第12話 蜂起 -rebellion- 11

『どうした、少年。焦りが見えるぞ?』


 接触回線から聞こえたそんなセリフに、ジンは思いっきり舌打ちを漏らした。

 〈ガラハッド〉、そして、シェリンドン・ローゼンクロイツ。振るう剣の鋭さ、こちらの剣を防ぐ盾捌き、機動の細やかさ、全てが想像以上だ。

 その声から分かる。シェリンドンと先ほど、ジンを見逃した男は同一人物だ。そして、状況も先ほどと全く同じ。この男の気紛れで、ジンは生き残っている。


「そういう態度が気に食わない。貴族共おまえらの、見下した態度が!」


 ジンの怒りを体現し、吹き荒れる嵐のように双剣ガラティーンが複雑な軌道を描いて舞う。

 上段、下段、中段、袈裟斬り、回転斬り、攻め手を読ませない剣戟が次々と〈ガラハッド〉を襲う。

 しかし、絶対切断の『ガラティーン』を、〈ガラハッド〉は、盾と剣を縦横無尽に走らせ、角度を付けて受けることで、一瞬の接触のみで軌道をずらし、その全てを捌ききっている。

 そして、ジンの剣戟が途切れた僅かな隙を縫って、最小限の動作で突きが繰り出される。

 攻めに意識が向いて、防御を疎かにしたジンは反応が間に合わず、再び、その紅い装甲を削り取られる。


「くっ……」


 ダメージを受けたことを確認して、機体を相手の剣の射程外に飛び退かせる。

 〈ガラハッド〉の金色の剣と盾には、僅かな傷が見られるが、その蒼玉サファイアの装甲は、一切の曇りを帯びることなく、輝き続けていた。

 対照的に、〈ガウェイン〉は、幾度となく突きを浴びた紅玉ルビーの装甲はボロボロとひび割れ、崩壊を始めており、その下には本来の装甲色である白銀が顔を出していた。

 剣と盾のオーソドックスな騎士の装備を持つ〈ガラハッド〉と、双剣を持ち、攻めることに特化した〈ガウェイン〉の設計思想の違いが、如実に交戦結果として現れているとも考えられないこともないが、機体性能や設計思想以上に、圧倒的なのは、搭乗する騎士の技量の差だった。

 今だって、飛び退く〈ガウェイン〉に対し、追撃に出れたにも関わらず、〈ガラハッド〉はなにもしなかった。もちろん、ジンの双剣を捌くのに手間取ったからではない。それは余裕からくるものだ。無理な攻めをしなくとも、〈ガウェイン〉を、ジン・ルクスハイトを、討ち取れるという確信からくる余裕。

 堅実にして正確な状況判断からくる余裕は、追い詰められているジンの冷静さをじわじわと奪い取っていく。

 ただでさえ技量に開きがあるというのに、冷静さを欠けばどうなるかなど、あえて語るまでもない。待つのは敗北のみである。

 考えれば考えるほどに、ジンの心を焦りと苛立ちが支配し、その焦りは単調な攻めとなって現れ出ていた。正面から振るった剣は、剣を握った手首を握り止めることで、途中で受け止められる。


『見下してなどいないさ。君の技量は素直に賞賛に値する』

貴族共おまえらはいつもそうだ。そういう余裕が、俺達を見下す!」


 激情の叫びと共に、逆手に握ったもう一本の『ガラティーン』を抜き打ちに振り抜く。しかし、それは、黄金の盾によって逸らされる。


『しかし、敢えて言わせてもらおう。その憤怒も、その技量も、未熟!』


 剣を逸らされて崩れた体勢。ガラ空きになった胸部に向かって、黄金の盾が突き出される。シールドバッシュ。

 自らその軌道に飛び込む形のなった〈ガウェイン〉は掴まれたままの腕によって、吹き飛ぶことも許されず、衝撃を諸にコックピットへと伝える。


「がっ……!?」


 金属と金属がぶつかり合う轟音がコックピットのジンの頭蓋を叩く。続けて、凄まじいまでの衝撃が彼の肉体を余すことなく打ち据える。

 そして、その衝撃がジンを貫いたタイミングを計ったように、握られていた手が離れ、勢いのままに〈ガウェイン〉は吹き飛ばされる。

 その機体は、倉庫にめり込むように叩きつけられ、左腕の握られていた『ガラティーン』は、宙を舞い、コンクリートの地面に深々と突き刺さった。

 コックピットで前後からの衝撃でもみくちゃにされたジンは、血と唾液が混じった吐瀉物を吐き出し、シートの上でぐったりと崩れ落ちる。


(終わりか……)


 そんな思考が脳裏を走り、耳元に死神の足音が囁いた。

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