第11話 蜂起 -rebellion- 10
「こちら、《フェンリル》! 《グルファクシ》、《プレリアル》、聞こえる!」
『こっ……つうし…………』
だめだ。通信がまともに繋がらない。繋がったと思ったらノイズに飲まれて情報の交換もままならないままに、ぷっつりと途絶えてしまう。
「ああもう!」
ティナは苛立たしげに、白銀の髪をふり乱す。状況は十分も経たない内に悪化した。円卓の騎士、シェリンドン・ローゼンクロイツの参戦によって。
ここから見える戦場の様子では一見、ジンの〈ガウェイン〉が優勢であるように見えるが、彼の攻め手は全て〈ガラハッド〉に受け流され、捌かれている。悪く言えば、遊ばれていると言ってもいい。
(どうしよう。さすがのジンでも、シェリンドンさんの相手は無理だろうし……様子見してる間になんとかしないと)
『焦っても仕方ないんじゃない?』
そんなティナの焦りを見透かしたようなタイミングで、《グレイプニル》──カエデがいつも通りの調子で言う。こんな状況下であるというのに焦りや動揺は見られない。
ちなみに、あまりに変化がないので、下手をすれば、ジン以上に冷静なのではないか、とティナは勝手に疑っていたりする。
「うっさい、それくらい分かってるわよ」
『ただ、アレはどう考えてもまずいのは同意だよ』
「手は?」
『非武装のヘリでどうすればいいか僕が教えて欲しいくらいだよ。おまけに、〈ガラハッド〉が《フリズスヴェルク》を一手に引き受けてるおかげで、〈ファルシオン〉が目を光らせてるんだよね……正直、〈ガウェイン〉どころか、君達の回収すら危ういね』
「やっぱりどうしようもないじゃない!」
『そう言われてもねぇ……』
とはいえ、完全に外様のカエデは頼りにならないのは確かだ。ただし、ティナもまた、手持ちの武器がアンチマテリアルスナイパーライフル一本ではどうしようもないという事実がある。
確かに、MCの装甲を貫くこと自体は可能だが、致命的な損害を与えられるわけでもない。せいぜい、できてカメラを潰すくらいだろう。
その程度では、8機の〈ファルシオン〉の警戒網を破ることはできない。そもそも、作戦段階から、ジンがMCを抑え損ねたら詰みである。
「ジンに〈ガラハッド〉に勝って、なんて言えないしねー」
『まあ無理だろうね。遊ばれてるし』
自分でもそう思っていただけに言いづらいが、MC操縦は専門外のカエデにそう断じられると、ジンと同業のパイロットとしては少々、不満がないこともない。
ただ、彼のMCに関する知識は、趣味を自称するだけあって、ティナ達パイロット以上であり、彼の見立ても間違っていないだろう。
ちなみに、〈ガラハッド〉と〈ガウェイン〉が出てきた時は、いろいろかなぐり捨てて、ハイテンションで二機のMCを賛美していた。
『こちら、《グルファクシ》。《フェンリル》、《グレイプニル》、聞こえるか?』
手詰まりを感じていた二人の元へ、《グルファクシ》──ファレルからの通信が入る。ようやく、妨害範囲から離脱したらしい。
『すまない。警戒網を抜けるのに手間取った』
「《プレリアル》は?」
『合流できていないが、そちらにはいないのか?』
「うん。こっちにはいない」
『上から見える範囲にもいないね』
『仕方ない。《プレリアル》に代わって指揮はおれがとる。いいな?』
「了解」
『異論はないよ』
『状況はだいたい把握している。《フリズスヴェルク》の〈ガウェイン〉は抑えられている。おれ達には打つ手がない。あってるか?』
事実なのだが、改めて突き付けられると悔しいものがある。MCに対抗するにはMCか相応の装備が必要だ。使い捨て気味に扱われているが、MWを改造した、〈ガベージ・タンク〉も貴重な対MC戦力なのだ。
しかし、彼らはMCもなければ、対MCランチャーといった、歩兵用装備も持ち合わせていない。元より穴だらけの作戦とはいえ、ここにきて、その詰めの甘さが、真綿で首を絞めるかのように、彼らの行動を奪っていた。
『作戦変更だ。おれと《フェンリル》が直接、《グレイプニル》と合流する』
「それ本気? 歩ける距離じゃないと思うんだけど」
『本気だ。時間が惜しい。《フリズスヴェルク》も時間が伸びれば討ち取られかねない。これ以上、時間をかけるわけにはいかない』
『いや、どちらにしても時間はかかるよ。すぐにでも僕が回収に動くべきだ』
『マスケットの散弾を全弾回避できると思うか? 万が一可能だとしても、帰る足にリスクを負わせるわけにはいかないだろう』
装甲が施されているとはいえ、ただの輸送ヘリでは散弾の直撃に耐えられない。それどころか、ローターに掠るだけでも、飛行能力を失うのだ。不用意に姿を見せれば撃墜されるのがオチだろう。
しかし、このままでは本当に手詰まりだ。ティナとファレルの二人がヘリにたどり着くまでは、どれだけ短く見積もっても、一時間弱はかかる。それだけの時間をジンが凌げるとは、彼には悪いが思えなかった。
いや、本当に道はないだろうか?
ティナはスコープを覗き込みながら、考える。そして、気付いた。
それを使えば、手持ちの装備でも、MCに被害を与えることができるはずだ。
「ねぇ」
ティナは思いついた作戦を提案することにした。どの道、今の所、確実な道などないのだ。博打を打つしかないのなら、ここで手札を切るべきだ。
「〈ファルシオン〉を、なんとか誘導できない?」
『誘導自体は僕が動けば可能じゃないかな?』
『それはいい。だが、何をするつもりだ?』
「えっと、かなり博打なんだけど──」
そして、いくつかの確認をした後、彼らは動き出す。
「こちら、《フェンリル》、目標ポイントに到着」
『作戦開始。ここからはスピード勝負だ。悟られるなよ』
『了解。《グレイプニル》、発進するよ』
そう、作戦を成功させるために、生きて帰るために──
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