第3話

 フードコートへ移動すると自然の暑さとは違う人が集まることによって起きるような熱気が少し感じられる。


 自然の暑さも好きではないけど、人があつまることによっておきるこの熱気は気持ち悪くなってしまうので私はあまり好きではない。

もっとも好きな人などいるのだろうか。

ライブとかは好きなんだけどね。


 席をとったらお財布と携帯電話を持ってアイス屋さんの列に並ぶ。

ここのアイス屋さんは少し値段は張るがワッフルコーンの味と、トッピングが選べるのでこのショッピングモールに来た時は大体このお店にもよる。

結構な頻度で来ているから、沙里ちゃんも私も店員さんと仲良くなってオマケにトッピングをかけてくれたりするのだ、いちご多めとかね。


 優しくてふんわり笑うポーニーテールの店員さんは私も沙里ちゃんも大好きなのだ。


「今日はそこのイベントホールでインディーズバンドを集めて自作曲お披露目会みたいなことをするらしいわよー」


店員さんが沙里ちゃんのコーンにアイスを綺麗に2段重ねにしながら教えてくれる。


「2人とも音楽好きでしょう?2段アイスでも食べて楽しんでいきなさい」


アイスを私たちにさしだしながらまたいつものふんわり笑顔。

お礼を言ってお金を払う。


「アイス一つオマケね、遠慮はいらないのよ」


語尾にハートがつきそうなその言葉とウインク。

その代わり、また来て頂戴ね、と頼まれれば断る理由なんてないだろう。

再度お礼を言って席に戻る。


「わーい、オマケ、やったー!」


「あの店員さん大好きー」


 2人で話しながら食べているとショッピングモールのスタッフさんが何やらチラシを持ってきて、私たちに手渡した。


「インディーズバンドの自作曲お披露目会ですー!今丁度一曲終わったところですよー。よろしければどうぞ!」


 さっき店員さんが言ってたイベントはこれか。フードコートに隣接するイベントホールの方に目をやると、簡易ステージに一つ目のバンドが立っている。


「メタル系?V系?そんな感じだねー」


沙里ちゃんは微妙な表情をしながら


「イマイチだなー、聴かないジャンルだし、アンプにもゴテゴテの鎖とかドクロとか、いただけないな」


 沙里ちゃんの言う通りギターにはよくわからない装飾、衣装は重そうでどこで買ったの?って感じのスタッズまみれ。


メタル系にしろなんにしろもっとかっこいい衣装はあるはずなのに、あまりセンスがよろしくないのかしら。

 ガンガンの音を聴きながらアイスを食べるのは気がひける。音酔いするかもしれない。


気持ち悪くなりそうなので飲み物を手に取ると、沙里ちゃんは気遣わしげに顔を覗き込んでくる。


「大丈夫?このバンドはこの曲で終わりだし、次のバンドは爽やかな感じの曲って書いてあるからまだマシかも」


酷くなったら言ってね、と言ってくれる沙里ちゃん。んー、気遣いもできるし頭もいい、素晴らしい友達をもった。


 次のバンド名をみてみると、名無し、とだけ書かれている。

沙里ちゃんも不思議そうな顔で見ていたとき、丁度その名無し、とやらのバンドが準備を終えて軽い自己紹介を始めた。


綺麗に透き通っているが、低めの声でボーカルが話し始める。


 これには流石にびっくりした。

最近家でも学校でも聞いているこの声。携帯に繋いだイヤフォンから毎日聞いているその声。


「名無しです。どうもこんにちは、暑いですね」


声が震えてる、大丈夫かな。

緊張しているらしいその声はおどおどと言葉を紡ぎ出す。


「ぷー、という動画サイトで少し前に動画を出しました」


「バンド名は募集中です。興味を持っていただけたら、動画サイトのコメント欄などで僕らに名前をください」


 そして一曲目。チェリーインサイダーのイントロが流れ出した。

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