第9話 誇りをかけて
「は、はいぃ!」
突然の呼びかけに、優花はまたもやテンパってしまった。まさか、一緒に帰ろうとかそういう話なのかと少しの希望も抱いていた。
優花が振り返ると、そこには小柄の少女が立っていた。と言っても、優花もそこまで背が高いわけではないが、その少女は下手したら小学生に間違われてしまうのではないか。
綺麗な茶髪を左右で結び、こちらを見ている様は、いかにも妹といった感じだった。優花は末っ子だけど。
「初めまして、盾宮さん。私は
灯篭寺、確かそこは、京都でもかなり名の知れたお寺で、白峯神社に勝るとも劣らない陰陽術の名門だったはずだ。しかし優花は、そのやたらとお嬢様っぽい少女にあったことすらないし、なんで話しかけてきたのかも分からない。
「とりあえず……そうね、武道場に行きましょうか」
え、なんで武道場?
優花は、頭の中に大量のクエスチョンマークを浮かべながらも、言われるがままにその小さい背中の後ろについていった。
早苗は適当な理由をつけて職員室から借りてきたという武道場の鍵を取り出し、扉を開けた。中に入ると、少し埃っぽい空気を感じる。
優花は武道場に入ると、先導していた早苗に声をかけた。
「それで……私に何の用ですか?」
「あなた、分かってなかったの? しょうがないわね、説明してあげる」
そう言って早苗は、少し呆れた様子でしかしながら得意気に話し始めた。
「盾宮家と橘家、どちらも陰陽術の名門だわ。でもここらで、白黒付けたいとは思わない?だから盾宮優花、あなたに決闘を申し込むわ」
決闘……?
「ちょ、ちょっと待ってください。私
は……」
「あら、売られた決闘を買わないの? 盾宮家の人間も大したことないわね」
呆れと落胆を込めて言う早苗に、さすがの優花も腹が立ったが、今はそれどころではない。
「私、今陰陽師じゃないんです!」
×××××××××××××××××××××××××
「……つまりあなたは、ドジ踏んで陰陽師としての活動を禁じられてると? それで、監督役を見つけないと復帰できないと?」
「はい……お恥ずかし限りです……」
それから優花は、今自分の身に起きている内容を掻い摘んで早苗に話した。
「はぁ……まさか盾宮の人間がこんなんだとは……目も当てられないわね」
「はい……ごめんなさい……」
無理もない、これが本来あるべき反応だ。景が全く気にしないので少し意識が薄れていたが、新米でもなんでも、優花は盾宮家の人間として見られる。陰陽師の総轄がこんな有様では本当に目も当てられない。
すると、あまりにも素直な優花に少し後ろめたさを覚えた早苗は別の提案をしてきた。
「ま、まあいいわ。となると……あなた、武術はできるわね?」
「はい、お父様とお母様に叩き込まれましたので……」
『陰陽師たるもの、強靭な精神と剛健な肉体を併せ持つべし』
このスローガンは、陰陽師となるものなら一度は聞く心構えのようなものだ。そのため優花や2人の兄たちも、幼い頃から一通りの武術をならっている。
優花がそう言うと、早苗はよしと頷き、武道場倉庫の方に歩を進めた。優花もそれについて行く。
倉庫に到着すると、早苗は武道場の鍵を取り出し、一緒についていた倉庫の鍵で扉を開ける。中には、様々な武具が所狭しと並んでいた。竹刀、木刀、竹槍、模造の薙刀、なぜか武道場で使えない弓矢や、棍棒の様なものも置いてあった。
「この中から好きなのを選んで。それで私と模擬戦をしましょう。正直あなたに勝ってもあまり喜べないけど、私が言い出したことだしね」
いつの間にか、優花の拒否権が消失している。もう断ることはできないらしい。それに優花は表には出さないものの、家を馬鹿にされたことで腹が立っていた。そのため、この戦いを受諾してしまった。
「分かりました。受けて立ちます」
「そうこなくっちゃ」
真剣な表情の優花と、含みのある笑みを浮かべる早苗。
かくして、盾宮優花と橘早苗の、家の名前をかけた戦いの火蓋が切って落とされようとしていた。
そこまで壮大なものでもないのだけれど。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます