が離れております。まだ元服していませんの」

「あい。源五郎じゃ! どうしても晴信さまにお仕えしたくて押しかけてき

た!」

「なぜか御屋形さまに憧れているらしくて。上州から武田家へ移れとうるさ

かったのですわ」

「うむ、母上! 実の父親を追放して妹婿を抹殺。すごい。誰もできない真

まねを次々と。そこにしびれる憧れる。晴信さま最高! まさに天下人の器! 源五郎は燃えますぞ!」

「ちょ、ちょっと変わった子ね……」

「この源五郎、必ずや晴信さまのお役に立ちまする! 小姓にしてくださ

い! 毎晩、床をともにいたしますぞ!」

 春日源五郎が「きゃあああ、かわいい! でも、あたしと同じ名前です! 

ややこしいですね、どうしましょう!」と首をかしげた。

「そうね。この際だからあなたは春日弾正、と名乗りなさい。あなたももう

立派な武田の侍だもの」

「姫さま!? 弾正だなんて、そんな立派な名前を? あああ、ありがとうご

ざいます! でも姫さまの添い寝役はこの春日が続けますからねっ! 新参

者には渡しませんっ! っていうか姫さまは浮気者すぎます! 夕べだって

寝室に女の子を三人もはべらせて。馬場と三郎兵衛まで連れ込んで」

「……げ、源五郎ちゃん。じゃなかった、春日弾正。妙な言い方はやめて。

あたしはただ、独り寝は危険だから必ず誰かに添い寝してもらっているだけ

で」

「いいえ、許しません!」

 姉上は男女のことにも鈍感だけれど、お年頃の女の子特有の美しい女性に

憧れる気持ちにも鈍いみたい、と次郎がまたため息をついた。

「……あとでび状を書くから、その話はまたこんど。さ、さて。太郎と孫

六もそれぞれ元服させて、武田義信よしのぶと武田信廉のぶかどと名乗らせようかしら」

「姫さま! この春日は誤魔化ごまかされませんっ!」

「いいから誤魔化されておいて。軍議が進まないから。真田一族の紹介も終

わったし、ここからが軍議の本来の議題よ――」

 板垣信方の跡を継ぎ、名実ともに武田家の副将となった次郎が、武田と信

濃の現状を短い言葉で一同に伝えた。

 村上義清は、武田軍を押し返した勢いで佐久を攻略中。晴信自身が出兵で

きない以上なすすべがなく、佐久の諸城は続々と村上の手に落ちている。

 なりを潜めていた小笠原家当主で信濃守護の小笠原長時は、武田の敗北を

知ると同時に抜け目なく立ち上がり、諸将や国人衆を「反武田」の名のもと

に集めて諏訪攻略を開始。一時は諏訪衆の半分が寝返り「諏訪失陥」の危機

が迫ったが、そうはならなかった。

「甘利虎泰どのに代わって武田の軍事を一手に引き受けることとなった山本

勘助が、うまく策を巡らせて小笠原軍の進撃を阻んでくれたの。それも、一

兵も動かせないという手詰まりの状況で」

 勘助は、諏訪神社の奇祭「御柱おんばしら祭」を巧みに利用した。御柱祭は現代の諏

訪でも行われている祭りで、巨大な神木を森から切りだして逆落としに落と

し、そのまま諏訪神社まで牽引けんいんして高々と建てるという文字通りの奇祭であ

る。神木を逆落としにする「木落し」の際には、死人が大勢出る。なにしろ、

坂を落としていく神木の上に乗る命知らずの男たちが大勢いるのだ。

 日ノ本古来の神の末裔である諏訪家の歴史は途方もなく古い。やまと御所

の頂点に立つ姫巫女ひみこ系の歴史よりも古いらしいのである。晴信の時代にはすでに、この御柱祭の由来も目的もまるでわからなくなっていた。

 しかし、諏訪の人々にとってこの御柱祭がとてつもなく神聖な祭りである

ことは言うまでもない。

 勘助は、この諏訪の御柱祭と、小笠原軍及び諏訪の反乱軍の侵攻とを、か

み合わせた。

 諏訪に進撃してきた小笠原軍は、この神聖な「木落し」の行事を妨害する

形となった。戦渦に巻き込まれることを恐れた神社側は祭りの中断を申し立

てたのだが、勘助は断固として強行させたのだ。しかしながら押し寄せる小

笠原軍を前にした住民たちは祭りどころではなくなっていた。武田の軍兵が

守る中、御柱祭は「無人の祭り」となった。前代未聞のことだった。一方で、

諏訪四郎を義妹として迎えて保護し、大いなる苦境にありながら御柱祭を開

催させて諏訪の伝統を守り通した武田家に対する諏訪の民たちの評判はさら

に上がった。

 諏訪の民たちは小笠原軍の無礼に怒り、蜂起した。

 一方、「晴信はいない! 深手を負って甲斐に隠れている! 府中にいる

晴信は影武者だ! あるいはもう死んでいる!」と晴信失踪の情報をつかみ、

勝利を確信していた小笠原軍は、諏訪に侵入すると同時に、諏訪の民たちが

起こしたゲリラ戦によって撃退されたのだった。

 むろん、勘助が「諏訪を奪い取るのは今だ!」と調子に乗る小笠原長時を

油断させ諏訪に深入りさせるために、誇大な情報をいたのだった。

 村上義清であれば、このような己に都合の良すぎる情報などは信じなかっ

ただろう。

 ゲリラ軍を率いて勝利した勘助は「おお、おお! またしても諏訪神社の

