第13話 蜂起-rebellion- 12

 〈ファルシオン〉のコックピットで、少年──シェイド・ファーレンハイトは、苛立ちを隠せずにいた。

 みすみすレジスタンスに〈ガウェイン〉の奪取を許したばかりか、円卓の騎士ナイツ・オブ・ラウンズ、シェリンドン・ローゼンクロイツの親衛隊を務める自分達が、レジスタンスのパイロット如きに遅れをとり、4機の〈ファルシオン〉と4名のパイロットをむざむざと失った。

 その上、肝心の〈ガウェイン〉は、シェリンドンの〈ガラハッド〉任せである。情けないにもほどがある。親衛隊の立場にある彼らが、護衛すべきシェリンドンに庇われるとは。


「なんたる無様か」


 若々しい顔に似合わず、古めかしい言葉遣いで、シェイドは吐き捨てた。結局、彼らに任せられたのは、レジスタンスの追加戦力を警戒するという、わざわざ親衛隊を持ち出すまでもない仕事だ。

 すなわち、〈ガウェイン〉との戦いには邪魔だと判断されたということである。


「シェリンドン様のお手を煩わせるとは……反乱分子の屑共め」


 〈ガウェイン〉と〈ガラハッド〉の戦闘は激化している。にも関わらず、彼らはそこに手を出すことは許されない。

 その上、報告にあった不審なヘリとやらの情報もない。都市外周の調査に向かわせた部隊から芳しい報告は得られていないのだ。

 しかし、そんな思考を断ち切るかのようなタイミングで、背後で轟音が響いた。

 もしや、シェリンドンに何かあったのかと、慌てて確認すると、〈ガウェイン〉が倉庫にめり込んで崩れ落ちていた。

 その光景を目にし、一瞬でも、尊敬する上官であり、心酔する円卓の騎士ナイツ・オブ・ラウンズを疑ったことに、彼は深く恥じ入った。

 役に立たないばかりか、その勝利にさえ疑いを持つなど、部下として、親衛隊として情けない限りである。


「隊長、そちらは終わったようですね」

『ああ、どうやら、今までの動きを見るに、MCは持ち込んでいないらしいな。少数精鋭での〈ガウェイン〉奪取が目的だったということか』

「申し訳ありません。もっと早く気付いていれば……」

『気に病むことはない。今回は私の不手際でもある』

「しかし──」

『言ってくれるな。すでに結果は出ている』

「はっ、出過ぎた真似をしました」


 奪取された〈ガウェイン〉は倒れ、爆発の起きた施設の混乱も収まりつつある。彼らの勝利は確定したも同然だった。


「これで終わりですね」

『ああ──いや、待て!』


 しかし、安堵を漏らしたのも束の間、空中から高速で接近する影があった。

 その姿は、MC乗りである彼らは見慣れたものだ。MC輸送ヘリコプター。下部にMCを懸架し、迅速な展開を可能とする輸送機だ。

 しかし、今はMCを懸架しておらず、そんな荷物は捨ててきたと言わんばかりの速度で、展開したMC部隊の直上を通り過ぎようとしていた。

 無論、MC用の輸送機である以上、戦場の只中に投下することも予測され、多少の被弾を凌げる程度の装甲は施されている。

 しかし、それは対空火器の話で、今のように低高度を飛んでいては、MCの持つ、騎士散銃ナイツ・マスケットの良い的である。


「囮か!? いや、それにしては……いや、まあいい、撃ち落とせ!」


 ここでヘリ如き、叩き落とせなければ、親衛隊の名が廃るというものだ。その不甲斐ない思いは親衛隊全員に共通するものであったし、また、ここで戦果の一つでもあげなければ、己の進退に関わるとも考えていた。

 しかし、それは功に焦るということであり、間違いなく、普段の彼らならしない浅慮であった。

 高速移動するヘリに射撃を当てるのは、散弾とはいえ難しい。そして、低高度とはいえ、MCという錘のないヘリの速度はMCのそれより早い。

 必然的に、空中のヘリに〈ファルシオン〉は追い縋る形になる。


(この方角……まさか!?)


 そこでようやく、シェイドは、ヘリの向かっている方角に気付いた。

 その先にあるのは、資源プラント。石油やガス、そういったものが保管されている領域だ。

 そして、先ほども、何者かによって、プラントが爆破されはしなかったか?

 もし、同じことがもう一度できるとするならば──


「いかん! 待て、ヘリは放置していい、止まれ!」


 シェイドが叫ぶと同時に、意図に気が付いたのであろうシェリンドンが、〈ガラハッド〉の黄金の剣をヘリに向ける。

 黄金の剣の刀身がスライドし、銃口が現れる。円卓の騎士ナイツ・オブ・ラウンズの機体にのみ、装備が許された、管理技術の一つ、電磁投射砲である。

 しかし、必殺のはずの弾丸はわずかに、ヘリを逸れた。


『くっ……やってくれる!』


 突如として立ち上がった〈ガウェイン〉が〈ガラハッド〉に斬りかかり、体勢を崩させたのだ。半ばから切断された黄金の剣が宙を舞った。

 不意を突かれ、防戦一方になる〈ガラハッド〉。そこには先ほどまでの、圧倒的な余裕はない。


「シェリンドン様!」

『私はいい! それよりも……いや、遅かったか』


 その言葉通り、彼らは浅慮の代償を最悪の形で支払わされることになる。

 散弾を下部装甲に食らったヘリがバランスを乱しつつも、一気に上昇する。

 直後、なんらかの原因で、複数の資源プラントが順次炎上し、気化した可燃ガスに引火して大爆発を起こす。

 まんまと誘導された4機の〈ファルシオン〉は爆炎の中に飲まれて消えた。

 これで、親衛隊はわずかに4機を残して壊滅したことになる。〈ガウェイン〉を抑えたとしても、戦術的には大敗だ。


「おのれ! おのれ! よくも、よくも私を虚仮にしてくれたな! 全機私に続け、あのレジスタンス共を生きて返すな!」

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