第102話 連鎖 -butterfly effect- 33
『君達の望んでいるものは、誰もが等しく持つべきものである。それが、奪われるのは、侵されんとするのは、確かに恐るべきことだ。
しかし! 君達の安息はただ与えられるものではない! そう、与えられるものではないのだ!
君達は己の安息を己の力で勝ち取らねばならない! 今まさに、君達がそうしようとしているように!
一度の過ちに囚われ続けていては、『過去』を乗り越えることはできない!
与えられるものを享受しているだけでは、『
抗う力を持ち、己の身に原罪の十字架を背負う覚悟なしには、『未来』を掴み取ることはできない!
君達は貴族達の命に従い、貴族達の匙加減で屠殺されるだけの家畜か?』
ジンは頭上に響く《テルミドール》の演説に苦笑を漏らした。そんな彼の様子に気付いたティナが問いかける。
「どうしたの?」
「いや……」
反動勢力は同じ人だと言いながら、貴族を同じ人だとはあえて明言しない言い草が自己矛盾的に思えたのである。
もっとも、貴族への敵意を高めねば、彼らの味方は増えないのだから、
『否! 断じて否である!
君達は人だ! 己の意思を持ち、生を望む人である!
ならば、そこには権利がある! 自分と愛する者達のために戦う権利が!
無論、君達は疑問に思うはずだ。我々にそんな力があるのか、と。
故に、証明してみせよう。我々の持つ力を』
ジンたちの頭上で、ヘリの底部に懸架されていたコンテナが開かれ、その中から、白銀の巨人が姿を見せる。
その輝きは、
その勇猛さは、天に
──〈ガウェイン〉
『日陰で牙を研ぐ者達よ! これが君達が肩を並べ、君達が背を預ける剣だ!
安息を望む者達よ! これが君達の安息を守る絶対の盾だ!
この機体こそ! 我々が貴族達から簒奪せし、最高の刃である!
そして、再び保護コンテナに覆われた〈ガウェイン〉が、ヘリから切り離され、落下する。パラシュートを開きながら速度を殺して落下したコンテナは、ジンたちの目の前の広場に落下した。
そこは奇しくも、あの偽物の《テルミドール》が、彼らが今乗っている〈ティエーニ〉を背に、演説を行った場所であり、ジンたちが行動を起こすきっかけとなった場所であった。
何をすべきかは、言われるまでもなく分かっていた。これはジンの剣なのだから。抜き放つべきは彼自身である。
おそらくは、ディヴァイン辺りが報告したのだろう。
まあ、ジンの生体データが登録されている関係上、他の誰かが動かすのは、ジンが認証しなければ不可能なのだが。
「開けろ」
「おっけい、後、任せたからねっ」
「ああ」
ティナがコックピット開放操作を行うと、目の前に、ゆっくりと展開していくコンテナが現れた。
その奥に見えるのは、白銀のMC、〈ガウェイン〉。
ジンは〈ティエーニ〉のコックピットから飛び降り、どこか旧友との再会を喜ぶかのような雰囲気を見せながら、〈ガウェイン〉へとゆっくりと近づいて行く。
「さて、行くか、〈ガウェイン〉」
コックピットの開閉キーに掌を当てると、生体認証が働き、コックピットが開かれる。
ジンは乗り込むと、速やかに機体を起動させる。
「搭乗者認識──クリア、起動シーケンスをカット、戦術データリンク、網膜投影アクティベート、〈ガウェイン〉、戦闘ステータスで起動」
『《フリズスヴェルク》、聞こえるな?』
その声は、
どうやら、《テルミドール》が来ていることといい、一月前の宣戦布告以来の、『始まりの十二人』も参加する総力戦となっているらしい。
「ああ、聞こえている」
『命令は一つだ。敵騎士団を殲滅しろ』
「当然だ」
『ただし、誰も殺すな』
「なに?」
ジンが多少の不可解を込めて問うと、
『仮にもマレルシャン子爵家の騎士団だ。抑えるための人質にはなる。気に入らんか?』
「…………」
本心を言えば気に食わない。だが、同時にそれが有効であることも理解していた。
『いずれにせよ、貴様と〈ガウェイン〉なら無理な注文ではあるまい?』
「……了解した」
とはいえ、今のジンは
『我々は、
目の前の貴族という権威に屈し、再び己が安寧を乱される恐怖に身を震わせるか。
それとも、我々と共に、研ぎ澄まされし爪牙を上げ、逆境に立ち向かうか。
選ぶのは君達自身だ』
「ジン・ルクスハイト、〈ガウェイン〉、目標を殲滅する」
《テルミドール》の最後の言葉を背に、
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