ご威光で! 四郎さまのおかげで武田は救われた! 四郎さまこそ幸せの守

り神じゃ! 板垣さま! 甘利さま! ご覧あれ! 武田家と諏訪は四郎さ

まのお力でこれからよみがえりますぞ!」と感涙にむせんだという。

 小笠原長時は晴信と同年代の若い少年当主で、戦も好きだが女漁りが最大

の趣味であり生きがいだった。村上義清と晴信が激闘を繰り広げていた時に

は、林城にこもって息を殺し、なにもしていない。ひたすら晴信の敗北を

祈っていた。もしも小笠原長時が上田原に村上方として参戦していれば、晴

信は生きて甲府へは戻れなかっただろう。小笠原長時は天の時を逸したのだ。

 その小笠原長時が、晴信が村上義清に敗れたと知って漁夫の利を得ようと

急ぎ立ち上がった。小笠原軍はだから、慌てて各地から召集した急ごしらえ

の軍団だった。小笠原長時は武人としては一流だが軍略家としては晴信や義

清より一段劣っていたと言わざるを得ない。

「ところが、その小笠原長時が軍を立て直して、またしても諏訪をうかがってい

るの。村上義清が佐久の諸城を次々と攻略しているのを見て、信濃の反武田

勢は戦意を取り戻し、武田を信濃から駆逐するのはやはり今しかない、とも

う一度結束したようね。小笠原長時の指揮能力に疑問はあれど、村上が佐久

で武田を押し続けている今ならば勝てる、と」

 軍略で村上義清より一段劣るとはいえ、小笠原長時に致命的な欠陥がある

わけではない。武勇も知略もある。村上義清と比べれば甘い、というだけだ。

美しければ家臣の妻であろうが手をつけようとするという女好きの性癖も、

姫武将や家臣の奥方たちには迷惑だが、武家の大多数を占める男武将たちに

とってはそれほど問題にならない。

「小笠原長時はこのたびの諏訪侵略戦で、恩賞を釣り上げたようよ。武田晴

信は佐久で捕らえた将兵たちを奴隷として金山へ送った。自分は、この戦で

捕らえた武田方の若き姫武将たちを恩賞に与えると――そして、武田晴信は

自らの側女そばめにすると」

 姉上を側女にとは万死に値する発言。殺しましょうと次郎が声を震わせ、

馬場・飯富・春日・工藤がいっせいに「許せない!」と立ち上がった。

「佐久の捕虜で金山の欠員を埋め合わせようとしたあたしも乱暴だった。人

のことは言えないが、姫武将を恩賞にするとはどういう発想なのだろう。い

まいち理解できないな」

 真田幸隆が「完全無欠の武田晴信さまにもこんな思考の盲点が」と苦笑い

を浮かべた。

「あらあらまあまあ。板垣さまも勘助どのも、御屋形さまには色恋の道を教

えなかったようですわね。男というものは、若い乙女を見ると獣になるので

すよ。信虎さまの時代には、武田軍にもそういうところが大いにあったはず。

乱取りと申しましてね。小笠原長時の色好みの絶倫ぶりはさすがに特別です

けれど」

「乱取りか。あたしは父上のもとではほとんど従軍させてもらえなかったの

で、よく知らないのだ。捕虜には金鉱を掘らせる以外に、なにか使い道があ

るのか?」

「ええと、それはですねえ。源氏物語を読まれればけっこう書いているので

すけれど」

「源氏物語はずいぶん読んだが、殿方が姫を押し倒した次の瞬間には朝が来

すずめが鳴いているので、その間どうなっているのかよくわからない。あの間

にはなにが行われているのだ、幸隆」

「うーん。言葉では……それではわが双子を使って実演いたしましょう。姉

を源氏役、妹を姫役といたします」

「「はい、母上」」

 そんなことは知らなくてもいいのです姫さま! と春日源五郎改め春日弾

正が声をあげ、次郎がそうよ姉上の耳をけがさないでちょうだい! と幸隆の

口を手でふさいだ。

「なぜ止めるのです次郎どの? 御屋形さまは武田家のご当主。早く殿方と

経験させておかないと、後々面倒になると思いますけれどね」

「黙りなさい幸隆! それより姉上。小笠原軍を撃退する戦略だけれど――

ただ撃退するだけでは駄目だわ。村上義清の進撃を止めるためにも、徹底的

に勝たなければ。小笠原長時を討ち取るか、あるいは再起不能に追い込むく

らいの勝利を収めなければ、信濃での佐久・諏訪における両面作戦はいつ果

てるともない泥沼になってしまう」

「問題ない。すでに勘助とあたしとで戦略を練っている。馬場たちに命じて

準備も進んでいる。今ここで行うべきことは、最終確認だけだ。われらは先

の村上戦では、力押しで勝てると相手を甘く見て油断した。敵が小笠原であ

れ、油断すればまた同じことになる可能性がある。この作戦は、新生武田軍

がいかに生まれ変わり、いかに強くなったかを信濃全土に知らしめるための

周到なものだ」

 これは、あの村上義清に勝つための戦だ。こんどこそ、河越夜戦に匹敵す

る戦果をあげる――晴信は、実戦を経験し敗北を経験した自分と勘助とがよ

り強くなった、村上義清によって古き殻を破られた武田軍は一気に成長した

と確信していた。小笠原そして村上を倒すまでは、涙は流さない。板垣たち

を失った悲しみに暮れるのは、信濃を平定したその時でなければならなかっ

