第14話 蜂起 -rebellion- 13
「任務完了、《グレイプニル》! 《グルファクシ》!」
『今すぐ回収する! 〈ファルシオン〉が突っ込んできてる。余裕はないよ!』
「近くで叫ぶな。こっちも準備完了だ」
伏射の体勢でスコープを覗き込んでいたティナは、自らの戦果を確認し、立ち上がって、身体に着いた埃を払った。そして、素早く、ライフルを片付け始める。
ティナと合流したファレルは、生産ラインの確認に使われている管制塔の屋上を占拠し、ティナが狙撃を、ファレルが速やかにヘリに拾ってもらうための準備を行っていた。
高い位置にあるだけに、カエデが乗るヘリも、それを追って突っ込んでくる〈ファルシオン〉も、打ち合う〈ガウェイン〉と〈ガラハッド〉の姿もよく見える。
遊ばれていたどころか、完全に追い込まれていたジンも、隙を突いて剣を破壊したことで、わずかに優位に立ったのか、〈ガラハッド〉が守勢に回っていた。剣を砕かれた以上、大振りなシールドバッシュだけでは、いかなシェリンドンといえど、戦い辛いのだろう。
『少々無茶だけど時間がない。飛び乗って!』
カエデは器用にドアを開けたヘリを、管制塔の側にまで寄せる。飛び乗れというが、数メートルはその間に距離がある。高度にして百メートル弱。落ちたらあの世へ真っ逆さまである。
しかし、ティナもファレルもこの程度で恐怖に惑うような訓練は積んでいない。ティナは先に、折り畳んだライフルを投げ込み、揺れるヘリに危なげなく飛び移る。
続いてファレルも飛び移ると、カエデはヘリを管制塔から離し、高度をマスケットの射程外まで上昇させる。
「第3フェイズ完了だね。シビアだったけど」
「ティナの博打がうまくいって助かった」
「ここまではなんとかなったねー。はー、疲れた……」
へたり込むティナだが、そんな余裕はない。下方から聞こえる散発的な銃声は、未だにこのヘリが狙われていることを示しているし、何より、〈ガウェイン〉の回収は終わっていなかった。
〈ガウェイン〉を奪取できなければ、三人だけ生還したとて、作戦は失敗だ。
それに、音信不通の〈プレリアル〉の動きも気になる。
「さすがに、〈ガラハッド〉に狙われた時は死んだと思ったけどね。ジンのおかげで助かったよ」
「さて、そのジンの救出がおれ達の課題だ。〈プレリアル〉も気になるが、ここまで来た以上、あのおっさんには自分で責任を取ってもらう他ない」
それについては最早異論はなかった。全員生還を目標に掲げてはいるものの、〈プレリアル〉に関しては完全に消息不明だ。こちらも手の打ちようがない。
「とりあえず、向こうに戻ればいいのかな? 剣はジンが壊してたし、もう撃たれないだろうからね」
と言いつつ、カエデはすでに眼下の〈ファルシオン〉を放置して、〈ガウェイン〉と〈ガラハッド〉の元に戻り始めている。
改めて上空から見ると、凄まじい光景だ。つい数時間前まで、何もなかったはずの工業都市の中心部は爆炎と業火に包まれ、そこかしこが崩壊している。
これが自分達のしたことだと思うと、ティナの胸は痛んだ。きっと、あの炎の下にいる人たちだって、家族がいて、友達がいて、恋人がいて、生きたかっただろうに。そして、彼女にとっては、彼らは本来守るべきものであったはずだったというのに。
「おい、ティナ」
「ふぇっ?」
「なにぼーっとしてるんだ。とりあえず、ライフルは組み直した。〈ガラハッド〉に当てられるか?」
「え? あっ、え?」
考えることばかりに頭がいっていたせいか、カエデとファレルの話を聞きそびれていた。いきなり話を振られたもので、なんと言っていいかわからず、戸惑うティナの額をファレルがこつりと叩いた。
「気が抜け過ぎだ。まだ作戦は終わってないぞ」
「あっ、うん。ごめん」
「今の所、おまえの狙撃能力だけが頼りだ。いけるな?」
「うん。やってみせる」
狙撃で〈ガラハッド〉の動きを少しでも止められれば、十分に撤退の時間は稼げる。撃墜は無理でも、一瞬の隙があれば、ジンの能力があれば、〈ガラハッド〉に傷を付けるくらいはできる。
その隙を作り出すのがティナの仕事なら、それをやり遂げるのみだ。
ティナは、差し出されたライフルをぎゅっと握ると、決意を固め、スコープを覗き込んだ。
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