第137話 反動 -retributive justice- 28
ドゥバンセ男爵領の領都の中心たる、男爵の邸宅から数キロ。街道から少し外れた山の中に、一機のMCが立っていた。
「よもや、余が敗れるとは、
そのコックピットから軽やかに飛び降りたのは、一人の男だった。その服装は、東方で言う、羽織や袴に近いものだった。ふわりと袖が風に揺れ、優美な雰囲気を醸し出していた。
青みがかった黒の髪を、一本に纏めて結い、その鋭利な美貌には、
「シェリンドン卿の誘いを蹴って来た甲斐があったというものよ」
そう独りごちた男は、雅な仕草で、どこからともなく取り出した扇子を広げると、薄っすらと汗の浮いた首筋を仰ぐ。男でありながら、怪しげな色香を漂わせる仕草である、
そして、周囲に目をやると、口元に控えめに笑みを浮かべ、
「はてさて、民を囮に、自らは逃げ出すとは騎士の、否、貴族の風上にも置けぬ行為ではないか。なんとも情けないことよ。そうは思わぬか?」
彼と
コックピットのハッチはわずかに歪められており、脱出ができないようになっている。
男に答える声はない。そして、男の前には、縛り上げられた男が倒れていた。
こちらの男は、対照的に、髪を短く切り揃え、筋骨隆々としたいかにも戦士然とした男だった。
「まあよい。
そう言いながらも、男はゆったりとした歩調で、戦士然とした男に近づいて行くと、倒れた男を見下ろし、パシッと畳んだ扇子を突き付けた。
「まこと、雅でない振る舞いよ。
「……っ! ……っ!」
猿轡を咬まされた男は、声にならない声を上げる。悲鳴だったのか、怒声だったのかは本人のみぞ知るところである。
言うまでもなく、長髪に男には興味のあることではなかった。
男は、視線を、見える屋敷とは反対方向に向け、しばし目を閉じ、顎に扇子を当てて、考え込む様子を見せた。
「まあよい。ドゥバンセ男爵、余が忠すまでもなし、か」
そう独りごち、今度は屋敷の方に向き直り、そこにいるであろう黒いMCの姿を思い浮かべた。
「〈ガウェイン〉ではないものの、良き収穫というものよ。再び、相見える日、楽しみにしていようぞ、
そうつぶやくと、扇子を広げ、流麗な仕草で、
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