た。

「真田幸隆。武田晴信の傷の具合は思わしくなく、いまだに馬に乗って駆け

ることもできない。武田軍の戦意はあがらない、と噂を撒け」



「今こそ村上義清のおこぼれをいただくのだ! 諏訪も甲斐も晴信ちゃんも

俺さまのもの!」

 五千の大軍を率いて塩尻峠しおじりとうげの高台に陣を敷いた信濃守護・小笠原長時は、

得意の絶頂にいた。

 黙っていれば名門の御曹司おんぞうしに見えなくもない美男子だが、粗野で下品な性

格がその表情に表れていた。

 古式ゆかしい「小笠原流礼法」を受け継ぐ名門中の名門でありながら、長

時は信濃一の絶倫男とも、日ノ本一の女好きとも言われていた。いや、自分

自身でそう豪語していた。国盗りよりも俺は天下中から美女をかき集めたい、

それが小笠原長時の野望。

 あちこちから信濃守護の名でかき集めた国人連中から「人質はらんから

お前らのところのいちばんの美人を差し出せ」などと命じて、この塩尻峠の

本陣に信濃美人たちを集めて日夜の宴会にふけっている。

 有力国人の仁科にしななにがしなどは、自分の奥方を長時に奪い取られる始末で、寄

せ集めの小笠原軍の陣中は「聞きしに勝る性豪だな」「こんなのが総大将で

だいじょうぶなのか」「仁科どのは怒りに青筋を立てておられるが」「ほんと

うに武田の姫武将を恩賞としてくれるのか」「恩賞を受け取ったと同時に殺

されそうだ」とすでに仲間割れ寸前となって殺気立っていた。

 寄せ集め軍の悲しさで、統制が取れていない。

 だが小笠原長時はそんな細かいことを気にするような性格ではなかった。

 その日の夜も本陣内に信濃からりすぐった美女軍団を侍らせながら、月

見に興じていた。

 小笠原家家老のじいが「油断がすぎますぞ」と顔色を変えて諫言かんげんに訪れたが、

「黙れ。うるさい。俺さまは今、女たちと風流な一夜を過ごしているのだ」

と一喝して取り合おうとしない。

「殿。この軍は統制が取れておらず、いつ分裂するともわかりません」

「なぜだ。不思議だな」

「殿が陣中で女漁りをしておるからです! 奥方を殿に奪われた仁科どのは

激怒しておられます。そもそも殿には五千の混成軍を指揮する能力がござい

ません。ここは、佐久で暴れている村上義清と連合して武田と決戦するべき

ですぞ!」

「村上義清が総大将になるのか? 冗談はよせ。信濃の守護はこの俺さま

だ」

「むろん殿が総大将です。村上義清には、諸将をにらませておけばよろしいの

です! それで裏切り・内通・日和見は防げます!」

「知るか。俺さまは村上義清が嫌いだ。あいつは無骨な武人だなどと言い

張っているが、ガキを十人も作っているんだぞ。一匹おおかみの顔をしていなが

ら、俺なんぞよりもよほどの性豪だ。無節操な下半身の持ち主のくせに、信

濃中の若い女どもに『渋い、強い、頼りがいがある』などとちやほやされて

人気なのも腹が立つ」

「と、殿……! 殿は信濃守護なのですから、もっと大きな器の持ち主とな

りなされ!」

「村上と連合して勝ったら、俺さまの戦利品を村上が根こそぎ持って行って

しまうではないか。俺さまは入念に調べあげているのだ。見ろ爺。俺さまが

中信濃の忍びを総動員して作り上げた『甲斐国美人図鑑』だ」

「うおおお! 日夜、書物を手にしているものだからてっきり信濃の地図を

研究しているのかと思いきやそんなものを? 美人図鑑など作っている場合

ではありませーぬ! しかも甲斐の美人とは、捕らぬたぬきの皮算用!」

「俺さまは戦場で暴れて敵を斬るのは好きだが、領地を盗ったり城を経営し

たりするのは面倒で嫌いなのだ。戦利品についてあれこれ考えなければ、や

る気が出ないのだ。いいか爺。見ろ。甲斐いちばんの美人は、なんといって

も武田晴信だ。父親を平然と追放したりする殺伐とした危険な性格に難があ

るが、そういう女に限っていちど男になびけばかわいくなるものさ。うひ。

うひひひ。しかもこの早熟な肉体。細い身体のくせに、乳がでかい!」

「どうして武田晴信の裸体なんぞを描かせておるのですか、嘆かわしい。小

笠原流礼法が泣きますぞ」

「忍びが確認してきたから間違いない! 晴信ちゃんは温泉好きだから、

けっこう隙があるのだ」

「あんた。そんな隙をつかんでいるのなら、暗殺させなさいよ」

「そんなもったいないことができるか! 村上義清だって、おっさんの板垣

信方や甘利虎泰は容赦なく討ち取っておきながら、いざ本陣に突撃して晴信

ちゃんを殺そうとした時には柄になく討ち損じているではないか。あれはな、

晴信ちゃんが美人だからもったいなくなって躊躇ちゆうちよしたのだ。すなわち、村上

義清は晴信ちゃんを側室にするつもりだ。あんな初老の親父に渡してなるか、

若くて美しくて血筋のいい俺さまが先んじる!」

「ええい。常に自分基準で考えるのはやめなされ。村上どのは殿とは思考形

態がまるで違う御仁ですぞ!」

「ふん。くだらんことを言うな。男の考えていることなどみな同じだ。俺さ

