第4話

 ペットボトルの蓋を開けた時にサイダーの泡が弾けるあの瞬間のような、甘い、爽やかな水色の世界を私は感じた。


サイダーの泡が私の耳を、鼻を抜けていくような感覚。目眩。


 沙里ちゃんの方を見る余裕などなく、私はそのボーカルに釘付けだった。遠くて、よく顔が見えない。

ああ、なぜ私はメガネをつけてなかったんだろう。

簡易ステージの上に立って先ほどの自己紹介のおどおどとした声とは全然違うほど張りのある、透き通ったその声。


 白いワイシャツと青のジーパンで揃えられた衣装、というか私服。


 しっかりとしたテンポを刻みながらもつまらなくならないドラム。

おそらくメガネをかけているであろうギターは素晴らしいカッティング。

ベースのしっかりとした音でできている安定感のある土台。

そして、ボーカル。ギターを弾きながら一生懸命歌っている、と遠目でもわかるその姿になぜか涙がでそうだった。


 あっと言う間に終わってしまった4分56秒。

二曲目はないらしい、これで終わり。

 ペコッとお辞儀をしたバンドの4人。


 はっと沙里ちゃん顔を見合わせ、アイスもバッグも置いてイベントホールへかけて簡易ステージの裏に回る。


 スタッフさんに声をかけて、「名無し」に会えるかどうか聞く。心臓が、まるでもみくちゃにされながら1km走ったみたいにドキドキしている。

中からでてきたスタッフさんが、代表者2人なら少しだけ会える、と許可をくれた。奇跡が起きたと思った。まさか、本当に会えるなんて。


 代表者、とは誰なのか。誰がでてくるのか。

時が止まったようだった。

目の前の黒い幕の中から白いワイシャツと青のジーパンがちらちらと見える。


 耳鳴りがする、目眩と相まって時々感じるあの不思議な感覚が私を襲う。

沙里ちゃんが息をのむ。


 そして、黒い幕がめくられ、出てきたのは

…ボーカル、とドラム。


「こんにちは」


その一言で、再びサイダーの泡が弾けた。

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