いっしょに……・六「闇」


 階段を上り、廊下が見えた瞬間。わたしは思わず足を止めてしまった。


(あれって……とい子、さん?)


 廊下に佇み、窓から森を見ている髪の長い女の子。

 間違いない、さっき消えたはずのとい子さんだ。


(でも、なんだか雰囲気が違う……?)


 気のせいかも知れない。けど……なんだか、

 まるで、とい子さんに闇が纏わり付いているかのようだった。


(手に持ってる……?)


「どうして……」


 とい子さんが……呟く。


 近付いて、声をかけよう。

 ……そう思うのに、足は動かず、声は出なかった。


「どうして……いっしょに……」


 とい子さんはゆっくりと続きを呟いていく。そして――。




「いっしょに、死んでくれないの?」




 ――闇の中、とい子さんの手の中にあるが、ぎらりと光った……。




「…………あら?」

「あ…………」


 とい子さんが振り返り、わたしはようやく声を出すことができた。


「とい子さん……いま……」

「やあね、もう会えないって言った矢先に、再会しちゃうなんて」


 とい子さんは、さっきまでわたしたちと話していたとい子さんだった。手には……なにも持っていない。


「教室に、鞄を忘れちゃって……」

「そう。……ピヨ助君は?」

「ピヨ助くんは下の階で、次の怪談の下調べだそうです」

「熱心ね。……ねぇ、佑美奈ちゃん」

「な、なんですか?」


 とい子さんは目を大きく開き、口元に笑みを浮かべてわたしをじっと見つめてくる。

 ……ぞくりとする。


 だけどすぐに、目を瞑って首を横に振った。


「ふふっ……。なんでもないわ。あなたには、もうピヨ助君が憑いてるものね」

「え? なんですか急に……」

「連れて行っちゃおうかなって思ったんだけど」

「ええ?! じょ、冗談ですよね?」

「そうね。でもそういう怪談になったら、面白いと思わない?」

「怖いだけですよ、もう!」


 わたしがそう言うと、とい子さんはちょっと呆れた感じで言う。


「怪談が怖くなくてどうするのよ」

「…………」

「…………」


 その言葉に、何故かわたしは応えることができず。とい子さんも黙ってしまう。


「……ほら、早く行きなさい? 本当に連れていっちゃうわよ?」

「わ、わかりました!」


 わたしは慌てて廊下を駆け出して、教室に向かう。途中一度、振り返ってみたけど……。


「ふふっ……」


 とい子さんは微笑んで、ふっと消えてしまった。


「とい子さん……」



 その後は何事もなく、鞄を持って校舎を出ることができた。

 一階でピヨ助くんと合流したけど、ピヨ助くんは校舎に残るようで、すぐに別れてしまった。


 わたしは結局、廊下でとい子さんに会ったことを、ピヨ助くんに話さなかった。

 とい子さんが呟いた言葉も。とい子さんが手に持っていた、なにかも。


(ううん、あれは……たぶん、包丁……?)


 だからわたしは……。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る