まは正直者で、村上の野郎は嘘つきの格好つけだ。小笠原流礼法などという

ものが持てはやされるのも、人間の性が悪で下品で好色だからだ。そのくせ、

自分を聖人君子だと思い込みたがり格好だけはつけたがるから後付けの格好

つけ方法、すなわち礼法を必要とするのだ。俺さまは幼い頃から礼法などを

叩き込まれてきたから、いかに礼法などを求める人間どもが嘘つきで不正直

かを思い知らされて辟易へきえきしているのだ。生まれながらに礼節を身につけてい

る人間ならば、礼法など学ぶ必要などないではないか」

 親御さまの教育が悪かったのかのう……と爺は嘆いた。

「まあそう嘆くな。晴信ちゃんの温泉は美女ぞろいなのだぞ爺。長身で見事な

肉体美を誇る馬場信房。晴信ちゃんお気に入りの愛らしい姫小姓・春日弾正。

やんちゃな飯富姉妹も最高だ。特にちっちゃな妹のほうは、見た目には童女

にしか見えないのだとか。そういうのも珍味としては乙なもの。あと、工藤

なんとか、な。こいつは美形の割には存在感がなくてぱっとしないらしいが、

そういう地味めの娘に限って意外と床では乱れたりしていいものだぞ。さら

には晴信ちゃんの妹たち。次郎信繁に孫六。全員、あの武田信虎の娘とは思

えぬ美形揃いだ。うふ。うふふふ。俺さまの見たところではみんな生娘だな。

当主の晴信ちゃんが男に興味がないうぶな娘のまま当主となったせいで、姫

武将たちも晴信ちゃんに遠慮して男と交際しないらしい。まるで天が俺さま

に甲斐美少女軍団を授けてくれたかのようだ」

「そんな知識はよろしいから、信濃の地形を頭に叩き込んでくだされ! 武

田晴信には、山本勘助という奇道を用いる軍師がおるのですぞ。今夜この塩

尻峠に武田軍が奇襲をかけてきたらなんとなさる!」

 俺さまは信濃守護だぞ、信濃全土の地形などすでに頭に入っているわ愚か

者め、と小笠原長時が不快そうにえた。

「山本勘助がどう知恵を使おうが、この天険に守られた塩尻峠は奇襲できん

のだ。甲斐府中を出発した武田軍は、のろのろと行軍してやっと上原城に

入ったばかりだという。晴信の怪我けがの回復具合がよくないらしいな。俺の未

来の愛妾あいしようの身体に傷をつけおって、村上義清めいずれ殺す!」

「たしかに、武田軍の行軍速度は妙に遅いですが。甲斐府中から諏訪まで、

急げば一日で移動できます。それを今回は一週間以上かけている。ですが、

それこそわなかもしれませんぞ」

「塩尻峠の背後を取るためには、武田軍は険しい山道を大きく迂回うかいしなけれ

ばならない。それでも挟撃をするとなれば南に離れた勝弦峠かつつるとうげの側から回り込

むしかないだろうが、無理無理。上原城から勝弦峠を越えて遠回りで塩尻峠

辿たどり着くのにどれだけ時間がかかる?」

「むう。意外や意外、殿の頭の中に戦略戦術が占める部分があろうとは」

「ふん。俺さまは戦利品の美女を手に入れるためならば知恵も使うのだ。挟

撃策を捨てて正面から押し寄せてきたとしても、山における合戦では、山頂

の高所に陣取ったほうが有利だ。俺さまがいったん諏訪湖を離れて塩尻峠に

登ったのは、武田軍との平地での決戦を避けて山頂から逆落としをかけるた

めだ。武田軍は、険阻な山脈に阻まれるから挟撃もできない。三国志の馬謖ばしよく

とかいう阿呆あほうと違って、水の手も確保しているしな。山本勘助などというい

まだに嫁も取れない醜男ぶおとこに俺さまが負けるはずがあるか。うふふ」

「なるほど、陣取りは見事でございますな。さすがは信濃守護、地の利は生

かしておりますな、地の利は。殿の女漁りのせいで連合軍の統制が取れてい

ないことを除けば」

「まあ山本勘助は、あの顔では甲斐の綺麗きれいどころの姫武将を食ったりはでき

んだろうから、捕らえた暁には罪一等を減じて斬首のところを切腹にしてお

いてやろう」

「あれほどの逸材を、なんともったいない! 切腹させずに軍使として使い

こなしなされ!」

「醜男など俺の陣営には要らん。姫武将さえ増えればいい。信濃には姫武将

が少なくてつまらんので俺さまは本気を出さなかったが、甲斐を奪うとなれ

ば話は別だ! 温泉! 美人! 姫武将の天国! 俺さまの目には、甲斐が

あたかも桃源郷のように思える!」

「……殿。一度目の諏訪侵略の際、諏訪神社の御柱祭を遊び半分に邪魔して

民たちにそむかれ、むざむざ撤退せねばならなくなったことをお忘れなきよ

う」

「そうだな。なんであんな木の棒を山から落として地面に建てるというわけ

のわからん祭りを邪魔された連中があれだけ切れているのか、聡明すぎる俺

さまにはさっぱりわからなかったが、諏訪神社の巫女を務める幼い四郎ちゃ

んがまことに愛らしいのだとか。いずれ乙女になれば四郎ちゃんも俺さまの

愛妾に」

「……もうなにも申しますまい。油断だけはなさらぬよう」

 ところが、諏訪湖畔での平地決戦を避けて山上の塩尻峠に陣を敷いた小笠

原長時は、やはり晴信と勘助の罠にかかっていたのだった。

 進軍速度を重視する晴信が今回に限ってわざとゆるゆると行軍した理由の

ひとつは、小笠原長時に余計なことを考える時間を与えるためだった。

 小笠原軍の士気が高まっているところで問答無用の決戦を即座にはじめれ

ば、上田原の合戦の時のようなことがあるかもしれない。小笠原長時も、滅

多に本気を見せないだけで、その武は村上義清に匹敵するかもしれない男だ

と言われている。

 だから、晴信と勘助は、むしろ塩尻峠に布陣してもらいたかった。

 えて山上に追い込んで、小笠原長時が「できない」と思い込んでいるで

あろう山中での挟撃をかけたかった。

 できないと思い込むのも当然で、上田原の合戦では実際に、晴信と勘助は

挟撃策を断念している。なにも考えずに山上の城を捨てて平地へと突出して

きた村上義清の陣取りが、挟撃を許さない形となったためである。

 今回の戦ではその逆を行く――それが勘助の戦略だった。

 諏訪湖沿いの平地を奪っていた小笠原軍を山上へ追いやることで、挟撃を

可能としたかった。

 山上に陣取れば、諏訪の平野を一望に見渡すことはできるが、別働隊に山

中を行軍させれば唐突な奇襲攻撃が可能となる。

 夜が白々と明けはじめ、小笠原長時が「今頃、諏訪湖をめざしてゆっくり

と進軍しているところだろうかな武田軍は。だがもう遅い、塩尻峠の布陣は

万全だ」と美女たちの肩を抱きながら笑っているところに、前線からの兵が

飛び込んできたのだった。

「武田軍、昨夜の闇に乗じて上原城を出てすでに諏訪に到着しておりまし

た! 電撃的な速度で、この塩尻峠に押し寄せて来ました!」

 なんだと? 朝駆けか? と小笠原長時は思わず立ち上がっていた。武田

軍が朝駆けを仕掛けてきたとなれば面倒だが甲冑かつちゆうを身にまとわねばならない。

 上原城から一気に駆けてきたのか。速い! これまでの遅々とした進軍速

度はなんだったのだ。まさか死んだふりだったのか? とふと不安がよぎっ

たが、長時はその不安を一掃した。常に長時は強気である。迷わない。合戦

でも女相手でも、なにごとにも先手、先手を打つ癖がある。いい面が出るこ

ともあれば、悪い面が出ることもある。先手を打ち損ねて反撃を食らった時

の粘りが薄い。この強気な男の特質上、戦いの二手、三手先までは考えない

からだった。長時はその時その時に本能にまかせて動く。

「武田軍の兵数は?」

「二千か、せいぜい多くて三千です」

「五千は動員できなかったか。上田原では八千もの大兵力をかき集めたとい

うが、やはり落ち目だな。しかも、そんな少数でふもとから山上へと攻め寄せる

つもりか。馬鹿が。狭い峠道を大人数で押し通ることはできんのだぞ。こん

なことは兵法の第一歩ではないか。逆落としをかけて、蹴散らしてやれ」

「はっ! 峠道へと押し寄せる武田軍は五つの部隊に分かれております! 

それぞれ、馬場・春日・飯富姉妹・工藤なにがしが率いております!」

「なんだとおお? 姫武将が続々と前線に出ているのかっ! そうかそうか

板垣も甘利も死んだからか? 村上義清、いい仕事をしてくれたな! だっ

たら俺も愛刀・千代鶴ちよづるを抜いて前線に出てやろう。姫武将がいたら殺さずに捕獲せねばならんからな。足軽ふぜいには無理な話だが、この俺さまほどの

強者ならば手加減しながら姫武将を捕獲することもできるのだ。うふふふ」

「え。いつもは戦を面倒がる殿が、自ら最前線に? なにか悪い予感がする

のですが……殿は本陣に座ってくださっていても楽勝です、むしろなにか

あった時のためにこのまま本陣にとどまっていただいたほうが」

「黙れー! 未熟で弱いお前らに任せていては、美しい姫武将たちが死んだ

り傷ついたりするではないか! いいか、姫武将と戦うのならば、村上義清

より俺さまのほうが上手だ! 武田の姫武将たちはこの俺さま自らが傷つけ

ずに捕獲して飼う! 侍らせる! そして小笠原の子種をはらませるっ!」

 よろいを身につけた小笠原長時が勇躍して坂道を駆け下り、「うおおおお! 

姫武将たちは全員俺さまがいただく!」と力任せに千代鶴を振り回して好き

放題に暴れはじめた。

 村上義清のような底冷えがする迫力はなかったが、本気を出した時の小笠

原長時の戦闘力は異常だった。

 当たらざる勢いで、坂を登ってくる武田軍の先鋒せんぽう隊を突き崩し、胴丸ごと

足軽たちを斬って斬って斬りまくった。

 なにしろ、姫武将たちを早く捕獲しないと討ち死にしてしまう! と長時

は目の色を変えている。

 ところが、長時が最前線で無双の剣を振るっているこの間に、夜を徹して

山道を行軍していた次郎信繁率いる武田の別働隊千五百が、南の勝弦峠を驚

異的な速度で越えて、迂回を完了していた。


「一週間の猶予を与えられて、知恵を絞ったばかりに、罠に落ちたわね小笠

原長時。姉上と勘助はこたびこそ挟撃策を成功させるために、諏訪周辺の山

中に棒道を整備していたのよ。みんな! 武田家と姉上の命運は、この一戦

にかかっている! 上田原での黒星をこの塩尻峠で取り戻す時が来たわ! 

