第2話
5時間目、数学。
勉強は好きだけれど、数学は嫌い。解ったら楽しいんだけど、勉強してもどうしてもわからないんだから楽しいはずもない。
幸い今日の内容は塾でやった簡単なところだったからまだよかった。
沙里ちゃんは、先生に当てられて不機嫌そうだ。
沙里ちゃんほんと面白いよなぁ。
そんなことを思っていたら、終わりのチャイムが蒸し暑い校舎に響き渡った。
蝉が鳴いている。
帰りの電車、学校の最寄駅から下って三駅目に大型ショッピングモールに続く地下鉄がある。
今日はそのショッピングモールに入っているお気に入りのお店が目的なのでその駅で降りる予定。
放課後に友達とおしゃべりする時って、教室でお喋りするより何倍も楽しい。
あいにく車内は混んでいる。一つだけ空いていた席に沙里ちゃんに座ってもらって私は吊り革を握って立っていた。
目的の駅の一つ前の駅を通過して少したった。
沙里ちゃんの隣に座っていた人がすっと立ち上がって荷物を持つ。
あれ?駅に着くアナウンス聞こえたっけ、沙里ちゃんとのおしゃべりに夢中で気がつかなかったのかな。
私は沙里ちゃんの前に立っていたので立ったその人の邪魔にならないようちょっとだけ横にそれる。
立ち上がったその人はこっちを向いた。フツメンだけど、優しそう。(眼鏡はしてないのか、ちょっと残念。この人、メガネかけたらカッコよさそう、って何考えてんだろ。
ていうかなんで私の方向いてんの?どうしたんだろう。
その人は声をだして、一言。
「ここ、よかったら座ってください。」
え、と小さく声が漏れる。
緊張からかよくわからないが、少し大きな声をだしたその人はの私にありがとうございます、とか、大丈夫です、なんて言う隙も与えずにその人は隣の車両へ行ってしまった。
あっ、私に譲ってくれるために立ったのか、悪いことしたな…
「ほへー…」
「沙耶ちゃん、顔赤いよ」
えっ、嘘だろ嘘でしょ。まぁあんなことされたの初めてだけども、そんな、顔が赤くなるなんてことはないだろう。
だって二日前に別れたばっかりだし!
にやにやとこちらを見てくる沙里ちゃん。
「よかったじゃーん、はやく座んなよ。ていうか、ごめんね、私が座るんじゃなくて、沙耶ちゃんが座ればよかったのに」
「いや、それは大丈夫だよ。慣れてるし。」
ショッピングモールの駅までもうちょっと。人が多いせいで蒸し暑い車内。
ハンカチで汗を拭きながらあの人が譲ってくれたシートに座る。
「はー…もう非リアか….」
「ドンマイドンマイ、それより電車での恋は如何でしょう」
「なんだよ沙里ちゃん、その目、やめてくれ」
いやぁなんでも〜、なんていいながらまだにやにやする沙里ちゃん。まったく…。
対する沙里は、ふー暑い、と顔をハンカチであおぎながら喋る沙耶をみて
(別れたからこそ惚れやすいとか、ないかなぁ)
とか、ちょっと思っていた、
そのまま電車はガタンゴトン、大きめにゆれながらあっという間にショッピング街の駅へ着いた。
(ショッピング〜ショッピング〜、最近全然来れてなかったから、たくさんお洋服みよう!)
沙耶はそう思いながら電車から降りて、少し歩いたところにある、沙耶と沙里御用達のショッピングモールに向かう。
沙里ちゃんと話すのは主に学校で起こったこと。社会の先生が髪の毛少ないとか、新しい数学の研修生がちょっとかっこいいだとか、そんな話。
だけど最近は、2人してハマったバンドの話が多い。
ちょっとマイナーなバンドで、私たちと同い年の高校2年生四人が組んでいるバンドグループ。
沙里ちゃんがよく見ている動画サイト"ぷー。"
くまのロゴが可愛い大手動画サイトで、約1000回の再生、いいと感じたときに押すハートボタンは600回押されているという動画サイト的には中の上くらいのバンドグループなのだが、この前バンド名の募集がかかっていた。
まだ結成したばかりでいいバンド名も浮かばないから、どうせなら視聴者さんに決めて欲しいらしい。
ポップな明るい空を思い出させるような曲調で、時々入るピコピコやぽこぽこという可愛い電子音もいい味をだしている。
何よりボーカルの声と曲のメロディとリズムの良さだ。ボーカルのあの透き通った声が曲を一層よくしている。曲の透明感はこのボーカル無しではだせないだろう。ああ、素敵!
沙里ちゃんはドラムの土台感が好きらしい。
イヤフォンで聞いた時って後ろのドラムとかギターの音とか聞いちゃうよね。わかるわかる。
あとはPVでちょくちょく映るギタリストの手が好きらしい。
一作目のチェリーinサイダーのPVはなんと顔は出さずに、首から下だけというマニアックなPVになっている。
まだメンバーの名前も出てないから、ほんとに結成して動画を出したばかりなのだろう。
これからが楽しみだ。
(後で沙里ちゃんと新曲でてるか一緒に見ようっと)
いろいろ話しながらお店に入ると、夏真っ盛りで蒸し暑い外とは違い、空調の効いた涼しい風がこちらに吹いてくる。
おしゃれでキラキラしているいろんなお店を沙里ちゃんとみて回る。
沙里ちゃんは大人っぽい落ち着いた青のスカートを手にとってノースリーブの黒のトップスと合わせて鏡で自分の姿を見ている。
私も沙里ちゃんもお気に入りのお店、ステラでお洋服を見る。
これ新作のサンダルなんだ、かわいいなぁ。このサンダルのヒール、程よい高さ。
私が店内をぶらぶら見ていると、目についたのは空色をしたシンプルな、リボンのついたサンダル。
その後気に入ったのは、上から白、薄いピンクに変わっていくグラデーションの綺麗なふわふわしたスカート。
あ、さっきみてた空色のサンダルに合いそう。
このTシャツも可愛いな、たくさんの泡が舞うサイダーの中に浮かぶさくらんぼ。
まるであの曲!奮発して一式買ってしまおうか。
沙里ちゃんもコーデ全部買うみたいだし、いっ
か。買ってしまおう。
お小遣い、貯めといてよかった。
ステラで買った服一式の袋をご機嫌でふりがら、沙里ちゃんはサーティワンかクレープか迷っている。
(私はどうしようかな、暑いし、何か飲みたいかも)
とりあえずフードコートへ向かうことにした。
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