チェリーインサイダー
真珠
第1話
自分は好きな人がコロコロ変わる。
好きな人に認めてもらいたくて、いいところだけを見せていたらなんだか疲れてしまったようで、いつからか、自分の全てを好きでいてくれて、私も彼のことを好きでいられる、安心できる人と付き合いたいと思っていた。
小学生の頃から恋はしていた。マセガキだったと思う。アタックしすぎて、引かれるか、相手に好きな人がいてフられるパターンがほとんどだった。
中学生でも小学生でも、告白されたことはあった。大抵仲の良い異性に告白されたのだが、どうしても付き合うのには気持ちがついてこないので断ってきた。
なんとか志望校に受かり、高校1年生になって、人生で初めてのお付き合い、それから高校2年生の夏。初めてのことだらけで、ドキドキの連発で楽しかったけれど、
「足りなかったの!!!!」
ダンッ。机にお弁当を乱暴に置き、椅子に座る。
目の前に座る沙里ちゃんは「うわぁっ」とか言って沙里ちゃん持っているおにぎりから私に目を向ける。
「うるさいよ沙耶ちゃん」
ズバッと言ってくるこの子は一ノ瀬沙里(いちのせ さり)ちゃん。私は市村沙耶(いちむら さや)なので沙里ちゃんは出席番号順にすると私の前の席というわけ。
花の高校二年生になったばかりの始業式。
沙里ちゃんに話しかけた時の沙里ちゃんの驚きよう、あれは忘れられない。ホントに面白かった。
帰宅部で電車も一緒、クラスも一緒、名前も似てるけど、沙里ちゃんは美人ですごく綺麗。頭も良くて私より全然いいとこだらけ。
顎のラインに沿ったまっすぐ整ったストレートの髪の毛をいじりながら呆れたような顔で沙里ちゃんは言う。
「沙耶ちゃん、私なんて彼氏も出来ないんだよ?何言ってんの?」
「だって〜…もうちょっと可愛いとかなんとかいってほしいじゃん?ねぇ?」
この前の夏祭りが完全に別れを告げることになったきっかけだった。
私の地域は7月半ばの全国的には早めの夏祭り。
気合をいれて浴衣を着て、いっつも無造作にまとめていただけのポニーテールも、ツインテールにして可愛く整えたつもりだった。
青いお花の大きな髪飾りだって、ピンクと茶色の水玉の巾着だって、デパートで悩みに悩み、悩み抜いた末に奮発して買ったものだった。
それなのに、浴衣なんだね、で済まされた私の気持ちをどうあらわせと言うのだ!そんなの怒りしかでてこない。
結局花火を見るつもりだった夏祭りは花火の直前に降った大雨で台無しになり、彼が持ってきた傘にいれてもらったのはいいけど濡れたわーと連発し、挙げ句の果てには花火見たかったなーと愚痴り出す彼。
自分の浴衣も水を吸って、ビショビショになり、下駄を履きながらの小走りのせいで足の感覚がなくなって彼の文句にも上の空だったと思う。
雨振ってるっつーの!ふざけんなどうしろってんだ!!
ただそれだけだった。
前から気になっていた彼の自分勝手な言動にイライラして、夏祭りの3日後別れを告げた。
夏休みが始まる、少し前のお話。そして2日前の出来事。つまり一昨日。
わずか半年で終わったこの関係。高校1年生でできた人生初めての彼氏を自分でフッた昨日。
フられるよりはマシだったかなぁ。
あんなヤツにフられていたら自信なんてなくすどころじゃない。
付き合うなら、やっぱり、ちゃんとわかってくれる人がいいなぁ。
「あー沙里ちゃーん…もう彼氏なんて要らないんじゃないかな…」
「…一緒にどっかいくか?」
「沙里ちゃん大好き…付き合って、恋愛的な意味で」
「ごめんなさい」
会話を交わしながらお弁当を食べ終える。
今日は5時間だから、放課後にはどこか遊びに行けるだろう。
あと大体2時間もしたら楽しい時間だ。
自分に言い聞かせてお弁当箱を閉じた。
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