小笠原本陣へ進め!」


 次郎率いる別働隊は大将不在となった塩尻峠を、背後から急襲していた。

 小笠原長時の「常識」では考えられない行軍速度で、次郎隊は勝弦峠を迂

回してきたのだ。

 長い流浪生活を経てあらゆる階層の人間に通じている山本勘助は、信濃山

中に暮らし武家にも人里にも関わらない「山の民」たちを動かして、急襲作

戦を成功させるための棒道をひそかに整備していたのだった。

 さらに、晴信は迅速な行軍を実現するためにこの合戦において「軽騎馬

隊」を投入した。

 この部隊には足軽はいない。全員が騎馬武者である。しかも武士たちはみ

な、重装備を捨てていて、軽い。その徹底した軽量化によって、馬の速度を

速めていた。山中に勘助が準備した棒道も、馬が駆けるための道として整備

されている。人が通るための道ではなかった。一見すると、獣道と区別がつ

かない。

 次郎は自らこの決死隊の指揮官役を買って出て、窮地に追い込まれた武田

家の衰亡を防ぐための一か八かの勝負に出た。

 そして、成功した。

 多くの足軽兵たちの血を吸った千代鶴を担ぎながら、山上に武田菱の旗が

あがった光景を仰ぎ見た小笠原長時は「げええっ? やべえ! どこから

登ってきやがった? 勝弦峠越えならばこんなに早くは来られないはず……

ええい。俺さまは逃げるッ!」と吠え、味方諸将をすべて置き捨てにして戦

場から脱兎だつとごとく逃げだした。

「武田晴信、俺さまはあきらめんぞ! お前もお前の姫武将も、最後にはこ

の俺さまが手に入れるのだっ!」

 とりあえず俺さまの居城・林城へ逃げる。だが晴信は容赦なく俺さまを

追ってくるだろう。そうなったら村上義清のもとに逃げるか……それはそれ

でありかもしれん。あの男の周りにはきっと美女が集まってくるだろうが、

やつはもうとしだからいちいち全員の相手をしてはいられないだろう。俺さま

がそいつらをいただく!

 小笠原長時は、あくまでも強気だった。

 城や土地を多少失おうが、美女さえ集められればそれでいい。だからどれ

ほどの窮地に追い詰められても、長時の心が折れることはない。この男の弱

点でもあり、強みでもあった。くそう! 姫武将の一人くらいさらっていかな

きゃ割に合わねえ! といらだち混じりの剛剣を振るいながら、悠々と戦場

を離脱していった。

「あのう。もしかして御大将の小笠原さまでは……私、工藤祐長と申す者で

……こ、こ、ここで出会ったのもなにかの縁。いえっ、地味だった私の人生

においてはじめての幸運です。わが武名を武田にとどろかせるために、ぜひとも

私と勝負を! この機会を逃したら私はこのまま蓑虫みのむし暮らし。勝てば姫さま

から感状をいただける栄光! 負けたら潔く奴隷にでもなりますっ」

「武田が誇る姫武将は! 姫武将はいねえがあああ! 俺さまと勝負しろ、

そして側女になれ! うおおおお、どこを見渡しても野郎しか戦ってねえ! 

今日の俺はついてねえ!」

「いえ、ですから、ここに愛らしい姫武将がですねっ! 待ってくださーい、

気づいてくださーい!」

「うおおおお! 姫武将たちを続々と戦線に投入したと言いながら、俺さま

との宿命の出会いを果たす姫武将が一人もいないとはどういうことだ! こ

れは詐欺だっ! なんとあくどい女なのだ、このままではすまさんぞ武田晴

信! 必ずやお前の処女は俺さまがいただいてやる!」

「いくら極限状態の戦場だからって、どうして誰も私に気づいてくれないん

ですかああ!」

 塩尻峠の合戦は、武田軍の一方的な勝利に終わった。

 上田原で村上義清に敗れ、多くの家臣を失った武田晴信だったが、武田家

はいささかも揺らいでいない――それどころか武田軍は新たな血に完全に入

れ替わったことによってむしろ強くなった、と信濃中の国人豪族たちは思い

知らされることになった。

 小笠原長時の武器である「信濃守護」という役職の権威は、連合軍を惨敗

に追い込んだことで完全に地に落ちた。

 小笠原長時は林城を捨てて、愛妾たちとともに村上義清のもとに遁走とんそうした

のだった。

 晴信は林城に代わって、深志城ふかしじようを中信濃における武田の本城に指定し、山

本勘助に大改築を命じて縄張りを行わせることとした。

 そして深志城の城代には、若き姫武将・馬場信房を指名した。

 信虎時代ではありえなかった、大抜擢ばつてきだった。

「……板垣さまのお役目を自分が……深志城は、命に代えても」

 馬場信房が感激しながらうなずき、武田の諸将は「板垣さま、甘利さまが

倒れられても」「武田家は盤石だ、むしろこれから武田の黄金時代が来る」

と一時は失いかけていた自信を取り戻して怪気炎をあげた。

「馬場。地侍や住民たちの声を聞いてやれ。佐久であたしがやらかしたよう

に民と対立してはならない。国とは、つまるところその土地に暮らす民のこ

となのだとあたしは思い知らされた」

「……承知」

「それゆえ、誰よりも心優しく、根気強いお前を城代に選んだのだ。あたし

は性急で気が短いが、お前ならば中信濃の者たちと根気よくつきあって融和

することができるはずだ。これは戦と同等に、あるいはそれ以上に重要な任

務だ。頼むぞ」

「……はっ」

「もうひとつ。駿河商人から、大陸の駿馬しゆんめたちを手に入れた。甲斐の馬より

もひとまわり大きく、道を整備してやれば同じ馬とは思えぬほどに速く走る。

脚は遅いが粘り強い甲斐馬は荷駄隊には向くが、戦場では大陸の馬がより役

立つはずだ。この大陸馬を増やして育てよ。村上義清に勝つためには、さら

なる軍備増強と技術革新が必要だ。種子島たねがしまの火力ばかりが持て囃されるが、

誰も『馬』に、『速度』には注目していない。よいな」

 佐久での強硬な政策が反乱を呼んだことを反省した晴信は、中信濃では地

元の国人たちの所領を安堵あんどするなどして保守的だが穏健な政策を採用した。

結局、民や国人たちが蜂起すればその土地は争いによって衰え、国力は伸び

ない。それに一揆や反乱は晴信自身の心をも病ませる。少々改革の速度が遅

れ支配力が弱まっても、その土地その土地の住民に合わせた「弱い支配」を

選択したほうが長期的には国力増強につながる。晴信はそう判断したのだ。以

後、これが武田家による領土支配の基本方針となっていく。

 だが、軍事については、保守的ではいられなかった。

 村上義清に再戦を挑み、そして勝たねばならないからだ。

 そのために、晴信と勘助は着々と武田軍の改革を進め、かつ、中信濃での

支配体制を広げねばならない。


 軍議を終えた後、晴信と勘助、そして次郎信繁の三人は信濃の夜空を見上

げながら酒を酌み交わしていた。

「……ふう。ずっと大将口調で毅然としているのに疲れちゃったわ」

「御屋形さま。上田原では板垣どの甘利どのを失いましたが領土を得ること

はできず、塩尻峠ではほとんど犠牲を払うことなく中信濃を手に入れること

ができましたな」

「勝てば勝つほど、領土を手に入れれば手に入れるほど家族と家臣を失うと

いう思いに囚われてあたしは運命を恐れていたけれど、そのようなことは偶

然にすぎなかったということね。勘助」

「御意。現にこれほどの激戦を繰り返しながらも、妹ぎみの次郎さまはこう

して生きて御屋形さまのお隣におられます」

「上田原では、次郎をよく引き留めてくれたわね」

「御屋形さまを本陣に放置していくのは大いなる賭けでしたが、馬場たち姫

武将衆と真田の者たちを配置しておりましたゆえ、それがしに代わって御屋

形さまを守ってくれると信じておりました」

「危ない賭けね。しくじればどうするつもりだったの?」

「そのような事態を引き起こさぬことが軍師の仕事にございます。もっとも、

それがしの未熟ゆえに村上義清に敗れ、御屋形さまの不敗神話を終わらせて

しまいましたが」

 でも、上田原では負けたけれども姉上は生き延びられた。だからこそすぐ

に武田は塩尻峠で大勝を収めたわ。これで広大な信濃の三分の二は姉上のも

のに。あとは、残りの三分の一を領する村上義清を押し切るだけ。勘助ご苦

労、と次郎が笑った。

「わたしは上田原で板垣・甘利の討ち死にを知ってすっかり取り乱して、も

う少しで敵中に突撃して無駄死にしてしまうところだった。もう姉上も討た

れてしまったに違いない、と絶望したの。こうして姉上と生きて過ごせてい

るのも、勘助のおかげよ」

「左様ですな次郎さま。次郎さまの唯一の弱点ですからな、御屋形さまは」

 勘助は冷や汗にまみれている。晴信討ち死にの予感にかれたためだろう、

上田原での次郎の取り乱しぶりが尋常ではなかったからだ。

 次郎は人格・能力ともにこれといった欠点がなく、万事に控えめで敵を作

らず、すべてをそつなくこなす完璧な武田の副将であり、才気はあれどまだ

まだ未完成で不安定で荒削りな晴信とは好対照だった。

 あの武田信虎が敢えて次郎を世継ぎにしたがった理由も、今となれば勘助

にもわかるような気がする。

 しかしその次郎の完璧さと沈着さを支えているものが実は姉・晴信の存在

だということを、勘助は上田原ではじめて知ったといっていい。

 晴信が死んだという不安な思いに憑かれた次郎は、まるで戦場に置き捨て

られた赤子のように身も世もなく泣きじゃくっていた。

 勘助がいちはやく駆けつけなければ、間違いなく村上方に討たれていた。

 次郎さまが討ち死に覚悟で突進するだろうとある程度は予想していたがこ

れほどとは。まだまだ人の心の不思議さと、人の絆の大きさというものをそ

れがしは理解できておらぬ、と恥じ入り反省した。だが、それ以上に次郎と

晴信の姉妹の絆というものがまぶしく思えた。これからの戦では、御屋形さ

まはもちろん、次郎さまのお命も決して危険にさらさぬようにしながら勝た

ねばならぬ。いずれお二人ともに武将として、人として独り立ちする時が来

るのであろうが、今の二人は姉妹で一人といっていい。今どちらかが欠けれ

ば残る片方も倒れてしまう、と悟った。

「これで信濃に残る大勢力は、村上義清だけになったわね次郎ちゃん。強敵

だけれども、板垣・甘利たちの仇は必ず討つ。信濃平定まであと一歩よ」

「信濃を平定すれば、武田家の国力は増大するわね姉上。天下盗りへの道が

ほんとうに開けてくる。次は海だったわね。海さえ確保すれば、いつでも上

洛できるわ。駿河へ出る? それとも越後の海へ?」

「……今川義元を上洛させたくはないけれど、駿河には定もいるし、父上も

いる。太郎ちゃんや孫六もしょっちゅう駿河へ遊びに行っているしね。とな

ると、川中島を越えて越後へ向かうべきかしら……あそこはよく知らない土

地だけれど。それに、越後は南北に長く、治めるにはあまりにも広大すぎる

わ」

「先の越後守護代・長尾為景は私たちの父上のように強かったそうだけれど、

今の守護代・長尾晴景は病弱で戦が苦手だそうよ。そのために国人衆の勢力

が強い越後は乱れているとか。好機かもしれないわ、姉上」

「天の時を得られるのかしら、あたしたちは」

 あいや、しばらく、と勘助が口を挟んだ。

 勘助は、夜空を見上げていた。その隻眼せきがんで。

 北極の星が、輝いていた。

「その越後ですが、それがしも予想していなかった事態になっております。

あるいは村上義清以上の途方もない難敵が育ちつつあるやもしれません」

「難敵?」

「はっ。その者の名は、長尾景虎。越後初の、姫武将にございます」

「……長尾、景虎……不思議ね。ずっと昔から、あたしはその名前を知って

いたような……」

「姉上?」

 この夜。

 武田晴信は、ついにその運命の者の名を、耳にした。そして、口にした。

 長尾景虎。

 越後の、毘沙門天びしやもんてんの名を。



 武田晴信が信濃征服をもくろみ、悪戦苦闘していたその頃。

 川中島の北に位置する越後でも、戦乱が巻き起こっていた。

 越後初の姫武将。

 虎千代改め、長尾景虎。

 うさぎのように白い肌はそのままで、身体も小柄なままだったが、いまや栃尾城とちおじようの城主となっていた。

 武田晴信が妹婿でしかも神氏みわしである諏訪家を滅ぼし、佐久では関東管領軍を叩きのめし、信濃守護の小笠原長時を追おうと策謀している。甲斐信濃か

ら聞こえてくる晴信の傍若無人な暴れようを聞くたびに青竹を振って「武田

晴信め! 父親を追放しただけでは飽き足らず、この世のあらゆる権威を打

ち倒そうというのか。どこまでも傲慢ごうまんな女だ! この景虎に越後兵を動かす

ことが許されるならば、奸悪かんあくな晴信を討ちたい! 毘沙門天の化身として戦

に勝てど敵を殺さず、ゆるすとは誓ったが、あの女だけは別だ。あの、自らの

家族を犠牲にしてでも己の野望を遂げようとする生き様は、あまりにも許し

がたい」と怒りに震えていた景虎のもとに、景虎の後見人である二人の武将

――宇佐美定満と直江大和が現れて、そして景虎をさらに激怒させる知らせ

を伝えたのだった。

「なあ虎千代。いや違った、今は景虎だったか。言いにくい話だが、興奮せ

ずに聞いてくれ。お前の兄の晴景が、お前を討とうとしている」

「兄上が? なにかの間違いだろう宇佐美? 兄上とわたしとの関係は良好

だぞ。長尾家は、父と娘とが骨肉相む武田家とは違う」

「いいえ。越後長尾家にも今、内紛の危機が生じているのですお嬢さま。分

家・上田長尾家の長尾政景が、本家の晴景さまをそそのかしているのです」

「政景が? あの男はいまや、姉者の夫。越後長尾家の一門衆筆頭ではない

か! しかも、病気でなかなか執務を執れない兄上に代わって越後一国を切

り盛りしている事実上の宰相だ。そんな立場の政景が、なぜ兄上とこの景虎

を争わせようとする!? なにゆえにだ?」

「それが、お前には聞かせづらい理由でな……おい直江。お前が語れ」

「いいですよ宇佐美さま。わたくしはそういう役目ですからね。わたくしが

語りましょう。ですがその前に、お嬢さま。お嬢さまが兄君と不仲であると

聞きつけた近隣の豪族どもがいちはやくお嬢さまに反旗を翻し、この栃尾城

へ攻め寄せて参りました。如何いかがなさいますか?」

「論ずるまでもない直江。そのような噂に惑わされる者どもを放置はしない。

戦って勝ち、かつ、赦す。毘沙門天の化身として。お前たちに海の底から引

き上げられたあの日の誓いを、わたしは生涯捨てたりはしない」

 宇佐美定満と直江大和は「おい直江。もうそろそろお年頃なのに、まだ毘

沙門天ごっこが続いているぞ」「むしろ、だんだんこじらせてきています」

と顔を見合わせていた。

「それよりも宇佐美さま。お嬢さまは実戦で采配を取れるのですか? もし

かしなくても、これが初陣でしょう」

「いやあ。一通りの軍学は教えたが、あまり頭に入ってなかったな。ってい

うか聞いてねえ。で、俺も途中からは教えるのをやめた」

「では、軍学の授業と称してお嬢さまと過ごしていた時間、あなたがたはな

にをしていたのです」

「釣りだよ」

 直江大和はもともと青い顔をさらに青ざめさせ、「この男に軍学を教えさ

せたのは失敗だったかもしれません。お嬢さま、実戦とはまことに厳しいも

のですのに」と頭を抱えていた。

「初陣では、毘沙門天の化身として戦う、という流儀はおやめください。越

後には姫武将不殺の掟がないのです。死んでしまいます」

「政景があおったのだろうが、なにしろいきなりの反乱だ。こっちは、ろくに

準備もできてねえしな……兵数もまともに集まらないぞ景虎」

「宇佐美さま。あなたが釣りなどに興じていたからでしょう?」

「お前こそ策士ならば政景をなんとかしろっ!」

「政景を暗殺すれば片付く問題ですのに、お嬢さまが許可してくださらない

のです」

「待て。案ずるな直江、宇佐美。この戦で死ぬのならば、景虎は毘沙門天の

化身ではなかったということだ。だがわたしはわたし自身を信じる。われは

毘沙門天の化身、ゆえに無敵無敗であると。この信念が真実かそれとも虚妄

だったかは、戦の勝敗だけが明らかにしてくれる。ただそれだけだ」

「だがな景虎。婿も取らないうちに戦死だなんて乙女の生涯の最期としては

哀れすぎるぜ?」

「ここここの景虎は、婿など取らないっ! その話はよせ宇佐美っ! 集め

られるだけでいい、兵を集めろ! わたしは出陣するぞ!」

 長尾景虎は、期せずして初陣の時を迎えていた。

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